ブラック・ブレットー暗殺生業晴らし人ー   作:バロックス(駄犬

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この小説書き始めて、思ったこと『あれ?木更さんプロローグ以来名前すら出てなくね?』


怒涛のサッカー対決、開始。 内容は薄いかもしれないけど。 
そして相変わらずのカオス次回予告。


~悪戯無用~③

 

 

「そんなッ 七海ちゃんッ!! そんなの嘘だッ」

 

 

その日の勾田小学校の昼休みは良く風が吹く日であった。グラウンドは風に吹かれて砂煙が舞い、勾田小学校の風見鶏は強風に煽られあっちこっちへと向きを変えている。

 

 

 

 

向かい合った列、延珠の向かいには青い縦縞のユニフォームを身に纏った七海がいたのだ。ここで延珠は初めて七海が敵のチームになっていたことを知る。

 

 

「残念だったね延珠ちゃん、私は常に利益の出る相手としか組まないの。 これが真理よ」

 

 

カード数枚で敵に回った外道です。。

 

 

「お主だけは、お主だけはッ 正義を信じてくれる仲間だと思っていたのにッ 心までバイオレットに成り下がったかッ!?」

 

 

「その暴言は聞き捨てならないね延珠ちゃん・・・決着は試合でつけようよ。 私、久し振りにキレちゃったよ」

 

こめかみ付近に怒りマークを浮かべながら彼女は笑みで答える。 二人が背を向いて自分の陣地へと戻っていった。 

 

 

二つのチームはお互いに円陣を組み合うと、延珠の声を皮切りに彼女が募った男子生徒たちを奮い立たせた。

 

 

「聖戦だッ!! 松子ちゃんの仇を絶対取るぞ! 妾に続けェッ」

 

 

『イエス! マイプリンセスッ 天誅ッ 天誅ッ!!』

 

 

 

 

 

・・・なんか雰囲気が異色とも言うべきか、いつから女ジェネラルになった延珠ちゃん。

 

変なテンションの延珠チームと裏腹に、七海のチームは偉く静かだった。 

 

 

「皆・・・」

 

チームの柱の本田が口を開く。

 

「向こうは藍原を前線に出してくる。 アイツにはボールは渡してやるなよ。 あっちの助っ人で何人かサッカー部の連中が混じってる・・・サイドの香川とキーパー川島、ミッドフィルダー遠藤。 そいつらにも気をつけろよな」

 

 

まさしく司令塔と言うべきか、彼は若干10歳にして即席のこのチームを完全にまとめあげていた。

 

流石は未来の日本代表を背負うリトルホンダ、というべきか。

 

 

 

「七海、お前も延珠が攻めてこれないようにアイツを見張っておいてくれ。 アイツと同等のタクティクスを持つのはお前しかおらん」

 

 

「た、たくてぃくす?」

 

良く分からない単語に七海が首を捻ると、彼はへんに小さく笑った。

 

「ま、細かいことはええんや。 行くで、みんな」

 

 

おう、と言う整った返事が返ってきてみんなが散らばる。 

 

 

ボールの支配権を決めるのはコイントスが行われた。 10年以上経っても、この方式はあまり変わらないらしい。 コイントスで裏表を両者が選び、出た目でボールの所有権が決まるというものだ。

 

 

 

「裏」

 

と言ったのは七海。 それに続くように、延珠は、表だ、と言った。その二人の間に立ったクラスの室伏くんがコインを構えた。

 

 

「では、入ります」

 

どこぞの博徒だ、と突っ込みたくなった七海だが勝負の前だ、そういうのもアリだろうと考えてコイントスを見守る。

 

「出目はピンゾロの・・・間違えた、表」

 

 

・・・なんで間違えた。 なんで間違えた!!

 

内心で突っ込みのオンパレードが続くが、これで延珠のチームにボールの所有権が渡ってしまう。延珠がニヤリと笑ってボールを受け取った。

 

 

延珠がボールを地面において、七海と向き合う。不思議な事だが、戦いの前だといういうのに二人は不敵に笑うのだ。

 

 

「七海ちゃん、狂える凶暴星・・・死すべき時は来たッ!」

 

 

「延珠ちゃん、天に還る時が来たんだよッ!」

 

 

今からでも世紀末タッチになってしまいそうな雰囲気。 互いに激闘を予感させるような前触れの証拠に、また風が強く吹いた。

 

 

 

 

午前12時10分、キックオフ。絶対に負けられない戦いがそこにはある。

 

 

 

 

 

「藍原ッ」

 

 

鳴り響いたホイッスルとほぼ同時に、大きくボールが蹴られた。 延珠チームの速攻である。

 

 

 

 

「な、なんだァ あの無意味に蹴られたロングパスボールはァ!? あんなの誰も取れる訳がねェッ」 

 

 

「気をつけろッ どこでもいいッ そのボールを誰かクリアするんや!!」

 

誰しもが理解していなかった中で唯一、本田だけがその無意味なロングボールの意味に気付いていた。 

 

 

「え?」

 

ボールを正面に捉えていた仲間の一人が気づいた時には既に延珠がその付近まで接近していたのに、彼は一気に踏み込もうとするがタイミングが遅く。

 

 

「もらったのだッ!!」

 

 

ボールが彼の胸に収まるであろうその瞬間、延珠が猛スピードでボールを頭で小突き、その軌道をずらす。 

 

 

転がり落ちたボールは守備陣が誰もいない地点と向かった。 一番最初に放られたロングパスの御陰で、かなり奥の陣地まで延珠がやってきてしまっている。

 

 

「ディフェンスッ 戻れッ」

 

 

本田が声を掛けるがそれよりも早く、守備を駆け抜ける影がある。それはもちろん延珠だ。

ボールを足元に収めた延珠はスピードを落とすことなくゴールへと全速前進。

 

 

「森崎くん!!」

 

遠くでポジションをキープしていた七海が叫ぶ。 ゴール付近にはキーパーである森崎くんしかいない。 だが、このチャンスを延珠がみすみす見逃すわけがなく。

 

 

 

「どりゃあ!!」

 

 

右足で振り抜かれたボールは七海のチームのゴールネットを大きく揺らした。 開始わずか三十秒足らずの出来事である。

 

 

 

「森崎くん・・・・だから獲れなーい!!」

 

 

と七海。

 

「こいつはたまげたなぁ・・・」

 

 

感心といった表情で、本田は思わず声を漏らした。 ロングパスの上手いサッカー部員が向こうには居たのだろう。 開始直後にボールを彼に蹴らせて後は延珠のスピードを活かした電光石火の奇策。

 

 

「流石は延珠ちゃん、あいかわらずのスピードだね」

 

 

「えっへん! 見たか七海ちゃん、もう勝利はもらったも同然なのだ!!」

 

 

「おのれ小娘!」

 

 

陣地へと一人戻っていく延珠が七海に向けて勝利のVサインを送る。 それを見た本田がふん、と鼻を鳴らした。

 

 

「アホなこと言ったらアカン。 まだ試合は始まったばっかやで・・・七海、次からは藍原のマークしっかりや、こっちも攻めたる」

 

 

 こくん、と七海が頷いて試合が再開された。 本田がチームの攻撃の指示をすると同時にパスを回していく。 右と左の選手を使い分けていくそのパスワークは小さきながらもまるで無敵艦隊のスペインのようだ。

 

 

延珠たちは気づいていなかっただろうが、確実に延珠たちの陣地に七海たちのチームのオフェンスのメンバーが入り込んでいっている。 地道なパス回しだが、この方法が一番確実だ。

 

 

「させないッ」

 

 

ゴールへと20m弱、といった所だろうか前線から延珠が戻ってくる。 延珠が向かうのは、ボールを持っている本田の場所だ。

 

 

 

モデルラビットの力を使わないといえ、日夜戦闘の日々に身を置いてきた彼女である。 その身のこなしは測りしれない。

 

一瞬にして回り込み、本田の前に壁になるように立ち塞がった。

 

 

「さすがや藍原・・・なぁ、女子サッカーのチーム作らへんか? お前ならプロの世界でもやっていけるで、未来のナデシコや」

 

「生憎だが妾はスポーツに准ずる事はないのだ。妾はこの先ずっと蓮太郎に永久就職するつもりなのだからな!」

 

 

・・・・戦いの最中だというのにノロケ話! これが王者の風格!!

 

延珠のスタートダッシュに追いつけなかった七海が本田の背後へと迫る。一気に本田と延珠の横を通り抜けて、本田からスルーパスを貰うという戦法だろう。

 

 

だが、簡単に『抜け出し』が成功するほど、サッカーは甘くない。 本田は知っていた。

 

 

七海の向かう先には、延珠チームの守備の要、田中マルコスがいるということを。 いくら同等の身体能力を持つ七海といえど、彼のラフプレーまがいの守備は厄介だ。

 

 

そう判断した本田は一つの作戦を実行する。

 

 

・・・さぁ、藍原、俺の目をみろ。

 

 

視線を横を通り過ぎようとする七海に向けた瞬間だった。 目の前の延珠が本田の目線を感知してわずかだが、その身を七海へと向けようとする。

 

 

反射神経故の反応速度だ。 だが、これで延珠の本田に対する警戒心が一瞬だけ薄まるのだ。

 

 

その一瞬を見逃さなかった本田は、弱めのボールを浮かせるように蹴る。 狙ったのは、延珠の無防備な左腕だ。

 

 

 

「なッ」

 

ボールが自身の左腕に当たった瞬間、延珠はしまった、と思っただろう。 その直後、今まで審判だったのかも分からなかった舞が笛を鳴らして試合を中断させる。

 

 

延珠のハンドをとったのだ。

 

 

 

「くそうぅ、本田くん。 狙ったな?」

 

「さぁ、どうだろうな」

 

 

悔しがりながらそう問う延珠に本田は不敵に笑ってみせる。 プロの選手なら敵のペナルティエリアでディフェンスの腕を狙ってボールを当て、ハンドを誘うのはよくある事である。 ゴール付近のペナルティーエリアでファールを取られると、キーパーと一対一のペナルティーキックとなり得点の大チャンスとなるのだ。

 

 

ともあれ、今回はペナルティエリアではないのでゴールから20m弱の距離からのフリーキックである。

 

 

 

 

「へいパース! 本田くんパースッ そろそろ私にも出番ちょうだいパースッ」

 

 

ゴール付近で繰り広げられる攻守のメンバーの中で全く緊張感のない七海がジャンプしながらボールを要求していた。 

 

 

・・・いや、お前のそのポゼッションでボール放っても意味ないやろ

 

七海は2人のディフェンスに挟まれてそこからボールを寄越せと言っているのだが、わざわざボールを相手に渡すようなパスをするほど、本田は馬鹿ではない。 馬鹿なのは真にサッカーの初心者である七海が悪いのだ。

 

 

 

 

舞が笛を鳴らした瞬間、本田は軽いステップを踏んで流れるような動きでボールを蹴り込んだ。 左足でまっすぐと蹴られたボールはキーパーの届かない位置、上の隅の一つを的確に狙っていた。

 

 

絶対的なコース。 誰もが七海たちの得点を疑わない。 だがそこに立ちはだかったのは、またしても延珠だった。

 

 

「見えたぞッ! 本田くんッ!!」

 

守備の頭を超えるのではないだろうかというほどの大跳躍を見せた延珠は絶対コースまっしぐらのボールをその目で捉える。 目視だけでなく、その位置は少し足を届かせるだけで充分な高さだった。

 

 

「もらったァ!!」

 

延珠が宙に浮いているガストレアを蹴り倒す要領で目標に蹴りを叩き込んだ時だ。

 

 

 

延珠のハイキックが空を切ったのだ。 延珠を避けるように軌道を変えたサッカーボールは吸い込まれるように延珠チームのゴールネットを揺らした。

 

 

「・・・な、なんだ今のはッ」

 

 

 

延珠には理解しがたい光景だっただろう。まるでボールが意志を持ったように軌道を変えたのだから。 その摩訶不思議なシュートを決めた人物の本田は腕を組んでこう呟いた。

 

 

「俺は・・・もってる」

 

「本田さんカッケー!!」

 

歓喜に似たような声が七海たちのチームから上がる。 先ほど、本田が放ったボール。それは無回転ボールだ。ボールの回転数を極力無くし空気抵抗を受けやすい状態にすることによってボールがブレるような変化をするのである。

 

 

有名な選手ならば、クリロナやピルロなどが得意としているボールだ。

 

 

ともあれ、1-1、 試合は振り出しに戻る。

 

 

「まだまだ負けたわけじゃないぞ! 勝負はこれからだ!」

 

 

「よっしゃあ! もう一息や! お前らももっと攻めんかい!!」

 

 

延珠が本田が、同時に吠えてチームを鼓舞する。 白熱する試合の展開に、全体の士気がおのずと上昇する。この一体感こそが、スポーツの醍醐味と言えるだろう。

 

振り出しに試合は戻ったわけだが、 そこからはまさに両者一歩も譲らないといった試合内容だった。

 

 

延珠が攻めよう物なら、七海チーム一のサイドバック、長友が延珠を押さえ込み、本田の決定的なパスを延珠

と田中マルコスの二人がかりで潰しにかかる。 お互いに得点が入ることはなかった。

 

白熱する戦いにただ時間だけが通過していく。 昼休みが終わりに近づいてきた時だっただろうか、事件が起きる。

 

 

 

 

・・・というか私全然活躍してないじゃん!!

 

真剣勝負をもはやただ眺める存在となりつつあった七海が今更ながら気付く。 そういえば、今日は一度もボールに触っていないのを思い出した。

 

 

「サッカーできないからね、しょうがないね」

 

所詮は身体能力だけでスカウトされたこの身。 サッカーについてはまったくもってど素人。 最初は延珠のマークについていたのだが、今はそのポンコツっぷりに前線から外され、ひたすらディフェンスの中に入り込んでいる。

 

 

・・・剣でボールをたたっ斬るのなら得意なんだけど。

 

自慢にはならないかもしれないが、七海の剣術はそこそこの腕前であり、ある流派の初段ではある。だが、それは暗殺にこそ生かされるものであり、このスポーツの中では意味なき事だ。

 

 

だけど、と彼女は決めている。 例えこの試合で負けようとも、勝とうとも、役立たずの烙印だけは押されないようにされなくてはと。

 

 

・・・いかんいかん、マイナス思考だけはやめなきゃ

 

 

よく勇次に言われる事がある。 お前は不安な時は顔に出やすい、と。 もし今がそうだとしたら、周りに迷惑をかけてしまうのは必然だ。

 

 

 

心を切り替えて、彼女は顔をパシンと数回叩いた。 

 

 

「というわけで私はじっと動き回るボールを眺めながら最後衛で守らせていただきます」

 

 

ディフェンスのなんたるかを彼女はまったく理解していなかった。

 

 

 

その頃同じくして、延珠は焦っていた。 何にかと言われたら、いつまでも決着がつかないこの均衡状態についてだ。

 

攻めても攻めても、向こうは守りを固めては攻めあぐね、あちらは優秀なパス出しの司令塔がいてもなかなかチャンスに繋げられない。  

 

どうせなら向こうにも決めて欲しかっただろう、と思わせる場面もあった。 均衡状態の試合というのはある一種のストレスを与えるものだ。

 

 

・・・松子ちゃんの為にもなんとかしなければッ

 

だからとて、こちらには負けられない理由があるのだ。 絶対に吉田には謝ってもらいたいし、その為に延珠は七海もこちら側に引き込んで戦おうと望んでいたのだが。

 

 

・・・だが一番許せないのは七海ちゃんだ! まさか吉田くんたちの肩を持つなんて!

 

 

怒りに似た感情を延珠は胸に抱く。 直感ではあったのだが、どこか似たような者同士ではないかと思っていた延珠は七海が『自分と同じ正義の心』を持った人間ではないかと感じていた。 

 

だが今回、まさかの敵となってそれがわからなくなってしまう。 人間とは恐ろしいものだ。 彼女も吉田くんの事情を知ったらどういう展開になっていただろうか。

 

 

 

・・・これに勝ったら七海ちゃんのあだ名は一週間限定でバイオレットにしよう。うん、そうしよう。

 

と、勝手に納得して彼女は頷く。 だが、どうすればこの状況を打開できるか、その問題はまだ解決していなかった。

 

 

 

ふと、彼女は思いつくことがある。 ある種一つの解決方法だが、これは危険度マックスのリスクの高い方法だ。

 

 

それは、能力を使うことだ。

 

 

 

・・・ほんの一瞬だけ開放すればバレないかも・・・でもバレたら、退学だ。

 

 

 

ごくり、と延珠は唾を飲む。 もちろん、ここで力を使えばボールを相手のゴールに叩き込むのは赤子の手をひねるより楽な事だろう。 だが、悪いケースを迎えた場合最悪学校には居られなくなる。

 

 

せっかくできた多くの友達から畏怖され、追い出されるような事は絶対に避けなければならない。

 

 

「残り時間、三分ッ!!」

 

 

中央で佇んでいた舞が残り時間を告げた。 これで一層、延珠の焦燥感が加速する。

 

 

幸いにも今はボールを相手陣地で支配しているのは延珠たちのチームだ。 チャンスはこちらにある。ちょっとした隙があるならば、積極的にボールをもらい、ゴールを目指すというのを延珠が頭の中で浮かべている。

 

 

 

だがその時だった。 凄まじいほどの強風が吹いて、辺り一帯の砂煙がゴール付近を覆い尽くす。 

 

 

「ぐわぁ!」

 

「ぎゃあ! 目がアァ!!」

 

 

生徒たちが悲鳴をあげ、中には地面を転がる者もいるこの状況で延珠は感じ取った。チャンスだと。

 

 

現在、周りの生徒たちは強風により舞った砂によって視界が遮られている。 そしてゴール付近はその影響で守備は手薄だ。

 

 

 

「残り60秒―――――ッ」

 

 

砂で視界が悪くなろうとも、目をつぶりながら残り時間を示唆する舞はまさしく審判の鏡であった。

 

 

・・・一瞬だ。 加速が付いたらすぐに力を抑える!! 妾にならできるはずだ!!

 

延珠は覚悟を決める。 一瞬、こんな事の為に能力を使うことはいかがなものかと考えた。 だが、ここで今吉田の悪を見逃すのであれば、この先での生活で自分は愚か、いじめられた松子がどんな扱いを受けてしまうだろうか。 

 

 

そんな悪は絶対に許せない。自分には、それを打開するための力があるのだと、彼女は自分に言い聞かせた。 一際風がまた強くなって更に視界が悪くなる。 行くならここしか無かった。

 

 

「勝負ッ」

 

 

もう自分が目指すべきゴールすらも捉えきれない視界の中、バウンドしていた白いボールだけが太陽に照らされてうっすらと光ったのを目標に、延珠は跳ぶ。

 

 

助走もつけず、一瞬だけ紅い眼を解放して両足の脚力で地面を蹴ると、まるでロケット花火の如く彼女はまっすぐ跳んだ。 モデルラビットとしての瞬発力を得た延珠は誰にも捉えることはできない。 

 

 

すぐさま紅い目を解除するが、能力を失ってもその加速したスピードが失われるわけではない。 風の力も借りて、延珠は戦闘時以上の加速力を体感していた。

 

 

自分でもこれヤバイんじゃないかというくらいに。

 

 

 

・・・だが、これでよいッ

 

 

充分な加速を身につけた延珠がボールを目前に捉える。 ボールはちょうど延珠が蹴りやすい位置にバウンドしていた。 このまま体制を整えて前に蹴りさえすれば良い。 そこは相手のゴールなのは確かだし、誰も砂のせいで何も見えないから入るのは当たり前だ。

 

 

「貫けェェェ――――――うわっ!?」

 

 

地面を跳ねようと延珠が一度地面に足をついた瞬間、彼女は地面の何かに躓くの感じてバランスを崩す。延珠は視界が悪くなりすぎて気づかなかっただろう。 砂煙で地面を転がっていた生徒に足を引っ掛けたのだ。 だが加速が付きすぎていた延珠は体制を前に崩しただけでその直線運動を続ける。 

 

 

当初の予定と違ったが、この位置ならば『ヘディング』という形の方が理想的なシュートになると考えた延珠は自身の額でボールの中心部を穿った。

 

 

 

結果的にはゴールしたと言えるだろう。 延珠のその豪快な、インチキバリバリともいえるそのヘディングは見事に七海チームのゴールネットを揺らした。

 

 

 

2-1、それが延珠がもたらした勝利。揺るがない事実。

 

そのヘディングはサッカー部からも賞賛された。 オランダ代表のファンペルシーのようなゴールへの嗅覚とまるでドイツ代表のビアホフを彷彿させる華麗なヘディングだった。

 

多分これが生中継されるような試合だったら、その試合のマンオブザマッチは彼女のものだっただろう、多分マンデーセレクションで第一位にも輝いたかもしれない。

 

 

 

 

ボールと一緒に、七海静香をゴールへと叩き込んだという事実を除いたのなら。

 

 

 

「七海ちゃん!!」

 

 

砂埃が消えて、視界が晴れてきた時に生徒たちが見たのはゴールにもたれ掛かった七海を涙目ながら必死に起こそうとしている延珠の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・あれ?」

 

 

暗闇が晴れ、眼を開けた七海が次に見た景色はお世辞にも綺麗な空ではなく、無機質な真っ白の天井だった。

彼女は知っている。 ここは保健室の天井だと。

 

 

・・・確か目に砂が入ってゴール付近をよろよろとしてたら腹部に凄い衝撃がしたところまでは覚えてるんだけど。

 

 

まるで強烈な突きをくらったかのような深い刺さりようだったのを七海は体感で覚えている。

 

 

事の顛末はこうだ。 加速し、人間魚雷と化した延珠のヘディング先には視界を失ってゴール付近をよろよろしていた七海が居た。 

 

ただボールと視線が重なっていた延珠は七海の姿を捉えれず、しかもかなり近距離だったために七海の腹部にボールを含めて激突したのだ。 

 

しかもボールと密着した状態で七海は延珠と激突したため、ほぼ超加速で威力のついた頭突きをモロに受けたのである。もし七海が『呪われた子供たち』でなかったら気絶では済まなかっただろう。

 

 

「あっ! 七海ちゃんが起きてる! 延珠ちゃん見て七海ちゃん生きてるよ!!」

 

・・・死ぬほどの騒ぎだったのかな

 

保健室の扉が開いて入ってきたのは延珠と舞だった。 延珠は自分たちのランドセルと一緒に七海のランドセルも持ってきていた。 外を見ているともう夕方だ。 放課後になったのだろう。

 

 

「あ、おはよー延珠ちゃん七海ちゃん」

 

「朝と一緒の挨拶してる! ダメだ延珠ちゃん! 衝撃で頭がおかしくなってる、保健室のマッドサイエンティスト先生を呼ぼう!」

 

「いやいや、私至って健康なんですが舞ちゃん」

 

 

超絶縁起悪いなぁと七海が眼を細めていると、傍に居た延珠が七海の腰の辺りに抱きついた。

 

よよ? と七海が驚いていると

 

「すまぬ・・・すまぬっ! 妾のせいで!」

 

延珠が能力を使ったことをほかの子供たちは知らない。 ただ、延珠にとって能力を使ってまで身体能力が普通の友達を傷つけてしまったのだという後悔に延珠は囚われていたのだ。

 

 

「酷い事いったりして悪かった! バイオレットに成り下がったなんて言って悪かった! 許してくれ、許して・・・」

 

 

涙ながらに懇願する延珠に七海は。

 

 

・・・やべぇ、シリアスに引き込んじゃったよ。 これってギャグじゃないの?

 

ここまで謝られると、怒る気も全くない、というかまず事故なのは事故なのであって相手も反省しているのだから許す事にはなんら異論はない。 気絶させられるまでは全く誤算だったわけだが。

 

取り敢えずこの局面はなんとかしよう、と七海は考えるのである。

 

 

「さて延珠ちゃん、コイツはなんでしょう」

 

「・・・・?」

 

抱きしめていた延珠が一旦離れると彼女はきょとんとした目でそれを見る。 七海が取り出したのは今日使われたサッカーボールだった。

 

 

「そう言えば七海ちゃん、気絶してからもずっとボールを抱きかかえて放さなかったねぇ」

 

横で舞がその時の状況を思い出していた。気絶後も七海はボールを抱えて、離さなかった。 それを見た本田は彼女こそキーパーの鏡だと賞賛を送ったのだという。

 

「私が今回得た教訓は、私って超頑丈だと思うの、どれくらい丈夫かって言うと雷獣シュート食らって『あれ?こいつ死んだんじゃね?』って視聴者から総ツッコミくらったキャプツバの翼くんくらいの耐久力」

 

 

「え、つまりどういう・・・」

 

 

頭に疑問のマークを浮かべる延珠に七海は構わず続けたのだ。

 

 

「つまり、ボールは友達ってことだよねッ!」

 

 

親指を立てて笑顔の七海の一言に周りが静寂に包まれる。

 

・・・アレ? シリアスブレイク失敗?

 

内心で流れ出る汗を感じた七海であったが暫くして舞が小さく笑う。

 

「やっぱり七海ちゃんって延珠ちゃんと同じくらい変だよねー」

 

その笑顔を見て七海が安堵した。

 

 

「キーパーの森崎くんのことも考えてあげようよ。 今回のことで森崎くん、正ゴールキーパーから降格されるみたいだよ?」

 

 

「え、そうなの・・・」

 

ちょっと悪いことした、と七海は思う。 今度会ったら肩を叩いて励ましてあげよう。

 

 

「というわけで、誰にでも過ちはあるのだよ延珠ちゃん。 私が大丈夫なのだからそれでいいのだ」

 

 

「最後妾をパクったな・・・でも、良いのか七海ちゃん」

 

 

延珠は恐れている。 今回のことで、七海とそれを取り巻く友人関係が一変してしまうことに。 友情なんて些細なことで簡単に崩れてしまうし、信じていた相手に何度も裏切られてきた延珠には蓮太郎に逢うまで人間に対して全否定の人生を送ってきたのである。

 

 

もしかしたらその笑顔の裏で、凄い黒い感情が七海にはあるのではないのかと思っていたくらいだ。 だが、今の七海の表情や言葉から、悪意などは微塵も感じられない。

 

 

「じゃあ」

 

と最後まで折れてくれない延珠の為に、七海がそっと手を差し出す。

 

「握手をしよう」

 

そう言った。

 

 

「握手ってよく使われるよね。 スポーツの試合前とか、選挙の時とか、和平を結ぶ時とか」

 

 

全世界共通の握手。 利き手を差し出すことで互いに武器を隠し持っていない事などを示すらしい。 地域によっても握手する手が違うなど言ったように様々な作法が存在している。

 

 

「人との繋がりを示すって意味でも使われてる握手だから、ここは仲直りの握手だよ。 藍七平和条約と名付けようよ」

 

 

「変な条約だなぁ、妾とお主の名前から一文字とっただけではないか・・・でも」

 

と文句をたれながらも彼女は七海の手を握る。 

 

 

「ありがとう」

 

 

延珠は感謝しながら彼女の手をまた力を込めた。 己が強い力を持っていたなんて、そんな事はない。 力の使い方を間違えてしまえば今回のような傷つく人が出てしまうのだから。

 

 

「意外と硬いのだな、七海ちゃんの手って」

 

「そりゃあ、毎日素振りして鍛えてますから」

 

 

何で鍛えてるのだ、と延珠は思うが彼女の笑顔を見ているだけで些細なことだと思えてくる。

 

 

うんうん、とそれを見ていた舞が頷いて口を開いた。

 

 

「はいはーい、二人ともそこで百合百合してないで帰ろうか」

 

 

「いやいや深い意味はないよ舞ちゃん!!」

 

 

「そうだ! 妾が真に愛するは蓮太郎だッ!!!」

 

 

総ツッコミでその意見を否定する。何はともあれ、彼女たちはなんもわだかまりもなく仲直りしましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば延珠ちゃん、吉田くんと松子ちゃんってどうなったの? 私寝てたから全くわからなかったんだけど」

 

「おお、あの後謝罪と同時に吉田くんが松子ちゃんに告ってたぞ。 顔に強烈なビンタくらってたけど」

 

「でも松子ちゃん顔紅かったねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――~悪戯無用~、完。

 

 

 

 

 

 

 




今回は連続投稿という形になりました。 小出しにしていくのもまぁアリかなと思ったので。結局、本田△がやりたかっただけという暴走気味な第三話になってしまいました。 なぜ最後シリアスになってしまったんだ。 と心の中で悔やみます。 ギャグ回だと思っていた読者さんには申し訳ありません。 たまに路線変更あるかもです。

一応、学校でのお話は延珠や舞との友情話的な感じで最終話まで持っていければと思っています。






―――――次回予告。



木更「学校帰りに天童民間警備会社に立ち寄った里見くんは、扉越しに私の喘ぎ声を聞いてビックリします」

蓮太郎「いやびっくりだよ! 今ここでもびっくりしてるし、一体何があった木更さんッ!」


延珠「ビデオの撮影かな」

木更「拳銃を構えた里見くんが中に入るとそこには見るからに怪しいオッサンが! 犯罪の匂いを感じた里見くんがオッサンを捉えようとするが返り討ち、今度は里見くんが喘ぐという衝撃的展開にッ!!」


延珠「さっきから喘ぐ喘ぐしか言ってないな木更」

蓮太郎「俺は一体どうなっちまうんだ・・・」


木更「この表現アウトかセーフか!? この作品はどこに向かっているというのか!? 第四話~快楽無用~ 今、雄たる里見くんの理性が試されるッ」


延珠「なんだろう、木更変態じみたこと言わされてるのに嬉しそうだぞ」


蓮太郎「久しぶりの出番だもんな・・・」

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