妄想日本国召喚   作:石原

11 / 28
 かなり間が開いてしまいました


第六話  新第三文明圏

 中央歴1640年4月24日

 リーム王国軍別動隊、ガランダへ到達。

 4月28日

 リーム王国軍別動隊、ガランダ占領を本国へ報告。

 

 

 

 ・・・ ・・・ ・・・

 

 

 

 5月7日

 一体、私の何が悪かったのか・・・

 私は、いつもの様に皇国の為を思って仕事をしただけだった筈だ。

 その皇国も、今では遥か彼方

 そして、あのお方も・・・

 ルディアス皇帝陛下

 栄えあるパーパルディア皇国は、世界でも五指に入る列強であった。

 全ては優秀な臣下と、何よりルディアス陛下のお力あってこそ。

 陛下が即位されてからの10年で、皇国は一気に版図を拡大した。

 その偉大な覇業に私も関われる事に誇らしさを感じつつも、同時に世界の実態に顔を顰めた。

 多くの国がひしめき、あらゆる蛮行に手を染め、徒に戦乱を拡大する。

 およそ文明的とは言えず、更には不潔な蛮族が蔓延っているのがこの世界の実態だったのだ。

 皇国に生まれた事を喜ばしく思う反面、世界の大半を低俗な蛮族が支配している事実に、腸が煮えくり返った。

 すぐにでも滅ぼしてやりたかったが、ルディアス陛下は違った。

 確かに、皇国の力を以てすれば簡単に滅ぼす事は出来るが、どれ程救いようの無い蛮族であろうとも、滅びの運命を免れる機会はあるべきだと仰った。

 何故なら、無暗に殺戮に手を染めるのは、無能の証とお考えだったからだ。

 国家を成長させる為には、より多くの人手を必要とする。

 皇国の人間に劣ろうとも、危機を察知出来るだけの知能があるなら、教育を施せば国にとって利益となる。

 そして、ゆくゆくは皇国が世界の頂点に立ち、万民を治めて平和を齎す。

 それが、世界の人々の為にもなる。

 陛下のお考えは、私には及びもしない程の高みにあった。

 それでも、蛮族は蛮族に過ぎない。

 皇国の、陛下の素晴らしいお考えも統治も理解出来ず、差し伸べた手を振り払う者がこの世界には大勢いるのだ。

 この様な中で、私は陛下の理想を実現しようと全力で補佐した。

 その為によく行っていたのが、見せしめだ。

 他国へ侵攻する際、数十人から数百人を見せしめに処分し、降伏を迫る。

 一見すれば酷いが、軍事侵攻によってすぐに滅ぼし、万単位の犠牲を出す方が遥かに酷いし愚かだ。

 それに、理解力の低い蛮族にとっても解りやすく、後の事を考えての措置でもある。

 蛮族は、やはり蛮族に過ぎない。

 皇国の統治下に入っても、皇国の素晴らしさを理解せず、それどころか反乱を企む輩が大勢潜む事態になってしまっていた。

 それを防ぐ為、皇国との圧倒的な力の差を見せ付け、恐怖を植え付ける。

 この恐怖による支配こそが、統治を安定化させる為に最も有効な手段なのだ。

 こうして教育する事で、いらぬ戦乱によって人々を不幸に陥れる愚かさを学び、皇国の下で平和を享受出来る様になる。

 だが、同じ列強国である筈のミリシアルやムーは、周辺国に融和政策を採っている。

 世界の安寧を遠ざける愚かな行為だが、遺憾ながら皇国はこの両国よりも下位に甘んじていた。

 何故、この様な軟弱な国よりも下に見られなければならないのか?

 陛下も、この状況には我慢ならないと口にされていた。

 勿論、我が国はその様な轍は踏まず、恐怖によって属領を治め、更にいくつもの蛮国を併呑した。

 そして、遂にあの国が現れた。

 日本国

 ガハラ神国よりも更に東方に位置する、文明圏外の島国。

 私は今、その日本の船に乗せられている。

 魔導戦列艦よりも巨大な、金属で造られた機械動力船だ。

 彼等がエストシラントへ押し掛けて来た時も、同じく機械動力船に乗っていた。

 ムーが攻めて来たのかと狼狽えてしまったが、詳細を知ると激しい怒りが体の奥底から湧いて来た。

 外三がフェンに差し向けた監察軍が退けられ、しかもそれを行ったのが目の前の日本軍との事だったからだ。

 その上、日本について詳しく聞くと、ただの文明圏外国だとの話だった。

 たかが文明圏外国が、あの様な機械動力船を造れる筈が無い。

 ムーの後ろ盾を得たからこそ、監察軍を退けられる力を手に出来、皇国に堂々と歯向う程にまで増長したのだろう。

 そう考えて外交官と面会すると、その予想を裏付けるかの様な生意気な態度であった。

 怒りを覚えもしたが、それ以上に身の丈に合わない力を与えられ、自らが強大になったと勘違いしてしまった有り様に哀れみを覚えた。

 だからこそ、機械動力船を自ら建造したなどと、ありもしない虚勢まで張ってしまったのだろうと考えていた。

 彼等を見て、やはり恐怖支配は正しいのだと確信した。

 そして、その後に陛下の命によって始まったフェン王国侵攻は、まさかの日本人の捕縛と言う望外の結果を齎した。

 そして、いつもの様に見せしめにした。

 最初の会談での態度から、すぐに従属を示すとは思わなかったが、罵倒するどころか降伏要求までして来るのは流石に予想外だった。

 いくらムーの兵器を保有していても、列強国と蛮国とでは国力に圧倒的な差がある。

 あの時以上に心の底から笑った事は無い。

 これまで通りに一つの蛮国が滅び、降伏要求は滅び行く蛮族の勘違いの喜劇として語り継がれる。

 皇軍の敗報を耳にするまではそう思っていた。

 偉大なる皇国に歯向うどころか泥を塗った事実に激昂したが、それよりも重要なのは皇国の統治基盤が揺らぎかねないと言う事だ。

 恐怖支配は、恐怖の源泉が破壊されれば機能しない。

 皇国の恐怖の源泉は、強大な軍事力にあった。

 それを、一部とは言え打ち破られれば、皇軍は無敵ではないとの認識が広がり、理解力の無い蛮族共が無用な戦いを挑み始める。

 それは、陛下の理想とする世界の平穏を遠ざける事に他ならない。

 皇軍に勝利した経験を持つ日本が存在する限り、皇国は勝てない相手ではないとする認識が消える事は無い。

 その認識を打ち消すには、何としても日本そのものを消し去らなければならない。

 だからこそ、私は殲滅戦を上奏した。

 陛下も同じ考えでいらしたらしく、すぐに陛下の名の元に殲滅戦の宣言が下された。

 それは良かったが、懸念があった。

 日本軍が皇軍を撃破出来た原因が何かを考えれば、ムーの兵器を利用していたから以外に考えられなかった。

 もしこのまま日本と戦えば、皇軍が本気になった以上は勝てはするだろうが、どれ程の被害が出るか見当も付かない。

 再び恐怖を根付かせる為にも、大損害を受ける無様は晒せない。

 陛下もその事は承知しており、私と外一にムーの支援を止めよと命じられた。

 にも関わらず、召喚に応じたムー大使は日本の兵器はムー製ではなく、日本自らの手によって製造され、ミリシアルよりも優れていると断言した。

 蛮国の外交官ではなく、列強国大使からの言葉はあまりにも重かった。

 振り返れば、かつて相手にした外交官にしても、他の蛮族とは違った。

 立ち振る舞い、身に着けている物、渡された資料の内容どころか紙質に至るまで

 そして何より、魔導戦列艦を一隻たりとも沈めずに鹵獲する高い能力を示し、その力を誇示していた。

 しかし、皇国を頂点とする姿勢が、その全てを見逃してしまった。

 そうして今度は、私が日本の影に恐怖する日々を送る事になってしまった。

 繰り返し見る、日本人に処刑される夢

 あれは、日本の外交官が要求した私の身柄の引き渡しを、無意識の内に思い起こしていた結果だ。

 日本が私に追い付きつつある啓示だったのだ。 

 その恐怖を一時的にでも振り払ったのが、精強な皇軍の姿だった。

 皇軍の中でも精鋭揃いの皇都防衛隊

 その雄姿は、列強たるパーパルディア皇国に相応しく、世界を統べる事が出来ると思わせてくれた。

 その雄姿が、極僅かな時間で肉片に変わった。

 ワイバーンオーバーロードは、音速を超える飛行機械によって瞬時に全騎撃墜された。

 皇都防衛基地は、制空権を取られた状態で巨大な飛行機械の群れによって大量の爆弾を落とされて廃墟になった。

 主力艦隊は、接近する日本艦隊に手も足も出ずに殲滅され、竜母に搭載していたワイバーンロードは愚か、海軍本部すらも吹き飛ばされてしまった。

 ただただ恐ろしかった。

 今まで蛮族を屠って来た皇軍が、一方的に殲滅される圧倒的な力が。

 その力が皇国へ向けて振り下ろされる状況を作った原因が、私自身である事実が。

 日本人に処刑される夢が、夢でなくなろうとしている実感が。

 それでも、世界の頂点に立つべき皇国の、しかも皇族である自覚が私を立ち上がらせた。

 いくら相手が強大だろうとも、世界の安寧の為に、陛下の理想の為に立ち止まってはならない。

 だが、状況は深刻だった。

 皇軍は壊滅状態であり、強大な日本軍へ対抗出来る戦力は残されていなかった。

 それでも、陛下は折れていなかった。

 カイオスが日本へ膝を屈しようとしているとも取れる言動をしていたが、それを強く制して日本は皇国に勝てない事を力説された。

 それは的を得ていたし、何より皇軍を再建出来る国力もある。

 そうして今後の対応を策定し、戦況を覆せると思った矢先、皇軍再建の要であるデュロが日本軍の攻撃で全滅したと報告が入った。

 その上、属領が次々に反旗を翻しているとも報告された。

 反撃するどころか打つ手を完全に無くし、国の存亡に関わる事態にまで陥ってしまった事実に、ただ嘆く事しか出来なかった。

 その後はあっという間だった。

 カイオスがクーデターを起こし、中枢を掌握して陛下さえも押さえ、そして私は捕らえられて日本へ引き渡された。

 何が間違っていたのか・・・

 何度も考えた。

 その考えも、乗せられた日本の船で吹き飛んだ。

 船とは思えない快適な環境、これまで知り得たどんな船よりも速い速度。

 ムー大使から聞いていたどんな話よりも、生の実感は現実を叩き付ける。

 だが、これ程の技術を持っていながら、彼等は感情に任せて皇国に戦いを挑んだ。

 世界の安寧を思って版図を拡大した皇国に対し、彼等は世界の事など考えてはいない。

 蛮族は、何処まで行っても蛮族だ。

 皇国によって繁栄を謳歌していた第三文明圏は、今度は日本の軽挙妄動によって動乱へ叩き落されるだろう。

 世界の安寧は遠ざかった。

 だが、私は何としても陛下の理想を実現したい。

 日本の手から逃れるのは不可能だろうが、出来る事は何でもやるつもりだ。

 私が、そして陛下が、何を考えて覇を唱えていたのか話す機会はあるだろう。

 いくら何でも、全ての日本人が分別の付かない獣だとは思わない。

 陛下の理想を聞き、同調してくれる者がいる筈だ。

 それを足掛かりに、再び世界の為に安寧を取り戻す戦いを挑む!

 

 その後、日本へ移送されたレミールは、半年にも渡る裁判の末に死刑判決が確定した。

 彼女の証言や説得は、前時代的で身勝手な蛮行として記録に残り、反省の色が見えない証拠として国民にも周知された。

 結局、彼女に同調する者は一人もおらず、皇国の意志を継ぐ最後の一人を自称する事で最期を飾った。

 

 

 

 ・・・ ・・・ ・・・

 

 

 

 5月22日

 リーム王国王都ヒルキガでは、バンクスが臣下と共に今後の展望について話し合っていた。

「やはり、ベスタル大陸へ入植するのが宜しいかと。ガランダは、我が国から遠過ぎます。」

「私も賛成致します。アルタラスは日本の手が入っておりますし、マール王国は現地軍のみでは手に余ります。増援を送ろうにも、遠過ぎて思う様には参りません。」

「その通りですな。幸い、ガランダはベスタル大陸へ手を出すには悪くない位置に御座います。此処は、時間を掛けて力を付けるべきかと。」

 元属領であるガランダは、マール王国の南方に存在する島国である。

 フィルアデス大陸の西側に位置し、リーム王国とは正反対の位置にある。

 日パ戦争中、一帯の目がパーパルディア皇国へ向いていたお陰もあり、ロデニウス大陸北方をすり抜けて上陸に成功した。

 しかし、野心的なリーム王国はそれだけでは満足出来なかった。

 そこから更に勢力を伸ばそうと目論んでいるのだが、ガランダ周辺は文明国と日本の息が掛かった国ばかりであり、頭を悩ませているのである。

 

 

 ドンドンドン

 

 

 様々な意見が出ている所へ、勢い良く扉を叩く音が響き渡る。

「無礼者が!扉を叩いているのは誰か!?」

 上座で座っているバンクスの脇にいるリバルが怒鳴る。

「宰相で御座います!陛下、御無礼をお許し下さい、緊急事態で御座います!」

「入れ」

 バンクスが答えると、冷や汗で顔を濡らした宰相が飛び込む。

「陛下、一大事で御座います!日本が・・・日本が・・・!」

「落ち着け、日本がどうしたのだ?」

「日本が、我が国へ艦隊を引き連れてやって参りました!」

 その場の全員が、忽ち混乱に包まれた。

「皆の者、陛下の御前であるぞ!控えよ!」

 リバルが一喝し、場を収める。

「宰相よ、続けろ」

 バンクスが宰相へ先を促す。

「陛下、日本は外交官を伴っており、我々との会談を要求しております。」

「会談だと?・・・取り敢えず、直ちに開戦する事はなさそうだな。」

 安堵感が漂い、一人が口を開く。

「ならば無視されては?日本が何を要求するかは不明ですが、碌な事ではありますまい。」

 その発言に、リバルと宰相が睨む。

「愚か者が、何の為に艦隊を引き連れていると思っておるのだ!?」

「その通りだ。これは、拒否は許さぬと言う意思の表れだ。下手な手を打って国を滅ぼすつもりか!?」

 内政と軍事のトップから誹られ、顔を真っ青にして黙り込む。

 その後、バンクスとリバル、宰相の三人を中心とするメンバーが選出され、会談へ臨む事となった。

 

 暫く後、

 

 日本から派遣された外交官 荒尾 と 保木 は、一個小隊の護衛と共にセルコ城へ通され、急遽準備された小会議室でリーム側の面々と対面していた。

 自己紹介が済むと、まずはリバルが口を開く。

「それにしても、随分と物々しいですな。見た事のない装備がいくつも目に付く。武人として、色々と興味をそそられますぞ。」

 ゾロゾロと軍を引き連れて来た事に対し、最大限ソフトな表現で苦言を呈する。

「我が国は、貴国の行為にとても失望しています。」

 リバルを完全に無視し、荒尾はバンクスを見つめながら言う。

「いくら貴国と言えども聞き捨てなりませんぞ!まるで、我が国が貴国に敵対的な態度を取ったかの様な物言いではありませぬか!」

 宰相が強い調子で口を挟む。

「ではお聞きしますが、貴国はパーパルディアとの戦争中、何をしていましたか?」

「何を仰りたいのか理解出来ませぬが、我が国は属領の独立の支援を行っておりました。パーパルディアの圧政がどれ程に非道かは、我等も良く知る所であります。そして、その力がどれ程に強大かも・・・それ故、すぐにでも独立の動きが鎮圧されるであろう事は予想が付きました。その後に起こるであろう惨劇もです。第三文明圏に属する国家として、これは決して無視など出来ません。であるからこそ、我が国は犠牲を顧みず救いの手を伸ばしたのです。」

「救いの手とは笑わせますね。惨劇を招いたのは貴国の方でしょう?」

 リーム側の全員の表情が変わる。

「今の言葉は聞き捨てならんな。我が国がどれ程の犠牲を払ったのか、知った上で言っておるのか?日本軍によって弱体化した筈のパーパルディア軍相手ですら、我が軍も属領軍も大苦戦を強いられたのだぞ。宰相の言う通り、座して傍観していては恐るべき惨劇を招きかねない所だったのだ。」

 バンクスが言う。

「では、これは何でしょうか?」

 そう言うと、保木がパソコンを準備する。

「これは?」

「魔導通信は御存知で?」

「確か、遠くの風景を映し出す技術であったか。パーパルディアも使用していたとか。」

「その通りです。我が国は、魔導通信と同種の技術を保有しており、記録の保存も出来ます。」

 公開される日本の技術の一端に、自国とは比較にならない差がある事を理解する。

「さて、その記録に興味深い物がありましてね。」

 そうして見せられた映像は、アルーニ戦に於いて73ヶ国連合軍に同行していたカルマを中心としたやり取りであった。

 また、リーム軍のワイバーンによって味方に被害が出た瞬間もはっきりと映っていた。

「これが、救いの手を差し伸べる者のやる事ですか?これを惨劇と言わず、何と言うのですか?」

 リーム側の顔色が急速に悪くなり、冷や汗が垂れる。

「それともう一つお聞きしたいのですが、貴国はガランダで何をしているのですか?」

「・・・ッ!」

(馬鹿な、もう嗅ぎ付けたのか!?いくら何でも早過ぎる!)

 誰もが言葉を失い、表層だけでも取り繕おうと必死になっていた。

「ガランダの住民は、上陸した貴軍によって酷く虐げられています。何でも、自分達が新たな支配者なのだから、大人しく従えと横柄な態度を取っているとか。まさかとは思いますが、全員が対パーパルディアで掛かり切りになっている隙を突いて領有化しようとしたのではありませんか?お答え下さい、沈黙は肯定と受け取ります。」

(い、一体どうすれば・・・)

 狼狽する中、口を開いたのは宰相であった。

「それは誤解です、我が国がガランダへ軍を出した事実は御座いません。」

 リバルは、思わず宰相へ顔を向ける。

「ガランダに駐留している軍船には、貴国の国旗が掲げられているとの事ですが?」

「恐らく、その近辺の海賊がこの機に動いたのでしょう。」

 宰相は決断した。

 ガランダへ派遣した軍を切り捨て、日本の脅威を避ける。

 大損害ではあるが、国そのものがダメージを受けるよりマシだとの判断である。

「そんな話を信じるとでも?此処から遠く離れた海賊が、どうして貴国のフリをするのですか?」

「恥ずかしながら、我が国は海軍に海賊を取り入れていた事が度々御座いました。ですが、その統制から離れる船が後を絶たなかったのです。無論、我が国も放置していた訳では御座いませんが、討伐を避ける為に遠方へ逃れた船がいくつも御座いました。それ等の船が結託し、この混乱に乗じて動いたのではないかと。」

 宰相は、嘘は言っていない。

 私掠船と言う形だが、リーム王国は海賊を利用して来た。

 そして、公認の私掠船は書類上は海軍の所属となっており、いざと言う時には旗を与えて艦隊に加えられる。

 しかし、所詮は根無し草であり、いつの間にか行方不明になる事も良くあるが、それは事実上の敵前逃亡である為、見付かれば抹殺対象となる。

「それなら、既に艦隊を向かわせていますが、此方で排除しても構いませんね?」

「ッ!」

 リバルの顔色が変わり、口を開こうとするも、宰相が鋭く睨み付けて押し留める。

「構いません。我が国としましても、我が国の旗を掲げて悪事を働く不届き物を放置出来ません。どうか、徹底排除をお願い致します。」

「分かりました。艦隊は一両日中には現地に到着しますので、すぐに排除されるでしょう。」

 荒木は、この件については潮時だと判断し、話を締め括った。

(ムゥ・・・艦隊を失うのは痛手だが、致し方あるまいか。)

 バンクスは、内心で宰相の機転に感謝した。

「それでは、もう一つお聞きしたい事があります。」

 そう言うと、何枚かの紙を渡す。

 そこには、73ヶ国連合軍兵士の手元がクローズアップされた画像が印刷されていた。

「これは、我が国が輸出したコンパウントボウですね。そして此方も、我が国が輸出したアラミド繊維を利用した盾です。軍事利用は禁止している筈ですが、貴国は我が国を裏切って何をするつもりなのですか?」

 宰相含め、全員から冷や汗が溢れる。

 裏切者呼ばわりまでされ、その深刻さを理解した。

(マズいぞ・・・マズいマズいマズい!あの時、宰相の言う通りにしておれば・・・!)

 バンクスは、忠告を受けた時の事を思い出して後悔した。

「貴方は、一体何を仰っているのですかな?」

 口を開いたのは、またしても宰相であった。

「貴国には、軍事利用してはならない物品の輸出を禁じる法が存在した筈ですな?確か、技術流出防止法でしたか。もし、その法に抵触する物品を不法に入手し、更に軍事利用しているとなれば誹られても文句は言えませぬが、此処に写っているこれ等は、他ならぬ貴国によって利用が認められた物なのですぞ?」

(痛い所を突きやがって!)

 汗を拭きながら話した宰相の指摘に、荒木は内心で舌を巻く。

「輸出した時点ではその通りでした。しかし、貴国が連合軍へ貸与した時点では、既に技術流出防止法の改正が行われており、貴国は不法行為を行った事になります。」

 実際は、未だに法の適用範囲を何処まで広げるかの議論を行っている最中だが、反論を許さない為に吹っ掛ける。

「であるならば、法が改正された時に通告があって然るべきでしょう。事後報告で無かった事にしてくれなどと言われましても、我が方としましては対応のしようが御座いませんぞ。」

「・・・そうですね、その通りです。」

 荒木は、これ以上の追及を諦めた。

「ですが、これで貴国は法改正の事実を把握しました。よって、改正技術流出防止法に抵触する輸出品の早期破棄を要求します。」

 宰相は、バンクスを見る。

「仕方あるまい・・・余の名に於いて、責任を持って破棄する事を約束しよう。」

「ああ、破棄に際して此方から立会人を派遣しますので、受け入れ準備をお願いします。」

「な、何ですと?我が方は既に、貴国の突然の要求を受け入れたのですぞ!この上立会人を寄越すなど、我等を信用に値しないと宣言している様なものではありませぬか!それが、国交を結んでいる相手に対する物言いで?」

 堪らずリバルが声を上げる。

「味方を味方とも思わず、惨劇を招いておきながらどの口が言いますか?」

 アルーニ戦の事を指摘され、口を閉ざす。

「貴国の信用は、既に地に落ちています。それは、我が国に限った話ではありません。信用してくれと言われるのであれば、相応の償いをしてからです。」

 結局、リーム側の抗議は何も通らずに会談は終了した。

 

 その後、ガランダに駐留しているとされている海賊は、海軍第十一戦隊と陸軍第一外征団の攻撃によって殲滅された。

 次いで、日本から派遣された政府関係者の立ち合いの元、軍事転用可能な輸出品の破棄が順次進められ、最終処分は日本国内で行われた。

 更に、在リーム邦人の引き上げが進められ、日本リーム間の商取引の大半が白紙状態となり、第三文明圏に於けるリーム王国の貿易規模は大幅な縮小を余儀無くされた。

 こうして、リーム王国は生き残りには成功したものの、信用が大きく低下した事で周辺国との関係が悪化の一途を辿り、その後の第三文明圏の発展から取り残される事となった。

 

 

 

 ・・・ ・・・ ・・・

 

 

 

 8月6日

 ルディアスの処刑から1ヶ月が経ったこの日、エストシラントに於いて共同宣言がなされた。

 第三文明圏内外の大半の国家が参加して催されたこの式典は、日本を中心とする新秩序の創成を内外に知らしめた。

 まず、元属領群の独立と新国家成立がこの機に発表された。

 国土は概ね東西で分けられ、東部国家を<レリス連邦>、西部国家を<ゼジラーベ連邦>とした。

 現状では、連邦成立の根回しが完了したに過ぎず、行政機関の整備はこれからである。

 そして、これまではフィルアデス大陸南半分の領域と定義されていた第三文明圏は、フィルアデス大陸全体、ロデニウス大陸、日本列島及び周辺島嶼に再定義された。

 尤も、これは国際的な承認を得ておらず、現在は自称である。

 そして、これまで日本との関わりを持っていなかったマール王国、パンドーラ大魔法公国との国交の調印式も行われ、第三文明圏全体が日本との国交を有する事となった。

 そして、第三文明圏の発展と平和を目指す<大東洋憲章>が発布され、今後の行動指針として大いに存在感を発揮する事となる。

 こうした日パ戦争から続く一連の動きにより、日本が第三文明圏の盟主として正式に存在感を発揮し、内外に認識された事で対外的に新たな列強国と見られる様になった。

 その結果、次々と国交を求める外交官が訪れる事となり、外務省は地獄の忙しさとなる。

 

 




 原作でのガランダの正確な位置が不明なので、地図を見てそれっぽい場所を選びました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。