今回はフェン王国です。
ちなみに、本作の巡視船いなさは1500t級です。
中央歴1639年3月9日
ロウリア王国へ派遣した外交官の情報から、日本政府は近く軍事行動が始まる可能性が高いと分析し、クワ・トイネ公国、クイラ王国へ警告。
後日、両国は日本へ戦力の派遣を要請。
日本政府は閣議決定によって戦力派遣を決定し、要請を受諾。
4月8日
クワ・トイネ公国エジェイ近郊に日本国防軍の駐屯地が設営される。
同日、第七師団が入営。
また、国境近辺の街ギムへ第六旅団が駐屯を開始。
4月12日
ロウリア王国、クワ・トイネ公国へ宣戦布告。
同日、ギムへ侵攻を開始。
第六旅団が迎撃し、攻勢は頓挫。
ロウリア王国軍東方征伐軍先遣隊は壊滅し、膠着状態となる。
4月25日
クワ・トイネ公国北方海域に於いて、ロウリア王国軍東方征伐艦隊と国防海軍第一艦隊が邂逅し、ロデニウス沖大海戦が勃発。
ロウリア艦隊は約2200隻を撃沈され、北の港へ撤退。
5月21日
国境付近で防御態勢を取り、戦力を集結させているロウリア軍に対し、国防軍は攻勢に出る。
空爆と事前砲撃によって集結していた部隊は壊滅し、パンドール将軍が戦死。
生存者は散り散りになって敗走した。
6月1日
後続の第七師団がロウリア領内へ突進を行い、王都ジン・ハークへ到着。
二日に渡る攻防の末、ロウリア王の身柄を確保、終戦が宣言された。
9月2日
日本、ガハラ神国の仲介でフェン王国を訪問。
軍祭へ招待される。
・・・ ・・・ ・・・
9月25日
この日、フェン王国に於いて5年に一度行われる軍祭が開催されていた。
各国の武官が顔を連ね、沖には各国の新鋭艦が停泊している。
いずれも国の威信を懸けた精鋭であるが、普段であれば自信に満ちた表情をしている筈の彼等の顔は驚愕に彩られ、ある一点を凝視している。
「あれが日本の戦船か・・・まるで城だな。」
フェン王国元首、剣王 シハン は王城から沖を見て呟く。
彼は、最初の会談で日本の外交官に対し、軍祭で艦隊を派遣し、実力を見せて欲しいと要請した。
それに応じ、海軍から第二艦隊が派遣され、万が一に備えて海上保安庁より巡視船いなさも派遣されている。
彼の招待を受けた日本は、初参加でありながら注目の的となっていた。
その威容は、木造帆船ばかりの中で異彩を放っており、比較にもならない程に巨大である。
「いやはや、ガハラ神国から事前情報として聞いてはおりましたが、これ程巨大な上に金属で出来た船が海に浮かんでいるとは!」
シハンの傍らに控える武将 マグレブ が頷く。
総数12隻にもなる第二艦隊
その先には、標的として用意された廃船4隻が浮かんでいた。
「剣王様、間も無く廃船に対し、日本艦が攻撃を開始します。」
シハン自ら外交官へ頼んだ「日本の力を見せて欲しい」との依頼。
その回答を見届けようと目を凝らす。
12隻の内、ミサイル巡洋艦愛宕が前へ出る。
停止して照準を合わせるも、標的との距離は4㎞ある。
「本当にあの距離から攻撃するのか?我が軍最強の軍船剣神ですら、あの距離では届くまい。」
海岸で見学している武官達も、愛宕の不可解な行動にざわつく。
「はて・・・あれ程の距離ならば、もしかしたら船に接近する所から始めるのかも知れませぬ。」
マグレブが推測を述べる。
直後、主砲が火を噴いた。
ダンッ… ダンッ… ダンッ… ダンッ…
砲声が4回響き渡り、4隻の廃船はそれぞれ1発で撃沈された。
「これは・・・声も出んな。何と凄まじい・・・」
「そんな馬鹿な!」
「信じられん・・・!」
巨大な水飛沫を上げ、残骸を空に舞い上げながら木っ端微塵となった廃船を目に焼き付けつつ、シハン以下フェン王国首脳は呻く。
正確無比な精度を持ち、連射性能も極めて高く、隙がまるで無い。
(列強パーパルディア皇国でさえ、あんな真似は出来まい)
「すぐに日本との国交開設準備に取り掛かるのだ。不可侵条約は勿論、可能であれば安全保障条約も取り付けたいものだ。」
シハンは、満面の笑みでそう言った。
その頃、愛宕のレーダーは西から接近する飛行物体を捉えていた。
その正体は、パーパルディア皇国監察軍東洋艦隊所属のワイバーンロード20騎である。
皇国の外務機関である第三外務局が、フェン王国へ提示した領土献上要求を拒否され、代替案として出した498年間の租借要求すらも拒否された。
面子を潰されたと判断した外三は、懲罰として保有戦力である監察軍を動員し、周辺国への見せしめも兼ねて軍祭の日を選んで攻撃を決定した。
そして現在、その一撃を加えんとワイバーンロード部隊はアマノキ上空に到達した。
皇国に逆らった愚かな国の末路がどんなものかを文明圏外の蛮族に見せ付け、その愚か者と関わっただけで自分達も攻撃対象にされる。
そうして皇国の恐ろしさを再認識させると同時に、フェンを孤立状態へと追い込むのである。
しかし、そんな彼等でもどうにもならない相手が存在する。
同じくアマノキ上空を飛行しているガハラ神国の風竜3騎が目を向けると、ワイバーンロードは蛇に睨まれた蛙の様に委縮し、風竜を避けた。
『ガハラの民に構うな!フェン王城と、そうだな・・・あの白い船に攻撃せよ!』
隊長は苦々しい表情をしながらも指示を出す。
それに従って二手に分かれ、それぞれ標的へ向けて急降下する。
「何の実演だ?」
地上の誰もがそう思った瞬間、ワイバーンロードは口を開き、火球を形成し始めた。
「マズい、皆逃げろ!」
叫びも空しく、放たれた導力火炎弾は天守を直撃し、城は炎上した。
巡視船いなさ
「本船直上にワイバーン10!急降下ァーー!」
「機関全速、面舵一杯!」
乗員の叫びに応じ、船長は直ちに指示を出す。
「ワイバーン発砲!」
10発の導力火炎弾がいなさへと殺到する。
ボンッ ボンッ
「船尾に2発被弾!」
「チッ・・・回避し損ねた!」
着弾した火炎弾は火災を引き起こし、乗員は消火に奔走する。
「うおおお!」
「ウワップ・・・」
直後、海面へ着弾した火炎弾は水蒸気爆発を引き起こし、いなさ後部を覆い隠した。
「逃がすな!機関砲をワイバーンへ指向、照準次第射撃せよ!」
急降下から水平飛行へ移行した10騎は、戦果確認を始めた。
「何ィッ!?あのタイミングで殆ど躱されただとォッ!?」
「馬鹿な・・・何て加速力だ!」
必中のタイミングで放ったにも関わらず、殆どが外れた事に衝撃を受ける。
ドッドッドッドッドッドッドッドッドッ
下から奇妙な音が聞こえ、顔を向けようとした瞬間、
「何だ・・・ウオオオッ!?」
2騎のワイバーンロードが突然、落下を始めた。
「そ、そんな馬鹿な!」
「何が起きたんだ!?」
無事な者がそちらへ目を向けると、落下している2騎は血飛沫を上げており、攻撃を受けた事を理解した。
乗っていた竜騎士は、錐揉みに耐え切れずに投げ出され、海面へと落下した。
「おのれぇ!」
栄えある列強パーパルディア皇国の力の象徴とも言えるワイバーンロードが撃墜された。
残った竜騎士達は、皇国に泥を塗った蛮族を血祭りに上げようと再び攻撃態勢に移ろうとする。
しかし、その様な暇は与えられなかった。
ド ド ド ド ドォォォォォォン・・・・
第二艦隊全艦の主砲が上を向き、FCSによる寸分違わぬ照準により、上空を旋回していたワイバーンロード18騎を一瞬で撃墜した。
シハンとその側近、軍祭の参加者、その他全員は、たった今目撃した光景が信じられなかった。
ワイバーンを改良強化したワイバーンロードは、文明圏外国にとっては1騎撃墜するだけでもとんでもない困難が伴う。
もし1騎でも撃墜出来たなら、「我が国はワイバーンロードを撃墜出来る程に精強である」と世界に誇れる。
そのワイバーンロードが、一度に20騎。
彼等の目の前で、ほんの僅かな時間で、日本の軍船は被害らしい被害を受けず、木っ端微塵にしてしまった。
その上、治安維持を目的とし、武力を削ったと言われる白い船でさえ、一度に2騎を撃墜した。
(あのワイバーンロード・・・恐らくパーパルディア皇国が差し向けたのであろう。領土献上要求の拒否に対する懲罰攻撃と考えるのが妥当か。しかしまさか、いの一番に日本の船へ攻撃を仕掛けるとは・・・我が国と皇国との諍いに日本を巻き込めたのは、天運ではなかろうか・・・)
シハンは、炎上を続ける天守を見ながら笑みを浮かべた。
「何て事だ・・・このタイミングでこんな事が・・・」
外交官である 島田 は、地上から一部始終を目撃していた。
よりにもよって自分達がいるこのタイミングで、他国の紛争の巻き添えを喰らってしまった。
しかし、敵は疑い無くいなさへ攻撃を加えた。
具体的な被害が出た以上、今回の反撃行動は正当であり、批判されるべきは攻撃を行った国籍不明勢力にある。
(何で俺が当事者に・・・)
島田は、これから厄介事の最前線に立たされるであろう自分の運命を呪いつつ、まずは情報収集を始めた。
暫く後、
事態は切迫していた。
第二艦隊の調査により、フェン王国西方約200㎞に、東進する国籍不明艦隊22隻を発見した。
島田がフェン王国の武官に情報を求めた所、襲撃を行ったワイバーンロードはパーパルディア皇国の皇国監察軍と呼ばれる部隊によるものであると推察される事、東進中の艦隊も皇国監察軍所属であると思われるとの事であった。
また、今回の軍事行動は偶然ではなく、軍祭を狙って文明圏外国へ自国の武力を誇示し、従属させる為の砲艦外交の一種であるとも推測していた。
艦隊が東進しているのは追加攻撃の為だと思われ、その前に情報の擦り合わせを行うべく、島田はフェン側へ会談の即時開催を要求した。
(まさか、最初からこうなる事を分かって艦隊を招待したんじゃ・・・)
島田は、シハンへ疑念を抱きつつ先を急ぐ。
フェン王城
応接間で待たされていた島田以下の元へ、マグレブとその部下が入って来た。
「お待たせして申し訳無い。」
「いえ、それでは始めましょう。」
それぞれが席に着くと、会談が始まった。
「まずは、我が国へ不意打ちを仕掛けて来た不届き者共に対し、真に見事な武技で退けて頂いた事、国を代表して御礼申し上げる。」
マグレブは深々と頭を下げる。
「いえ、我々は貴国を守った訳ではありません。我が方が攻撃を受けた為、正当防衛を行ったに過ぎません。」
淡々と述べる島田に対し、その返答に焦ったマグレブは話を進める。
「早速ではあるが、国交開設の事前協議の準備を開始したいと考えておるのですが・・・」
「状況を理解されていますか?こんな状態でその様な事が出来るとお思いなのですか?」
一刻も早く日本を引き入れたそうな態度に、島田は苛立ちを感じると共にある確信を抱く。
「今回、攻撃を仕掛けた勢力はパーパルディア皇国と思われますが、貴国は以前からパーパルディアとの間に問題を抱えているのではありませんか?あの国が攻撃的な事は我が国も把握しています。となれば、今回の様な見せしめ的な攻撃を行う事は容易に想像出来る筈です。そして攻撃を行うとすれば、軍祭は国の面子を潰すのに都合が良いでしょう。尚且つ、他国の人間が多数集まる場だからこそ、その場の全員が同じ被害者となり、共同で対抗しやすくなります。」
ロウリア戦以前から、日本は周辺国家の情報を主にクワ・トイネ公国から仕入れていた。
その中にはパーパルディア皇国に関する物も含まれており、詳細な内情は不明なものの、此処10年は極めて傲慢な態度で積極的な拡大政策を推し進めている事を把握していた。
クワ・トイネ公国以外でも同様の情報が多方面から得られており、政府はパーパルディア皇国を要注意国家として警戒している。
「お待ち頂きたい!我が国が貴国を巻き添えにする為に、軍祭へ招いたと言われるおつもりですか!」
島田の言葉に、マグレブは声を張り上げる。
「どちらにせよ、貴国は戦争状態にあると判断せざるを得ません。この様な状況では、我が国は国交交渉が出来ません。この件は一旦持ち帰り、内容を詰めてから再度御連絡します。」
ハッキリとした返答に、この場での交渉は諦めるしか無い事を理解した。
「・・・解りました。ただ一つ、これだけは覚えておいて頂きたい。あなた方を襲った竜騎士部隊は、貴殿の推測通り第三文明圏の列強国、パーパルディア皇国の部隊です。我が国は彼の国から土地を献上せよと一方的に要求され、それを拒否した結果襲って来たのです。」
島田は、パーパルディア皇国の攻撃性を再認識すると共に、フェン王国の事情を知って怒りを覚えた。
「かつて、我が国と同様にパーパルディアに懲罰攻撃を加えられた国がありました。その国は、不意打ちで竜騎士を墜とすなどの戦果を挙げましたが、報復として攻め滅ぼされました。反抗者は殺され、その他の民は奴隷として売り飛ばされ、更に王族は親類縁者を含めて皆殺しに遭い、王城前で串刺しにされて晒されました。此度の相手がその様な国であると言う事、どうかお忘れ無きよう。」
(どっちが蛮族なんだか!)
内心で吐き捨て、その場を後にした。
同じ頃、
沖で待機しているいなさに、ある人物が収容された。
最初に撃墜したワイバーンロードから投げ出され、海面へ落下した竜騎士である。
尚、もう一人は投げ出された高度が高過ぎて死亡しており、他は砲撃をまともに受けたせいで原形を留めていない。
彼は、船内へ収容されるとまず治療を受け、それから取り調べが行われた。
「パーパルディア皇国第三外務局皇国監察軍東洋艦隊所属、特A級騎士の レクマイア だ。」
椅子に座らされているレクマイアは足を組み、あからさまに見下した表情で目の前の取調官達を見る。
(蛮族め・・・!)
面接室の様な間取りのその部屋は、まるでレクマイアを犯罪者として扱っているかの様であり、内心で相手を罵る。
「パーパルディア皇国・・・第三文明圏の列強国ですね。」
「その通りだ。お前達の様な辺境の蛮族には想像も付かないだろうが、列強国は世界のどの国よりもはるかに発展しているのだ。こんな真似をして、ただで済むと思うな!」
「どうなるのでしょうか?」
何処までも淡々としている様子に苛立ちを覚えつつ、説明を始める。
「我が皇国は、接舷切り込みを未だにやっている文明圏外の蛮国と違い、魔導砲と呼ばれる遠距離兵器で一方的な攻撃が可能なのだ!その威力は、鋼鉄の城壁を一撃で粉砕し、射程も2㎞に及ぶ。それを我が国の魔導戦列艦は、100門前後も搭載している。その様な巨大艦を数百隻も有している!しかも、風神の涙によって無風でも高速で航行出来るのだ!」
取調官は、風神の涙に興味を抱く。
「陸軍も強大だ!我が軍は数十万の兵力を有し、全員に銃を・・・おっと、辺境の蛮族には理解出来んだろうから詳しく説明してやろう。銃とは、飛び道具の一種だ。だが、弓よりも遥かに優れた威力と射程を持ち、尚且つ扱いやすい。我が軍は鎧を装備していないが、それは銃と砲の威力の高さ故。鎧を容易く打ち砕く事が出来るのだ!無論、製造には高度な技術を要するから、お前達がどれだけ頑張っても造れんだろうがな。仮に造れたとしても、全軍に行き渡らせるなど不可能だ。だが我が国は、それを余裕でこなせる程の強大な国力を併せ持つ!軍事力だけが強いと思わない事だな!」
(世界を知らずに愚行を重ねる蛮族もいると聞いた事はあったが、まさかこれ程の愚か者が本当にいるとはな・・・だが無知な蛮族も、これだけ教えてやれば己のしでかした事がどれ程の意味を持つのか理解するだろう。)
レクマイアは、これで自分の扱いも丁重になるだろうと考えた。
「そうですか」
「!!!」
しかし、取調官の態度は何も変わらず、淡々としたものであった。
「貴様等、まだ解らんのか!?俺は、栄えあるパーパルディア皇国の者だぞ!たかが文明圏外の蛮族風情が、こうして俺を捕えている事自体が大罪だと知れ!」
「フゥ・・・」
激昂したレクマイアは吠えるが、それに対する返答は溜息であった。
「ッ!」
(何なんだ、あの哀れむ様な目は!まるで文明国の人間が、無知な文明圏外の連中が喚く様を見ているかの様だ・・・)
彼のプライドは深く傷付けられ、屈辱に塗れる。
島田の会談内容とレクマイアへの取り調べ内容は、直ちに本国へと送られた。
・・・ ・・・ ・・・
日本 外務省
「・・・以上が、今回の経緯です。」
緊急招集された幹部達が、フェン王国から送られた報告を聞く。
「やってくれたな!」
「これは由々しき事態です!」
「艦隊を早急に引き揚げさせるべきでは?」
口々に感想を述べる中、事務次官が口を開く。
「諸君、事態は急を要する。国防省でも今回の対応を協議中だが、始まる前から接近中の艦隊を殲滅すべきとの声が多数上がっているとの話だ。」
それに対し、「当然だろう」と言う顔をする一同。
「ただ、自分は違う意見を持っている。」
反対意見かと思い、耳を傾ける。
「接近中の艦隊を沈めず、航行不能状態にして鹵獲して貰うのだ。」
「はっ!?」
予想外の答えに目を剥く一同。
「そ、それはどうしてでしょう?相手は帆船との事なので、やろうと思えばそれ程苦労せずに出来るとは思いますが・・・」
「我が国は、パーパルディアとの外交チャンネルを持てていない。」
全員が苦々しい表情をする。
ロウリア戦の後、日本政府はパーパルディア皇国へ外交官を派遣した事があった。
多方面から得た情報の真偽確認も兼ねて派遣した所、「文明圏外国が治外法権すら認めず国交を求めるなど、非礼にも程がある」と言われ、門前払いされたのである。
また、「対等な関係を認めるのは同じ列強国のみ」とも明言され、傲慢な実態を再認識する結果に終わった。
「今回、我が国は明白な侵害行為を受けた訳だが、こうなれば正式にパーパルディアへ抗議を行う必要がある。だが現状では、先方は我が国の実態を何一つ把握していない。せいぜい、周辺の文明圏外国よりは多少強い程度の評価に留まるだろうな。その上、島田のあの情報だ・・・」
反撃に成功した結果、徹底的に滅ぼされた何処かの国の話が頭に浮かぶ。
「接近中の艦隊を殲滅して抗議になど行ったりすれば、派遣した外交官は見せしめにされるかも知れない。そしてそのまま、我が国へ侵攻を開始する。そうなれば、周辺国は我が国へそっぽを向くぞ。」
戦力差から考えれば、敗ける事はまず有り得ない。
しかし、転移によって経済が青息吐息な現在の日本は、可能な限り多くの貿易相手を求めている。
下手な手を打ってパーパルディア皇国が動けば、あらゆる国が巻き添えを避ける為に日本を冷たくあしらい、経済の復興が大幅に遠退きかねない。
「そこで、力の差を誰の目にも解る様に示そうと言う訳だ。航行不能にした軍艦を曳航し、それを手土産にパーパルディアを交渉の席に着かせる。」
国益を損なわず、同時に日本の主張を押し通す。
これが、事務次官の判断であった。
「何か反対意見はあるか?」
反対の声は上がらず、パーパルディア皇国に対する方針は決まった。
国防省へ官僚を走らせる傍ら、フェン王国への対応を協議する。
「まず間違いの無い事実として、フェン王国は我が国の軍事力を後ろ盾に、パーパルディアへ対抗する腹積もりです。軍祭への招待は、本当に対抗可能な力を持つのかを確認する為だったと考えるのが妥当でしょう。」
「だろうな・・・それどころか、わざと両国の係争に巻き込もうとした節もある。」
幹部の一人の発言に、事務次官は頷く。
「島田の報告では、相手方は必死に否定していたそうですが・・・その場で国交締結まで急いで持って行こうとしていたそうです。」
「その上、パーパルディアがどんな性格をした国か、忠告までしていたそうではありませんか。軍祭をピンポイントに狙って来る事まで予測出来ていたかは不明ですが、ああして襲撃を受ける事を最初から予想していた事は、その忠告から判ります。」
「領土献上要求を拒否したから襲って来たとも言っていたそうだな?明らかに、解った上で招待したな・・・」
幹部達のフェン王国に対する好感度、信用度が一気に下がる。
「向こうも必死なんだろうが、それに付き合って我が国が紛争に巻き込まれる謂れは無い。フェン王国との国交交渉は白紙に戻し、渡航制限を課したいと思うがどうか?」
事務次官の問いに、反対の声は上がらない。
「では、すぐに外務大臣へ報告を行う。事態は急だ、すぐに結論が出ると思う。」
そう言うと、すぐに首相官邸へ向かった。
・・・ ・・・ ・・・
フェン王国沖
いなさに戻って経緯を報告した島田は、そのまま船内で待機していた。
その後、政府からの方針が通達されると、第二艦隊は接近中の監察軍へ向かった。
その間、フェン側に対して二度目の会談を要求し、準備が整うのを待っていた。
「第二艦隊からです。監察軍全艦の拿捕に成功したとの事です。先に出撃していたフェン艦隊は、接触に間に合わず全滅したそうです。」
いなさ船員が報告する。
「分かりました。」
メモをしていると、すぐに別の船員がやって来た。
「フェン政府より、会談の準備が整ったとの事です。」
「すぐに行きます」
島田は、すぐに準備を整える。
フェン王城
王城に到着した島田が会談場に入ると、マグレブと共にシハンも同席していた。
(国王本人まで参加とは、必死だな)
そう思いつつ席に着く。
「再びの要請にお答え頂き、有り難う御座います。」
「お気になさらず。貴国は、我が国の恩人も同然なのですから。」
マグレブは、以前にも増して丁寧な言葉遣いで応じる。
「まず、接近している皇国監察軍についてお知らせしたい事があります。」
「ふむ。既に、我が水軍が迎撃に出ておるのは承知の事と思う。不安はあろうが、我が水軍は精強だ。監察軍程度であれば、必ずや撃退している事だろう。」
シハンが口を挟む。
島田は、表情を変えずに続ける。
「・・・大変申し上げにくいのですが、貴国の水軍は我が艦隊が到着する前に全滅しました。」
容赦無く告げられた事実に、二人は気まずい表情で口を閉ざす。
「御安心下さい。先程、艦隊から連絡があり、監察軍を撃退しました。」
「おお、左様ですか!」
マグレブが表情を緩めて喜色を浮かべる中、シハンは島田の様子に違和感を覚える。
(彼は、先程から表情を全く変えず、声色にも抑揚が無い。まるで、我等の事など眼中に無いかの様だ・・・これは、少々拙いかも知れんな。前回の会談で気分を害したせいかも知れんが、何とか機嫌を直して貰わん事には、パーパルディアとの紛争が激化しても援助を受けられぬかも知れんな。)
結論を出すと、愛想笑いを浮かべて世辞を述べる。
「ワイバーンロードのみならず、列強の戦列艦すらも一蹴するとは、貴国の強大さには畏敬の念を覚えますな。」
「剣王様の仰る通り。その上、貴国は一度ならず二度までも、我が国に迫る不届き物を退けて下さったのです。」
「うむ、その通りだ。この上は、我が国は貴国と運命を共にし、この大恩をお返しする覚悟である事を、本国にお伝え頂きたい。」
対する島田は、表情を変えずに口を開く。
「本国からの方針をお伝えします。貴国との国交交渉は白紙となります。この後、私達はすぐに帰国致します。」
二人は、声も出せずに青ざめる。
島田は、それ以上は何も言わずに立ち上がる。
「お、お待ち下され!」
マグレブが叫ぶが、島田は止まらない。
「島田殿、どうか待たれよ!理由をお聞かせ願いたい!」
シハンの問いに、島田は立ったまま答える。
「貴国の紛争に、我が国が巻き込まれる謂れはありません。貴国に、我が国を危険に晒す権利はありません。」
その声には、確かな怒りが籠っていた。
「待たれよ!どうか待たれよ!」
背を向けた島田へ再び叫ぶが、止まる事は無かった。
その後、島田はそのままいなさへ戻り、帰国の途に就いた。
一方、第二艦隊は22隻を曳航しなければならなかったが流石に手が足りず、民間船舶の協力を受けて帰国した。
途中、フェン王国を含む周辺国の艦船が接近したが、曳航に参加していない艦を接近させて威圧するとすぐに引き返した。
国内ではこの一件が報じられ、政府によりフェン王国への渡航禁止が通告された。
大半の国民がフェン王国に対する怒りや反感を持ったが、一部では興味本位で他国を経由しての密航が発生した。
日本政府がその事態を把握するのはかなり後になってからであり、それが後の悲劇へ繋がる事となる。
原作だと、何であんなに仲良く出来るのかずっと疑問でした。
明日は投稿をお休みします。