妄想日本国召喚   作:石原

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 本格的に原作の年表とズレて来ました


第二十一話  揺れる科学文明国

 中央暦1643年2月7日

 グラ・バルカス帝国海軍地方隊、通称イシュタムがオタハイト沖とマイカル沖で日本国防海軍第一艦隊と交戦し全滅。

 後日、少数の生存者が潜水艦で救助された。

 3月2日

 ヒノマワリ王国、グラ・バルカス帝国へ正式に従属。

 同日、日本外交官がレイフォル出張所へ来訪し、第二文明圏からの撤退を勧告。

 交渉は物別れに終わるが、日本側の情報公開により、ムー侵攻は延期される事となった。

 

 

 

 ・・・ ・・・ ・・・

 

 

 

 バルチスタ沖大海戦以降、世界の戦略環境は大幅に変化した。

 まず、ミリシアル帝国はムー大陸周辺海域の制海権を喪失した影響で、陸上戦力の派遣が困難となった。

 その上、海上戦力も大幅に損耗し、第一文明圏の防衛で精一杯の状態となり、当面は積極的な作戦行動が取れなくなっている。

 エモール王国は、海を越えた軍事行動はミリシアル帝国に依存している為、同じく当面の行動を制限されている状態にある。

 ただし、その間を利用して対日本協定に則った情報収集に注力している。

 ムーは、世界連合の敗北によって孤立状態となっているが、日本からの援軍が到着したお陰で当面の安全確保に成功しており、現在は増援の受け入れ準備と日本との連携を前提とした作戦立案を急いでいる。

 グラ・バルカス帝国は、ムー大陸一帯の制海権を確保した事で、第二文明圏に於ける行動の障害が無くなったと判断し、ムー征服開始まで秒読み状態となっている。

 しかし、日本に関する情報が一部で問題視され始めており、軍の作戦に一時的に支障を来している。

 そして日本は、世界連合の敗北により、ムー大陸への民間船舶の往来の厳しい制限を余儀無くされており、経済面で多大な悪影響が出ている。

 そこで、早急なグラ・バルカス帝国軍の撃退が望まれているが、現状ではまだ戦力の派遣が途上であり、当分は動けない見込みとなっている。

 

 

 

 ・・・ ・・・ ・・・

 

 

 

 5月1日

 緊迫を増すムー西部、複数の小国が入り乱れ、国境線がはっきりしていない空白地帯が存在する。

 その中にある一国がヒノマワリ王国であり、元はレイフォルの属国であった。

 レイフォル滅亡後に独立したが、現在はグラ・バルカス帝国に従属しており、ムー侵攻の最前線拠点として利用されている。

 そこから東へ向かうと、ムーの都市アルーがある。

 此処が、グラ・バルカス帝国軍のムー侵攻最初の攻撃地点になると予想し、ムー軍1個師団が駐留して迎撃の準備が進められている。

「なぁ、聞いたか?グラ・バルカスとウチが衝突したら、このアルーが最初に戦場になるらしいぜ?」

 アルーは小高い丘の入り口にある町であり、その丘の入り口付近に広がる林の中に砲兵陣地が設置されている。

 陣地構築が終わって座り込んでいる砲兵が雑談を始める。

「そりゃぁ、こんな大袈裟な陣地造ってんだし、予想はついてるよ。」

 仲間がアルミ製のコップを持ちながら応じる。

「北側に比べてこっちは手薄だからな、攻勢発起点にするには最適な選択だろうよ。」

「それに、此処を抜かれたら空洞山脈を通ってマイカルまで一直線だ。通したら致命傷になる。」

 空洞山脈とは、正式にはマルムッド山脈と言う。

 山脈内部に非常に広い空洞が広がっており、上空から身を隠しつつ戦車すら通れる道となっている。

 そして、その入り口はアルーのすぐ近くにあり、そのまま東進すればマイカル近辺へ出る。

「しっかし、この辺はレイフォルとは隣接してないぞ。下手にこのアルーまで直進したら問題になる。」

「ハンッ!全世界に宣戦布告してる連中だぞ?進路上の小国なんぞ、タダの道としか見てないだろうよ。て言うか、ヒノマワリ領内に入り浸って、バルクルスに勝手に基地を造ってるんだぞ。」

「このムー大陸は、また余所者に踏み荒らされるのか・・・」

 1万2000年前に地球から転移したムー大陸は、当初はその全てがムーの領土であった。

 しかし、この世界の周辺民族は侵略を繰り返し、次々と領土を切り取り、現在の版図を形成した。

 第二位の列強国となって以降、ムーを侵略する勢力はいなくなり、ムー側も元の領土を奪還する動きを見せず平穏を取り戻したが、グラ・バルカス帝国によって再び荒れ始めている。

「にしても、主力がこっちに来るって判ってんなら、もっと戦力を寄越して欲しいもんだがな。」

「何か、上の方でわざと他の部隊を動かしてないって噂があるんだよな・・・」

「はぁ!?何でだよ!?」

「何でも、第0師団の実力を見たいからって話だぜ?ついでに日本軍の実力もな。」

 第0師団とは、日本で訓練を受けた特別師団である。

 帰国して間も無く、国内の精鋭部隊と共同訓練や模擬戦を行った所、他を圧倒する結果を残した。

 単に、日本製の装備を使用しているだけでは説明の付かない実力に、ムー軍上層部はある種の幻想を抱いているのである。

 とは言え、実力差の大きい部隊同士では、連携が難しくなるのも確かである。

 加えて、旧来の部隊でグラ・バルカス帝国軍と戦うには数を用意しなければならない。

 そこで、この場は少数精鋭で守り、他の部隊は別地域へ集中配置する事としたのである。

「まぁ、北海道での日々は確かに地獄だったしなぁ・・・」

 日本での訓練の日々を思い出し、身震いする。

「それでも、俺達だけでやり合うならヤバかったかも知れないな。お偉方は、俺達を化け物か何かと勘違いしてないか?」

「そんな気はするな。けど、日本軍もいれば何とかなるだろうよ。」

「そりゃそうだな。しかも、此処に来てくれるのは外征団だぜ?」

 そう言って笑い合っていると、東からエンジン音が聞こえた。

「お、噂をすれば!」

「間に合ったか!」

 やって来たのは、先行して派遣された第二外征団であった。

 

 アルー市民の歓迎を受けた第二外征団は、市長と挨拶すると直ちに動き出した。

 第0師団と訓練を行い、作戦を確認し、民心慰撫に努めた。

 アルーの防備はより万全となった。

 

 

 キールセキ  エヌビア基地

 

 

 アルーから空洞山脈を挟んだ北東側にあるキールセキ市。

 その南東には、ムー空軍南部航空隊所属、キールセキ防衛隊隷下の航空隊が配属されているエヌビア基地がある。

 此処は、グラ・バルカス帝国の侵攻を事前に想定し、ジェット機に対応可能な改修がされている。

 そしてこの日は、日本から第二外征団向けの物資を満載した輸送機が到着する予定となっている。

「皆さん、本日は日本国から戦闘機と輸送機が到着します。政府からの強い要望で派遣が実現しましたので、くれぐれも失礼の無い様にお願いします。」

 マイラスが基地関係者に説明する。

「マイラス少佐、質問宜しいでしょうか?」

 下士官の一人が手を挙げる。

「何でしょう?」

「日本国とは、我がムーがそこまで気を遣わなければならない程の相手なのでしょうか?無論、我々を支援してくれている相手を無下にするつもりはありませんが、どれ程の実力があるのでしょうか?」

 ムー国内では、一般人の情報手段は雑誌か新聞しか無く、正確な情報を知ろうにも知れない事が多い。

 軍内部も、上層部でもなければ入る情報は一般人と大して変わらない。

「そうですね・・・今回、日本機が来るにあたり出迎えの戦闘機を出すべきとの意見がありましたが、私が止めました。」

「彼が原因だと?」

「何て事を!」

 彼等から不満の声が上がる原因はこれである。

 最新鋭機であるマリンの性能を見せ付け、自分達の技術力を誇示する機会だと考えていたにも関わらず、それを潰された。

 構わずマイラスは続ける。

「何故なら、マリンの速度では日本の戦闘機が失速してしまう危険があるからです。」

 全員の動きが止まる。

「失速する?」

「まさか・・・マリンの最高速度は380㎞/hだぞ?」

「それで失速するって、どんだけの速度が必要なんだよ?」

「間も無く時間だ!」

 一同が困惑する中、到着予定時間が迫っていた。

 

 

 ゴオオオォォォォォォ・・・・

 

 

 聞いた事のない音が響き渡り、上空から巨大な飛行物体が接近しているのが見えた。

「で・・・デケエ!」

「プロペラが無いぞ!ミリシアルの天の浮舟じゃないのか!?」

「馬鹿言え!あんな大型機はミリシアルに無いぞ!それに凄く速い!」

 やって来たのは、C-17と護衛のF-15である。

 まずはC-17から着陸し、F-15は上空を一度フライパスした。

「機体が安定してる。着陸まで奇麗だ。」

「相当な練度だな・・・」

「パイロットスーツも見た事無いデザインだ。」

 初々しい反応を、マイラスはニコニコしながら眺めていた。

 

 

 

 ・・・ ・・・ ・・・

 

 

 

 グラ・バルカス帝国  外務省

 

 

「・・・フン」

 外務省に届いたある報告書に目を通した男が、鼻を鳴らす。

 彼は、東部方面異界担当部の部長を務める ゲスタ である。

(シエリアの次はダラスか。全く・・・)

 ダラス とは、東部方面異界担当部に所属する外交官であり、現在はレイフォリアにいる。

 シエリアも元は同じ所属の課長であったが、フォーク海峡海戦以降行方不明であり、現在はダラスが課長を務めている。

 そのダラスから上げられた報告書に目を通していたが、内容が問題であった。

 日本からレイフォリアに外交官が派遣され、第二文明圏からの撤退勧告を行った。

 ダラスは要求を一蹴したが、次にフォーク海峡海戦で6隻の艦艇を鹵獲し、乗員も捕虜として日本にいる事が明かされた。

 人質外交と判断したダラスは激昂し、捕虜の即時解放と鹵獲艦の返還を要求したが拒否され、捕虜の開放は撤退と正式な停戦が実現しない限り応じないと宣言された。

 そこで、日本本土に対する軍事侵攻を明言した所、今度は日本側から戦力情報が公開された。

 その内容は、帝国の技術水準を遥かに上回る戦力を日本が有している事を示す、衝撃の内容であったと言う。

 ダラスはその場ではブラフだと笑い飛ばしたものの、報告書には公開された情報の真偽は不明ながら、情報公開の為に使用した映像技術は明らかに帝国の水準を大きく上回っており、当初の想定以上に帝国の技術を上回る分野がいくつも存在する可能性を示唆していた。

 楽観的に見積もって、想定の倍の損害を覚悟する必要があるとした。

 最悪、ムーと共同で日本軍が対峙した場合、今後の攻勢が頓挫する可能性を視野に入れなければならないとした。

 更に、撤退後の展望についても併せて知らされており、停戦条件が提示され、応じれば日本が世界連合との仲介役を担う事が明言された。

 そして、もしこの要求に応じない場合、グラ・バルカス帝国は壊滅的打撃を受けるだろうと警告された。

「馬鹿馬鹿しい。とっくに宣戦布告を受けておるのだ。悠長に交渉事などやっている時点で、勝てないと自ら明かしている様なものだ。」

 そう言いつつも、こうして他国からの要求が報告された以上、上層部へ目を通して貰う必要がある。

「・・・いや、駄目だな。」

 そう呟くと、新たな書類の作成を始める。

(ダラスめ、欺瞞情報をこうも真に受けるとはな・・・いや、向こうはとんでもなく多忙だとの話だからな、少しは労ってやる必要もあるか。)

 そう考えながら、ペンを走らせる。

 日本から外交官が派遣され、ミリシアル帝国の後ろ盾の元、ムー大陸からの撤退勧告を行った。

 その際、日本側は威嚇目的で自らの戦力情報を公開したが、事前の想定を僅かばかり上回る力を持つものの、帝国には遥かに及ばない。

 既に、ムー国内には日本の援軍がいるとの情報もあるが、以上の事から大した影響は無い。

 報告書にはそう書かれた。

(弱小な蛮族が帝国を超えるどころか、条件を突き付けるなどあってはならんからな。)

 停戦に関する話は全て削除された。

 この報告書により、上層部の日本に関する認識はこれまでと変わらなかったが、一部では変化が起こり始めていた。

 

 

 ラグナ中心街

 

 

 帝都の中でも富裕層の邸宅が集中する中心街に、海軍司令部からやって来た1台の車が走っている。

 目的の邸宅に到着すると、使用人が出迎えた。

「お待ちしておりました」

「ああ」

 後部座席から、派遣された海軍少佐 リード が降りる。

「此方へ」

 使用人の後ろを付いて、邸宅へ入る。

 そのまま客間まで入ると、恰幅の良い男が座っていた。

「多忙にも関わらず、お時間を割いて頂き感謝致します。」

「挨拶はいい、すぐに本題に入ってくれ」

 彼は、帝国議員の一人 ギーニ・マリクス である。

 軍需企業と海軍との結び付きが強く、裏で癒着していると噂されている。

 また、転移してからはタカ派の議員連盟の代表となり、「逆らう者は皆殺しにしてしまえ」と主張する超過激派である。

「それでは閣下、本国艦隊の地方隊がムーへ派遣された事は御存知ですか?」

 リードが尋ねると、ギーニは顔を顰める。

 地方隊は、占領地護衛艦隊と呼ばれる部隊が前身であり、彼は創設に関わった生みの親と言える立場である。

「ああ。出撃したまま連絡が途絶え、未だに消息不明なのだそうだな?」

「そこまで御存知とは、お耳が早いですな。」

「世辞はいい、早く進めろ」

「実は、消息不明の地方隊の乗員が漂流中の所を発見され、潜水艦によって救助されました。」

「何!?」

 ギーニの腰が浮き上がる。

「待て、漂流中に救助と言う事は・・・」

「はい。彼等の証言によると、地方隊は全滅したとの事です。」

「まさか、またミリシアルか?」

「いいえ」

「ミリシアルではない?では何なのだ?我が帝国に損害を負わせられる力を持つのは、ミリシアル以外に存在しないだろう?」

「それが、日本軍にやられたと・・・」

「日本軍だと?」

 ギーニも、日本に関する情報は把握している。

 しかし、戦闘艦は小口径砲を1門しか搭載しておらず、脅威にもならないと考えていた。

「まさか、あんな弱小艦隊に負ける筈が無いだろう。」

「以前はその様に考えておりましたが、海軍では一部でそれが誤りであるとの認識が広がっております。本件は、その認識を助長しました。」

「何か根拠でもあるのか?」

 その質問に、リードは雑誌を差し出す。

「何だこれは?」

「これは、昨年の暮れに情報局がムーで入手した日本の軍事雑誌です。」

 日本を脅威に思ったバミダルは、情報局以外に味方を求めた。

 そこで、被害が続出した海軍に目を付け、新世界を侮らず冷静に見ている者を見付け出し、ナグアノが入手した雑誌を預けていたのである。

「ほう」

 たかが雑誌と侮った目を向けるが、それでも敵国の発行物には興味をそそられ、手に取る。

「・・・・・・」

 読み進める毎に、ギーニの目付きは鋭さを増し、眉間に皺が寄る。

「君は、こんなSFの様な兵器が実在すると本気で思っているのかね?」

「此方が、地方隊の生存者の証言を纏めた報告書です。」

 そう言い、書類を渡す。

 そこには、雑誌の内容を裏付けるかの様な内容が書かれていた。

「これは・・・」

 ギーニは何か言おうとするが、言葉が見付からなかった。

「閣下、これは極めて由々しき事態です。このままでは、日本を制圧するまでに莫大な損害を出す事になります。」

 リードの言葉を聞いたギーニは、眉間の皺を更に深くしながら指で雑誌をいじる。

「・・・君は雑誌を嗜んでいるか?」

「は?」

「どうなのだ?」

 唐突な質問に困惑するが、低い声で再度問われ姿勢を正す。

「人並みには」

「そうか、触ってみろ」

 雑誌を差し出す。

「帝国の雑誌に、こんな質の良い紙が使われているか?」

「いえ」

「帝国の雑誌に・・・いや、雑誌や新聞、公的な資料に至るまで、こんな色とりどりな物を見た事があるか?」

「い、いえ・・・」

 一国の議員であるギーニは、情報の重要性をよく理解している。

 大量の情報に触れて来た彼は、公的に集められた情報のみならず、些細な物品からも重要な判断材料が得られる場合がある事を知っていた。

(市販されている雑誌と言う事は、これは量産されている代物だと言う事だ。帝国では特注しても同じ物は出来まい。日本国か・・・)

「一つ聞きたいのだが、先程君は日本を制圧するまでに莫大な被害が出ると言ったな?」

「はい」

「それはつまり、被害が大きかろうが最終的には帝国が勝利すると判断している訳だ。」

「その通りです」

「帝国が勝利すると判断した根拠は何だ?」

 鋭い視線で睨む。

「物量です。日本軍は、陸上戦力は27万強、海上戦力は戦闘艦が120隻程度、航空戦力は戦闘機400半ばとあまりにも少数です。我が帝国軍との差は20倍に迫ります。いくら強大な戦力を有していようとも限度があります。これが、これまで制圧して来た骨董品の軍勢であれば話は変わりますが、我が帝国は近代軍です。如何な日本軍とて、この戦力差は埋め切れないと考えております。」

 

 「愚か者が!」

 

 突然怒鳴られ、リードは目を白黒させる。

「貴様等は我が帝国に滅ぼされた蛮族と同じ轍を踏む気か!?」

「い、一体何を」

「自らより強大な相手は、その程度の常識など簡単に吹き飛ばすぞ!この世界の蛮族共はそれを理解しなかった!だから愚かにも我が帝国に歯向かい、手も足も出ずに滅ぼされたのだ!」

「そんな・・・我々を原住民と同列に語るなど、いくら閣下と言えども聞き捨てなりませんぞ!」

「私が逆らう者を皆殺しにせよと主張しているのは、単なる差別意識からではない!圧倒的な力を見せようとも、理解力が無ければ何度でも同じ愚行を繰り返すからだ!事実、理解力が無いからこそ逆らっているのだ!その愚行の犠牲になるのは我が帝国臣民だぞ!此処で我々が間違いを犯せば、帝国臣民に犠牲を強いる事になるのだ!そこに蛮族共と何の違いがあると言うのだ!?」

 現地民の愚行だろうと、自分達の判断ミスだろうと、国民に犠牲を出す結果になれば、そこに何の違いがあるのか?

 リードは何も言えなかった。

「とにかく、君達の情報は実に有用だった。その点は感謝しよう。すぐにでも方針を変更しなければならん。君は、帝国が滅亡しない道を模索するよう伝えるのだ。」

 

 その後のギーニは、「この世界の蛮族共はこれまで通り征服するべきと考えるが、同じ転移国家である日本とは戦うべきではない。もし、侵攻中の国が日本の同盟国であると判明した場合、即刻引き上げを行うべきである。」とぶち上げた。

 更に、「日本とは同じ科学技術国家として、不足する部分を互いに補い合い、共に発展すべきだ」とも主張した。

 これまでの過激な主張からは考えられない新たな主張に、誰もが困惑した。

 突然の方針転換を訝しんだ者は非常に多く、ハト派の工作ではないかとの疑惑が出たが、間違い無くギーニ本人の主張であると裏付けが取れると、今度は日本による工作活動ではないかとの疑惑まで浮上した。

 ギーニの主張自体が顧みられる事は殆ど無かったが、この件を切っ掛けに日本へ関心を向ける者が増える事となった。

 

 

 

 ・・・ ・・・ ・・・

 

 

 

 レイフォル州  レイフォル出張所

 

 

 フォーク海峡海戦以降、常時ブラック状態に陥っている情報局と同じく、外務省関係者も睡眠時間を削らなければならない程の激務に追われている。

 そこへ更に拍車を掛けているのが、皇太子グラ・カバルの視察の準備である。

 予定では、レイフォリアへ飛行機で降り立ち、そこから陸路を車で移動し、終着点のバルクルス基地まで向かう。

 皇太子が出向くとなれば、万が一があってはならない。

 警備態勢はもとより、通行予定の道は凹凸一つ無い完璧な整備が必要な上、標識にもシミ一つ許されない。

「フゥ・・・攻撃が間近に迫っているこのタイミングで視察に赴かれるとは、御自身の安全にもっと気を配って頂きたいものだがな。」

 課長室で、ダラスが目を擦りながら愚痴を零す。

「・・・いかんいかん!殿下の御意思を叶えて差し上げるのも、我々下民の務めだ。」

 彼は、皇族に崇拝に近い忠誠心を持っており、不敬な愚痴を零した事を猛省する。

(まぁ、シエリア様なら同じ事を平気で口にしていただろうな・・・)

 彼は、かつての尊敬する上司であるシエリアを思い浮かべ、悲しげな表情をする。

(あの時の日本人の口ぶりから察するに、恐らくシエリア様も虜囚の身だろう。女性であるあの人が虜囚となれば・・・)

 そこで思考を無理矢理打ち切る。

(日本人め、絶対に許さん!ムーを滅ぼした暁には、貴様等を血の海に沈めてやる!)

 鋭い視線を東へ向け、復讐を誓う。

 

 

 コンコン

 

 

 そこへ、若手の外交官僚である スタール が入室した。

「失礼しま・・・すみません、取り込み中でしたか?」

 ダラスの恐ろしい形相に恐怖し、数歩下がる。

「・・・ん?ああ、すまんすまん、何でもない。どうかしたか?」

 すぐに表情を正し、優しく尋ねる。

 しかし、顔はかなり引きつっていた。

「陸軍から、6月2日に攻撃を開始するとの連絡が入りました。」

「そうか。これで、軍からの嫌味も終わるな。」

 日本からの情報開示により、ダラスから軍へ日本の軍事力を警戒するよう警告したが、その影響で急遽投入戦力の増強を行わなければならなくなり、外務省への文句が止まらなかったのである。

「それはともかく、暫くは征統府からヒノマワリの連中に外出禁止令を発令する必要があるな。」

「そこまでする必要があるのですか?」

 スタールは、純粋な目で問う。

「ふむ・・・」

 ダラスは少し考え、スタールが何を考えているのか察する。

「では質問だ。この外出禁止令は、何を意図して言っているのか解るか?」

「外出を禁じると言う事は、軍の動きに合わせて何か良からぬ事をする恐れがあると疑っているのだと思います。」

「正解だ。では、何故そんな事を考える必要があると思う?」

 スタールは少し考える。

「・・・それはつまり、現地民の中に不満を持っている誰かがいると言う事でしょうか?」

「間違ってはいないが、それでは及第点はやれないな。」

 ダラスは僅かに微笑む。

「いいか?確かにヒノマワリは帝国に従属したが、それは表層だけで心の底から忠誠を誓っている訳ではない。帝国に敵対すれば、これまで滅ぼして来た蛮族の二の舞になる。それを避ける為に、仕方無く帝国の軍門に降っただけだ。仕方無くだから、君の言う通り内心では不満がある。国が仕方無く動いたんだ。国内の誰かではなく、国そのものが不満を持っている。不満があれば、不満を無くそうとする。では、ヒノマワリの持つ不満とは何だと思う?」

「・・・帝国の傘下にいる事ですか?」

「正解だ。では、その不満を無くそうと思ったら、どうすれば良い?」

「・・・帝国を撃退する、ですか?」

 ダラスの顔色を窺いつつ、遠慮気味に言う。

「そうだな」

 その様子を見て、穏やかに答える。

「だが、ヒノマワリ程度では帝国に正面から歯向かっても返り討ちになるだけだ。連中が帝国を撃退しようと思ったら、どんな方法がある?」

「・・・ゲリラ戦や破壊工作で嫌がらせをするしか無いと思います。」

「重要な事が抜けてるぞ?」

「何ですか?」

「帝国の敵対国と連携する事だ。」

 スタールはハッとする。

「どうやら解ったみたいだな。では答え合わせだ。何故、外出禁止令を出す必要があると思う?」

「ムー侵攻作戦の開始に合わせて、ヒノマワリの住民がムーと連携して帝国軍を妨害する恐れがあるから、ですか?」

「正解だ」

 ダラスは、満足げに頷く。

「まぁ、優秀な帝国軍であれば原住民の小賢しい連携作戦なぞ簡単に撥ね退けると思うが、それを許せば帝国に付け入る隙があると勘違いされかねん。こんな事で統治に綻びなど出してはならん。」

 そこで話を締め括り、話題を変える。

「それはそうと、カバル皇太子殿下の件は進んでいるか?」

「はい。殿下に失礼の無い様に、気合を入れて準備を進めています。」

「ははは、やる気があるのは良い事だ。殿下の出迎えには、俺と一緒に君にも出て貰おうか。」

「ぼ、僕がですか?」

 スタールは、予想外の話に腰が引ける。

「君はまだ未熟だが、見込みはある。資格は十分にあるぞ。殿下直々に、君の忠誠心を御覧頂けるチャンスだぞ?」

「は・・・はは、はい!頑張ります!」

 尚、その後のスタールはこの話が原因で常時緊張状態が続き、何度も失神する事となる。

 

 

 

 ・・・ ・・・ ・・・

 

 

 

 5月30日

 ラグナを起点とする道には、等間隔に礼服を着た衛兵が立っている。

 その中を、帝国国旗を掲げた車列が厳かに進む。

 大半は護衛の軍用車両だが、その中心には護衛を受けたリムジンが走っている。

「そうだ・・・これでこそ皇族の威厳が示せるのだ。」

 車内で呟いているのは、カバルである。

「これで温室育ちの汚名は晴れ、臣民は私を真の意味で皇太子と認めるだろう。そして、臣民に崇敬の念を持たれた私が最前線に赴き、兵を鼓舞すれば全てが上手く行くのだ。」

「で、殿下、臣民は既に殿下に崇敬の念を持っております。温室育ちなどと、その様な不敬は考えておりません。」

 お付きが顔色を悪くしながら諫める。

「では何故あんな事が雑誌に書かれるのだ!?あれこそ、私がまだ帝国臣民に認められていない証拠だ!」

 カバルが視察強行を決断した原因であるゴシップ雑誌<フリッグデイ>

 そこには、【温室育ち グラ・カバル殿下の遊情な日々】との見出しで、ある事無い事が書かれていた。

 思い付きで「市井の声も見てみるべきだ」と様々な雑誌を読み耽り、そして見付けてしまった自分の批判記事。

 それ以来、全国民から温室育ち呼ばわりされていると思い込んだカバルは、何としてもその汚名を払拭しようと行動に出た。

 尚、フリッグデイは事態を把握した帝王府によって廃刊に追い込まれている。

「だが、それは我が愛すべき臣民が悪い訳ではない。私がまだまだ未熟だから悪いのだ!だからこそ、私はこれを機に一人前に成長しなければならない!それこそが、次期皇帝たる私が果たすべき務めなのだ!」

 気合を入れるカバルとは裏腹に、お付きは不安で押し潰されそうになっていた。

(どうか、この視察が平穏無事に終わります様に・・・)

 内心で祈り、無傷で帝都へ帰る事を心に誓う。

 暫く進んだ車列は空港へ到着し、待機している専用機へ向かった。

「次に此処へ戻る時、私は臣民を率いるに足る威厳を身に付けているだろう!」

 タラップの上で振り返り、見送りに勢いよく手を振りながら宣言すると、意気揚々と機内へ入る。

 

 

 ヴウウウウウウーーーーーー

 

 

 プロペラが勢いよく回り、専用機は滑走を始める。

「敬礼!」

 滑走路前に並んでいる衛兵は、一斉に専用機へ向けて敬礼し、カバルの旅立ちを見送った。

 

 




 リアルでもいい加減な情報誌なんかは法的にどうにか出来ればいいんですけどね。
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