中央歴1639年1月21日
この日、第三文明圏外の東端に位置するロデニウス大陸、その更に東で眩い光が観測された。
1月24日
クワ・トイネ公国北東を哨戒飛行していた竜騎士が、正体不明の大型騎を発見。
第6飛竜隊が迎撃するも躱され、経済都市マイハーク上空への侵入を許した。
1月27日
竜母と思われる超巨大艦を含む艦隊が、マイハーク北方60㎞地点で発見される。
彼等は自らの国を日本国と名乗り、ロデニウス大陸北東約1000㎞に位置する島国であると自らの素性を明かした。
2月10日
クワ・トイネ公国、及び隣国クイラ王国との国交樹立
・・・ ・・・ ・・・
2月30日
国防海軍第十一戦隊に所属するフリゲート艦5隻は、ロウリア王国へ向けて航行していた。
目的は、ロウリア王国との国交樹立である。
「ロウリアはクワ・トイネと対立していると言う話ですけど、本当に大丈夫でしょうか?」
同乗している外交官 井上 が問う。
「何の話だ?」
井上の上司である 近藤 が聞く。
「いえ・・・この世界は、見る限りでは中世レベルの文明です。」
「そうだな」
「敵対国と国交を持つ国がやって来たとなったら、見せしめに即処刑なんて事にならないかと・・・」
現代と異なり、中世には国際法の類は存在せず、更に人治がまかり通っている事から、身の安全が何処まで保証されるかは未知数である。
「流石にそれは無いだろう。戦時中ならまだ判らんが、中世でも使者を殺すなんて余程の事だぞ?鎌倉時代の日本じゃないんだから、そこまで心配しなくてもいいだろう。」
当時の日本は、元からやって来た使者を用件も聞かずに切り捨てた。
侵略が当たり前の当時であっても、これは相当な蛮行に当たる。
「だと良いのですが・・・」
それでも不安の拭えない井上。
「あまりそんな事を考えない方が良いぞ?下手をすれば差別に当たる。」
井上の認識は、「現代文明は安全、中世文明は危険」とする考えであり、無意識の内に現地文明を下に見ている証拠である。
「気を付けます」
一言だけ返し、気を落ち着ける。
ロウリア王国 北の港沖合
ロウリア王国へ接近した戦隊は、付近を哨戒していたロウリア軍船の臨検を受け、北の港へと案内された。
北の港
「信じられるか?臨検した船の話だと、何処ぞの船は全長が150m以上あったらしい。」
「そんな馬鹿な!?誇張にしても行き過ぎてる!」
「だろ?臨検した連中はどうしちまったんだ?」
「退屈な任務で精神がヤられちまってたんじゃないのか?一日中、何も無い空と海ばかり眺めてたら無理も無いさ。」
「ちげぇ無ぇな」
北の港では、日本艦の受け入れ準備が進められていたが、あまりにも現実離れした報告を耳にした彼等には、足りない国力を補おうと無駄に背伸びをして見栄を張った辺境国家がやって来るのだろうとの印象を与えていた。
「ふぅ・・・よりにもよってこんな時に・・・!」
ロウリア海軍指揮官の一人 ホエイル は嘆息する。
臨検の報告を聞いた彼の上司は、王都ジン・ハークの外交関係者へ報告を入れた。
しかし、「そちらで用件を聞いて後でまた報告せよ」と命じられたのである。
明らかに自ら対応するのを面倒臭がっており、その命令を聞かされた者達は「それは無いだろう」と言い返したい衝動に駆られた。
ホエイルもその一人であり、無駄に多い軍船を動かして使節の為の道を作らなければならず、大して時間も経っていない内から疲れを見せ始めていた。
「ホエイル君、どうかね?作業の進捗は?」
声を掛けたのは、海将 シャークン である。
「ハッ!目下、順調に進捗しております!」
「うむ・・・取り敢えずは通り道が出来ておるな。この短時間で此処まで出来るとは流石だ。」
「恐縮であります!」
まだ狭いが、湾の中央に一本道が形成され始めていた。
「お偉方の思い付きでとんでもない事になったものだ。圧倒的物量は確かに大きな力だが、それを動かす側は多大な苦労を強いられると言うのにな・・・」
同じ頃、軍船内では魔信を通し、どう動かすかで怒鳴り合いが展開されていた。
「海将、上は何故この場所へ使節を通すよう命じたのでしょう?最悪、クワ・トイネ公国に我が国の動きを察知される危険もあります。」
「むしろ、我が国の戦力を見せたいのだろう。圧倒的なこの光景を見せて、我が国に逆らう意思を失わせようと言う魂胆だろうな。」
二人の視線の先には、4000隻を超える軍船がひしめき合っている。
ロデニウス大陸史上、前例の無い圧倒的な戦力を前に、何者にも負けない自信が湧いて来る。
そこへ、馬に乗った士官がやって来た。
「シャークン様、ホエイル様、馬車の準備が出来ております。どうぞ此方へ。」
「ご苦労。ではホエイル君、行くか」
「ハッ!」
彼等は、後日行われる王前会議に出席する為、その場を後にした。
暫く後、
臨検を行った軍船の後をついて、5隻のフリゲートは北の港に到着した。
「これは凄いな・・・」
「1000隻を軽く超えていますよ、コレ。」
艦橋から港を眺める近藤と井上は、感嘆の声を上げる。
見渡す限りの帆船が整然と並び、その中央はちょうど道の様に空いている。
しかし、
「ちょっと狭過ぎるな・・・」
先導する軍船は余裕で通れるのだが、それよりも巨大なフリゲートが通るには幅が足りなかった。
「・・・仕方無い。カッターを下ろせ!」
艦長が指示を出し、短艇への乗り換えが行われた。
「オイオイオイ・・・何なんだアレは!?」
「マジでデケェ・・・」
「臨検隊が言ってた話は本当だったのかよ」
「帆が無いぞ。どうやって動いてんだ?」
北の港は騒然としていた。
先導する軍船は、ロウリア王国の基準で言えば大型の部類に入る。
しかし、まるで沿岸で利用する小型艇に見えてしまう程に、引き連れて来た船は巨大であった。
必死の思いで開けた道は、想定外のサイズにまるで対応出来ていない事が末端の水兵に至るまで丸分かりであり、国の威信を示す筈が、意図せず恥を晒す結果となっていた。
「お、おい、ボートを降ろし始めたぞ!」
「準備も滅茶苦茶早いぞ。誰が降ろしてんだ?」
「帆も無く、オールも無く、あんな小さなボートに至るまで、どの様にして動いているのか見当も付かん。」
「もしや我々は、列強に匹敵するとんでもない連中に出会ってしまったのかも知れん。」
桟橋で使節の到着を待つ士官達は、想定外の事態に心臓を締め付けられる感覚を味わっていた。
そうして到着した使節を見て、今度は困惑した。
「お出迎え頂き感謝致します。私が当使節団代表を務めております、近藤と申します。本日は、突然の来訪にも関わらず御対応頂き、感謝の念に堪えません。」
「丁寧な対応、痛み入る。」
(な、何だ?こんな地味な連中が一国の使節だと?あまり着飾らないお国柄だとしても、もう少し何とかするものだが・・・)
困惑を他所に、まずは言うべき事を言う。
「早速ではあるが、我々は外交官ではなくこの港を管轄する軍人である為、貴君等と交渉する権限は持ち合わせていない。」
「そうですか。それではどなたが、私達との交渉を担当されるのでしょうか?」
「いや、まずは貴君等の来訪の目的とその所属について詳しく話して貰い、それを報告してどう対応するのかを決定する予定だ。」
「解りました。それでは、この場で御説明致します。」
近藤は、日本に関する基本情報の説明を行った。
(大陸から北東は、確か小さな諸島が存在するのみだった筈だが・・・領土面積が38万㎢だと?単に見付かっていない陸地があっただけか?人口が1億5000万に近いだと!?法螺を吹くにも限度があるぞ!)
近藤の説明に、聞いている側はうんざりした表情になる。
「信じ難いのも無理はありません。」
その様子を見て、近藤は次の説明を始める。
「実は、我が国は先月、異なる世界、若しくはこの世界の異なる星から国ごと転移して来たのです。」
「はっ!?」
素っ頓狂な声が上がる。
この世界では、国ごと転移の話は子供でも知っている。
第二文明圏の列強国であるムーが、1万2000年前に大陸ごと転移して来たとされているからである。
無論、当のムー人以外は誰も信じておらず、あくまで神話の話として受け入れられている。
咄嗟に言葉が出ない士官を横目に、近藤の説明は続く。
「転移後、我が国はクワ・トイネ公国とクイラ王国と国交を結びました。後回しになってしまい申し訳無いと思ってはおりますが、こうして遅ればせながら貴国とも国交の樹立をしようと参った次第です。」
敵対国の名が出て来た事で、場の空気が重くなる。
周囲の目もかなりきつくなっていた。
多くの者が今にも飛び掛からんばかりになるが、先頭で対応していた士官は冷静に振る舞う。
「貴君等は、その意味が解っているのか?」
「どの意味でしょう?」
「クワ・トイネとクイラと国交を結んでいる意味だ。我が国は、その二国と敵対関係にある。もしや、スパイ目的で我等と接触したのではあるまいな?」
「それは誤解です。我が国は、あくまで友好的で対等な関係を望んでいます。我が国に対する攻撃的な意思を持たない限り、我が国は武力を行使する事などありません。」
(?・・・何を言っているのだ、この男は?)
強大な武力を保有していれば、自らの為に存分に振るう事を是とする彼等は、近藤の説明に一時停止する。
「・・・そ、それはともかく、先程も言った様に我々は貴君等と交渉する権限は持たない。これから報告はするから暫く待って貰うが、妙な真似はしない様に。それと、あまり期待しない様に。」
そう言うと、部下へ命じて報告に走らせた。
(流石は軍人だな)
外交官である近藤と井上は、鍛え抜かれた軍人達から向けられる敵意に戦々恐々であった。
周囲に護衛もいるとは言え、至近距離な上に数で圧倒的大差を付けられている。
ヒュゴッ
そうして待っていると、上空から風切り音が聞こえた。
つられて上を見ると、ワイバーンが海へ向かって飛び立っていた。
「あ、あれは何ですか?」
向けられる視線の鋭さも忘れ、興奮気味に井上が尋ねる。
「何って、見れば分かるだろう?我が軍のワイバーンだ。」
「ほぉーー・・・・」
間抜けな声を出して見惚れる様子を訝しむ一同。
「かっこいいですねぇ、初めて見ました。」
「何ィ!?」
この世界で最も普及している航空戦力であるワイバーンは、気候やコスト的に保有出来ない国はあっても、存在そのものを知らないなど絶対に有り得ない話である筈であった。
(ま、まさか、そんな事が・・・)
先程までの鋭い視線は何処へやら、今度は新種の動物を見る様な目になる。
そして、報告の為に再び部下を走らせた。
北の港通信所
『確かに、クワ・トイネとクイラと国交を結んでいるのだな?』
「間違いありません。その場の全員が聞いております。」
井上達がはしゃいでいる頃、北の港の司令部に設置されている魔信を通し、ジン・ハークの外交官へと報告を入れていた。
『なら、国交樹立など夢物語だな いつになるか判らんが、滅ぼす事になるのは確実と言えよう』
「では、使節は如何しましょう?」
『待て 我が国は近く、そのクワ・トイネとクイラに侵攻するのだ 6年もの歳月を掛けた準備が乱れるのは良くない その日本国とやらの位置は判っておるのか?』
「彼等の主張によりますと、ロデニウス大陸北東およそ1000㎞に位置しているとの事です。」
『もし、奴等が両国を支援する場合、どれ程の影響があると思う?』
「これ程離れていれば、少数の援軍を出すのがせいぜいでしょう。大勢に影響はありません。」
『そうか・・・では、奴等の軍事力について何か判らんか?』
通信員の顔が曇る。
「それが・・・彼等は港へ、全長150mを超える巨大船を5隻も引き連れて来ました。」
『な・・・何だと?』
「全長150m以上の巨大船でやって来たのです。また、その船には帆もオールも無く、どの様に推進しているのかも不明でして・・・」
『は・・・ハッハッハッハッ!冗談も休み休み言い給え その様な奇天烈な話などある訳が無かろう』
「この場の全員が目撃しております。冗談でも幻覚でもありません。」
『いやいや有り得ぬよ 文明圏の列強ならいざ知らず、この様な文明圏外でそれ程の造船技術を持つ勢力などあるまい』
予想通りの反応に、通信員はどう納得させようか悩んでいると、後ろから肩を叩かれる。
「少々お待ち下さい・・・どうした?」
「追加の情報だ」
メモを受け取る。
余程急いだらしく、その連絡官は肩で息をしていた。
『どうしたのだ?』
魔信から不機嫌な声が聞こえて来る。
「申し訳ありません。新たな情報が入りましたので、今読み上げます。」
メモに目を通すと、一瞬固まる。
『・・・早く言わんか!』
一向に何も言わない状態に業を煮やし、怒鳴り声が響き渡る。
「は・・・ハッ!えー・・・やって来た使節は、ワイバーンを初めて見たと驚いていたそうです。」
『何、知らないだと!?保有していないのではなく、ワイバーンそのものを知らないと言うのかね!?』
「その様です。」
相手の外交官は暫く黙る。
『フッ・・・どうやら、大した事のない蛮国の様だな この程度ならば問題無かろう ただ、今の我が国は忙しい 外交局からの返答を伝えるから、それを伝達して追い返すのだ』
「ワイバーンがいないとしても、巨大船についてはどう考えますか?」
『ただの見せ掛けだろう それっぽい巨大なガワを被せたガレー船とでも考えた方が自然だ いずれにせよ、ワイバーンを見た事すらない蛮族など、我等の敵では無い』
それだけ言うと、通信は切れた。
「・・・」
(都合の良い所だけ抜き取りやがって・・・!どうして正確な情報を伝えようとせず、こうも捻じ曲げてしまうんだ!?)
通信員は、やり場の無い怒りに身を震わせた。
暫く後、
「亜人族と友好関係を持つ蛮国と交渉する窓口を、我が国は持たない」
外交局からの正式な返答を士官が読み上げる。
「貴君等には、即刻我が国から立ち去って貰う。抵抗する場合、命の保証は出来ない。」
「そうですか・・・では、失礼致します。」
心底残念そうな表情を浮かべ、近藤以下は来た道を引き返した。
北の港から離れ、見張りと思しき軍船の追跡を振り切った後、近藤と井上は話し合う。
「予想通りと言えばそれまでですが、見事に断られましたね。」
「そうだな・・・だが、来た意味はあった。」
「意味ですか?」
井上は首を傾げる。
「お前も見ただろう?あの軍船の数を。ただ国を守るだけにしては、あの数はあまりにも異常だ。」
正確な数は、軍事の素人である二人には解らないが、それでも他国への侵攻を前提としなければ、あれ程の数を揃えるなど有り得ない事だけは理解していた。
「それに、最後に伝えられたあの声明だが、明確な攻撃の意思を感じた。」
ロウリア王国が人間族至上主義を掲げている事は、事前情報としてクワ・トイネ公国から伝えられていた。
それが、いずれは本格的な武力衝突に繋がるであろう事は誰もが予想出来たが、今回の訪問でそれがあまり遠くない時期であると予感させた。
「艦長」
傍らにいる艦長へ声を掛ける。
「どうしました?」
鷹揚な調子で返事をする。
「もし、ロウリア艦隊と交戦状態になった場合、この戦力で勝つ事は出来ますか?」
そう言いつつ、窓から見えるフリゲート艦へ顔を向ける。
「そうですね・・・順当に戦えば、この5隻だけでもあの港の全てを相手にしても負ける事は有り得ません。ただ、数によっては先に弾薬が底を突いて、撤退せざるを得なくなる可能性もあります。まぁ、弾薬欠乏まで一方的に撃ち減らされても戦意を保っていられればの話ですが。」
艦長の言葉に少し安心する。
「今後の展開次第では、本当にやって貰う事になるかも知れません。」
突然の転移によって国内がガタガタになっている日本は、生命線と化したクワ・トイネ、クイラ両国とは切っても切れない関係になりつつある。
その後、ロウリア王国開戦近しとの報告が内閣に齎され、国防軍へ事前準備を命じる事となった。
原作では一言で済まされていた部分なので、やってみました。