妄想日本国召喚   作:石原

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 導入をどうするかが一番難しくなる事が多い


第十五話  後悔先に立たず

 中央暦1640年9月10日

 東京に於いて、国際機関<世界連盟><日パ戦災復興基金>設立。

 同日、第三文明圏の大半の国家が世界連盟に加盟。

 10月10日

 フェン王国、世界連盟へ加盟。

 11月1日

 リーム王国、世界連盟へ加盟。

 12月20日

 ムー、世界連盟へ加盟申請を行う。

 中央暦1641年1月29日

 日パ戦災復興基金、<国際開発銀行>へ発展的解消を行う。

 後日、世界連盟加盟国が参加。

 

 

 ・・・ ・・・ ・・・

 

 

 

 中央暦1642年5月1日

 先進十一ヶ国会議を主催した神聖ミリシアル帝国の中心地であるアルビオン城。

 会議を無事に乗り切った事で、今後の世界情勢を大きく左右する次なる舞台となる筈のこの場所は、重苦しい空気に包まれていた。

「敢えて聞こう。お前達は何の為に今の役職に就き、国の中枢に携わっているのだ?」

 上座に座る皇帝ミリシアル8世が、居並ぶ臣下を睨む。

 しかし、自ら火の中へ飛び込もうとする者はいない。

「・・・ペクラスよ、答えてみよ。」

 指名されたペクラスは、死人の様な顔で立ち上がる。

「く、国と国民を脅威から守り、国益を追求し、国家をより強くする為に」

 

 「戯けが!」

 

 皇帝の怒鳴り声が、ペクラスの言葉を遮る。

「そんな事は何処の国でも同じ事だ!我が帝国が負っている義務を忘れるとは、お前はそれでも大臣か!?」

 いつか来る魔帝の復活に備え、世界を導く。

 これこそが神聖ミリシアル帝国が生まれ持った義務であり、その為に世代を超えて魔帝の遺産を解析し、世界でも突出した強国として君臨して来た。

 しかし、突出して強くなってしまった事が、今回は仇となった。

 突如として出現した二つの新興国。

 この世界の頂点に立ち、秩序を保って来た五大列強国の内の2ヶ国、レイフォルとパーパルディア皇国を降し、新たなる強国として瞬く間に存在感を示したグラ・バルカス帝国と日本国。

 先進十一ヶ国会議への参加資格ありと見做したミリシアル帝国は、両国を会議へ招待した。

 だが今の彼等は、その事を猛烈に後悔していた。

 グラ・バルカス帝国は、会議の場で全世界を大いに侮辱して宣戦布告をした上、あろう事か会場であるカルトアルパスを襲撃した。

 本来であれば、世界を知らない身の程知らずの愚行として嘲笑される筈が、世界最強と謳われた第零式魔導艦隊が殲滅され、カルトアルパスを防衛していた戦力も全滅してしまった。

 これだけでも世界を揺るがす大事件であるが、そこへ追い打ちを掛けたのが日本である。

 ミリシアル軍でさえ敵わなかったグラ・バルカス艦隊を、護衛の為に派遣されていた日本艦隊は実質単独で返り討ちにし、あまつさえ戦艦と空母を鹵獲したのである。

 その中には、レイフォルを単艦で滅ぼし、その名を轟かせたグレードアトラスターも含まれていた。

 ミリシアル帝国にとっては良い所など何も無く、面子を守ろうと情報操作を試みようとした所、いつの間にか正確な情報を入手していた日本によって真相をバラされ、逆に面目丸潰れとなってしまった。

 とは言え、それだけであれば皇帝が此処まで激怒する事もなかった。

 列強とは言え、自分達からすれば取るに足らない下位の2ヶ国を降した程度の、しかも文明圏外国家。

 そうした偏見と慢心は皇帝自身にもあり、本人にとっても大いに反省すべきだと明言していたからである。

 しかし、以前から広範囲に渡って影響力を行使しようと盛んに動き回っていたと判れば話が変わる。

「お前だけではない!揃いも揃ってこれ程の動きを見過ごすとは、何たる怠慢か!」

 立ち上がって怒鳴り続ける。

 先進十一ヶ国会議の最後に、日本から参加を提案された国際機関。

 ロウリア戦後より構想され、日パ戦争を機に具体化したそれは、第三文明圏の新秩序を目指すべく創設された。

 その結果、今や第三文明圏の全ての国家(元第三文明圏外国も含まれる)が参加し、それどころかムーまでもが加盟している。

 2年近く前から始動していたこの巨大プロジェクトを、ミリシアル首脳部はこれまでまともに把握していなかったのである。

 正確には把握していたが、辺境の取るに足らない動きに過ぎないと考え、放置していたのである。

 その為、会議の席上で日本がこの国際機関に関して言及したのは、ミリシアル側からすれば青天の霹靂であり、まともな対応は何一つ出来ず、他国と同様話を持ち帰るしかなかった。

 そして、肝心の皇帝がこの話を知ったのは会議が終了し、代表団が帰った後であった。

「フゥッ・・・何たる事か・・・情けない・・・」

 怒鳴り疲れて座るが、臣下の怠慢に愚痴が止まらない。

「陛下」

 傍らに控える侍従が水を差し出す。

「ああ」

 怒鳴り散らした事で喉が渇いており、一気に飲み干す。

「フゥーーー・・・すまんな」

 水を飲んだ事で頭が冷え、臣下へ向き直る。

「話を進めよう。日本が設立したと言う国際機関だが、詳細を説明せよ。」

「はい」

 ペクラスが再び立ち上がる。

 隣に座っている外務官僚も立ち上がり、大使館を通して日本から渡された資料を広げて補佐する。

「それでは、御説明致します。」

 レリス連邦とゼジラーベ連邦が成立し、日パ戦争後の国境線が確定した事で、日本は新たな国際秩序の構築を始めた。

 第三文明圏の領域を再定義し、その中を日本を中心とする一大経済圏とすべく、二つの国際機関を立ち上げた。

 それが、<世界連盟>と<国際開発銀行>である。

 世界連盟は、国際法の類が存在せず、倫理的にも旧世界の先進国に遠く及ばない現状から、フェン王国の事例の様な事態が頻発する事が危惧され、全加盟国に効力が及び、強制力を持って秩序を保つ事を目的としている。

 世界連盟には複数の下部機関が存在し、加盟国はそちらへの加盟も義務付けられる。

 

 国際立法機構…国際法の制定を行う機関。

 国際海洋機構…国際法によって定められた海洋法を元に、海上交通を含む海の管理を行う機関。

 国際航空機構…国際法によって定められた航空法を元に、空の管理を行う機関。

 国際警察機構…加盟国の包括的な治安維持に関する機関。

 国際経済機構…加盟国の包括的な経済協力に関する機関。

 国際医療機構…加盟国の包括的な医療活動に関する機関。

 国際教育機構…加盟国に対する教育機関の設置、及び教育内容に関する指導を行う機関。

 国際司法裁判所…国際法違反に関する裁判を行う機関。

 国際度量衡統一局…各種単位の世界基準を定める機関。

 国際為替調整委員会…各種貨幣の為替レートを決める機関。非加盟国の貨幣も要請があれば決められる。

 

 これ等は、現在は全てが日本によって運営されており、活動内容も旧世界の経験を元に日本によって整備されているが、将来的には各国からも人員を募るものとしている。

 加盟国は、現時点で30ヶ国を超えており、全加盟国が参加する総会と、加盟国の中から選出された一部の国が参加する代表者会議がある。

 全加盟国には、三つの権利が認められている。

 一つ目が、各種提言を行う権利である。

 法改正が必要であると感じたり、新たな国際機関の設立、又は既存の国際機関の改革を提言、或いは特定の国家が起こした国際問題を取り上げる等が出来る。

 何らかの提言がされた場合、その内容が法的に問題が無く、尚且つ提言国の日頃の素行に問題が無いと判断されれば、問題の規模に応じた会議を開いて可否を決める。

 ただし、乱発されても困る為、提言出来る回数には制限がある。

 二つ目が、投票権である。

 総会で可否を決める際、投票によって決められるが、全加盟国に一票の権利が与えられている。

「何と言う規模だ・・・」

「加盟さえしていれば、どんな小国にも発言権があるのか。」

「短絡的に過ぎる。世界を正しく導くには、賢明な大国が率いてこそ達せられるものだ。」

 その辺にいる小国は、野蛮で貧弱だからこそ小国の地位に甘んじるしかない愚か者の集まりに過ぎない。

 世界を導く役割は、確固たる力と影響力を持った選ばれし強国にのみ許された特権。

 その考えの元、ミリシアル帝国は極一部の力を持った国だけを招待し、会議を開催して来た。

「ふぅむ、何と異質な・・・だが、画期的だ。」

 大半が馬鹿にした意見を述べる中、皇帝だけは感心した様に呟く。

「一部の強国のみを集め、世界を導いた気になっていた我が国と違い、日本は本当の意味で世界を纏め上げようとしているのか。」

 嘲っていた面々は、皇帝の言葉に目を剥いた。

「続けよ」

 皇帝は、ペクラスへ説明の続きを促す。

「続きまして、代表者会議について御説明致します。」

 総会は、原則全加盟国の参加が必要である関係上大規模とならざるを得ず、出席のスケジュール調整だけでも手間が掛かり、そこから意思統一まで持って行くのにも相応の時間が掛かる。

 しかし、国家の垣根を越えて対処しなければならない問題は多い。

 それら全てに総会を開いて対応する事は事実上不可能である為、大きな問題では総会を開き、それ以外では小規模な会議で迅速に対応するとしている。

 それが、代表者会議である。

 その名の通り、加盟国の中から選ばれた一部の代表国によって開かれる会議である。

 代表者会議の出席権は、理事国に選出された国が持つ。

 そして、これが三つ目の権利に繋がる。

 世界連盟の理事国の選出は、全加盟国に立候補と推薦(任命と罷免の両方)の権利が認められており、年一回申し出る事が出来、総会で可否を決定する。

「加盟さえしていれば、理事国にも誰でもなれる可能性があるのか。」

「野心の強い国が主導権を握ったらどうするつもりだ?」

「権利権利と何でもかんでも認めていては、それこそ秩序を乱しかねんわ。愚か者は何処にでもいるのだからな。」

「いい加減にせんか」

 嘲りの言葉が止まらない臣下に対し、皇帝が強い口調で口を挟む。

「その慢心が日本を見誤り、これ程の動きを見逃し、グラ・バルカス帝国に敗北した原因だといつになったら理解するのだ?」

 気まずい空気が流れ、口を閉ざす一同。

「ペクラス、続けよ」

「では続きまして、国際開発銀行について御説明致します。」

 日パ戦争後のフィルアデス大陸の復興を目的とし、日本版マーシャル・プランと称された資金援助を実行する為に設立された機関が、<日パ戦災復興基金>である。

 復興の為の各種事業は日本主導で行われるが、その為には日本円が必要となり、各国へ供給する為に設立された。

 また、この援助は紙幣を浸透させる目的もある。

 この世界では、ミリシアル帝国とムー以外は旧来の金銀銅貨が使われており、紙を金と認識する価値観を理解出来ていない。

 そこで、復興を通して様々な日本製の高品質なインフラや製品を見せ付け、それ等の導入の為に供給した紙幣を使わせる事で、紙が金として機能する事を理解させる。

 既に、日本製品の価値は誰もが認める所であり、日本から輸入を行うには日本円以外は受け付けない以上、紙幣にはそれ等製品を購入可能な価値を持つと強制的に理解させられるのである。

 そうした意図を持っていざ始めようとした援助は、いきなり躓いた。

 まずは、最も深刻なレリス連邦とゼジラーベ連邦から援助を行い、日本政府によって斡旋された様々な企業や支援団体がフィルアデス大陸で各種支援を始める筈であった。

 その為には現地の情報が必要だが、パーパルディア本国の臣民統治機構に保管されていた資料を元に計画を進める事となった。

 しかし、此処で深刻な問題が生じた。

 確認した資料と、先行して現地入りした政府関係者の報告に、大きな食い違いが存在し、各所で混乱が生じた。

 その原因が、属領統治機構の腐敗である。

 特に、ルディアスが即位してからの拡大路線により、そこへ便乗して必要以上の無体を働き、甘い汁を啜る汚職官僚が蔓延していた。

 その為、本国に対する報告は改竄だらけとなり、その実情を隠す為に本物の資料の大半が処分され、正確な実態を知る術が無くなっていたのである。

 この実情が明るみになると、準備を進めていた事業団体は困り果てて現地入りを延期する騒ぎとなったが、日本政府はこの状況を奇貨とした。

 今後、日本は第三文明圏との貿易を推し進める予定であるが、その為のインフラは貧弱の一言であり、日本にとって足枷となっている。

 今回の復興を通してそうした状況にメスを入れるつもりではあったのだが、まともな管理が出来ていない現状を逆手に取り、都合の良い区分けを行う事としたのである。

 そして、その開発の手を戦火に晒されていない周辺国まで波及させ、第三文明圏全土を日本製インフラで整備する。

 その為には、戦災復興を名目とした日パ戦災復興基金では力不足であり、旧世界のADBの様な本格的な融資を可能とする機関を整備する事となった。

 こうして日パ戦災復興基金を発展的解消し、新たに設立されたのが<国際開発銀行>である。

 この銀行は、各種ライフラインの他、農業インフラや家屋の建設も含む大規模な融資を可能としており、既に様々な事業へ融資を行っている。

「現在、日本はフィルアデス大陸各国へ大規模な港湾の整備を行っており、そこから内陸へ鉄道が延びつつあります。また、一部では日本軍の在外基地の建設も行われているとの報告も入っております。」

「何たる事だ・・・これでは、第三文明圏全てが日本の支配下に入ったも同然ではないか。」

 皇帝は、日本の動きが想像以上である事に危機感を覚える。

「ペクラス、日本軍が設置していると言う在外基地は何処にあるか判るか?」

「具体的な位置は公表されておりませんが、アルタラス王国、クワ・トイネ公国、クイラ王国に設置されている事を突き留めており、それ以外にも設置されている国がある事は確実で御座います。」

「予想される場所は?」

「現在の所、シオス王国とマール王国、そしてトーパ王国と予想しております。」

「ふむ・・・」

 皇帝は、脳内で第三文明圏の地理を思い起こし、その影響を勘案する。

(フィルアデス大陸を包囲する形になるな・・・第三文明圏に対する侵略があった場合、日本軍を中心とする迎撃態勢を直ちに取れる配置であると同時に、内輪で問題が発生しても全方位から対処可能だ。直接軍を置かれる国は言うに及ばず、それ以外にも効果的に影響を及ぼす事が可能だ。この様な策を考え出すとは、侮れん国だ・・・)

 この世界の統治方法は、自国の領土とする直接支配と、属国として傘下に置く間接支配があり、ミリシアル帝国も同様の手法で統治を行っている。

 一方、日本の手法は現地国家を主権を持った独立国として扱い、原則各国の統治に口を出さず、あくまでも共に手を携える同盟相手として共生関係を築き、支配はしない。

 しかし、最も力の強い日本が隠然たる影響力を持つ事実は変わらず、各国が生き残ろうとすれば日本の下に付くしか無い。

 それを、旧来の方法によって強制するのとは異なり、各国が自主的に選択したがる環境を整え、自主的だからこそ反感が極めて低く抑えられ、当初より安定した統治を行える。

「フィアーム」

「はい」

 呼ばれたフィアームが立ち上がる。

 フォーク海峡海戦の結果もあり、先遣使節団もこの場に呼ばれている。

「今の所、お前が我が国で最も日本を熟知しているだろう。お前から見て、日本はパーパルディアに代わる存在となり得ると思うか?」

 少し考え、口を開く。

「代わるどころではないと愚考致します。」

 つい最近まで軽視されていた人物である事もあり、余計な口答えに苦々しい表情をする者が現れる。

「どう言う意味だ?」

 皇帝自身は特に気にする事もなく、更に問う。

「前提として、パーパルディア皇国は極めて苛烈な搾取を属領に対して行っておりました。その上、周辺国にも傲慢な態度で接し、様々な利権を吸い上げていた事で不満や憎悪が蓄積しておりました。その状況から解放された直後から、日本による温和な隣人外交が展開されたので御座います。」

「つまり、パーパルディアの支配を受けていたからこそ、その落差から日本による体制がより強固になったと言う事か?」

「その通りで御座います。」

 エモール王国との秘密協定を知っている者が、難しい表情をする。

「その体制に、我が国が食い込む事は出来るか?」

「その為には、世界連盟に参加するしか御座いません。他の方法で干渉を行う場合、現状を変えさせまいと日本を中心に一致団結して対抗するでしょう。」

「ふーむ・・・」

「また、私が調べた限りでは、日本の政府組織は極めて高度に統制されており、パーパルディア皇国の様な短絡的な行動に出る事は有り得ません。そして、軍事組織につきましても高い規律を誇っており、民間人や民間施設に対する攻撃を固く禁じ、それを可能とする高度な訓練を受けております。パーパルディア本土に対する攻撃で、軍事施設と兵器生産施設以外への被害が何も無かった事が判明しております。」

「まさかそんな事が・・・」

 軍関係者は、この話を信じられず驚愕の表情をする。

 民間人や民間施設への誤射は、1990年代に入るまでは当たり前に存在した。

 死と隣り合わせの状況で、民間人と軍人の撃ち分けなどやっている余裕など無い上に、技術的にも困難を極める。

 それを実現出来るのがどれ程の事か、軍事に携わる者は嫌と言うほど知っている。

「その点でも、日本はパーパルディアの遥か上を行っていると言う事か・・・シュミールパオ」

「はい」

「我が軍に同様の事が可能か?」

 少し躊躇った後、口を開く。

「残念ながら・・・」

 皇帝は不満げな顔をしたが、何も言わない。

「リアージュ、他に何か意見はあるか?」

「陛下、決して日本国を敵に回してはなりません。フォーク海峡で日本軍が見せた力など、ほんの一部でしか御座いません。決して、決して・・・日本国の心証を損ねませんよう。」

 平身低頭し、必死の形相で言葉を重ねる。

(何もかも遅かったか・・・)

 日本を危険視し、体制に楔を打ち込もうにも、とうに機を逸している。

 リアージュの様子から察し、肩を落とす。

「陛下」

 立ち上がって口を開いたのは、西部方面艦隊司令官 クリング である。

「どうした?」

 アグラが睨んで押し留めようとするのを、皇帝が止めて尋ねる。

「誠に失礼ながら、進言をさせて頂きます。」

「構わず申すがよい」

「現在、日本国とグラ・バルカス帝国の出現により、急速に情勢が変化しております。情勢の変化に鑑み、艦隊の配備状況の見直しを行い、今後の変化に対応出来る様に備える必要があると愚考致します。」

「ほう」

 クリングの進言に、皇帝は感心した様に声を上げる。

「お前の進言は尤もだ。現在の配備状況は、東西にパーパルディアとレイフォルがいる事が前提だからな。その程度の想定では、どちらにも対抗など出来ぬ。アグラ、シュミールパオ」

「「はい」」

「外務省と情報局と連携し、日本国とグラ・バルカス帝国の正確な情報を集め、新たな国防計画を策定せよ。」

「畏まりました」

 2人に頷くと、皇帝は立ち上がる。

「余は少し席を外す。よいか、同じ過ちを繰り返してはならん。新参者にこれ以上好きにさせぬよう、全力で取り組め。」

 そう言い残し、侍従と共に廊下へ出る。

 少し歩くと、頭を抑えて壁にもたれ掛かった。

「陛下?」

 体調を崩したかと思い、慌てて人を呼ぼうとするも、手で制して止める。

「何たる醜態だ・・・あれ程居並んでおる臣下の中で、まともな提言や回答が出来る者が数える程しかおらん。これでは、我が国は主導権をあの新参者共に奪われ、列強の地位からも転落するかも知れん。いや、マグドラ群島でグ帝に敗北し、フォーク海峡で日本にお株を奪われた時点で、既に手遅れだろう。何と情けない・・・何たる事、何たる事だ・・・」

 長年、皇帝の傍にいた侍従は、これ程までに思い悩み、自国の未来を案じる姿を見た事が無かった。

 御年4000歳に達し、町エルフとしては異常な長寿を記録している彼は、その年齢に見合った見識を持ち合わせている。

 にも関わらず、出て来る言葉は何の生産性も無い現状を憂うものばかりであった。

 聡明な彼でさえ、極めて困難な状況にある事を嫌でも思い知らされる。

 それは、国政に関わる権限を持たない侍従にも、国家の暗澹たる未来を自覚させるのに十分であった。

 

 

 

 ・・・ ・・・ ・・・

 

 

 

 ムー  オタハイト

 

 

 レンガ造りの建造物が並ぶ整然とした都市である、ムーの首都オタハイト。

 その中心には、白レンガを使った一際目立つ王城が佇んでいる。

 その中では、国王 ラ・ムー の元で御前会議が開かれていた。

「・・・以上が、先進十一ヶ国会議の経緯で御座います。」

 会議から帰還した代表団が、説明を終える。

「まさか、第零式魔導艦隊が敗れるとは・・・」

「グラ・バルカス帝国・・・恐るべき相手だ。」

 目前に迫っているグラ・バルカス帝国の脅威。

 以前より、統括軍の情報分析課から上げられていた、自国を上回ると分析されていた敵の力。

 この世界では異質な科学に活路を見出し、技術を磨き、第二位の列強国に上り詰めたこのムーでさえ敵わないとする分析。

 軍部では大した抵抗も無く受け入れられたそれは、他では列強に勝るなど有り得ないと強い拒否感を露わにしていた。

 しかし、自国を明らかに上回っているミリシアル帝国が惨敗した結果は、事実を容赦無く叩き付けた。

 だが同時に、希望も見出した。

「マイラス達の報告は正しかったのだな。」

 ミリシアル帝国でさえ敵わなかった相手を返り討ちにした日本国。

 マイラスを中心とした一派は、以前より日本と深い関係を結び、新たな脅威に対抗すべきと主張していた。

 その理由が、日本の技術力がグラ・バルカス帝国を圧倒する程に高いとの分析結果が出たからである。

 荒唐無稽としか評せない分析に、大多数が相手にしなかった。

 それでも、必死の働き掛けで日パ戦争では日本側への観戦武官の派遣が実現した。

 結果は日本の圧勝であり、マイラスの分析の正確さが証明されたかに思われたが、観戦の報告がその評価をひっくり返した。

 目視圏外から対空目標を撃墜し、砲撃は百発百中の精度であったとの事であった。

 再び湧いて出た荒唐無稽な話に、相手にする者は誰もいなかった。

 しかし、グラ・バルカス帝国は違う。

 ラ・カサミ級の主砲を明らかに上回る大口径砲を搭載する戦艦、洗練されたデザインの単葉機、無限軌道によって疾走する戦闘車両等々・・・

 近代兵器を扱う軍人であれば、一見しただけで理解出来るその圧倒的な戦力。

 認めたくなくとも、自力では対抗出来ない事を認めざるを得なかった。

 その様な中で、日本から支援の申し出があった。

 軍部に伝えられたこの申し出は、マイラスの必死の説得と、軍部の冷静な判断によって実現した。

 そして日本へ派遣し、武器と戦術指南を受けた特別師団は、見違える様な精鋭に生まれ変わった。

 更に、今回の海戦で日本の力が本物である事が証明された。

 マイラスが必死に繋ぎ留め、手繰り寄せた日本との関係。

 それは、世界連盟への加盟にも及んでいる。

 大多数からすれば、第三文明圏との効率的な貿易を行える程度の認識だったが、その真髄は圧倒的多数の支持による正統性の確保にある。

 その上、出席国が自分本位な意見を叫ぶ事しかない先進十一ヶ国会議と異なり、世界連盟は加盟国間の安定を本気で議論し、危機があれば助け合う事を目指している。

 主要国でなくとも、多数の国々による後押しは力となり、時には日本すらも動かせる。

 若い技術士官一人の判断が、国の存亡を救おうとしていた。

「ユウヒ駐日大使によりますと、日本政府はグラ・バルカス帝国を明確に敵と認定し、我が国へ更なる支援を行う事を通達して参りました。」

「おお」

 外務省列強担当部課長 オーディグス の報告に、どよめきの声が上がる。

「具体的な支援内容につきましては、現在は検討中との事ですので、詳細の報告は後日改めて行います。」

 場の空気が明るくなる。

「落ち着かんか」

 ラ・ムーが口を開く。

「我が国だけではグラ・バルカス帝国に蹂躙され、多くの国民が犠牲になっていただろう。日本国のお陰で、多くの悲劇が防げるのだ。今後の為にも、日本国との関係を強化するよう意思統一せねばだな。」

「「「ハッ!」」」

 臣下の表情に迷いは無い。

 最早、日本の力を疑う者も、日本に助けを求める事に抵抗を示す者もいない。

(たった一人・・・たった一人の存在が、我が国の命運を変えた。いや、切っ掛けは一人だが、その機会を繋ぎ留められたのは、紛れも無く優秀な臣下達の働きあってこそだ。困難な状況にあっても、我が国の未来は明るいだろう。)

 国王は、更に議論を進める臣下を、笑みを湛えて見守り続けた。

 

 




 リアル国際機関って、まともに機能してるのあるかな?
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