中央暦1642年4月24日
ミリシアル帝国から安全確保の為、外交官の避難を要請したものの、各国の抵抗に遭い平行線で終わる。
翌日、ミリシアル帝国からの非常に強い要請により、外交官の避難が受け入れられた。
・・・ ・・・ ・・・
グラ・バルカス帝国グレードアトラスター
「敵艦隊を目視、先頭は巡洋艦8!ミリシアル艦と思われる!」
艦橋に見張りからの報告が入る。
「何とか間に合ったか・・・」
グレードアトラスター艦長 ラクスタル は呟く。
現在地は、フォーク海峡まで35㎞である。
「実際に見てみると、あんな遠方まで砲弾を届かせる事が出来るとは・・・帝国の技術力には感嘆するばかりだ。」
ラクスタルの隣で外を眺めて驚嘆しているのは、シエリアである。
「シエリア殿、この戦いの目的は、我が国の圧倒的な力を世界へ見せ付ける為でしたな?」
「その通りだ。文明国だの列強国だのと名乗っている現地国家を、現地民共は無敵だと信じている。それが幻想に過ぎない事をこの戦いを通して知らしめ、我が帝国にひれ伏させるのだ。」
この戦いは、これまでと異なりプロパガンダの意味合いが強い。
主要国が一堂に会するこの機会に、それ等戦力を纏めて粉砕する事で力の差を明確に示し、征服活動を円滑に進める。
その一環として、グレードアトラスターは単艦でフォーク海峡を封鎖し、脱出を図る艦隊を殲滅する。
「それにしても、何とも奇妙な光景だったな。」
シエリアは、カルトアルパス港で見た光景を思い出しながら、思わず笑みを浮かべる。
「帆船如きを操っているだけで強国扱いとは、この世界の文明レベルの低さは実に滑稽だ。」
「接近している艦隊は、ミリシアルとムーと日本が先行し、他は置いてけぼりを喰らっている様です。」
双眼鏡で海峡を眺めながら、ラクスタルが応える。
それに応じる様に、艦橋は笑いに包まれる。
場が和む中、ラクスタルは急に表情を引き締める。
「シエリア殿、申し訳ありませんが、装甲塔へ退避をお願いします。」
「突然どうしたのだ?このグレードアトラスターが損傷するとでも言うつもりかね?」
シエリアは、この世界の技術レベルの低さから、グレードアトラスター無敵神話が半ば成立していると認識していた。
「戦場とは、何処であろうとも常に命懸けの場です。このグレードアトラスターとて例外ではありません。貴方の安全に責任を負う立場として、この場で最も安全を確保出来る場所へ移って頂きたいのです。」
「そうか、貴殿等に不当な責任を負わせる訳にはいかんな。ただ、外交官の立場から言わせて貰うと、この戦いの意義はプロパガンダにある。今後の外交に役立てる為にも、戦闘の詳細な様子を記録して欲しいのだ。」
「大丈夫です、そちらにつきましても御心配無く。シエリア殿を装甲塔へ御案内しろ!」
(彼女は聞き分けが良くて助かるな)
ラクスタルは、1年前に実行されたイルネティア王国戦を思い出していた。
その時の担当であった外交官を含め、転移後に強硬策に移行してからと言うもの、軍の実力を絶対視して必要以上に尊大に振る舞う者が増えていた。
彼自身も、帝国軍無敵神話を声高に唱える議員の同調圧力に晒されて辟易しており、シエリアの理性的な振る舞いにかなり感心していた。
「さて、敵の様子は?」
「ミリシアル巡洋艦は、単横陣で接近中です。その後方、日本艦隊が続きます。」
「単横陣だと?何のつもりだ?」
単横陣は、近代的な砲撃戦には向かない陣形である。
中世レベルの文明圏外国家であれば、衝角突撃や接舷切り込みが主要戦術となっており、その為に単横陣は有効な戦術であるが、少なくともミリシアル帝国は近代国家である。
「とにかく、まずはミリシアル艦を始末する。距離30で砲撃だ。」
「了解!距離30で砲撃、照準合わせ!」
主砲塔が動き、警告のブザーが鳴り響き、甲板員が慌てて艦内へ退避する。
神聖ミリシアル帝国地方隊
「前方、グレードアトラスターを確認!距離、35㎞!」
「遂に来たか!」
パテスは、かつて無い大物に気合を入れる。
『日本艦隊よりミリシアル地方隊へ、貴隊は既に敵の有効射程内にいる 注意されたし』
日本からの通信に、思わず舌打ちが漏れた。
「司令、如何なさいますか?」
ニウムが尋ねる。
「このまま接近し、砲激戦に持ち込む。」
「しかし、相手はミスリル級以上の巨大戦艦です。巡洋艦8隻では、僅かな時間稼ぎしか出来ないかと。」
「臆病者め・・・それでもミリシアル軍人か!?」
唐突に振り返り怒鳴り出したパテスは、若干目が血走っていた。
「我がミリシアル帝国は、世界を守護する役目を負った誇り高き列強だぞ!文明圏外の蛮族如きに泥を塗られ、更に文明圏外国に遅れを取ったとなれば、末代までの恥だぞ!世界の導き手たる我がミリシアルが、これ以上遅れを取る事は許されない!万一、何の成果も挙げられなければ、我々の居場所が無くなるだけでは済まない!世界中が、この神聖ミリシアル帝国を軽んじ始めるのだぞ!」
世界の主要国を自ら集め、他国から攻撃を受けながら何も出来なかったとなれば、これまで保っていた威信が地に落ち、国益を損ねるのは間違い無い。
それだけに反論出来なかったが、ニウムはパテスが日本の戦果に嫉妬している事を見抜いていた。
「全艦、単横陣を採れ!このまま射程まで接近し、砲激戦に持ち込め!」
その場の全員が耳を疑った。
「単横陣ですか?単縦陣ではなく?」
代表してニウムが聞き返す。
「そうだ、これより先へは決して通すな!」
(何て事だ・・・こんな奴を司令官に任命した馬鹿は誰だ!?)
通すなの意味を正確に理解した一同は、海軍人事を内心で呪った。
「復唱はどうしたァ!?」
「は、ハッ!」
それでも命令には背けず、彼等は単横陣を形成した。
日本第五艦隊
「何のつもりだ?」
藤本は、レーダーで単横陣を形成するミリシアル地方隊を見て困惑していた。
『グレードアトラスターの主砲が稼働を開始 目標はミリシアル地方隊と思われる』
「第十戦隊(水上打撃群)、予定通り攻撃態勢に入れ。電子戦開始、ECM起動。」
第五戦隊(空母打撃群)より先行している第十戦隊は、複縦陣でミリシアル地方隊の後方に付けており、海峡から出ると同時に左右に広がる形で展開を始めた。
藤本は、魔信のスイッチを押す。
「日本艦隊よりミリシアル地方隊へ、これより本艦隊もグレードアトラスターとの交戦に入る。貴隊を援護する。」
『ミリシアル地方隊より日本艦隊へ、手出し無用』
「・・・は?」
予想外の返答に、その場の全員が視線を彷徨わせる。
「日本艦隊よりミリシアル地方隊へ、音声が不明瞭だった為、復唱願う。」
『ミリシアル地方隊より日本艦隊へ 繰り返す、手出し無用 これより、本地方隊のみでグレードアトラスターとの交戦に入る』
艦橋に、何とも言えない沈黙が流れる。
「敵航空隊が接近中、迎撃を具申します。」
「・・・許可する」
グレードアトラスター以外に対する言及が無かった事から、代わりに援護に来たと思われる航空隊の迎撃を開始した。
グラ・バルカス帝国グレードアトラスター
「こんな時にトラブルとは・・・最新技術は故障が頻発するから困る。」
ラクスタルは、戦闘後に提出する報告書が増えた事にげんなりする。
グラ・バルカス帝国は、旧日本軍に類似した技術体系を持ちながらも、電子技術は当時の米軍並みな為、レーダー照準が可能である。
しかし、そのレーダースクリーンがいつの間にか真っ白になっており、結局は旧来の方法で照準するしか無くなっていた。
『六時方向、友軍航空隊が接近中』
後方の見張りより報告が入る。
「何、聞いてないぞ!本隊から通信は無いのか!?」
「いえ、何もありません。」
「すぐに電信室へ行って確認しろ!」
艦橋から一人出て行き、その間に窓に寄って状況を確認する。
「日本艦隊、左右に展開しています。」
「ミリシアル艦隊の援護をするつもりか?」
「恐らく、本艦は日本艦の主砲の射程内にいるのでしょう。目測ですが、砲身長は60口径はあります。」
「確かに、それだけ砲身が長ければ我が軍の同口径砲よりも長射程だろうが、5in.級だぞ?流石に30㎞を超える射程を持つとは思えんがな。」
「日本は、部分的に帝国を上回る技術を有しています。あの主砲が、我が方の想像を超える性能を持っている事も考えられます。」
「そう言われると、確かに否定は出来ませんな。とは言え、所詮は5in.級です。このグレードアトラスターが相手では、小破させるのが精一杯でしょう。」
「確かにそれも考えられる。しかし、それだけ優れた技術を有していながら、不自然な程に軍事力が貧弱だ。日本が元いた世界は、あの程度で事足りる程に平和だったのだろうな。」
「ある意味羨ましくもありますが、そのせいで無謀な戦いに挑まざるを得なくなっています。やはり、軍備はしっかり整えなければなりません。」
議論していると、二度目のブザーが鳴り響く。
会話を中断し、全員が耳を塞ぎ、口を開いて砲撃に備える。
ドオオオオオォォォォォォン
46cm砲弾は、人体を潰しかねない凄まじい衝撃波を撒き散らしながら撃ち出された。
神聖ミリシアル帝国地方隊
「敵艦発砲!」
「やはり、我が軍の魔導戦艦に匹敵する射程を持つのか・・・」
パテスは呻く。
「司令、やはり日本艦隊の申し出を断ったのは」
「それ以上言うな」
ニウムの進言を、即座に睨み付けて黙らせる。
直後、海面が隆起した。
「う・・・クッ・・・!」
「ヌゥ・・・何と言う威力だ!」
「これは、ミスリル級を超えているかも知れません」
命中弾こそ出なかったが、海面へ着弾して生じた大波に、巡洋艦が小舟の如く揺さぶられた。
「チィッ、初弾から・・・」
パテスは着弾地点を確認すると、初弾から夾叉した事に驚愕する。
「敵艦との距離は!?」
「26㎞!」
間も無く最大射程に入るが、すぐに撃っても命中弾は期待出来ない。
(今はまだ我慢するしか無いが・・・)
想像を超える敵の強大さに、漠然とした不安がパテスの胸中を覆い始めた。
「第二射、来ます!」
(当たるな!)
誰もが祈ったが、巨大な爆炎が上がった。
「七番艦に直撃弾!艦体破断!」
艦橋付近に被弾した七番艦は、直後に誘爆を引き起こし、真っ二つに折れて爆沈した。
「・・・ッ!」
誰も何も言えない。
最強の列強国である神聖ミリシアル帝国の誇る魔導巡洋艦が、たったの一発で爆沈した。
想像した事も無い凄惨な光景を前に、誰もが恐怖で立ち竦んだ。
「敵艦、更に発砲!」
「二番艦に直撃弾!艦首消滅!」
誘爆は起こらなかったが、被弾した艦首は跡形も残らず、浸水によって急激に沈降を始めた。
「全艦、ランダム航行開始!回避行動に移行せよ!」
青ざめた顔でパテスが叫び、残った6隻が思い思いの方向へ動き出す。
グラ・バルカス帝国グレードアトラスター
「命中確認!敵艦、艦首消滅!」
「ふむ、流石だな。」
ラクスタルは、砲手の腕前の高さを称賛する。
「巡洋艦とは言え、思った程ではありませんな。」
「敵艦、回避行動を開始しました。」
「判断が遅過ぎる。いや、それ以前にあの単横陣に何の意味があったんだ?」
未知の魔法を発動するのかと警戒していたが、蓋を開けてみれば無様な程に狼狽し、陣形を乱している。
全員が、相手が何をしたかったのかを測りかねていた。
首を傾げる間にも砲撃は続き、更に1隻を撃沈する。
そうこうしていると、電信室から士官が戻って来た。
「報告、通信機が全て不通になっております!」
「何だと?どう言う事だ?」
「全ての通信機が、どの周波数でも雑音しか聞こえないとの事。更に、レーダー員からもレーダースクリーンの異常は、外的要因の可能性が高いとの事です。」
「外的要因だと?そう言えば、原因不明の磁気嵐が時折起こると聞いたが、本当にこのタイミングで起きたと言うのか?」
「正確な原因は不明ですが、その可能性が高いかと。」
「間が悪過ぎるな・・・よりにもよって通信が出来なくなるなど」
『日本艦隊より煙が発生!事故と思われ・・・いや、何だあれは!?』
「何を言っている!?」
見張りからの要領を得ない報告に怒鳴りつつ、双眼鏡を手に取る。
「・・・何だ?日本艦から煙が空に向かって伸びているぞ?」
『飛行物体接近!物凄い速度です!間も無く、本艦に到達します!』
・・・ォォォオオオオオオ
聞いた事のない轟音が響き渡り、反射的に身を竦ませる者が現れる。
「総員、衝撃に備え!」
ラクスタルが叫び、全員がしゃがみながら手近な物に掴まる。
「・・・ん?」
しかし、音は後方へ通過し、被弾した様子もない。
「何だったんだ?」
危険は無くなったと判断して立ち上がると、首を傾げる。
『後方、友軍航空隊が爆発!半数近くが撃墜されました!」
「何だと!?詳細を報告せよ!」
『爆発する直前、飛行物体らしき物が複数航空隊に突っ込むのが見えました!』
慌てて艦橋後方へ向かい、上空を見る。
「そんな・・・」
双眼鏡を使わなくともはっきりと見える複数の黒煙が、航空隊に凄まじい被害が出ている事を理解させた。
「何が起きたのだ?」
ラクスタルは、部下がいるのも憚らずに呟く。
『日本艦隊より、再び煙が発生!飛行物体接近!』
直後、残りの航空隊が爆炎に包まれた。
「航空隊、全滅しました・・・」
沈黙が艦橋を支配する。
(何なんだ?一体、何が起こっているんだ?)
不可解な現象の連続に誰もが困惑し、次の対応を判断しかねていた。
そうこうしている間にも時間は経過し、ミリシアル地方隊は残り1隻となった。
神聖ミリシアル帝国地方隊
グレードアトラスターからの一方的な攻撃を受け続け、残りはゲイジャルグのみとなっていた。
「・・・・・・」
パテスは、交戦前の勢いが完全に消え失せ、沈黙していた。
「撤退か、日本艦隊へ協力を要請すべきです。」
ニウムが進言するが、啖呵を切った手前、逡巡する。
「司令は指揮出来る状態にない。これより、私が臨時に指揮を執る。司令を医務室へお連れしろ!」
「な・・・貴様、何を企んでいる!?おい、離せ!これは抗命罪だぞ!離さんか!」
ニウムの命令を受けた水兵は、パテスの抗議には耳を貸さず摘まみ出した。
「よし、直ちに反転、撤」
その瞬間、ゲイジャルグは爆炎に包まれた。
日本第五艦隊
「ミリシアル地方隊、全滅しました。」
接近中の航空隊を殲滅した後、傍観に徹していると、ミリシアル巡洋艦が遂に全滅した。
「対艦戦闘に入る。目標、グレードアトラスター」
第十戦隊の展開は完了しており、グレードアトラスターの側面を狙える位置にいた。
「撃ちーかたー始め!」
砲雷長の号令を受け、艦中央の発射機から対艦ミサイルが放たれた。
ムー機動部隊
第五艦隊に遅れて海峡入り口に到達した機動部隊は、進退に悩んでいた。
『ミリシアル地方隊、全滅!』
見張りが絶叫する。
遠方に見える巨大な水柱と爆炎が、戦闘の凄まじさを物語っていた。
「司令官、命令を」
ブレンダスに対し、副官が言う。
「・・・航空隊を出し、日本艦隊の援護を行え。艦隊は前へ出るな。日本の邪魔にならないよう、このまま待機せよ。」
「宜しいのですか?」
この命令を意外に思った副官に対し、ブレンダスは不機嫌そうに答える。
「貴様は俺を無能に仕立て上げたいのか?これだけのモノを見せ付けられてまで、我が国が日本より強いなどと世迷言は言えん。航空隊の発艦準備を急げ!」
「ムー機動部隊より日本艦隊へ。これより、航空隊を発艦させる。貴隊を援護す。」
グラ・バルカス帝国グレードアトラスター
『日本艦の中央部より煙が発生!』
「またか、今度は何をするつもりだ!?」
幕僚の一人が、半ばヒステリックに叫ぶ。
(チィッ、これで決まりだ!日本は、我が方が把握していない未知の攻撃手段を有している!砲でも航空機でもない、帝国では着想すらされていない全く新しい兵器だ!)
ラクスタルは素早く結論を出すと、対抗手段を考え出そうとするが、すぐに中断した。
(ん?待てよ・・・航空隊は全滅したにも関わらず、日本艦隊は再び攻撃を開始した。この場で奴等の標的にされる相手と言えば・・・)
「総員、衝撃に備え!」
その場の全員がラクスタルへ振り向いた瞬間、衝撃が襲った。
バゴゴゴゴオオオオォォォォォォン
鼓膜を破りかねない凄まじい爆音が響き渡り、世界最大の巨艦が激しく揺さぶられた。
「うわあああああ!」
「ウグアッ!」
「ぐわああ!」
衝撃対応が出来なかった幕僚達は、吹き飛ばされた。
「くぅッ・・・」
ラクスタルも転び、痛みを堪えながら立ち上がる。
衝撃で大量の埃が舞い上がり、霧の様に漂っている。
「おい、しっかりしろ!衛生兵を呼べ!」
無傷な者は誰もいなかった。
中には頭部を強打し、意識を失っている者までいる。
「一体何が・・・」
状況を把握出来ていない幕僚の一人が呟く。
そこへ、下士官が駆け込んで来た。
「報告!本艦へ敵の攻撃が10発以上命中!」
続いて、詳細な被害が報された。
全主砲故障 使用不能 要員は無事
高角砲全12基中7基が全壊 要員は全滅
煙突小破 機能に支障無し 爆風が機関へ届き、数名が負傷
後部艦橋大破 詳細不明
「な・・・なん、だと・・・?」
想像を絶する被害に絶句する。
海戦とは本来、一射目での命中など期待出来ない。
その場で何度も照準を修正し、漸く一発か二発の命中弾が出る。
(これが日本の真の姿か。部分的どころではない、帝国を大半の面で上回っているのではないか?)
出撃前、帝都で行われたこの世界の勢力の戦力情報の報告会。
最も警戒を要するとされたミリシアル帝国は、運用の問題もあり帝国の敵ではなかった。
そして、警戒が必要とされたもう一つの勢力である日本国。
この国は、部分的に帝国を上回る技術を有しており、一定の被害を想定しなければならないとされたが、距離的な問題を除けば困難は無いと結論されていた。
(我々は、道を誤ってしまったのかも知れんな・・・)
ラクスタルは、内心で独り言ちる。
「日本艦隊より再び煙が発生!」
絶叫の様な報告が入り、反射的に空を見上げる。
「あ」
彼の目には、艦橋に向けて真っ直ぐに接近するそれが映った。
(何て事だ・・・日本は、帝国を遥かに上回る相手だったか)
その動きを見て、彼は帝国の過ちを確信した。
(せめて、艦隊にこの事を報せたいが・・・)
着弾まで残り10秒も無い状況では、それも叶わない。
「総員、衝撃に備え!」
無駄と知りつつ、最後の命令を発した。
直後、艦橋は光に包まれた。
艦長以下、艦の要員は意識不明で搬送された者を除き、全滅した。
日本第五艦隊
『グレードアトラスター、転舵します』
艦橋にミサイルが直撃してから少し経ち、グレードアトラスターは速力を落としつつ面舵を切り始めた。
「逃走する気か?」
第十戦隊旗艦筑波の艦橋で、戦隊司令官 近藤 大佐 が呟く。
「見た所、交戦の意思がある様には見えません。」
「指揮系統がやられたんだからな、これ以上の交戦は無理だろう。降伏勧告を行え!」
命令を受け、発光信号によって降伏勧告が行われた。
グラ・バルカス帝国グレードアトラスター
艦橋の下部にある装甲塔。
操舵に必要な設備が整っているその場所は、攻撃を受けた場所が上部であったお陰で生き延びていた。
「シエリア殿、御無事で?」
装甲塔内に避難していたシエリアへ、この場で最上級の士官が声を掛ける。
「あ、ああ、大事無いが、何が起きたのだ?」
突然の事態に困惑を隠し切れない彼女の顔には、いくつもの傷が出来ていた。
無事だったとは言え、被弾の衝撃は装甲塔内にもモロに伝わっていたのである。
「敵の攻撃です。今の衝撃から察するに、此処より上部が被弾したと思われます。」
「上部だと?とすると・・・」
そこまで言い、慌てて口を閉ざす。
「詳細は不明ですが、恐らくは・・・」
士官は、シエリアの言葉を引き継ぐ。
この場の誰も口を開かないが、動揺の気配が漂っていた。
「部外者が口を挟むのもなんだが、この場に留まっていては危険ではないか?いつ、この場が崩壊するかも判らないのだ。」
「退艦命令が出ない限り、我々は持ち場を守り続けます。まして、此処は操舵室です。機関室と並び、乗員の命を守る要となる場所です。」
シエリアを真っ直ぐに見据えるその目には、船乗りとしての矜持を内包していた。
その意志は周囲へ伝播し、動揺を打ち消した。
ガシャン
突如として、装甲化された扉が重々しい音を立てて開いた。
「報告!艦橋上部が敵の攻撃によって大破、生存者は確認出来ず!本艦の最高階級は貴方になります!」
士官の階級は少佐である。
戦艦の艦長は大佐が通例であるが、いきなり二階級も下がった事実が、事態の深刻さを物語っていた。
「まずは現状の詳細を知りたい。知っている事を話してくれ。」
連絡官から聞かされた詳細は、全員を絶望へ陥れた。
「戦闘不能だ・・・これ以上この場に留まっても、無駄死にするだけだ。面舵一杯、何とかしてこの場から離脱するぞ!」
「ま、待ってくれ!」
少佐の命令に、シエリアが慌てて口を挟む。
「グレードアトラスターがこの場から離脱したら、それは本作戦の失敗を意味するのだ!」
「シエリア殿、本艦はこれ以上戦えません。このまま留まれば、間違い無く撃沈されます。本艦が沈む事の意味をお考え下さい。」
グレードアトラスターは、レイフォルを滅ぼして以降ただの軍艦ではなく、政治的な意味合いを持った艦となっている。
言わば、国の顔ともいえる存在であり、その様な艦が沈めば戦力が低下するだけでは済まない大問題となる。
「例えこの場は敗北しようとも、生きて帰れば汚名を雪ぐ機会はあります。一時的にはあなた方に苦労を強いてしまうかも知れませんが、沈まなければ失墜した名誉を取り戻す機会は必ず訪れます。」
「・・・解った」
不承不承ながら、シエリアは頷いた。
(とは言え、弱ったな・・・)
シエリアが理解を示した事に安堵しつつも、少佐は現状の困難さを理解していた。
日本艦隊はグレードアトラスターの左右に陣取り、隙の無い態勢を整えている。
「日本艦より発光信号!」
この場をどう切り抜けようか考えている所へ飛び込んで来た予想外の報告に、双眼鏡を手に取る。
「内容は!?」
[此方、日本艦隊巡洋艦筑波 ぐれーどあとらすたーニ告グ、降伏セヨ 繰リ返ス、降伏セヨ 降伏スル場合ハ、白旗ヲ掲ゲヨ 降伏セヌ場合、撃沈スル 貴艦ノ賢明ナ判断ヲ求ム]
全員の視線が少佐に集中する。
「・・・」
少しの間、俯いて沈黙した少佐は、シエリアを見る。
「シエリア殿、これまでです。」
彼女は何も答えなかったが、降伏を非難する事も無かった。
「白旗の準備を!それと、生存者へ降伏を通達せよ!」
日本第五艦隊
『グレードアトラスターより、白旗が掲げられた 降伏を受諾する模様』
青葉のCICで、藤本は指示を出す。
「第五戦隊は直ちに海峡を脱出し、艦載機を発艦させろ。第十戦隊はグレードアトラスターの武装解除を行え。」
次いで、魔信のスイッチを入れる。
「日本艦隊より全艦隊へ、これより艦載機を発艦させ、敵艦隊へ航空攻撃を実施する。誤認に注意されたし。」
「よし、出番だ!」
空母大鳳では、待機を続けていた搭乗員達が甲板へ出る。
既に機体の準備は完了しており、整備兵が脇で控えていた。
「行くぞ!」
ヘルメットを脇に抱え、堂々とした足取りで戦闘機へ近付く。
整備兵が敬礼し、それに応えるとヘルメットを被り、梯子を上る。
操縦席に座ると、風防が閉まり、各種確認が進む。
『全て正常 スタンバイ』
甲板員の退避が始まり、発艦士官が機体を定位置へ誘導する。
位置に着くと、最後の確認に入る。
『オールグリーン』
異常は確認されず、エンジン出力が上がる。
発艦士官がゴーサインを出し、機体は急加速した。
スキージャンプ台によって強制的に上向きにされた機体は、不足する揚力を強引に得て上昇する。
その後も連続して発艦が続けられ、計8機のF/A-18が敵本隊へと向かった。
グラ・バルカス帝国東征艦隊
「グレードアトラスターとの通信は回復せんのか?」
「未だ、回復しておりません。」
戦艦ベテルギウスの艦橋では、アルカイドが苛立たし気にしていた。
航空隊をグレードアトラスターの援護として出撃させ、その旨を連絡したが、一向に返信が来ない。
それどころか、定期連絡すらもいつの間にか無くなっていた。
更に、航空隊からの連絡も[敵艦隊見ユ]との通信を最後に続報が来なくなっていた。
最悪の事態が頭をよぎり、誰もがミリシアル帝国の秘密兵器の存在を信じ始めていた。
「電信室より報告!無線及びレーダーが全て使用不能になりました!」
「何だと?どう言う事だ?」
悪い事が重なり、動揺の色が一気に大きくなる。
「無線は全ての周波数で雑音しか聞こえず、レーダースクリーンは真っ白になったとの事です。」
「まさか・・・本当に磁気嵐が?」
電波装備が一斉に使用出来なくなる状況など、それ以外に想像が出来なかった。
「いや、ミリシアルの秘密兵器とやらが使われた可能性もあるぞ?」
参謀の発言に、全員の目が集中する。
「何故、そう思った?」
アルカイドが問う。
「ミリシアルの兵器体系は我が軍と似通っている物が多く、その性能も我が軍に近いものがあります。ともすれば、索敵に関しましても電探と同種の装備を配備しているとしてもおかしくありません。」
「それは解るが、それでどうしてミリシアルの仕業だと言えるのだ?」
「敵状の把握は、どの時代でも最重要です。その為、敵の索敵手段を潰す方法も常々模索されて来ました。そして、秘密兵器とやらは明らかに我が方の水準を遥かに超えています。」
アルカイドは少し考え、顔色を一気に悪くさせる。
「つまり・・・電波装備を妨害する装備を有していると?」
「その可能性が高いかと」
艦橋に気まずい沈黙が流れる。
「司令、とにかく今は敵状の把握をしなければなりません。直ちに偵察機を出さなければ、敵に先手を打たれてしまいます。」
「そ、そうだな。すぐに偵察機を出せ!それと、これまでの戦況と推測を本国へ伝えなければならん。本艦の水偵を連絡機として飛ばそう。すぐに報告を纏めるから、その間に発艦準備を急げ!」
「ハッ!」
無線は使えないが、発光信号によって各空母へ命令が伝達され、偵察機の準備が迅速に行われた。
帝国兵の練度は極めて高く、準備に要した時間は15分未満であった。
三度フォーク海峡へ向かって飛び去る航空機とは別に、反対方向へ飛び去る水上機が、この後の艦隊の命運を示唆しているかの様であった。
日本第五航空隊
『間も無く、攻撃地点に到達する 敵艦隊に動き無し』
淡々と行程を消化した航空隊は、早期警戒機とのデータリンクによって表示されている敵の動きを確認する。
『!・・・敵艦隊に新たな反応 航空隊の発艦作業中と思われる』
『構うな 我々の目的は、敵艦隊への攻撃だ』
そのまま攻撃地点へと進む間、早期警戒機は艦隊へ新たな航空隊の発進を伝える。
そうこうしている内に、全行程を消化し次の段階へ移った。
『全機に告ぐ、これより攻撃隊形へと移行する』
編隊を移動用から攻撃用へと変更を始める。
『目標の割り振りを行う・・・揉めるなよ?』
誰もが大物を仕留めたいとの欲求があり、無線越しに張り詰めた空気が伝わる。
『・・・文句は無いな?』
編隊長が圧のある声色で同意を求め、割り振りが終わる。
『・・・攻撃開始!』
少しの間を置いて発された攻撃命令により、一斉にミサイルが解き放たれた。
グラ・バルカス帝国東征艦隊
「ったく、貧乏くじを引いちまった・・・」
リゲル雷撃機の搭乗員である レイネル は、思わず愚痴を零す。
意気揚々と出撃した数百もの味方航空隊を見送り、共に行けない運の無さを呪ったのも既に過去の話。
その味方が1機たりとも帰って来ない事に、尋常ならざる事態にあると末端の水兵までもが察し始めていた。
彼もそれを察してから、攻撃隊に加えられなかったのはむしろ幸運であったと気付いた。
しかし、遂にその幸運も底を突いたらしい事に、つい先程気付かされた。
偵察の為、フォーク海峡へ向かえとの命令を受けたのである。
想像通りだとしたら、一方的に狩られるとしか思えなかった。
「おい、ハエ一匹見逃すんじゃねえぞ!」
同乗している部下に怒鳴る。
「安心して下さい、自分は同期の中では一番の視力ですよ!」
「よーし、お前の目が頼りだ。余所見や瞬きしたら後で懲罰だからな!」
「勘弁して下さい・・・」
冗談を言いつつも、気を抜かずに周囲を見渡す。
「方向転換するぞ」
敵の攻撃を警戒し、不規則にジグザグ飛行を繰り返す。
「・・・機長、三時方向下方で何かが光りました!」
旋回の為に機体が傾いた瞬間、太陽光を反射する何かが視界に入った。
レイネルも言われて目を向ける。
「チィッ、もうこんな所まで潜り込まれてんのか!アレは何だ!?」
距離が離れているせいで輪郭がはっきりしないが、それでも飛行機とは異なる形状である事が判った。
「マズいぞ!アレの進路は明らかに艦隊だ!通信は出来るか!?」
「駄目です、雑音だらけで何も聞こえません!」
(何てこった・・・こんな敵がいるなんて聞いてねえぞ。俺達は何を相手にしてるんだ?)
不明機の速度は、目測でもアンタレスを大きく上回っており、帝国を超える強大な存在を相手取っている事に思い至った。
それ程の存在が、艦隊へ攻撃を仕掛けようと向かっている。
レイネルは、今この時に空にいる幸運を嚙み締めた。
『高速で接近する飛行物体あり!距離、5㎞!数、20以上!』
「何だと!?どうして気付かなかった!?」
ベテルギウス艦橋は、見張りから唐突に入った報告に大混乱となった。
「何処だ、敵は何処にいる!?」
『間に合いません!敵が突入します!』
ドガガガガガ
「うわああああああ!」
凄まじい爆音と衝撃に、全員が吹き飛ばされた。
「ウ・・・ク・・・」
方々から呻き声が上がり、意識のある者がゆっくりと起き上がる。
「ひ、被害報告・・・」
額から血を流しながらも、何とか意識を保ったアルカイドが声を出す。
「艦中央から後部にかけて、2~3発被弾。具体的な被害は集計中です。」
無事だった見張り員が報告する。
「それと、その・・・」
「どうした?」
更に続報を伝えようとするが、かなり言いにくそうにする。
「いいから言え。処罰など無い。この状況では、些細な事でも情報が欲しい。」
「はい・・・本艦隊は、空母2隻を除いた全艦が被弾。被害は甚大です・・・」
「何だと!?」
一瞬前まで感じていた痛みは吹き飛び、窓際へ駆け寄る。
「・・・何だこれは」
全方位に黒煙が立ち上り、絶望が全身を覆い尽くす。
次の瞬間、1隻が閃光と爆炎に包まれた。
数秒遅れて爆発音が届く。
「あの位置ですと、タウルス級と思われます。」
最早、艦の目視確認は不可能となっていた。
そこへ、下士官がやって来る。
「報告!先程の攻撃により、第一から第三高角砲が損傷、水偵射出機が全損、第三砲塔損傷。また、艦後部に火災が発生しており、第四砲塔にも被害が出ております。現在、消火作業中。更に、被弾の衝撃で射撃指揮装置が故障したとの事。」
(戦闘不能か・・・仕方ない)
アルカイドは決断した。
「直ちに撤退する。」
意識のある幕僚が色めき立つ。
「しかしそれでは、帝国の面子が」
「馬鹿者が!この惨状を見ろ、面子などに拘っている場合か!?此処で意地になって全滅などしてみろ!この世界の蛮族共は、我々を引き際も弁えない愚か者として嘲笑するぞ!それこそ面目丸潰れだ!」
「前方より、新たな飛行物体接近!」
議論する暇も無い。
矢継ぎ早に投入される強力な攻撃にただ翻弄されるばかりであった。
「・・・これまでの様だな。」
軍帽を被り直したアルカイドは、堂々とした口調で言う。
あまりの変わり様に、幕僚達は困惑する。
「諸君、これが我々の最期となるだろう。」
場が凍り付く。
「我々は既に戦える状態にないが、最後まで帝国軍人に恥じない雄姿を敵に見せ付けてやろうではないか!」
僅かな動揺も見せ付けない堂々とした彼の姿に、全員が心を動かされた。
感動に震える手で互いに敬礼を交わし、持ち場に着く。
空から轟音が聞こえ、窓際に立って敵の姿を目に焼き付けようと見開く。
「さぁ・・・来い!」
しかし、
「敵、上空を通過!」
肩透かしとはこの事であった。
何の攻撃も無く、ただ艦隊上空を通過した敵機。
「何の真似だ?」
「敵編隊、艦隊周囲を旋回しています!」
聞いた事のない音を響かせながら、非常識な速度で飛び回る敵機。
「やはり、ミリシアルはこんな隠し玉を・・・」
その姿は、本国で見せられた天の浮舟と似通った航空機であった。
「何故、敵は攻撃して来ないのでしょう?」
参謀が尋ねる。
「恐らく、降伏せよと言うのだろう。」
「ッ!・・・その様な事」
「落ち着け」
全員が屈辱に塗れ、怒りを露わにする。
その心情は理解しながらも、アルカイドは冷静を促す。
「確かに許し難いが、どうしようと言うのだ?アンタレスなど問題にもならん程の速度を出す航空機を相手に、どうやって対抗する?」
「確かに、対抗手段を持たない我々には・・・いえ、例え対抗出来たとしても、手も足も出ないでしょう。ですが、あの様なビクトリーロールを許容出来る程、我々は落ちぶれてはおりません!」
ビクトリーロールとは、攻撃から帰還した機体による味方基地上空での宙返り曲芸飛行である。
ただし、それは古来より洋の東西を問わず禁止事項である。
宙返りではないが、勝ち誇った様に上空を旋回するその様は、自らの力を誇示するビクトリーロールに見えていた。
「ではどうするのだ?」
「敵に、我等の雄姿を見せ付けてやるのです!」
「具体的にどうするのだ?」
「艦と運命を共にし、この世界の蛮族共とは違うと言う事を」
「馬鹿者が!」
アルカイドは、参謀を殴り飛ばした。
「それが艦と乗員の命を預かる者のする事か!?貴様の自己満足の為に、どれだけの若者を道連れにする気だ!?」
「ですが、この様な屈辱を受けてまでおめおめ生き延びるなど」
「敵が我々を皆殺しにするつもりならそれも良いだろう!嬲り者にされて惨めに野垂れ死ぬよりも、遥かにマシな選択だ!だが、生き延びる方法があるにも関わらず、それを感情に任せて安易に捨て去るなど許される事ではない!彼等には、帰るべき場所と帰りを待つ者達がいるのだ!その責を負う立場にある事を忘れるな!」
艦隊を背負う者としての気迫に、参謀は何も言えなくなる。
沈黙する中、一人が遠慮がちに口を開く。
「一つ宜しいでしょうか?」
「何だ?」
「パガンダとレイフォルの件が示している様に、この世界には戦時条約の類が存在しません。投降しても、身の安全が保障されるとはとても・・・」
「確かに、厳しい環境に置かれる事も覚悟せねばならん。だが、我々はこの世界が想定を大きく上回る修羅の世界である事を知った。このままでは、帝国は滅亡するだろう。」
本来ならば、口が裂けても言えない事を何の躊躇いも無く言い切った。
それだけ深刻な事態にある事を、嫌でも思い知らされる。
「祖国を救う為、この身がどうなろうとも生き延びて知らせねばならん。それが、知ってしまった者の責務だ。例えこの身体が擦り切れようとも、祖国に殉ずる為に最後まで生き延びて責務を果たそう。」
「我々もお付き合いします」
「・・・馬鹿者共が」
熱に当てられたかの様な表情で返す部下に、穏やかな口調で返した。
日本第五航空隊
東征艦隊上空を旋回しているのは、第五艦隊より飛び立った日本航空隊である。
戦果確認の為に接近しており、その映像はリアルタイムで艦隊へ送られている。
『敵艦に動きあり 旗艦と思しき艦より、軍艦旗が下ろされている』
『確認した 他に何か動きはあるか?』
『・・・残存艦が減速を開始 いや、機関停止の模様 停船しようとしている 降伏の意思がある可能性あり』
『了解した これより、ジャミングを解除する 解除後、降伏の意思を確認せよ』
『了解』
少しすると、全帯域で自由に交信が可能となった。
『此方は、日本第五艦隊である 貴艦隊は既に射程に捉えている これ以上の戦闘は無意味である 直ちに降伏せよ 降伏する場合は、白旗を掲げよ』
暫く待っていると、艦橋で白い布を振り回し始めた。
『白旗掲揚を確認した 降伏の意志ありと認める』
こうして、フォーク海峡海戦はグラ・バルカス帝国の敗北で幕を閉じた。
東征艦隊降伏により、残存していた戦艦3隻と空母2隻が鹵獲される事となった。
それ以外の艦の乗員は、日本艦隊による救助を受ける事となったが、あまりにも短時間で大被害を受けた為、生存者は1000人に満たなかった。
尚、ベテルギウスより飛び立った水上機は、迂回を繰り返した影響で味方基地に着く前に燃料切れとなったが、付近で活動中であった潜水艦によって乗員は救助され、アルカイドの報告書は本国へ届く事となった。
海戦の終了を受け、避難を行っていた外交官は再び集まり、2日後に会議が再開される事となった。
次回は、海戦の後始末になります。