皆さんはゴールドシップというウマ娘をご存じでしょうか。身長が高くてスタイルが良い、銀髪の美少女。街を歩けば振り向く男は数知れず、言い寄られればついていきそうになるほどに素晴らしいウマ娘。それがゴールドシップという私の担当ウマ娘です。私はそんなゴールドシップと…
ハート形のストローで一つのドリンクをシェアして飲んでいます。
「ゴルシ、そろそろトレーニング行くよ。最近やってないんだから遅れを取り戻すよ」
トレセン学園の授業がない日でもトレーニングは行う。そんな日の午前トレーナーはソファーに座ってゲームをしているゴールドシップに向かって声をかける。
「…うーん……」
「いい加減お小遣い大作戦辞めなって。クリアできるように作られてないんだって」
ここ最近はずっとこのゲームをやっている。某有名投稿者に影響されたのかはわからないが、カセットを買ってきてエミュレータで動かしている。
「ゴルシちゃんな、このゲームをクリアするために生まれてきたんだ…。トレーニングには行けねえ………。と思ってたら最後の勝負で勝った! これでクリア直前までの道は完成したわけだな!」
「じゃあトレーニング行こうか。戻ってきたらやっていいから、ね?」
ガッツポーズで喜ぶゴルシをトレーニングに行くよう促していく。こうでもしないとトレーニングに行かないから困ったものだ。こうしても来てくれないことの方が多いが。
「いいや、今のアタシなら母ちゃんに見つからずに部屋の貯金箱にお金を入れられるはずだ!」
そういうとマルヲを操作して自宅に帰るゴルシ。この後の展開が大体読めてきたトレーナーは既にトレーニング諦めモードになってしまった。げんなりした顔を浮かべている。
「だー! やってられるかこんな糞ゲー!!!」
ゴールドシップの絶叫が響き渡る。トレーニング場にいるナカヤマフェスタがびっくりしてしりもちをつくくらいには大きい絶叫だった。どうやら母親に所持金を没収されたようだ。ちなみにトレーナーの鼓膜は頑丈なので大丈夫だった。
10分くらいソファーで放心状態だったゴールドシップはトレーナー室から出た。心配してトレーナーがついていくと、向かった先は食堂だった。注文は特大人参ハンバーグと大盛焼きそば、大量の角砂糖とバナナとリンゴだった。太り気味コースまっしぐらだ。一見ヘルシーそうなバナナだが、実はカロリーの固まりだから食べすぎには注意だ。
「ゴルシそれ太り気味になっちゃう…」
そんな言葉は今のゴルシには届かない。母親に見つかってしまったらすべてが最初からになるからである。所持金も、貯金箱の中身も、すべてが消えるのである。全てが消えるのは3回目だ。やけ食いをしたくなるのもわからなくはない。
だが、ゴールドシップは現役のウマ娘なのだから、いきなり太りましたなんてことは許されない。担当ウマ娘の食事制限や体調管理、メンタルケアも専属のトレーナーの務めであるとメジロマックイーンのトレーナーが言っていたことを思い出す。一心同体である…とも言っていたような気も…する。そこは避けたい。
ならばやることは一つ。大まかな摂取カロリーを計算し、それを消費できるだけのトレーニングを計画しなくては。
おおよそ10000キロカロリーくらいの食事。ゴールドシップの基礎代謝といつものトレーニングでこれの3分の1くらい消費できる。消費カロリーをもう少し増やして2日で消費しきれるようにしないといけない。明日から3日ほどは付きっ切りで食事面を見ないといけなくなった。1日多いのはカロリーが残っているかもしれないので念のため。
次の日、トレーナーがトレーナー室の扉を開けると、やはりいた。勿論ゴールドシップ。朝にもかかわらずパソコンをいじっている。今日はゲームをしているようだ。朝来るとやっていることは日替わりで、ブラウザーを使っていたり、表計算ソフトでよくわからない計算をしていたりなど様々だ。ちなみにトレーナーはインターネットの検索履歴を覗いたことがあるのだが、ペットボトルロケットの作り方やオセロの必勝法などがあった。
「ほら、トレーニング行くよ。昨日やけ食いしたんだからその分消費しないと。そのために徹夜でトレーニング組んだんだから…」
「えー、ゴルシちゃんめんどくさい。やだー…」
「じゃあ何したらやってくれるの? 罰ゲームくらいなら頑張るけど」
「じゃあ…、次のレースで一着取ったら2日間私に付き合ってくれよ。そういうなら…それまでトレーニングは真面目にやってもいいぜ?」
こんなことを言われるとは思ってなかったのが正直な感想だ。私に何かをやらせるときは大体とんでもないことなのに今回に限ってはやけに素直だ。素直ってことは大体ろくなことにならない。
「わかった。付き合うからトレーニングに行くよ。行かないと付き合わないよ」
「トレーナー、言質取ったからな」
そういうとゴールドシップは制服のポケットからスマートフォンで何かを再生し始めた。
「次のレースで一着取ったら2日間付き合ってくれよ。そういうのなら…それまでトレーニングは真面目にやってもいいぜ?」
「わかった。付き合うからトレーニングに行くよ」
背筋が凍った。ゴルシの予想外な行動に驚いたことはあったが、録音は初めてだった。ここまでしてトレーナーにに何をやらせるのだろうとトレーナーは考えただけで脈拍が早くなる。1週間前はペットボトルロケットを564発同時射出機構の制作に付き合わされた。1か月前には北海道まで行ってシマエナガを食べるからついて来いってつきあわされていた。普通に鶏肉買おうよ…。
「わかったから、ほら着替えて、行くよ」
平静を装って発した言葉だったが、若干震えていたかもしれない。
「一着はゴールドシップ見事勝利をつかみ取りました!」
そんな実況がレース場に響き渡った。
「…い。…ト……ナー」
それで今ここでジュースを飲んでいるのか…。
「起きろ!!!」
「うわぁ!ごめんなさい!」
「…トレーナーってびっくりしたら謝るのな。おもしれー」
そう言うとゴルシはテーブルにある紫のジュースをストローで飲み干した。トレーナーはあまり飲めなかったようでもやもやいているようだ。
「んじゃ、飲み終わったし次行くか。次は服だな。あたしが選んでやるから行くぞ。あたしの隣でも大丈夫な服にしてやるからな」
「ちょっと酷くない?」
バーゲンセールで買った安物の上着とTシャツと学生時代から履いているジーパンではゴルシのお眼鏡にかからなかったそうだ。
「ほら、持ってきてやるから試着室入って待ってろ」
そう言うとゴルシはどこかへ行ってしまった。そっちはメンズなんだけどなぁ…。もしかして私女じゃなかったのかな…。
試着室に入って数分後にゴルシが戻ってきた。渡されたのは白基調で青のグラデーションが入ったワンピースだった。いや貴女さっきメンズの方へ行ってませんでしたか…?
とりあえずと受け取り着てみるトレーナー。あんまり着たことがないから違和感しかなかったがとりあえずゴルシに見せてみる。
お披露目するとゴルシは若干の不満げな顔でトレーナーの顔を見つめながら言った。
「うーん、ゴルシちゃんのチョイスが悪いわけじゃないと思うんだけどなあ…。お、そういやあれがあるじゃん」
そういうとゴルシはスマートフォンを取り出して操作し始めた。ひと段落ついたと思ったら、そのまま服を探しに行ってしまい完全に置き去りにされてしまった。トレーナーは更衣室のカーテンを閉め、スマホをいじり始めた。
10分くらい待つとゴルシが戻ってきた。と思ったらもう一人同行者がいた。トーセンジョーダンだ。
「あ、ゴルシのトレーナーさんじゃん。こんなところで何してんすか?」
「お前、ネイルやってるだろ、だから化粧にもちょっとくらいは詳しいかと思ったんだよな。というわけでトレーナーを魔改造してやってくれ。あたしは服見てくるからそれまでに頼むな」
そういうとゴルシはメンズコーナーへ向かっていった。だから私は女だって…。
心の中でため息をついているとずっとポカーンとしていたトーセンジョーダンが我に返った。
「つまりトレーナーのことをメイクアップするって認識でいい感じか」
ホントにゴルシからなんも聞いていなかったのかと内心思っているトレーナーだが、ここでまた一つ疑問が生まれた。
どうやって連れてきた?
「ちなみに人に化粧ってしたことある…?」
疑問を心の中に留めておいて少しの不安要素の解消を目指すトレーナー。
「何回かって感じ。トレーナーさん地味っすけど悪くない見た目してるんで軽くやるだけで印象変わると思う」
そういうとジョーダンはどこからかメイク道具を取り出しパウダーだので色々しだした。
10分くらいボーっとしていると声がかかってきた
「はい終わった。最初よりよくなったっしょ」
渡された手鏡で自分を見る。薄く化粧するだけで大分印象って変わるんだなと思ったトレーナー。最初のジミーな感じからクール系少女のイメージに変わったのだった。だが忘れてはならない。このトレーナーは身長146センチだが年齢は26歳だ。見た目に騙されてはいけない。
そうこうしているうちにゴルシが戻ってきた。
「おー、やっぱ変わるじゃねえか。」
ゴルシがどさくさに紛れて持ってきたメンズファッションを着る。黒いスラックスと白のYシャツを着て上から黒いジャケットを着ていく。ここで重要なのが着崩すところだとゴルシは言う。ジョーダンはあまり乗り気ではなかったが。
トレーナーは可能な限り着崩していざお披露目するとどちらにもそこそこ受けが良かった。第一ボタンは外され、青に赤のストライプが入ったネクタイは解けそうである。そして腰でベルトを締めたため、スラックスの裾は余って靴に乗っている。だがそれがいいとかなんとか。ヤンキーになり切れていない美少年という感じがしてよいとゴルシは語る。
結局その服を買い、店を後にした。勿論メンズの服は着たままである。元々の服はジョーダンが持って帰ってくれた。
流石に着崩しすぎだと思ったのか軽くネクタイは締め、ズボンも上げた。
突然ゴルシがトレーナーの腕に自分の腕を絡めてきた。少しびっくりしたトレーナーだったがそこはゴルシのトレーナーと言ったところか、動揺した様子を見せずに普通そうにしていた。
はずだったが、数歩歩いてから自分がメンズの服を着ていることに気づき、周りから背の高い美少女と背の低い美少年のカップルに見られているかもしれないと考えてしまい、頭がオーバーヒートしてしまった。だが足は止まらない。動揺を表に出さないのはプロトレーナーだ(?)
ゴルシがトレーナーと向かった先はいつものラーメン屋…の隣にあるラーメン屋だった。お昼時ということもあってか人は多くほぼ万席だった。
運良く座れたテーブル席に店員から水が置かれる。
「ご注文お決まり次第お声掛けください。失礼します」
メニューとにらめっこしながらゴルシが言う。反対に座っているトレーナーにメニューは勿論見れない。
「ゴルシちゃんこっちの麺食べたことなかったんだよな。やっぱり開拓するラーメン屋で一番最初に食べるものと言ったら…やっぱりチャーシュー丼だよな! 麺とかスープも大事だけどチャーシューも外せねえだろ?」
「チャーシュー丼って食べたことないなぁ。ラーメン1杯でお腹いっぱいになっちゃうからおんなじ理由でチャーハンも食べないんだよね」
「よし分かった。おっちゃん、塩と豚骨とチャーシュー丼とチャーハン一つずつな」
厨房から換気扇の音に負けない野太いおっちゃんの声が聞こえてくる。店員さん呼ばないのは流石にどうかと思うけど。作ってくれるならいいや…。(※)ハンディじゃなくて手書きだし。
※ファミレスなどで店員がピッピピッピしている灰色のやつ。一人客だったら慣れてなくても問題ないが、家族客や飲み会だと怒涛の注文で頭がパンクする。
少ししたら商品が届いた。運んでいる最中の店員の腕がプルプルしていた。恐らく勤務して間もないのだろう。頑張れと心の中で応援してゴルシに勝手に注文された目の前の塩ラーメンを見る。
薄黄色の透き通ったスープに黄金色の縮れ麵、半熟の煮卵に厚切りのチャーシュー。白髪ねぎにメンマが丼の中を彩っていた。丼は熱く、先ほどまで熱湯で温められているようだった。
トレーナーは先ず蓮華を手に取りスープを掬った。透明感のあるスープを口に運んだ瞬間トレーナーに電流走る。スープとタレがあまりにもマッチしていたからだ。ガツンと伝わる鶏の旨味、それをさらに引き立てる調味料界の王である塩のコンビネーションが素晴らしかった。更にスープが喉を通った後、ふっと鼻を突き抜けるかすかな醤油の香りが心地よかった。
少し遅れてチャーハンとチャーシュー丼が置かれた。
店員が戻った後、ゴルシがチャーハンとチャーシュー丼を少しだけ食べた。ウマ娘だから全部食べれるんだろうなとトレーナーが思っていたところで、ゴルシはチャーハンが乗ったスプーンをトレーナーの口の前まで持ってきた。
「ほら、食ってみろよ。ここのチャーハン美味いぞ」
正直に口を開けるトレーナーにチャーハンがゴルシの手によって運ばれる。咀嚼すると卵のふわっとした食感と少し硬めに炊かれた米の相性が良い。米がしっかり炒められて香ばしく、口の上の方で広がる醤油の香り、そして少し塩っ気があった。
「な、ウマいだろ?」
そういうゴルシは満面の笑みでこちらを見ていた。トレーナーも小さく頷いてチャーハンの味を楽しんだ。
余談だが、昼食代はすべてトレーナーが支払った。合計で3200円だった。
いつになるかわかりませんが後日午後バージョンを投稿しようと思います。