妄想日本国召喚   作:石原

16 / 28
 戦闘描写は苦手です。


第十一話  フォーク海峡海戦

 中央暦1642年4月23日

 グラ・バルカス帝国東部方面艦隊の侵攻により、マグドラ群島沖海戦が勃発。

 神聖ミリシアル帝国第零式魔導艦隊は全滅し、周辺の軍事施設にも被害が出る。

 海戦後、東部方面艦隊はカルトアルパスへ向かう。

 

 

 

 ・・・ ・・・ ・・・

 

 

 

 4月25日

 ブロントは、部下と共に忙しく動き回っていた。

『マギカライヒ共同体機甲戦列艦隊、出航!』

『アガルタ法国魔法船団、出航!』

『ニグラート連合竜母艦隊、出航!』

 カルトアルパス港から、次々と各国の艦隊がグラ・バルカス艦隊迎撃の為に出航する。

「次だ、急げ!」

『ムー機動部隊、出航』

(何て事だ!魔帝以外に此処までするとは・・・)

 海軍関係者から事態を聞いた彼は、最初は何の冗談かと勘繰った。

 確かに、グレードアトラスターは噂を超える驚異的な艦だったが、レイフォルの様にたった1隻で滅ぼせる程、この神聖ミリシアル帝国はヤワではない。

 それどころか、大艦隊を引き連れて来たとしても、マグドラ群島に控えている第零式魔導艦隊が返り討ちにしてしまうだろう。

 これは何かのデモンストレーションか、対グ帝での連携をアピールする儀式の様なものだろうと考えた。

 しかし、空を見上げれば戦闘型天の浮舟が編隊を組んで艦隊上空に張り付き始めている。

 どう考えてもデモンストレーションの域を超えた物々しい雰囲気に、事態は思った以上に深刻だと認めざるを得なかった。

『日本国第五艦隊、出航!』

 最後発となった日本艦隊の出撃が始まり、てんてこ舞いとなっていた港湾管理局は一息ついた。

「局長、一体何が起こったのでしょうか?」

 室内に戻って来た部下が、紅茶を手渡しながら尋ねる。

「さてな・・・こんな事は前代未聞だが、我が国の力は紛れも無く世界最強だ。何が起ころうとも、心配する必要は無いさ。」

 渡された紅茶を優雅に飲み、余裕がある様に見せ掛けているその内心には、一抹の不安が横たわっていた。

 

 日本第五艦隊

 

「初っ端からこれか・・・」

 巡洋艦青葉の艦橋で、第五艦隊司令長官 藤本 少将 は不満を漏らしていた。

「この世界では、我が国は新参者ですからね。仕方ありません。」

 参謀が言う。

 同じ頃、ルーンポリスでは臨時に帝前会議が開かれ、グラ・バルカス軍の戦力評価を行っていた。

 その結果、臨時連合軍は日本艦隊とムー艦隊以外は戦力にすらならないと評されていたが、第五艦隊もほぼ同様の認識であった。

 その為、足手まといとなるその他大勢とは最初から歩調を合わせず、他艦隊が追い付けない速度で突出して独自に展開するつもりでいた。

 しかし、蓋を開けてみれば第五艦隊の出航の順番は一番最後に回されてしまい、まずは狭い海峡の中で各艦隊を追い越さなければならなくなってしまったのである。

「大鳳より、早期警戒機の発艦準備が完了したとの事。」

 それを聞くと、ミリシアル軍から連絡用に渡された魔信のスイッチを入れる。

「日本艦隊より警告。これより、空母から早期警戒機を発艦させる。誤認や衝突に注意されたし。」

 

 ムー機動部隊

 

「早期警戒機って何だ?」

 ムー艦隊司令長官である ブレンダス は、魔信を通して入って来た警告に首を傾げる。

「えー、確か・・・ありました、これです。」

 傍らに控える副官が、本国で渡されていた資料を広げて見せる。

「日本は、双発機を空母で運用しているのか。我が国も同じ事が出来れば、爆撃機も搭載出来るかも知れんな。」

 戦艦こそが最強とする認識は彼等も同様だが、様々な攻撃手段の模索に余念が無い。

「それは面白そうですな。しかし、爆撃機を投入するには制空権の確保が必須です。相手がワイバーンであっても、鈍重な爆撃機にとっては脅威です。」

 ムーの航空戦力は、戦闘機こそワイバーンを圧倒する性能を誇ってはいるが、それを実現出来たのは此処最近の事である。

 全体として見れば、未だにワイバーンを敵足りえずとは言い切れない水準に留まっているのである

「確かにな・・・そう簡単には行かんが、今回はミリシアルのエアカバーがある。だからこそ、日本も安心して戦闘機以外を出せるんだろうな。話を戻すが、早期警戒機は何に使う機体なんだ?」

「資料によりますと、機体上部に巨大なレーダーを取り付け、周囲数百キロを警戒する目的で配備されているとの事です。」

「・・・は?」

 信じ難い情報に頭が追い付かず、間抜けな声が出る。

「・・・・・・そんな馬鹿げた話があるものか。」

 丸々10秒掛けて理解すると、それだけ言う。

 ブレンダスは、日本へ懐疑的な目を向けているだけでなく、第二位の列強国の軍人として、文明圏外国へ協力を求める事実そのものが気に入らなかった。

 あまりにも荒唐無稽な話を聞かされ、懐疑の視線は更に厳しくなった。

 

 神聖ミリシアル帝国地方隊

 

「アレか・・・」

 ミリシアル海軍南方地方隊旗艦ゲイジャルグの艦橋にて、司令長官である パテス は上空を見上げながら呟く。

「驚きましたな、あれ程の大型機を洋上で運用出来るとは。」

 同じく空を見上げながら、ゲイジャルグ艦長 ニウム が言う。

 彼等は国防省で、外務省が日本をムーに相当する国として扱う旨を聞いていた。

 詳しく聞くと、機械動力船を自力建造しているばかりか、部分的にはムーを上回る技術を持っているとの分析さえされているとの事であった。

 たかが文明圏外国が、その様な事を出来る筈が無いと一笑に付していたが、実物を見て事実だと理解し、冷や汗を垂らした。

「用途がイマイチ分からんが、防空目的でないのは明らかだろうな。」

「警戒と名が付いておりますから、艦隊上空から敵の接近を見張る用途かと思われます。機体上部の構造物は、恐らく監視塔の様なものでしょう。」

「そんな物を造る暇があるなら、魔力探知レーダーでも・・・いや、日本人は魔力を持たないのだったな?」

「はい。恐らくですが、そのせいで魔力探知技術が発達しなかったのでしょう。日本が世界と関わりを持つ様になったのは此処数年の事だと言いますから、それまでは魔力の存在そのものを知らなかった可能性すらあります。」

 ニウムの信じ難い考察に一瞬顔を顰めるも、すぐに表情を正すと指示を出す。

「上空待機中のエルぺシオ3に命令を出せ。1個小隊を日本機の護衛に付けろ。」

「しかしそれでは、戦力ダウンになってしまいます。」

「勿論、敵機が接近したらすぐに迎撃に出す。あくまでも、味方を守るポーズをするだけだ。」

 パテスの説明に納得し、上空に命令が出された。

 

 神聖ミリシアル帝国航空隊

 

『了解・・・第四小隊へ、日本機の護衛に付け 日本機は魔信を装備していない 十分に注意せよ』

『了解』

(下らん思い付きで引っ搔き回しやがって・・・!)

 隊長の シルベスタ は、突然下された命令に怒り心頭であった。

 自分達が負けるとは微塵も考えていないが、これから命懸けの場に身を投じようとしているにも関わらず、政治パフォーマンスなどをやらされたら堪ったものではない。

(それにしても、本当に邪魔だな)

 上昇を続ける日本機は非常に大きく、どう見ても戦闘目的ではない。

 その上、最も目を引く円形の構造物は明らかに目立つ。

 それは、索敵に於いて不利となり、敵の先制攻撃を許すリスクが高まる事を意味する。

『・・・ん?』

 そんな事を考えながら日本機を眺めていると、おかしな事に気付く。

『ちょっと待て、追い付けないぞ!』

『そんな馬鹿な、エルぺシオの最高速度を上回っているだと!?』

『第四小隊より隊長機へ 我、追跡不能!我、追跡不能!』

(馬鹿な・・・そんな馬鹿な!最新のエルぺシオ3だぞ!文明圏外の飛行機械如きに、戦闘機ですらない大型機に追い付けないなど・・・そんな事があって堪るか!)

 信じられない現実を前に、航空隊は魔信越しに取り乱し続けた。

 

 マギカライヒ共同体機甲戦列艦隊

 

「日本艦隊及びムー艦隊、本艦隊を追い抜きます!」

 旗艦マギの見張りが声を張り上げる。

「あれ程の巨大艦が、あれ程の速度を出せるとは・・・あれが、機械文明を極めた列強の力か。」

 艦橋で、司令長官 ギライズ が悔しげに呻く。

 マギカライヒ共同体は、魔導機械工学と呼ばれる化学と魔導の複合技術を開発しており、国力はレイフォルに劣りつつも、個々の質はレイフォルを上回る程となっている。

 その技術の結晶である機甲戦列艦は、蒸気機関を利用した外輪船であり、その速度は風神の涙に依存した他の文明国より優れている。

 その為、出航直後はミリシアル艦隊に次ぐ二番目に位置していたのだが、後発の日本とムーにたった今追い抜かれてしまったのである。

 無力感に苛まれる中、日本からの魔信が届いた。

 

 日本第五艦隊

 

『フォーク海峡より南西、およそ250㎞地点に不明編隊を探知 数、200 現在、艦隊へ向けて進行中 グラ・バルカス帝国軍と思われる』

 データリンクにより、CICの画面上に航空隊のシンボルが表示される。

 藤本は、魔信のスイッチを押す。

「日本艦隊より全艦隊へ、グラ・バルカス帝国の航空隊と思われる編隊を探知。南西約250㎞地点。機数、200。これより、迎撃を開始する。誤射を避ける為、本艦隊直上への侵入、及び敵編隊への接近は遠慮願う。」

 スイッチから手を離すと、すぐに命令を下す。

「対空戦闘用意!」

 その命令に、艦隊が慌ただしくなる。

『ミリシアル地方隊より日本艦隊へ 確認だが、敵航空隊を迎撃すると言われたか?』

 少し面倒臭そうにしながらも、藤本はスイッチを押す。

「日本艦隊よりミリシアル地方隊へ。繰り返す、これより艦隊による迎撃を実施する。誤射を避ける為、本艦隊直上への侵入、及び敵編隊への接近をしない様に願う。」

『250㎞先への迎撃手段はこの世に存在しない これより、航空隊による迎撃を実施する』

 通信は切れた。

 少しすると、上空に張り付いていたエルぺシオ3が南下を始めた。

「フゥ・・・艦隊は対空戦闘態勢のまま待機。」

「了解」

 予想通りの展開に、思わずため息が零れる。

「まぁ、彼等が頑張ってくれれば、ミサイルの節約が出来るな。」

 そう言い、椅子に深く腰掛ける。

『グラ・バルカス艦隊を探知 フォーク海峡より南西400㎞地点 及び、フォーク海峡に接近中の艦を1隻探知』

 画面に新たに表示されたシンボルの内、確かに一つだけ突出している物がある。

「1隻のみか?」

『反応の大きさから、戦艦クラスと思われる 尚も北上中」

「十中八九、グレードアトラスターだな。我々を海峡に閉じ込めるつもりか?」

 魔信のスイッチを入れる。

「日本艦隊より全艦隊へ、現在地より南西400㎞地点に敵艦隊を補足。また、海峡へ接近中の戦艦を1隻補足。グレードアトラスターと思われる。」

『トルキア王国艦隊より日本艦隊へ 失礼だが、貴艦隊の情報に間違いは無いか?』

 矢継ぎ早に出される遥か彼方の情報に、次々と情報の確度を疑う問い合わせが入った。

「大鳳へ、攻撃隊準備を下令。目標、敵艦隊。海峡脱出後、直ちに発艦せよ。」

 問い合わせへの返答は部下に任せ、命令を発した。

 

 神聖ミリシアル帝国地方隊

 

「辺境の田舎者が、近代戦の何を知っていると言うのだ?妄想と現実の区別もつかん蛮族風情が、列強とは笑わせる!」

 パテスは、日本艦隊とのやり取りの後、非常に不機嫌であった。

 世界で最も進んだ技術を持ち、世界最強の軍事力を有する神聖ミリシアル帝国。

 そのミリシアル帝国ですら、軍艦の射程は30㎞を超える程度である。

 それも、対空用途には使えない主砲の話であり、対空砲ともなれば10㎞も無い。

 対する日本は、帆船ばかりの並みの文明国と異なり、多数の機械動力船を保有してはいるものの、小口径砲を一門しか搭載していない、ムーにも劣る貧弱な艦ばかりである。

 その程度で迎撃出来るなど、どの口が言うのか?

「報告!」

 通信員の絶叫が、思考を中断した。

「航空隊との通信途絶!海軍飛行隊対空監視所より、魔力探知レーダーからも反応喪失との事!」

「な、何だと!?」

「馬鹿な・・・いくら数で劣るとは言え、文明圏外国の飛行機械如きに、こうもあっさりと殲滅されるなどある筈が・・・」

 取り乱していると、再び通信が入る。

『日本艦隊よりミリシアル地方隊へ、此方で航空隊の全滅を確認した これより、迎撃を開始する』

「どう言う事だ・・・どうやってこうも早く状況を把握しているのだ!?」

 不可解な情報の早さに、日本艦隊に対して抱いていた憤りは、不気味さに変わり始めた。

 

 エモール王国風竜騎士団

 

「ムッ!?」

「どうしたのだ?」

 騎士団長 ウージ は、愛騎の風竜が突然進路を変えた事に驚く。

 他の風竜も、同じく進路を急変させた。

「日本艦隊から発せられている光が、強く収束しておる。」

「光?」

 前方に迫る日本艦を見る。

「何も見えんぞ?」

「だろうな、ヒト種には見えん光だ。我等が目視圏外の物体を探ったり、遠方の同胞と会話する際に利用する光と酷似しておる。」

「何と、そんな不思議な光があるとはな・・・ちょっと待て、似た様な話を何処かで聞いた事があるぞ!」

「古の魔法帝国の魔導電磁レーダーだろう。確かに、機能はそれと同一だな。」

 ウージはみるみる青ざめる。

「それはつまり、日本国は魔導電磁レーダーを実用化していると?」

「そうなるな。それも、我々が使うよりも遥かに強い光だ。このまま進むと目眩しに遭う。」

 そう言われては、進路変更に納得せざるを得なかった。

 大きく迂回する事で時間ロスとなる。

 多少の苛立ちを感じていると、日本艦隊からいくつもの煙が勢いよく空に上がった。

「何だ、事故か!?」

 そう思ったのも束の間、複数の飛行物体が超高速で前方へ飛び去った。

「い、今のは何だったんだ?」

 困惑するウージを余所に、風竜は目を細める。

「あの物体、収束した光に従って動いている・・・人が乗っている様には見えんが、自ら進路を修正しながら飛び去ったぞ。」

 その話を聞き、一つの可能性に思い至る。

「ま・・・ま、まままさか・・・誘導魔光弾!?」

「恐らく」

 ウージは魔信を握り、今の攻撃について日本艦隊へ問い合わせた。

 そして、科学技術を用いた誘導魔光弾と同種の兵器である事が判明し、慌ててモーリアウルへ連絡を入れた。

 

 グラ・バルカス帝国海軍航空隊

 

「フッ、最強の列強国でもこの程度か。」

 艦上戦闘機アンタレスを操る小隊長 サルト は、嘲笑した。

 つい先程、迎撃にやって来たミリシアル帝国の戦闘機と交戦した。

 数的優勢は確保しているとは言え、攻撃隊の護衛をしなければならない以上、本来であれば此方が形勢不利の筈であった。

 しかし蓋を開けてみれば、あまりにも呆気無く殲滅出来た。

 敵機はこれまで相手にして来た中では最も手強かったが、それでも性能はアンタレスに及ばず、搭乗員の実力も戦術もまるで話にならない。

 此方も7機が撃墜されたが、敵は40機を投入して全滅した。

 制空権を奪われたら、地上や海上の部隊がどうなるかはよく知っている。

 その上、今回の相手は大半が木造の帆船である。

「機銃で十分じゃないか?爆弾や魚雷を使うのも勿体無いな。」

 敵の滑稽さを嘲笑していると、唐突に意識が閉ざされた。

 

『何だ!?何が起こった!?』

『先頭の1個中隊がいきなり爆散したぞ!攻撃を受けた可能性あり!」

『攻撃だと!?具体的にどんな攻撃を受けたんだ!?』

 フォーク海峡へ向けて飛行を続けていた攻撃隊は、あまりにも唐突に始まった悲劇に大混乱となっていた。

 何の前触れも無く、本当に突然12機が爆散したのである。

 爆発の仕方から、外的要因によるものであるのは明らかであり、攻撃を受けたと判断した。

 しかし、どんな攻撃を受けたかは皆目見当も付かなかった。

『あれだけ跡形も無く吹っ飛んだんだ 高射砲が直撃したんじゃないのか?』

『馬鹿言え、あんなピンポイントで吹き飛ばすなんぞ出来るもんか!外れ弾無しで12機に当てられるのか!?』

『なら、空中衝突でも起こしたか?』

『12機同時に空中衝突なんぞある訳無いだろ!それも、精強な海軍航空隊だぞ!』

 不毛な議論が続く中、悲劇は更に拡大した。

 

 

 ドン ドン ドドン ドドン

 

 

 次々と爆散する機体が増え、動揺している間に7割以上が海の藻屑となった。

『だ、駄目だ・・・これ以上進んでは駄目だ!この空域から離脱するんだ!』

 誰かが叫び、それに応じて生き残りは荷物を捨てて踵を返した。

 しかし、悲劇は彼等を見逃しはしなかった。

『嫌だ!嫌だァーーー・・・!』

『助けてくれ!何とかしてくれ!』

『救援要請!すぐにこっちに艦隊を寄越してくれ!このままでは全滅・・・ザッ・・・」

 命乞いも、救援要請も、祈りも・・・

 何もかもを呑み込み、攻撃隊は全滅した。

 

 神聖ミリシアル帝国地方隊

 

『日本艦隊より全艦隊へ、接近中の敵航空隊を殲滅した』

 ゲイジャルグ艦橋は、お通夜ムードであった。

 航空隊全滅直後、日本艦隊から迎撃を知らせる魔信が届き、少しすると日本艦から放たれた何かが上空を通過した。

 次々と飛び去って行く何かは、人が搭乗出来るサイズではなく、にも関わらず明らかに自律的に動いていた。

「どう思う?」

 パテスが問う。

「はあ・・・」

 問われたニウムは、何も答えられない。

 考察を繰り返すパテスの脳裏では、同じ結論ばかりが何度も弾き出されていた。

(自ら進路を変え、敵へ向かう攻撃など・・・魔帝の誘導魔光弾を実用化しているとでも言うのか?いや、そんな事などある筈が無い!百歩譲って、推進機能を付けた遠隔操作式の爆弾だろう。だが、遥か彼方の敵へどうやって当てる?やはり、誘導魔光弾を・・・いや、そんな筈は無い!)

「司令、間も無く海峡入り口に差し掛かります!」

 脳内で堂々巡りを繰り返していたパテスは、現実へ引き戻された。

 

 グラ・バルカス帝国東征艦隊

 

 艦隊旗艦ベテルギウスの艦橋は、重苦しい空気に包まれていた。

 マグドラ群島沖で第零式魔導艦隊を殲滅した後、大中破した艦を下がらせ、後方にいた艦と合流し、戦力は戦艦3 空母6 重巡4 軽巡2 駆逐艦12 となった。

 そして、フォーク海峡にいる連合軍を攻撃すべく200機からなる攻撃隊を出したのだが、悲鳴の様な通信が極短時間届いたのを最後に、音信不通となったのである。

「攻撃隊からの交信は回復したか?」

 艦隊司令である アルカイド が問う。

 回復など有り得ないと頭では理解しているが、藁にも縋る思いであった。

「未だ、回復しておりません。この惑星特有の磁気嵐が発生している可能性もありますが・・・」

 参謀が答えると、顔を逸らして表情を歪める者が何人もいた。

 あまりにも理解不能な現象に、希望的観測にもならない妄言の類であっても、無暗に批判出来る者はいなかった。

「その可能性も無きにしも非ずだが・・・」

 アルカイドも煮え切らない返事しか出来ず、決断しかねていた。

「・・・魔法」

 一人の呟きに、全員の頭が回転を始める。

 未だに原理のよく判っていない魔法は、不可解な現象の連続であった。

 たかが矢であっても物理的に有り得ない射程を持ち、ワイバーンの翼は自重を支えられない筈のサイズながら余裕で飛び回り、物語に登場する魔法使いまでもが実在する。

 いずれも、帝国と比較すれば脅威とも呼べない微々たる存在ではあったものの、その魔法を利用しているミリシアル帝国は、戦艦を撃沈可能な戦力さえ有している。

 それでも、有名な第零式魔導艦隊は、わざと分離させた少数兵力でさえ殲滅出来た。

(いや待て、最新鋭と銘打ってはいたが、切り札をそう易々と見せびらかしたりするものか?あの艦隊が、単なる見せ札だとしたら・・・)

「い、いかん!すぐにグレードアトラスターを退避させろ!航空隊は、ミリシアルの秘密兵器にやられた可能性がある!」

 アルカイドの唐突な命令に、一同は困惑する。

「秘密兵器とは何でしょうか?」

「分からんが、航空隊を殲滅出来る戦力として最も可能性が高いのはミリシアルだ!奴等は、文字通りどんな魔法を使って来るのか判ったものではないぞ!」

「流石に考え過ぎでは?先程も、ミリシアルの戦闘機を殲滅したばかりです。」

「見せ札に踊らされるんじゃない!本当の切り札は、必要になるその時まで隠しておくのが常識だぞ!」

 自らの装備を見せびらかすと言う事は、自らの手の内を明かしているに等しい。

 軍全体に行き渡って隠しようがない物ならともかく、本当の意味で切り札になり得る物ともなれば、厳重に秘匿される。

 それは、旧世界でも今世界でも圧倒的過ぎて隠す必要性が無いグラ・バルカス帝国と言えども例外ではない。

「しかし、ムーや日本が何か予想外の兵器を保有している可能性もあるのでは?」

「ムーも日本も、我が国と同じ科学文明国だぞ。魔法の様な理不尽な現象を起こす代物じゃない、何が起こるのかは十分に予想出来る。その上で考えてみろ、ムーも日本もこの世界では突出しているが、我が国から見ればあまりにも貧弱だ。」

 あらゆる装備が、帝国基準で数十年遅れているムー

 部分的には帝国を上回るが、小口径砲しか搭載せず、兵力も小規模な日本

「此方でも把握していない兵器を保有している可能性は確かにあるが、同じ科学文明にあるからこそ、その脅威度は正確に予測出来る。多少の損害は受けるだろうが、両国の戦力では帝国軍にはどうやっても敵わないぞ。可能性があるのはミリシアルだけだ。」

 殲滅出来たとは言え、見せ札に戦艦さえも撃沈された。

 ならば、本当に切り札を隠し持っていた場合、どれ程の理不尽な現象を引き起こす魔法を発動させるのか?

「艦隊を一瞬で蒸発させるビームでも撃って来るかも知れんぞ?」

「そんなまさか・・・」

 否定しようとしたが、出来るだけの根拠が無い。

「それは冗談としてもだ、200機の航空隊を短時間で殲滅可能な手段を保有している事だけは確かだ。それが艦に向けられたとしたら、グレードアトラスターでもどうなる事か・・・」

 アルカイドの説明で遂に危機感が共有され、誰もが青ざめる。

「で、ですが、それでは当初の作戦が破綻してしまいます!」

 グレードアトラスターは、フォーク海峡の封鎖を目的に突出しており、予定では入り口に到着している頃である。

「なら、すぐにグレードアトラスターへ事の顛末を知らせねばならん!航空隊も援護に出せ!」

 その命令により、すぐにグレードアトラスターへ通信を入れたが、届く事は無かった。

 

 ムー機動部隊

 

 ブレンダスは、小刻みに震えていた。

 日本艦隊から敵航空隊接近の報が届き、そのまま迎撃の勧告が来た時には、口にこそ出さなかったものの、パテスと同じ心境であった。

 日本艦隊の要請を無視し、すぐに艦載機の出撃を命じたものの、発艦準備中に全てが終わっていた。

「・・・どう思う?」

「はぁ・・・」

 問われた副官も、困惑でまともに返答出来ない。

(何が起きてるんだ?いや、日本はどうやって目視圏外の状況を把握してるんだ?)

「・・・ハッ!」

 ブレンダスの脳裏に、早期警戒機の情報が駆け巡る。

(まさか、本当に・・・?)

「おい、日本の資料は全部持って来てるのか?」

「え?あ、はい」

「なら、後で私の部屋に全て持って来い。」

「は、はい」

 困惑する副官を余所に、ブレンダスは内心で冷や汗を掻いた。

「間も無く、フォーク海峡入り口に到達します!」

 見張りの声が聞こえ、全員が正面を見据える。

 

 日本第五艦隊

 

『前方30㎞、グレードアトラスターを確認』

「第十戦隊は先行し、グレードアトラスターを攻撃せよ。」

 海峡入り口に差し掛かった第五艦隊は、対艦戦闘に入った。

 

 




 次回に続く
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。