長くなりそうなので分割をば…
ところどころ原作の文を使ったりしてます。本筋の部分なので許して…
がしゃん。
まるで金魚鉢を落としたように、
『無意識』が砕けた。
目が覚めた。かと思えば五感から一気に流れ込んでくる情報量に一瞬溺れそうになる。すぐに自分がベッドに横になっていることを思い出して深呼吸をした。それでも完全に落ち着くことはできなかった。というのもさっきからずっと頭の中で鳴り響いている警鐘のせいだ。
「何か、恐ろしいことが起きる」。
根拠はない。それなのにどうしようもなく焦りは滲んでいく。部屋から出たくない。いや、出ない方がいい。今日は一日部屋にこもってじっとしているべきだ。さもなければ、とんでもない目に遭う。その確信があった。
精神に干渉できる魔法師の直感は馬鹿にならない。それも精神干渉系魔法において最上級の能力を持っている僕の直感ならなおさらだ。
今日は体調が悪いと言おう。一日が潰れるかもしれないけれど、この旅行はまだまだ先が長い。一日くらい外に出なくたっていいはずだ。
「倫也君、起きてください!」
そんな僕の考えとは裏腹に切羽詰まった穂波さんの声が響いた。扉ごしに緊張感を纏う穂波さんが視える。普段とは違う、ガーディアンとしての一面。何か非常事態が起きたらしい。
あまりに作為的で、けれど偶然でしかあり得ない。運命なんてものを信じている訳じゃないけど、少し怖くなった。
大亜連合の侵攻。
それが今現在起きていることらしい。思っていたよりもずっとスケールの大きい状況で流石に驚いた。
とりあえず身支度を終えて居間に向かうと僕以外はもうとっくに集まっていた。兄さんは珍しく携帯で誰かと通話していた。
「奥様、恩納空軍基地の風間大尉より基地内のシェルターに避難してはどうかとの申し出をいただきました」
手持ち無沙汰に立ち尽くしていると電話を切った兄さんがそう言った。そしてあいつはそれに応じる前に穂波さんの持ってきた受話器を耳にあてた。
「もしもし、真夜?…ええ私よ」
相手は叔母上のようだった。
二人は仲が悪い。こんな時くらいしか会話しない程度には険悪で、それは周知の事実だった。なぜそんなことになったのかは知らない。別に興味もない。
「…そうね、分かりました。ありがとう」
「奥様、真夜様はなんと?」
「国防軍のシェルターに匿ってもらえる様、話を通したそうよ」
受話器を手渡しながらあいつはそう答えた。
やけに親切な申し出だと思ったら、そういうことだったのか。
「しかし、かえって危なくはありませんか?」
「私もそう言ったのだけど」
内心で納得しているとそんな会話が耳に入った。穂波さんの発言はいまいちよくわからなかった。軍のシェルターが民間のシェルターより危険、ということなのだろうけど…普通に考えれば逆になる気がする。
その疑問は次の言葉で氷解した。
「明確な敵対状態ですらなかったのに、いきなり奇襲を掛けてくるような相手に、ルールの遵守は期待できないそうよ」
…なるほど。
この場合、相手というのは大亜連合のこと。奇襲は大亜連合が宣戦布告も無しに侵攻を始めたことを指している。
…つまり、穂波さんが危惧していたのは軍のシェルターでは基地が襲撃されて巻き込まれる可能性があるということ。逆に民間のシェルターなら仮に沖縄を占領されても捕虜としての丁重な扱いを受けられる。
それに対して叔母上はルールを破る相手に民間人を巻き込むつもりがないとは言い切れない、ということを言いたいのだろう。
僕としてはどちらのシェルターに入るにしろ五十歩百歩だと思う。というか、どちらを選んでもこの嫌な予感を拭えるとは気がしなかった。
結局、基地のシェルターに向かうことになった。
基地に着いて、シェルターへの案内を待っている間、そわそわしてどうも落ち着かなかった。
一応、CADを取り出してみる。演算領域のほとんどが精神構造干渉魔法に占められている僕は他の魔法を十全には使えないが、かといって戦い方が無いわけでもない。
武装一体型CAD『玄雷』。
僕の身の丈近くある黒い長く大きい刀だ。刀身の部分は連結式になっていて使わない時は外して収納できる。刃は無く、相手を薙ぎ倒すことに重点を置いた造りになっている。
あとはこの特化型CAD。
『玄雷』とは違って市販のものだ。入っている起動式は『領域干渉』と『情報強化』の二つだけ。
演算領域こそ狭いが僕のサイオン保有量と事象干渉力は並の魔法師よりはるかに高い。とりわけ干渉力は深雪をも凌ぐほどだ。だから割と力任せな対抗魔法とは相性がいい。
とはいえ僕はマルチキャストを使えるわけではないので対抗魔法を使ったからといって有利にはならない。相手が銃器を持っていればなす術がないし、何より自分以外の味方がいる今の状況だとかえって不利にはたらく可能性が高い。だから使えるのは実質『玄雷』だけだ。
正直近接戦闘しかできないのは苦しい。足手まといになることは想像に難くないし自分のせいで最悪の事態を招くことになるかもしれない。
特化型CADを懐に仕舞うと同時に隣にいる穂波さんから声をかけられた。
「倫也君、そう気負わなくても大丈夫ですよ。私と達也君が必ず護りますから」
穂波さんは力強く笑って言った。
…確かに少し先走っていたかもしれない。穂波さんはとても優秀な魔法師だし、兄さんが居て負けるところなんて想像もできない。穂波さんの言葉に僕はひとつ頷き返した。
でも念の為『天使の眼』をフルに使っておこう。範囲を最大限に広げておけば、害意のある人間の接近に気づけるはずだ。
そう考えた時、兄さんと穂波さんが立ち上がった。
「達也君、これは…」
「桜井さんにも聞こえましたか」
「じゃあ、やっぱり銃声…!」
銃声?もう基地内に攻め込まれた、ということだろうか。『玄雷』を握る手に力が入る。
「おい、き、君たちは魔法師なのか」
なおも続いていた兄さんと穂波さんの会話に一人の男性が割り込んできた。家族らしい人たちとともに一塊になって座っていた。
突然の質問に穂波さんは訝し気に応じた。
「そうですが?」
するとその男性は尊大な態度で───僕には虚勢をはっているのが視えていたが───言った。
「だったら、何が起こっているのか見てきたまえ」
「…馬鹿馬鹿しい」
思わず心の声が漏れた。視界の端で深雪が肩を揺らしたが、そんなことは気にならなかった。
「…私たちは基地関係者ではありませんが」
「それがどうしたというのだ。君たちは魔法師なのだろう」
男は穂波さんの言葉に聞く耳を持たなかった。
「ならば人間に奉仕するのは当然の義務ではないか」
その瞬間突風のようなものが吹き荒れた。いや、その表現は正しくないか。
それは僕を中心に放たれているのだから。
感情の揺らぎによる術式を介さない事象改変。
一握りの優れた事象干渉力を持つ魔法師だけに起こる現象。深雪の場合は小さなブリザードができるが僕の場合は今のように物理的な「力」そのものに変換されるようだった。
めきめき、という嫌な音が小さく、断続的に響く。
立ち上がって、音に身をすくませている男に一歩踏み出そうとして───止められた。
「落ち着け」
そう言って兄さんは僕を座らせて、それから男を見据えた。
「なるほど、我々は作られた存在かもしれませんが…貴方に奉仕する義務などありませんね」
「なっ⁉︎」
「魔法師は人間社会の公益と秩序に奉仕する存在なのであって、見知らぬ一個人から奉仕を求められるいわれはありません」
そこからは兄さんの一方的な論破だった。言いたいことを言ってくれて、少し落ち着いていると、気怠げな声が口を挟んだ。
「達也」
「何でしょうか」
ソファに体を預けた体勢であいつが兄さんの名前を呼んだ。男から視線を外した兄さんが聞き返した。
「外の様子を見てきて」
「お前ッ!」
椅子を蹴飛ばして立ち上がる。めりめりという音がまた鳴り始めた。あいつはこちらを見向きもせず、いつもの冷めた瞳で兄さんを見ていた。
「…達也君、ここは私が」
「…分かりました。様子を見てきます」
「っ⁉︎」
穂波さんは止めなかった。そして兄さんも一礼して部屋を出ていく。
この冷血人間の母親に言ってやりたいことは山ほどある。けれど、いくら兄さんでも独りで戦闘が起こっているかもしれない場所に行かせるわけには行かない。
部屋の扉とあいつを交互に見て───扉の方へ駆け出した。
後ろから静止の声が聞こえても、振り返らずに『天使の眼』を使いながら兄さんを追いかけた。
しばらく走って、兄さんの背中が見えた。
声をかけようとした、その時だった。
最大限に範囲を広げた『天使の眼』の視界に映り込んだ数人の気配。明らかに不穏な雰囲気その気配は、ちょうど深雪たちの気配のすぐ近くに居て───
「ッ!」
元来た道を走り出す。自己加速術式も使って、全速力で。三人の様子が何かおかしい。あの穂波さんと深雪なら大抵の敵は相手にならないはずなのに。
止まらずに走って熱を持った体の中から冷たいものが込み上げてくる。息が震えて、手足の感覚が遠のいていったけれど、それでも無我夢中で走り続けた。
息を切らしながら部屋の前にたどり着いた時、部屋の入り口を介して銃撃戦が行われていた。ところが足を止めてすぐに部屋の中からの銃撃が止んだ。
その隙をついて部屋の外で銃を構えていた兵士の間を割って、部屋の中へ駆け込んだ。
パァン!
空気が震えて。
胸から赤い液体を吹き出した深雪が、体を地面に打ちつけた。
ごとん、と音がした。
男が振り返れば、部屋の入り口に少年がひとり、立っている。一切の感情が抜け落ちた能面のような表情が、人間離れした美貌を強調していた。その足元には先ほどの音の正体であろう大刀が転がっている。
少年の瞳が、こちらを捉えた。
漆黒、なんてものではない。光のない目は絵の具で塗りつぶされたようで端正な顔立ちの中でアンバランスに見えた。
と、そこに仲間が再びキャストジャミングが展開したことで気を取り直す。そうだ、この子供は床に倒れている魔法師の一行だった。恐らくはあの大刀もCADだろう。そう推測して男は銃を構えた。少年は動かない。
同志の面々を見渡して、頷きあう。
そして、引き金を引いた。
また、空気が震える。
その直後、嵐が吹き荒れた。とんでもない圧力に思わず腕で顔を覆ってしまう。踏ん張った足がジリジリと押されていくほどだった。
「───え?」
それは、誰の声だったか。
恐る恐る目をあけると、少年はまだそこに立っていた。
そして───
「銃弾が…?」
まばたきのうちに撃ち出された数多の弾丸が、床に落ちていた。馬鹿な、魔法は使えないはずだ。男たちは一様に戸惑いを隠せずにいた。
その時、奇妙な音がした。今まで聞いたことのない、何とも形容しづらい音だ。
音のした方を見れば、何か床に落ちている。スライム、と言うのが最も近い表現だろうか。ただ赤黒く染まっていてよくわからない。
間髪入れず、また音がした。見れば同じような塊があった。男はふと首を傾げた。そこは確かさっきまで同志が居たはずで───
ぐちゃり。
それが何を意味するのか理解する間ももらえず、男の意識は暗転した。
「倫也!」
「ッ⁉︎」
振り向けば、兄さんが居た。だいぶ息が荒いから相当急いだのだろう。部屋の中を見渡して、兄さんの顔色がさらに悪くなった。そうだ、深雪!
「兄さん!深雪っ、深雪が!」
「倫也、一度落ち着け!でないと手遅れになる!」
一瞬意味がわからなかったが自身にまとわりつく光を見て理解した。
領域干渉がひとりでに発動している。
より正確に言うならば感情の揺らぎによって漏れ出したサイオンと干渉力の圧力によって魔法が使えなくなっているのだ。
すぐに深呼吸する。
落ち着け、僕が焦ると三人が死ぬ。だから落ち着け。
しばらくすると魔法が使えるようになったようで兄さんが三人に魔法をかけた。
『再成』。
情報体の二十四時間前を遡ってコピーし、投射する魔法。三人の傷は瞬く間に消え去った。
「深雪!」
兄さんが抱き起こしながら声をかけると深雪は薄く目を開けた。
「
「深雪!」
深雪に飛びついて、抱きしめる。深雪は少し苦しそうな声を出したけれど、もっと力を強めた。深雪の体からは紛れもない熱を感じられた。
はい、オリ主の能力説明回でした。
後編も半分以上できてるので近いうちに出したいです。