妄想日本国召喚   作:石原

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第二十話  狼狽

 中央暦1642年12月1日

 日本、ムーへ対グ帝戦に関する支援を表明。

 後日、先遣隊として第一艦隊及び第二外征団を派遣。

 中央暦1643年1月14日

 ミリシアル8世の命により、空中戦艦パル・キマイラ2隻がエリア48より出撃。

 同日、日本の監視衛星がパル・キマイラを捕捉し、日本政府が空中戦艦の存在を認知した。

 2月5日

 ムー大陸西方、バルチスタ海域に於いてバルチスタ沖大海戦が勃発。

 双方甚大な被害を被り、弾薬欠乏と共に海戦は終結。

 世界連合艦隊は撤退し、一帯の制海権はグラ・バルカス帝国が確保した。

 

 

 

 ・・・ ・・・ ・・・

 

 

 

 2月

 この月は、全世界に大激震が走った月となった。

 神聖ミリシアル帝国を筆頭とする世界連合艦隊の乾坤一擲を賭した攻撃が、失敗に終わった。

 敵も無傷だった訳ではない。

 しかし、戦略目標であったグラ・バルカス帝国の第二文明圏からの撃退は実現出来ていない。

 どれだけ敵に損害を与えようとも、これでは戦術的にも勝利したとは言い難い。

 魔法文明の頂点に立ち、伝承に語られる兵器の実物まで有する、あのミリシアル帝国が本気になったにも関わらず、敗北した。

 ミリシアル艦隊以外は更に悲惨であり、参加戦力の四分の三に達する艦を撃沈され、第二文明圏の航空戦力を結集した竜騎士団も全滅した。

 この結果は、全世界に恐怖と絶望を齎し、戦わずグラ・バルカス帝国の軍門に降る国が続出する事となった。

 

 

 

 ・・・ ・・・ ・・・

 

 

 

 神聖ミリシアル帝国  国防省

 

 

「ば・・・馬鹿な・・・」

 国防省に、バルチスタ沖大海戦に関する情報が届いた。

 その瞬間から、国防省全体が大混乱に陥った。

「何たる事・・・あってはならない事だ!」

「誤情報ではないのか?あれ程の大艦隊が撃退されるなど・・・」

「魔導を知らぬ文明圏外国に敗北だと・・・?何かの間違いだ!」

 史上空前の大戦力を結集し、乾坤一擲を賭した一大海戦を挑みながら撃退された。

 日本からの兵器情報によって多少の混乱はあったものの、その分の補完も行い、万全の態勢を整え、勝利を確信していた筈が、まさかの敗北である。

「そんな・・・そんな事などある筈が・・・」

 中でも、最も動揺しているのがクリングである。

「クリング提督、アグラ長官がお呼びです。」

 秘書の呼び掛けに我に返るが、このタイミングでの呼び出しに顔面蒼白となった。

「私が御案内します。どうぞ」

 秘書の隣にいる職員が、軽蔑の表情を隠しもせずに言う。

(ああ、何たる事だ・・・)

 自身の積み上げて来たキャリアが崩れつつある事を確信し、覚束ない足取りで付いて行く。

「長官、クリング提督をお連れしました。」

「入れ」

 長官用執務室から、明らかに不機嫌と判る声が聞こえた。

「失礼します」

「御苦労、下がっていいぞ」

 奥の椅子に座っていたアグラが立ち上がる。

「はい」

 職員は敬礼すると、そそくさと退室した。

「さて・・・まぁ座れ」

「はい」

 互いに来客用のソファに座るが、高級でフカフカな筈のソファの座り心地は最悪であった。

「・・・」

「・・・」

 事前に人払いを済ませていた事もあり、この場には二人しかいない。

 暫くは互いに一言も声を発さず、重苦しい沈黙が支配した。

「さて」

 アグラが言うと、クリングの肩が跳ね上がり、冷や汗でシャツが濡れた。

「グ帝艦隊との海戦の結果はもう知っているな?」

「は、はい・・・」

「君は2個艦隊でも十分だ、3個艦隊であれば必ず勝てると断言した。」

 皇帝へ戦力再編を進言した影響もあり、グラ・バルカス艦隊の戦力評価と艦隊編成は彼を中心に行われていた。

「私は何度も念を押した。私だけでなく、外務省からも不安の声があった。その意見を全て退け、必ず勝てると君は言った。」

 アグラの一言一言が、クリングの胸に突き刺さる。

「君は何を根拠に勝てると言ったのかね?」

 しどろもどろになりつつも、クリングは何とか口を開く。

「ま、まずは、敵艦艇の戦闘力の分析に関してですが、マグドラ群島とフォーク海峡の結果から、我が軍とほぼ同等と分析しておりました。それ程の相手では、1個艦隊では対抗出来ないのは明らかであり、より大規模な艦隊を編成すべきと判断しました。」

「・・・それで?」

「次に、敵戦力に関してですが・・・日本軍によって敵は1個艦隊以上の規模の艦艇を一挙に失いました。これ程の損害を受けてしまっては、単純な頭数のみならず、兵員の士気も大幅に低下し、見掛け以上の戦力低下が発生します。従いまして、我が方で把握している戦力が相手ならば2個艦隊、想定外の戦力を有していても3個艦隊で十分との結論に至りました。」

 

 

 ドンッ

 

 

 机を叩く音が響き渡る。

「貴様!そんな曖昧な理由で多くの将兵の命を犠牲にしたのか!?正確な総数も判っていないにも関わらず、敵を過小評価するとは何事だ!?」

 具体的な戦力に関しては日本からの情報提供があったが、グラ・バルカス本国では艦艇の大規模増産の動きが確認されており、頻繁な戦力移動や一部艦艇の退役などもあった事から、正確な実数の把握には至っていなかった。

「それだけではない!貴様、奴等が日本艦隊に惨敗した様を見て侮っていたな!?」

 図星を突かれたクリングは肩を震わせる。

 彼を中心に行われたグラ・バルカス帝国の戦力評価は、フォーク海峡海戦の結果を元に行われたが、東征艦隊の惨状から、グラ・バルカス艦艇の戦闘力を実際より過少に見積もっていたのである。

 また、日本から提供された水雷兵器に関する情報も、艦隊に伝えただけで海軍として対応策を検討しておらず、ぶっつけ本番で潜水艦隊の奇襲を受けてしまい、その後の艦隊決戦に悪影響を及ぼした。

「これ程までに無様な敗北を喫したのだ。これで、我が国は世界最強の座から転落するだろう・・・」

 鋭い目で睨むアグラ。

「し、しかし、敵も大損害を受けたのです!確かに、グラ・バルカス帝国は想定を遥かに上回る戦力を有しておりますが、我が国はこの海戦を通して奴等と渡り合える事を証明したのです。」

「貴様は何処まで愚かなのだ!?古の魔法帝国の超兵器まで投入しながら1隻を撃墜され、艦隊も半数以上を失ったのだぞ!しかも、当初の目的であった第二文明圏の開放も果たせておらん!この無様な結果で、痛み分けに持ち込めたとでも言うつもりか!?」

 超兵器とは、空中戦艦<パル・キマイラ>である。

 伝承にも存在するラヴァーナル帝国の兵器であり、直径260mにもなる文字通り空中を飛ぶ戦艦である。

「そもそも、我が国が最強の列強国として世界を牽引出来たのは、他国を圧倒する力があったからだ!圧倒どころか撤退を余儀無くされる失態を演じながら、これまで通りの地位を保てると思っているのか!?」

 覇権主義が常識なこの世界は、力、特に軍事力の強さがそのまま国際的地位の役目を果たす。

 日グが出現する以前のミリシアル帝国は、他の列強が束になっても勝てない程の圧倒的な力を有し、実際に無敗を誇ったからこそ第一位の列強国として君臨出来ていた。

 しかし、今回の結果はミリシアル帝国を超える力を持った存在としてグラ・バルカス帝国が世界に認知された事を、アグラは正確に予測していた。

「世界は変わった、悪い方向へな・・・私も責任を免れんだろう。」

 そう言いつつ、一枚の書類を渡す。

 目を通したクリングは、一気に青ざめる。

「見ての通り辞令だ。貴様を西部方面艦隊司令官から解任し、地方隊へ異動を命じる。」

 事実上の左遷であった。

「下がれ」

 これ以上話す事は無いと背を向け、それだけ言う。

 クリングは、肩を落として退室した。

 

 

 

 ・・・ ・・・ ・・・

 

 

 

 中央法王国

 

 

 第一文明圏に属するこの国は、明確な国名が存在しない。

 極めて質の高い魔導士を多数擁する国であり、ミリシアル帝国から魔帝の遺跡の解析に呼ばれる程である。

 その見識は軍事力にも反映されており、見た目は近世の軍勢だが、SFじみた攻撃方法を有している。

 反面、個々の魔導士の質を追求している関係で、規模が小さい。

 世界連合艦隊へ派遣した戦力も、消耗を恐れて僅か2隻に留まっている。

「そろそろ海戦の結果が判っても良い頃合だがの・・・」

 王の間で、国王 アレンデラ6世 が呟く。

 彼の眼下には、国の重役が集まっている。

 此処数日、彼等は海戦の結果を今か今かと待ち続けていた。

「我が軍も戦果を挙げていると良いのですが・・・」

 若手の閣僚が懸念を示す。

「何を言っておるのだ?精鋭を送り込んだのだぞ、敗北など有り得ぬであろう。」

 老年の閣僚が反応する。

「いえ、勝利するのは当たり前です。しかしながら、我が国が派遣した戦力は僅か2隻に過ぎません。此度は、全世界が精鋭を結集しています。他国が先んじて敵を打ち滅ぼしてしまい、我が軍が全く活躍出来なかったとなれば、外交上宜しくないかと。」

「ああ、そう言う事か」

 全員が、少し顔を顰める。

「確かに、ちと出し惜しみし過ぎたかも知れんの。此度の戦は、史上空前の規模だ。ミリシアルのみならず、ムーまでもが主力を差し向けておる。これでは、戦果を挙げる事は適わん可能性が高いの。しかし、既に派遣してしまった以上は致し方あるまい。海戦後を見据え、外交で取り戻すしかあらぬな。」

 国王が言うと、全員が頷く。

「ならば、戦力を温存したのは幸いでした。海戦後の海域の維持に艦隊を派遣すれば、言い訳が立つでしょう。」

「此度の海戦でも何らかの戦果を挙げていれば、尚良いのですが・・・」

「敵が予想よりも強大であれば、ファルタス提督のイクシオンレーザーが火を噴いているでしょう。そうなれば、敵も無事では済みますまい。」

「あれは凄まじいですからなぁ。」

 のんびり語り合っていると、魔導通信屋に詰めていた外務卿が戻って来た。

「失礼致します、グラ・バルカス帝国との海戦に関する報告に参りました。」

「おお、遂に来たか!」

 外務卿の顔は強張っており、喜びを噛み締めている様にも見えた。

「して、戦果は如何程に?」

「それが・・・ぜ、全滅に近い・・・」

 そこで一旦区切る。

「やはり、敵艦隊は全滅したか。」

「当然でしょうな。全世界が本気になって攻撃したのです。レイフォルを滅ぼしたとは言え、僅か一国で世界に対抗出来る筈も無いでしょう。」

 笑い声が上がるが、外務卿はその流れを断ち切った。

「いえ、世界連合艦隊は全滅に近い被害を受け、退却しました・・・」

 衝撃的な話に、場が凍り付く。

「また、ミリシアル艦隊も約半数の損害を受け、撤退しました・・・」

「あのミリシアルが!?」

「そんな・・・有り得ん!文明圏外に、その様な強大な国家が存在するなど!」

 激しく狼狽するが、外務卿の報告はまだ終わっていなかった。

「あのムーでさえ、グラ・バルカス艦隊を前に手も足も出ず一方的な被害を受けました。第二文明圏連合竜騎士団も全騎未帰還となり、ミリシアル艦隊も劣勢に追い込まれる中、彼の国は古の魔法帝国の遺産、空中戦艦パル・キマイラを投入したとの事です。」

「おお、あの伝説の兵器を!」

「何と、本当に実在したとは!」

「古の超兵器が相手であれば、如何にグ帝であろうとも敵うまい!」

 大損害を出したとは言え、魔帝の超兵器であれば勝利は確実。

 そう確信し、歓声を上げる。

「空中戦艦は極めて強力であり、多数の敵艦を撃沈しました。報告では、敵艦の撃沈総数の内、半数以上が空中戦艦によるものとの事ですが・・・」

 声が震え始め、一旦落ち着けてから再度話し始める。

「情報の確度は不明ながら・・・敵超大型戦艦により、撃墜されたとの報告が上がっております。」

 再び場が凍り付く。

「バ・・・馬鹿な・・・」

 誰もが絶句する中、国王が口を開く。

「超大型戦艦とは、どの様な艦なのだ?」

「グ、グレードアトラスターとの報告が・・・」

「有り得ん!グレードアトラスターは日本軍に鹵獲されておる!」

「どうやら、グレードアトラスターは量産されている様でして、同型艦が此度の海戦に投入されていたとの事です。」

「そんな・・・」

 グレードアトラスターを量産する。

 1隻建造するだけでも、どれ程の技術と労力と資材が必要か想像も付かない巨艦を量産する。

 直接的な戦闘以外でも、強大さを実感させられた。

「それで、我が軍はどうなったのだ?」

 衝撃続きで忘れかけていた一番の懸案を訪ねる。

「艦隊からの連絡が途絶えておりますので、第三国経由の情報になりますが・・・戦闘開始直後に敵飛行機械から爆弾を投下され、反撃の間も無く両艦とも轟沈したとの・・・未確認情報が入っております。」

「馬鹿な・・・あのファルタス提督が、反撃の間も与えられなかったと言うのか・・・」

「グラ・バルカス帝国・・・これ程とは・・・!」

 希望が悉く覆され、あるのは絶望のみ。

「クッ、どう対抗せよと言うのだ!?」

 いくら考えても、有効な策は思い浮かばない。

 しかし、このままグラ・バルカス帝国に支配されるつもりもない。

 その後、連日に渡り議論が繰り返されるが、結論は何も出なかった。

 

 

 

 ・・・ ・・・ ・・・

 

 

 

 2月6日

 ムーの首都オタハイトは、お祭り騒ぎになっていた。

「あれが日本艦隊か」

「砲が僅か1門とは頼りないが、あれで戦えるのかね?」

「侮っちゃいかんよ。ああ見えて、ミリシアルすら超える力を持ってるんだぞ。」

 日本政府は、ムー支援の為の援軍の派遣を行い、2月1日に到着した。

 世界連合への戦力派遣は間に合わなかったが、今後のグラ・バルカス帝国の目標はムーである事は確実であり、バルチスタ沖大海戦の裏でムーへ戦力を派遣した。

 現在、オタハイトに第一戦隊(空母打撃群)が、マイカルに第六戦隊(水上打撃群)が停泊している。

 日本艦隊の受け入れ先としてマイカルが提供されたが、今回は国王ラ・ムー自ら日本軍を歓待したいとの申し出から、第一戦隊がオタハイトへ表敬訪問しているのである。

「盛大な歓迎ぶりだな。」

 第一艦隊司令官である 波田 は、難しい顔をしながら言う。

「と言う事は、我々の仕事は過酷なものとなりそうですな。」

 副司令である 馬場 が応える。

 タラップの先には、正装に身を包んだ儀仗兵が等間隔に並んで出迎え、軍楽隊が上品な曲を奏でている。

 波田以下、第一艦隊幕僚は足を進める。

「捧げー銃!」

 タラップから降りると、命令が響き渡る。

 敬礼で応じつつ進むと、複数のリムジンとスーツに身を包んだ一団の元へ辿り着く。

「ようこそお出で下さいました」

 先頭に立つ、最も高齢な見た目をした男が口を開く。

「私は外務大臣を仰せつかっております メルト と申します。皆様の御来訪を、心より歓迎致します。」

 深々と頭を下げる。

「頭をお上げ下さい、我々は同盟者なのです。危機に際しては、互いに助け合うのが当然です。」

 波田が応じる

「とんでもない、貴国の強大さはよく存じております。恥ずかしながら、我が国では此度の危機に対応出来ず、貴国に頼るしか御座いません。一方的に助けられる立場にある我が国に手を差し伸べて頂き、深く、深く感謝致します。」

 再び頭を下げる。

 その様子に苦笑しつつ、波田は語る。

「我が国は転移以来、苦難に見舞われて参りました。そこへ手を差し伸べて下さったのが貴国なのです。この世界では新参者である我が国を、貴国は何度も助けて下さいました。これは恩返しなのです。ですからその様に畏まらず、共にこの危機を乗り越えましょう。」

「有り難いお言葉、痛み入ります。さぁ、これ以上の立ち話も何でしょう。どうぞ、お乗り下さい。」

 そうしてリムジンに乗り、王城へ向かう。

「この車は、貴国の助言を受けて開発された最新型です。これまでとは一線を画す性能をしております。尤も、貴国の車にはまだまだ及びませんが。」

「これは、我が国もうかうかしていられませんな。油断していると、すぐに追い付かれてしまうかも知れません。」

 他愛も無い話をしていると、王城へ到着した。

 周囲には報道関係者が多数構えており、車から顔を出すと一斉にフラッシュを焚かれた。

「では、此方へ」

 メルトの後を付いてレッドカーペットの上を歩き、王城の入り口前で止まった。

「ようこそお出で下された。朕が、ムー国王ラ・ムーです。」

「陛下御自らのお出迎え、感謝致します。」

 いきなり予想外の人物の登場に驚くも、最敬礼で応じる。

「既に歓待の準備は出来ておりますぞ。さあ、中へ」

「恐縮です」

 内部へ入ると報道関係者はシャットアウトされ、多数の官僚の拍手によって出迎えられた。

 波田達は、国賓待遇に身が引き締まる思いであった。

 そのまま少し進むと、ラ・ムーが振り返る。

「朕が自ら案内出来るのは此処までです。可能であればこのまま城内を案内したかったのですが、止められてしまいましてな。」

「恐れ多い事です」

 一礼しつつ、本当にそうならないで良かったと胸を撫で下ろす。

「陛下」

 侍従が近付き、先を促す。

「では、また後程」

 そこで別れると、案内の官僚が前へ出る。

「それでは、此処からは私が御案内させて頂きます。」

 そのまま進むとまずは応接室へ通され、今後の予定が説明された。

「・・・以上になります。大変お忙しい日程となっておりますが、どうかお付き合い下さい。」

「有り難う御座います」

「それでは、お時間になりましたらお呼びしますので、それまでどうぞお寛ぎ下さい。何か御座いましたら、係の者をお呼び下さい。」

 そう言うと、官僚は退室した。

「随分と我が国を買ってくれてるな。」

 波田は、伸びをすると呟く。

「国王が自分でお出迎えとは、驚きましたね。」

 馬場も足を伸ばす。

「まぁ、束の間だがこの平和な時間を満喫させて貰おう。」

 しかし、平和な時間は束の間も無かった。

 少し後、官僚が艦隊からの報告を持ち込んだ。

 内容は、グラ・バルカス艦隊がオタハイトとマイカルへ向けて進撃中であり、約1日の距離まで接近しているとの事であった。

 この報告により、歓迎式典は一時中断となり、第一艦隊は迎撃に出る事となった。

 

 

 

 ・・・ ・・・ ・・・

 

 

 

 2月15日

 グラ・バルカス帝国情報局には、情報局関係者のみならず軍の主立った面々が集まっていた。

 バルチスタ沖大海戦は、グラ・バルカス艦隊が戦術、戦略双方に於いて勝利したと言える結果に終わったが、同時に重大な問題も顕在化した。

「知っての通り、我が帝国は今回の海戦に於いて、甚大な被害を出した。」

 東方艦隊司令長官の カイザル が口を開く。

 彼は、バルチスタ沖大海戦に参加していたが、事が事だけにレイフォルまでとんぼ返りして情報局へ顔を出しているのである。

「世界連合艦隊は前時代的な戦力ばかりであり、我が軍の敵ではなかった。せいぜい、数が無駄に多いせいで弾薬を浪費するのが厄介な程度だ。」

 全員が頷く。

「唯一の例外はミリシアルだ。だがそれも、情報局の事前の分析とほぼ一致していた。損害は免れんが、勝てない相手ではない。しかし・・・」

 軍関係者の表情が、一気に深刻になる。

「敵は、空中戦艦などと言う化け物を戦場に投入して来おった。」

「くうちゅうせんかん?」

 情報局関係者は、言葉の意味が理解出来なかった。

「文字通り、空中に浮かぶ戦艦だ。信じられんだろうが、奴等は本当にそんな荒唐無稽な兵器を繰り出して来おったのだ。確認出来た限りではたったの2隻だったが、我が艦隊の損害の大部分はこの2隻によるものだった。」

 とても信じられないが、軍神とまで呼ばれるカイザルが情報局に出向いてまでこの様な嘘を吐くとも思えなかった為、ひとまず信じる事にした。

「どうやら、アルカイドの言っていた秘密兵器とはこの事だった様だな。あれ程の兵器を隠し持っていたなら、東征艦隊がやられたのにも納得が行く。」

 情報局関係者は、死人の様な顔になる。

 先進十一ヶ国会議以降、風当たりの強くなっている情報局にとって、この話はとどめとなりかねない。

「・・・念の為に言っておくが、君達を弾劾する為にこんな話をしたのではない。」

 その様子を見て、カイザルが言う。

「君達が優秀である事は、これまでの実績から私も知っている。君達には、これからミリシアルの兵器に関する情報を更に集めて貰いたいのだ。空中戦艦を他に何隻保有しているか、詳細なスペックはどうなっているか。それと、空中戦艦以外にイレギュラーな兵器が無いかもな。今回は、ヴェラ・ルーベンの砲手の神業によって救われたが、毎回神業に頼る訳にも行かん。」

 ヴェラ・ルーベンとは、グレードアトラスター級二番艦である。

「軍として具体的な対抗策を模索せねばならんが、その為には敵兵器の詳細な情報が必要だ。頼まれてくれるな?」

「承知しました。これは極めて重要な案件になりますな。」

 情報局員の言葉に、カイザルは深く頷く。

「議会の先生方はよく解っていない様だが、今後も同じ事を繰り返せば我が軍の戦力は遠からず払底する。そんな事になれば、世界征服など夢物語になり果て、陛下に顔向け出来なくなってしまう。それを避ける為にも、君達の役目は極めて重要だ。頼んだぞ」

 軍関係者は、軍帽を被り直して立ち上がる。

 そのまま退室しようとするも、直後に振り返る。

「ああ、そう言えば」

「はい?」

「此処へ来る途中に報告を受けたのだが、我々がバルチスタ海域で戦っている頃、本国艦隊がムー東岸域を攻撃に出たまま消息を絶ったそうだ。」

 本国艦隊と聞いた瞬間、その場の全員が嫌な顔をする。

 本国艦隊には、植民地での活動を前提とした地方隊が含まれているが、反乱を抑制して恐怖を植え付ける目的から人格破綻者が集められており、あらゆる部署から嫌われている。

「死んでも困らん連中だが、少し気になる。ついでで良いから調べてはくれんか?」

「解りました。何か掴み次第、御連絡します。」

(こ、これでは、この話を切り出す訳にはいかんな・・・)

 この場の全員が、改めてミリシアル帝国を最大の脅威と認識する中、情報局技術部部長である バミダル は、別の懸念を胸中に隠していた。

 彼の懸念は、部下のナグアノが提出した報告書に原因がある。

 それは、日本に関する報告であり、自国を圧倒する超技術を有する科学文明国であるとの内容であった。

 あまりにも現実離れした内容であり、彼自身の知識からしても、数百年の圧倒的格差でも無ければ実現出来るとは思えなかった。

 そして日本は、確かに帝国を上回る分野はあるが、数百年も先行している訳ではない。

 その上、そこまで圧倒的な力があるなら、とうの昔に全世界が日本に支配されていなければおかしい。

 繰り返し日本の脅威を警告するナグアノの進言をそうして否定したにも関わらず、何故かこの話が頭から離れなかった。

 日本の話はともかく、ナグアノが提示した雑誌には機密に抵触する情報が含まれており、その観点から進言はしなければならないと考えていたが、ミリシアル帝国の超兵器の話がその機会を奪ってしまった。

(ナグアノに、日本の情報を集めるよう命令した方が良さそうだな。)

 その後、明確な情報を得た情報局は、更なる業務に忙殺される事となる。

 

 

 ラグナ  帝王府

 

 

「殿下、どうかお考え直し下さい。」

「くどいぞ!この様な時にこそ皇族が動かずしてどうするのだ!?」

 皇太子グラ・カバルは、使用人の必死の諌めを一蹴する。

 前線慰問を皇太子権限で押し切って以降、カバルの身の安全に責任を負う周囲の人間は戦々恐々としていた。

 彼等は、何とかカバルを止めたかったが、言って聞くタイプではない。

 そのせいで何も言えずにいた所へ、バルチスタ沖大海戦の結果が報告された。

 自軍が大損害を受けた事実に衝撃を受けつつも、これ幸いと説得に動いた。

「殿下、御覧の通り我が軍は大損害を受け、膨大な犠牲が生じました。これが最前線なのです。我が軍は最強とは言え、無敵では御座いません。」

「何度も言っているだろう!だからこそ私が出向くべきなのだ!勝利したとは言え、多くの悲劇に見舞われた兵達を慰問し、再び戦場に立てるよう鼓舞するのだ!」

「殿下、敵は予想もしない強大な戦力を有しております。万が一、殿下の訪問中に攻撃を敢行されれば、身の安全は保障出来ませんぞ。」

「前線が危険なのは当然だ!その危険に身を晒してこそ、皇族の威厳を示せるのだ!」

「どうか御自重下さい。万全の警備を敷いても、絶対は無いのです。殿下に万が一の事があれば、陛下に顔向け出来ません。」

「確かに、絶対の安全は無いだろう。しかし、私は信じている!帝国軍は、如何なる困難にも必ず打ち勝つ事を!皇族たる私が出向けば、兵達はより鼓舞され、敵の姑息な奇襲などいとも簡単に退けられるだろう!」

(ああ・・・どうすれば殿下を説得出来るのだ・・・)

 カバルに何かあれば、使用人達は物理的に首が飛びかねない。

 必死の説得が続けられたが、首を縦に振る事は無かった。

 

 




 今回は、内容がかなり薄くなってしまいました。
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