中央歴1642年3月28日
ミリシアル帝国の魔導士キャンディー、日本国内のファッション誌の表紙を飾る。
ファッション起用された人物としては史上最高齢を記録し、注目を集める。
4月30日
鹵獲したグラ・バルカス艦が、日本艦隊によってカルトアルパスから引き上げられる。
同日、東征艦隊の連絡機の情報が、グラ・バルカス本国へ齎される。
・・・ ・・・ ・・・
中央歴1642年5月5日
真昼であるにも関わらず、大雨と工場から絶えず吐き出される煤煙によって薄暗い帝都ラグナ。
その中心である帝王府は、近代文明の象徴とも言える電気によって明るさを保っているが、内部の空気は外の空模様を反映しているかの様に暗かった。
「事の仔細を報告せよ」
帝王グラ・ルークスは、居並ぶ臣下を睥睨しながら低い声で言う。
「は・・・はっ、それでは、御報告致します。」
サンド・パスタルが応える。
グラ・バルカス帝国は、全世界を征服する事を目的として軍事行動を行っている。
そして、より効率的な征服を達成する為、世界の主要国が集結するこの機会にカルトアルパスへ襲撃を行った。
ところが、襲撃の参加戦力である東征艦隊が突如として連絡を絶った。
何が起きたのかと軍全体が混乱に陥ったが、数日置いてから連絡機によって報告が齎された。
その内容は、東征艦隊が壊滅状態に陥った事と、そこに至るまでの詳細な推移であった。
本格的な征服活動の第一歩目が失敗に終わった影響は凄まじく、直ちに御前会議が開かれる運びとなったのである。
「以上が、アルカイド司令官からの報告になります。」
ドンッ
サンド・パスタルが言い終えると同時に、テーブルを叩く音が響き渡る。
「馬鹿者が!敵の力を測り損ねるとは何事か!?我が国は既に宣戦布告し、全世界を敵に回しているのだぞ!今更、敵が思ったより強いからごめんなさいで済むと思っているのかぁ!国家の存亡に関わる事態でこの様な失態を犯すとは、軍部は弛んでおるのかぁ!」
怒鳴り散らしているのは、帝王府長官 カーツ である。
「軍部は弛んでおりません。帝王府は以前より、この世界の全てを取るに足らないと断じ、各地への侵攻を急かしていたと記憶しておりますが?」
帝王府に限らず、レイフォルの一件から「この世界は旧世界よりも遥かに遅れている」との認識が浸透しており、さっさと軍を進めて征服してしまえば良いと考えている者が多い。
中でも、帝王府は他の政府機関よりも遥かに格上であり、その圧力は軍部としても無視出来ない。
「グッ・・・なら、敵はどんな魔法を使って我が軍を退けたのか言ってみろ。」
先を促され、サンド・パスタルは表情と姿勢を正す。
「アルカイド司令によりますと、東征艦隊を壊滅状態に追い込んだ攻撃は、ミリシアル製であると推測されるとの事です。」
「その根拠は?我が国に被害を与え得る相手として、ムーや日本国も想定されているだろう?」
「根拠としましては、両国の技術水準にあります。両国とも科学技術を利用している為、どの程度の水準の兵器を使用しているかはほぼ正確に推測可能です。その上で、我が方の想定を上回る何らかの兵器を保有していたとしても、ある程度想定を上回る被害は受けると思われますが、東征艦隊を壊滅状態に追いやる程にはなりえません。これは、アルカイド司令の結論ですが、軍部としても同様の結論でいます。」
グラ・バルカス帝国へ明確に対抗出来る戦力を持つと目されているミリシアル帝国。
一定の被害を覚悟する必要はありつつも、敗北は有り得ないと目されているムーと日本。
仮に、把握しているよりも強力な戦力を持つ場合、どちらの方が脅威かは議論の必要も無い。
「また、ミリシアルが盛んに宣伝していた第零式魔導艦隊は、真の戦力を隠す為の偽装であった可能性があるとの推測もされております。」
「つまり、情報局は見せ札にまんまと引っ掛かったと言う事だな。」
その場の視線が、同席している情報局関係者に集中する。
「責任の擦り合いなどしている場合か?」
ルークスの冷めた声が割り込み、場が凍り付く。
「情報局が齎す情報に依存しておきながら、お前達に責任が無いとでも言う気か?今更その様な事を言うならば、最初から強大な敵がいると疑っておけばよかったではないか。」
気まずい沈黙が流れる中、更に言葉を重ねる。
「これまでに何か、重大な情報は入って来ておらぬか?」
「残念ながら・・・」
その返答にルークスは口を閉ざし、カーツが話を進める。
「今後はどう対応するのか言ってみよ。」
「今後は、まずは敵の漸減を優先します。具体的には、脅威であるミリシアルとの直接対決を避け、それ以外を早期に征服します。これにより、最終的に戦力をミリシアル戦に集中する事が可能になります。」
「馬鹿者が!そんなに都合良く事が運ぶ筈がない!敵が大人しく我等の行動を待つとでも思っているのか!?」
カーツが怒鳴るが、落ち着いて答える。
「無論、敵の反撃行動が予想されますが、これにつきましては十分な迎撃が可能と見ております。」
「何故そう言える?」
「不可解な事に、ミリシアルは周囲とは隔絶した力を持ちながら、自ら世界を統治する意思を持っておりません。彼等が望むのは、この世界を主導的な立場で牽引する事にあります。従いまして、我々に対する反撃行動は、世界各国との歩調を合わせて行われる事になるでしょう。そうなれば、意思統一や戦力の集結だけでも相当な時間を要します。その間に、我が軍も十分な準備が可能です。カルトアルパスの失態を繰り返さない為にも、我が軍の総力を挙げて迎え撃ちます。」
「それで、勝てるのか?」
ルークスの問いに、サンド・パスタルは冷や汗を浮かべる。
「現状では不確定要素が多く、確かな事は申せません。」
カーツが青筋を浮かべるが、ルークスが押し留める。
「しかしながら、我が国の存亡が懸かった一戦となる事は間違い御座いません。勝てると断言出来ない事は申し開きしようも御座いませんが、これを切り抜ける事が出来ねば、我が国はパガンダの蛮行を再び味わう事となるでしょう。」
苦渋や怒りの表情を浮かべる一同。
皇族を公開処刑し、グラ・バルカス帝国の逆鱗に触れたパガンダ王国。
この事件は、ルークスとしても痛恨事として記憶されている。
(帝国臣民を、二度と原住民の餌食にしてはならん・・・あの様な蛮行がまかり通る野蛮な世界なのだ。何としても支配下に置き、同様の悲劇を起こさぬ様にせねばならん。)
「幸い・・・と申しますか、アルカイド司令の死を賭して送られた情報により、敵の通常戦力であれば我が軍が優位に立てる事が判明しております。その上、ミリシアル以外の戦力はほぼ脅威にもならない程度である事も証明されております。総括しますと、我が軍が総力を挙げて迎撃すれば、敵は大損害を免れません。世界を牽引すべく動いているミリシアルの名声は落ち、その他は国の存亡を脅かす程の痛手を被るでしょう。秘密兵器の存在が不確定要素として残っており、我が軍も大損害を覚悟せねばなりませんが、いずれにせよ敵もタダでは済まないでしょう。これを乗り越えれば、今後の征服活動をより円滑に行う事も可能となります。」
そこまで言うと、一旦区切る。
「こうした予測が立てられたのも、東征艦隊の犠牲があっての事で御座います。皆様方、彼等の犠牲に報い、帝国を守る為にも、どうか一時の不平を飲み込み、我が軍を信じて御協力下さい。」
当初の目的は果たせなかったが、東征艦隊は国の為に命を懸けてバトンを繋いだ。
国に忠誠を尽くす身として、この場の誰も異論は挟めなかった。
そしてルークスが立ち上がり、口を開く。
「皆の者、サンド・パスタルの言う通り、勇敢な将兵の犠牲を無駄にしてはならぬ。余の名に於いて命ずる。各々持ち場に戻り、いずれ押し寄せるであろう敵の襲来に備えよ!」
全員が目付きを変えて立ち上がり、答礼する。
そこで御前会議は終了し、次々と退室した。
側仕えも退室させ、一人になったルークスは俯いて静かに呟く。
「この世界は我々に何を求める?」
震える手で顔を抑えるが、その目には怒りが籠っていた。
「世界を脅かし、撃退される道化を演じさせる為か?」
一国を背負う者として、その様な不条理を認める訳にはいかない。
確かな決意のもと、帝国を転移させたであろう何者かを睨み据える。
・・・ ・・・ ・・・
中央暦1642年5月11日
ベテルギウスの艦橋に佇んでいるシエリアは、酷く落ち込んでいた。
勝利を確信して先進十一ヶ国会議へ乗り込み、自信に満ちた姿で全世界へ従属を要求した筈が、今では見る影も無かった。
しかし、それは彼女に限った話ではない。
かつて威容を誇った東征艦隊の姿は何処にも無く、僅か6隻を残すのみであった。
その6隻が行く先は、所属するグラ・バルカス帝国ではない。
周囲には、重厚な戦艦とは似つかない弱々しい印象を受ける日本艦が常時張り付いている。
この光景こそ、彼等が虜囚の身に落ちた事を示す何よりの証拠であった。
「我々は、本当にこいつ等に敗けたのか?」
アルカイドは窓際に寄りながら、何度目か分からない呟きを口にする。
目視圏内にいる日本艦は、本国で見せられた写真と何ら変わらない姿形をしている。
「何かの間違いだと思いたいです。我が艦隊が、あの様な貧弱な艦隊に敗れたなど・・・」
傍らにいる参謀が、悔しさを滲ませながら言う。
「奴等がどんな隠し玉を持っているのか判りませんが、事前に把握していなかった外務省の責任です・・・」
「シエリア代表、あまり自分を責めるな。仮に正確な情報を入手していたとしても、恐らく誰も真に受けはしなかっただろう。私も、こんな見た目の敵を手強いなどと言われても、一笑に付しただろうな。」
ミリシアル帝国が秘密兵器を持ち出したと推論を立てた過去の自分を嘲笑しつつ、アルカイドは言う。
彼等は、降伏後に日本艦隊の旗艦へ一時収容され、様々な尋問を受けたが、その際に見た日本艦の造りが明らかに異質である事を理解した。
船とは思えない清潔さや快適さ、端々に見える用途不明な道具や鋼材の質に至るまで、一見しただけで帝国の水準を凌駕していると理解した。
しかし、それだけでは部分的に帝国の技術を超えていると言う、本国の分析を上回る決定的要素とはなり得ない。
鋼材の質は高くとも、装甲など皆無に等しい、押せばへこみそうな程に薄っぺらい鋼板。
高性能を予感させるが、大柄な艦体に見合わない僅か1門の小口径砲。
(明らかに砲撃戦を想定していない造りだ。何をどうすればこんな不可解な設計になるのだ?空母はともかく、巡洋艦に至るまで。この分だと、戦艦を保有していないとの情報も真実だろうな・・・やはり解らん!奴等はどんな武器を保有していると言うのだ!?)
「12時方向、陸地を目視!」
自身の頭の固さに辟易していると、見張りの声が耳に入った。
「全く、この世界の広さには参るな。」
本国の出発から数えると、2ヶ月に及ぶ旅路となっていた。
「さて、この国の正体を見極めるとしようか。」
「綺麗な空だ・・・あまり発展はしていなさそうです。」
発展の代償として、深刻な大気汚染に晒されているグラ・バルカス帝国。
その基準から、彼等は汚染されていない日本はあまり発展していないと考えた。
「・・・私の目がおかしくなったのかも知れんが、港も周囲の船もやけに巨大過ぎないか?」
アルカイドは、数回目を擦ってから接近する佐世保港を見つめ、周囲へ問う。
「私の目もおかしくなってしまった様です・・・」
参謀が応じる。
「これが・・・日本?」
シエリアは、呆然と呟く。
巨大なクレーンが建ち並ぶ港湾、いくつも建ち並ぶビル、立体的な道路網
「この発展度で、地方都市に過ぎないと?何の冗談だ?」
ラグナに迫る発展ぶりに目を白黒させる。
「なら、この国の首都はどれ程の大都市だと言うのだ?」
「何たる事だ・・・我々は、日本を完全に見誤っていたのだな・・・」
敵に回してはならない相手を見誤り、そんな相手に喧嘩を売ってしまった事実に、後悔が沸き上がる。
誰もが祖国の未来に暗い展望を見出し、顔色を悪くした。
国防海軍佐世保基地
「ほーう、壮観じゃないか。」
「21世紀の御時世に、現役の戦艦にお目に掛かれるとはねぇ・・・」
佐世保市はお祭り騒ぎであった。
港には市民が戦艦をひと目見ようと詰めかけ、上空には少し離れた場所に報道ヘリが飛んでいる。
そうした喧騒を含めた光景を、佐世保基地から複数の海軍関係者が眺めていた。
「ただでさえクソ忙しいのに、こんな厄介事まで持ち込まれるなんてな。」
「装備開発に再編成に哨戒に海保との調整に親善航海に・・・プラス捕虜の受け入れと来た。」
「その上、守るべき範囲が広がり過ぎて戦力不足も重なってる。」
第三文明圏の盟主となった日本は、軍事プレゼンスの大幅な強化を迫られている。
元々、日本周辺地域プラスアルファを防衛範囲とし、そこへ反撃能力を上乗せする前提で軍の戦力は整備されていた。
しかし、現在の日本は多くの傘下を従える宗主国の立場にあり、それ等を守る義務を負っている。
ただし、旧世界の米軍の様に国外への大規模戦力の常駐をやる気は無い。
そうして可能な限り負担を減らしてはいるものの、それでも防衛しなければならない範囲は極めて広大であり、現有戦力ではどうしても不足してしまうのである。
「現地軍が早く使い物にならないと、こっちが潰れちまうぞ。」
「その為の新装備だ。まぁ、そのせいでクソ忙しくなってる訳だが。」
日本の独自負担を減らす一環として行っているのが、輸出装備の開発である。
現在想定されている敵対勢力は、良くて近世レベルの技術しか持たない現地国家ではどうしようもなく、いざとなれば日本が全て対応しなければならなくなる。
それを防ぐ為、一定以上の水準の装備を現地軍へ持たせるべく、各種装備を開発しているのである。
しかし、それによって問題となるのが、独自に野心的な行動を開始する勢力が出現する可能性と、第三者へ装備を密輸する可能性である。
そうした事態を防ぐ為、また日本の下で統一的な軍事力の制御を実現する為に、NATOの様な大規模な多国籍軍事組織の結成を準備している。
この組織は、当初より予想されている事態を禁止する規定を設け、違反した国へ厳しい制裁を科す罰則も事前に用意する事で制御する。
そして、日本製装備を入手するには、この組織へ入る事を絶対条件とする。
「まぁ、何にしてもまずは見物と洒落込もうじゃないか。」
「それもそうだな。せいぜい目の保養をさせて貰おう。」
東京 首相官邸
佐世保で受け入れが進む中、代表団を乗せた客船は横須賀へ入り、外務大臣は一足先に東京へ戻っていた。
到着すると、早速大臣を集めて閣議を開いた。
「外務大臣、まずはご苦労だった。一人の犠牲も無く無事に戻ってくれて良かった。」
代表して総理が言う。
「恐縮です」
外務大臣が応える。
「さて、大変な事態になったが、空白を作る訳にはいかん。今後はどう対応するのか、この場ではっきりさせよう。」
まずは、国防大臣が口を開く。
「グ帝は全世界へ宣戦布告しました。そこで最大の問題となるのが、第二文明圏の情勢です。次の標的は、ムーになる事は確実でしょう。」
「ムーは、グ帝の侵攻を防げるか?」
「残念ながら不可能です。ムーの戦力水準は、大半が日露戦争、良くて一次大戦レベルです。二次大戦の水準に達し、物量も当時の米軍並みのグ帝には、どうやっても敵いません。」
「ムーがグ帝に制圧される事態は、何としても防がなければなりません。もしその様な事になれば、我が国は再び危機に陥ります。」
経産大臣が前のめりに進言する。
転移後の日本は、資源に始まるあらゆる問題によって滅亡の危機に瀕した。
その状態から脱却し、比較的早期に立ち直れたのには、主に二つの理由がある。
一つ目が、資源供給である。
クワ・トイネ公国とクイラ王国から産出される豊富な資源が日本を破断面で踏み止まらせたが、更に日本にとって幸いだったのが、資源価格である。
原油を例に挙げれば、リッター10円前後で推移しており、それ以外も旧世界では有り得ない安値で供給されている。
その上、現地文明にとっては利用価値の無い資源も多く、ほぼ独占的な開発が出来ている。
二つ目が、ムーとの関係である。
内需が大きい日本とは言え、相応の貿易相手がいなければ経済が大打撃を受ける。
それを是正する為に第三文明圏を纏め上げ、多くの国と国交を結んで来たが、何処を見ても経済規模の小さな前近代国家ばかりであり、二つの大陸の主導権を握ってもまるで足りていない。
その状況にメスを入れたのがムーである。
近代国家として相応の国力を有するだけに、日本との貿易規模も他とは比較にならない上、更に重視すべき理由もある。
「ムーは、単なる我が国のお得意先なだけではありません。向こうのインフラを、我が国の船舶や航空機が利用可能な改修を行っておりますが、その費用の8割を負担してくれています。その上、各国に整備しているムー製の空港や港湾に関しても、大半をムー側が負担しているのです。そして、それ等の利用料も我が国に対しては格安に設定しており、新世界の貿易に於いてムーの存在は欠かせなくなっています。」
更に、輸出品にしても改修にしても、ほぼ全てを日本側の言い値で応じており、財界や世論もムーを助けるべきとの声が過半数を大きく超えている。
経産大臣に続き、法務大臣が口を開く。
「経済的な観点もそうですが、ムーはカテゴリーホワイトに分類している国です。特に強固な信頼関係を築けていると自ら認めておきながら、他国に蹂躙されるのを黙って見過ごしては、今後の国際関係に大きな影を落としかねません。」
日本政府は、国家と認めている勢力を対象に、複数の分類分けを行っている。
カテゴリーホワイト:最も信頼出来る重要なパートナーと見做される国家に分類されるクラス。技術流出防止法の一部緩和や武器輸出、技術移転も考慮される他、各種手続きの簡略化や関税面でも優遇される。
カテゴリーブルー:重要なパートナーと見做される国家に分類されるクラス。武器輸出を考慮される。また、日本が在外基地を設置可能な対象国は、ブルーかホワイトに分類されている国家のみである。
カテゴリーグリーン:友好的な関係を結べていると見做される国家に分類されるクラス。グリーン以上に分類されるには、国交を結べている事が条件となる。
カテゴリーイエロー:一般的な国家に分類されるクラス。新たに成立した、或いは認知したばかりの国家も、実態が判明するまではこのクラスに分類される。貿易その他の交流に制限が加わる。
カテゴリーオレンジ:警戒を要する国家に分類されるクラス。経済や外交等、様々な面で制限が掛かり、場合によっては各種制裁も考慮される。このクラスになると、政府から注意喚起が出され国交締結は困難だが、フェン王国とリーム王国は例外。
カテゴリーレッド:大きな警戒を要する国家に分類されるクラス。基本的に関係構築は有り得ないとされ、渡航禁止が課せられる。交戦前のパーパルディア皇国がこのクラスに分類されていた。
カテゴリーブラック:敵対国に分類されるクラス。交戦状態にある、或いは交戦が必至な国家がこのクラスとなり、政府による許可や命令の無い者が接触すると、罰則対象となる。
「そうは言いますが、場所は2万kmの彼方になりますから、此方の負担もかなりのものになります。」
財務大臣が遠い目をしながら言う。
「財務大臣、今やらなければその負担は倍化します。」
国防大臣が反論する。
「グ帝は潜水艦も多数保有しており、通商破壊に使用するのは確実でしょう。そうなった場合、此方も対応しなければあの大戦の二の舞となります。」
第二次世界大戦当時、旧海軍は艦隊決戦に傾倒するあまり通商路の保護に意識を向けず、結果として日本の海運力は崩壊し、敗北を早めた。
その時に使われた戦力も潜水艦であり、対潜能力を軽視していた旧海軍の装備では有効な対応は出来なかった。
「戦後、国防海軍では対潜能力の向上に血道を上げ、シーレーン保護の戦力も整備して来ましたので、グ帝が攻撃して来たとしても心配ありませんが、その為の哨戒を行うだけでもかなりの負担となります。」
潜水艦の厄介な点は、潜航されてしまえば直接目視出来ない点にある。
そのステルス性に加え、広大な海の中で極小の点に等しい物体を発見しなければならない。
いくら相手が二次大戦水準とは言え、簡単に出来ますとは言えない。
「そして、それは日本近海に留まりません。世界中で日本船籍が動いている以上、我が国からムーに至る全ての海域を守れなければ、邦人にも膨大な犠牲が出ます。」
米国と異なり、日本は全世界規模で展開可能な軍事プレゼンスを持たない。
無理矢理やろうものなら、数年でパンクするのは目に見えていた。
「そして、この様な状況が続けば世界経済に大きな影を落とし、財政にも悪影響を与えます。それを防ぐには、今動く必要があるのです!」
「解っています。派遣に反対している訳ではありませんから、落ち着いて下さい。」
そう答える財務大臣を纏う空気が変わる。
「ですが、野放図な派遣は許しませんよ?血税を使うのですから、節度は守って貰います。」
国家財政を司り、あらゆる政府関係者にとってラスボスとも言える財務大臣の圧は凄まじいものであった。
「も、勿論、その辺りは弁えています。ですが、先日も言った通り、弾薬の緊急増産は何としても了承して頂きたい。でなければ、派遣する以前の問題になります。」
「安心して下さい、その点は理解しています。」
話が一段落し、総理が呟く。
「それにしても、この世界の攻撃性にはうんざりさせられる・・・いくら殴り倒しても、向かって来る連中が後から後から湧いて出る。」
「我が国が技術的優位にあるのは幸いでした。それが無ければ、日パ戦争の時点で滅亡していたかも知れません。」
旧世界もかつては同様の世界であったが、今の世代にとってはつい最近まで歴史上の出来事に過ぎなかった。
異世界に来た事を改めて認識させられ、それが幸か不幸か判断しかねていた。
「最大の問題は、この状況を正確に認識出来ていない者が政府内にも多い事です。特に、若手にその傾向が顕著です。」
外務大臣は、会議派遣前の外務省内で発生した嫌がらせを思い出していた。
「我が国は戦後も修羅場を経験したが、それを知る世代も少なくなって来た・・・」
「緊張状態が続かないのは良い事ですが、国を運営する立場がそうなっては・・・」
内戦状態まで経験した戦後日本は、極東危機を最後に国家の命運を左右する程の事態は発生していない。
それからかなりの年月が経ち、働き盛りの世代はその頃を知らない世代が多くを占めている。
「やれやれ・・・国の内も外も、問題が無くなる事はなさそうだな。」
「そう言っていられるだけ幸運でしょう。国が無くなれば、その様な事を気にする事も出来なくなるのですから。」
問題はありつつも、日本を取り巻く情勢は多少の緊張状態を認識した程度であった。
自国の国益の為、余裕を持って国際社会の荒波へと向かう。
・・・ ・・・ ・・・
グラ・バルカス帝国 レイフォル地区レイフォル出張所 情報局技術部
カルトアルパスの一件以来、情報局は多忙を極めていた。
事前に集めた情報通りであれば、有り得ない筈の敗北。
それも、1隻たりとも帰って来ない異常事態。
消息を絶った東征艦隊の最後の報告から、その原因がミリシアル帝国にあるとされ、あらゆる方面からミリシアルに関する情報を寄越せと矢の催促が続いていた。
「おい、そっちはどうなってる?」
「・・・駄目だ、真新しい情報は何も無い。」
「チィッ、こりゃぁ相当なレベルで機密保持がされてるな・・・」
「だとしたら、諜報活動程度じゃどうにもならんぞ。直接潜入でもやらん事には埒が明かない。」
人の口に戸は立てられない。
秘密兵器だろうと何だろうと、何らかの形で噂話として市井に出回っているかと思えば、その様な痕跡は何処にも無く、防諜能力の高さに舌を巻いていた。
「潜入は他で既にやってるが、今の所は成果無しだ。」
「早いとこ何かしら掴まんと、ウチに対する風当たりがどんどん強くなるぞ。」
「そりゃぁ俺も解っちゃいるが、だから何か出せって言われても無いモノは無いんだよ!」
帝前会議ではグラ・ルークスに庇われた情報局であったが、それでも必要な情報を入手出来なかったとの不満は方々で膨らみ、態度に表れるまでになっていた。
「ああクソッ、そもそも軍の連中が勝ってればこんな事になってなかったんだ。毎年毎年大量の予算を分捕ってる癖に、だらしねぇ連中だぜ!」
「言ってる暇があったら手を動かせ!また嫌味を言われるぞ!」
愚痴を吐きつつも、出来る事は情報を集め続ける以外に無い。
気分が沈みつつも、職務に打ち込み続ける。
「・・・本当にミリシアルが東征艦隊を打ち破ったのか?」
次々と入る情報に埋もれ、ほかの職員から少し離れた場所にいる情報局員 ナグアノ は呟く。
彼は、無数の情報に触れる内に、ミリシアル帝国が最大の脅威とする分析に疑問を感じ始めていた。
全くの勘だが、長年情報に携わって来た経験が、他に重大な脅威がいると警告していた。
「・・・」
ナグアノは周囲を注意深く見回し、誰も自分に意識が向いていない事を確認すると、自身の裁量で動かせる諜報員に対し、新たな命令を飛ばした。