妄想日本国召喚   作:石原

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 のんびりし過ぎたー!


第二十三話  アルー防衛戦

 中央暦1643年5月30日

 硫黄島から、サンプルリターン衛星が打ち上げられる。

 1週間に渡り各種試験を行い、良好な結果が得られた。

 大気圏再突入試験も成功し、大東洋上へ着水後、回収された。

 6月5日

 皇太子グラ・カバル、レイフォル州とヒノマワリ王国の国境付近に到着。

 

 

 

 ・・・ ・・・ ・・・

 

 

 

 6月2日

 第0師団と第二外征団が駐留するアルー。

 現在、両軍を統合した部隊として、<アルー方面隊>が編成されている。

 この町は、平原が広がっている一帯の中で小高い丘にある。

 丘の入り口付近の左右には林があり、その外側には塹壕が築かれている。

 塹壕と林の中には第0師団が布陣しており、将兵は緊張の面持ちでその時を待っている。

 町の中には住民は殆どおらず、市役所に市長と職員が待機している以外は、頑固に避難を拒否した一部住民が留まっているのみである。

 その代わり、大型の装甲車とその乗員が動き回っている。

 町の背後には第0師団の砲兵陣地があり、重砲や榴弾砲が設置され、上にはネットを張って偽装し、上空からの偵察を誤魔化している。

 その更に背後、空洞山脈の内部には大規模なキャンプが設置され、町民の大半が避難している。

「此処で食い止められなければ、彼等は暗い洞窟の中を追い立てられ、バラバラになりながら彷徨い歩く羽目になる・・・」

 洞窟の入り口付近に設置された大型のテント、日ム軍を統合したアルー方面隊司令部から顔を出し、炊き出しをしている彼等を心配そうに見つめながら、第二外征団団長 小鳥遊 大佐 が呟く。

「団長」

 背後から部下が声を掛ける。

「始まりました」

「そうか、ではすぐにお帰り願おう。」

 そう言い、テント内へ入る。

 

 アルー前縁塹壕陣地

 

「総員、傾注!」

 塹壕内で、ムー軍連隊長 ハイト が叫ぶ。

「たった今、招かれざる客が出立した!」

 来て欲しくなかった情報がやって来た事で、塹壕内の陰鬱とした空気が更に重くなった。

 俯く者も現れる。

「しかし、我等は非力ではない!そして孤独でもない!奴等の覇道は、このアルーで阻止されるのだ!総員、歴史に名を残せ!」

 

 

 キュアアァァーーーーー・・・・

 

 

 訓示が終わった直後、上空から風切り音が近付く。

「来るぞ、頭を低くしろ!」

 全員が塹壕内で蹲り、両手で頭を抑える。

 

 

 ドドドドッ ドォン ドドオォン・・・・

 

 

 直後、地面から炎が吹き出し、土砂が巻き上がり、塹壕内に降り注いだ。

「くぅ・・・心臓が飛び出しそうだ!」

 凄まじい爆音と全身を揺さぶる衝撃が、恐怖心を増大させる。

「耐えろ!敵が砲撃をやめ、前進を始めた時こそ、こっちの番だ!」

「ああ!?何て言った!?」

 隣の声も聞こえない程の轟音が響き渡る中、ただひたすらに耐え続ける。

 

 アルー方面隊司令部

 

「・・・算出完了、位置特定出来ました。」

 司令部内に設置されているモニターの地図上に、後方にいる敵部隊のデータが表示される。

「便利な時代になったものだな。」

「ドローンがあればもっと楽だったのですが・・・空軍の偵察機も配備が間に合っていれば、偽装を解いた瞬間に此方から砲撃可能でした。」

「万全に程遠い状態でさえ、これだけの差があるんだからな。技術の進歩とは恐ろしいものだ。」

 砲弾の探知に特化した対砲レーダーと呼ばれる装備が、現代軍では標準装備となっている。

 探知した砲弾の軌道を追跡し、射出地点を割り出すレーダーである。

 同種の装備として、迫撃砲に特化した対迫レーダーがある。

 これにより、一度砲撃するとどれだけ巧妙に偽装していようとも即位置がバレてしまい、現代では同地点からの砲撃は2分が限界とされている。

 グラ・バルカス帝国軍砲兵隊の絶え間無い砲撃は対砲レーダーの恰好の標的となり、瞬く間に全ての砲撃地点が正確に割り出されたのであった。

「全隊、照準完了しました。」

「砲撃開始」

 

 第二外征団砲兵大隊

 

「半装填!」

「半装填良し!」

「発射!」

 

 

 ドンッ

 

 

 砲兵大隊配備の五式装輪自走迫撃砲と、各歩兵大隊迫撃砲小隊配備の八式装輪自走迫撃砲から、轟音が響き渡る。

 射程の短い迫撃砲だが、自走式の利点を最大限に生かし、敵の進軍路を迂回した位置に着いていた。

 そして、データリンクによって割り出された敵砲兵の位置が明らかになると共に、砲撃を開始した。

 数発撃っては照準を修正し、割り出した標的を順次狙い撃つ。

 

 砲兵隊観測所

 

「弾ちゃーく・・・今!」

 

 

 ・・・ドッオォォォーーーン・・・・

 

 

 観測手が、グラ・バルカス帝国軍砲兵陣地を一望出来る場所から戦果を確認する。

「命中確認。次弾弾着まで、10・・・」

 淡々と確認と報告を繰り返し、視線の先ではスクラップが次々と量産されて行った。

 

 

 

 ・・・ ・・・ ・・・

 

 

 

 グラ・バルカス帝国軍砲兵陣地

 

 

「此方、第4砲兵大隊!当大隊は敵の反撃により、既に壊滅状態!敵の砲撃は極めて正確なり!敵の攻撃地点は不明!繰り返」

 

 

 ドッ!

 

 

 司令部と連絡を取っていた無線手は、至近に着弾した砲弾の爆発に巻き込まれ、痛みを感じる間も無く戦死した。

 

 第8軍団作戦指令室

 

「壊滅だと!?作戦が始まってからいくらも経っていないんだぞ!」

「おい、応答しろ!おい!」

「交信途絶!無線手が攻撃を受けたものと思われます!」

 砲兵隊が砲撃を開始してから僅か10分。

 各所から入って来る情報に、指令室は大混乱に陥っていた。

「どう言う事だ!?何が起きた!?」

 あまりの事態に、ガオグゲルは思わず外へ飛び出す。

「・・・」

 遠方からは絶えず爆発音が聞こえ、吹き込む風は硝煙の臭いを運んで来る。

「あの位置は、味方の砲兵陣地です。」

 背後で部下が呟く。

 よく見ると、前方には黒煙がいくつも上がっており、その位置には味方がいる筈であった。

「ッ!」

 目を見開くと、すぐに中へ戻る。

「閣下、これまでの報告を纏めた所、敵のカウンター攻撃により、重砲、榴弾砲、カノン砲はほぼ全滅したと思われます。自走砲は直ちに退避したお陰でいくらか残存しておりますが、被害は甚大です。」

 参謀長の報告を聞き、ガオグゲルは足元が崩れる様な感覚を覚える。

「閣下、砲兵隊の援護が望めなくなった以上、進軍は自殺行為です。」

 戦場の女神と称される砲兵は、陸戦に於いて絶対的な存在である。

 格下とは言え、近代軍であるムーが相手となれば、砲兵の支援は絶対必要であった。

「戦車隊と歩兵隊へ、後退命令を出すべきです。」

 その進言に、ピクリと眉を動かす。

「閣下・・・?」

 少しの沈黙の後、口を開く。

「航空隊はいつ到着する?」

 事前の作戦では、敵部隊撃破後の追撃で、航空隊を投入する予定となっている。

「予定では既に離陸を完了し、此方へ向かっている頃です。」

「では、彼等に戦車隊の直協支援を要請するのだ。」

 機甲師団の創設により、前線部隊の進軍速度が劇的に上がったが、そのせいで鈍重な砲兵隊が後方へ置き去りにされる問題が発生した。

 対策を行っても追い付いておらず、そこで上空からの爆撃により、砲撃支援を補完する戦術が考案された。

 いわゆる近接航空支援である。

「ですが、その後は?」

 地上部隊を圧倒する速度で前線へ到達出来るのが航空機の強みだが、継続的な火力投射が出来ないのが欠点であり、それを指摘される。

「悪路をものともしない圧倒的な機動力が戦車の強みだ。航空支援によって敵が怯んだ隙を突き、一気に此方の間合いまで近付き、撃滅するのだ。砲兵隊がやられたのは、それ自体に防御が皆無だからだ。だが、戦車の装甲はそう簡単には破れんぞ。大口径の榴弾砲が直撃すれば厄介だが、敵味方が入り乱れさえすれば敵も思う様に砲撃出来まい。」

「しかし、乱戦は戦車に不利です!」

 功防走を高いレベルで兼ね備えているのが戦車の強みだが、その代わりに視認性が劣悪であり、至近距離で乱戦が起こると対処が困難となる。

「今回は、すぐに市街戦が起こる前提で準備を進めただろう。だから歩兵が随伴している。戦車へ股乗させるのは初の試みだが、陣地に取り付いて乱戦になれば、すぐに対処出来る。」

 つまり、タンクデサントである。

 戦車跨乗歩兵と訳され、歩兵が戦車へ直接乗り込み、戦闘時には飛び降りて戦車を守りつつ戦う。

 また、後方にはハーフトラックに乗った機械化歩兵が追随している。

「しかし・・・」

 それでも不安が拭えず、尚も言い募ろうとする。

「既に作戦は始まったのだ、後戻りは出来ん。この場で後退しても、敵の追撃を受けて大損害を被るのは目に見えている。進むしか道は無いのだ。」

 砲兵隊が壊滅した以上、後退時の支援は出来ない。

 前線部隊は、既に孤立したも同然であった。

「何より、数日後にはカバル殿下が来訪なさるのだぞ。我が軍が敗走する無様な姿をお見せする気か?」

(本当に外務省は余計な事を!)

 外務省の警告による準備の遅延は、カバルの視察の日程が作戦開始直後と言う結果を齎した。

 その為、数日以内に何としても戦闘をこのバルクルス基地から遠ざけなければならなくなっている。

「後退は出来ない。何としてもアルーを今日中に落とさねばならん。」

 ガオグゲルは落ち着き払った様子で繰り返す。

 直後、無線手の一人が振り返る。

「報告!戦車隊と歩兵隊との通信が途絶しました!」

「何だと!?このタイミングで無線機の故障か!?」

「故障ではありません!付近の隊とは繋がっています!」

「チィッ、まさかこのタイミングで磁気嵐か!?」

 再び混乱する場に背を向け、ガオグゲルは黙って天を仰ぐ。

 

 第4機甲師団

 

 土煙を巻き上げながら勢い良く進む戦車の大軍は、間も無くアルーを捉えようとしていた。

 車列の後方には、車体に沿って大型の金属棒の様な物体が取り付けられた特殊な装甲車があり、その周囲を数輌の戦車が取り囲んで護衛している。

 荷台には複数の無線と共に無線手が搭乗しており、配下の部隊と頻繁に連絡を取り合っている。

 これが、高い機動力を誇る機甲師団向けに開発された指揮車両である。

 師団全体を統括する師団司令部に配備されており、ボーグもこの指揮車両に搭乗し、移動しながら各部隊からの情報を仕入れつつ指揮を執っている。

「どうだ?」

 顰め面をしているボーグは、隣で無線機を操作している無線手へ問いかける。

「・・・駄目です。どの周波数でも雑音しか聞こえません。」

「まさか、敵が何か妨害を・・・?」

 当初は何の問題も無かった通信が、アルーへ近付くにつれて徐々に雑音が混ざり始め、遂に全く繋がらなくなった。

 故障や自然現象にしては不可解な現象に、ボーグは敵の細工を疑わざるを得なかった。

「幸先が悪いが、そんなものは実力で黙らせれば良いだけだ。無線が使えんだけで浮き足立つ程、我が師団はヤワではない。」

 そう言いつつ、不敵な笑みを浮かべる彼の胸中には、優秀な部下に対する信頼と安心感で満たされていた。

 

 第4師団隷下第2戦車大隊

 

 第4師団は、3個戦車大隊と1個機械化歩兵連隊を基幹とした師団である。

 今回の作戦では、アルー周辺に構築された塹壕陣地へ2個大隊が正面攻撃を仕掛け、1個大隊がアルー市内へ突進、機械化歩兵連隊は大隊ごとに各戦車大隊へ追従する。

 また、一部歩兵は1個~2個小隊が戦車へ股乗している。

 その中で左翼を担当する第2戦車大隊長 レイスル は、砲塔から身を乗り出しながら余裕の表情で前方を見据えている。

「敵の兵らが哀れだな・・・」

 つい最近になり考案された、装甲戦力の集中運用。

 新世界には存在しない兵器と先進的な戦術は、何も知らずに塹壕に籠る敵兵を蹂躙するだろう。

 彼はそう考えながら、死が迫っている敵兵を内心で慰める。

(ムーの爺さんよ、お前達は何も間違ってない。俺達相手に対抗しようと思ったら、塹壕を掘るのが一番正しい。)

 塹壕戦術は、グラ・バルカス帝国から見ても決して古びた戦術ではなく、現在でも有効である。

 しかし同時に、既に対応策も確立されている。

 その中でも最新且つ最強の対応策が、機甲部隊である。

(城壁なんぞで対抗しようとしてる未開人共と比べたら、お前達は遥かに賢い。ただ、相手が進み過ぎてただけだ。ムーの爺さんよ、お前達は何も悪くない。恨むなら、俺達に敵対する道を選んだ上層部を恨め。)

[敵ノ防衛戦ヲ目視]

 前方の車両の戦車長が、ハンドサインで報告する。

(無線機が使えんだけでこうも不便になるとはな・・・)

 各大隊は4個中隊から成っており、事前に作戦を通達されている。

 第1中隊は、他中隊の後方に陣取り、中距離から制圧射撃を行う。

 第2中隊は、第1中隊の攻撃に合わせて突撃し、塹壕に取り付く。

 第3中隊は、歩兵中隊と共に第2中隊に続く。

 第4中隊は、歩兵中隊と共に塹壕側面へ回り込み、迂回攻撃を行う。

[攻撃ヲ開始セヨ]

 レイスルがハンドサインで命令を発すると、彼の前方を走る多数の車両が動き出を変え、周囲には大隊本部を構成する少数の車両のみが残った。

「・・・早速か」

 少しすると砲撃音が聞こえ始め、砲塔の上から首を伸ばすと、僅かに着弾による黒煙が見えた。

 

 

 ドッドドッ…ドォン ドォン

 

 

 砲撃音が連続して響き渡り、激しい戦闘が開始された事を理解する。

「さて・・・」

 万一に備えて車内へ戻り、椅子に身を預けて目を閉じるが、胸中には漠然とした不安が渦巻いていた。

「どうされました?」

 砲手が不穏な空気を察して声を掛ける。

「いや、何でもない。大丈夫だ。」

「はぁ」

 そう言われ、納得出来ない表情で視線を前へ戻す。

(詳細な状況を把握出来ないのがこんなに不安なんてな・・・)

 無線が使えず、配下の戦況が判らない。

 負ける筈が無いと思いつつも、背後霊の様な不安が常に憑き纏い続けた。

 そうして暫く遠方の爆音を聞きながら沈黙を保っていると、すぐ近くに車両が停まる音が聞こえ、上部のハッチが叩かれた。

「緊急報告です!前線は既に崩壊寸前となっています!」

 すぐに目を開けると、慌ててハッチを開く。

 

 アルー前縁塹壕陣地右翼

 

「前方に砂塵!敵戦車が接近!」

 双眼鏡を持った見張りが叫び、緊張が最高潮に達する。

「ったく、塹壕の中だと取り回しが悪くてしょうがねぇな。」

 それぞれが武器を構える中、大柄な筒状の物体を準備する者が何人かいた。

「文句言うな。いくら日本の銃でも戦車は破壊出来ないんだからな。むしろ、よくそんなサイズに抑え込んだもんだよ。」

「まぁな、歩兵一人で持てる武器で戦車を撃破するなんざ、考えた事もなかったな。」

 集結しているグラ・バルカス帝国軍に機甲戦力が多い事を把握していた日本政府は、第二外征団向けの物資に紛れ、第0師団向けの武器を緊急輸送した。

 それが、転移後初の制式装備となる簡易無誘導弾である。

 輸出を主眼に置いた装備であり、今回は実戦試験を兼ねて供与された。

 弾種は通常弾と対戦車榴弾があり、今回は対戦車榴弾が用意された。

「安全装置解除・・・良し」

「コイツは無誘導だからな、十分引き付けてから撃てよ。」

「解ってる。血気に逸って無駄撃ちする馬鹿はやらんよ。」

 履帯の音と大重量が伝わる振動、そして威圧感の大きな見た目は、地獄の訓練を耐え抜いた彼等にも恐怖を与え、気を紛らわそうと口数が多くなっていた。

「距離900!」

 残り1㎞を切り、緊張が否応無しに高まる。

「700!」

 敵戦車の輪郭がハッキリし、標的を選定する。

「500!」

 遠距離からの砲撃が始まり、周囲に着弾する。

「300!」

「発射!」

 隊長の発射命令と同時に、前方にはロケットが、後方にはカウンターマスが飛び出した。

 

 

 ドドオォォォォォン・・・

 

 

「命中!撃破確認!」

「やったぞ!」

 喜色に満ちた叫び声が上がる。

 視線の先では、狙われたハウンドが爆炎を噴き上げていた。

 攻撃が弾かれる事はなく、砲身が下を向きながら急停止するか、誘爆によって砲塔が吹き飛んだ。

「まだだ!第二弾用意!」

 隊長の命令が意識を現実へ引き戻し、第二陣が簡易無誘導弾を構える。

「自由射撃!照準次第発射せよ!」

 既に敵は有効射程内に入っており、一斉発射は行われなかった。

「おい、こっちだ!早く持って来い!」

 撃ち終えた砲手は後方へ下がると、平たい長方形の木箱を持った要員へ叫ぶ。

 蓋を開けると、そこには数発のロケット弾が入っていた。

「再装填!」

 その中の1発を手に取ると、手際よく装填し、再び構える。

「・・・あれ?」

 標的を探そうとするも、目の前には既にいなかった。

 炎上する大量の鉄屑が擱座しており、その奥では邪魔な障害物を迂回しようとする後続の砂塵が見える。

「・・・」

 隣で構える同僚へ顔を向けると、互いの頬をつねる。

「夢じゃないみたいだな・・・」

「そうだな」

 鈍い痛みが頬を襲い、直後に悪寒が走る。

「日本が味方で本当に良かったな。」

「ああ、そうだな」

 

 

 第4機甲師団第2戦車大隊

 

 

「先頭の2輌がいきなりやられたぞ!」

「塹壕から何かが・・・ウワッ!隊長車がやられた!」

「避けろオオオォォォォ!」

「あっぶね!砲塔がこっちに吹っ飛んで来たぞ!」

「アイツだ!肩に何かデカい物を担いでやがる!」

 何処もかしこも大混乱であった。

 塹壕に張り付こうとした戦車は順次撃破され、擱座して煙を吐き出すか、誘爆して砲塔が吹き飛んでいた。

「チィッ、何て事だ!」

 戦車隊の後方にいる歩兵大隊は前進を止め、味方がやられて行く様を眺めるしか無かった。

 大隊長は、隣の車両へ怒鳴る。

「おい、お前達は大隊本部へ行って現状を報告しろ!お前達は連隊本部へ行け!連隊長に師団司令部へ撤退を掛け合うよう要請するんだ!」

 同乗している分隊が驚いて顔を向ける。

「急げ!この分だと戦車隊はすぐに全滅するぞ!」

 2輌のハーフトラックは踵を返し、燃料も車両の負担も気にせず全速力で走り出した。

 

 第4師団司令部

 

「第1戦車大隊は既に壊滅状態です!」

「第2戦車大隊も同様に半壊しています!」

「第3戦車大隊も全滅に近い被害を被っており、当歩兵大隊も被害が広がりつつあります!」

 ボーグは、矢継ぎ早に寄せられた戦況報告に呆然としていた。

 帝国の技術力を結集した最新戦車を定数で揃え、乗員も十二分な訓練と実戦経験を積み上げた精鋭揃い。

 その上、敵は自国よりも数十年劣っている。

 必勝を期した筈が、早速叩き返されそうになっている。

 彼の長いキャリアの中で、この様な事態は一度として無かった。

「閣下!ボーグ閣下!」

 傍らに控える参謀が叫ぶ。

「あ、ああ、どうした?」

「撤退を具申します!このままでは全滅します!」

 反射的に却下しようとするが、すぐに飲み込む。

 冷静さが少し戻ると、懸念が浮上した。

「・・・可能なのか?」

「は?」

「いつの間にか、砲撃が来なくなっている。」

 そう言われ、アルーの方を向きながら耳を澄ます。

 予定では、アルー市内への砲撃が行われている筈だが、その様な動きは確認出来ない。

(まさか・・・)

 最悪の予想が頭をよぎるが、もう一つの希望があった。

「航空隊は?」

 全員の視線が無線手へ向く。

「無線はまだ繋がらないのか?」

「未だ・・・」

 沈痛な面持ちで首を振る。

 今度は双眼鏡を手に取り、必死に上空を捜索する。

「・・・・・・・あ」

 一人が間の抜けた声を上げ、全員が同じ方向を見る。

(何て事だ・・・)

 自分達よりも遥か後方の上空に、多数の黒煙が立ち上っていた。

 事態を察し、重苦しい沈黙が支配する。

(我々は、完全に孤立した!)

 決して口にしてはならない結論を下したボーグは、同時に遠方から近付く音に気付く。

「前方、エンジン音が聞こえます!」

 操縦手が叫び、全員が前を向く。

 複数の砂煙が上がっており、明らかに接近していた。

 車長がハンドサインを送ると、周囲を固めていた戦車が散開する。

「・・・我が軍の物とは明らかに違う音だな。」

「心なしか、躍動感に満ちてると言いますか、我が方より遥かに優れた性能を有している様に思えます。」

「・・・」

(あの砂塵の規模からして、中隊規模は確実だな。対して此方はハウンドⅡが5輌と、機関銃しか無い指揮車両が3輌。数も性能も向こうが上とあっては・・・)

「閣下?」

 参謀がボーグの変化に気付き、遠慮がちに声をかける。

「諸君と共に戦えた事、私は誇りに思う。」

 事実上の告別の言葉であった。

 全員が固まるが、構わず敬礼すると、答礼も待たずに前方を見据える。

 再び双眼鏡を構え、敵の詳細を探る。

「・・・アレは」

 輪郭が見えて来ると、違和感を覚える。

(明らかにムー製ではないな。だとすると・・・日本軍!?)

「何て事だ・・・」

 苦渋の表情が浮かび、伝え聞いていた噂を思い出す。

「閣下、我々はまだ戦えます!此処で諦めては、背後にいる同胞がパガンダの悪夢の二の舞になってしまいます!」

 立ち直った参謀が叫ぶ。

 グラ・バルカス帝国が「この世界は信用に値せず」と判断した原因であるパガンダ王国の悲劇は、最前線に立つ彼等にとって絶大な原動力であると共に、新世界に対する憎悪の表れでもあった。

「その通りです!例え絶望的な状況に陥ろうとも、諦めてはなりません!」

「閣下、御命令を!我々は最後の一兵まで戦い抜き、敵を道連れにします!」

 参謀の勢いに押され、次々といきり立つ中、ボーグは静かに口を開く。

「お前達、ギーニ・マリクス議員は知っているな?」

 唐突な話題に困惑し、視線を彷徨わせる。

「タカ派の筆頭とされている人物だが、最近になって方針転換したとの噂がある。」

 軍との繋がりが強い議員だけに、彼の一挙手一投足は前線の一兵卒にまで話題に上がる。

 そして、最近のギーニ関連の噂と言えば、一つしか無い。

「この世界の国々はこれまで通り征服すべきだが、日本とは戦うべきではない。」

 かつて、行き過ぎな過激発言を繰り返していたあのギーニ・マリクスと同一人物の発言なのか?

 疑惑の目を向けない者は誰もいなかった、唐突で不可解な新方針。

 同じ議員連盟の議員から非難豪豪との噂もあるが、一向に撤回する気配が無い。

「その理由に、漸く合点がいった。」

 迫る砂塵に視線を戻す。

「では!?」

「そんな!」

「まさか!」

 双眼鏡で何とか見える輪郭は、これまでの情報収集で集まったどの兵器とも合致しない。

「敵より発砲炎多数!」

 否定の声を上げようとした瞬間、敵車両の側面から炎と煙が吹き上がった。

 

 

 

 ・・・ ・・・ ・・・

 

 

 

 第4機甲師団の撃滅は順調に進んでいた。

 敵砲兵隊を対砲レーダーによる迅速な割り出しによって沈黙させ、接近する戦車隊はムーの防衛線で壊滅させ、その後にやって来た航空隊はエヌビア基地の空軍が殲滅した。

 そして、残存する敵へとどめとなる一撃が始まった。

 

 第二外征団第一大隊第一中隊

 

 外征団には、隷下に歩兵を主力とする大隊が3個編成されている。

 その中で中核を担うのが、四式強襲車と五式強襲戦闘車で構成される第一大隊である。

 上陸戦の第一陣となる第一大隊の中でも、戦闘力の高い五式強襲戦闘車で構成される第一中隊が、第4機甲師団へのとどめとして突進していた。

 車内には複数のモニターがあり、近辺のマップを表示している画面には、敵を示すシンボルがデータリンクによって表示されていた。

「対戦車戦、用意」

 中隊長が隷下の全車両へ下令する。

「火器管制、七式誘導弾を選択、各車へ割り振りを開始。」

 砲塔側面に設置されている七式多目的誘導弾の発射機が動き、斜め上方を向く。

 中隊長の正面にあるモニターに、味方車両の位置情報が表示される。

 その画面はタッチパネルとなっており、個々の味方車両のシンボルに指を重ねると、そのまま敵車両の位置までスライドさせる。

 すると、各車両の目標が設定され、味方間で共有された。

「割り振り完了。確認せよ」

 今度は、砲手が画面を確認する。

 正面には2つのモニターがあり、片方がマップ情報、もう片方は火器管制操作画面となっている。

 両方の画面には敵のシンボルが表示されており、割り振られた標的のシンボルだけ色が変わっている。

 中隊長の画面に、全車から確認の通知が届く。

「全車、射程に入り次第攻撃開始。」

『了解』

『了解』

『了解』

 画面越しの静かなやり取りばかりの中、無線越しに届いた声に、中隊長は少しだけ安堵する。

(便利は便利だが、何でこうも落ち着かないのか・・・)

「標的との距離、7㎞」

 最先端の技術に拭えない違和感を抱える間にも、距離は迫る。

 砲手の火器管制画面は、車両正面のカメラ映像に照準器となる複数の線や模様、数字が重ねられている。

 車両自体は激しく揺れているが、映像はその揺れをほぼ抑えており、平坦な舗装路を走っているかの様であった。

 照準の為に100倍にズームするが揺れは変わらず、画質も高く敵車両の判別も容易である。

(本当にチハに瓜二つだな。あれは後期型か。)

 旧陸軍兵器と似通っている事に疑問を覚えるが、照準は滞りなく行われる。

「6km」

「発射」

 射程内に入り、誘導弾が発射され、車内にも少しの振動と轟音が伝わる。

「着弾まで、5、4、3、2、弾着、今」

 標的に寸分違わず着弾する様子が画面上で確認された。

「全弾命中を確認、残敵掃討へ移行。」

 車両を撃破したが、戦闘力を保持した生存者がいないとも限らない。

「停車」

 撃破した残骸から200mの地点で一旦停車する。

「後部ハッチ開放。分隊、降車用意」

 後部の扉がゆっくりと開き、乗車していた歩兵分隊が姿を見せる。

「下車!」

 分隊長が叫ぶと、流れる様に迅速な動きで下車し、車両周辺に展開し、膝立ちで前方へ銃口を向ける。

「火器管制、12.7mmを選択。割り振りを開始。」

 砲塔上部にあるM2が動く。

 中隊長は、画面上の味方シンボルへ人差し指を当てると斜め前方へスライドし、残骸の位置で止める。

 その場で固定すると、中指を画面へ当て、横へスライドさせる。

 すると、各車両の射界が指定された。

「割り振り完了。確認せよ」

 全車から確認の通知が届き、今度は歩兵部隊へ指示を出す。

「前進」

 指示を受け、各分隊長は配下の分隊へハンドシグナルで前進を指示する。

「・・・」

 銃口を向け、慎重に前へ進むが、動く者は確認出来ない。

 50mまで接近すると、停止する。

「中隊長車へ、撃破した車両の火災が激しく、二次爆発の恐れあり。これ以上の接近は危険と判断する。」

『了解した、生存者は確認出来るか?』

「確認出来ず」

『・・・了解した、これよりアルーへ帰投する、乗車せよ』

「了解」

 全分隊は速やかに戻り、再び乗車する。 

「敵部隊の殲滅を確認。中隊、帰投する。」

 ハッチが閉じ、第一中隊は踵を返してアルーへと帰投した。

 

 

 

 ・・・ ・・・ ・・・

 

 

 

 アルー市役所

 

 

 念の為に市役所で待機しているアルー市長 ロード は、胃が押し潰されそうであった。

 町を預かる者としてこの場に残る決断をしたものの、自国を圧倒する敵を前に不安は増すばかりであった。

 更に、自分の意志に賛同して共に残った職員もおり、彼等の命にも責任を負わなければならなくなり、余計に心労が溜まっていた。

 市民の避難が完了している今、市内で行うべき業務は何も無い。

 市長室で待機している彼の姿は、切腹直前の武将の様であった。

「大丈夫ですか?」

「えっ!?」

 突然目の前で声を掛けられ、肩が跳ねた。

「いくら声を掛けても反応がありませんでしたが、体調を崩しましたか?」

 目の前にいたのは、市職員と第二外征団関係者であった。

「い、いえ、先程の砲撃で犠牲者が出ていないか気が気ではなく・・・」

 そう言って誤魔化すが、とにかく不安で一杯一杯であった事は傍目にも明らかであった。

「その事も含めて、戦況の御連絡に上がりました。」

 ロードは、心臓が飛び上がる思いであった。

「それで、どうなりましたか?」

「敵砲兵隊はほぼ全滅、前縁塹壕陣地に突撃した敵戦車隊と機械化歩兵部隊も壊滅、接近していた航空部隊も全滅、後方に待機していた残存部隊も全滅。我々は、アルー防衛に成功しました。」

 報告を聞いたロードは、暫く口を開けて呆然としていた。

「・・・もう一度、お願い出来ますか?」

「敵は撃退し、アルー防衛に成功しました。聞き間違いではありませんよ。」

 

 

 パタリッ

 

 

「し、しっかりして下さい!誰か来てくれ!」

 安堵感で気の抜けたロードは、直後に失神した。

 

 アルー前縁塹壕陣地

 

「確かか!?」

 ハイトは、日本から貸与された無線機に齧り付き、たった今入った情報の真偽を問う。

「そうか、解った。この話は共有しても良いんだな?・・・よし」

 生き生きとした顔で立ち上がり、注目を集める。

「総員、傾注!」

 塹壕内で泥だらけの兵士達。

 万全だったはずの陣地はあちこち崩れ、撃破した敵車両の黒煙がそこかしこで立ち上り、陰鬱とした雰囲気をより暗く演出していた。

「たった今、戦況が判明した!」

 不安そうな目を向ける部下に笑顔を返す。

「敵は完全に撃退した!我々の勝利だ!」

 数秒後、言葉の意味を理解した彼等は、割れんばかりの歓声を上げた。

「諸君、よくやった!よくやったぞ!」

 部下の様子に感極まったレイネルも目を潤ませ、肩を組みながら喜びを分かち合った。

 

 アルー防衛戦は日ム軍の勝利に終わり、グラ・バルカス帝国軍は投入戦力の7割以上を喪失する結果に終わった。

 特に、前線に投入された戦車隊と歩兵隊の被害は凄まじく、生存者は捕虜となった100名強と、独断で白旗を掲げた戦車1輌を除き全滅した。

 

 

 

 ・・・ ・・・ ・・・

 

 

 

 第8軍団作戦指令室

 

 

 指令室は、重苦しい沈黙に包まれていた。

「・・・これまでに、何か判明した事は無いか?」

 ガオグゲルが絞り出す様に言う。

「つい先程、通信障害が回復しました・・・」

 沈痛な面持ちに、耳を塞ぎたくなる。

「連絡が取れたのは砲兵隊のみであり、壊滅状態との事です。戦車隊、歩兵隊、航空隊とは連絡が取れず、詳細は不明です。」

「ッ!」

 癇癪を起こしそうになるガオグゲルだが、寸前で堪える。

「こうなった以上、攻勢は中止するしか無い。残存している砲兵隊に帰投命令を出せ。」

 いつもと異なる彼の様子に、幕僚は驚く。

「カバル殿下がもうじき来訪される。今は、殿下の視察を滞りなく終わらせなければならん。万が一は許されん。第8軍団の総力を挙げて殿下を守り抜くのだ。」

 全員が青ざめるが、立ち止まっている暇は無い。

 すぐに各所の調整に奔走する。

(何たる事だ・・・神よ、せめて殿下の視察だけは平穏無事に終わらせて下され・・・)

 戦況が急激に悪化する中、背後から迫る皇太子の影は、彼にとっては督戦にやって来る政治将校の様であった。

 

 




 原作の第8軍団の詳細が不明ですが、本作ではまだ充足しておらず、第4機甲師団以外は1個歩兵師団と1個航空隊(対空砲とレーダー込み)しか配備が間に合っていない設定です。
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