日本の宇宙開発体制ですが、種子島、沖縄本島、硫黄島に発射場を備えており、年間4000億円以上の予算が割り振られています。
中央暦1641年1月9日
グラ・バルカス帝国、イルネティア王国へ従属を要求。
翌日、エイテス第一王子、外交官ビーリーがムーへ向かう。
1月23日
エイテス王子、ルーンポリスに於いて日本と初接触。
3月14日
グラ・バルカス帝国、イルネティア王国へ侵攻。
5月8日
イルネティア王国陥落、グラ・バルカス帝国の植民地となる。
9月1日
ミリシアル帝国の魔導士キャンディー、初来日。
日本では名が知られておらず、取材が全く無い事に憤慨する。
10月1日
ムー、日本企業によって進められていたマイカル港の改修工事が完了。
10月25日
ムー陸軍特別師団、日本での訓練を終えて帰国。
後日、日本へ大量の武器弾薬の売却を要請。
・・・ ・・・ ・・・
中央暦1642年4月22日
この日、神聖ミリシアル帝国第二の都市であるカルトアルパスは、いつも以上の活気に満ちていた。
今日よりこの町で、先進十一ヶ国会議が執り行われるのである。
港湾関係者が各国の入港に備えて駆け回り、桟橋付近には各国が引き連れているであろう艦隊を一目見ようと人が詰めかけ、町中には集まっている人々を標的にした露店が建ち並んでいる。
『トルキア王国艦隊のフォーク海峡侵入を確認 魔導戦列艦7、使節船1、計8隻』
『了解、第一文明圏エリアへ誘導せよ』
『アガルタ法国船団のフォーク海峡侵入を確認 魔法船団6、民間船2、計8隻』
『了解、第一文明圏エリアへ誘導せよ』
「この辺りは変わり映えしないな・・・」
港湾管理責任者である ブロント は、港湾管理局の窓から港を眺めながら呟く。
軍艦が好きな彼にとって、各国の様々な軍艦が一堂に会するこの機会は、一種のイベントの様なものであった。
中でも、今回は特別な楽しみがある。
第二文明圏外に突如現れ、レイフォルをたった1隻の戦艦で滅ぼしたグラ・バルカス帝国。
第三文明圏外に位置し、パーパルディア皇国を完封して解体した日本国。
両国とも不確かな噂が飛び交っているが、下位とは言え列強を圧倒した強大な軍事力を有している。
ならば、どの様な軍艦を引き連れて来るのか、想像するだけで興奮を抑え切れずにいた。
『アレが?あの旗は・・・だが本当に?』
『見ろ、確認したが間違い無い』
通信機から要領を得ない会話が聞こえ、通信員へ詳細を問う様にジェスチャーする。
「此方、カルトアルパス港湾管理局。報告は正確に行え、何があった?」
『グラ・バルカス帝国所属と思しき艦の海峡侵入を確認 巨大戦艦1』
「1隻だけか?」
『1隻のみ グレードアトラスターと思われる』
それを聞くと、ブロントは勢い良く立ち上がり窓際へ寄る。
暫くすると、艦影が見えて来た。
「・・・おお・・・・・・おおおおおおおおおお!!」
力強さを感じさせる造形、9門の巨大砲、魔導戦艦に劣らない巨体
伝え聞いていた噂など比較にもならないその姿に、感嘆の声が漏れる。
桟橋付近にいる一般人も、驚きと興奮で大騒ぎであった。
「・・・長!ブロント局長!」
夢中になって眺めていると、傍らに控える部下が声を張り上げて現実へ引き戻した。
「あ、ああ、どうした?」
「日本が到着しました。空母1、巡洋艦11、補給艦2、民間船1」
ミリシアル海軍の分類には駆逐艦が存在せず、サイズ的にも日本の駆逐艦は巡洋艦と勘違いされていた。
「おお、凄いサイズの空母だな!先端がせり上がってるが、何の為だ?」
まず目に付いたのは、突出して巨大な空母であった。
「しかし、巡洋艦はサイズの割に武装が貧弱だな。随分と変わった形状、と言うよりウチの魔導艦に何処となく似てるな・・・」
首を傾げるが、グレードアトラスター程の衝撃は無く、間も無く興味を失った。
「艦隊を派遣して正解だったが、本当に砲艦外交紛いの事をしているとはな・・・」
港の景色を眺めながら、代表となった近藤が呟く。
エルトからの助言を受けた後、外務省は真っ二つに割れていた。
片や、エルトの助言通りに艦隊を随伴させるべきと主張した。
片や、軍艦の派遣は外交儀礼に反する上、各国を刺激してはならないと主張した。
内閣の鶴の一声により、半ば強引に艦隊派遣が決定したが、その後も大荒れであった。
近藤は前者であったが、反対派はせめて派遣規模を削ろうとあらゆる主張をするのみならず、置き手紙や勤務時間改竄などの小学生レベルの嫌がらせまで行っていた。
最早、相手にするのも馬鹿らしいと反対派の主張は軽く流されたが、前例の無い事態だけに侃々諤々の議論が続けられ、同時に嫌がらせも続いたせいでストレスが加速度的に溜まる一方であった。
最終的に第五艦隊の派遣が決定し、現在に至るのである。
尚、軍は戦場以外では逮捕権を持たない為、犯罪組織の類と遭遇した場合に備え、巡視船を1隻同行させている。
その巡視船も、ミリシアル側に巡洋艦と誤認されていた。
目の前の光景を見て、主力艦隊の選出は正解だったと思う近藤だが、外交官としては複雑な心境であった。
「本省に報告すれば、反対派の連中は窓際確定ですね。」
井上が話に参加する。
彼も嫌がらせを受けており、腹に据えかねていたのである。
「それはともかく、問題はアレだ。」
「本当に大和型にそっくりですね。」
国防省から送られた大和の写真とグレードアトラスターを見比べる。
「何事も無く終われば良いんだがな・・・」
帝国文化館
上陸した彼等は、先進十一ヶ国会議の会場であるカルトアルパス行政庁舎の帝国文化館へ集まった。
会議は複数日に渡って執り行われ、まずは実務者級の会議となる。
「さて、どうなる事やら・・・」
ロビーで茶を飲みつつ、近藤が呟く。
「事前の根回しも無く、これだけの規模の国際会議は初めてです。事前資料もまともに無い状況で上手く行くのでしょうか?」
「それだけ、此処に派遣された面々は大きな権限を持っているのかもな。」
不安は尽きないが、二人はこの世界で日本の地位を確立しなければならない。
暫く後、
待機中にアガルタ法国大使と話していると時間が迫り、国際会議場へ入って席に着いた。
会場は、議長席を中心に半円形に各国の席が設えられており、日本の席は議長席からやや遠い位置にある。
『これより、先進十一ヶ国会議を開催します』
議長である リアージュ の宣言により、会議が始まった。
(凄い光景だな・・・此処が異世界だと実感する。)
見渡すと、人間族以外にも様々な種族が代表を務めている。
議長席近くにいるモーリアウルが、誰よりも早く手を挙げる。
『エモール王国代表、発言を許可します』
リアージュが言うと、立ち上がる。
『エモール王国のモーリアウルである 此度は、何よりも先んじて伝えなければならない事がある 心して聞いて貰いたい』
竜人族らしからぬ殊勝な物言いに、意外に思いつつも真剣に耳を傾ける一同。
『先頃、我が国は空間の占いを実施した その結果、古の魔法帝国・・・忌まわしきラヴァーナル帝国が近々復活すると判明した』
モーリアウルの発言を理解するのに、全員が数秒の時間を要した。
脳内で反芻し、顔面蒼白となり、空気が急速に凍り付いて行く。
「ラヴァーナル帝国って確か・・・」
「ああ、カルミアークで発見された遺跡の国だ。」
近藤と井上が小声で話し合う。
日本から北東に存在するカルミアーク王国は、かつて一領主であったマウリ・ハンマンが謀反を起こして滅亡の危機に瀕した。
偶然にもそのタイミングで日本が使節団を派遣していた事もあり、国防軍の投入して事態は収束した。
しかし、マウリ軍の軍備は明らかに現地の技術レベルを大きく超えており、詳細な調査が行われた。
その結果、伯爵領内にラヴァーナル帝国の遺跡が確認されたのである。
この世界で広く知られている魔帝のおとぎ話は既に把握していたが、この遺跡の発見により、日本政府はラヴァーナル帝国を実在の国家として認知する事となった。
その上、発見した遺跡には核に関する記述も存在し、伝承と合わせて判断すると、核抑止を知らない極めて攻撃的な巨大勢力がいずれ出現する事となる。
この情報は、日本ではパニックを抑える為に機密性の高い情報として扱われ、政府内でも知らない者が多い。
近藤と井上は、世界を相手にする為にも把握すべきとの判断から知らされていた。
モーリアウルは構わず続ける。
『空間の位相に歪みが生じており、正確な出現時期や場所については判らなかった だが我等の計算では、今から4年ないし25年の間にこの世界の何処かに出現すると算出された』
この世界の住人は、魔帝の存在を信じつつも復活するのは遥か先であろうと誰もが他人事の様に考えていた。
それが、自分達が生きている間に復活する可能性を指摘されてしまった。
その事実に、蒼白だった顔色が更に悪くなる。
『神話や伝承が何処まで本当なのか不明だが、光翼人の文明が極めて高度である事は各地に残されている遺跡からも明らかである 今後、我等は不要な争いを避け、継続して軍備を強化し、世界で協力して彼の国の復活に備えるべきである』
暫く騒然とした会場だが、時間の経過によって落ち着きを取り戻し、互いに頷き合う。
「クッ・・・クックッ・・・・・・ハァーッハッハッハッハッ!」
突然笑い始めたのは、グラ・バルカス帝国の代表であった。
周囲から向けられる非難の視線にも物怖じせず、ゆっくりと立ち上がる。
『ああ、いやいや失礼 私はグラ・バルカス帝国外務省東部方面異界担当課長の シエリア だ ラヴァーナルだか何だか知らないが、過去の遺物如きに恐れおののいている諸君ら現地人の程度の低さが滑稽でならなくてな・・・堪え切れずに大笑いしてしまったよ』
この上ない侮辱発言に次々と怒りの声が上がるが、シエリアは見下し切った表情を隠そうともせず更に侮辱を重ね、会場はヒートアップする。
「何と言うか、凄い会議だな・・・」
「本当ですね。旧世界ならこんな事は絶対に有り得ないですよ。」
近藤と井上は完全に蚊帳の外となっており、他人事の様にこの騒ぎを眺めながら呆れていた。
リアージュや進行役が乱闘だけは止めようと奮戦したお陰で収拾を付けると、今度はムー代表が手を挙げた。
『ムー代表、発言を許可します』
許可を得て、ムー代表が立ち上がる。
『我が国はこの場に於いて、グラ・バルカス帝国に対する非難決議を提案します』
喧騒が残っていた議場は、一気に静まり返る。
『近年、グラ・バルカス帝国は第二文明圏に対する侵攻を繰り返しております 国家間の戦争とは言え、同国はやり過ぎている このままでは、世界秩序を破壊する危険があります 従いまして、懲罰動議として2年以上の貿易制限を発議します』
「良い流れだな」
日本としては、ムーが安泰な状態での第二文明圏の安定化を望んでおり、その状態を脅かしているグラ・バルカス帝国へムーが非難の声を上げたのは願ったり叶ったりであった。
続いて、ミリシアル帝国代表が手を挙げる。
『我が国も、ムーと同様の懸念を抱いております このまま、グラ・バルカス帝国が第二文明圏への侵攻を続けるなら、我がミリシアルも介入せざるを得なくなる よって、ムーの提案に賛同すると同時に、グラ・バルカス帝国に対してムー大陸からの即時全面撤退を要求します』
世界最強国が介入を匂わせた。
全世界が震え上がるその発言に、議場はグラ・バルカス帝国非難で固まろうとしていた。
その様な空気をものともせず、シエリアが再び口を開く。
『一つ、勘違いしている様だから伝えておこう 我等がこの会議に参加したのは、国際協調などと言う温い馴れ合いをする為ではない 現地の代表者が一堂に会するこの機会に、通告しに来たのだ』
彼女は机に拳を叩き付ける。
それに合わせ、随行員も立ち上がる。
『グラ・バルカス帝国帝王、グラ・ルークスの名に於いて此処に宣言する!我が帝国の軍門に降れ!我が国に降り、忠誠を誓う国には永遠の繁栄を約束しよう!逆らう国は容赦無く滅ぼす!まずは問おう、今この場で我が国に忠誠を誓う国はあるか!?沈黙は反抗と見做す!』
「オイオイ、正気か?」
「これって事実上の宣戦布告ですよ。米露でさえやりませんよ、こんな事・・・」
誰もが呆れと困惑で騒然とする中、近藤と井上も呆れの言葉を吐き出す。
『やはり今すぐに従う国は無いか・・・だが、帝国は寛大だ 我が国の力を知った後でも構わん その時は、レイフォリアに設置しているレイフォル行政府で申し出るが良い では現地人共、確かに伝えたぞ』
それだけ言うと、グラ・バルカス帝国代表団は退室した。
この日の会議は、シエリアの発言によって混乱状態となり、すぐに切り上げられた。
その後、近藤はすぐに船に戻り、グラ・バルカス帝国の発言を本国へ上げた。
・・・ ・・・ ・・・
4月23日
近藤からの報告を受け、首相官邸では臨時に閣僚を集めて会議を始めた。
「まず心配なのは、カルトアルパスにいる者達の安否だ。グ帝の技術レベルは二次大戦レベルとの事だから、その場で暴れ出せば犠牲者が出る。」
首相が言う。
「総理、現地からの報告では、グ帝は港へ戦艦を1隻だけ入港させ、代表団が退去して乗り込むとすぐに立ち去ったそうです。」
国防大臣が答える。
「その戦艦とは?」
「グレードアトラスター・・・例の大和擬きです。」
「取り敢えず、彼等が無事で良かった。」
「ですが総理、それも時間の問題でしょう。」
外務副大臣が口を挟む。
外務大臣は、先進十一ヶ国会議の終盤の意思決定に関与する必要があり、カルトアルパスへ同行している。
「グ帝の宣言は、全世界に向けての宣戦布告です。すぐにでも何らかの武力行使を始めると思われます。それに派遣した彼等が巻き込まれない保証はありません。」
外務副大臣は、派遣した外交官が戦闘に巻き込まれる事態を非常に懸念しており、すぐにでも対抗可能な態勢を整える為の意思統一をしようと必死であった。
「それは早計ではないか?確かに、全世界を支配下に置こうとする意思があるのは間違い無いが、それでもそこまで早急な武力行使などナンセンスだ。それに、あの発言を正式な宣戦布告と見做すのは無理があると思うがな。」
法務大臣が反論する。
彼が懸念しているのは、国内向けの武力行使に関する正当性である。
旧世界と比較すると、パーパルディア皇国の事例から武力行使のハードルはかなり下がっているが、基本的に自分から戦いを仕掛ける行為は好まれない。
正式な宣戦布告文書や、「侵攻してやる」と言った明確な宣言があるならまだしも、今回の発言を国内世論が宣戦布告に類すると納得してくれるかにかなりの不安があるのである。
「何を仰っているんですか!?グ帝の発言をよく確認して下さい!力を知った後でもと発言しています。つまり、軍事力を知った後でもと言う事ですよ!?これこそ、明確な武力行使の宣言でしょう!」
「単なる軍事パレードや演習を公開するだけとも考えられるぞ?力の見せ方は、何も実戦だけではないのだからな。」
「それは旧世界の常識です!パ皇に何をされたのか、もうお忘れですか!?」
この指摘には、法務大臣も勢いが弱まる。
「副大臣、あまり興奮するな。派遣した彼等が心配なのは我々も同じだ。」
「・・・失礼しました」
総理に諫められ、外務副大臣は落ち着きを取り戻す。
「とは言うものの、法務大臣の懸念も解る。我が国は法治国家だからな。だがまずは、グ帝の具体的な戦力について情報を共有する必要がある。」
それを聞き、情報大臣が口を開く。
「グ帝が第二次世界大戦レベルである事は、既に皆さんも御存知と思われますが、その技術体系につきましてもかなり判明しています。」
陸海空共に、グラ・バルカス帝国の兵器体系は旧日本陸海軍と酷似している。
ただし、旧軍と異なり電子兵装もかなり発達しており、そちらは米国の技術体系に酷似している事が判明している。
つまり、当時の日本の装備を、米国の電子技術によって強化しているのである。
単純な兵器性能で見れば開戦直後辺りの水準であるが、この特徴により索敵や通信、攻撃精度の類は大戦後期の水準となっている。
また、戦術についても戦車や航空機の集中運用を行っている事が確認されている。
そして、物量についても当時の米国に匹敵する規模となっている。
「同時代の旧世界と比較しても、恐るべき強大さを誇っています。兵器運用の先進性を含めますと、更に差が開きます。兵員の実力につきましても、トップクラスに精強だとの結論が出ています。また、グラ・バルカス本国では補助艦を中心に大増産が継続されており、物量で対抗可能な国は我が国を含めて存在しません。」
日本は、既に15基の監視衛星を打ち上げており、惑星の全体像を把握している。
その上で、各国の戦力や軍事行動、大まかな国力も把握済みである。
「なら、この先グ帝と直接ぶつかった場合はどうなる?」
今度は、国防大臣が口を開く。
「確実に此方が勝ちます。グ帝の戦力水準では、我が国の兵器を撃破出来ません。ただし問題もあります。まず、グ帝軍は物量があまりにも大きい為、迎撃し切る前に弾薬切れに陥る可能性があります。一度に持てる弾薬にはどうしても限りがありますので、その弾薬以上の数を投入されれば撤退するしかありません。次に、歩兵同士の戦闘にもつれ込んだ場合です。いくら技術が向上しても、撃たれれば人は死にます。昨今は防弾チョッキの性能も向上していますが、当時の銃弾は現代の物よりも高威力ですので、防ぎ切れません。」
敗北は有り得ないが、これまでと異なり被害が出る可能性がある。
それだけでも不安を掻き立てられた。
「よく解った。いつになるか判らんが、グ帝とぶつかるのは確実だろう。なら、我が国はどう対応するべきか?」
「まずは、弾薬の増産を進めるべきです。全面衝突に至った場合、確実に備蓄が危険水準に達します。」
国防軍の弾薬備蓄量は、全力出撃6.5回分を最低とし、全面戦争状態で10ヶ月分を目標としている。
現在は、転移の影響による生産の一時中断と、度重なる実戦によって大幅に減少しており、3ヶ月分弱となっている。
この状態でグラ・バルカス帝国と開戦した場合、確実に最低備蓄量を下回ると試算されている。
バタンッ
更に話を進めようとした所へ、国防省の官僚が飛び込んで来た。
「会議中に申し訳ありません!緊急に御報告すべき案件があります!」
そう言うや否や、資料を広げる。
「カルトアルパス南方、マグドラ群島に於いてミリシアル艦隊とグラ・バルカス艦隊の戦闘が発生しました!」
「何だと?」
資料には、砲撃戦を繰り広げている様子を撮影した衛星写真がいくつもある。
「ミリシアル艦隊は、恐らく第零式魔導艦隊と思われますが、全滅しました。グラ・バルカス艦隊も無傷ではありませんが、残存艦はそのまま東進。更に、大規模な空母機動部隊が後方におり、此方も東進中です!」
「東進と言う事は、まさか・・・」
「はい、カルトアルパスへ襲撃するものと思われます!」
総理は、思わず天を仰ぐ。
「新鋭艦揃いの最強艦隊が聞いて呆れる。」
国防大臣が呟く。
世界的にも広く知られ、最強と名高い第零式魔導艦隊は、国交締結後に日本でも知られる様になっていた。
魔導技術を利用して建造されている事もあり、国防軍ではどの様な超常的な攻撃手段を有しているのかと様々な想定がされていたが、実態を知って失望していた。
「総理、カルトアルパスはフォーク海峡の奥にあります。このままでは、海峡内に封鎖されてしまいます。」
情報大臣が言う。
「総理、これは明確な侵略行為です。すぐに詳細とグ帝兵器のスペックを現地へ伝えて対応させるべきです。」
外務副大臣が続く。
「この様な動きが確認された以上、グ帝の宣言は十分に宣戦布告と解釈可能です。むしろ、そうしなければ後手に回って犠牲を出す危険があります。」
法務大臣も賛成に回る。
「・・・解った。まずは、内閣として意思統一を行う。先進十一ヶ国会議に於けるグラ・バルカス帝国の宣言を宣戦布告と見做し、我が国はグラ・バルカス帝国との交戦状態に突入したと解釈する。異存は無いな?」
反論は出ず、内閣の意思統一が成った。
その後、現地で発生し得る事態を想定した国家としての方針を話し合い、翌日に通達された。
・・・ ・・・ ・・・
4月24日
場所は戻り、カルトアルパス帝国文化館。
グラ・バルカス帝国の突然の宣言に一時混乱が生じたものの、23日の会議は比較的穏やかに進み、日本の列強入り、及び日本の提示した第三文明圏の領域の再定義が可決された。
尚、グラ・バルカス帝国の列強入りは見送られた。
そしてこの日は、朝からリアージュが突然席を外すアクシデントはあったものの、特に問題無く会議が進んでいた。
昼の休憩時間に入り、全員が思い思いの行動を取っている中、近藤と井上は艦隊からやって来た連絡員から知らされた凶報に顔色を悪くしていた。
「此方が詳細の資料になります。政府は、一昨日の宣言からグラ・バルカス帝国との交戦状態に入ったと認識しています。」
「思ったより早い決断だな。」
「パ皇の件が相当効いたんでしょうね。」
渡された資料には、マグドラ群島での戦闘の詳細、グ帝製兵器の推定性能、接近中の艦隊の詳細が記載されていた。
更に、本件に関する政府の方針も同梱していた。
要約すると「接近中の敵艦隊の目標がカルトアルパスへの攻撃である事が明らかとなった場合、実力を以ってこれに当たり、可能な限りの打撃を与えよ。グ帝以外に対する意図的な敵対行為を除き、全ての結果責任は内閣が取るものとする。尚、現地滞在の日本人だけは確実に守り抜け。」である。
「随分と思い切りましたね。」
「そうだな、これでかなり動きやすくなるぞ。だがまずは、各国にこの事を通達しなければだ。」
暫く後、
休憩時間が終わり、会議が再開されるかと思われたが、まずは戻ったリアージュからの通達があった。
『本日は朝から突然欠席し、大変失礼致しました 我が国から皆様へ、緊急の連絡事項が御座います』
落ち着いた声で語る彼の顔色は悪く、かなり憔悴している。
「どうやら、連絡があったみたいですね。」
「ああ、そうだな。」
近藤と井上は、話の内容を察した。
『昨日、グラ・バルカス帝国の艦隊が此処より西方にあるマグドラ群島へ奇襲を仕掛け、我が軍の地方隊が被害を受けました』
「地方隊ね・・・」
「余程、都合が悪いみたいですね。」
予想外の話に場が騒然とする中、真相を知る二人は平然としている。
『カルトアルパスは、万が一に備えて十分な戦力を配備しておりますが、彼等が我が国本土へ攻撃を仕掛けて来る可能性が御座います 万全を期す為、これより全艦隊をこの場から引き揚げて頂き、此処より東のカン・ブリッドへ移動を願います 事前通達と異なりますが、そこを次の会議の会場とします どうか、御理解下さい』
一瞬の沈黙の後、モーリアウルが手を挙げる。
『エモール王国代表、発言を許可します』
進行役が言うと、勢い良く立ち上がる。
『あの無礼な新参者が攻撃を仕掛けて来たからと言って、世界を主導する我等が尻尾を巻いて逃げろと申すのか?来るのならば迎撃すれば良いではないか!我が国は陸路だが、皆は護衛として精鋭を連れておるであろう?何の為の艦隊か!?魔術的素養の低い、しかも文明圏に属してすらいない人間族のみで構成された蛮国を相手に、戦わずして逃げるなど他の圏外国からも軽んじられてしまうであろう!我々は、控えの風竜22騎を投入しよう!』
モーリアウルの宣言に場がどよめく。
その流れに押される様に、各国も次々と参戦を表明する。
(冗談じゃないぞ!たかが帆船が何百隻揃った所で、的にされるのがオチだ!それどころか、狭い海峡で足の遅い船が入り乱れたりすれば、邪魔になるだけだ。ウチの艦隊でも、航行を邪魔された上で子守までさせられたらどうなるか・・・)
そう考える近藤は、リアージュへ目を向ける。
彼も、次々と参戦を表明する流れに焦りの色を濃くしていた。
「パーパルディア皇国との戦いでの貴国の数々の伝説は、かねがね伺っております。貴国はどうなさるのでしょうか?」
パンドーラ大魔法公国の代表が、期待で目を輝かせながら問う。
一瞬、井上と目を合わせると、立ち上がって答える。
『先程、グラ・バルカス帝国の動向について政府より通達がありました まずは、その件について皆様へお伝えしたいと思います』
「「「なっ・・・!」」」
その場の全員が、日本の情報の速さに驚愕する。
『まず、先程議長が仰っておりましたマグドラ群島での戦闘を、我が国も確認しております。』
「そんな馬鹿な・・・そんな事などある筈が・・・」
予想外過ぎる指摘に、リアージュは自分が声に出している事にも気付かない。
『ミリシアル地方隊は、戦艦3隻、巡洋艦5隻、小型艦8隻を撃沈され、付近の基地にも被害が出ています』
場が騒然となる。
戦艦を3隻も擁する地方隊などある筈が無い。
その場の全員が真相を察した。
『また、グラ・バルカス帝国軍の保有する兵器につきましても、我が国は既に大半を把握しております その推定性能をこの場でお伝えします』
(クソ、余計な事を・・・日本め、奴等は一体何者なのだ!?)
近藤が情報を公開する中、マグドラ群島の真実を暴露され、ミリシアルの面々は内心荒れ狂っていた。
『・・・以上になります そして、我が国は一昨日のグラ・バルカス帝国の宣言を宣戦布告と見做し、交戦状態に入ったと解釈しました つきましては、東進中の艦隊に対抗する為、随伴の艦隊を迎撃に投入します』
近藤の宣言に、歓声が上がる。
『よくぞ決心して下さった 我がトルキア王国戦列艦隊は、貴艦隊への協力を惜しみませんぞ!』
『我が国も同様です 微力ながら、貴国へお力添えしましょう』
『マギカライヒ共同体は、日本艦隊と運命を共にする事を宣言します!』
(おいおいおいおい、何の為に推定性能を伝えたと思ってるんだ!?頼むから自重してくれ!)
各国の強気な発言に、近藤は返答に窮する。
自国の戦力を見せびらかしてアピールしようとしているのは明らかであり、本当に付いて来れば大量の足手まといを抱え込む事となる。
このタイミングを見計らったかの様に、リアージュが声を上げる。
『開催国としましては避難して頂きたいとは思いますが、既に見解の一致が見られます故、勝手ではありますが臨時連合軍を組織してグラ・バルカス艦隊への対抗を提案したいと思います 賛否をお聞かせ願いたい』
一斉に賛意が示される中、近藤は反論する。
『先程もお知らせしました通り、グラ・バルカス艦隊の戦闘力は極めて高い水準にあります 失礼を承知で申し上げるなら、皆様が派遣された艦隊の大半はまともな抵抗も出来ずに撃沈されるでしょう』
「いくら貴国と言えども聞き捨てなりませんぞ!」
「無礼な、直ちに撤回せよ!」
『国家の代表として人の上に立つ以上、敵と味方の力の差をよく理解し、不要な犠牲を抑える為に耐え難きを耐えなければならない時もあります』
「知った風な口を利くでない!」
「恥辱に塗れながら何もしないなど、それこそ国家の代表にあるまじき態度だ!」
どう説得しようとも火に油を注ぐだけであり、収拾が付かなくなりつつあった。
『静粛に!静粛に!』
リアージュが声を張り上げ、場を静める。
『異論はありますが、既に大多数が賛意を示しておりますので、議長国権限によって臨時連合軍を組織してグラ・バルカス艦隊を迎撃する案を採択します』
その意見に、各国は称賛の声で応えた。
(よし、これで先程の失態は帳消しになったな。)
リアージュが採択を強行した狙いは、マグドラ群島に関する話で日本の方を向き始めていた各国を再び振り向かせる事にある。
(それにしても、皆の戦意に水を差す発言をこうも安易にするとは・・・日本も大概だな。)
日本側の失言により、その逆張りをするだけで簡単に遅れを取り戻せた事に、リアージュは日本の外交力の評価を下方修正した。
『我が国は文明圏外国家です 参戦しても皆様の足手まといになりますし、突然の事態に対応も出来ませんので、本年はこれで失礼させて頂きます』
アニュンリール皇国代表がそう発言すると、あっさりと認められた。
こうして、計9ヶ国にもなる臨時連合軍が結成され、艦隊は出撃準備を始めるのであった。
見栄とか面子って本当に厄介ですな。