中央歴1639年10月6日
日本外交使節、ムーと初接触。
双方が1万2000年前の友好国であった事が判明する。
後日、通商条約を締結。
11月24日
パーパルディア皇国、アルタラス王国へ侵攻。
11月27日
アルタラス王国陥落。
パーパルディア皇国の属領となる。
11月末
ルミエス王女以下、亡命アルタラス人がロデニウス大陸北方で海賊船に襲撃されている所を巡視船しきしまに保護される。
その後、日本へ亡命。
12月5日
トーパ王国に於いて、グラメウス大陸より魔王ノスグーラ率いる軍勢が侵攻。
同日、世界の扉が突破される。
12月19日
トーパ王国の救援要請に応じ、日本より派遣された国防陸軍先遣小隊が上陸。
12月22日
先遣小隊、魔王ノスグーラの駆除に成功。
・・・ ・・・ ・・・
12月20日
トーパ王国で魔王軍が暴れている頃、パーパルディア皇国皇都エストシラント沖では異常が発生していた。
第18竜騎士団第2飛行隊の小隊長である プカレート は愛騎のワイバーンロードを操り、エストシラント南東海域を哨戒飛行していた。
「・・・ん?」
水平線に目を凝らしていると、違和感を感じて声が出る。
『隊長、どうかしましたか?』
その声に気付き、部下が声を掛ける。
「11時方向、何かいます。」
言われてそちらを見ると、海面に複数の影が見える。
『・・・あれは・・・船?』
「だと思いますが、何か変です。」
まだよく見えないが、やって来る船の形状に違和感を覚える。
『な、何だアレは!?』
接近すると、それ等はあまりにも巨大であり、尚且つ帆が無い。
「ま、まさか・・・魔導船!?ミリシアルが攻めて来たのですか!?」
『隊長、前部に回転砲塔らしき物体が確認出来ます!ムーの軍艦の可能性があります!』
部下の言葉によく目を凝らすと、確かに単装砲らしき物体が確認出来た。
「あの艦隊に魔信で呼び掛けなさい!」
『了解』
プカレートも急いで魔信を取り出すと、声を張り上げる。
「非常事態発生!非常事態発生!此方、第18竜騎士団第2飛行隊第1小隊!皇都南東海域を哨戒中、機械動力船と思われる船を複数発見!回転式砲塔と思われる物体を搭載している船も確認!相手はムーの可能性大!現在、皇都へ向けて航行中!繰り返す・・・」
『此方、皇都防衛隊司令部 第1小隊へ、見間違いではないのか?』
「司令部、見間違いようがありません!不明艦隊は、我が軍の竜母すら上回る巨大艦ばかりです!帆も見当たりません!」
『その不明艦隊から、何らかの要求はあるか?』
「先程から魔信で呼び掛けているのですが、何の応答もありません。」
横を見ると、今も必死に魔信へ怒鳴っている部下の様子が見える。
『よし、解った 増援を送るから、そのまま接触を続けろ』
「了解」
皇都防衛基地
プカレートの報告を受け、エストシラントは蜂の巣を突いた様な騒ぎになった。
「上がれる竜は上がれ!」
「急げ急げ急げ、さっさと配置に着けー!」
皇都防衛隊基地の滑走路からは次々にワイバーンロードが緊急発進し、海軍基地では当直の艦を発進させると同時に沿岸砲台を稼働させている。
『全騎に告ぐ、此方は第18竜騎士団団長 デリウス である 報告によれば、接近中の不明艦は機械動力船であり、相手はムーの可能性がある』
明確にされた強敵の可能性に、部隊は動揺する。
『対応には慎重を期す必要があるが、我等は栄えあるパーパルディア皇国の花形、竜騎士団だ!決して油断せず、だが自信を持って任務に当たれ!我が皇国の鼻先で好きにさせるな!』
デリウスの訓示に、部隊は動揺を打ち消して前進を続ける。
第1小隊
「・・・あ、あれは!?」
相変わらず呼び掛けに応じない不明艦隊上空に張り付くプカレートは、全容を把握しようと艦隊中央へ接近した。
そうして目にしたのは、彼も見慣れた形状の船であった。
「ま、まさか、魔導戦列艦!?」
所属を確認しようと目を凝らすと、それを示す旗がたなびいている筈のマストは全てへし折られていた。
「航行不能にして鹵獲したとでも言うのでしょうか?第三文明圏では、我が国以外に戦列艦を保有していない筈ですが・・・」
自国の艦ではない事を願いつつ、更に目を凝らして所属が判る何かが無いか探す。
「・・・・・・ッ!」
(何たる事だ!)
甲板を見ると、懸命に手を振る乗員が多数確認出来た。
その服装が、パーパルディア皇国所属である事を示していた。
慌てて司令部へ報告を入れようとするも、その前に通信が入る。
『第1小隊へ、此方は第18竜騎士団団長デリウスだ 増援としてそちらに向かっており、間も無く到着する 現状を報告せよ』
「此方、小隊長プカレート。不明艦隊は現在に至るも此方の呼び掛けに応じず、皇都へ向けて航行中。」
『了解した 他に何か気になる事があれば報告してくれ』
「デリウス団長、不明艦隊の中に曳航されている魔導戦列艦を発見しました。総数は22隻。乗員も確認しており、我が軍の所属で間違いありません。」
そう言いつつ、詳細な状態を報告する。
『そんな馬鹿な・・・我が皇軍がやられたとでも言うのか!?』
「団長、相手は機械動力船です。もし相手がムーであった場合、交戦すれば流石に勝てません。」
尤もな言い分に沈黙するデリウス。
「団長、我が軍の艦と乗員が捕らえられている以上、不明艦隊は敵性勢力と断定するべきではないかと判断します。」
『待て待て、早まった真似をするな!合流するまで下手な事はせず、そのまま監視を続けろ 司令部へは私から報告を入れる』
「了か」
『小隊長!』
プカレートの部下が横から割り込む。
『不明艦隊から応答がありました!』
その報告に、急いで魔信を構える。
「私は、パーパルディア皇国軍第8竜騎士団所属の竜騎士プカレートである。応答せよ!」
『此方、日本国国防海軍第二艦隊 魔信の操作に不慣れな為、応答が遅れた 容赦されたい』
「日本国?何用で我が国へ接近する?我が魔導戦列艦に何をした?返答次第では攻撃も辞さない。」
『我々は、貴国の代表者との会談を要求する 目的は、フェン王国の軍祭に於ける皇国監察軍の襲撃に関する問題解決である 我が艦隊が曳航している戦列艦が、襲撃を実行した皇国監察軍所属の艦である 生存者は全員捕虜とし、艦内へ収容している』
プカレートの頬を、冷や汗が垂れる。
(つまり、戦闘であのザマになったと?目立った損傷がマストのみと言う事は、ピンポイントでマストのみを撃ち抜いて航行不能にし、鹵獲したと言う事になる。果たしてそんな芸当が出来るのか?)
内心の焦りを必死に抑え、更に言う。
「要求は理解した。これより上層部へ報告するが、その場で待たれよ。」
プカレートの報告はマグレブを通して直ちにパラディス城まで上げられ、上へ下への大騒ぎとなった。
受け入れ準備が急ピッチで行われ、第二艦隊は数時間後にエストシラント港へ入港した。
翌日、
「本当に機械動力船を保有しているとは、驚きましたね・・・」
「しかし妙だ。巨大な割にどの艦も砲が一門しか無い。」
「大量の砲を製造するだけの国力が無いのか、他に何か強力な兵器でも載せているのか・・・」
港を一望出来る場所で口を開いたのは、第一外務局局長 エルト 、第二外務局局長 リウス 、第三外務局局長 カイオス である。
「カイオス君、油断は良くないが過大評価も良くないよ。君の所の不始末だからと言って、あまり不用意な発言をしてると首が危ないぞ?」
リウスは、カイオスへ嘲る様に言う。
皇国監察軍は第三外務局の所属であり、敗北の責任は巡り巡ってカイオスへ帰す事となる。
通常であれば、監察軍の装備は軍のお下がりの旧式である為、少々の損害は織り込み済みであり、責任を問われる事も無く、損害を負わせた国を苛烈な報復によって滅ぼす事で面目を保つ。
しかし今回は、そもそも損害を受けた事実自体を把握していなかったのである。
第18竜騎士団の報告を受けて調査が行われた結果、現地の東洋艦隊から送られた最後の通信内容を監察軍司令部と対応した外三職員が、信用に値しない報告だとして放置していた事が発覚した。
その内容は、回転式砲塔を搭載した巨大な魔導船がフェン王国方面より接近し、我が方の魔導砲の射程外から砲撃を行い、マストのみを撃ち抜いて全艦が航行不能状態にされたと言うものである。
この報告を受け、敗北の責任を取らされる事を恐れてわざと大袈裟極まりない報告をしたと判断されたのである。
その後に艦隊との連絡が途絶えたのも、単なる逃亡だと判断して何の対応も取らずにいたが、今回の不明艦隊接近の報を受けて明らかにされた。
流石に、この報告内容を真に受けるのは無理があると判断されたものの、連絡が途絶えたにも関わらず何の対応もしなかった事については問題だとされ、関係者は暫定的に謹慎処分を受けている。
その上、敗北した事を認識していながら、何処の誰にやられたのか、報復措置はどうするのかを考えなければならないにも関わらず、その一切を放置していた。
此処まで来ると職務怠慢であり、カイオスの監督責任にまで発展してもおかしくない。
「確かに、あそこにあるのは我が監察軍の魔導戦列艦だが・・・よく見ろ、報告の通りだ。マストだけがやられている。」
曳航された戦列艦が日本艦隊に囲まれる形で浮かんでいるが、マストのみが無くなっているのが遠目にも判る。
「降伏後に逃亡を阻止する為にマストを折ったのかとも考えましたが、そうであれば戦闘の跡がある筈です。マスト以外に目立った損傷が見当たりません。」
エルトが言う。
「ははは、いくら何でも有り得んでしょう。ムーやミリシアルでさえ、それ程の芸当は不可能だと思いますな。」
状況証拠から言ってはみたものの、そう言われてはエルトに反論する術は無かった。
「だが、そうであるなら何なのだ?独自に機械動力船を建造出来る技術を持っているとでも言うのか?」
カイオスが疑問を呈す。
「ふん、そんな事があるものか。我が国でさえ造れない物を、今日まで名も知られていなかった蛮国が造れる筈が無い。どうやったか知らんが、輸入したと見るのが一番現実的だ。」
リウスは言う。
「しかし、どうしてその様な真似をしたのでしょう?軍事技術の流出は、どの国にとっても死活問題です。それに万が一の事態が起こった場合、強力な敵を自ら創る事になってしまいます。」
この世界が文明圏内外で分類分けされているのは、圧倒的とも言える技術格差に原因がある。
文明国は、文明圏外国が万が一にも自国の力を超える事が無い様に、徹底的に自国技術を秘匿した上で様々な利権を独占している。
他国へ最新兵器を輸出すると言う事は、単に自国の安全に不安を招くのみに留まらない大問題を孕んでいるのである。
「失礼します」
局長達が頭を捻っている所へ、一人の官僚が声を掛ける。
「どうしたのだ?」
エルトが慣れた様子で口を開いた事で、二人は相手が外一の官僚である事を理解した。
「此度の交渉につきまして、新たな命令が入りました。」
「「「命令?」」」
命令する側である筈の三人に向けての命令に、訝しげな表情をする。
「カイオス様、貴方は此度の担当を外される事となりました。」
「何だと!?一体、誰の権限でそんな真似を!?」
今回は、列強ではないが侮れない上に正体が判らない相手がやって来た事から、全外務局から代表者が総出で対応する手筈となっていた。
「外務局監査室所属の レミール 様です。」
外務局監査室とは、各外務局に於いて不正や不手際が発生していないかを監査し、場合によっては担当者を処分したり、担当を交代して案件の処理を行う場合もある部署である。
エリート集団である外務局を監査する為、監査室に所属するのは全員が皇族である。
「ヌ・・・グッ・・・!」
命令の出所が皇族と知り、口を閉ざすしか無かった。
「本件は、レミール様が担当者となり、お二人はレミール様を補佐する様にとの事です。今回の交渉は城内で行われます。馬車を御用意しましたので此方へ。」
エルトとリウスは官僚の案内に従い、その場を後にする。
「・・・あの狂犬レミールが担当するだと・・・?」
一人取り残されたカイオスは、一瞬前の憤りも忘れて青ざめる。
狂犬と呼ぶ所以であるレミールの手法をよく知る彼は、嫌な予感に駆られた。
港で待機している第二艦隊第七戦隊(水上打撃群)は、周囲を取り囲む様に布陣している戦列艦を警戒しつつ、上陸許可が出るのを待っていた。
「凄い数のワイバーンですね。常時これだけ飛ばせるとは、流石は列強と言った所でしょうか。心なしか、クワ・トイネ公国で見たワイバーンよりも大きく見えます。」
外交官である 篠原 が言う。
「確か、列強国はワイバーンロードとか言う改良型を使ってる筈だ。通常のワイバーンより大きいらしいぞ?」
篠原の上司である 朝田 が応じる。
艦隊上空には、20騎を超えるワイバーンロードが警戒の為に張り付いており、何かあればすぐに甲板を焼く態勢を整えていた。
その様子は見事の一言であり、列強の名に恥じない精強さを窺わせる。
「前方、小舟が接近!」
見張りの報告を聞き、海面へ目を向ける。
「どうやら、準備が整った様ですね。」
「此方の準備が整った!交渉の権限を持つ者の上陸を許す!それ以外はこの場で待機せよ!」
朝田と篠原は顔を見合わせる。
「護衛要員の上陸許可を要求する。許可しなければ、貴国は交渉を拒否したと判断する。」
朝田が代表して応じる。
「自惚れるな、蛮族の代表者よ!不躾に列強たる皇国の皇都へ押し掛けながら、交渉の席を用意してやっただけでも有り難く思え!本来であれば、問答無用で皆殺しにしている所だぞ!我が方の命令に従わぬならば、貴様等はこの場でそうなるのだろう!」
その声に合わせ、周囲に展開している戦列艦が慌ただしくなる。
小舟の乗員は、勝ち誇った顔をしていた。
ゴオオォォォォォォォ・・・・
突如、一帯に轟音が響き渡る。
何事かと周囲を見回す小舟の乗員達。
上空では編隊が乱れ、動揺したワイーバーンロードが竜騎士の制御を外れて暴れ始めていた。
その更に上空に、それはいた。
4機のF/A-18が皇都上空をフライパスし、その威容を見せ付けた。
「改めて聞く、誰が誰を皆殺しにするのか?」
朝田のその問いに、それが何処の所属かを察した彼等は、その場で相談してすぐに前言を撤回した。
暫く後、
朝田以下、外交官と護衛が案内された先は、パラディス城であった。
(外務局は城の内部に設置されてるのか?)
そんな事を考えながら門を抜けると、白を基調とする城が目に入り、完璧に手入れされた庭が広がっていた。
(国力の高さをこれでもかとアピールしてるな。聞いてたよりもかなりプライドが高そうだぞ・・・)
その光景から、今回の相手がかなり面倒なタイプだと察し、どの様に話を持って行くかに頭を悩ませる。
「どうぞ此方へ」
控え室で20分程待たされた後、不審者を見るかの様な態度も隠そうともしない官僚の案内に従い、用意された会談場へ入室する。
「どうぞお座り下さい」
朝田と篠原が中央に用意された椅子に座り、そのすぐ背後に同行した5名の護衛が控える。
護衛とは言え、場を乱さない様にとの配慮から、迷彩服ではなく礼装を着ている。
そして、相手はコの字に配置された長机によって彼等を取り囲む形で座っており、四方には繊細な飾りを身に着けた衛兵が立っている。
「・・・フンッ」
その中で、中央に座っている女性は朝田達を一瞥すると、あからさまに不機嫌な様子で鼻を鳴らす。
「それでは始めます」
進行役が、会談の開始を告げる。
「貴方達は日本国からやって来た使者とお聞きしましたが、間違いありませんね?」
エルトが切り出す。
「間違いありません。我が国はフィルアデス大陸東方、ガハラ神国よりも更に東方に位置する島国です。我が国に関する詳細を纏めた資料をお持ちしましたので、御覧下さい。」
脇に控える官僚に資料の束を渡し、配布される。
「貴様等の出自などどうでも良い」
資料を手で払いのけ、中央の女性が言う。
「文明圏外の蛮族が、ムーの後ろ盾を得たからと言って調子に乗るな。」
「は?」
(ムーと言うと・・・確か、最近国交を結んだ国だな。そうか、あの国も列強だったな。)
朝田は、突然出て来た国名に戸惑いつつも、彼女が皇国側の中心人物である事を理解した。
「失礼ですが、貴方は?」
「外務局監査官のレミールだ。」
「監査官?」
「外務局の不正などを監査する役職です。監査室は、全員が皇族で構成されています。」
エルトが補足する。
「「!!」」
いきなり皇族が同席するとは露とも思っていなかった一同は目を見開く。
「無礼な!」
「ハッ・・・はい、失礼しました。」
脇に控える外交官に怒鳴られ、朝田が代表して謝罪する。
「フンッ・・・礼儀を知らない蛮族らしく、フェン王国でも随分と無礼を働いてくれた様だな?」
「フェン王国と言うと、貴国の監察軍が攻撃を仕掛けて来た件でしょうか?」
動揺しつつも、本題に入った事で気を落ち着ける。
「攻撃?違うな、あれは懲罰だ。身の程知らずにも、我が皇国の慈悲を拒否したフェンを躾ける為にやったに過ぎない。にも関わらず、更なる愚か者があの場にいた・・・貴様等の事だ!」
言葉を重ねる内に、レミールの表情は憤怒に染まる。
「我が国は、降り掛かる火の粉を払ったに過ぎません。攻撃されたら身を守る為に反撃する。当然の事です。」
「我が皇国が火の粉だと言うのか!?」
「他国の領域へ攻撃の意思を持って土足で上がり込み、多大な被害を出した。どちらに非があるのかは明らかです。」
レミールに限らず、滅多な事では表情を崩さないエルトも眉間に皺が寄る。
「やはり蛮族だな・・・我が皇国は列強である。世界の五指に入る超大国であり、ゆくゆくは全世界を支配下に治め、新秩序を築くパーパルディア皇国だ。」
「世界征服とは大きく出ましたね。その様な実現も出来ず、意味も無い事を本気でやろうとは呆れ果てますが、それ以上に平和裏に成立している世界を支配して、混沌に落とす真似を良しとしている事に憤りを覚えます。」
朝田の言葉に、室内に怒気が蔓延する。
「口の利き方に気を付けろ、吹けば飛ぶ程度の力しか持たん弱小な蛮国の代表者よ。」
対するレミールは、鋭い視線を向けつつも逆に冷めていた。
「我が皇国が世界の頂点に立ってこそ世界は安寧を得られるのだ。事実、第三文明圏はそうして秩序を保っているのだ。何故なら、我が皇国の圧倒的な力と慈悲があってこそ、外部の脅威から身を守れると共に、繁栄を享受出来るからだ。にも関わらず、その程度の理解力も無い貴様等の様な蛮族がこの世には存在する。その様な蛮族こそが、この世界を混沌に陥れているのだ。だからこそ、我が覇道を邪魔する者は存在してはならず、排除しなければならない。だが、皇国は寛大だ。救いようの無い蛮族であろうとも、我が皇国の慈悲を受ける権利を得る機会はあるべきだと陛下はお考えだ。」
陛下と言ったレミールは、尊敬と感動が混在した表情をする。
「その為に皇国監察軍は存在する。自らの罪深さを自覚させ、我が皇国の傘下に入るに足る文明的な思考を持たせる教育の機会を与える為にな。」
長々と語ったレミールに対し、朝田が口を開く。
「これ程までに傲慢な国を相手にしたのは初めてですよ。私に言わせれば、貴国こそが野蛮で非文明的ですね。」
「貴様!」
怒りのあまり、立ち上がる者が現れる。
「それですよ。他者の主張を認めず、頭から抑え込むその態度こそが傲慢の証です。そしてその様な人種は、自身の首を自ら絞めている自覚が無い。」
「ムーを後ろ盾にしているからと言って調子に乗り過ぎない事だ。」
今にも飛び掛からんとする面々を手で制し、レミールは静かに言う。
「先程もムーと仰っていましたが、何故そう思われるのですか?」
「何を今更・・・貴様らの乗って来た軍艦、全金属製で帆が無く回転砲塔を搭載している。我が国ですら造れない物を、文明圏外の貴様等に造れる筈が無い。ムーの支援を受けている以外に考えられないだろう。」
「曳航して来た戦列艦を御覧になっていないので?マストのみを正確に撃ち抜ける精度がムーの軍艦にあるのですか?」
朝田は軍事の素人であるが、力の差を見せ付ける為にこの事は説明を受けていた。
「ハッ、これは恐れ入った!あの様な軍艦を自力で造ったと言い張るつもりか?」
周囲から笑いが漏れる。
「先程の資料にも記載していますが、我が国の戦力は全て自力で整備しています。」
「そんな大法螺を信じるとでも思っているのか?愚弄するのもいい加減にしろ!」
「信じるかどうかはそちらの自由ですが、事実は変わりません。」
「なるほど、大したものですね。そうして堂々と法螺を吹き通す事で、周辺国から主導権を握って来たのですか。」
場のボルテージが上がり過ぎている事を懸念し、エルトが口を挟む。
「それはどういう意味でしょうか?」
朝田が問う。
「実は最近、我が国と国交を結んでいる国々が、次々と反抗的な態度を取る様になったとの報告が上がっているのですよ。文明圏外国どころか、中には文明国まで。」
監察軍の件を調べる際、ついでに外三全ての情報を洗い直して日本に関する話が出ていないかを調べていた。
そこで明るみになったのが、これまで大人しく従っていた周辺国が突然反抗的になり、資源や奴隷の供出を中止した事であった。
そうなれば、対価として提供していた旧式技術の供給が止まり、本来であれば死活問題となる筈である。
しかし、各国の外交官は揃って「日本と国交を結んでいる」と啖呵を切っていた事が判明した。
尚、外三窓口の記録を調べた所、日本から外交官が一度だけ訪れていた事も判明し、対応して門前払いした担当者が左遷されている。
「・・・貴国は中々にやり手の様ですね。ですが、このままでは済まないと思った方が良いですよ。」
「フ・・・フハハハハハ!なるほどそうだったのか、道理で強気な訳だ!」
知らない所で自国の名を勝手に利用していた国が多数存在している事を知り、後で内閣に報告しようと心に決める。
「数多の国々を纏め上げ、我が皇国に挑戦しようと言うのだな?良いだろう!ならば、その思い上がりを完膚無きまでに粉砕してやる!」
(何て事だ・・・これでは、監察軍の件を非難するどころの話ではない!)
皇国側は、明らかに日本を敵認定しており、これでは何をどうしても要求を吞ませる事は出来ないと判断した。
「濡れ衣だと申し上げたい所ですが、どうやら信じては頂けなさそうですね。」
「当たり前だ、皇国にこれだけの不利益を被らせておいて、今更そんな言い訳が通用する訳がない!帰ったら貴様等の王に伝えておけ、不当な野望は我が皇国によって挫かれる運命だとな。」
「貴国はあまりにも我が国を理解していませんね。老婆心ながら、他者を理解しない者はいずれ破滅する事を忠告しておきましょう。」
そう言いつつ立ち上がる。
「全く、此処まで理解力が無い蛮族も珍しい。本来であれば、貴様等は見せしめにしている所だぞ。何もしないのは、貴様等に皇国の意向を伝える役目があるからだ。」
「そうですか。まぁ、貴国の意向はしっかりとお伝えします。実りのある会談を期待していたのですが、何も得られず残念です。」
それだけ言うと、朝田達は退室した。
相手がいなくなった事で一旦静まり返った室内は、すぐに騒がしくなった。
無礼極まりない日本外交官に対する怒りを吐き出すと、今度は身の程知らずにも皇国へ挑もうとする姿勢を嘲笑した。
力の差を弁えず、皇国の慈悲も理解出来ず、破滅へと向かう哀れな蛮族。
それも、かつて無い程に皇国を愚弄した愚か者。
今まで通りに蛮国が一つ滅び、属領が一つ増える。
そうなる筈であった。
同じ頃、
今回の交渉から外されたカイオスは、港で日本の軍艦の観察を続けていた。
軍事に明るい部下を呼び、目に付く範囲で分析を続けていた。
彼自身もムーの軍艦を目にした事があるが、見れば見る程不可解な造りに首を傾げる。
風に頼らない推進機構を有している事は理解出来る。
回転砲塔を搭載している事も理解出来る。
そして、サイズはラ・カサミ級に匹敵する程に巨大である。
にも関わらず、砲は前部に一門のみ。
皇国海軍で使用している物よりも大口径だが、ムーの同級艦と比較すると明らかに小さい。
部下は、ムーが自国の脅威にならない様に敢えて一門だけしか搭載しなかったのだろうと言ったが、カイオスは嫌な予感を禁じ得なかった。
詳しい事は何も理解出来ないが、何となく意味があってこの様な不可解な造りになっている気がしてならなかったのである。
その後、彼はあらゆる方面から独自に日本に関する情報を集め始め、その実態を正確に把握する事となる。
この回を描くのにかなりてこずりました。
パ皇の感性は理解が難しい。