妄想日本国召喚   作:石原

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 終戦直後の一番不安定な時期を、どう制御するか


第五話  新時代への過渡期

 中央歴1640年4月30日

 パーパルディア皇国皇都エストシラントに於いてクーデター発生。

 第三外務局局長カイオスを中核とするクーデター軍により皇国中枢が掌握され、ルディアスとレミールが捕縛される。

 5月1日

 パーパルディア皇国、クーデターによる政権交代と日本に対する降伏を宣言。

 5月2日

 日本政府による降伏受諾を受け、日パ戦争終結。

 同日、アルーニに駐留していた73ヶ国連合軍及びリーム王国軍が撤退を開始。

 

 

 

 ・・・ ・・・ ・・・

 

 

 

 5月5日

 今日が彼女との今生の別れとなる・・・

 レミール

 余の唱える覇業に最も理解を示し、将来は余の正妻として共に世界を治める筈であった大切な我が片腕。

 それが、全ては逆に推移した。

 我が皇国は、余の代で急拡大した。

 我が皇軍は数多の戦を制し、73もの属領を従え、世界でも五指に入る列強として第三文明圏に君臨していた。

 歯車が狂い始めたのは、東の文明圏外に位置するロデニウス大陸、その内の一つであるロウリア王国へ国家戦略局が介入してからだ。

 いや、正確に言えば介入によって始まった戦役からだ。

 後になって知った事だが、本来であればロウリアの圧勝で終わる筈であったこの戦役は、日本国の介入があったと言う。

 これは、国家戦略局の計画が失敗に終わった事を意味したが、それに関わった者達は忠臣であり、その者達に多少の処分を下した事で、この件は解決した筈であった。

 思い返せば、この時にロウリアが敗北した原因をしっかりと調査させるべきであった。

 そして余が最初に日本国の名を耳にしたのは、彼等が軍艦を伴い、皇都へやって来た時であった。

 その報告により、外務局全体が混乱したが、その甲斐はあった。

 外三が進めていたフェン王国への懲罰攻撃が失敗し、監察軍が行方不明になっていた事、そして過去に日本から我が国へ接触していた事が明らかになったのだ。

 記録によれば、やって来た外交官は列強の様に対等な関係を要求したと言う。

 そして、懲罰攻撃は日本軍の反撃で失敗した事まで判った。

 その上で撃破した戦列艦を手土産に、皇都の鼻先へ軍艦で乗り付けて来たのだ。

 生意気にも勘違いした文明圏外の蛮族如きがと激昂したものだが、その軍艦を目にして瞬時に頭が冷えた。

 まさか、機械動力船を保有しているとは思いもしなかった。

 旧式艦ばかりで数も少ない監察軍では荷が重いのも無理は無いと考えを改めざるを得なかったが、同時に笑みが零れた。

 何故なら、機械動力船を保有していると言う事は、日本がムーの支援を受けていると言う事に他ならない。

 その上、搭載している砲は艦首に1門のみ。

 更に、それ等を扱っているのは、先進的な艦の正しい運用を理解していないであろう蛮族である。

 性能は明らかに向こうの方が上であり、戦いを挑めば損害は免れないだろうが、精強な我が皇軍が相手にすれば間違い無く勝利出来る。

 そうすれば、我が国では製造不可能な機械動力船の技術さえ手に入れる事も夢ではない。

 あの時はそう考えていた。

 こうなれば外三には荷が重いと判断し、懲罰攻撃に関する過失もあり、この件の担当をレミールに移管する事に賛同した。

 そうして始まった交渉では、日本の外交官は終始生意気な態度を崩さなかったと言う。

 上位列強国の武器を得て増長していると、余を含む誰もが考えたものだ。

 ともあれ、まずはその日本と結ぼうとしていたフェン王国を優先する事とした。

 我が国の要求を拒否した前科があり、日本よりも先に始まった問題でもあるからだ。

 二正面などはやりたくなかったし、得られた情報では対日本の前哨基地とするのに都合が良かったのもある。

 しかしまさか、侵攻したその時に現地に日本人がいるとは思いもしなかった。

 何と言う僥倖だと喜んだものだが、あれが大きな転換点となってしまった。

 日本人を教育する丁度良い機会だと考えたレミールは、我が方の要求を伝える為に皇都に留め置いていた日本の外交官の前で、いつもの手法を使った。

 彼女から相手の反応を聞いた時は、所詮は蛮族だと思ったものだ。

 かと思えばいくらも経たない内に、何と彼等は我が国へ降伏要求をしたのである。

 我が皇国に対し、国家として屈服せよと迫ったのだ。

 降伏すれば、日本の庇護下で皇国は安堵されると啖呵を切ったらしい。

 その報告を聞いた時には、怒りも忘れて唖然とした。

 レミールも、あまりにも斜め上の要求に心底笑ったと言う。

 文明圏外国など、弱小の文明国にすら敵わぬ取るに足らない存在。

 文明国に匹敵する力を持ったアルタラス王国ですら、本腰を入れた我が皇軍にあっさりと蹴散らされたのだ。

 いくら機械動力船を有しているとは言え、皇国を傘下に置くなど出来ると考える方がどうかしている。

 身に余る力を得た事で、妄想と現実の区別も付かなくなったのかと哀れみすら覚えた。

 レミールに、何故あの様な蛮族をさっさと殲滅しないのか尋ねられたが、余は哀れな者を哀れなまま捨て置くのは、頂点に立つ者として相応しい振る舞いとは言えないと考えていた。

 だからこそ、レミールの教育はその方針に合致した手法だと考えていたのだ。

 ところが、降伏要求を受けたその日の内に、フェン王国の皇軍は日本軍によって全滅したと聞かされた。

 今思えば、この時の余はあまりにも冷静さを欠いていた。

 怒りに身を任せ、世界を治めるべき皇国に泥を塗り、その名声を貶める蛮族に慈悲は必要無いなどと考えてしまったのだ。

 冷静になった今ならば解る。

 あの時の余は・・・いや皇国は、あまりにも増長していた。

 そしてあの時が、引き返す最後の機会であった。

 敗北の原因を冷静に分析し、相手がどれ程の力を有しているのかを正確に把握すべきであったのだ。

 だが、レミールの進言を容れて殲滅戦を宣言してしまった。

 皇国の総力を挙げ、日本を滅ぼし尽くす決断をしてしまったのだ。

 そこからが、本当の地獄の始まりであった。

 日本に勝つ為、厄介の種であったムーの支援を止めよと外一に命じたが、そこで真実を知る事となった。

 ムーは確かに日本と国交を持っているが、日本の方が圧倒的に強大な国家であり、ムーの方が日本の支援を欲していると。

 報告に来たエルトの様子を見て、如何に深刻な状況かを理解したつもりであった。

 だが、余はこの時も皇国の勝利を疑っていなかった。

 直接目にした機械動力船が極めて強力である事は認めつつも、全く耳にしていないそれ以外の戦力を過小評価していたのだ。

 いや、正しく見ようとしていなかったのだ。

 その判断が、皇都防衛隊と主力艦隊の全滅と言う結果を齎した。

 取り返しの付かない大損害を負い、漸く日本には勝てない事を悟った。

 にも関わらず、この期に及んでも希望的観測に縋り、勝てないまでも敗北は無いと思い込んでいた。

 いや、やはり現実を正しく見ようとしていなかっただけだ。

 ただ文明圏外国に、列強たる皇国が膝を屈するのが我慢ならなかっただけなのだ。

 肥大化したプライドが、どれ程までに判断を誤らせていたのかを痛感させられる。

 だが日本は、プライドに浸る暇さえ与えてはくれなかった。

 デュロの全滅、全属領の蜂起により、遂に皇国は存亡の危機に否応無く立たされてしまった。

 打つ手を完全に無くし、漸く全てを正確に見通せる様になったが、それでも日本は予想の上を行っていた。

 元属領軍がアルーニを落としたのだ。

 これには、未来を見通すとまで言われたルパーサでさえ匙を投げた。

 振り返れば、この時に全面降伏すべきだったのだろう。

 だが、長い年月を掛けて積み上がったプライドは、またも判断を誤らせた。

 可能な限り抵抗姿勢を維持し、現体制を瓦解させない為に和平の道を模索する。

 現実を見た筈の余でさえそう考えていたのだ。

 臣下達に至っては、離反した属領の奪還を本気で考えていた。

 それどころか、この期に及んでも「蛮族の戦力などたかが知れている」と言い出す者までいる始末だったと言う。

 和平だろうと奪還だろうと、あの時にその様な悠長な事をやっている暇など無かったと言うに・・・

 それを理解していたのが、外三のカイオスであった。

 早くから日本の実情を最もよく把握し、破滅の未来を変えようとした忠臣。

 日本の担当から外された者が最も日本を理解していたとは、何と言う皮肉だろうか。

 いや、これこそが皇国の限界を示していたのかも知れぬ。

 余は、優秀な臣下を多数見出し、適材適所を心掛けて来た。

 だが実態は、滅亡寸前まで追い込まれても何とかなると考える無能がのさばり、真に優秀な者が冷遇されていた。

 何たる事だろうか・・・

 このザマでは、皇国が世界の頂点に立つなど夢物語に過ぎないではないか。

 その結果、皇国は全てを失った。

 カイオスがいなければ、国そのものを失う所であった。

 だが、国を維持する代償は決して安くはなかった。

 これまで数多の国を滅ぼして来た皇国は、その過程でいくつもの王家を根絶やしにして来た。

 それでも、最後は全員同じ場所で共に旅立たせる程度の情けは持ち合わせていた。

 にも関わらず、彼等はそれすら許さない。

 レミールは日本へ連行されるが、余はこの地に留まり続けなければならない。

 カイオスは、何としても余を存続させると言っているが、その表情を見るに芳しくない様だ。

 これが敗戦国の末路か・・・

 この様な理不尽を、余と歴代皇帝は行って来たのか・・・

 最早、余も皇国もこの状況を覆す力を持っていない。

 せめて、致命的な誤りを犯した責任者として禊を行い、余亡き後も皇国が存続出来る事を願うばかりだ。

 

 それから2ヶ月後、

 後継者の準備が整った事で、ルディアスの公開処刑がパラディス城前で執行された。

 カイオスのラジオ放送によって皇国の敗北を知った国民であったが、その時は強気な姿勢を崩さない者も大勢いた。

 しかし、国のトップたる皇帝の死を前にして、自国の敗北から目を逸らす事が出来る者はいなかった。

 皇国民は、皇帝の死に膝を屈して泣き崩れた。

 元属領民は、この知らせを受けて歓声を挙げた。

 

 

 

 ・・・ ・・・ ・・・

 

 

 

 アワン王国

 

 

 この国は、日パ戦争に於いてムー製の空港を基地として日本へ貸し出した経緯から、各国の対日外交で優位に立っている。

 同時に、日本の<新国防方針>によって正式に在外基地の設置が取り決められた国である為、戦後の日本外交でかなり優先順位の高い国となっている。

 

 5月12日

「日本の方々よ、よくぞ参られた。」

 王城の中でも奥深く、王族が直接応対する場合に使用される応接間で、国王 レイトン が日本外交使節と会談を行っていた。

「先の戦争での貴国の協力、この場を借りてお礼を申し上げます。」

 近藤が応じる。

「それでは早速ですが、此方を御覧下さい。」

 井上が書類の束を渡す。

 今回の会談は、基地建設に関する詳細の合意が目的である。

 建設自体は終戦前に合意に至っており、日本側としては面倒な根回しを大幅に省略出来た形となっている。

 此処まで素早く話が纏まったのは、レイトンの鶴の一声による。

 戦時中に日本の力を直接目にする機会があった事で、国王自ら音頭を取る必要があると判断したのである。

 その勢いは凄まじく、アルタラス王国よりも早い。

「・・・近藤殿、基地が完成した暁には我が軍も利用可能とあるが、それは真か?」

「事実です。今後、我が国は第三文明圏内外の各国と連携を取る事を考えておりますが、相互理解を深める為にも必要な措置だと判断されました。今後は、貴軍の大半は平時より、新基地に駐留して頂く事になります。無論、機密に抵触する施設につきましては立ち入り出来ませんが。」

(ともすれば、日本の先進技術に触れる機会も得られるかも知れぬな。戦術指南を受ける機会もあるやも・・・)

 頭の中で今後の展望を考えながら書類を読み進めると、ある項目に目を見開く。

「こ、近藤殿、この費用の項目なのだが・・・」

 それは、基地の建設費と維持費の配分についてであった。

 既に、費用の捻出については合意に至っているものの、事前の話ではアワン王国の負担分は15%の筈であったが、書類には30%と記載されていた。

「事前に伝え聞いていた額と随分異なるのだが?」

「今後の状況によっては、変更も有り得るとお伝えしている筈ですが?」

(遂に来たか・・・)

 強気に振る舞うレイトンだが、内心ではかなり緊張していた。

 覇権主義が乱立するこの世界に於いて、強国が弱小国を相手に自己都合で前言を撤回し、厳しい要求を次々に突き付けるのはよくある話である。

 もし断ったりすれば、更に厳しい制裁が待っているか、最悪の場合には攻め滅ぼされる。

「確かに聞いているが、いきなり倍増とは非常識ではないかね?」

「そうでしょうか?貴国はフィルアデス大陸の対岸に位置し、そこにはパーパルディア皇国が存在しました。隣国であるアルタラス王国は征服され、貴国も征服されるのも時間の問題でしたが、その脅威は取り払われました。他でも無い我が国の尽力によってです。」

 自国の貢献を押し出す近藤の眉間に皺が寄る。

「それは勿論理解しておる。しかし、それには我が国も協力を惜しまなかったのだ。もし我が国の協力が無かった場合、戦局はどうなっていたと思われるか?」

 対抗してレイトンも、戦時中の自国の貢献を主張する。

「何も変わらなかったでしょうね。貴国に駐留していた航空隊はアルタラス王国へ行き、そこから出撃していただけです。仮に、アルタラス島が敵の手の内のままだったとしても、エストシラントを壊滅させるのにさして苦労は必要としません。勿論、貴国の協力によって多少の効率化を達成出来た事は我が国も認識しております。」

「いてもいなくても大して変わらない」と言われたも同然な物言いに、レイトンは腸が煮え繰り返る。

「しかし」

「ああ、そう言えば」

 言い募ろうとするレイトンの言葉に被せる様に、近藤は口を開く。

「パーパルディア皇国がフェン王国に侵攻する少し前に、我が国の外交官が興味深い話を耳にしました。」

「な、何の話だ?」

 突然の話題の転換に困惑するレイトン。

「御存知の通り、当時の第三文明圏内外は皇国によって様々な利益が吸い上げられていました。資源や労働力などを供出させられ、その対価として旧式技術の供与を受ける。もしも反抗的な態度を取れば、周辺国に遅れを取るばかりか、最悪皇国に侵攻される恐れもありました。ですが開戦直前の当時、その反抗的な態度を取る国がいくつもあったとか。」

 何の話をしているのか理解したレイトンは、一気に青ざめる。

「それらの国々の外交官は、共通してこう言っていたそうです。我が国は、日本と国交を結んでいると。」

 場の空気が急激に冷え込み、レイトンは冷や汗で顔を濡らした。

「誠に遺憾です。私達の与り知らぬ所で、我が国の名を不当に利用している国々がこれ程多く存在したとは・・・その結果、我が国は皇国から必要以上に恨みを買い、開戦を回避し得る唯一の機会を棒に振り、国民を虐殺されたのです。」

(な、何故だ?パ皇は列強を名乗るに相応しい力を有していたが、それを軽く上回る力を有していながら、どうしてわざわざ矛を収める様な真似をしようとしたのだ?)

 疑問は尽きないが、それよりも今の台詞に震え上がる。

(誠に遺憾だと・・・?日本は・・・日本はそれ程までに怒り狂っているのか!?いや、たかだか10人程度の平民が殺されただけで列強の一角を粉砕したのだ!その遠因となった我等を放置する筈が無い!)

 部屋の四隅には護衛の騎士が控えているが、彼等も必死に震えを堪えていた。

 日本による遺憾の表明は、彼等からすれば死刑宣告にも聞こえていた。

「どうか待たれよ!我が国は決して・・・決して貴国を貶める様な意図は持っていない!」

「この際、どの様な意図を持っていたのかはどうでも良い事です。重要なのは、貴国の行いによって我が国に不利益を齎した事です。政府では、相応のペナルティを課すべきと判断しました。ああ勿論、一括で支払えなどとは言いません。我が国は、皇国とは違いますよ?」

「了解した!貴国の提示する比率で合意しよう!」

 否も応も無く、レイトンはその場で書類にサインした。

 

 その後も、アワン王国と同様に日本の名を利用していた国々では、外交官による遺憾の意の表明が行われた。

 そうして基地費用を多目に捻出させた事で日本独自の財政負担は減り、財務省へ納入する胃薬の量が減少する効果を齎した。

 尤も、各国が破綻しない様に細心の注意を払っており、建設費については分割払いを認め、維持費についても最大2年の滞納や資源払いを認めていた。

 とは言え、重い負担であるのは間違い無く、各国は長期に渡り厳しい運営を強いられる事となる。

 

 

 

 ・・・ ・・・ ・・・

 

 

 

 リーム王国

 

 

 日パ戦争が終結し、撤退したリーム王国軍が帰還してから間も無く、73ヶ国連合軍に同行していた カルマ からの報告を受け、国王 バンクス は頭を抱えていた。

「クッ・・・圧勝で終わる筈であったのに、何と言う被害だ!」

 バンクスは荒れ狂う。

 アルーニの戦いに於いて、リーム王国軍は100騎のワイバーンを投入して皇国軍のワイバーンロードへ奇襲を仕掛けた。

 最終的に数の差で勝利したものの、最初の奇襲から逃れた僅か9騎によって50騎を撃墜されたのである。

 戦後を睨んで優位性を確保しておきたい思惑を持っていただけに、この損害は無視出来ないものであった。

「陛下、どうか気をお鎮め下さい!」

 声を上げたのは、王下直轄軍を指揮する大将軍 リバル である。

「リバルよ、将軍であるそなたが事の重大さを理解出来ぬと言うのか?パーパルディアを降す事も滅ぼす事も出来ず、成果と言えるのは新兵器の性能を確認出来た事だけだ。領土を寸土も拡げる事も適わず、にも関わらず被害だけは大きい。」

 憂い続けるバンクスに対し、リバルは不敵な笑みを浮かべる。

「陛下、御安心下さい。領土は獲得しております。」

「何、どう言う事だ!?」

 頭を抱え続けていたバンクスは、一気に身を乗り出す。

「お忘れですか?別動隊として艦隊を出撃させていた事を。」

 リーム王国は、常に領土拡大を狙う野心的な国である。

 今回のパーパルディア皇国の弱体化をその好機と捉えたものの、相手は更に強大な日本である。

 もし、ただ領土を掠め取る為だけに軍を出撃させでもすれば、今度は成果を横取りされたと日本に目を付けられる可能性がある。

 そこで、73ヶ国連合軍に協力する体裁を取る事で、参戦する大義名分を確保した。

 しかし、この形ではリーム王国はあくまで脇役に過ぎず、恩は売れても領土獲得が困難となる。

 その為、73ヶ国連合軍の動きを囮として日本を含む周辺国全ての目を逸らし、その隙に艦隊戦力を別動隊として出撃させ、手頃な何処かを占領しようと画策していたのである。

「ガランダと言う地を御存知でしょうか?」

「いや」

 ガランダとは、パーパルディア皇国の元属領であり、フィルアデス大陸南方に存在する。

 島国である事から、宣戦布告しつつも具体的な行動は反乱のみであり、連合軍の侵攻に参加していない。

「幸い何処にも察知されず、占領に成功致しました。」

「おお!」

 バンクスの表情が喜色に満ちる。

「よくやったぞバンクス!これで、我が国の版図拡大の足掛かりが出来た!」

 喜びに満ちているバンクスとリバルとは裏腹に、傍らに控える宰相は表情を曇らせる。

「陛下、失礼を承知で申し上げるならば、此度の件は火事場泥棒と申さざるを得ません。」

「何が言いたいのだ?」

 喜びに水を差され、不機嫌な様子で尋ねるバンクス。

「この様な行為に、果たして日本国が何と申しましょうか?」

 宰相の懸念に一瞬顔を顰めるも、すぐに表情を正す。

「フッ・・・宰相よ、我が国は多大な犠牲を払って日本国に協力したのだぞ?我が国の協力が無ければ、属領軍はアルーニで全滅していたであろう。そうなれば、日本の属領の反乱によるパーパルディア弱体化工作は失敗する危険が大きかった。その危険を防いだばかりかアルーニを陥とし、パールネウスに迫る程の貢献をしたのだ。日本にとって、我が国は恩人も同然だ。」

「確かに貢献は致しましたが、それで領土獲得を追認されるかどうかは不明で御座います。」

「宰相殿、心配はいりませんぞ。」

 リバルが口を挟む。

「我が軍が占領したガランダは、パーパルディアの属領でした。それも、大陸から隔てられた島国であり、如何な日本軍とて手が回らなかった筈です。我が軍の行動はあくまでも手が回らない日本に代わり、パーパルディアの策源地の一つを潰しただけなのです。文句を言われる筋合いなどありますまい。」

「愚か者が!パーパルディアを赤子の手を捻るが如く制した日本国だぞ!その様な詭弁でどうにかなる相手ではなかろう!」

「宰相よ、落ち着け」

 興奮する宰相を、バンクスがなだめる。

「そう心配する事も無かろう。我が国の貢献は決して小さなものではないのだ。もしも軽んじる真似などすれば、それこそ第二のパーパルディアとして周囲の不興を買うだろう。エストシラントを寄越せなどと言えば、それは我が方が欲張りだと誹られても文句は言えんが、今回は辺境の属領なのだ。それにもし不満があったとしても、知るのは暫く先になるだろう。その前に、占領を既成事実化すれば良いのだ。」

「それはそうかも知れませぬが・・・」

 不安は拭えないが止める事も出来ず、ガランダ領有化は決定事項となった。

 また、将来的な更なる勢力拡大を目論み、その為に日本との関係緊密化が当面の方針とされた。

 

 

 

 ・・・ ・・・ ・・・

 

 

 

 グラ・バルカス帝国

 

 

 日本とは正反対に位置する第二文明圏。

 その更に西方に広がる第二文明圏外に、この国は存在する。

 たった1隻の戦艦で列強国であるレイフォルを滅ぼし、第二文明圏全体へ宣戦布告した事で、全世界に広く知られる様になったこの国は、日本と同じく転移国家である。

 転移当初、穏当な外交を行っていた帝国は、東方の文明国であるパガンダ王国に皇族を処刑された事件を切っ掛けに、この世界を信用に値しないと判断して強硬策へ切り替えた。

 元の世界でも征服活動を行っていた事もあり、この方針は国を挙げて歓迎されている。

 

 

 情報局

 

 

 征服活動が本格化しようとしている傍らで、黙々とその前準備を行っているのがこの情報局である。

 その名の通り情報関係の部署であり、世界中に諜報員を派遣して日夜様々な情報分析を続けている。

 

 

 コンコン

 

 

「失礼します」

 情報機関とは思えない高級そうな調度品が並べられている部屋へ、情報局員 ナグアノ が入室する。

 そこには、彼の上司である バミダル が座っていた。

「日本に関する総合戦力分析報告書が出来ましたので、報告と決済を頂きに参りました。」

 言いつつ、ナグアノは書類を差し出す。

「御苦労・・・それで?」

 書類を受け取ったバミダルは、日本の軍事力に関する内容がかなり少ない事に気付き、詳細の説明を求める。

「具体的な戦闘に関する情報が極めて少なく申し訳ありません。日本軍の動きが非常に早く、フェン王国の戦いに諜報員が間に合わず、その後にアルタラス王国へ飛び石作戦を敢行するとは想定外でした。また、再独立後の入国制限が非常に厳しくなっており、パーパルディア本土での主要な戦いを目撃する、ないしは話を聞くには至っておりません。」

「情報統制が目的なのは明らかだな・・・戦後処理はどうだ?」

 日本の情報認識が高い事を悟りつつ、先を促す。

「日本はパーパルディア皇国に対し実質的な勝利を収め、和平を行いました。」

「和平だと?」

「事実上の降伏ですが、完全に滅ぼすつもりはなく、属領を全て手放させてはいる様ですが、皇国そのものは存続しています。これは、日本が皇国を統治するだけの国力を持たない事を意味します。将来、自国に反抗する可能性のある勢力を残す生半可なやり方が、それを裏付けています。」

 グラ・バルカス帝国は、植民地政策を採用している。

 現地国家を解体し、完全に自国の支配下へ置いているのである。

 一方、自ら降伏した国家へはある程度の自治を許しており、現地の王族も安堵されている。

「なるほどな・・・しかしパーパルディアは、レイフォルを上回る国力を持つと分析されていた。それを返り討ちにしたと言う事は、日本はかなりの技術力と戦力を持つ事にならないか?」

「その通りです。諜報員に日本の周辺国で情報収集をさせた所、どうやら日本は近代艦を保有している模様です。帆船が主流のこの世界では、圧倒的と言えるでしょう。」

「何!?」

 バミダルの腰が浮き上がる。

「尚、日本艦の主力は5000~6000t級の巡洋艦であり、130㎜級の主砲を前部に一門搭載しているとの事です。」

「豆鉄砲が1門だけだと?随分と歪な発展の仕方をしているな・・・空母は確認されているか?」

「直接確認出来ていませんが、日本も空母を保有しているとの事です。また、巡洋艦にも艦載機が必ず搭載されており、それ等は回転翼機との事です。」

「固定翼機は?」

「直接確認は出来ていませんが、保有しています。ただ、空母にも搭載しているかどうかは不明です。」

「回転翼機は我が国でも開発中だから、部分的には帝国の技術を超えているな。この国も転移国家と見て間違い無いだろう。これは、固定翼機も我が国の戦闘機の性能を超えている可能性を考慮する必要があるな・・・具体的な戦力はどの程度か判るか?」

「戦闘機は400機余りを配備しているとの事です。」

「何だと、たった400機?」

「はい。また、陸上戦力はおよそ27万人と少なくはありませんが、我が軍と比較すればいないも同然です。」

 予想外の数字に、バミダルは少し沈黙する。

「・・・豆鉄砲の艦と言い、数の少なさと言い、技術はこの世界と隔絶しているが、日本は大層平和な世界に住んでいた様だな。この数の少なさが、パーパルディアの統治を諦めた理由かも知れんな。」

「恐らくそうかと。いくら隔絶した技術を有しているとは言え、広大な領土の統治には相応の数が必要になります。皇国も、領土面積だけは一流でしたから。」

 暫し黙考し、考えを纏める。

「将来日本と衝突した場合、日本の技術力を考えるといらん損害を受ける可能性もあるな。万一グレードアトラスターが損傷でもすれば、我が国の威信は地に落ちかねん。」

 バミダルの懸念に、ナグアノは動じずに答える。

「日本は、人口が1億5000万近くと島国の割にかなり多いですが、それだけに食料自給率が低く、ロデニウス大陸が生命線となっています。日本と開戦した場合、潜水艦を派遣してロデニウス大陸との通商路を封鎖するだけで干上がります。また、日本艦には重巡は確認されていますが、戦艦が確認されていません。もし潜水艦の排除に動いたとしても、我が軍の海上戦力で容易に撃退出来ます。」

「だが空母がいるだろう。もし固定翼機を運用出来た場合、どれだけの被害が予想されると思う?」

「得られた情報では、日本は空母を5隻しか保有していない様です。いずれも正規空母との事なのでそれなりに有力と思われますが、僅か5隻では対抗出来る筈もありません。」

「そうか、本当に数が少ないのだな・・・これでは多少性能が優れていようとも、我が軍を止める事は出来んな。」

「はい、日本は我が帝国の敵ではありません。」

 日本の脅威度は、損害を覚悟する必要はありつつも低いと結論された。

 グラ・バルカス帝国は、新たな世界秩序を目指して動き始める。

 

 




 リアル日本はこんな感じの積極性が足りない
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