ブラック・ブレットー暗殺生業晴らし人ー 作:バロックス(駄犬
里見蓮太郎、彼はプロモーターというくくりから外れてしまえば、一般の男子高校生である。 彼は延珠の通う勾田小学校の二つほど隣にある勾田高校に通っている。
・・・正直、学校なんてかったるい。
朝日に照らされた通学路を歩きながら蓮太郎はそんな事を思う。 プロモーターが主な仕事である蓮太郎にとって学校というのはさほど大事な場所ではなかった。
この高校に通っているのは、弾薬や薬を提供してくれている後援者(パトロン)の条件なのである。補給を受けさせて貰っている身としては不本意だがその条件を飲まないわけにはいかない。
この前の数学の授業で5回ほど質問を当てられたのをどこ吹く風でスルーしまくり、アンケート用紙を催促してくる女子を目を合わせることなく無視すると周りで女子がヒソヒソと陰口を叩くのはいつものこと。
・・・マジでプロモーターの仕事だけやれたらどれだけ楽だったか。
故に、彼に高校で『友人』と呼べる人物はひとりもいない。 むしろ男女問わず敵のほうが多いんじゃないかってくらいの一匹狼っぷり。
だがそんな狼さんにも唯一高校で声を掛けてくる物好きが存在する。
「やぁ蓮太郎くん」
快活な口調で後ろから走ってきた人物に彼は思わず、げっ、と言葉で発してしまった。 眼鏡を掛けて、ツンツンとした短い金髪の男がそこにいた。
「グッモーニン、我が心の友よ」
「誰も友になっとつもりはないんだが東(あずま) 先輩」
そうかい? と東と呼ばれた男はてへ、と自身の頭を小突いた。 殴りたい。
彼の名は東 秀(あずま ひで)。 蓮太郎の通う勾田高校の三年生だ。 一応先輩なのだが、しつこく、なれなれしい、ウザイの三拍子で彼は朝昼と声を掛けてくるので蓮太郎にとっては邪魔な存在と認識されている。
「げへへ、それよりもロリコン紳士の蓮太郎くん、例のお願いをそろそろ聞いてくれてもいいんじゃないのかい?」
先ほどの快活な口調とは打って変わってのゲス声で彼は蓮太郎の耳元で囁く。
「俺はロリコンじゃねぇッ それにアンタのお願いなんて聞くつもりもないからな」
ええー、と身をよじらせる秀はどうしても蓮太郎に言い寄る。
「頼むよ! 君のとこのお子さん、藍原延珠ちゃんの写真をッ 全体写真じゃなくても寝顔の写真でもあればッ 一枚でもプリーズッ!!」
「ぶん殴るぞテメェッ」
「わー! 旦那旦那ァ、冗談だってッ!」
拳を構えた彼は身を守るように両手をクロスさせて一歩引く。
「なんでそこまで延珠の写真が欲しいんだ」
そこまで延珠に固執する理由が蓮太郎には分からなかった。 最初は、自分たちの関係を知っていての脅しをかけるつもりだったのかも、と疑っていた蓮太郎ではあったのだが。
「決まってるだろう、俺の・・・『真正幼女コレクション大全』の一枚を埋めさせて欲しいんだッ」
カバンの中から取り出した一冊の本、もはや辞書と呼べるのではないかという分厚さの本を取り出した秀はその扉絵を蓮太郎の眼前に突きつける。
「見たまえ、この無垢な瞳とこの健気な笑顔に溢れる天使たちを! 2031年、ガストレアによって地獄と化した現代にとって彼女たちはまさに砂漠の中のオアシィス!!」
「・・・・」
その本を受け取り、本を開いた蓮太郎は絶句した。
一ページ一ページに貼られた少女の写真で埋め尽くされたそのページ。 その中の少女たちは皆10代前半くらいだろうかと呼べるくらいの幼さで、全員が全く別人の少女たちだ。
だが真に気づかなければいけないのはその写真が『様々なアングル』から撮影されているという事だ。
ある一枚は電車の荷物置き場からとったであろう上の角度や、車で親と談笑している時の微笑ましい光景などや。 どれもこれも『少女はカメラ目線ではない』。
つまり、全く了承得ていない撮影なのだ。
一番目を疑ったのは冷蔵庫の中から牛乳を取り出している時の少女の写真だった。 これは明らかにおかしい。 なぜか『冷蔵庫の内側』から撮影されているこの状況はもはや恐怖しか感じない。
「どうだい旦那ァ、友にロリを愛でる同士、ここは一枚3000円で譲ってやってもいいんですぜ?」
「全部アウトだこの馬鹿ヤロォッッ!!」
本を閉じた途端、蓮太郎は目の前の変質者に鈍器とも呼べるその分厚い本を秀の脳天に叩きつけた。
「ぎゃあああああ! 俺の幼女たちがァ!!」
脳天を叩かれた激痛よりも、彼は叩いた弾みで本から漏れた少女たちの写真がばら蒔かれた事に悲痛な叫びを上げていた。
・・・こ、こんな奴に構っていたら俺まで変質者のレッテルを貼られてしまうッ
逃げなくては、と額から溢れ出る汗に蓮太郎は直感を働かせた。 ただでさえ延珠の御陰でヒモのレッテルやロリコンの情報を一般大衆に植え付けつつあるというのに、この男のせいでそれに拍車がかかろうものなら彼の人生はお先真っ暗だ。
そう思って、犯罪の匂いしかしないその場を逃げようとした時だ。
「ちょっとお兄さん、この写真落としましたよ」
「ッッッ!?」
と、蓮太郎の後ろで低い声を発したのは写真を拾い上げている秀だった。 口元がニヤリと歪み、眼鏡がシリアス時のコナンと同じ光り方をしている。
「おれは関係ないッ」
「いいえ、完全にお兄さんが落としましたねぇ」
・・・コイツ、俺を共犯者にするつもりかよッ
ゲス顔を浮かべる秀に蓮太郎は拳を握り締めた。 殴りたい、その一心だが周りに集まってきた一般人の目を気にしてしまいそれが出来ない。
傍から見るとその判断はこの写真の持ち物を蓮太郎のものだと勘違いさせる可能性があるからだ。 目の前の秀は写真を落とした時の対策として蓮太郎を巻き込むための算段を既に考えていたのだ。
「お、覚えとけよ変態めッ」
致し方なし、と蓮太郎は即座に秀と一緒に写真を拾い上げていく。 この場合は何事もなかったように済ませるのが一番だ。
ものの数秒で全て拾い上げた蓮太郎は乱暴にその本を秀に押し付けた。
「あ、アンタ・・・一体何がしてぇんだよッ」
肩で息をする蓮太郎に、秀は眼鏡をくいっと上げて不敵に笑うのだ。
「分ってるだろう? 延珠ちゃんだよ延珠ちゃん。 君の対応次第では、この奥の手を今後一切使わないと約束しよう」
彼の言う『奥の手』というのは、先ほど見せた一般大衆に共犯の可能性を植え付けさせる写真のバラ撒きだろう。 もちろん、ここで写真を出せば彼は引き下がってくれるだろう。 実際蓮太郎の携帯の中には、延珠の催促で撮った写真が保存されている。
だが、この悪党変態仮面に従う理由はこれっぽちも蓮太郎にはない。
「ふざけるなッ お前みたいな変態野郎に渡す写真なんか一枚もねぇぜッ」
割と本気の声で彼は拒否の声をあげた。 秀はそれを聞いて、ほんの数秒考えたあと笑顔で本を閉じる。
「合格だよ蓮太郎くん」
「俺は何に合格したんだッ!?」
「ロリコンマスター・・・自分の幼女だけは必ず守るというその気高き精神・・・やはり君は真正のロリコンだった!!」
感極まった彼はそのまま拳を握り締めたまま続ける。
「だがそれでも延珠ちゃんの写真が欲しいッ 頼む蓮太郎くんッ この俺に一枚譲ってくれッ 金なら出すッ もし金がダメならこの身体を売ろうじゃないかッ」
「お前はロリコンなのかホモなのかどっちなんだよッ!?」
「ロリーネバーダイッ!! 君にもいつしか分かる時が来るだろうッ 幼女に埋もれる天国の未来を
ッ」
「どう言う意味だッ お前の描く未来、断じて共用できねェ!!」
蓮太郎は決意した。 この目の前にいる勾田高校随一の変態、東 秀を延珠には絶対に近づけてはならないと。
秀くん、というか名前を聞いたら誰がモデルかわかるはず。 仕事人のほうがモデルだよ。 間違っても「ひできらい」の方じゃないよ。
暴走しすぎたのですいません。 次回はサッカー対決の本番です。 内容は薄いかもしれませんが。