複数国が絡む話は難しい…
中央暦1642年4月25日
マグドラ群島西方2000㎞沖合で、東征艦隊より発艦した連絡機が燃料切れによって不時着。
事前に発信していた救難信号により、付近で活動していた潜水艦によって救助された。
・・・ ・・・ ・・・
4月27日
「すげぇ・・・グラ・バルカスの連中はこんな凄い艦隊を持っていやがったのか!」
「それにしても、あれを仕留めたのがあの日本艦隊なんだからなぁ・・・見た目は貧弱だが、とんでもない連中だぜ。」
フォーク海峡の入り口に設置されている監視所。
そこから海を眺めれば、堂々と凱旋する日本艦隊と、鹵獲されて曳航されているグラ・バルカス艦が見えていた。
海戦を生き延び、鹵獲されたのは、グレードアトラスターを含む戦艦4隻、第一撃目で標的にならなかった空母2隻であった。
撃沈した他艦から脱出した漂流者を収容した後、乗員は全員捕虜となった。
万が一の事態を防ぐ為、上空には常時、機関銃を装備したヘリが飛び回り、更に上空には風竜が待機している。
尚、艦隊幕僚と会議に参加した使節団は青葉に移送されており、各種聴取を行っている。
「あの艦、ウチの国に引き渡してくれないかな?」
「さあてな・・・並の国だったら速攻で渡してくれるかも知れんが、相手はあの日本国だぜ?」
「だよなぁ・・・」
戦闘を直に見た彼等は、日本の力がミリシアル帝国さえ上回る事を理解し、祖国の立場が揺らいでいる事を自覚していた。
それを知らないカルトアルパスの市民達は、今日も酒を呷りながらミリシアル帝国は安泰だと元気に語り合っていた。
「まぁ、こんな事を報告しても、誰も信じてくれないよなぁ・・・」
「だろうな。異常者扱いされるくらいなら、このまま黙っていようか。」
カルトアルパス
カルトアルパス帝国文化館は、再び活気を取り戻していた。
いや、活気どころか熱気と言っても良かった。
5日前、入港するグレードアトラスターを目撃した彼等は、3日前には勇ましい事を言いつつも、内心は不安に満ちていた。
あれ程の巨艦を建造する技術は我が国には無い。
レイフォルを単艦で滅ぼしたその力に偽りは無かった。
果たして、何処まで食い下がれるか?
そう考えていた所へ、戦勝報告が届いた。
一国を代表する立場としてこの場にいながら、その面子を潰される重圧に耐えている中での報告である。
喜びで飛び上がりたい衝動を必死に堪え、外交官同士で語らう事で発散していた。
「いやはや、グレードアトラスターは驚くべき艦でしたが、所詮は文明圏外国でしたな。世界の強国が集うこの場には、やはり相応しくなかったのでしょう。」
「全くその通りですな。我が国の竜母艦隊にかかれば、文明圏外国の操る飛行機械や戦艦の1隻や2隻、鎧袖一触だった事でしょう。」
「我が国の機甲戦列艦隊も負けてはおりませんぞ?我が国の魔導機械工学は、科学文明にも通ずるものですからな。」
「はっはっはっ、精強な両国とも活躍されたのは当然でしょう。しかし勿論、我が魔法船団もあなた方と共に活躍した事は、記憶に留めて頂きたいものですな。」
「御心配無く、どの国も精鋭揃いなのです。何の活躍も無い惰弱な軍ならば、この場には呼ばれておりません。」
「それもそうですな。いや、戦況報告が楽しみです。」
「フフフ、全くです。」
「おっと、もう時間ですぞ。では皆さん、参りましょう。」
ロビーで時間を潰していた彼等は、時間が迫っている事に気付き、会議場へと入って行った。
「・・・」
「・・・」
少し離れた場所で様子を見ていた近藤と井上は、何とも言えない表情で後に続いた。
暫く後、
議場には各国の代表の他、大臣級と共に各艦隊の司令官クラスも同席している。
『時間になりましたので、これより会議を開催致します』
議長席に座っているリアージュが、開会を宣言する。
勝利直後と言う事もあり、静寂が支配しながらもそれに見合わない興奮が溢れていた。
『皆様も御存知の通り、第二文明圏外の暴虐なる国家、グラ・バルカス帝国が此処カルトアルパスを標的に艦隊を差し向けて参りました 幸い、皆様の協力によって敵を退ける事に成功し、こうして会議の再開に漕ぎ着けました まずは、戦況の推移を御報告致します』
そう言うと、背後に控えていたアルパナが前へ出る。
『神聖ミリシアル帝国軍務省軍務次官のアルパナです それでは、順を追って御説明します』
具体的な攻撃方法はぼかしつつ、戦闘の推移が説明される。
自国艦隊がどの様に活躍をしたか、それをこの後どの様に生かすか?
誰もが考え、緊張と興奮の度合いが急速に高まった。
しかし、説明が進むにつれて、彼等の思考は停止を余儀無くされた。
「は・・・?え・・・?」
トルキア王国代表は、口を半開きにして呆然とした。
「そんな馬鹿な・・・艦隊級極大閃光魔法が役に立たなかったと・・・?」
アガルタ法国代表は、絶対の自信を持っていた秘密兵器が出番すら与えられなかった事実に衝撃を受けた。
「嘘だ・・・そんな筈は無い!」
ニグラート連合代表は、自国艦隊が全く役に立たなかった事実を受け止められず憤った。
「そんな・・・我が魔導機械工学が・・・そこまでの差が・・・」
マギカライヒ共同体代表は、必死に高めて来た自分達の技術が全く通用しなかった事実に打ちのめされた。
「彼等の分析に、偽りは無かったと言う訳だな・・・」
ムー代表は、外れて欲しかった本国の推察が当たった事に、安堵と落胆が半々であった。
「や、やはり、日本国は凄まじいな・・・」
パンドーラ大魔法公国代表は、顔を引きつらせながら日本の戦果に納得していた。
「何たる事・・・一体、何処にそれ程の力を隠していたのだ?」
モーリアウルは、風竜騎士団から聞いていた以上の日本の強大さに不安を募らせた。
「全て正直に話すとは意外だったな。」
「ええ、マグドラ群島の戦闘は誤魔化してましたから、今回もまたこっちで訂正する必要があると思ってましたからね。」
そう話している近藤と井上は、いつの間にかその場の全員が自分達に注目している事に気付いた。
『・・・以上が、敵艦隊降伏までの推移になります 御静聴ありがとうございました』
一礼すると、アルパナは後ろへ下がる。
「おい、今のは本当なのか?」
「今の話、流石に盛っているだろう?」
「ええい、何とか言わんか!この様な情報操作を放置する気か!?」
各代表達は、傍らで何も言わない武官に詰め寄り、今の戦況報告を否定させようとした。
しかし、誰も何も言わず、その表情が事実であると語っていた。
どうしても受け入れられない者も、暫くすると黙るより他は無くなり、時間の経過によってざわめきは無くなった。
そのタイミングを見計らい、リアージュが再び口を開く。
『お聞きになられました通り、日本艦隊によってグラ・バルカス艦の一部を鹵獲、更には捕虜を得る事に成功しました』
その言葉により、最初の議題の察しが付いた一同は、目をギラ付かせる。
『まずは日本代表より、その内訳を公表して頂きます』
(やってくれたな!)
グラ・バルカス帝国の技術力は、この場では日本を除く全ての勢力を上回っている。
その技術の結晶である軍艦を鹵獲したともなれば、どんな無茶をしてでも欲しがるのは目に見えている。
今回は、本来であれば実際に鹵獲した日本が所有権を主張出来るが、それを許さない為に国際会議であるこの場でその事を槍玉に挙げられた。
それを理解した近藤は、怒り心頭であった。
『私は軍事に関しては専門家ではありませんので、実際に指揮を執った者から詳細をお聞きした方が良いでしょう』
そう言い、同席している藤本へ目を向ける。
『御紹介します 第五艦隊を指揮している藤本少将です』
立ち上がり、一礼する藤本。
「ほう、中々に精悍な顔付きだな。」
「歴戦の軍人、とは見えんな・・・」
彼は、自身に向けられる舐める様な視線に晒されて不快感を覚えた。
近藤からマイクを渡され、説明を始める。
『藤本です、それでは御説明します 我が艦隊へ投降したグラ・バルカス艦は、戦艦4隻、空母2隻となっております この内、戦艦は二種類の型式が存在し、空母は2隻とも同型艦となっています まず、戦艦は3隻がオリオン級と呼称される艦であり、グ帝内では高速戦艦に分類されます もう1隻は、グレードアトラスターになります』
場が一気に騒然となる。
「ま、まさか、あの・・・?」
「そんな馬鹿な!レイフォルを単艦で滅ぼした、あのグレードアトラスターだぞ!」
「末席とは言え、列強でさえ敵わなかった伝説の艦を鹵獲だと!?」
『静粛に!』
リアージュが声を上げ、静まり返る。
『藤本殿、続けられよ』
『次に空母ですが、ペガスス級と呼ばれる艦であり、グ帝内では正規空母に分類されます 続きまして、現在判明している各艦の性能をお伝えします』
捕虜から聞いた情報と同時に、判明していない部分は旧海軍の最も近い艦のスペックで補う。
「そ、それ程の性能があったのか・・・我が国もいずれは・・・」
ムー代表は、目の前に迫っている脅威を正確に認識すると同時に、科学技術の発展性に希望を見出していた。
(ぬぅ・・・速度性能だけを見ても、風竜とほぼ遜色無いのか・・・益々彼等の動向から目を離せんな。)
日本に対して不安を増したモーリアウルが手を挙げる。
『エモール王国代表、発言を許可します』
リアージュが許可し、モーリアウルは立ち上がる。
『此度の暴挙により、忌まわしきラヴァーナル帝国の前にグラ・バルカス帝国が敵として立ちはだかっている事が明確になった ラヴァーナルと同じく、グラ・バルカスも世界を乱す大敵と見做すべきであろう これは、将来のラヴァーナル戦を見据えた前哨戦となるだろう 先日も言った様に、各国は余計な争いはやめ、全世界で協力して対処すべきである』
全員が頷き合い、協力の意思を明確にする。
『ついては、まずは敵について知らねばならん 鹵獲艦はひとまずこのカルトアルパスに保管し、各国は技術者を派遣し、調査、分析をすべきだろう 同時に、捕虜からも各種情報を徹底的に絞り出すべきだ』
ほぼ全員の目付きが変わり、我先にと賛意が示される。
(よし、我が国で管理、保管するなら、事態を此方でコントロール可能だ。)
リアージュも、内心でほくそ笑む。
次に、近藤が手を挙げる。
『我が国は、鹵獲艦を我が国内で保管する事を提案します グラ・バルカス帝国の艦艇は科学技術を利用しており、失礼ながら適切な保管は我が国以外には不可能であるかと思います』
『お待ち頂きたい!確かに我が国は科学文明には疎いが、グレードアトラスターにも対応可能な十分な設備を有しており、技術者も優秀です 我が国でも十分に対応可能です』
(やはり、日本が出しゃばって来おったな・・・やり辛い事この上無い)
ミリシアル代表団が周囲を見回すと、日本とミリシアル帝国のどちらに付くか品定めしている様子が見て取れた。
『科学と魔法では、必要とされる知識も技術も異なります また、我が国ではかつてグラ・バルカス艦と似通った艦艇を運用していた時期がありますので、直ちに対応可能です』
その話に、一同は動揺する。
「何と、日本はあの様な巨艦を建造していたと言うのか?だが、引き連れている艦隊は・・・」
「そんな馬鹿な。ならば何故、あの様な貧弱な艦ばかりを運用しているのだ?」
「確かに、日本国が運用しているのも機械動力船ではあるが、いくら何でも・・・」
具体的な戦闘内容が明かされなかった為、各国は(一部を除いて)ミリシアル軍によってグラ・バルカス艦隊は大きく弱体化し、日本はとどめを刺しただけだと認識していた。
各国の反応は半信半疑であり、その空気はミリシアル側にやや有利であった。
(このまま多数決にでもなったら厄介だな)
近藤は、話題を転換する。
『また、エモール王国代表にお聞きしたいのですが、捕虜に対する尋問方法、及び処遇はどの様にお考えでしょうか?』
(何が言いたいのだ?)
モーリアウルは、困惑しながら立ち上がる。
『尋問方法については、確実に情報を得る為、あらゆる方法を使うべきであると考えておる』
『拷問も含みますか?』
『当然だ 世界の敵を排除する為には、妥協は許されぬ 捕虜の処遇についても同様だ 我等に味方するならば相応の待遇も検討すべきだろうが、あくまでも我等と敵対し、世界を危機に陥れる事を良しとするならば、容赦してはならん』
周囲を見ると、当然だと言いたげな顔をしている各国代表。
『具体的にはどうされるので?』
『非協力的な捕虜は、見せしめにするのが良かろう そうすれば敵の戦意は大きく挫かれ、我等に利する事となろう』
(何が戦意を挫くだ!そんな事をすれば敵は怒り狂い、徹底抗戦するのが目に見えてるだろうが!いや、それ以前の問題だ!)
「代われ」
外務大臣が立ち上がり、近藤に代わって発言する。
『率直に申し上げれば、捕虜に対する過酷な待遇は悪手であると言わざるを得ません』
「何を言う!?」
「あの礼儀知らずに配慮せよと言われるか!?」
「撤回せよ!」
野次が飛ぶが、睨み付けると次々に口を閉ざす。
最初と異なり、一連の海戦を通して日本の影響力は格段に高まっていた。
『では、どうすべきだと言うのか?』
モーリアウルが尋ねる。
『この場をお借りして、捕虜の待遇に関する規定や民間人の殺戮、略奪等を禁じる規定を設けた国際条約の発効を提案します』
日パ戦争を通してこの世界の倫理観に危機感を覚えた日本政府は、全世界に適用される戦時条約の制定をこの会議の目的の一つとしていた。
また、このままグラ・バルカス帝国との全面戦争に陥った場合、モーリアウルの主張など比較にもならない惨劇が第二文明圏内外で展開される危険が非常に大きいと考え、外務大臣はかなりの焦りを覚えているのである。
(もしそんな事になれば、此方が極悪非道な侵略者になりかねない。現地民の激しい恨みを買い、テロやパルチザンが頻発するのは確実だ。連中の価値観からすると、鎮圧一択だろうな・・・パーパルディアみたいな殲滅戦を言い出しかねん。)
『甘過ぎる!貴殿の言い分は極めて甘いと言わざるを得ん 敵は徹底的に粉砕し、二度と調子に乗らせない為に厳しく抑え付けねばならん!そうしなければ、再び愚かな真似をしでかすに決まっておる!』
「その通りだ!」
「敵を付け上がらせてはなりませんぞ!」
モーリアウルが強い調子で反論し、次々と賛意が示される。
『ではお聞きします 何故パーパルディア皇国は、領土の大半を失ったのでしょうか?』
「何を言ってるのだ、あの男は?」
「日本国に敗北したからに決まっているであろう。」
今度は困惑する一同。
『我が国は、戦力と軍事施設に攻撃を加えたのみであり、直接的な領土の占領や、戦後の交渉でも領土の割譲要求はしていません』
「な、何だと?」
「大勝しておきながら、領土を欲さんとはどういう事だ?」
「自らが飛躍する機会をふいにするとは、馬鹿な真似を・・・」
この世界の基準では、広大な領土を持つ事が大国の証の一つとなっており、日本の選択はその逆を行く愚行に見えていた。
『にも関わらず、彼等は別の要因によって本国以外の領土を全て失いました それは、現地住民の反乱です』
「フン、原住民も満足に御せんとは、落ちぶれるべくして落ちぶれたと言う事か。」
良いか悪いかは別として、この場の各国は現地民の反乱など許さず、一定の秩序を保っている。
『その理由こそ、貴方の仰る様な過酷な待遇が原因なのです それどころか、征服後の扱いも極めて劣悪でした 過酷な搾取と圧政によって人々の恨みは募り、我が国との戦争を機に遂に爆発したのです 捕虜達にも、故郷には家族や親しい者がいます 見せしめなどしたら、彼等はどう思うでしょうか?』
『奴等は不当に第二文明圏を侵略し、多くの悲劇を齎した!奴等こそ、多くの家族や友人を殺したのだ!その様な蛮族には、死を以て償わせるか、世界の復興の為に犬馬の如く働かせるより他は無かろう!』
「その通りだ!」
「侵略者には、死の制裁を!」
(まるで金魚のフンだな)
日本に対し、同じ列強が反対意見を述べている状況に付け込み、他の代表も次々に声を上げている様子を見て、軽蔑の目を向ける。
『ではお聞きします 此処にお集まりの各国のみならず世界各国もそうですが、他国へ侵攻、征服をした事がない国はありますか?』
野次を飛ばしていた者達は、途端に口を閉ざす。
『我が国はその様な事はやっていないが、何が言いたいのだ?』
モーリアウルが聞き返す。
『先程、私達の真の敵は魔帝だと仰いましたが、その魔帝は過去に世界に対してどの様な行為をしていたのでしょうか?』
『そんな事も知らないのか?光翼人共は、次々と世界を侵略し、他種族を家畜の如く扱い、全世界の恨みと怒りを買ったのだ 終いには、神々の怒りすら買い、大陸ごと逃亡するより他に無くなったのだ そして、残された僅かな光翼人共は、それまでの行いの結果として全人類から復讐を受けたのだ』
『周辺国を侵略し、現地住民を過酷に扱い、激しい恨みと怒りを買い、反乱を起こされたパーパルディア皇国とよく似ていますね』
この指摘に、モーリアウルは大きくたじろいだ。
『魔帝に対抗し、全人類を本気で救うつもりであれば、まずはそうした身の振る舞いから改めなければならないのではありませんか?我が国が調べた所、世界中が多かれ少なかれ同じ様な事を行っている事が判明しております 果たして、それで他人の事をとやかく言う資格があるのでしょうか?』
現在の人類がやっている事は、魔帝と大して変わらない。
外務大臣の指摘に、顔を赤くする者や青筋を立てる者が現れる。
しかし、日本へ反論していたモーリアウルが何も言えなくなった事で、野次を飛ばす者はいなかった。
『少し宜しいか?』
ミリシアル代表が手を挙げる。
『此処にお集まりの各国は、世界に多大な影響力を持つ国ばかりです もし、魔帝の様な好き勝手な振る舞いを許していれば、既に世界は混沌に包まれていた事でしょう 貴方の発言は、世界をより良く秩序あるものにしようとしている各国の努力に対する侮辱です 貴国がパーパルディア皇国から宣戦布告を受け、望まぬ戦争を強いられた事は良く存じています その穏やかならぬ心中はお察ししますが、行き過ぎた発言は慎む様に願います』
『貴国はそのパーパルディア皇国を列強と認定し、国際的な地位を認めていましたね?それはつまり、パーパルディア皇国がより良い秩序を築こうと努力していたと、貴国は認めていたと言う事ではありませんか?』
この指摘に、ミリシアル関係者は動揺する。
『現在、我が国は第三文明圏の復興と発展の為に尽力しておりますが、現地は秩序あるとは口が裂けても言えない酷い有り様でした 幼い子供が生き延びる為に盗みや殺人に手を染める事すらあるのです』
元属領は、全域がスラム化していると言っても過言ではない状態であった。
属領統治機構や軍駐屯地周辺であればそれなりに整備されていたが、それは現地駐在のパーパルディア人の為であり、現地民に対しては何ら還元されておらず、ただ荒れるに任せていた。
圧倒的な武力による恐怖支配により、荒事こそ少なかったお陰で表面上の犯罪率はそこまで高くはなかったものの、生き延びる為にあらゆる行為が日常だったのである。
『これが、より良い秩序を目指した先にある光景なのでしょうか?』
『論点がズレて来ています!当初の議題に戻したい所ですが、様々な主張によって収拾が付きませんので、今日の会議は此処で終了とさせて頂きます!』
リアージュが慌てて口を挟み、会議は2日後に持ち越された。
入室前は大いに盛り上がっていた面々は、退室時にはお通夜ムードとなっていた。
「「「・・・・・・」」」
何も言葉を発さず、暗い表情で歩く彼等の胸中は荒れ果てていた。
全世界を代表する立場にあり、五大列強国に牛耳られている中でも自国の存在を誇示し、更なる地位を獲得する。
その使命を果たす筈が、新参者の登場によって蚊帳の外に置かれてしまった。
下位とは言え列強を打ち破り、瞬く間に世界中の話題を搔っ攫った彼等は、この場に於いても誰よりも存在感を示した。
しかし、彼等の所属は文明圏外である。
長らく世界の中心として高度な文明と繁栄を築き上げて来た文明圏の外側、化外の地からやって来たぽっと出の蛮族。
どの様な力を持とうとも、文明圏外国な上に新参者は出しゃばらずに大人しくしているべき。
その程度の取るに足らない筈の存在が、この場の主導権を握り、あまつさえ世界最強の神聖ミリシアル帝国と渡り合った。
その様な特権が許されるのは、文明国の中でも特別強大な限られた国家のみ。
自分達こそがと誰もが考えていたにも関わらず、出来たのは列強の背後から野次を飛ばすだけであった。
惨めさが内から溢れ、プライドは傷だらけであった。
最早、過去の常識は通用せず、どうすれば良いのか解らない。
会議再開まで、彼等は新参者、日本とグラ・バルカス帝国に対して恨み言を吐き出し続けるのであった。
その夜、
代表団が、ミリシアル政府が用意したホテルで様々な談合を行っている中、帝国文化館の一室ではリアージュとモーリアウルが顔を合わせていた。
「由々しき事態だ・・・日本は着実に影響力を高めに来ておる。」
日本の発言力の増大に、モーリアウルの危機感は格段に高まっていた。
「それもこれも、あの海戦の真相を正直に明かしたからだ。あそこから、日本に対する視線が明らかに変わった。」
それまでの日本に対する各国の認識は、文明圏外国のフィルターが抜けておらず、興味はあれど多少の侮りがあった。
加えて、臨時連合軍結成案に唯一反対した事で大きな反感を買い、余計にミリシアル側に靡いていた。
日本を警戒している両国にとって理想的な流れであったが、それを自ら断ち切ってしまった事に苦言を呈する。
「仰る事は尤もですが、マグドラ群島の例があります。まして、今回の海戦で彼等は当事者だったのです。下手な嘘をついても無駄に心証を悪くした挙句、その場で真相をバラされますよ?そうなれば、全ての国が此方に疑念を抱きかねません。」
「うむぅ・・・」
リアージュの正論に口ごもる。
「まずは、彼等が何を求めているのかを分析しましょう。」
「そうは申すが、彼の国については何も判っていないも同然だぞ。」
「貴方は駐日大使を務めていると聞いています。日本について詳しいのでは?」
「いや、儂は魔帝に抗する鍵を見付け出す為に日本へと派遣されていたのだ。それ故、捜索ばかりで日本そのものに関して知っている事は殆ど無い。」
信じられない物を見る目を向けるリアージュだが、何とか気を取り直すと続ける。
「・・・とにかく、明後日に備えなければなりません。考えなければならないのは、鹵獲した敵艦と捕虜の処遇と、彼等の提唱した戦時条約についてです。」
「敵艦と捕虜は、やはり貴国で管理するのが良かろう。明後日の会議で、連携して日本の意見を封じ込めるのだ。」
リアージュは頷くと、具体的な手順を話し合った。
「では次に、戦時条約についてです。」
「その様な面倒な手続きなど必要無いと思うがな。何より、敵に配慮などいらんであろう。」
「いえ、必要でしょう。そうでなければ、此方が侵略者になりかねません。」
「流石に言い過ぎだぞ。」
モーリアウルは睨むが、リアージュは苦々しい表情をする。
「モーリアウル殿、これまで世界で起こった戦乱によって引き起こされた事態を御存知ですか?」
戦争とは、軍隊同士の殺し合いだけでは済まない。
血肉の海を歩き、無数の死を目にした人間は、その環境に適応した行動が日常となる。
破壊と略奪が常態化し、何も知らない民間人がその餌食となり、十万単位の犠牲も珍しくない。
「敵地へ侵攻すれば、それが当たり前なのです。」
「連中は、それがやってはならない蛮行である事も解らんのか?」
竜人族は、他種族に対する差別意識が酷く、敵には苛烈だが、無関係な一般人への無体は許さない。
「民族浄化でも考えない限り、可能な限り抑えようと各国も努力します。ですが、補給の問題や兵士の休養の問題から、やらざるを得ないのです。」
「待て、やらざるを得ない詳しい理由も聞きたいが、民族浄化だと?そんな事をやっている大馬鹿がこの世界にはいるのか!?」
「残念ながら、一民族を絶滅させる様な蛮行は、世界各地に記録が残っています。そして日本も、パーパルディア皇国から殲滅戦の宣言を受けていました。もし敗北していれば、日本人はこの世から消されていたのです。」
モーリアウルは、頭痛で頭を抑える。
「このまま世界が第二文明圏でグラ・バルカス帝国と戦った場合、ほぼ確実に現地民が進出した軍によって大きな被害を受けます。」
「具体的には?」
「正直、口にするのも憚られる様な事です。」
(何たる事・・・これでは、日本の言う通りになってしまうではないか!)
侵略者から解放する筈が、自分達こそが悪逆非道な侵略者となり、魔帝の後追いとなる。
直近にも実例がある以上、反論する術は無かった。
「本件で賛意を示せば、我々が日本と連携する気があるとのアピールにもなります。彼等を野放しには出来ませんが、一方であまりにも反感を持たれる露骨な抑え込みも慎まなければなりません。あくまでも、共に戦う仲間として関係を強化しましょう。」
「此方から申し出ておいて何だが、難儀な事だな。」
「それでもやらなければなりません。失敗すれば、この世界は再び絶望が支配する事になるのですから。」
決意を新たに臨む面々だが、その試みはいきなり躓く事となる。
2日後の会議へ向けて準備をしていたのは彼等だけではなかった。
日本側も、ムーと連携して各国との意見調整を行っていたのである。
その結果、鹵獲艦と捕虜の管理は日本が行う事が決定した。
更に、戦時条約に関する話に入ると、予定通り賛意を示したが、日本側から更なる提案がされたのである。
曰く、「第三文明圏で運営されている国際組織に参加しないか?」と。
結果、この話はそれぞれ持ち帰り、どうするかは個々の意思に委ねられる事となった。
場は完全に日本主導となり、先進十一ヶ国会議の代替になり得る国際組織の存在まで仄めかされ、両国はただ翻弄されるばかりであった。
波乱万丈となった今回の会議は、これまで保たれて来た世界秩序の崩壊と、既存の強国を押し退ける新興国の存在感が強烈に印象付けられる結果に終わった。
次は、言及した国際組織についてです。