妄想日本国召喚   作:石原

24 / 28
 描く順番を間違えました。
 こっちが先でした。


第十九話  日本の姿

 中央暦1642年11月20日

 東京に於いて、国際軍事組織<大東洋条約機構>(EOTO)が発足。

 同日、世界連盟加盟国が参加。

 

 

 

 ・・・ ・・・ ・・・

 

 

 

 中央暦1643年1月20日

 この日、佐世保基地に見慣れない船が2隻入港した。

 1隻はミリシアル帝国の魔導船であり、もう1隻はムーの機械動力船である。

「こ、これは・・・」

 魔導船の甲板で、佐世保の町並みを眺めるミリシアル関係者が目を見開いて絶句する。

「これ程の町並みが文明圏外にあると言うのか・・・何の冗談だ?」

 国防省情報局防衛管理部に所属する パーシャ は呟く。

「ですから、前々から報告を上げている通り、日本国は恐るべき国なのです。」

 周囲の様子に、溜め息交じりにアルパナが言う。

「皆さん、万が一にも失礼な態度を取らない様にお願いします。この機会を逃せば、我が国はムーにも遅れを取る事になりかねません。」

 同行しているベルーノが付け足す。

 そう言う彼のすぐ横では、エモール王国から派遣されたアレースルが、護衛と共に佐世保を見て絶句していた。

(何たる事だ・・・これ程までに発展しているとは、想像以上だ・・・)

 日本の科学技術にムー以上の可能性を示唆した彼にとっても、目の前の発展ぶりは予想を遥かに上回るものであった。

(パーパルディアが相手にならなかったのも当然だな。しかし、これ程の力を持ちながら、日本の動きは不気味な程に静かだ。力を蓄えておるのか、それとも時機を見ておるのか・・・)

「アレースル殿」

 危機感を増大させるアレースルに、リアージュが声を掛ける。

 彼は、ミリシアル帝国の外交官の代表として派遣された。

「どうされたかな?」

 どうにか気を落ち着けて、アレースルは尋ねる。

「お気持ちはお察ししますが、どうか冷静にお願いします。彼等は、世界連合へ参加を表明しておりますので、今は味方です。」

「それは理解しておるよ。しかし、それもいつまで続く事か・・・」

 日本の強大さに、彼等の不安は増すばかりであった。

「その為の協定です。ですが今は、彼等の事を知らねばなりません。」

 彼等が来日した目的は、鹵獲したグラ・バルカス艦の解析と日本との折衝である。

 第二文明圏への戦力派遣に忙殺されていた事もあり、派遣が大幅にズレ込んだが漸く余裕が出来た為、ムー関係者と共に来日した。

「恐らく、此度こそ日本国の真意に近付けましょう。当面の敵はグラ・バルカス帝国ですが、そのお陰で日本対策には余裕があります。早まってはなりません。」

「儂はそこまで愚かではないぞ?無駄に敵を増やす様な真似はせんよ。」

 

 暫く後、

 

「皆様、ようこそお出で下さいました。」 

 無事に入港した彼等を、基地司令である 佐々木 が歓迎した。

「いやはや、貴国の発展ぶりは実に素晴らしいですな。」

 ブレンダスが世辞を述べる。

 元々、日本に対して懐疑的であった彼だが、フォーク海峡で認識を改めて以降、親日派に転向している。

「私もフェン沖で貴国の戦いぶりを目にしましたが、またもや驚かされました。貴国は本当に素晴らしいです。」

 観戦武官として駆逐艦に乗艦経験のある ラッサン が続く。

「貴国の昨今の発展も素晴らしいものです。我が国も、短期間での急速な発展は経験がありますが、これはその勢いを上回るかも知れません。」

 日ム間の会話を聞き、エモール、ミリシアル関係者は苦々しい表情をする。

「さて、雑談はこの辺で。それではご案内致します。」

 軍関係者はそのまま基地内へ案内され、その他外交関係者は車へ乗り込み、東京まで送られる事となる。

「では、この場は頼んだぞ」

「お任せ下さい」

 別れ際、リアージュはパーシャへこの場を託した。

 外交官を乗せた車列が見えなくなると、佐々木が口を開く。

「皆様、道中お疲れでしょうから本日はゆっくりとお休みになって下さい。本題は明日から入りましょう。」

「いえ、その心配はありません。佐々木将軍、申し訳無いがこれからすぐに話を始める事は出来ませんか?情勢は切迫しており、僅かな時間も惜しいのです。」

 パーシャが言うと、全員が頷く。

「・・・そうですね、それでは早速本題に入りましょう。此方へ」

 そう言うと、部下に準備を指示しつつ一際大きな施設へ入り、その中の会議室へ案内する。

「この場からも見えますが、あちらに鹵獲艦を保管してあります。」

 窓から見えるドックに、6隻のグラ・バルカス艦が入渠している。

「既に我が国では解析を完了しており、まずはその情報を公開したいと思います。」

 そう言うとカーテンが閉められ、プロジェクターを起動する。

「ではまずは、戦艦から御説明します。」

 解説の士官がマイクを持ち、様々な情報が説明される。

(ほう・・・実に解りやすい資料と説明だ。)

(何たる性能だ!一番旧式と目されているオリオン級でさえ、ゴールド級を超える性能を持つのか!)

(防御に不安がある様だが、それでも運用次第ではミスリル級を超えかねん潜在性があると見るべきだな。オリオン級でこれなら、グレードアトラスターはどれ程の・・・)

 ミリシアル関係者は、想定を超える敵の強大さに戦慄する。

(ふぅむ・・・悔しいが、我が艦隊ではどうにもならんな。一刻も早く日本の技術を物にしなければ!)

(オリオン級でこの性能とはな・・・科学のムーがこれ程までに遅れを取るとは・・・)

(マグドラ群島で敗北したとは言え、ミリシアルはグ帝と正面から対抗可能な戦力を有している。世界第二位の我が国でさえ付いて行けない次元とはな・・・)

 ムー関係者は、自国ではどうにもならない敵の強大さに諦観が漂っていた。

 更に、グレードアトラスターの詳細が説明され、次いで空母と艦載機の情報が説明された。

 その後も判明している限りの情報が開示される。

「・・・以上が、現在までに判明している詳細になります。」

「質問宜しいでしょうか?」

 説明が一段落し、ベルーノが手を挙げる。

「何でしょう?」

「グ帝に関する情報は、あなた方の説明によって良く判りましたが、もう一つ知りたい事があります。それは、貴国の戦力に関してです。」

 場の空気が緊張で張り詰める。

「貴国は世界連合への参加を表明されました。つまり、これから貴国と我々は連携して戦う事になる訳ですが、貴国がどの様な武器を使い、どの様な戦術を持つのか、恥ずかしながら殆ど知りません。今後の為にも、是非ともお教え頂きたいのです。」

(やっとか)

 これまで、日本側から積極的に開示して来なかったとは言え、列強を打ち倒しながら碌に興味を持たれず今日まで放置されていたのは想定外であった。

「機密に抵触しない範囲でしたら、公開しましょう。」

 準備に少し時間を使い、一般にも公開されている軍の紹介動画を流す。

「こ、これは・・・」

 まずは、陸軍関連の内容から流れる。

(日本軍は、全面的な自動車化を実現しているのか!だとすれば、機動力に関しても我が軍は劣っている事になる!)

 ミリシアル軍では、魔導車の軍事転用を始めて久しいが、モータリゼーション自体が未だ途上であり、全軍の自動車化は困難な状態にある。

(機甲師団だと?・・・こんな重装甲な戦闘車両を大量に配備しているのか!?しかも、見た目に反して軽快に動き回る!あの重厚さを見るに、重砲で対抗するしか無いだろうが・・・あれ程の機動力ではそうそう当たらん。)

 発想すら無かった装甲戦闘車両を映像で見た衝撃は半端ではなく、危機感が一気に増す。

(空中機動部隊?どういう事だ?)

「・・・・・・」

 ヘリによる空中機動を見せられた一同は、最早言葉も無かった。

 続いて、海軍の紹介へ移る。

(何とも勇壮だが、やはり強大には見えんな。)

 観艦式の縦列から始まった見栄えの良い映像は見る者を感嘆させたが、そのすっきりとした見た目は戦闘艦としては頼りなく見えた。

 しかし、大まかな戦闘の様子が説明されると、全員の顔色が変わった。

(な・・・あの筒に誘導魔光弾が入っているのか!?)

 まずは対艦戦闘に関する解説が始まったが、ミサイル発射の瞬間は本物の映像が差し挟まれた。

(馬鹿な・・・対空用もあるのか!)

 更に、対空ミサイルが撃ち出される本物の映像が挿入され、冷や汗が垂れる。

 そして、主砲の連続射撃が映し出され、最後にCIWSの射撃で終わった。

(これが、誘導魔光弾を使った戦いか・・・)

 映像は終始淡々としているが、あまりにも次元の異なる内容に、自分達の戦い方が通用しない事を理解せざるを得なかった。

 そして、空軍の紹介へ移る。

(やはり、天の浮舟に何処となく似ているな。この国では航空機と呼ぶのか。)

 次々と映し出される様々な航空機を興味深く見つめ、天の浮舟よりも洗練された形状に興味を持つ。

(まさか・・・音速超えどころか、音速の二倍すらも超える速度を出せると言うのか!?)

 戦闘機のカタログスペックが表示されると、驚愕で思わず立ち上がりそうになる。

(戦闘機にも、やはり誘導魔光弾が搭載されているのか。戦闘機に搭載可能でありながら、射程100kmに達する物まであるのか!)

(あのエンジンは、明らかに魔光呪発式空気圧縮放射エンジンと同種の物だ。音速の二倍以上の速度を出すとなると、どれ程の出力が必要になるのだ・・・)

 その他の機種も順次紹介されると、更に危機感が募る。

(何と多彩な・・・それぞれの用途に沿った機体を開発し、しかもその性能も恐ろしく高い。我が軍では、輸送機1機たりとも墜とせんだろうな・・・)

 三軍の紹介が終わると、今度は統合運用に関する解説が始まった。

(思ったより柔軟な組織なのだな。)

(全軍を上位の指揮組織によって纏め上げ、統合的に運用しているのか。陸海軍で分かれている我が軍とは運用思想が根本的に違う。確かに、これならより効率的な作戦指揮が可能だ。)

 これには感心し、将来的な改革の目標に定めようと考える。

 映像は更に進み、最後に宇宙関連の説明に入る。

(何の冗談だ!?日本軍は、宇宙すらも戦場にしていると言うのか!?僕の星を運用しているとの話は聞いていたが、まさかこれ程とは!)

 想像の遥か上を行く日本の実力に、彼等はお手上げ状態であった。

 マグドラ群島沖海戦でグラ・バルカス艦隊に殲滅されたミリシアル艦隊だが、それでも艦隊戦自体は互角であり、ムーよりも発展した超科学文明とも渡り合える事が証明された側面があった。

 しかし、日本の実情を知らされた今となっては、世界最先端の魔導文明も、世界を脅威に陥れている科学文明も、時代遅れの産物に過ぎない事実を自覚せざるを得なかった。

 最早、プライドはボロボロであり、何とも言えない倦怠感に襲われた。

(先遣使節団の話をもっとまじめに聞くべきだった・・・これでは本当に、我が国はムーにすら遅れを取ってしまう!)

 ミリシアル関係者の胸中には、激しい後悔が渦巻いていた。

 動画が終わると、質問が出る。

「一つお聞きしたいのだが、貴軍では貴族出身者と平民出身者はどの様に分けておられるのか?」

 ミリシアル軍では、立場の上下は無いが、身分によって役職の名称や扱いに多少の差がある。

「我が国には、皇族の方々を除いて身分差はありません。全員が、いわゆる平民に当たります。」

(身分差が無い!?)

(そんな・・・貴族がいないだと!?そんな国が存在するなど・・・)

 アルパナは、驚愕する軍人達を横目に見つつ、秘かに嘆息する。

「最後に、今後の新戦力の整備計画について御紹介します。」

 国防軍で計画されている新戦力は、戦艦、弾道ミサイル、爆撃機を目玉とし、その他様々な新装備を開発している。

 また、軍の定数も引き上げられており、志願者が増加傾向にある。

 核戦力の整備も計画されているが、その情報は伏せられた。

「・・・以上になります。」

(どう言うつもりだ?現状の軍備でさえ、我が国を含む世界の誰も太刀打ち出来ない強大さだと言うのに、何の為にこれ以上の力を求めるのだ?やはり、グ帝と同じく覇を唱える気か?)

 エモール、ミリシアルの面々は、密かに日本へ猜疑の目を向ける。

「性能はどれ程になるのでしょうか?」

 戦々恐々とした様子で、パーシャが問う。

「現状では計画値ですので、正確な数字ではありませんが・・・」

 そう言いつつ、公開出来る範囲の数値を説明する。

「フフッ」

(最早、笑うしか無いな・・・)

 

 同じ頃、

 

「・・・・・・」

 主に新幹線を乗り継いで関東までやって来た一行は、自国では実現不可能な速度と快適さに目を回しつつも、冷静に外の光景を眺めていた。

 しかし、見れば見る程文明圏外にあるまじき発展ぶりに冷や汗が止まらず、関東に入る頃には言葉も無かった。

 新横浜駅に着くと、今度は政府が用意したバスに乗り換え、東京へ向かう。

 首都圏に入ると、ルーンポリスですら及ばない異次元の発展ぶりに恐怖すら覚えた。

「皆様、大変お疲れさまでした。間も無く、外務省庁舎へ到着致します。」

 同乗している案内役が呼び掛け、下車の準備を始める。

「それではどうぞ、お降り下さい。」

 外務省前で停車し、ゲートが開くと、順次下車する。

「おお、モーリアウルよ」

「アレースル様」

「ユウヒ大使」

「御苦労様です」

 バスを降りると、エモール、ムー関係者は駐日大使と再会する。

 そのすぐ後ろでは、外務大臣を初めとする政府関係者が待っていた。

「皆様、遠路遥々ようこそお出で下さいました。それでは此方へどうぞ。」

 外はかなり冷え込んでおり、まずは中へ案内する。

「貴国には驚かされてばかりです。貴国と肩を並べて戦える事、誇りに思います。」

 腰を落ち着けて最初に口を開いたのは、リアージュである。

 内心では、日本の発展ぶりに恐怖すら感じていたが、今は敵ではない事を殊更口にして自身を慰める。

「これまでの交流は希薄でしたが、今回を機にお互いの理解を深められればと思います。」

 外務大臣が応じる。

 その後はそれぞれが把握している情報のやり取りを行い、現在の情勢が共有された。

「あまり宜しくありませんな・・・」

 元駐パーパルディアムー大使の ムーゲ が呟く。

 ミリシアル帝国が音頭を取った事で世界は対グラ・バルカス帝国で固まっているものの、それは軍事力を背景にしたかなり無理矢理な方法であり、一定の不満が蓄積していた。

 また、先進十一ヶ国会議の顛末の影響は大きく、隙あらばグラ・バルカス帝国へ鞍替えしようと玉虫色な態度を取っている勢力も一定数いる。

 更に、戦時による軍での物資の大量消費と、グラ・バルカス帝国軍の跳梁を恐れての物流の停滞により、第二文明圏を中心に市民生活が逼迫の度合いを増している。

「しかし、それもムー大陸周辺からグ帝艦隊を駆逐すれば、情勢は回復するでしょう。その後はレイフォルとパガンダを開放し、二度と不当な野心を掲げない様にしなければなりません。」

 リアージュが力強く言う。

「それにしても、奴等は何を考えてこの様な馬鹿な事を始めたのだろうか?」

 アレースルが疑問を呈す。

(今更そんな事言うか)

 日本側は、侵略が常識のこの世界の人間が、侵略を批判的に発言している様子に内心で突っ込む。

「それでは、グラ・バルカス帝国が何故世界に宣戦布告するに至ったか、捕虜から聞き出した情報を御説明します。」

 外務大臣が話を進める。

 転移当初、未知の世界を警戒していたグラ・バルカス帝国は、穏当な外交を行っていた。

 まず、最も近い第二文明圏外各国と接触を行ったが、いずれも攻撃的な勢力ばかりであり、結局武力侵攻によって制圧する事となった。

 その後、より高度な文明を持つ文明圏の存在を知ると、再び穏当な外交方針で接触を行った。

 しかし、いずれも「レイフォルを通してから」と門前払いを受け、そのレイフォルへ向かった所、今度は「パガンダ王国を通す様に」と追い払われる事となった。

 パガンダ王国とは、レイフォルの筆頭保護国の地位にある第二文明圏最西端の島国であり、第二文明圏外からの窓口を担当している。

 そうしてパガンダ王国と接触したものの、そこで担当した外交官は侮蔑的な発言を繰り返した挙句に法外な賄賂を要求し、抗議すると不敬罪で代表者を公開処刑した。

 その代表者は帝国の皇族であり、この件はグラ・ルークスを含む全国民を大激怒させた。

 そして、パガンダ王国は7日掛かりで徹底的に滅ぼされ、そのまま宗主国であるレイフォルとの開戦へ繋がった。

 結果、グレードアトラスター1隻によってレイフォリアは瓦礫と化し、これは世界中に知られる事となったが、このレイフォリアへの艦砲射撃にも理由があった。

 レイフォリア沖へ向かう直前、レイフォル艦隊との海戦が勃発したが、この際に大損害を受けたレイフォル艦隊は降伏の意思を示したにも関わらず、接近した所を不意打ちで攻撃したのである。

 この行為に不快感を示し、報復の意味合いも兼ねて艦砲射撃が行われた。

 これ等、接触した勢力の文明度の低さに加え、パガンダ王国からレイフォルまでの経緯からこの世界は信用に値せず、同時に征服は容易であると判断し、全世界へ宣戦布告するに至ったのである。

「・・・以上が、捕虜から得た情報になります。」

(何と軽率な・・・こんな無法がまかり通っていたら、この世界を憎悪しても無理は無い。いや、一歩間違えば、日本もそうなっていたかも・・・)

 ユウヒは、一連の経緯に怒りを覚えると同時に、起こり得たもう一つの可能性に背筋が寒くなった。

「失礼ですが、この情報は信用出来るので?」

 リアージュは、敵からの証言である事から、情報の確度を疑う。

「少なくとも、パガンダの件につきましては裏が取れています。」

 かつて、グラ・バルカス帝国の侵略の危機に晒され、助けを求めに在ミリシアル日本大使館に接触したイルネティア王国の王族がいた。

 彼等はパガンダ王国の一件を知っており、大使館で一連の経緯を説明していたのである。

「そうですか・・・」

(何と野蛮な!この程度で文明国を名乗るとは、自惚れにも程がある!)

(短絡的な一部の馬鹿のせいで、我が国は危機に晒されているのか!)

 パガンダ、レイフォルの暴挙に怒りを覚える一同だが、そこで日本から提示されていた国際条約の存在を思い出す。

(我等が最も警戒している相手が、世界の秩序を最も考えているとはな・・・)

(あんな連中を文明国と認めていたとは・・・我が帝国が敗れるのもやむなしか・・・)

 ミリシアル関係者は、徐々にこれまでの認識が改められつつあった。

 その間にも説明が進み、一段落する。

「・・・現状、判明している事は以上になります。」

 外務大臣が着席したのを見計らい、リアージュが口を開く。

「御説明、有り難う御座いました。これらの情報は、今後の戦況を左右する重要なものとなると確信しております。失礼ですが、もう一つお聞きしたい事があるのですが、宜しいでしょうか?」

「どうぞ」

「世界連合は、敵艦隊との決戦を来月と見込んで準備を進めております。そして、貴国は今回の海戦に参戦こそしておりませんが、世界連合の参加を表明されました。今後の貴国の方針と、動向についてお聞かせ願えませんか?」

「少々お待ち下さい」

 準備が始まり、担当の官僚が立ち上がる。

「初めまして、私は 柳田 と申します。」

(この男、本当に外交官か?)

 服装はしっかりしているが、彼の恰好は何処かボサッとした印象を受ける。

「我が国の今後についてですが、まずはグラ・バルカス帝国との戦争についてお伝えします。我が国は既に、ムーへ向けて戦力の派遣を進めております。」

 派遣予定戦力は、以下の通りである。

 陸上戦力は、先遣隊として第二外征団が現地入りを待っているが、更に1個機甲師団、2個通常師団、1個通常旅団、1個空挺団を派遣予定となっている。

 海上戦力は、第一艦隊が第二外征団と共に派遣され、日本からの継続的な戦力及び物資輸送の護衛に地方隊1個戦隊が交代で付く。

 航空戦力は、戦闘機1個航空団、1個輸送航空団、警戒航空団隷下1個飛行隊、偵察航空団隷下1個飛行隊、飛行開発実験団隷下1個小隊(BP-3C)が派遣予定となっている。

「戦端を開くのはいつ頃の予定でしょうか?」

「此方から戦端を開く予定はありませんので、敵次第としか申せません。」

 戦場があまりにも遠過ぎる為、可能であれば戦闘は避けたいのが日本側の本音である。

 そこで、世界連合との戦闘後に再びグラ・バルカス帝国と外交的接触を図り、可能であればそこで停戦、最低でも時間稼ぎをするとしている。

「丁寧な説明、有り難う御座います。やはり、貴国の突出した強大さを実感します。ですが、他にお聞きしたい事があるのですが、宜しいでしょうか?」

 今度はユウヒが問う。

「何でしょう?」

「貴国は最近、第三文明圏の戦力を糾合した軍事組織を設立したと聞いています。その組織につきまして、説明をお願い出来ないでしょうか?」

「解りました。では御説明します。」

 日パ戦争後、いくつもの国際組織を立ち上げた日本だが、第三文明圏の防衛に責任を負う立場となった事で、傘下国の戦力との効率的な連携を可能とする軍事組織が必要となった。

 その結果出来上がったのが、<大東洋条約機構(East Ocean Treaty Organization)>略称EOTOである。

 正式名称はあまり定着しておらず、一般的には大東洋同盟とも呼ばれている。

 地球世界のNATOに似た組織であり、加盟国間の集団的自衛権の発動を前提とした集団防衛体制の確立、加盟国に対する軍事的、政治的圧力の抑止、域外脅威に対する集団的軍事行動を目的としている。

 これにより、EOTO加盟国に対する攻撃は、第三文明圏全てに対する攻撃と同義となる。

 また、世界連盟が国際法を管轄するのに対し、各種戦時条約を管轄する。

 EOTOは、大東洋憲章を根拠に設立されており、その目的はあくまでも平和と安定にあり、他勢力に対する侵略的行為は厳禁であり、違反した場合には軍事制裁を行えるものとする事で、加盟国に対しても強制力を及ぼせる。

 これにより、内部に野心的な勢力を抱えたとしても、直ちに阻止、場合によっては強制排除も可能とする法的根拠を有する事となった。

 EOTOの戦力は、加盟国の保有戦力がそのまま適用され、兵力は現時点で200万を超える。

 ただし、普段は所属する国固有の軍として扱われ、EOTOの活動の一環として投入される部隊が、その都度多国籍軍や大東洋軍などと呼ばれるEOTOの部隊として扱われる。

 更に、日本はNATO規格の様なEOTO共通装備を開発しており、カテゴリーブルー以上の国限定だが、近代装備の普及を目指している。

「基本情報につきましては以上になります。」

(この先、日本製の兵器が周辺国に拡散するのか!これは由々しき事態だぞ!)

(将来的には、我が軍にもこれらが配備されるのだろうな。)

 それぞれが危機感や期待感を抱きつつ、今後の展望を想像する。

「では貴国は・・・いやEOTOは、今後どの様に動かれるおつもりか?」

 モーリアウルが問う。

「現在、EOTOはデフコンレベルを3に設定しており、臨戦態勢を整えています。」

 日本政府は、今後の新世界の技術発達を危険視している。

 破壊や侵略を当然とし、殲滅戦すら言い出す現在の価値観で更に強力な技術を得た場合、ラヴァーナル帝国の出現に関係無く文明崩壊に至ると予測している。

 それでも、世界から紛争の根絶は不可能と見ているが、少なくともすぐに攻め滅ぼす様な見境の無い状況は止める必要があるとし、旧世界の段階的抑止の概念を持ち込む事とした。

 そこで、EOTOを利用して一気に広めたのである。

 

 デフコン5:軍を動かす事態は何も無い、完全な平時レベル。

 デフコン4:何らかの緊張状態が発生している、警戒を要するレベル。戦時ではないが、予備役の動員や軍の配置を要し、場合によっては小競り合いが発生する。

 デフコン3:戦時に該当するレベル。加盟国が宣戦布告を受けた、或いは加盟国が域外の戦乱に巻き込まれる可能性が高い状況である、非核戦争状態。

 デフコン2:限定核戦争に該当するレベル。戦術核を使用する、或いは使用する危険が大きい状態。

 デフコン1:全面核戦争に該当するレベル。全面的な核の撃ち合いが発生する、或いは発生する危険が大きい状態。

 

 現在は、グラ・バルカス帝国から宣戦布告を受けている為、デフコン3の状態が続いている。

「ただし、ムー大陸への派遣は我が軍のみが行い、その他は第三文明圏の秩序維持に投入します。」

 現状では、近代的な規律が定着していない事、故郷から遠く離れた戦場で戦う心構えも身に付いていない事から、基本的に各個に防衛を行う態勢となっている。

「良く解りました」

「一つお尋ねしたい」

 聞きたい事を粗方聞き終え、満足げな中でアレースルが口を開く。

「何でしょう?」

「貴殿らとラヴァーナルには、どの様な関係があるのだろうか?」

 ミリシアル関係者は、一気に青ざめる。

「ラヴァーナルと言いますと、確か近々復活すると言われた魔法帝国の事ですね?」

「そうだ」

(魔帝の技術をこれ程までに再現しているとは、忌々しい国だ!)

 科学文明国とは言え、ラヴァーナル帝国と似通った技術体系を持ち、それを使いこなして大いに発展している様を見ては、かつて苦杯を舐めた竜人として我慢ならないものがあった。

「結論を申しますと、我が国と魔法帝国には何ら関係がありません。」

「ではどの様にして、貴殿らはこれ程までに発展出来たのだろうか?これまで、最も発展した国として君臨していたミリシアルは、魔帝の遺産を解析したからこそそれが可能であった。」

 新世界に於ける優れた技術とは、イコールラヴァーナル産の技術である。

 ただでさえ日本へ猜疑の目を向けている彼等からすれば、ラヴァーナル帝国と何の関係も無いとの証言は全く信じられなかった。

「我が国は転移国家です。転移以前の世界には人間族しかおらず、魔法も存在しませんでした。」

(魔法が存在しない!?ならばどうやって文明を維持するのだ!)

 想像もしていなかった話に、思考が空転する。

「ですが、長い時間を掛けて世界を構成する原理を解明し、それ等を応用した技術を開発して来たのです。これが科学です。」

「その科学技術によって、貴殿らは最強の座に着いていた訳か。」

「いいえ、旧世界の我が国は最強ではありませんでした。我が国と同等の国は複数ありましたし、我が国の10倍程強い国もありました。」

「「「!?!?」」」

(に、日本の10倍!?そんな出鱈目な!)

(日本が複数いる世界など、どれだけ修羅な世界だ!)

「ですが、無暗に侵略を行わない点で魔法帝国とは異なっています。だからこそ、旧世界は諍いがありつつも、互いに文明を発展させられたのです。」

 日本側としては、この世界を圧倒する実態を知った相手の恐怖心を払拭しようと必死であった。

 覇権主義が当然な価値観では、強大な力を持っていれば直ちに疑念を持たれかねず、そうなればこれまでの犠牲が無駄になる。

「ほう。では、貴殿らが提唱した国際条約も、転移前の世界にもあったのだな?」

「その通りです。勿論、成立までには多大な犠牲がありましたが、その犠牲から学び、同じ過ちを繰り返さない為の戒めを自身に課したのです。」

(自らに戒めか・・・)

 これまで存在しなかった概念に、新鮮さを覚える。

「良く解った、失礼したな」

 アレースルは、引き下がった。

 それを見て、ミリシアル関係者は胸を撫で下ろす。

 

 後日、帰国した彼等はそれぞれが見聞きした情報を持ち帰ったが、その内容に何処もかしこも大混乱であった。

 鹵獲艦から予想されるグラ・バルカス帝国の国力、予想を遥かに上回る日本の実情。

 下に見ていた科学文明国の実態は、現実を見ていた筈のミリシアル8世をも驚愕させた。

 これまでは日本のみに注目していたが、今や第三文明圏全体を注視しなければならない情勢となっていた。

 秘密協定の重要度は嫌でも上がり、ミリシアル、エモール間の連絡が活発となり、警戒の度合いも高まっている。

 同時に、日本の動きは新世界の価値観に一石を投じたのも確かであり、警戒しつつも日本のあり方を学ぼうとする動きがムー以外にも広がりを見せ始めた。

 征服を選び、駆逐されようとしているグラ・バルカス帝国。

 共存を選び、定着しようとしている日本国。

 対照的な転移国家の行く末は、新世界の未来をも左右する。

 

 




 装備紹介に新装備の計画を追加しました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。