妄想日本国召喚   作:石原

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 今回は、後始末の前の反応になります。


第十三話  動揺と疑念

 中央暦1642年4月26日

 内陸へ避難していた各国外交官は臨時連合軍勝利の報告を受け、カルトアルパスで会議再開を決定。

 尚、先に退場していたアニュンリール皇国は放置する事となった。

 

 

 

 ・・・ ・・・ ・・・

 

 

 

 エモール王国  ドラグスマキラ

 

 

 竜王ワグドラーンは、重役達を臨時に召集した。

 ドーム状の会議室は、いつにも増して厳重な警備が敷かれており、参加者にただ事ではないと理解させた。

 事の発端は、先進十一ヶ国会議に参加しているモーリアウルからの緊急連絡である。

 フォーク海峡海戦に於いて、風竜騎士団から彼へ緊急の報告が上がった。

 その内容は、日本艦隊が魔導電磁レーダーと誘導魔光弾を保有、使用していたとの事であった。

 信じ難い内容に、担当の通信員は三度聞き直したが、回答は変わらなかった。

 そして、あまりにも深刻な内容の為、その日の内にワグドラーンの耳にまで入ったのである。

 経緯の説明が終わり、ワグドラーンが口を開く。

「皆の者、聞いての通りだ。空間の占いで出た魔帝に抗する鍵とは、どうやらこの事だった様だな。」

 そう言う本人も、動揺が顔に浮かんでいた。

「まさか・・・まさかそんな事が・・・」

「忌々しきラヴァーナルと同種の兵器を有するだと!?何とおぞましき国か!」

「日本国・・・底知れぬ国よ。」

 大半が示しているのは、恐怖と嫌悪であった。

 騒然とする中、空間の占いを実行した アレースル は唐突に立ち上がる。

 視線が集中する中、静かに話し始める。

「日本国は、魔帝とどの様な関係があるのか、皆の意見を聞きたい。」

 少しの沈黙の後、次々に意見が飛び出す。

「日本国は転移国家との事でしたな?恐らく、魔帝がラティストア大陸に先んじて島を一つこの世界に転移させたのでしょうな。」

「日本は科学文明国との事。モーリアウルの報告から考えても、それは確実だろう。科学文明国であるならば、ラヴァーナルとは関係無かろう。」

「科学であろうが魔導であろうが、同じ技術体系を有している以上は憎きラヴァーナルの亜種である事に変わりありませぬ。早晩、世界を支配せんと胎動を始めるでしょう。」

 竜人族の、光翼人に対する憎悪は非常に深い。

 それだけに、日本が光翼人と無関係だと考えても、光翼人と同種の技術を有しているだけで並々ならぬ嫌悪感に襲われていた。

 それだけに、大半の意見が日本を敵視するものであった。

「うーむ・・・」

 ワグドラーンは、眉間に皺を寄せて唸る。

「ふむ・・・」

 アレースルは素早く考えを纏めると、ワグドラーンへ向き直る。

「陛下、御意見宜しいでしょうか?」

「申せ」

「私が考えまするに、恐らく日本国は魔帝との関連性は御座いません。」

「何故、そう言えるのだ?」

「日本国は、魔力の乏しい・・・いえ、魔力を一切持たない人間族の国で御座います。他の種族は存在せず、更に科学技術立国である事はモーリアウルの報告を加味しても確実であるかと存じます。つまり、魔帝とは正反対とも言える存在であり、むしろ魔帝とは相容れないと愚考致します。」

 この世界は、魔法を基礎として文明を発展させて来た。

 それだけに、魔力的素質素養の低い者は社会的地位も低くなる傾向にある。

 竜人族は元の素質が高い事もあり、特にその傾向が顕著だが、光翼人はその比ではない。

 光翼人は、同族であろうとも魔力素養の低い者は人体実験の材料にしていたと伝わっている。

 そして、魔力を全く持たない事が判明している日本人を相手にすれば、どうなるかは簡単に想像が付いた。

「だが、魔帝の技術力は本物だ。人類が万の年月を掛けても未だに追い付けぬ程の極めて高度な技術を有していたのだぞ。魔導を知らぬ人間族が、どうやって誘導魔光弾を開発出来ると言うのだ?そもそも、科学でそこまで出来るものなのか?」

 全員が同じ心境であった。

「確かに・・・尤もな疑問で御座いますな。」

 アレースルも否定はしない。

「しかし思いますに、我々も科学を理解しておりません。ムーが科学を重視し、様々な技術を開発した事を知った時、我々はどう思いましたでしょうか?」

 非魔導の力など、たかが知れている

 魔力に乏しい種族が何をしても、我等竜人族を超える事など出来はしない

 科学など、所詮は魔導の劣化技術に過ぎない

 竜人族のみならず、当時は世界中がムーの選択を嘲笑った。

「しかしながら、ムーは我がエモールを超える強国として君臨しております。今や科学は、魔導に勝るとも劣らない事が証明されているので御座います。」

「いや、それは言い過ぎであるぞ!」

「アレースル様、科学では魔導には決して敵いませぬ!」

 ただでさえ人種差別の傾向が強い竜人族にとって、それは認め難い事実であった。

 反発の声が次々と出る中、ワグドラーンが睨み付けて黙らせる。

「アレースルよ、お前の空間の占いによって日本国が鍵となると出たのだ。魔帝に抗する事が出来る様な鍵となれば、それは魔帝に匹敵する力か技術を持つ以外に考えられんだろうな。」

 アレースルの主張を追認する発言に、多くの大臣が驚いた様子でワグドラーンを見る。

「だが、それ程の力を持つのであれば、いずれ不当な野心を掲げる可能性が高くはあるまいか?」

「それは・・・」

 全員の顔色が一気に悪くなる。

「事実、第三文明圏の覇者であったパーパルディアを一方的に降したのだ。果たして日本は、第三文明圏だけで満足するのであろうか?魔帝と相反しようとも、魔帝と同等の力を持っているならば、魔帝と同様の蛮行に手を染めてもおかしくはあるまい。ただでさえ愚かな人間族なのだ。警戒せねばならんだろう。」

(魔帝と同様の蛮行・・・)

 誰もが最悪の想像をした。

 エモール王国の前身であるインフィドラグーンを滅ぼしたコア魔法。

 ラヴァーナル帝国と同等であれば、それを保有していてもおかしくない。

 そして、使用しないとも限らない。

「事は極めて深刻だ。しかも危急だ。直ちに動かねばならん。よいか、この件はミリシアルと共に当たる事とする。あの町エルフの皇帝は賢明だ。情報を与えればすぐに儂と同じ結論に至るだろう。モーリアウルへ伝えよ、ミリシアルと対日本協定を結ぶのだ。この事は万が一にも日本に知られてはならん。秘密裏に進めるのだ。」

 その日の夜、モーリアウルはリアージュと会談の場を持ち、話を付けるのであった。

 

 

 

 ・・・ ・・・ ・・・

 

 

 

 4月27日

 東征艦隊を撃滅してから一夜明けたこの日。

 神聖ミリシアル帝国帝都ルーンポリスのアルビオン城では、ミリシアル8世を交えた報告会が行われていた。

「・・・以上が、フォーク海峡に於いて行われた戦闘の推移になります。」

 アグラが、各種記録や入手した情報を元にしたフォーク海峡海戦の大まかな推移を報告した。

 彼と同じ列には軍関係者が座っており、全員が顔を青ざめさせている。

「具体的な被害が出たのは我が軍のみか・・・」

 フォーク海峡海戦は、先頭にいたミリシアル軍がグラ・バルカス艦隊の攻撃を正面から受ける形となり、参加戦力の全てを喪失する結果となった。

「シュミールパオ」

「は・・・ハッ!」

 軍務大臣の シュミールパオ は、皇帝に指名されて冷や汗を流す。

「・・・そうビクつくな。此度の件は余にも責任がある。」

 皇帝ともあろう者が自らの責任を問う発言をし、全員が驚きの表情を向ける。

「敵を正確に分析し、民の害を取り除くのが国を率いる者の務めだ。だが此度は、皆が敵を見誤った。」

 グラ・バルカス帝国はそれなりに強いが、世界最強である神聖ミリシアル帝国が敗北するなど有り得ない。

 この場にいる者のみならず、その他官僚や国民に至るまで、この様に考えて敵を過小評価していたのである。

「本来であれば、余がそれを諫めるべき立場であった筈だが、余も余で敵を侮ってしまった。お前を責めるのは筋違いと言うものだ。」

 皇帝自ら襟を正す発言をした事で、全員が気を引き締める。

「話を戻そう。此度の戦闘、連合軍と銘打って複数国の戦力を迎合したは良いが、てんでバラバラだった様だな?」

 再びシュミールパオへ顔を向ける。

「その通りで御座います。各国の戦力は、技術水準に差があり過ぎました。例えば速力で御座います。今回参加した魔導巡洋艦の最高速度は30ktを超えますが、一方で大半の戦力は戦列艦であり、12kt~15ktが限界で御座います。ムーの機械動力船でさえ魔導巡洋艦には追い付けず、唯一日本艦隊のみが追従出来る有様でした。性能を十全に発揮する為には、足の遅い艦を置き去りにしてでも先行する必要が御座いましたので、緊密な連携は最初から諦めておりました。」

 皇帝は、頷いて口を開く。

「うむ、この判断は正しい。だが、我々の真の敵は魔帝である事を忘れてはならん。来る魔帝との戦いでは、全世界が一致団結せねばならんのだ。此度の戦いで、団結のだの字も無い現状が浮き彫りとなった。これは憂慮すべき事態だ・・・ペクラス」

「はい」

 今度は、外務大臣のペクラスへ顔を向ける。

「エモールから魔帝の復活が告げられたのだ。今後は、これまで以上に世界との連携を強めねばならん。戦力的には足手まといだろうが、魔帝が相手ともなれば問答無用で纏め上げねばなるまい。此度の戦いで我が国の威信は落ちてしまったが、そんな事で諦める訳にはいかん。よいか、外務省は全力で調整を進めよ」

「承知しました」

 力強い視線を向けていた皇帝は、今度は深い憂慮を滲ませる。

「さて、次は最大の問題だ・・・この問題に比べれば、我が国が受けた損害も、落ちた威信もどうでも良い。」

 一言申したい程に容赦の無い言葉だが、誰も異論を唱えない。

 皇帝の言葉は、この場の全員の心情を代弁していた。

「日本国」

 マグドラ群島で第零式魔導艦隊を殲滅し、フォーク海峡で魔導巡洋艦8隻とエルぺシオ3 42機を殲滅したグラ・バルカス帝国艦隊を、実質単独で返り討ちにした東の文明圏外国家。

「奴等は一体何者なのだ?」

 戦闘報告を信じるならば、参戦した日本艦隊は第零式魔導艦隊よりも強大な戦力となる。

 皇帝は、困惑を禁じ得なかった。

「日本艦の武装は、確か前部に小口径砲を1門装備しているだけだった筈だな?」

「対空砲らしき装備も少数見受けられますが、いずれにせよ極めて貧弱と申さざるを得ません。」

 アグラが答える。

「空母も保有しておりますが、今回参加していたのは1隻のみでした。我が軍のロデオス級空母は56機を搭載可能で御座いますが、それを上回る搭載能力を有していたとしても、100機に満たないでしょう。」

(それでも多過ぎるがな)

 軍関係者全員が、有り得ないと内心で思った。

「グラ・バルカス帝国軍でさえ、第零式魔導艦隊を殲滅するのに、砲撃戦によって漸減した上で200機の航空機を動員しております。つまり、日本軍の航空戦力では、敵艦隊の撃滅は不可能と結論されます。」

「ならば、彼等は一体どんな魔法を使ったと言うのだ?」

 日本が科学文明国である事は把握しているが、何かの間違いではないかと思いたくなっていた。

「残念ながら、日本艦隊がどの様な戦闘を行ったのか詳細な情報は未だ入っておりません。最も近くにいた地方隊が全滅してしまい、生存者はいずれも話を聞ける状態に御座いませんので、もう暫く時間が必要で御座います。」

「陛下、その事につきましてお耳に入れたい話が御座います。」

 口を挟んだのはリアージュである。

「申せ」

「はい。昨夜、エモール王国のモーリアウル代表から内密の話があると呼び出しを受けました。」

「エモールの代表がそんな事を?」

 竜人族らしからぬ話に、大いに興味を掻き立てられる。

「海戦の際、風竜騎士団から緊急の報告があり、日本艦隊が攻撃を開始する瞬間を目撃したとの事で御座いました。」

(何だと!?エモールが・・・?)

 軍関係者は、目を剝いて聞き入る。

「して、詳細は?」

「日本艦隊は、魔帝の魔導電磁レーダーに酷似した装備で目視圏外の敵を把握し、更にあの誘導魔光弾に酷似した兵器を運用していたとの事で御座います。」

 会議室は、一瞬で大混乱となった。

「そ・・・そんな・・・そんな馬鹿な・・・」

「有り得ない!我が国ですら実用化出来ていない伝説の兵器を・・・!」

「文明圏外国に我が国が遅れを取るだと・・・?そんな事など・・・」

 

 「落ち着かんか戯けが!」

 

 皇帝が怒鳴り、静まり返る。

「リアージュ、その話が本当だとしたら、日本はラヴァーナルと関与しているか、ラヴァーナルそのものである可能性があるな?」

 皇帝の指摘に、一同はハッとなる。

 その様子を、横目で苦々しく見る。

「私もその点を指摘しました所、諸々の兵器は転移前の世界に於いて、科学技術によって開発されたと返答したとの事で御座います。」

「この期に及んで転移国家などと・・・」

 堪え切れず、ペクラスが呟く。

「また、会議に於いて空間の占いの結果を公表しておりましたが、その場で公開していなかった内容もあり、日本の兵器と併せて私に通告されました。」

「して、その内容は?」

「魔帝が復活するが、伝説の通り世界が支配されるかは不確定なり。その原因は日本国にあり。日本国こそが、魔帝に抗する鍵となるだろう、と。」

 その場にいる大半が、プライドを刺激された。

「たかが文明圏外国が、魔帝にどう対抗出来ると言うのだ?陛下、これはエモールが日本と組んで、我が国を陥れようとしている可能性が御座います。」

 アグラが言う。

「落ち着け馬鹿者。一昨年の暮れに、日本へ派遣した使節団からそれを裏付ける報告が来ていたであろう。お前は確認していないのか?」

「あの様な荒唐無稽な報告を信用なさるのですか?」

「陛下、お言葉ですがそれは如何なものかと。」

「私も同感で御座います。」

 アグラと共に、シュミールパオとペクラスも同調する。

 その他全員が、口には出さないが同じ意見であった。

 先遣使節団は、現在に至るまで政府全体で極東の田舎国家にまんまと騙された愚か者のレッテルを貼られたままであり、彼等の報告書は顧みられる事無く埋もれてしまっている。

 しかし、彼等は何処で何を言われても、反論も説明もしなかった。

 その態度から、「碌に反論出来ない下手な嘘をついただけ」と判断され、余計に信憑性を下げる悪循環に陥っていた。

「信用も何も、実際に行って見て来た奴等の報告だぞ?シュミールパオ、お前の所の次官も使節団に含まれていたな?その後の勤務態度に怪しい所でもあったか?」

「いえ、むしろ優秀になったと申しますか・・・触発されたかのように良く働く様になりました。」

 何も言わず、黙々と仕事をこなす姿を思い出し、困惑しながら答える。

「ペクラス、日本の大使館に派遣した職員も同様の報告を繰り返し上げていたと聞いているぞ。そちらの様子はどうなのだ?」

「それが・・・帰国当初は全員が何らかの精神疾患を患っているとしか思えない程に取り乱しておりましたが、その後は何も言わず以前にも増して精力的に業務をこなす様になっております。」

 ペクラスも、部下達の突然の変化を理解出来ずにいた。

「だろうな・・・今思うに、彼等は言っても無駄だと最初から諦めておったのだろう。余とした事が、耄碌したものだな・・・」

 自らの不明を恥じ入り、深いため息を吐く。

「それに以前も言ったが、ムーも日本へ大いに注目している。にも関わらず、我々は日本をムーと同列視してしまった。それがそもそもの間違いであったのだ。」

「ではムーは、日本の真の力を把握して、その技術を得る為に近付いたと?」

「その可能性が極めて高いな。やれやれ・・・これからは我が国も対応を誤らん様にしないとだな。皆の者、すぐにでも全力で日本を調査するのだ。本当の技術水準はどの程度なのか、本当に魔導を利用していないのか、日本の真意は何なのか・・・それと、ムーに対してどの様な技術指南があったかも調べねばならんな。日本がムーを利用し、我が国に対抗しようとしている可能性もあるからな。ああそれと、改めて使節団から話を聞く必要もあるな。」

「恐れながら、陛下の仰っている事は全て推論に過ぎません。また、目下最大の脅威は、第零式魔導艦隊でさえ敵わなかったグラ・バルカス帝国で御座います。まずは、グラ・バルカス帝国の戦力分析を最優先とし、日本国につきましては使節団の報告を精査し、地方隊の生存者の証言を待ってからでも遅くはないかと愚考致します。」

 アグラが発言し、同調して頷く者がちらほらいる。

「正に愚考だな。そんなに疑うなら、お前が自ら日本へ赴いて調査すればよいではないか。」

 魔帝に対抗する為に、ミリシアル帝国はこれまで自国を発展させて来た。

 そして、世界最強の列強国として君臨し、世界を導いて来た。

 ゆくゆくは、対魔帝で自らが世界を率いて戦う。

 そう思っていたにも関わらず、空間の占いの結果はそれを否定するどころか、世界を導くべき国が文明圏外国である事を示している。

 その上、ムーを初めとした各国が、ミリシアル帝国より日本の方を向き始めている。

 その事実を不愉快に感じ、日本を相手にしたくないとする感情が根底にある事を、皇帝は見抜いていた。

「よいか、我がミリシアルは今正に岐路に立たされている。いらぬ感情で道を誤れば、何をする間も無く落ちぶれてしまうだろう。」

 日本重視の方針に対し、拒否は許さないと暗に示した。

「次に、明日より再開される会議についてだが、世界各国と連携を深めなければならないのだから、戦況の推移を正直に明かし、情報の共有を行わなければならんな。」

「お待ち下さい!此度の戦闘は、参加した我が軍が全滅しております。この様な醜態を明かす様な真似をしては、我が国の威信は地に落ちるでしょう。国益にも反します故、全ての情報を公開する事には反対致します。」

 ペクラスが慌てて反論する。

「ではどうすると言うのだ?」

「多少の損害は被ったものの、各国艦隊との共闘により、見事敵艦隊を撃退したとするのが宜しいかと。」

 皇帝は眉間に皺を寄せ、片手で頭を抑える。

「その様な小手先の嘘で騙せる訳が無かろう。参戦した各国の艦隊は、直接戦闘した訳ではないが目撃者なのだぞ。目視出来るほど近くにいた訳ではなかろうが、魔信越しに状況は把握していた筈だ。各国とも精鋭を引き連れておるのだから、その程度も出来なければ話にもならん。そして、後に聴取を受けて真偽確認を行うであろう。すぐにバレる嘘で我が国の品位と信用を貶め、国益を損ねるなど言語道断だ。」

「陛下、策は御座います。艦隊の乗員に対し、報酬をチラつかせるので御座います。」

「世界の主要国が一堂に会する場に同行しているのだぞ?賄賂如きで釣られる様な安い者などおらんわ!」

 愚にも付かないと、強い口調で否定する。

「いいえ、報酬とは乗員に対する賄賂ではなく、国に対する待遇で御座います。今後の貿易でいくらかの便宜を図る、或いは退役した旧式兵器を少数供与する。場合によっては、外交等級の引き上げを検討すると言い含めるので御座います。この様な場に召集される精鋭なのです。国に対する忠誠心は高く、国益に大いに寄与するとなれば否とは申さないでしょう。」

 皇帝は少し思案すると、懸念を口にする。

「並の国ならそれでどうにかなるかも知れんが、ムーや日本はどうなる?両国とも、独自に極めて高度な技術を持っているのだぞ。それに、列強国だから外交等級も最上の特級だ。何をしても決定打に欠けるだろう。」

「ムーにつきましては、対グラ・バルカス戦で全面支援を行うのです。此度の戦闘で、ムーの戦力水準では敵わない事が判明致しました。我が国から大規模な陸海軍の派遣を行い、第二文明圏からグラ・バルカス帝国を叩き出す事を約束します。」

(確かに、ムーではグ帝には敵わんだろうな。支援を受けるとなれば、わざわざ我が国の機嫌を損ねる様な真似は出来んか。)

「そして日本国ですが、世界各国との仲介と魔導関連の基礎知識の教示を行います。日本国はつい最近まで無名の文明圏外国家に過ぎなかった為、いくらパーパルディア皇国に勝利したとは言え、彼の国を色眼鏡で見る国は多いでしょう。そこで我が国が仲介し、日本国が新たな列強国として確固たる地位を得る為の助力を行うのです。同時に、日本国は純粋な科学技術立国との話である為、ムー以上に魔導技術に疎いと思われます。そこへも我が国が助力するとなれば、必ずや我が国へ靡く事でしょう。」

「お言葉ですが、それは不可能かと思われます。」

 突然、リアージュが口を挟む。

「それは何故だ?」

 睨むペクラスを制しながら、皇帝が尋ねる。

「先頃、第零式魔導艦隊が全滅した件を地方隊が奇襲を受けたとの形で公表したのですが、直後に日本の代表がこの海戦を把握していると明かしたので御座います。」

 場が一気に騒然となる。

「彼等は、彼我の戦力、戦況の推移、発生した損害も全て正確に把握しており、遺憾ながらその場でバラされました。その場を取り繕おうとしても、恐らく同じ事の繰り返しになるかと。それを防ぐには、今すぐに根回しを行う必要が御座いますが、どうやっても間に合いません。」

「何だと?どうやってその様な真似が出来るのだ?」

「皆目見当も付きません・・・」

 ペクラスが心底驚いた表情で尋ねるが、リアージュは首を振る。

「まさか、我が国の中枢にまでスパイが潜んでいる訳ではなかろうな?」

 シュミールパオが、リアージュへ疑いの目を向ける。

「何と、私が日本と通じていると言われるおつもりか!?」

「やめよ!」

 皇帝がすぐに止め、その場は収まった。

「スパイなど潜ませずとも、日本には遠方の情報を正確に把握する術があろう。なぁ、アルネウスよ?」

 情報局長である アルネウス へ顔を向ける。

「はい。恐らく日本国は、人工衛星を使用して海戦の様子を監視していたと思われます。」

「人工衛星?」

 大半が頭に疑問符を浮かべる。

「空力の及ばぬ遥か高空、つまり宇宙空間へ観測機器を飛ばし、この世界を丸ごと監視しております。」

「そ、それは伝承にある、ラヴァーナル帝国の僕の星ではないのか!?」

「その通りです。彼等は、我々も把握していないこの世界の全体像を把握していると思われます。そんな彼等にとって、一海戦を監視するなど造作も無い事でしょう。」

「まさか・・・まさか日本は、本当に魔帝なのでは?」

 再び場が騒然とし、日本を本格的に脅威に思う者が現れる。

「皆の者、日本を脅威に思うのも解るが、今は彼の国を調査、分析するのが優先だ。」

 そう言う皇帝自身も、改めて提示された日本の情報に恐怖を感じ始めていた。

 そこへ、リアージュが助け舟を出す。

「陛下、モーリアウル代表は日本が魔帝との関連性とは関係無く、グラ・バルカス帝国同様その力によって世界に覇を唱える可能性を憂慮しており、我が国と共に密かに日本を警戒する為の協定を結びたいと申し出ております。」

「陛下、この申し出は是非とも受けるべきで御座います。空間の占いによって日本が魔帝へ対抗する鍵となる事が判明致しましたが、未だ不明な点が一つ御座います。」

「不明な点?」

 シュミールパオの指摘に耳を傾ける。

「日本が、どの様な形で鍵となるのかが不明瞭なままで御座います。つまり、日本が世界と共に魔帝に対抗して戦うのか、又は日本は世界と敵対の意思を明確にし、彼等を我々が降す事でその技術を接収し、それによって魔帝に対抗するとも考えられます。」

 空間の占いの的中率は98%である。

 つまり、残り2%は外しているのだが、その大半は見えた未来の光景によって何が起こるか解釈を間違えた結果となっている。

 日本が鍵となるだけでは、複数通りの解釈が考えられた。

「ふむ・・・確かに、日本がラヴァーナル帝国と関与しているかどうかもそうだが、仮に無関係だとしても、グラ・バルカス帝国の様な覇権思想を持っていないとも限らん。警戒はするべきだな・・・よし、表向きは積極的に友好関係を保ちつつ、日本がどの様な性格をしているのか、本当に魔帝との繋がりが無いのかを徹底的に調査し、万が一の場合にはエモールと連携して日本を封じ込める為の方策を考えよ。」

「畏まりました」

 方針は定まり、一同は直ちに動き出す。

 その中でリアージュは、翌日の会議の為にカルトアルパスへ向かう。

 

 




 この場面が予想以上に長くなり過ぎました
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