中央暦1640年9月20日
エモール王国、国交交渉を目的とした使節団を日本へ派遣。
11月1日
神聖ミリシアル帝国、日本へ使節団を派遣。
日本視察後、先進十一ヶ国会議への参加を要請。
12月1日
神聖ミリシアル帝国、グラ・バルカス帝国へ使節団を派遣。
レイフォル出張所に於いて、先進十一ヶ国会議への参加を要請。
・・・ ・・・ ・・・
11月25日
世界最強の列強国として名を馳せる神聖ミリシアル帝国の帝都ルーンポリス。
眠らない魔都と称されるこの町は、300m級の高層ビルも建ち並んでおり、旧世界の大都市にも引けを取らない発展ぶりである。
その中心にあるのは、国家元首 ミリシアル8世 の居城アルビオン城であるが、この城ではちょっとした騒ぎが起こっていた。
「う、うーむ・・・」
「いやいやいや、こんな荒唐無稽な報告を寄越されてもな・・・」
「最果ての文明圏外国が?有り得んだろう。」
城内の会議室に集められた政府高官達が、困惑しながら書類を読み進めていた。
その書類は、日本へ派遣された先遣使節団が提出した報告書である。
本来であれば、こうして一ヶ所へ集まって報告会などする事はないのだが、今回は列強国であったパーパルディア皇国を降し、新たな強国として第三文明圏へ君臨した日本国に関してである。
流石に、世界へ与えるであろう影響の大きさを考慮する必要があり、国家全体としてどの様に対応すべきか意思統一を速やかに行うべきとの判断から、こうして様々な立場の者が一堂に会しているのである。
「報告書に記載しました通り、日本国は我が国をも上回る超大国です。その対応には細心の注意を要しますが、融和政策を是としており、来る魔帝との決戦に於いても大いに寄与する事が期待されます。」
使節団代表を務めた フィアーム が進言する。
「待ち給え。確かにパーパルディアを撃破した実績からも、日本国が第三文明圏最強を称するに相応しい実力を有している事に疑いは無い。しかしだ、だからと言ってこんな荒唐無稽な内容を信じろと言うのは無理があり過ぎるよ。」
そう言うのは、国防省長官を務める アグラ である。
日本が列強国を打ち破れる程の力を有している事が確定しており、その脅威度を算定する必要からこの会議に参加している。
「君達を乗せたゲルニカの護衛に出て来たのが、後退翼を装備したプロペラを持たない飛行機械との事だったね?我が国でさえ理論段階の物を、文明圏外の田舎国家が実用化しているなど、どう考えても有り得ないよ。」
航空機に限らず、報告書には日本の様々な技術が記載されていた。
ミリシアル帝国の魔導車よりも高性能な自動車が、市井にも広く普及している。
時速300㎞で走行する鉄道が整備されている。
試験段階だが、戦闘用天の浮舟を凌駕する速度を出せる鉄道も開発されている。
現有する魔導演算機の数万倍もの性能を有する演算装置を実用化している。
「アグラ長官、これは事実です。見た所、日本国は後退翼どころか、魔光呪発式空気圧縮放射エンジンに酷似したエンジンを実用化しておりました。その性能も、詳細は不明ですが、我が国が採用しているエンジンを凌駕している可能性が高いのです。」
使節団に同行した武官 アルパナ が補足する。
「見間違いに決まってる。我が国がアレを実用化するのに、どれ程苦労したと思っているのかね?国内に魔帝の遺跡を多数有し、その技術を解析出来るアドバンテージを持った我が国でさえ、実用化には多大な労力を必要としたのだよ?それに、日本国は科学文明国だとの話じゃないか。科学技術にも発展性がある事はムーを見れば解るが、それでも魔導技術に敵わないのが実情だ。とても信じられないよ。」
「残念ながら、日本国の技術力は我が帝国の持つ全ての技術を上回っていると思われます。むしろ、これからは日本国から技術指南を受け、科学技術を取り入れる方が宜しいかと。」
使節団の一人である技官 ベルーノ が言う。
「いくら何でも大袈裟過ぎるよ。夢でも見たのだろう。それにだ、我が国が他国の後塵を拝し、あまつさえ教えを乞うのがどんな意味を持つのか理解しているのかね?世界最強のこの神聖ミリシアル帝国がだよ?」
強い調子で反論するのは、外務大臣 ペクラス である。
「良いかね?君達の上げて来た報告は、ある筈の無い虚言でしかないのだよ。君達はぽっと出の文明圏外国に、まんまと騙されて帰って来たのだ。こんな夢の様な国が存在するのなら、我々は何の為に日々努力しているのかね?我々は、君達の見ている夢物語に付き合っている暇など無いのだよ。」
「その通りだな。全く、法螺を吹くにしてももう少しマシな法螺を吹き給え。新参の田舎国家が、我が帝国を超えるなど万に一つも有り得はしないよ。」
ペクラスの発言に、アグラも同調する。
「その通りだな。誇るべきミリシアルの代表者ともあろう者が、文明圏外国に騙されるとは・・・」
「田舎国家に欺かれて、よくも帰って来られたな。」
次々と嘲りの言葉を向けられる使節団の面々だったが、不快な思いをしつつも開き直った様な表情をしていた。
「それでは、これで失礼します。陛下への報告を宜しくお願いします。」
全ての罵倒を聞き終えると、フィアームが代表してそう言い、使節団は会議室を出た。
「・・・言い訳一つ出来んとは、随分と幼稚な嘘を考えたものだ。」
「官僚の質が下がっている証拠だな。早急に対策を考えねば、周辺国にいい様にされてしまうぞ。」
「教育の見直しを行わねばなりませんが、それと共に日本国への対策も考える必要があります。」
今度は国の将来を憂う言葉が次々に飛び出す中、ペクラスが立ち上がる。
「さて・・・気は進まんが、陛下にこの件を報告せねばなるまい。」
報告書の内容は信用に値せずとも、提出して目を通して貰う義務がある為、嫌々ながらも皇帝の元へ向かう。
暫く後、
「・・・・・・」
皇帝用の執務室に於いて、ミリシアル8世は黙って報告書に目を通す。
「・・・ふむ」
読み終えて声を出し、顔を上げる。
「ペクラス」
「はい」
傍らのソファに座って待機しているペクラスへ話し掛ける。
「日本国は、第三文明圏外に位置しているのだったな?」
「その通りで御座います。」
「辺境にいながらにしてこれ程までに発展している国があるとは、中々に興味深いな?」
その言葉に、少し慌てる。
「恐れながら陛下、第三文明圏外の田舎国家が、我が帝国に匹敵する程に発展していると信じるのは如何なものかと・・・」
「確かに、信じ難い内容であるな。だが、文明圏外にありながら、列強であるパーパルディア皇国に打ち勝ったのも事実だ。その発展ぶりは、恐らく我等の持つ文明圏外国の印象を大きく超えるものなのだろう。流石に、報告書の内容そのままの姿をしているとは思えんがな。想定を超える発展ぶりに動揺し、実態以上に栄えている様に見えてしまったのだろう。」
「それはそれで使節として問題が御座いますが・・・これでは、日本の正確な実相が不明なままで御座います。」
そう言って口を閉ざすペクラスに対し、皇帝はある話を思い出す。
「そう言えば知っておるか?情報局から聞いたのだが、ムーは既に日本と国交を結び、大いに注目しているそうだぞ。」
「何と、あのムーが・・・?」
ペクラスは目を見開いて思案顔になる。
ミリシアル帝国に次ぐ世界第二位の列強国が注目している事実は、その影響力を勘案すると決して無視出来ない。
「確かに、ムーが一目置く程ともなれば軽視は出来ませんな。しかしそれは、科学技術国同士でウマが合っただけでは御座いませんでしょうか?」
文明圏外国であると言う事実から、日本そのものが大きな脅威になるとはどうしても思えなかった。
「確かに、同じ技術形態を有していれば連携を取りやすいだろうな。これまでは、科学と言えばムー一国しか無かったのだからな。だが、それだけで大きく注目する事などあると思うか?」
「それはどういう事でしょう?」
「よく考えろ、ムーは第二文明圏、日本は第三文明圏外に位置しているのだぞ。あまりにも遠過ぎる。行き来だけでも相当な手間が掛かるだろうに、同じ科学文明に属すと言うだけでそこまで注目して交流すると思うか?」
「それはつまり、ムーは科学文明国同士で連携し、影響力を強めようとしていると?」
その返答に、内心で溜息をつく。
「それもあるだろうが、それだけではムーからの持ち出しばかりが増える。それも、第三文明圏外までだぞ?割に合うとは思えん。そうまでして注目すると言う事は、ムーにも大いに利益があると言う事に他ならん。」
「確かに、仰る事は理解出来ますが・・・」
それでも、日本が自国を上回るとは信じられず、煮え切らない返事をする。
「とにかく、日本に関する情報を集め、慎重に接するのだ。」
「畏まりました」
ペクラスが退室したのを確認すると、大きく息を吐く。
「全く、我が国の安泰を疑わない者が多過ぎるな・・・どれ程の力を有していようとも、選択を誤れば列強と言えども安全でない事が証明されたばかりだと言うに・・・」
世界の秩序をひっくり返したグラ・バルカス帝国と日本国
文明圏外にありながら、突如出現して瞬く間に存在感を示した強国の存在は、まるでラヴァーナル帝国の出現を暗示しているかの様に感じられた。
その後、外務省へ話を持ち帰ったペクラスは、官僚を集めて方針を話し合った。
ムーが注目している事実は、外務省全体としても無視出来る話ではなく、使節団の報告を全て荒唐無稽であると切り捨てる事も出来なくなった。
そこで報告書の精査を入念に行い、ムーと同等の技術力と軍事力を持つ相手として交渉に当たる事となった。
そして本格的な交渉が始まると、終始丁寧な対応を受けてスムーズに進み、特に問題無く国交締結に至った。
互いに大使館が設置されたが、日本からは積極的に調査団や企業関係者が派遣されるのに対し、ミリシアル側は大使館員を除いて日本をほぼ無視していた。
その大使館員にも間も無く問題が発生し、使節団と同様の報告を繰り返し上げる様になったのである。
その為、短期間で帰国させなければならなくなったのだが、代わりの職員もすぐに同様の報告を上げる様になった。
帰国した職員は、全員が半ばパニック状態とも取れる精神状態となっており、外務省では日本が何らかの精神操作魔法を使用しているのではと噂される様になった。
しかし、情報収集によって日本人は魔法が使えない事は確実であるとの結論が出ており、日本の風土がミリシアル人にとって何らかの悪影響を与えているのではないかとの推測が上層部の最終的な結論となった。
取り敢えず、この結論によって日本との敵対姿勢には繋がらなかったが、外務省職員にとって日本への赴任は事実上の左遷人事となった。
・・・ ・・・ ・・・
エモール王国 首都ドラグスマキラ
竜人族が治めるこの国の中枢では、ある議題によって困惑模様となっていた。
「それは真か?」
「左様で御座います。」
この国では、毎年<空間の占い>と呼ばれる国事が行われている。
占いと称しているが、莫大な魔力を消費して行われる魔術の一種であり、的中率は98%にもなる実質未来予知の類である。
今年の空間の占いによって出た結果が、魔帝の復活である。
この世界に住まう者であれば誰でも知っている古の魔法帝国。
正式には<ラヴァーナル帝国>と呼ばれるこの国は、遥かな太古の時代に存在した光翼人が支配する国であり、その圧倒的な技術力と有り余る魔力によって世界を支配していた。
支配と言っても、現在の文明が行っている統治の類ではなく、他種族を家畜扱いしていたと言われている。
増長した彼等は遂には神々にも弓を引こうとし、巨大隕石を落とされそうになった事で本拠地であるラティストア大陸共々未来へ転移した。
現在では、大多数にとってはおとぎ話として認識されているが、魔帝の遺跡は各地に現存し、政府レベルの人間は実在を疑っていない。
そして、遺された遺産の記述には、いずれ魔帝がこの世界に復活するとある。
正に、空間の占いの結果とも合致する内容であり、そうなれば現存する文明は再び家畜へ身を落とす事となる。
しかし、占いでは同時に魔帝に対抗する鍵があるとも出た。
それが、日本国である。
様々な種族の中でも魔力素養の低い人間族の国がどうして鍵となるのか?
誰もが首を傾げたが、国事である空間の占いの結果は軽視出来ず、自ら使節団を派遣して日本の情報収集と国交を申し出た
その使節の代表である モーリアウル は、帰国して早々に竜王 ワグドラーン へ報告を行っているのである。
「日本国は、文明圏外国家とは思えぬ程の発展ぶりでは御座いましたが、魔術的素養は皆無で御座いました。」
周囲の大臣達がざわつく。
「いくら人間族とは言え、一切の魔術的素養を有していないなどあり得るのか?」
「そもそも、魔帝相手に人間族如きが何を出来ると言うのだ?」
「やはり、間違いであった可能性も・・・」
ワグドラーンは、呟きの止まらない臣下を睨み付けて黙らせる。
「モーリアウルよ、続けろ」
「はっ、私は1ヶ月以上掛けて日本各地を巡り、鍵となる何かが無いか探し続けましたが、残念ながらこれと言った物は・・・」
一同は、落胆を禁じ得ない。
「ただ、僅か1ヶ月では全てを巡る事は不可能で御座います。まだ巡っていない地に何かがある可能性も御座います。しかしながら、国交を結べていない現状ではそれも困難かと。」
「何だと、国交を結べていないのか?」
流石に、実情の判らない知り合ったばかりの相手といきなり国交締結は不可能であり、日本側は国交締結に向けた継続的な交渉を約束するだけに留めていた。
モーリアウル以下は露骨に不満を表明したものの、それでも日本側は折れなかった為、仕方無く諦めて帰国する運びとなったのである。
それでも、1ヶ月に渡って各地を見て回る事が出来たのは、日本側のせめてもの配慮であった。
「たかが人間族の分際で生意気な!」
「我が方から出向いてやったにも関わらず、要求を聞き入れぬとは何たる傲慢か!」
「魔術を使えぬ欠陥人間如きが、分を弁えんとは何様か!?」
方々から野次が上がる。
エモール王国は、「用があるなら自分の足で来なければ相手にする気は無い」としており、自ら出向くなど本来ならば有り得ない。
その上、彼等は差別意識と選民思想が非常に強く、ハイエルフを除けば例外的に高い実力者以外は等しく見下しており、魔術を全く使えないと判明した日本人ともなれば言わずもがなである。
「魔帝を退ける可能性があるともなれば、その機会を逃す訳には参りませぬ!」
居並ぶ大臣をものともせず、モーリアウルは言い返す。
「ならば、その鍵となる物を献上させれば良いではないか!人間族相手にへつらうなど、貴様は竜人族の誇りを失ったのか!?」
「そうだ!すぐにでも日本に命じ、献上させるべきだ!」
「静まれぇ!」
ワグドラーンが一喝し、場を静める。
「皆の者、滅多な事を言うでない!魔帝に通じる鍵があるとすれば、それは魔帝以外にも通じると考えねばならぬのだぞ!」
かつて、この地にはインフィドラグーンと呼ばれる国が存在した。
その国は、エモール王国の前身となる竜神の国であり、ラヴァーナル帝国と同時期に存在した。
その力は極めて強大であり、史上最強と言われたラヴァーナル帝国とも互角に渡り合った程である。
しかし、その戦争の最中に撃ち込まれたコア魔法によって滅ぼされた事で竜人族は散り散りとなり、現在のエモール王国にはかつてのインフィドラグーン程の力は無い。
にも関わらず、ラヴァーナル帝国に通用する何かがあるとすれば、その力がそれ以外に振るわれれば恐ろしい結末を迎える事となる。
ワグドラーンの指摘に、一同はハッとする。
「全く・・・」
臣下の浅慮に呆れて頭を抱える。
「モーリアウルよ、このまま交渉を継続し、日本と国交を結ぶのだ。貴様は大使として日本へ赴き、何としても魔帝を退ける鍵を探し出して貰いたい。」
「承知致しました。必ずや、探し出して見せましょう。」
後日、エモール王国は日本との国交締結に至った。
とは言え、あくまでも魔帝対策としての国交であり、魔帝関連の情報交換は積極的に行いつつも、それ以外の交流はほぼ皆無であった。
その間、モーリアウルは日本各地を積極的に巡り歩いて鍵となる何かを探し続けたが、成果は上がらなかった。
彼の捜索は、魔導に関連があると思われる神社仏閣や聖地と言った歴史的な場が殆どであり、現代の発展した場所にはあまり興味を示さなかった。
その発展ぶりには感心しつつも、科学技術に対する偏見と無理解から、魔帝に対抗し得るとは考えられなかったのである。
時間は無為に過ぎ去り、徐々に焦りの色が濃くなっていく。
・・・ ・・・ ・・・
ムー オタハイト
「それは本当ですか!?」
日本大使館を訪問した技術士官 マイラス は、興奮した様子で大使である 御園 に迫る。
「本当です。日本政府は、グラ・バルカス帝国の動向を非常に憂慮しています。このままでは貴国は、確実に侵略を受けるでしょう。そして、申し上げにくいのですが・・・」
「大丈夫です。我が国が、グラ・バルカス帝国の軍事力に対抗し切れない事は理解しています。」
彼は、ムー軍随一の技術士官と呼ばれる程の俊英であり、不明瞭なグレードアトラスターの魔写を見ただけでグラ・バルカス帝国の技術水準をかなり正確に予想した程である。
また、日本との国交交渉の段階からその技術力について自国を上回ると分析し、日本の技術を取り入れるべきだと強く主張している。
その主張によって、フェン王国の戦いでは日本側への観戦武官の派遣が実現し、その隔絶した軍事力を直接目の当たりにする事となった。
そして、現在のムーは自国を上回る技術力と軍事力を有するグラ・バルカス帝国の脅威に晒されており、いつ侵略を受けるか判らない状況に陥っているのである。
国内では、世界第二位の列強国である自負から敗北は有り得ないとする論調が根強く、日本に関してもマイラスの報告を懐疑的に見る向きが強い。
その日本は、ムーが勝てない事を正確に予測しており、見捨てる訳には行かない相手である事から、技術流出防止法の一部緩和によって武器支援を決定したのである。
「まずは歩兵火器からになりますが、我が国の演習場にて訓練を受けて頂きたいので、人員の選定をお願いします。」
今回供与する装備は、八一式小銃とM2重機関銃である。
当初、ボルトアクション式ライフルが主力の国へアサルトライフルを供与するのはやり過ぎではとの意見が多数出たが、そもそも日本の方が一世紀近く前の水準の銃を生産する設備も人員も持っていない。
その上で、小口径弾を採用して以降の銃火器は新素材を多用している事から、構造は理解出来ても素材生産の時点で躓くのは目に見えており、問題は無いとされた。
その上、昨今では5.56㎜弾は致命的と言える程の威力不足となっており、万一日本相手に使用される事態となっても、大きな脅威にはならないと結論された。
しかし、流石にアサルトライフルだけでは火力不足と判断され、少数ながらM2の供与もされる事となった。
ムーは、機関銃が実用化されてから日が浅く、自前のガエタン18型は日本基準ではアサルトライフルと競合する程度の性能に収まってしまっており、問題だとされたのである。
一〇式小銃の配備に伴い余剰となった内、まずは1個師団分を引き渡す事となった。
その際、朝鮮戦争水準の戦術指南も行う事で、グラ・バルカス帝国へ十分に対抗出来る様にする。
万が一にもそうした情報の漏洩を防ぐ為、訓練場所は日本国内に定められた。
「解りました、すぐに選定を始めます。」
マイラスは勇んで大使館を出ると、すぐに各所の根回しを開始した。
しかし、日本の実力に疑問を持つ者は多く、激しい抵抗に遭った。
とは言え、グラ・バルカス帝国の脅威度は飛び抜けて高く、抜本的な対抗策が存在しない事を指摘すると、誰もが口を閉ざした。
勇ましい事を言う者もいたが、所詮は無根拠な精神論に過ぎず、最終的には大多数に消極的賛成を取り付けるに至った。
しかし、彼等からすれば精鋭に信用の置けない軍の指導を受けさせる気にはならず、実力は良くないが素行に問題の無い者が選出され、その顔触れは国防軍に可も無く不可も無くと評価された。
日本へ派遣された彼等は、矢臼別演習場にて10ヶ月間訓練を受け、帰国の途に就いた。
また、同時期にマイラスの計らいにより、軍部の中でも特に日本へ懐疑的な目を向けている一派を対象に、指南している戦術内容を公開した。
その内容には、日本へ厳しい視線を向けている彼等ですら目を見張り、日本とマイラスに対する態度が軟化する事となった。
それでも、見直したのは戦術面に関してのみであり、未だに自国の方が上とする認識は抜けていない。
ともあれ、こうして日ム間の積極的な軍事交流の道が開けたのである。
・・・ ・・・ ・・・
パーパルディア皇国
敗戦国となったこの国は現在、カイオスのクーデターによって滅亡こそ免れたものの、苦難の連続となっている。
存続の代償は大きく、ルディアスとレミールの処刑に始まり、日本への賠償として各地の資源地帯の譲渡、レリス連邦とゼジラーベ連邦の成立に合わせて元属領統治機構職員の両国への引き渡しと賠償支払い、日パ戦争を含む過去の侵略戦争の関係者(士官以上)の内、戦犯行為(地球基準)を行った者の処罰等々・・・
更に、元属領に滞在していたパーパルディア人も多くが蜂起の過程で殺害された。
こうして、賠償による経済的負担はもとより、多くの職員の引き渡しと犠牲による人材不足、皇族の処刑による権威失墜により、パーパルディア皇国の凋落は内外に広く認識される事となった。
過去の苛烈な行いもあり、末端では恨みの深さからあらゆる嫌がらせが行われているが、それに対しても何も言えずにいる。
いずれ爆発するのではと不安視する声もあるが、エストシラント郊外には日本が監督所を設置しており、皇国がおかしな真似をしていないか監視すると同時に、国が崩壊しかねない問題が周辺国との間で発生していないかも注視している。
その為、周辺国は不満を抱えつつも皇国と通商協定を結び、国の維持が可能な程度の交易は継続している。
しかし、それ以上となると第三文明圏では誰も相手にせず、それ以外では相手にされても露骨に扱いが悪くなっている。
そうして何とか運営を行っている中、第一から第三外務局を統合した新たな外務局の局長となったエルトは、監督所から呼び出しを受けていた。
「・・・では、特に根回しなどは無いのですね?」
「そうです。せいぜい日程調整程度なものでして、どの様な議題が上がるかは、その場でどの様な発言をするかによります。勿論、一部は事前協議を行って共同で発言を行うケースもありますが、あくまでも利害の一致による例外でしかありません。」
エルトが話している相手は、監督所の所長 佐藤 である。
神聖ミリシアル帝国から先進十一ヶ国会議への参加要請を受け、出席経験のあるエルトから話を聞いているのである。
「当たり前ですが、世界の主要国が集まる場ですので、決して舐められない様にしなければなりません。貴国の軍艦は極めて強力なので、心配は無いと思いますが。」
「何ですって?」
佐藤は、自分の耳がおかしくなったのではと思う。
「何かおかしな事を言いましたでしょうか?」
相手が相手である為、エルトは少し委縮する。
「どうして軍艦の話が出て来るのですか?まさか、砲艦外交でもやっているのですか?」
「そこまで物騒ではありませんが、自国の力を誇示する為に軍艦を派遣しているのです。何処も、毎回自慢の新鋭艦と精鋭を派遣しています。」
(国際会議の場でさえ軍事力の誇示か・・・いや、パ皇が列強扱いされてた時点でそれも当然か。)
佐藤は新世界の常識に戸惑うが、すぐに切り替えて更に問う。
「しかし、派遣した軍人同士で何らかのトラブルが起きたりはしないのですか?下手をすれば、その場で小競り合いが起こりかねないと思いますが。」
「そんな事をすれば、ミリシアルの面子を潰す事になってしまいます。あの国は、悔しいですが間違い無く世界一の力を持っています。もし、派遣された艦隊が一致団結して挑んだとしても、敗北は確実でしょう。」
呆れた様に言うエルト。
「どうしてその様な事を気にされるのですか?」
今度はエルトが問う。
「此方の常識からすれば、外交の場に軍艦を引き連れて軍事力を誇示するなど、有り得ない蛮行です。相手国に対しても失礼極まりない。」
「何と、その様な甘い考えで成り立っている世界があるとは・・・」
驚くと同時に、疑問も湧く。
「ですが、それでは良からぬ事を企む輩にいい様にされてしまうのでは?」
「力は、使うべき時には使います。外交の場は、使うべき時ではないと言う事です。むしろ、力を使わずに済む様に努力する場です。」
「解りませんね。貴国が力を振るえば、世界を手中に収める事も夢ではありません。その機会を捨ててまで、どうして力の行使を躊躇されるのですか?」
「力を存分に振るう事を是とし、支配領域を広げる事を誇っていたのは、此方の世界では過去の話です。その過程で、どれ程の破壊と悲劇があったと思いますか?それだけでなく、どれ程の恨みを買っていたと思いますか?」
破壊と搾取によって激しい恨みを買い、自らの首を絞めたパーパルディア皇国。
「実利的な面で見ても、支配領域が広がれば広がる程、その維持の為に莫大なコストが掛かります。広大な領土を持っているからと言って、それが良い事とは限りません。」
属領が増える毎に、資源不足に陥り火の車であったパーパルディア皇国。
「最も厄介なのは感情です。広大な領域を支配した結果、自身が極めて優れていると無根拠に信じ込んでしまい、何でも出来ると勘違いして致命的な間違いを犯しても気付けず、又は認められず、あっという間に落ちぶれてしまう事もあります。」
傲慢と偏見によって日本を見誤り、致命傷を負ってもカイオス以外は最後まで敗北を認められず、滅亡寸前にまで陥ってしまったパーパルディア皇国。
佐藤の指摘は、その全てがかつての皇国に当てはまっていた。
(何て事・・・技術力どころか、こんな事でも日本は遥か先を行っているなんて・・・)
エルトは、ぐうの音も出ない指摘に口を閉ざし、あらゆる面で日本には勝てなかったと改めて認識した。
その後も様々な事を聞き、それ等は日本政府へ報告された。
その結果、日本では先進十一ヶ国会議へ艦隊を派遣する方針で調整に入った。
しかし、かつての常識からすれば有り得ない方針であり、外務省を中心に悲喜交々な混乱模様が展開された。
文明レベルの問題から護衛は必要としつつも、技術格差から巡視船で十分であると強硬に主張する一派もおり、意見の集約は一筋縄では行かなかった。
しかし、内閣からフェン王国の事例から油断してはならないとの意見が出た事で、艦隊を出すべきとの主張が通る事となった。
それでも、前例の無い事態だけに最終決定までに丸1年を要した。
その様な日本の事情とは関係無く、その時は確実に近付いていた。
・・・ ・・・ ・・・
グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ
工場の煤煙が空を覆い、深刻な環境汚染に晒されているグラ・バルカス帝国の首都。
あまり美しいとは言えないが、市民はこれこそが世界で最も発展した証であり、豊かさの象徴であると考えている。
その中心には、この国の中枢である帝王府が存在する。
皇族の居城でもあり、今代の元首である帝王 グラ・ルークス は年が明けたこの日、翌年に向けて各方面からの報告を聞いていた。
「現在までに集まった情報によりますと、やはり神聖ミリシアル帝国が最も大きな脅威で御座います。」
軍本部長である サンド・パスタル が言う。
「彼の国は、魔法を基礎とする技術によって成立しており、正確な国力や戦力分析は困難ではありますが、我が国に近い力を有している事は間違い御座いません。」
「ほう、そこまで言うか。」
不満げな顔をする者が多い中、ルークスは感心した様に言う。
「陸上戦力は未だに多くが不明ながら、海上戦力は有力な戦艦を多数保有しており、速力も我が軍の戦艦と互角である事が判明しております。確認出来た限りでは、主砲の最大口径は38cmクラスであり、有効射程も30㎞程度と推定されております。」
「航空戦力はどうだ?」
「航空戦力に関しましては、大多数の蛮国が使用しているトカゲではなく、航空機を使用しております。レシプロエンジンと異なる原理不明なエンジンを使用している事が判明しており、その性能も推測が困難では御座いますが、単葉機である事から我が軍の航空機に近い、或いは超えた性能である可能性が御座います。」
「信じられんな・・・」
「魔法などが実在し、あまつさえそれで我が帝国に匹敵する技術を開発するとは、何とも出鱈目な世界だ。」
信じられない報告に、場がざわつく。
「しかしながら、ミリシアルはかつてこの世界に存在したと伝わっております、魔法帝国なる遺跡の解析によって成り上がったに過ぎず、技術の根幹を理解しているとは思えないとの報告が、複数の情報筋から上がっております。その為、独自の技術開発や戦術研究能力は、他国と比較しても極端に低いと思われます。」
(過去の技術に頼り切り、独自に発展する能力を失っておるのか。ともすれば、如何に我が国に近い戦力を持とうとも、見掛け倒しに過ぎんな。)
戦術、或いは技術の発展には、構成する人間の能力はもとより、根幹となる原理を理解していなければ何も出来ない。
その原理を解明し、最適解を導き出すのにも無数の試行錯誤を必要とする。
そうした過程を丸ごとすっ飛ばし、結果だけを得ているミリシアル帝国がどの様な実態であるのかを、ルークスは正確に予測した。
「原理の異なる相手を把握するのは幾多の苦労があっただろうが、此処までやってくれるとは大したものだ。だが、魔法だけでなく我等と同じ科学技術を用いている勢力もあるだろう。そちらはどうなのだ?」
ミリシアル帝国に対する興味を早々に失い、話題を移す。
「この世界に於いて科学技術を利用しているのは、ムーと日本国になります。」
この2ヶ国は、帝国上層部の中では有名となっている。
ムーは次の標的であり、嫌でもその名を頻繁に耳にする。
日本は、情報局から転移国家である可能性が取り沙汰され、遠方の国ながら大いに注目された。
「まずはムーから御説明致します。ムーは、この世界ではミリシアルに次ぐ第二位の実力を有しております。その技術力は周辺勢力を圧倒しておりますが、我が国と比較すると30~50年の開きがあり、特に脅威とはなり得ません。それでも、銃弾が当たれば戦死者は出てしまいますが。」
「ムーの技術も、過去の遺跡が元か?」
「いえ、全て独自に発展させているとの事で御座います。日本国が出現するまでは、この世界で唯一の科学文明国であったらしく、その事実を考慮しますに、単独で此処まで発展させて来たと思われます。」
(ただの一国でこれ程までに発展させたとは脅威的だな。ミリシアルと違い、極めて高い独自開発能力を有する証拠だ。切っ掛けを与えれば、我が方の技術を解析して短時間で我が物とするだろう。時間を与えてはならん相手だ。)
ルークスは、ムーの脅威度をミリシアル帝国よりも上位に置いた。
「そして日本国ですが、現在までに回転翼機を実用化しているとの情報が入っております。」
「回転翼機だと?」
複数の軍関係者が目を見開く。
「ムーと連携して技術を得ている可能性も考慮しましたが、回転翼機は我が軍でも未だに開発中であり、ムーの技術水準では試作すらも不可能で御座います。日本の技術力は、部分的に帝国を上回っている事は確実で御座います。」
「それは、いくら何でも楽観が過ぎるのではないか?何故、部分的などと言えるのだ?」
ルークスは、傲慢を根拠に相手を過小評価しているのではと思い、視線を鋭くする。
「それでは、此方を御覧下さい。」
情報局員が資料を配布する。
そこには、日本の軍艦の写真が印刷されていた。
「此方は、日本海軍に配備されている巡洋艦になります。」
誰もが目を疑った。
搭載している主砲は1門のみであり、他には機関砲と思しき装備が2基確認出来るだけである。
「何かの間違いではないのか?この様な軽装備の巡洋艦など・・・警備艇と間違えているのではないか?」
「何度も確認しましたが、間違い御座いません。その他の艦も、空母を除いてほぼ同様の装備となっております。」
「戦艦は?」
「戦艦は確認されておりません。現有艦の装備からも、大口径砲を製造する技術を持たない事は確実と推測されます。その為、日本の技術は部分的に帝国を上回りつつも、大半は劣るものと考えております。」
「ふむ・・・」
(だが、独自に帝国を上回る技術を開発出来るのだ、潜在的な能力は恐るべきものなのは間違い無い。だが、一部分野に特化している辺り、日本は国力が小さいのかも知れんな。とは言え、その気になれば一気に巻き返せるだけの力は持っていると見るべきだな。ムーを上回る独自開発力を持っている以上、この国も時間を与えてはならない。)
この会議を経て、軍部ではミリシアル帝国を最大の脅威とする認識が急速に浸透したが、グラ・ルークスは日本とムーを最大の脅威として認識する事となった。
時間は敵に回っていると考え、開戦後の速やかな世界の制圧を実現する為、先進十一ヶ国会議を利用した軍事行動を決断する事となる。
エモールは、事前の情報収集でかなり面倒臭い相手だと日本政府に認識され、自分から国交を結びに行きませんでした。