中央暦1642年8月9日
日本政府、世界連合への参加を正式に表明し、フィアームを通してミリシアル政府へ打診する。
しかし、要請されていた艦隊の派遣は見送られた。
10月3日
沖縄南東400㎞地点に於いて、哨戒中のフリゲート艦が潜水艦から攻撃を受け、撃沈した。
後日サルベージが行われ、グラ・バルカス製のシータス級潜水艦である事が判明。
・・・ ・・・ ・・・
世界がミリシアル帝国へ戦力を結集している中、第三文明圏は着々と力を増しつつあった。
ロデニウス大陸の資源開発は益々進み、フィルアデス大陸は国際開発銀行の融資によって開発が進展している。
港の整備に始まり、そこから内陸へ繋がる鉄道網と道路網、農業支援に治水、電力網に水道網、果ては家屋に至るまで、多種多様な支援が続いている。
医療支援も行われ、乳幼児死亡率の下降も始まっており、人口増加に拍車が掛かっている。
それにより、食料自給率の一時的な低下を招いているが、整備されたインフラによってクワ・トイネ公国から食料が次々に輸出され、量的には賄えている。
しかし、各国は貧困層に当たる農民階級が圧倒的に多く、人口増加も元々子沢山の農民が原因だが、収入が極めて少ないせいでこの状況に耐えかねる事例が多発していた。
その結果、出稼ぎ労働者が急増し、様々な事業によって現地の労働力を求めていた日本企業は次々と受け入れた。
こうして、十分な労働力の確保にも成功した事で要員の教育も順調に進み、現地水準では破格の待遇によって所得も上がり、経済の活性化も始まっている。
最終的には、技術流出防止法が許す範囲で技術指導を行い、日常の維持は完全に現地民によって運用可能にする予定である。
日本政府にとっては意外な事に、融資された資金は滞り無く使用されていた。
一部貴族や王族による多額の横領が発生すると想定し、秘密裏に監視体制を敷いていたが、良い意味で肩透かしを喰らった形となった。
その理由こそ、紙幣である。
送り込まれた大量の札束は、現地からすれば大規模な詐欺に見えていた。
金を初めとする希少金属の価値に頼った貨幣制度しか知らない中では、紙のカネは理解を超えていたのである。
その為、多大な嫌悪感に襲われて燃やしたい衝動に駆られたが、日本からの支援である事から無下にも出来ず、一刻も早く手放そうとした事で、結果的に健全に使用される事となった。
その後、日本からの支援が本格化すると、事前の情報以上の力に畏怖すると共に、パーパルディア皇国が如何に無謀な戦いを挑んだのかを実感した。
同時に、こうした支援を受けるには日本円を仕入れるしか無い事を思い出し、今更ながら紙幣の価値を認識した事で、融資をさっさと手放してしまった事を後悔したのであった。
そうした悲劇がありつつも、第三文明圏では紙幣経済が定着し、日本円は基軸通貨としての地位を確立したのであった。
更に、世界連盟の結成が日本主導によって行われた事で、名実共に日本が第三文明圏の盟主となった。
そこから次々と新たな国際機関が設立され、それに連動した国際制度の整備により、覇権主義的、侵略主義的な思想や行動は悪とされ、反抗的な勢力を抑え込む体裁も整えられた。
仮にそうした動きを見せたとしても、衛星と海底ケーブルによって整備された通信網により、兆候があれば即座に日本政府の知る所となる。
治安も劇的な向上を実現し、日本は転移以来空前の好景気を迎え、第三文明圏は急変する世界情勢を横目に繁栄を謳歌していた。
・・・ ・・・ ・・・
アルタラス王国 王都ル・ブリアス
かつて、パーパルディア皇国の属領となり、日パ戦争によって戦場となったこの国は、堅調な発展を見せている。
属領時代には絶望の表情をしていた国民は、今では希望に満ちた表情で日々を生き、日夜仕事に打ち込み、祖国の発展に貢献出来る喜びを噛み締めていた。
そんな王国の中心であるアテノール城では、女王ルミエスが政務に励んでいた。
「日本製の装備が届いたのですか・・・リルセイド」
ルミエスは、側近の一人である リルセイド へ声を掛ける。
「はい、姫様。どうされましたか?」
「日本国から我が軍に配備予定の最初の装備が届いたそうです。」
アルタラス王国は、日本でカテゴリーブルーに分類されており、在留基地が設置され、アルタラス王国軍へ武器輸出も行われる事となっており、その第一陣が到着したのである。
「遂にですか!解りました、では早速!」
言うや否や、リルセイドは駐屯地へ向かった。
彼女は、ルミエスの亡命時に共に日本へ滞在していた経験から、再独立後も度々訪日し、諸々の折衝を行って来た。
中でも重要なのが、輸出装備の取り扱いであった。
彼女は、王国軍に対する日本製装備の教導を行う立場となり、様々な装備の習熟を事前に行っていたのである。
「漸くだ・・・これでやっと我が国は、他国の侵略を退けられる力を得られるのだ!」
圧倒的な力を誇ったパーパルディア皇国に蹂躙されたかつての祖国。
同じ国に攻められながら、返り討ちにした日本国。
辿った経緯は同じでも、身を守れるだけの力があるか無いかで、その結果は正反対となった。
かつての無力感を払拭するかの様に、彼女は力強く歩を進める。
在アルタラス日本基地
不毛の地であり、日パ戦争に於いて重要拠点となったルバイル平野。
ムーが建設した空港があり、それを基地として改修し、空軍機がエストシラントへ空爆を実施した。
現在はルバイル空港を移設し、この場所は完全に日本の管轄となっている。
此処には、平時より首都ル・ブリアス防衛を担当している部隊(王城勤めの近衛兵を除く)が駐留する事となる。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
建設が完了し、その後の手続きも終え、異動初日となったこの日、ゲートを潜るや否や、アルタラス兵達は呆然とした。
「お・・・おいおい、これが軍基地だって?」
「滅茶苦茶広いな・・・それに、見た事無いモンが一杯だ。」
「これはレンガじゃないな・・・何で出来た建物なんだ?」
常識とかけ離れた造りの駐屯地を前に、おっかなびっくりな様子で徐々に進む。
「それでは、順番に御案内します。」
その様子に苦笑しつつ、案内役の国防軍関係者が声を掛ける。
「此方が兵舎になります。」
中に入ると電気を点ける。
「「「おお!!」」」
それだけでどよめく。
「信じられん・・・一兵卒の生活空間でさえ、これ程までに快適とは・・・」
狭い部屋にすし詰めにされる覚悟をしていた彼等は、心底喜ぶ。
「では次に・・・」
その後も各所を案内され、驚き疲れた頃、最後の施設に案内される。
「此処が射撃場になります。」
他の施設から離れた場所に位置し、一際無骨で頑丈な見た目をしたその場所へ入ると、そこは弓の訓練場と似た作りとなっていた。
「的が随分と遠いな。」
「あんな距離で当てるなど、相当な達人にしか出来ない芸当だぞ。」
これから求められる技量の高さに、不安を吐露する。
「此方へ」
そうした反応を無視し、反対側へ案内する。
隅に長机が設置されており、ジュラルミン製の箱が積み上げられていた。
その内の一つを下ろし、全員が取り囲む中開ける。
「これは・・・」
「アレか、パ皇も使ってたマスケット銃か。」
「いいえ、これはマスケットではありません。」
それは、<ガエタン歩兵銃>であった。
ムーのガエタン社が開発したボルトアクションライフルであり、現在もムー陸軍の主力ライフルとなっている。
アサルトライフルは技術流出防止法に引っ掛かる為、代わりとなる銃を求めた結果、ムー製ライフルに目が止まった。
八一式小銃の供与によって生じた余剰を融通して貰い、それを各国へ配備する事としたのである。
「射程、精度、貫通力、いずれもマスケットより遥かに優れています。」
「それは凄い!」
「勿論、訓練しなければ使いこなす事は出来ません。また、近代兵器を使いこなす為には、旧来の戦術は全く役に立ちません。」
「御心配無く。我等は、その覚悟を持ってこの場に立っております。我が祖国を今度こそ守り抜く為にも、そして貴国の恩に報いる為にも、必ずや使いこなして見せましょう。」
こうして、新生アルタラス王国軍は猛訓練に励み、かつての精強さを思い起こさせる程の精鋭揃いとなった。
しかし、その中身は過去の王国軍とは比較にならない強大さであり、世界的にも上位に入る軍事力を有する事となった。
アルタラス王国以外にも次々と同様の措置が取られ、第三文明圏の軍事力は急激な高まりを見せた。
複数国を集めた国際軍事演習も度々行われ、日本の戦術指導や訓練に刺激を受けた各国は、次々と大規模な改革に着手し、質的な向上を見せた。
しかし、武器支援はカテゴリーブルー以上の国に限定された為、第三文明圏内での格差拡大が起こり、これは後々まで問題となる。
また、グラ・バルカス帝国の跳梁と世界連合の動向が追い風となり、軍備に注力する事となった。
バルチスタ沖大海戦が終わり、その情報が世界中を駆け巡る頃には、日本のみならず第三文明圏全体が周辺勢力に警戒心を抱かせるだけの態勢を整えていた。
・・・ ・・・ ・・・
トーパ王国 世界の扉
「す・・・スゲェ・・・」
「だろ?」
魔王討伐が成り、重要性が下がった世界の扉だが、現在も警戒が続いている。
しかし、それももうすぐ終わりを迎える。
その理由こそ、警備兵の目の前で進んでいる運河建設である。
海運の効率化を企図して始まったこの計画は、トーパ王国政府を仰天させた。
沿岸の埋め立てであれば、世界中で行われて来た歴史を持つが、元からの陸地を掘り下げ、海の道を造るなど前例が無い。
当初は懐疑的な意見が多かったこの事業だが、日本からの提案、それも長年の懸案であったグラメウス大陸の隔離も同時に出来るとなれば、断る理由も無かった。
「僕は正直、魔王が討伐された話を聞いた時には、行き過ぎた誇張だと思ったんだ。いや、その後もずっと信じてなかったけど、この光景を見て確信したよ。日本の力は本物だ。これだけの事が出来る彼等なら、魔王が10体いても返り討ちにすると思うよ。」
「ははは、確かにそうだな。何しろ、あの魔王が歩兵の攻撃で足を止められ、一発の砲撃で倒してしまったんだからな。俺はこの目で見た。」
「僕もその場にいたかったなぁ・・・伝説の戦いを見れるなんて、本当に羨ましいよ。」
雑談が一段落すると、視線を落とす。
「それにしても、そんなにこの壁が気になるのかね?」
「そりゃあな。何たって、1万年以上の歴史を持つ世界の扉だ。誰だって見てみたいと思うだろうよ。」
「そんなモンかねぇ・・・」
運河建設が完了次第、この場所は在留基地が建設される。
表向きはグラメウス大陸からの万が一の事態を警戒してのものだが、実際はフィルアデス大陸側からグラメウス大陸への侵入を防ぐ為である。
そうなれば、長年に渡って魔物の侵入を防いで来た世界の扉はお役御免となり、解体する予定である。
しかし、その為に壁の詳細を調査した所、不可解な事が判り、日本から様々な人員が継続的に派遣されている。
「・・・やっぱりそうだ。何度やっても同じ結果だ。」
「うーむ・・・」
世界の壁の根元で、土木企業から派遣された職員が頭を悩ませている。
「確かに年季が入ってるが、これは1930年代~40年代に造られていないと辻褄が合わないぞ。」
「しかしだなぁ、経年の仕方から見て、少なくともその数十倍は経ってるぞ。」
世界の扉の解体に当たり、その手順の策定の為に壁の詳細な調査が行われた。
それによって壁の材質も判明したのだが、単なる石造りの壁ではなく、セメントの混入が確認されたのである。
また、基礎部分も近代に建設されたとしか思えない方式であり、1万年以上前の技術レベルでこの様な事が可能なのか、入念な調査が行われるに至った。
「伝説によりますと、この壁が建設された時期は、例の魔法帝国が消えてから100年程度後の時代らしいです。長命な種族が実在する世界ですし、その程度の時間であれば魔帝の技術をある程度継承していた可能性もありませんか?」
付き添いの北村が口を開く。
「うーん・・・それは考えにくいですね。」
考古学者の 中村 が反論する。
「魔法帝国に対する憎悪は、今でさえ激しい所が多いのが実情です。エモール王国などはその典型ですね。まして、当時ともなれば直接支配を受けた世代も多かった筈です。むしろ、恨み骨髄で継承など以ての外だったと思います。そんな事をすれば、恐らく袋叩きか、最悪根絶やしにされたでしょう。」
「しかし、魔帝以外にセメントを製造可能な技術や知識があったかどうか・・・」
「一応、旧世界ではローマ帝国がコンクリートを使っていた事が判っています。」
現在も残っているローマ時代の遺跡には、石材の間等にコンクリートが確認されている。
ローマンコンクリートと呼ばれる物であり、火山灰を材料にしていた。
耐久性は現代のセメントよりも高く、鉄筋を使用していないお陰で数千年単位で持ち堪える事が出来る。
「この世界でも、当時は製造可能だった可能性はあります。実際、今では失伝してしまった魔法もありますから、技術断絶が起こったと考えるのが妥当でしょう。」
「旧軍が造った可能性は?」
背後から岡が口を挟む。
「旧軍って、旧日本軍ですか?」
「そうです」
「そんなまさか・・・」
全員が岡の正気を疑う。
「エスペラント王国については知っていますね?」
「ええ、勿論」
北村が応じる。
「そこで保管されている写真があったのですが、大和型戦艦が写っていました。」
「「「え!?」」」
「そちらもですか」
誰もが驚愕の表情を向ける中、中村だけが冷静に反応した。
「実は、以前クワ・トイネ公国に調査に行った事があるんですが、そこには零戦があったんです。」
「ぜ・・・旧海軍の零式艦上戦闘機ですか!?」
「はい」
クワ・トイネ公国の中でも奥深く、エルフの聖地とされる<リーン・ノウの森>には、かつて太陽神の使いが遺したとされる空飛ぶ船の実物が保管されていた。
それこそが零戦だったのである。
「どうなってるんだ?」
謎が謎を呼ぶが、この場の誰も判断は出来ず、セメントについても詳細不明で片付ける事となった。
・・・ ・・・ ・・・
フェン王国 アマノキ
日パ戦争後の方針転換により、日本政府はフェン王国との国交樹立へ舵を切った。
しかし、軍祭での失態による日本側の不信感は相当であり、カテゴリーオレンジに分類された事で日本との交流は限定的となり、発展しているとは言い難い状態となっている。
「フゥ・・・」
シハンは、天守で各方面の報告に目を通しつつ、ため息を吐く。
「相変わらず横ばいだ・・・」
パーパルディア皇国の侵攻によってニシノミヤコは大きな被害を受け、その後の復興支援こそ国交樹立によって行われたが、国際開発銀行からの融資は限定的となっていた。
結果、自力で国内開発に乗り出したものの、技術的にも財政的にも大した事は出来ず、第三文明圏の発展から完全に取り残される形となっていた。
「剣王様、日本国の外交官がいらしております。剣王様にお目通り願いたいと。」
「何だと?それは真か?」
これまで、機嫌を直して貰おうと何度も日本大使館へ配下を向かわせており、時にはシハン自ら機嫌を取る事もあった。
しかし、何の効果も無い上、日本側からの訪問は皆無であった。
「本当です。ですが、あまりお待たせしては心変わり致しかねません。」
「解った、すぐに会おう」
暫く後、
「お待たせした」
応接間では、フェン大使となった島田がいた。
「いえ、大丈夫です」
(ん?今までと雰囲気が異なるな・・・)
軍祭では怒りを滲ませ、その後も仏頂面しか見せなかった彼の表情は、多少の柔らかさを感じさせた。
「本日は、日本政府から貴国への通達があり、お訪ねしました。」
「それはそれは、その為にわざわざこの様な場へお越し頂けるとは、感謝いたす。」
これまでの癖で、必要以上に丁寧な態度で応じる。
「これまでの貴国と我が国との関係は、お世辞にも良いとは言えませんでした。」
「む・・・いらぬ事をして貴国へ犠牲を強いてしまった事、汗顔の至りである。」
そう言いつつ、本当に冷や汗を流す。
「ですが、その後貴国は国を挙げて自らを省み、同じ愚行を犯さないよう厳しく戒めていました。日本政府は、貴国を評価しています。」
「何と・・・」
フェン王国の日本に対する反省の念は非常に深く、日本側は十分な贖罪は為されたと判断し、分類をカテゴリーオレンジからカテゴリーイエローへ上げる事を決定した。
「日本政府へお伝えして欲しい。貴国の決断に深く感謝すると。」
「解りました」
その後、フェン王国に対する融資のハードルが引き下げられた他、貿易規制も大幅に緩められ、急激な発展を謳歌する事となる。
・・・ ・・・ ・・・
リーム王国 ヒルキガ
「何もかも納得いかぬ!」
バンクスは、執務室で声を上げる。
「同感で御座いますが、どうか冷静に。」
傍らに控える宰相が、遠慮がちに言う。
「これが冷静でいられるか!我が軍は日本軍のせいで半壊し、周辺国も我が国を侮り始めているのだぞ!」
フェン王国と並び、国交を結びつつも日本に警戒されているリーム王国。
日パ戦争時の火事場泥棒的行為もあり、その前途は多難となっていた。
国際開発銀行に加盟してすぐ、リーム王国は大規模な融資を要請した。
その内容は、横浜港クラスの港湾と、そこから大陸中へ繋がる鉄道網の建設であった。
これは、フィルアデス大陸に於ける貿易港を一ヶ所に集約する事で、海上物流の効率化を図る事が目的と説明された。
特に、対日貿易を主眼とする為、日本と近く、有力国であるリームこそがと名乗りを上げたのである。
そう説明しつつも、真の目的は中継貿易によるフィルアデス大陸の主導権の奪取であった。
実際にこの体制が実現すれば、対日貿易は事実上リーム王国の胸先三寸によって動く事となり、反抗的な態度を取る国があれば、その方面の物流を停止させる事も容易となる。
しかし、融資自体は受けられたものの、その規模は大幅に縮小された。
日本側からすれば、貿易港を一ヶ所に集約する必要も意味も無い上、リーム側の企みはお見通しであった。
当初の目論見が大きく外れた事で屈辱に塗れたバンクスだが、加えてこの話が周辺国に広まり、無謀な話を持ち込んだとしてネタにされてしまう事態にもなっている。
更に、日パ戦争時に軍が大きな被害を受け、その痛手から立ち直っていない事もあり、直接的な力についても遅れを取っているせいで、発言力の減退を招いていた。
その状況を改善しようと、今度は日本へ武器輸出を打診したものの、即答で拒否された。
更に、フェン王国が待遇を改善されているのに対し、リーム王国に対する待遇は何一つ変わっていない。
一連の要求拒否と合わせ、抗議を行ったものの、それすら一蹴されており、リーム王国の発展は否応無く周回遅れの様相を呈しており、バンクスを含む首脳陣は大きな不満を抱えているのである。
「陛下、万が一にも日本と敵対すれば、我が国はパーパルディアの二の舞となってしまいます!どうか、冷静になられませ!」
宰相が強い口調で冷静を促す。
「む・・・そうは言うが」
「陛下!」
今度は、リバルが声を上げる。
「此方を御覧下さい」
机に複数の魔写が置かれる。
そこには、広範囲に渡って広がる廃墟が写っていた。
「これ等は、日本軍の攻撃により、灰燼に帰した皇都防衛隊基地とデュロ防衛基地で御座います。」
「な・・・あの!?」
かつて、第三文明圏最強を誇ったパーパルディア皇国軍の中でも、精鋭揃いで知られる皇都防衛基地は、周辺国にも広く知られていた。
辺境の部隊に大苦戦を強いられたリーム王国では、逆立ちしても勝てない強大な戦力を損害無しで殲滅した日本軍。
改めてその恐ろしさを提示され、バンクスは黙り込む。
「日本の処遇を不満に思うお気持ちは私も同じくしておりますが、正面切って反抗しては今度こそ我が国は滅亡してしまいます。どうか、御自重下さい。」
「う、うむ・・・よく解った。」
不承不承ながら頷くが、それで不満が解消された訳ではない。
「とは言うもののだ、このまま座して日本の好きにさせる訳にも行くまい。何とかせねばならん。」
「とは申しますものの、日本の体制に物申せる相手はおりますまい。あのムーでさえ組み込まれているのです。ミリシアルは、グラ・バルカス帝国相手に痛手を被り、当てには出来ませんぞ。」
宰相が言うと、バンクスは我が意を得たりと言わんばかりの表情になる。
「ふむ。つまり、日本以外の国を後ろ盾に出来れば良いのだ。日本の台頭をよく思わず、尚且つ日本に対抗出来る力を持つ国のな。」
「お言葉ですが、その様な都合の良い国などありますまい。」
「それはどうかな?」
宰相は、嫌な予感に駆られる。
「昨今の情勢は流動的だ。列強が瞬く間に転落し、文明圏外国が名を上げる。これまでの常識では測れん事態が立て続けに起こっておるのだ。如何な日本とて、このままではいられまい。必ずや、付け入る隙は出来るだろう。その時、ミリシアルや日本に代わる真の強国が台頭しよう。我等は、機を逃さず、相手を見誤らず、その時を待つのだ。最後に勝つのは日本ではなく、我が国だ!」
「流石は陛下で御座います!我がリームは、必ずやこの激動の世界を乗り切り、最後には繫栄致しましょう!」
リバルは感激し、太鼓判を押す。
「うむ。お前はその時に備え、軍の育成を進めよ。戦わずに済むなどと、世迷言は言えんからな。」
「仰せの通りに!」
(ヌゥ・・・またもや日本の意に添わぬ決断をされてしまわれたか・・・しかし、現在の情勢を乗り切るには、日本に依存し切るのは危険なのも確か。とは言え、仕損じれば・・・我が国は滅亡する。)
宰相だけは危機感を募らせるが、刻一刻と変わる世界情勢を前にしては、反論は出来なかった。
リーム王国は、表向きは牛歩の発展を享受しながらも、裏では秘かに情勢を睨み、牙を研ぎ続ける。
・・・ ・・・ ・・・
神聖ミリシアル帝国 日本大使館
来る決戦に備え、慌ただしくなっているミリシアル帝国。
ミリシアル8世の演説もあり、世界中から問い合わせが殺到している中、その影に隠れがちではあるものの、日本大使館も来客が途絶える事は無かった。
「・・・我が国から提示出来る条件は以上となります。」
「何と、我が国如きをこれ程目をお掛け頂けるとは、感謝の念に堪えません。」
現在の日本は、クイラ王国のお陰で資源が潤沢ではあるものの、クイラ一国に依存している現状に不安を感じており、資源取引の多角化を推進している。
今回の相手は、豊富なレアアースの埋蔵が確認されており、かなりの好条件で国交を結ぼうとしているのである。
「貴国の御厚意は大変喜ばしいのですが、その上で不躾ながら一つ宜しいでしょうか?」
「何でしょう?」
近藤は、慣れたパターンに内心うんざりする。
「貴国は、国家元首として皇族がおりますね?」
「はい」
「我が国の王族の中で、長女に当たる姫君が年頃を迎えているのです。友好の証として、貴国の皇族のどなたかと縁談をと思いまして。」
「申し訳ありませんが、縁談はお受け出来かねます。」
「それは何故でしょう?何か御不満がおありなのでしょうか?」
これ見よがしに悲しげな表情をするが、近藤には通じない。
「我が皇室は、他国の血筋を受け入れた事例が存在しません。また、側室の制度も存在せず、全員が既婚か婚約済みです。」
「何と、その様な事が・・・!」
他国との姻戚を受け入れず、現在に至るまで血統を維持している事例は、旧世界を含め日本以外に存在せず、大いに驚く。
「ですが困りましたな・・・それでは、貴国との国交は困難になってしまいます。」
「それはどう言う事でしょうか?」
「縁談が、貴国との国交を開く重要な要件であると言う事です。辞退される様でしたら、残念ながら国交開設はほぼ不可能と申さざるを得ません。」
「それはあなた個人の意見ではなく、貴国の意思なのですか?」
「我が国の意思です。私個人としましては、貴国との国交を切望しているのですが・・・」
再び、これ見よがしな表情を作る。
「そうですか。残念ですが、そうまで仰られては交渉は不可能ですね。」
「え?」
「我が国は、他国との縁談を受け入れる事は決してありません。これは絶対に譲れませんので、貴国との国交は白紙になるでしょう。」
「あ、いや、その」
「我が国に、条件の折り合わない相手に国交を無理強いする意思はありません。特に問題にはしませんので御心配無く。外までお送りします。」
「うぅ・・・」
間髪入れずに告げられた言葉に口を挟む事も出来ず、肩を落として退室するしか無かった。
「お疲れ様です。また縁談の申し入れですか?」
応接室に戻って来た近藤に、部下が言う。
「そうだな。多過ぎてもう慣れたけど。」
日本との関係を求める国は、ほぼ確実に縁談の話も持ち込んでおり、そこから辞退する流れは最早作業と化している。
「それで、次は?」
「次は、フィアームさんですね」
「ああ・・・」
近藤は、不安顔になる。
「何か心配でも?」
「いや、フィアームさんはいいんだが、この情報をミリシアル首脳部が正確に受け止めてくれるか不安でな・・・」
「それは・・・」
暫く後、
「どうぞお入り下さい」
少しして、フィアームが応接室へやって来た。
「フィアームさん、急にお呼び立てして申し訳ありません。」
「いえいえ、お気になさらず。」
二人の空気は穏やかであり、警戒心や敵対心の類は無い。
「重要なお話との事ですが、どうされたのですか?」
「実は、グラ・バルカス帝国に関して政府から様々な情報が入って来まして・・・」
フィアームの纏う空気が変わる。
「それはどの様な?」
「まずはこれを御覧下さい」
近藤は、順番に資料を取り出す。
「これは・・・」
まず見せられたのは、魚雷に関する資料であった。
「こんな物が・・・」
「海中を自走し、船体の水面より下を破壊する兵器です。我が国も保有しています。」
日本政府は、ミリシアル帝国が科学文明の兵器に疎く、対応策が不十分な現状では敗北する可能性が高いと見ており、各種情報を公開する事とした。
「そして次なのですが・・・」
次は、潜水艦の資料であった。
(み、自ら海に潜る艦だと!?そんなモノ、魔帝の遺跡にすら無いぞ!)
未知の兵器の存在に、冷や汗が溢れる。
「次に、これを見て下さい。」
それは、グラ・バルカス帝国の造船所と軍港を撮った衛星写真であった。
「これは・・・上空から撮影したのですね?」
「そうです」
「見た所、写っているのは戦艦ですか。グ帝の艦だと思いますが、これはどの様な艦なのでしょうか?」
「グレードアトラスター級です」
フィアームの動きが止まる。
「な・・・何ですって?」
「グレードアトラスター級です。レイフォルを砲撃し、我が国が鹵獲したあの艦と同型艦がグラ・バルカス本国にいるのです。」
「そんな・・・」
「1隻は、恐らく既に就役済みでしょう。この通り、もう1隻が建造中です。我が国の分析では、更に1隻の建造が計画されている可能性があると見ています。」
フィアームは、目の前が暗くなる。
「就役済みのこの艦は、恐らく世界連合迎撃の為に出撃すると思われます。貴方からミリシアル政府に十分注意するよう警告して下さい。」
「貴重な情報を有り難う御座います。必ず上に伝えます。」
この情報は、ミリシアル軍に大きな衝撃を与えたが、軍上層部はレイフォルの二の舞を恐れ、後方の防衛態勢を優先する決断を下した。
連合艦隊の増強を訴える声もあったが、本土の防備を優先したせいで1個地方隊が追加されただけとなった。
フィアームは、未知の兵器の危険性を再三に渡り警告したが、事前に把握していれば対応可能であるとそこまで真面目に取り合う者はいなかった。
彼女は、重要な情報を手に入れた事は評価されたものの、その後の認識の乖離から再び疎まれ出す結果となった
この状況に危機感を覚えたミリシアル8世は、魔帝対策省へ秘匿兵器の出撃を命じるのであった。
・・・ ・・・ ・・・
グラ・バルカス帝国 情報局技術部
取るに足らないと考えていたこの世界に明確な脅威が存在すると判明して以降、情報局は多忙を極めていた。
何より、東征艦隊を失う程の脅威を見過ごした過失は大きく、局員は体に鞭打ち情報分析に明け暮れていた。
「ミリシアルめ・・・この代償は高くつくぞ!」
「俺達をこんなに追い詰めやがって!」
「余計な事を言ってる暇があったら手を動かせ!」
疲労とストレスから愚痴が飛び交い、それを上司が叱り付ける。
毎日の様に繰り返される光景に、周囲は誰も気にも留めない。
「おいナグアノ、お前宛に郵便が届いてるぞ。」
「ん?ああ、すまない」
ナグアノは、顔を上げて同僚から封筒を受け取る。
「お前、こんな時に現地民共を使ってるのか?」
情報局は、現地民を使っての諜報活動も行っている。
しかし、所詮は一般人であり、情報の質はお察しである事が多い。
今は、確度の高い情報が早急に求められている事もあり、今この時に期待出来ない手法を使っているナグアノに不満があるのである。
「今は猫の手も借りたい。諜報員を選り好みしてる余裕なんぞ無いだろ?」
「まぁ、そりゃそうだがな・・・」
それ以上は何も言わず、自分の席に戻る同僚。
「フゥ・・・」
すぐに離れた事で、ナグアノは秘かに安堵の溜息を漏らす。
(ミリシアル以外の情報だって知ったら、何を言われるか判らんからな)
誰も自分に意識が向いていない事を確認してから、封筒を開ける。
しかし、すぐに周囲に意識を向ける余裕など無くなった。
(これは・・・日本に関する情報か)
入っていたのは、ムーの書店で販売されている日本の戦力に関する情報誌であった。
「こ、これは・・・!」
読み進める内に、雑誌を持つ手が震え、冷や汗が垂れる。
「馬鹿な!」
前半は、正確で詳細な自国戦力に関する分析が載せられていた。
(グレードアトラスターの主砲口径まで!)
グレードアトラスターは、大和型と同じく46㎝砲を搭載しているが、機密事項に指定され対外的には40.6cm砲と公表しており、海軍内でも本当の口径を知る者は少ない。
「信じられん・・・!」
この時点でも恐ろしく深刻だが、読み進める毎に深刻さは増す一方であった。
自国の戦力情報を読み終えると雑誌の中盤に差し掛かり、日グがぶつかった場合の予想が記載されていた。
(圧勝?帝国の技術を此処まで把握しておきながら、日本が圧勝するだと?ふざけやがって!)
憤りつつページをめくると、今度は日本の戦力情報が記載されていた。
「誘導弾?ジェット機?アサルトライフル?」
想像を超える数々の兵器が羅列されており、彼の頭はパンク寸前になる。
それでも時間を掛けて何とか嚙み砕くと、全身を悪寒が襲った。
(これでは帝国が・・・)
ナグアノはこの瞬間、日本を正確に理解した。
ミリシアル帝国は愚か、自国をも圧倒する力を持つ超大国。
フォーク海峡で東征艦隊を打ち破った相手は、ミリシアル帝国ではなく日本だと確信した。
「これは上申しなければ!」
危機感が彼の体を突き動かし、報告書の作成に没頭する。
(しかしこれ程の情報・・・信じて貰えるだろうか?いや、絶対に信じさせなければ!)
帝都ラグナ
合理的で無個性なビルが建ち並ぶグラ・バルカス帝国の中心地。
常時吐き出される煤煙により、黒を基調とした町並みはより不気味さを増している。
そんな町の丁度中央に佇む二ヴルス城では、ある二人が向き合っていた。
「父上、何故前線基地への視察をお認めにならないのですか!?」
「カバル、最前線とはお前が考えている様な甘い場所ではない。軽はずみな考えで引っ搔き回してはならぬ。」
帝王グラ・ルークスが諫めている相手は、彼の実の息子である第一皇子 グラ・カバル である。
彼は現場の士気を鼓舞しようと、最前線基地への視察をルークスへ直談判しているのである。
「最前線とは、言わば非日常の代名詞なのだ。突発的な襲撃が起こる可能性もある。当然、そこに勤める者達は命懸けだ。」
「だからこそ最前線へ行くべきなのです!帝国が苦境に立たされている今こそ、皇族、しかも皇太子である私が現場へ赴き、兵達に労いの言葉を掛けるのです!」
「時勢を弁えろ。我が軍は一大決戦を控えているのだぞ。何処もかしこも、その為の準備に忙殺されておる。そんな所へノコノコ出向いてみろ、皇族が赴くとなればその為の準備と警備、更には相応の出迎えもせねばならん。」
「それは解っております!此度の決戦は、恐らくムー大陸沖合を戦場とした大海戦となるでしょう。私も、軍艦に乗って海戦に立ち会おうとは思っておりません。私が向かうべきなのは、レイフォル州のバルクルス基地です!」
ルークスは溜息を吐く。
「同じ事だ。何処だろうとも、最前線は常日頃から危険と隣り合わせなのだ。お前のお守りの為に負担を強いて、初動対応が遅れたらどうするつもりだ?」
「ですから、警備は共の従者だけで良いと以前から申しているではありませんか!」
「お前は良くても周囲はそうもいかんのだ。万一怪我でもしてみろ、何の過失も無い者が大勢首を切られるのだぞ。お前の軽挙のせいで、前線を支える貴重な人材が失われる危険があるのだから、不用意に動くなと言っておるのだ。しかも、今は困難な時勢が続いておるのだ。余計な仕事を増やして兵を無駄死にさせるのが皇族のやる事か?前線を支える兵は、帝国を陰で支える貴重な人材、貴様の命と等価だと考えろ。」
「臣民の命が尊いのは間違いありませんが、皇族あってこその臣民です!皇族の影響力は計り知れません!皇族が現場を訪問する、ただそれだけで苦境にある前線の兵は鼓舞され、より被害も減じましょう!よく新聞などにも書かれているではありませんか!」
カバルの主張は、新聞や雑誌の受け売りである。
そうした言説を全て真に受け、思い込みの強さも相俟って疑う事が無い。
その上、第一皇子と言う立場から自尊心も高く、一度こうと決めた事は強硬に押し通そうとする。
ルークスもその事は見抜いており、何とか止めようと諭し続ける。
「お前は物覚えは良いが、阿呆なのが玉に瑕だ。よいか、我等は無条件で臣民に敬愛されている訳ではない。相応の振る舞いを身に付け、事の真偽を見抜く目を持ち、臣民が安穏と暮らせる世を作る努力を常に怠らず、その為に先頭に立ってこそ崇敬の念を持たれるのだ。もう一度だけ言う、最前線はやめておけ。どうしてもと言うなら、レイフォル出張所で我慢するのだ。」
「いいえ!皇族としての相応の振る舞いは、やはり最前線に赴いてこそです!その場所は、ムーとの戦端を開くバルクルス基地こそが相応しい!」
ルークスが口を開こうとするも、カバルは更に畳み掛ける。
「父上、もう決めたのです!いくら止められようとも、私は決して引き下がりません!父上がどうしても許可されないなら、皇太子権限で行きます!これ以上の問答は無用です、これにて失礼!」
カバルは、肩を怒らせながら速足で退室した。
「カバル殿下!」
脇に控えていた従者が制止しようとする。
「よい、放っておけ。あの手の阿呆は、一度痛い目を見なければ解らん。」
「しかし、何故殿下は突然この様な事を・・・」
ルークスは、呆れの表情をしながら溜息を吐く。
「大方、ゴシップ誌でも読んで触発されたのであろう。市井の声を聞くのも重要だと、思い付きでやらかしおったのが目に浮かぶわ・・・」
ルークスの予想通り、カバルの行動は思い付きで様々な雑誌を読み漁った結果であった。
「このままでは、あの阿呆のせいで現場は益々混乱する。皇太子権限を廃止し、奴の暴走に歯止めを掛けねばならんな。」
皇太子権限とは、皇太子が超法規的に自己判断で決裁が可能な制度である。
帝王の許可も不要である為、カバルが皇太子権限を使うと言えば、ルークスも止める事は出来ない。
こうして、カバルのバルクルス基地視察は決定事項となり、現地では準備が進められる事となる。
バルチスタ沖大海戦は、原作と同じ展開なのでカットします。