妄想日本国召喚   作:石原

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第十七話  迫る大戦

 中央歴1642年6月15日

 旧レイフォリアレイフォル出張所に於いて、ミリシアル、ムー、日本、アガルタ連名で、グラ・バルカス帝国に対し第二文明圏からの撤退勧告を行うが物別れに終わる。

 一方、グラ・バルカス帝国からは東征艦隊に関する情報開示を要求したが、拒否された。

 交渉は決裂し、戦争状態継続が確定した事を4ヶ国間で同意する事となった。

 6月20日

 ミリシアル帝国の魔導士キャンディー、日本国内で化粧品メーカーのCMに起用される。

 以降、新たな化粧品の共同開発が始まる。

 

 

 ・・・ ・・・ ・・・

 

 

 

 神聖ミリシアル帝国  在ミリシアル日本大使館

 

 

 先進十一ヶ国会議が終了してからひと月程経ってからと言うもの、日本大使館はかつて無く千客万来となっていた。

「ギリスエイラ公国大公ベイルマン様の名代として参りました、ラスティ と申します。」

 ギリスエイラ公国とは、ミリシエント大陸北部に位置するリビズエラ王国の貴族領であり、王国の東隣に位置している。

 ラスティは、君主である大公 ベイルマン の側近の一人であり、駐ミリシアル大使を務めている。

「貴国のお噂はかねがね聞き及んでおります。ロデニウス大陸の雄であったロウリア王国を一切の被害無く打ち滅ぼし、かつて第三文明圏で突出した力を有していたパーパルディア皇国を一方的に返り討ちにし、そして此度のグラ・バルカス帝国の襲撃でも活躍されたとか。」

「いえ、我が国は身を守る為に動いたに過ぎません。そこまで大袈裟に言われる程の事ではありません。」

 駐ミリシアル大使となっている近藤が応じる。

「そう謙遜なさいますな。貴国のこれまでの偉業は、誰にでも出来る事ではありませぬぞ。それに、あなた方は今や時の人なのです。自信と誇りを持って堂々と応対せねば、貴国に憧憬の念を抱き接する各国の使者に対し、礼を失する事にもなりかねませぬ。」

「忠告、心に留めておきましょう。」

 そう言いつつ、ラスティの進言は右から左へ流れた。

 先進十一ヶ国会議が終了し、出席国は予想される今後の情勢を睨んで動き始めた。

 同時に始まったのが、それ以外の国々による情報戦である。

 世界の主要国が一堂に会するこの会議は、その余波で翻弄される運命にある世界各国にとって、今後の自国の行き先を占う非常に重要な機会であり、あらゆる手段でどの様な内容が話し合われたかを調査する。

 そして、今回の会議で大いに存在感を示したのが、初参加の新興国である事を掴んだ。

 列強を降した事で、何かと話題になっていたグラ・バルカス帝国と日本国。

 第三文明圏は言わずもがな、第二文明圏も大いに注目していたが、第一文明圏はそこまで注目していなかった。

 彼等にとって最も重視すべきは、世界の頂点に君臨している神聖ミリシアル帝国であり、その強大さは誰もが知る所である。

 いくら列強を打ち破ったとは言え、所詮は文明圏外国であり、中央世界を構成する自分達の足元にも及ばない。

 そう思っていたにも関わらず、世界最強国として君臨していたミリシアル帝国を差し置いて、フォーク海峡で激しい戦いを繰り広げたのである。

 最初は、誰もが困惑しつつも偽情報だと断じていたが、すぐに複数方面から同様の情報が上がり、真実だと判断するに至った。

 ミリシアル帝国さえ凌駕しているかも知れない力を持つグラ・バルカス帝国。

 そのグラ・バルカス帝国を撃退した日本国。

 関係を持とうと殺到するのは当然の流れであった。

「さて、それでは本題に入りましょう。」

 もう何度目か、数えるのも面倒臭くなる程の美辞麗句や世辞の言葉を向けられ、今や近藤はその手の言葉を全て聞き流す様になっていた。

「既に御存知かと思われますが、我が公国は東からの脅威に対抗する為、軍事に力を入れて参りました。そのお陰もあり、世界でも上位に入る軍事力を持ち、世界に貢献するに至りました。」

 ギリスエイラ公国は、リビズエラ王国の盾として王国東部からの攻撃を防ぐ役割を担って来た。

 しかし、そのせいで軍事に比重を置かざるを得ず、産業の発展が遅れており、持ち前の軍事力を生かした傭兵業を生業とするに至った。

 彼等の長年に渡って磨き上げた力は本物であり、何処でも高い評価を受けていた。

 それは、公国に対する侵攻を抑止する効果を齎すばかりか、その実力が認知されるに従い国際的な地位も高まった。

 しかし、それは同時に新たな野心の始まりでもあった。

「我が公国はこれまで、リビズエラ王国を主と仰ぎ、ミリシアルを最も重要な国家として世界との関わりを持って参りました。ですがこの度、大きな転換を図る事を決断しました。」

(またか)

 近藤は、心を閉ざして次の言葉を待つ。

「今後は貴国こそがミリシアルに代わり、世界の頂点に立つ事となるでしょう。我が公国は、貴国との関係をミリシアルよりも重大なものと認識し、国交を結びたく思います。此方は、公王陛下の親書になります。」

 ラスティから近藤へ、重厚さを感じさせる書簡が渡される。

 そこには、国交の申し出を初めとし、リビズエラ王国からの完全な独立の支援要請が続き、その後は傭兵の派遣を日本に対してのみに限定する事を進言し、最後に日本の有力者との縁談の提案が書かれていた。

 全てを読み終え、近藤が口を開く。

「まずは国交についてですが、本国へ連絡しましょう。追って回答します。詳細につきましてはその後に。」

「おお、有り難う御座います!」

「次に独立支援についてですが、不可能かと思われます。」

「それは何故でしょうか?貴国は、パーパルディアの圧政に喘いでいた属領の独立を支援し、その後も多大な援助を行っていると聞き及んでおります。図々しいお願いとは重々承知しておりますが、どうか我が公国をお助け下さい。」

 ラスティは、若干の焦りを持って言う。

「助けるとはどう言う事でしょうか?」

「先程も申しました通り、我が公国はリビズエラ王国を東からの脅威から守って参りました。言い方を変えれば、リビズエラ王国の盾にされて来たのです。これまでは何とか防いで参りましたが、脅威に晒される度に数多の悲劇が起こりました。ところが、肝心の王国は体を張って守っている我が公国を労うばかりか、その程度は当然だと吐き捨てているです。更に、防衛には多大な経費が掛かるにも関わらず、自国の領地であるからと容赦無く租税の徴収まで行うのです。その額も、広大な領地だからと高額なのです。この様な仕打ちを受け、私も公王陛下もよくこう思うのです。何の為に多大な犠牲を出して戦い続け、何の為に我が民が賊共の凶刃に倒れねばならぬのかと。」

(大した脚本家だな)

 日本側は、既に一通りの情報を入手している。

 リビズエラ王国は、公国の離反を防ぐ為に一定の締め付けを行っている。

 しかし、それは飴と鞭の内の鞭に過ぎない。

 いざ東からの侵攻が発生すれば、王国はむしろ物資の援助や援軍の派遣を行っている。

 加えて、元から設定されている税は他より低めですらある。

 嘘だらけの証言であるが、軽蔑の目は向けない。

 国益を追求して動いているだけだと理解出来るからである。

 そして近藤も、国益に従って口を開く。

「貴国の多大な労苦に敬意を表します。」

「恐れ入ります」

(よし、情に訴え掛けられた様だな)

 ラスティは、内心で勝ち鬨を上げた。

「こう言いながら失礼だと承知してはいますが、その上でお聞きしたいことがあります。」

「何でしょう?」

「仮に我が国が貴国の支援を決断したとしても、タダでとは決して言えません。どの様な対価をお考えでしょうか?」

「そちらにも書かれておりますが・・・」

 親書を指しながら続ける。

「我が国は貴国以外に対し、傭兵の派遣を禁止します。」

「主要産業を衰退させる事になりますよ?それでは貴国は、今よりも苦しい立場に立たされるのではないですか?」

「例えそうであっても、他国への派遣を続けていては、知らず知らずの内に貴国と敵対的な行動を取る何処かの勢力へ加担する事になりかねませぬ。万に一つの可能性も見逃す訳には参りませぬ。例え相手が貴国の友好国としても、腹の内では何を考えているか知れませぬ。それこそ、リーム王国の様に。」

(そこまで把握してたか!)

 近藤は、公国の情報能力に感心する。

「それに、例え傭兵業を捨てたとしても、貴国との関係は我が公国に繁栄を齎すものと信じております。貴国は他の列強と異なり、相手が弱小国であろうとも共に栄える事をお望みです。しかし残念ながら、この世界は力こそが全てであり、力を示さない友好的な姿勢は多大な犠牲を強要してしまいます。パーパルディアの軽挙こそが何よりの証でしょう。更に嘆かわしい事に、未だに貴国に戦いを挑まんとする愚か者がおります。今や貴国は戦い尽くめとなっております。それがどれ程国を疲弊させるかは、よく存じております。」

 ラスティの言葉は、戦い続けて来た公国の人間としての本音であった。

「そこで我が公国が貴国の先鋒となり、貴国の為に戦いましょう。そして、貴国と敵対する愚か者は悉く返り討ちに遭い、貴国に跪く事になりましょう。先程も申しましたが、これからは貴国こそが世界の頂点に立つ事になるのです。微力ではありますが、どうかその偉業に我が公国が携わる事をお許し願いたいのです。」

(いつものパターンだな)

 近々、日本が世界の主導権を握ろうと動き始めると睨み、そこへ加担してお零れを狙う。

 日本の存在が広く知られて以降、関係を申し出る勢力が提示する最も多いパターンである。

「それと、これを御覧下さい。」

 ラスティは魔写を取り出し、近藤へ渡す。

「これはどなたですか?」

「公王陛下の御息女 フラン 様です。」

 そこには、見た目15歳程度の女性が写っていた。

「親書にあります通り、このフラン様を貴国のどなたかと縁談をと考えております。」

(本当に多いな・・・)

 エスペラント王国以来、日本人との縁談の申し出は官民問わず殺到している。

 国外へ滞在する国民は増加の一途を辿っており、現地民との関係が深くなればなる程、より深い関係になる者が出るのは必然であった。

 中には、行き遅れの脱却を目指して焦ってナンパを仕掛けた相手が軍関係者であり、そのまま結婚に至った例もある。

 それ自体は何の思惑も無い個人間の関係であり、そうであれば日本政府としても口出しするつもりはない。

 しかし、これは政略結婚の類である為、話が変わる。

「これは私個人の考えなのですが、フラン様のお相手として望ましいのは、皇族方か、貴方だと考えております。どうか、お聞き届け下さいませんか?」

「これはあくまで形式としてお聞きしたいのですが、貴国はこの婚姻によって、どの様な立場をお望みなのでしょうか?」

「い、いえ、立場などとんでもない!我が公国は、貴国との友好的な関係を望んでいるだけなのです!この婚姻も、友好の証として申し出ただけで他意はありませぬ!どうか、あらぬ誤解されませぬよう!」

 かなり焦った様子で取り繕うラスティ。

(効果覿面だな)

 日パ戦争以降、日本の外交姿勢は丁寧さを幾分欠いてでも強気に出る様にしている。

 国力が拮抗するか、互いを補完し合うか弱みを握り合う様な関係でもなければ、対等など有り得ない世界である。

 元々、国益を求める姿勢を追求してはいたが、それでもこの世界の基準では考えられない程に日本の対応は丁寧過ぎであり、貧弱だから遜っていると取られる事も多く、そうした認識を醸成してしまった事がフェン王国の悲劇に繋がったと結論された。

 その結果、特に国益や国際的地位に関わる事柄では、礼儀に反しようとも強気な態度を取り、立場の上下を認識させる様にすべきとしている。

 実際、旧世界では外交問題に発展しかねない振る舞いをしても、この世界ではただ日本を利用しようとした事を見抜かれて国の存亡が危うくなる真似をした自身の失態であるとしか認識せず、この方針は正しいと結論されている。

「皇族方は、全員が既婚か婚約済みです。そして、私も既婚者ですので、お受け出来ません。」

「いえいえ、正妻などと分を超えた事を言うつもりは毛頭ありませぬ。側室として置いて頂ければと思います。」

「我が国には、側室の制度は存在しません。」

「な、何ですと?それは本当なのですか?」

 この世界は、ミリシアル帝国を含む全ての国に側室が存在しており、信じられずに聞き返す。

「本当です。もしそれでも婚姻を強行される様でしたら、我が国の法制度に干渉したとして、相応の措置を取らなければならなくなります。」

 ラスティは背筋に悪寒が走り、冷や汗を流す。

「お待ち下さい!我が公国に、貴国の制度へ干渉する意思など決してありませぬ!どうか、貴国への無理解故に起こった一時のすれ違いと考え、聞き流しては頂けませぬか?」

「それは、婚姻の申し出を撤回すると言う事で間違いありませんか?」

「間違いありませぬ!公王陛下には、私から責任を持ってお伝えしましょう!どうか、無礼をお許し下さい。」

 テーブルに頭を打ち付ける勢いで必死に頭を下げる。

「無礼などとは思っていませんよ?お互いの常識を理解していなかった為に起こってしまった止むを得ない事態なのです。このままでは此方もやりにくいですし、頭を上げて下さい。」

 心臓を締め付けられる思いを味わいつつも、よくある尊大な態度や無茶な条件を吹っ掛けられる事はない。

 それだけで日本への心証は鰻上りであった。

 しかし、僅かな不安と不満も残っていた。

(何故だ・・・日本はこれ程の力を持ちながら、世界を従わせる意思を持っていない。これでは、日本は後ろ盾とするには些か力不足だ。かと言って、グ帝に付くのもマズい。彼の国の攻撃性を考えれば、帰順したとしてもロクな扱いは期待出来ん。何より、我が国はミリシアルに近過ぎる。グ帝に尻尾を振り出した途端に息の根が止まる。それに、ミリシアルはこの様な事態を放置などせんだろう。だとすれば、我が国はミリシアルに協力して恩を売るのが得策か。)

 

 国交締結には至るが、急激に変化する世界情勢に対応する相手としては、何処の国も日本に対して幾分失望の念を抱いていた。

 その点、ミリシアル帝国は長年の実力と実績があり、寄るべき大樹としてこの上ない存在であった。

 激しく動こうとした各国は結局、元の木阿弥となったのである。

 

 

 7月10日

 

 

 アルビオン城周辺は、厳重な警備態勢が敷かれていた。

 一部道路が封鎖され、迂回路では渋滞が発生している。

 そうして確保された空間には、立派な礼装に身を包んで一糸乱れず整列している衛兵と共に、1000人を超える政府関係者が次々にやって来る客人を案内していた。

 その顔触れは、各国の大使館職員に始まり、お付きの武官、有力商会や企業関係者、報道関係者まで様々である。

 そして、その場から上を見れば、かなり間取りの広いテラスがあり、ミリシアル帝国の中枢を担う要人が勢揃いしている。

 彼等は、ある人物の登場を待っている。

 全員が緊張の面持ちで待ち続け、報道陣はカメラを構える。

 入場者の整理が終わってから暫く経ち、ざわめきが少なくなった頃、

「皇帝陛下、出られます!」

 テラスにいる重臣達が一斉に城側へ体を向け、目的の人物を出迎える。

 そうして姿を見せたミリシアル8世は、荘厳な服装に身を包み、ゆっくりとテラスの先端まで歩み出た。

「お・・・」

 その下で待っていた一同は、歓声を以て迎えようとしたものの、離れていても感じられる程の強く冷たい怒気に気圧され、言葉を飲み込んだ。

『それでは、皇帝陛下よりお言葉を賜ります!』

 司会が進めると、少しして皇帝が口を開く。

『余は・・・怒りを抑えきれぬ』

 スピーカー越しに届いた第一声に、全員が息を吞む。

『この城の全てを破壊し尽くしても尚収まらぬ程の、筆舌に尽くし難い怒りだ』

 その怒りの原因が何なのか、すぐに察する。

『我が民を・・・愛すべきミリシアル臣民のみならず、この世界全てを侮辱し、破壊と殺戮を撒き散らしているグラ・バルカス帝国 余は、断じて許す事が出来ぬ』

 話が進むにつれて、皇帝の声が徐々に大きくなる。

『奴等は異世界より現れたと名乗っているが、この世界を舐め過ぎている 余は、世界の導き手たるミリシアルの長として決断した 我が帝国の全力を以て、グラ・バルカス帝国を叩き潰すと!』

 皇帝自らによる参戦宣言は、その場にいる者に大きな衝撃を与えた。

『この戦は、ただ侵略者を撃退するのみに非ず 異界からの闖入者に、この世界は容易ならざる強者の棲み処であると思い知らせ、二度とこの様な愚行を企まぬよう魂の奥底まで刻み込んでやるのだ!』

 怒りを全面に出していた皇帝は、今度は自身を見つめる世界の代表者へ語り掛ける。

『そなた達もこの世界に住まい、民を守るべき義務を負っている 敢えて問おう そなた達の祖国は、あの侵略者共に屈する事を良しとするのか?否、余はよく知っておる そなた達が忠誠を誓う国は、自らを蹂躙しようと近付く輩を前にすれば、死を恐れず勇敢に立ち向かう!我がミリシアルは、強敵へ立ち向かう意志と勇気を持つ勇者と共に立ち上がる事を此処に宣言しよう!』

 自国など眼中に無いと思っていた皇帝からの言葉に、その場の誰もが心を動かされ、無意識の内に国家の垣根を超えた団結心が醸成されつつあった。

『余は此処に、世界連合の結成を宣言する!この世界を愛し、民を守る意志のある者は志願せよ!出自や貴賤は問わぬ、文明国か圏外国かなど関係無い、国家か個人かも関係無い!この世界を守る意志のある者は参集せよ!我がミリシアルは、胸襟を開けて歓迎しよう そして、共に世界の敵を撃滅しようぞ!』

 場のボルテージは最高潮に達し、巨大な歓声が上がった。

 

 この演説は、報道陣を通して世界中を駆け巡り、感化された貴族や傭兵、狩人や辺境の自警団に至るまで、続々と志願者が現れた。

 各国のミリシアル大使館には、個人レベルで参戦を表明する者を対象とした窓口が設置され、魔導港へ特別便を手配してミリシアル帝国へ渡る事となった。

 同時に、ミリシアル政府は各国へ参戦要請を行い、そうして集まった戦力は史上空前と称するに相応しい規模を誇り、カルトアルパスでその爪を研ぐのであった。

 

 

 翌日、

 

 

 大会議室では、前日の演説による興奮を引きずりつつ、世界の敵となったグラ・バルカス帝国対策を目的とした御前会議が開催された。

 皇帝が着席すると、前置きは省略され、早速本題へ入る。

「まずは国防省より、投入戦力について御説明頂きます。」

 進行役が言うと、アグラが立ち上がる。

「グラ・バルカス帝国を第二文明圏から叩き出すにあたり、問題となるのが敵艦隊の動向で御座います。」

 ミリシアル帝国は、対グラ・バルカス戦を二段階に分けて考えている。

 ムー大陸を含む第二文明圏から駆逐する第一段階

 グラ・バルカス帝国本土、および周辺地域を攻撃する第二段階

 可能であれば、本土を占領するとしている。

「敵も、我が軍の攻撃を指を咥えてただ眺めるなど有り得ません。必ずや、迎撃に艦隊を繰り出す事でしょう。そこでまずは、この敵艦隊を撃退しなければなりません。」

「うむ、ではその為の艦隊はどう考えておるのだ?」

「それにつきましては・・・」

 皇帝が尋ねると、アグラはクリングの方を向き、それに応じて立ち上がる。

「今回、第3、第4、第5艦隊を統合して魔導連合艦隊を編成し、敵艦隊との決戦を行います。」

「3個艦隊で挑むのか。他の艦隊はどうするのだ?」

 ミリシアルの主力艦隊は、計7個艦隊が編成されている。

 この内、第1~第3艦隊はベリアーレ海を中心とする東側海域を担当していた。

 第4~第7艦隊は、帝都を含む西側の防衛を担当していた。

 これを、大幅な情勢の変化に応じて配置変更を行い、今回の戦力を捻出した。

 結果、東側海域は第3艦隊を西側へ移動させ、第1、第2艦隊は引き続き東側を担当する。

 そして、今回の遠征に参加しない第6艦隊をグラ・バルカス艦隊の迂回攻撃を警戒して後方へ残置し、第7艦隊は最後の守りとしてルーンポリスへ配備する。

「失礼ですが、本当に3個艦隊だけで足りるのでしょうか?相手は第零式魔導艦隊を殲滅したグラ・バルカス帝国です。もう1個艦隊を追加しても宜しいのではないのでしょうか?」

 リアージュが懸念を示す。

「第零式魔導艦隊の敗因は、数が少なかった事と、有力なエアカバーが無かった事、そして奇襲であった事です。航空戦力の有効性につきましては我が軍の認識不足があり、今後に生かすべき戦訓ではあります。ですが、それを加味して3個艦隊で足りると判断しました。」

「しかし、想定外の戦力を有している可能性もあります。」

「我が軍の算定では、2個艦隊でも事足ります。3個艦隊で挑めば、不測の事態が生じても対応可能です。無論、皇帝陛下の御命令があれば、他の艦隊も出撃可能ですが。」

 それでも不安が拭えなかったが、ひとまず引き下がる。

「では続きまして、各国の動向です。」

 進行役が進めると、今度はぺクラスが立ち上がる。

「先のカルトアルパスへの襲撃は、全世界へ大きな衝撃を与えました。また、第零式魔導艦隊が殲滅された影響で、各方面よりグラ・バルカス帝国へ与すべきか検討する動きが確認されておりました。」

 場が若干ざわつく。

「しかしながら、あの攻撃性から検討しつつも二の足を踏んでおり、昨日の陛下の演説によって大半の勢力がグラ・バルカス帝国討つべしの論調に傾きつつあります。」

 安堵感が漂うと共に、皇帝への敬意が増す。

「陛下の呼び掛けもあり、各国から多数の戦力が集結すると予想されます。戦力的に足手まといである事は理解しておりますが、軍部には足並みを揃えて戦う事を希望します。」

「御心配無く」

 シュミールパオが応じる。

「各国の艦隊を伴うプランも既に用意してあります。旧式戦艦を含む地方隊を新たに編成し、随伴させます。別動隊として動かし、主力艦隊とは最初から別行動とする事で敵戦力の分散を狙います。」

 ぺクラスは納得し、話題を移す。

「ところで、此度の戦いでは、第三文明圏は外すと言う事で宜しいでしょうか?」

「はい。今回は早期殲滅と言う皇帝陛下の方針もあり、合流するだけでも時間の掛かる第三文明圏は除外する事となりました。」

 表向きはそうしているが、実際には日本を警戒しての事である。

 フォーク海峡で全滅した魔導巡洋艦の生存者が回復し、その証言を得た事で、日本の力は紛れもない事実であると疑り深い者も認めざるを得なかった。

 未だに日本の真意が見えず、しかし着実に影響力を増している現状に加え、これから起こる戦いで再び活躍されれば、取り返しの付かない事態になると判断された。

 加えて、日本が提示した世界連盟の存在も念頭にある。

 日本に世界の主導権を握られまいと動いた結果が、世界連合の結成であった。

「よもや、敗北を重ねる様な事はあるまいな?」

 日本を気にする発言が出る気配を感じた皇帝が、機先を制して口を開く。

「此度の戦いは、単に異世界からの侵略者に対するだけでは済まぬ。魔導を知らぬ者共が、魔導文明の頂点に立つこのミリシアルに挑戦しているのだ!魔導文明が試されているのだぞ、失敗は許されん!」

 全員が一斉に立ち上がり、皇帝へ敬礼する。

 

 「「「御身に勝利を!聖都に栄光を!」」」

 

 

 2日後、

 

 

 日本大使館は、相変わらず千客万来であった。

「・・・それで、我が国にどの様なメリットがあるのですか?」

「文明圏外国如きがこれ以上生意気を抜かすな!我等の忍耐にも限度があるぞ!」

「その態度こそ、無礼にも程がありますよ。」

「何を言う!?我が王室と姻戚になり、我が国に貢献出来る名誉を投げ捨てるその態度こそ、無礼にも程があるであろう!」

「仮に婚姻に至ったとしても、貴国を特別扱いする事などありません。」

「何ィ!?」

「そもそも婚姻に至る事自体有り得ませんが、姻戚になったからと言って、国家間の関係に特別な配慮はしません。お引き取りを。」

「おのれ、覚えておれ!」

 とある王国の使節は、肩を怒らせながら退室した。

「フウゥゥーーーー・・・」

 近藤は、ため息をついて伸びをする。

「お疲れ様です。」

 入れ替わりで職員が入って来る。

「今回はとびきり凄かったな・・・」

 文明圏外国である事に対して偏見を持ち、侮りの気配が見え隠れする相手は未だに存在する。

 とは言え、外交の場、それも列強に打ち勝った相手に今回の様な態度を取る相手は、これまで流石にいなかった。

「しかも、あの態度で皇族方との婚姻を迫って来たんですから尚更です。」

「我が国にとって絶対に受け入れられない相手だな。国交自体やるべきではない。」

 言い終えると、すぐに意識を切り替える。

「次は、ミリシアルの外交官が来るんだったな。」

「珍しいですね」

「十中八九、グ帝関連だろうな。」

 これまでは、事務的な連絡以外で訪れる事が無かったミリシアル関係者が、無理を押してアポを取って来たのである。

「既に、あらゆる想定はしてある。今日までロクに接触が無かったのは想定外だがな。」

 

 少し後、

 

「お連れしました」

 やって来たのはフィアームであった。

「お久しぶりですね」

「近藤殿、またお会い出来て光栄です。」

 二人は、日本視察団の来日以来の再会であった。

 暫く世間話をした後、本題に入る。

「先日の皇帝陛下の演説ですが、貴方も御覧になりましたか?」

「はい。案内を受けて、私もあの場にいました。」

「でしたら話が早い。」

 そう言いつつ、正式な文書を取り出す。

「貴国に、世界連合への参加を要請します。」

 近藤は、文書に目を通す。

「・・・解りました。結論は本国が下しますので、この場で返答は出来ませんが、恐らく参加するかと思います。」

「有り難う御座います。それでは次に、此方を御覧下さい。」

 そう言い、次の文書を手渡す。

「我が帝国はグラ・バルカス帝国と戦うにあたり、まずはムー大陸周辺を跋扈する艦隊を撃滅する作戦を準備しております。そこへ、貴国の艦隊にも参加頂きたいのです。」

「ちょっと待って下さい、此方の武官を呼びます。」

 少しして、大使館勤務の軍関係者である 篠田 が入室した。

「・・・作戦開始は今から6ヶ月後ですか。失礼ですか、少し性急過ぎではありませんか?」

「軍部では、時間を掛け過ぎては敵が体勢を立て直す猶予を与える事になると考え、その前に一撃を加える必要があると判断しています。また、各国との調整もあるので、返答は1ヶ月以内にお願いします。」

「い、1ヶ月ですか!?」

「無理なお願いである事は承知しています。本件で拒否されても、貴国に何らかの不利益が発生する事はありません。ただ、検討だけでもお願いします。」

 篠田は近藤を見て、首を横に振る。

「・・・解りました。本国に連絡しますが、あまり期待はしないで下さい。」

「お願いします」

 そうして、日ミ会談は終わった。

 

(心苦しいが、こうするしか無いのだな・・・)

 帰りの車内で、フィアームはこめかみを抑えながら内心で独白する。

 日本を警戒しつつも、友好的な姿勢は崩さない。

 それが、ミリシアル・エモール間で合意された対日秘密協定の方針であった。

 その為に形だけの参戦要請をし、絶対に参加出来ない条件を突き付けた。

 しかし、心証を悪くしない為に何らかのペナルティは発生しない。

 日本との積極的な協力関係を築きたいフィアームにとって、この方針は苦痛であった。

 それでも、彼女はミリシアル帝国に所属する外交官であり、知日派でもある。

 この苦痛から逃れる術は無く、史上空前の大決戦は近付く

 

 

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