中央歴1640年1月18日
パーパルディア皇国、フェン王国への侵攻を開始。
同日、ニシノミヤコ陥落。
同国へ密航していた日本人観光客13名が拘束される。
1月19日
皇女レミール主導の日本人観光客虐殺事件が発生。
拘束した観光客を人質に日本へ服従を迫るも、外交官の拒否と抗議に激怒し、その場で殺害を命令。
1月28日
日本政府、パーパルディア皇国へ降伏要求。
拒否を受け、宣戦布告。
同日、フェン王国の戦いが勃発。
パーパルディア皇国軍は全滅し、日本人生存者を救出。
1月29日
パーパルディア皇国、日本へ殲滅戦を宣言。
2月5日
アルタラス島の戦いが発生。
国防軍の攻撃により、在アルタラス皇国軍は全滅。
2月6日
現地民の蜂起により、アルタラス統治機構が降伏。
アルタラス王国は再独立に成功。
3月29日
アルタラス王国ルバイ空港の改修完了に伴い、進出していた空軍機の準備が完了する。
3月30日
国防空軍がエストシラント空爆を敢行し、皇都防衛基地が全滅。
同日、エストシランと沖へ進出した国防海軍第四艦隊により、エストシラント沖大海戦が勃発。
皇国主力艦隊、及び海軍本部が全滅。
4月10日
国防空軍が工業都市デュロへ空爆を敢行。
デュロ防衛基地、及びデュロ工業地帯が全滅。
4月11日
舞鶴攻撃の為に進行していたデュロ防衛艦隊を沿岸防衛隊が迎撃し、新日本海海戦が勃発。
デュロ防衛艦隊は全滅。
4月15日
属領統治軍引き上げを受け、ルミエス女王が行っていたラジオを通しての扇動に合わせ全属領が蜂起し、パーパルディア皇国は全属領を喪失。
リーム王国の手引きもあり、73ヶ国連合軍を結成しパーパルディア皇国へ宣戦布告。
4月25日
73ヶ国連合軍及びリーム王国軍、アルーニへ侵攻。
・・・ ・・・ ・・・
日本 首相官邸
開戦から早3ヶ月以上が経過したこの日、パーパルディア戦後に関する方針の最終確認の為、総理を初めとする政府の主立った面々が揃っていた。
「肝を冷やしたな・・・」
最初に上がった話題は、日本本土へ接近していたパーパルディア艦隊についてである。
「転移以前から本土が手薄になった場合を想定し、十分な防衛が可能な様に戦力は整備済みです。むしろ今回の相手は、残存戦力でさえ過剰と言える程に貧弱でした。」
国防大臣が言う。
転移前、東は米国、西は中国、北はロシアに囲まれていた日本は、それ等大国との交戦状態を想定して軍備を整えており、その三国よりも圧倒的に劣るパーパルディア皇国が相手では、現有戦力はむしろ勿体無いと評価されている。
「だがまぁ、万が一にでも接近を許せば被害が出ていた。相手が雑魚だとしても、油断してはならない良い教訓になっただろう。今後もこの調子で頼むぞ。」
「はい」
一段落し、次へ移る。
「離反作戦は上手く行っております。アルタラス王国のルミエス女王の協力により、属領統治軍の引き上げに合わせて扇動を行った所、全属領が蜂起しました。」
「馬鹿な話だ・・・」
自分達がやられた様に、極めて理不尽な脅迫外交を受け、拒否すれば侵攻され、受け入れても虐げられる。
どう転んでも地獄行きしか選択肢の無いパーパルディア皇国の統治方。
アルタラス王国解放後にその実情を把握し、付け入る隙があまりにも大き過ぎる実態を知った彼等は、同じ統治者として軽蔑の目を向けていた。
「現地諜報員の報告では、73ヶ国連合軍とリーム王国軍はパーパルディア皇国の北方都市アルーニヘ攻撃を行い、陥落させたとの事です。」
情報大臣が報告する。
情報力の強化を精力的に推し進めて来た日本は、傘下に諜報組織と防諜組織を擁する情報省を立ち上げている。
そして、進軍中の73ヶ国連合軍にも諜報員を潜ませ、動向を監視しているのである。
「この情報がパーパルディア首脳部に伝われば、今度こそ降伏の可能性があります。」
「もし降伏しなかったら?」
「内部にクーデター勢力が潜んでおりますので、その時には中枢を掌握して降伏を主導する予定となっております。」
殲滅戦宣言を受けた日、出国直前の外交官へ第三外務局局長カイオスが接触し、連絡手段を確保していたのである。
その後に彼の方から連絡が入り、万が一の場合にはクーデターを敢行して日本へ降伏するとしている。
「中央政府を一気に掌握出来るなら、終戦までの道のりが一気に短縮出来るな。」
「それは良いが、我が国の意思として何処までやるかが問題だ。既に継戦能力は奪っているが、まさか全土を焦土化する訳にもいかん。かと言って、このまま矛を収めるのも良くない。」
落とし所を考える一同。
戦争が純軍事的なものから、政治色を強める転換期に入っていた。
「クーデターの有無に関わらず終戦へ向かうには、皇帝ルディアスと皇女レミールの身柄確保が絶対条件となります。」
外務大臣が言う。
「レミールは当然として、ルディアスもか?」
「はい。パーパルディア皇国からの殲滅戦宣言ですが、あれは皇帝ルディアスの名の元に宣言されています。殲滅戦の話の出所が何処かは不明ですが、あの様な宣言を国家の意思として表明した以上、ルディアス本人が我が国の存在そのものを亡き者にする決断をしたと言う事に他なりません。」
元々、日本政府は今回の戦争を局地戦で収めるつもりでいた。
フェン王国の戦いで実力を示し、レミールの他、フェン王国で邦人に関わった軍関係者の身柄引き渡しを要求し、それ以外にいくらかの賠償で手打ちにするつもりだったのである。
それが、殲滅戦の宣言によって流れ、全面戦争へと陥った。
「ルディアスは皇帝です。つまり、国家全体の責任者です。そうである以上、本戦争の責任を取って頂きます。また、今後を考えましてもルディアスをそのままにしておいては、我が国にとって都合が悪いでしょう。」
「頭を挿げ替えるのか?」
「その通りです。」
「後継者は誰を据えるか考えているのか?」
「カイオス氏から皇族の情報は得ておりますので、その中から都合が良い者を選びます。現在は選定中ですが、ルディアスの弟、又は叔父が候補に上がっております。」
ルディアスには既に実の息子がいる。
まだ幼く側室の子であるが、正当性で言えば現状で最善の選択肢である。
しかし、日本が最も重視しているのは正当性ではなく、どれだけ従順かである。
無論、戦後に皇国を崩壊させない為にも皇族の血統は絶対必要だが、皇帝からは権力を取り上げ、立憲君主国家へと生まれ変わらせるつもりでいる。
そこで、正当な血筋からわざと外させる事で皇帝の権威を落とし、権力を行使出来る支持と理由を奪う。
「終戦直後は暫定的にルディアスを続投させますが、後継者の準備が完了次第すぐに入れ替えます。」
「入れ替えた後はどうする?幽閉でもするのか?」
「レミールと共に、速やかに処刑します。」
容赦の無い言葉に、一部が目を見開く。
「もし生かしておけば、守旧派が反乱を起こして救出に動く可能性があります。我が国に対抗する神輿として最適ですが、いなくなればいくら反乱を起こしても正当性はありません。また、新体制を受け入れさせる為にも、ある種の儀式が必要です。刑の執行は現地で行う事になると思いますが、現地のやり方からすると、恐らく公開処刑になるかと。レミールにつきましては、流石に我が国へ連行した上で行うべきです。」
現代の価値観からすると嫌悪感が出るが、何とか飲み込む。
「・・・そうだな。確かに、情報メディアのあまり発達していない現地の水準を考えると、それ以外に方法が無いだろうな。」
総理が結論を出す。
「話の腰を折ってしまい申し訳ありませんが、もう一つお耳に入れたい情報があります。」
更に話が進もうとしていた所へ、情報大臣が割り込む。
「数時間前に入った情報ですが、73ヶ国連合軍がパーパルディア軍と交戦した時、我が国が輸出したコンパウントボウとアラミド繊維の盾が使用されているのを確認したそうです。」
「何だと!?」
全員がいきり立つ。
日本政府は、他国への武器輸出を認めていない。
覇権主義が乱立し、侵略も当然の様に行われているこの世界に於いて、特に優れた性能を誇る日本製の武器を持てば、碌な事にならないのは目に見えている。
日本は、自身が侵略を行わないのは勿論、他国の侵略の片棒を担ぐつもりも毛頭無い。
「調査した所、リーム王国が我が国からの輸入品を軍事転用し、73ヶ国連合軍へ貸与している事が判明しました。」
「確かに由々しき事態だが、そうは言ってもたかが弓と盾だろう?それ程の脅威になるとは思えんがな・・・」
この様な認識から、日本に対しては勿論、弓と盾が現役の中世文明が相手でも大した差は無いと認識され、技術流出防止法をパスしていたのである。
「それが、アラミド繊維の盾はマスケット弾を完全に防ぎ、コンパウントボウは地竜の鱗を貫通して倒したとの事です。」
場の空気が冷え込む。
「・・・どうやら、過小評価が過ぎた様だな。」
「すぐに技術流出防止法の適用範囲を洗い直します。」
法務大臣が言う。
「外務大臣、終戦したらすぐにリームへ特使を派遣し、軍事転用された輸出品の破棄を通告して欲しい。無論、此方からも立会人を派遣してな。」
「はい」
総理は、圧のある笑みを浮かべる。
「では続きまして、パーパルディア戦後の展望についてです。」
進行役が進めると、外務大臣が切り出す。
「まず、皆様も容易に想像が付くと思われますが、列強であるパーパルディアを打倒したとなれば、間違い無く全世界から大きな注目を集めます。戦後、我が国は新たな列強国としての地位を得る事になる可能性も高いでしょう。」
これには誰も異を唱えない。
「そこで問題となるのが、今後の第三文明圏全体の展望です。」
これまでは、良くも悪くもパーパルディア皇国を頂点とし、第三文明圏は秩序を保って来た。
しかし、皇国が日本に敗北(現時点では予定だが)した事により、既にその秩序は崩壊している。
現状、崩壊した秩序を立て直せる最有力候補は日本であり、もしこの状況を放置した場合、第三文明圏全体が熾烈な覇権争いを始めて戦乱状態に陥ると予想されている。
そうなってしまえば、現在までに日本と国交を結んだ各国もその戦乱に巻き込まれ、安定した貿易が見込めなくなるばかりか、在外邦人の安全に大きな影を落とす事となる。
「今後、名を上げた我が国へ接近する国が急増すると思われますが、もし本当に第三文明圏が戦乱状態となった場合、第一文明圏以西の勢力は第三文明圏を敬遠し、それよりも東に位置する我が国との関係構築にも消極的となるでしょう。また、パーパルディア皇国よりも明確に力を持つ我が国が動かなければ、世界は我が国の統治能力に疑問を持ち、国際的信用を落としかねません。」
力が全てとも言えるこの世界の洗礼を受けた面々は、外務大臣のこの見解を否定出来なかった。
「ではどうする?」
「それでは、まずは私から。」
総理の問いに、国防大臣が応じる。
「此方を御覧下さい」
モニターに、世界地図(現地文明が把握している範囲)が表示される。
「今後、我が国は第三文明圏内外の盟主的立ち位置になると思われますが、最初に懸念すべきは国防です。最善の方法は、敵を本土へ近付けずに撃退する事です。」
何処かの勢力が日本へ侵攻を企てる場合、フィルアデス大陸とロデニウス大陸の間を通るルートと、ロデニウス大陸南方から回り込むルートが存在する。
東にも何らかの勢力が存在するが、遠過ぎる為に除外している。
「そこで問題になるのが、侵攻ルート上で効果的な迎撃が出来るかどうかです。そこで各国へ、国防軍も利用可能な在外基地の設置を提案します。」
全員が渋い顔をする。
地球世界でそれをやっていた米国は、あまりの負担の大きさに息切れを起こしていたのである。
同じ事をやったらどうなるのか、火を見るより明らかであった。
「ただし、米軍の様な常時駐留は維持要員を除いてやらず、万が一の事態が予想される時に部隊を派遣し、そこを利用する方式を考えています。」
「しかしそれでは、平時は手持ち無沙汰になって勿体無いぞ。世論からも突き上げを喰らうだろうし、現地政府も受け入れるとは思えん。」
総理の反論に頷く一同。
「無論です。そこで、現地政府との共同出資によって基地建設を行い、維持費の捻出も共同で行います。その代わり、現地軍にもその基地の使用権を持たせ、そこへ駐留して貰う事で平時から基地を利用する体裁を整え、軍事施設に必要な敷地を節約します。また、国防軍との共同訓練を行うにも都合が良いでしょう。尤も、出資額の比率は我が国の方が高くなるのは避けられませんが。」
「うーむ・・・確かに一理あるが、現地軍に現代の設備を使いこなせるのか?それに、機密性の高い設備はどうする?」
「共同訓練や実戦の前に、日常生活から我が国の水準に慣れて貰う意図もあります。機密性の高い施設については厳重な警備システムを設置しますが、流石に警備要員を配置する必要があるでしょう。とは言え、米軍の様に常時大部隊を置く訳ではないので、負担はそこまでではないかと。基地を設置する国については、クワ・トイネ公国、クイラ王国、アルタラス王国、シオス王国、トーパ王国、アワン王国を考えています。」
国防大臣の説明に、一同は納得する。
「では次に、私から」
今度は、経済産業大臣が口を開く。
「今後、第三文明圏での経済活動に於いて最も懸念されるのは、流通網の状況です。」
地上では鉄道や自動車、海上では10万tクラスの大型船舶が往来し、更には飛行機までもが飛び交い、尚且つコンテナを利用した極めて大規模で効率的な現代流通網と異なり、この世界の大半の物流は馬車と帆船に頼った極めて効率の悪いものであり、日本経済を回すには大陸一つを丸ごと牛耳っても足りない。
「そこで、戦後に大規模なインフラ輸出を行い、第三文明圏全体を我が国を中心とする一大経済圏として再構築します。その際、インフラ投資は現地政府との共同出資とします。」
フィルアデス大陸が、丸ごと日本製インフラで整備されれば、日本経済にとって大きな飛躍となるのは間違い無い。
「ただ、インフラを整えたとしても元属領は酷く疲弊しており、現地民の購買力は極めて低い状態が長期間続くと思われます。また、余裕が出来たとしても、我が国と貿易するには日本円が必要ですが、各国の外貨獲得手段は資源しかありません。」
その資源も、現地文明にとっては利用価値の無い物が多く、採掘技術的にも大半が日本主導の開発になる事は確実であり、更に外貨獲得手段が減少する。
食料を輸出する手もあるが、既にクワ・トイネ公国のお陰で間に合っており、気候の問題で生産出来ない品目でしか食い込めない。
これでは、日本との貿易は低調とならざるを得ないが、それでも日本製品を求めようとする動きが止まらないのは目に見えており、そうなれば各国は莫大な貿易赤字を計上する事となる。
もしそうなれば、経済が回らなくなるのは勿論、各国は財政破綻して治安が悪化し、戦乱の時代へ逆戻りしかねない。
「もしその様な事態に陥ってしまった場合、確実にアンダーグラウンドの拡大が発生します。」
つまり、非合法組織の横行である。
「この世界の価値観を考慮しますと、密輸は当然として、拉致や人身売買も大規模に行われるでしょう。邦人が巻き込まれない保証はありません。」
全員が嫌な顔をする。
かつて、北朝鮮によってそれを経験しているのである。
それどころか、そのまま極東危機にまで繋がり、世界滅亡の瀬戸際まで行ってしまった。
「そこで、終戦直後にフィルアデス大陸へ大規模な経済援助を実行します。内容は、日本版マーシャル・プランです。」
第二次世界大戦の終戦に伴い、世界は復興へと進み始めた。
その際、世界が頼りにしたのが米国である。
しかし、大戦によって疲弊した各国は深刻なドル不足に悩まされており、米国を頼ろうにも頼れない状態に陥っていた。
そこで、米政府が経済援助の名目で莫大なドルを供給し、それを元手に復興を進めた。
これが、マーシャル・プランである。
「この経済援助を通して、第三文明圏の基軸通貨を日本円にします。ですが、この世界はムーと神聖ミリシアル帝国を除いて紙幣が浸透していません。旧来の金銀銅貨が使用されておりますので、そのまま紙幣を押し付けると現地経済が大混乱に陥ります。そこでまずは、各国で流通している貨幣を買い取る形で浸透を進め、紙幣の価値を担保します。」
地球世界では、紙幣の普及が本格化した当時、金本位制を採用していた。
国家の金の保有量に応じて発行する紙幣は、言わば金との交換券である。
こうして、金を担保にただの紙切れにカネとしての価値と機能を持たせ、世界に定着させる事に成功した。
同じ様に、既存の貨幣を買い取る事で第三文明圏に於ける円の価値を担保しようと言う訳である。
「だが、そう簡単に行くか?元属領はともかく、今回の戦争に無関係な周辺国はどうなる?」
総理が問う。
「確かに、現状で安定しているのですぐに転換とは行きませんが、我が国がフィルアデス大陸での活動を本格化すれば動かざるを得ません。尤も、相応に時間を要するとは思いますが、円が経済の中心となって行く中で我が国と関わりを持つ以上、紙幣の導入は必須事項になります。」
強制ではありませんが、とも付け加える。
「実力的にも、我が国の存在は十分な後ろ盾になり得る事は証明されておりますが、それでも紙幣の価値に疑問を持つ様でしたら、我が国を直接視察して頂くのが良いでしょう。」
その言葉に、一同は悪い笑みを浮かべる。
「そうだな、それが良いだろう。」
総理がそう締め括ると、経産大臣は更に言葉を重ねる。
「それともう一つ。トーパ王国北方の世界の扉付近に、運河建設を提案します。」
「運河!?」
一同は目を剝く。
「世界の扉周辺は幅が僅か100mしかありませんので、それ程大きな負担ではないと思われます。建設出来れば、海運の効率が上がります。」
グラメウス大陸とフィルアデス大陸を繋ぐトーパ王国は、そのせいで日本からフィルアデス大陸北西部へ向かう場合、船で南から回り込むか、そうでなければ陸路で大陸を横断しなければならない。
「これは、輸送距離を飛躍的に伸ばし、効率を著しく下げます。この状況を是正する為にも、運河建設を推奨したいと思います。また、建設はトーパ王国との共同出資とします。」
「しかし、そこまでして建設するべきなのでしょうか?我が国は良いとして、他国が運河の有用性を理解してくれるかどうか・・・利用者が我が国の船舶のみにでもなれば、コストパフォーマンスの点で理解が得られるか判りません。」
財務大臣が懸念を示す。
「その点は理解しています。ですが、この運河の真意は別にあります。」
新たな航路の啓開と共に、対外的な理由としてグラメウス大陸の隔離がある。
魔王ノスグーラの侵攻により、魔物の脅威が現実の物となりかけた事実は、現地民からすれば気が気ではない大事件である。
既に最大の脅威は去ったとは言え、グラメウス大陸には相変わらず魔物が跋扈しており、統率された経験を得た魔物が今後どの様な行動に出るか未知数な所がある。
そこで、フィルアデス大陸とグラメウス大陸を運河建設によって物理的に切り離し、魔物の脅威を大幅に低減させるとしたのである。
しかしこの理由は、航路啓開と共に表向きの理由に過ぎない。
「運河建設の真の目的は、グラメウス大陸への介入阻止にあります。」
魔物の楽園であるグラメウス大陸は、それ故に人類にとっては手付かずの大地であり、そこには豊富な資源が埋蔵されている可能性が取り沙汰されている。
その上、上手く行けばその広大な土地を利用して食糧生産拠点とする事も期待されている。
もしフィルアデス大陸と陸続きとなっている場合、各国が利権の分け前を得ようとあの手この手で道を繋げようとするのは目に見えている。
また、良からぬ事を企む人種が容易に侵入出来てしまう。
そこで、運河の存在そのものを囮とし、更にフィルアデス大陸の安全確保を餌にして真意から目を逸らすと同時に、物理的に両大陸を切り離して各国のアクセスを困難にする。
更に、将来的にはトーパ王国基地建設に際し、運河の管理と警戒の為の設備を追加する。
「以上が概要になります。ただし、グラメウス大陸の内情は未だに不明なので、詳細な調査を行わなければ開発の具体案は策定出来ません。」
「取り敢えず、グラメウス大陸に関してはまだまだ先の話になりそうだな。」
「しかし、運河の建設は先んじて行うべきかと思います。フィルアデス大陸北西部のみならず、グラメウス大陸西部へのショートカットにもなります。」
「そうだな。異論は無いか?」
反対の声は上がらない。
「ところで、国防大臣も経産大臣も共同出資を何度も強調しているが、それはどうしてだ?共同とは言え、事業をするからカネを出せなどと言えば、少なからず反感を買うだろう?」
「それにつきましては私から」
外務大臣が口を開く。
「これは、外務省からの提案でこの様な方式にして頂きましたが、各国の腐敗を防ぐ目的で行います。」
「腐敗?」
「その通りです。」
地球世界の歴史では、大国の潤沢な支援によって裕福な小国が現れる事があった。
最近では、米国に支援された中華民国や南ベトナムがある。
しかし、その支援は両国政府を蝕み、国家運営は一族経営へと成り下がり、受け取った支援の多くは首脳一族の懐へ入った。
その結果、国民の支持を失った両国は脆くも崩れ去り、米国の支援は丸損となったのである。
「復興支援は行うべきですが、発展に当たって我が国のおんぶに抱っことなっては、米国の二の舞は避けられないでしょう。」
あまりにも大き過ぎる前例がある以上、外務大臣の進言を軽視する事は誰にも出来なかった。
「だが、元属領は長年の搾取によって酷く疲弊している。復興したとしても、出資する余裕は無いと思うが・・・」
総理が懸念を示す。
「これは最後に進言するつもりでしたが、元属領を統合して二つの国家へと纏めます。その際、我が国から人員を派遣して国家運営に関する基幹要員の育成と指導を行います。」
事前に根回しを受けている者も多く、驚いている者は半数程であった。
「いや、折角独立を勝ち取った直後に故郷を失う様な真似をしたら、間違い無く大反発を喰らうぞ?第一、そんな大それた真似をする理由が無い。」
「理由ならあります。パーパルディア皇国に再び力を付けさせない為です。」
日本によって戦力の大半を失った皇国だが、国防軍が攻撃したのは軍事力に関する物のみである。
属領と異なり、産業構造が偏っているとは言え、パーパルディア本国は豊かな国である。
元属領がどうにか国家運営を行おうとしても、人員も国力も何もかも足りない状態で放り出されればどうにもならず、余計に疲弊するのは目に見えている。
日本が支援を行うとしても、アルタラス王国を含む73ヶ国にもなる数を相手に同時に行えば、カネを出すだけの経済支援はともかく、それ以外ではリソースがあまりにも分散され、焼け石に水となりかねない。
そうなれば、結局は疲弊を止める事が出来ず、特にパーパルディア本国に近い国々は南の豊かな地域に押され、人的資源の流出、果ては国そのものが再び吞み込まれかねないと試算されている。
加えて、フィルアデス大陸を纏めて一大経済圏としたい日本にとっては、国毎の縦割りは可能な限り減らしておきたい思惑も存在する。
「我が国の目がある限り、これまでの様な苛烈な搾取や圧政は起こらないと思われますが、我が国にとって好ましい状況ではありません。また、先程も申し上げました通り、その様な状況になった場合の国際的信用の下落も無視出来ません。」
「一つに纏めるのではなく、二つに分ける理由は何だ?」
「極端に強大な勢力を創らない為です。」
日本の目があるとは言え、これまでの力ある者による侵略を良しとする価値観がそう簡単に変わる訳ではない。
一つに纏めた場合、将来的に力を増したその国は増長し、日本を含む周辺国へ威圧的な態度を取るとの予想もされている。
そこで出された案が、分割して統治せよである。
「無理矢理纏めると滅茶苦茶になってしまいますので、連邦制を採用する予定です。また、成立した際には東西ドイツの様な分断の印象を受ける国名にならない様に注意すべきです。」
「尤もだな。だがどうやって分ける?」
「大まかになりますが、東西の二つに分ける予定です。パーパルディア本国が、両国の国境に接する様にします。」
「解った」
総理が同意する。
「では続きまして、フェン王国に関してです。」
全員が顔を顰める。
日パ戦争が勃発した遠因であり、自国の問題に日本を巻き込もうとした相手である。
日本を利用して飛躍しようとする国はいくらでもいるが、こうも直接的に犠牲を強要するやり方をした国は他に無い。
更に、その意図を隠そうともせず、強引に国交締結まで持って行こうとした。
その後は、対パーパルディア戦で忙しかった事もあり、没交渉となっている。
フェン王国の戦いの際も、同国に対する通達その他をせずに国防軍を上陸させており、戦闘後も社交辞令に終始し、交渉の類は一切せずに撤収している。
「正直、国交を持つ相手としてはあまりにも信用を欠いております。その点では、リーム王国も同様ですが・・・リーム王国と異なり、フェン王国とはまだ国交を結んでいない状態にあります。現状のまま放置するのが最善かと。」
外務大臣が言う。
「いや、あの国は我が国に近過ぎる。確実に我が国の影響下に置かない事には、安全保障上問題があり過ぎるぞ。」
国防大臣が反論する。
「我が国とフェン王国の間にはガハラ神国があります。それに、アワン王国に基地が設置出来れば、そちらから牽制出来るのでは?」
財務大臣が口を挟む。
「ガハラ神国は、我が国に友好的とは思われますが、その実態は謎が多く、どう動くか不明瞭です。アワン王国については、大陸へ睨みを利かせる事を主目的にしています。勿論、フェンへ目を向ける事も出来ますが、すぐ近くにリーム王国がいます。あの国は、武器の件もそうですが、抜け目の無い国です。個人的には、フェンよりも警戒すべき相手だと考えます。」
思わず頭を抱える。
警戒すべき国が増え、尚且つ両国とも日本本土に近い位置にいる。
「私からも宜しいでしょうか?」
声を上げたのは情報大臣である。
「私としましては、最も危険視するべきはリーム王国であり、フェン王国は監視に留めるだけで良いかと思います。」
フェン王国は、既に情報省によって諜報員を潜入させており、常時監視状態にある。
その上で、軍祭を通して日本の軍事力をよく把握しており、日本に近いからこそ下手を打てばすぐに制裁を科す事が出来る。
更に、フェン王国の戦いを通して、日本が軍事力を行使した際の苛烈さを見せ付けている。
「また、フェン王国首脳部はそうした実情を目にしてまで危ない橋を渡ろうとする事は無いであろうとの結論が、外務省との共通した認識となっております。ですが、リーム王国はそうではありません。」
皇国にも風見鶏と称されたリーム王国は、輸入品の軍事転用を含め、隙あらばあらゆる手を使って勢力を伸ばそうとする。
また、諜報員からアルーニの戦いの様子が入っており、73ヶ国連合軍の援護で投入したワイバーン部隊が誤射をしても悪びれる様子が無く、むしろ恩着せがましい態度を取っていた。
この事から、単に野心が強いだけでなく、他者を好きなだけ踏み台にし、弱れば即蹴落として自身の餌食にする極めて危険度の高い相手と認識された。
「国土や国力でこそパーパルディア皇国に大きく劣りますが、傲慢さやプライドの高さは大して変わらず、かと思えば簡単に手の平を返してパーパルディア皇国へ侵攻しています。諜報員の報告では、73ヶ国連合軍に同行している部隊とは別に、独自に軍を動かして占領地を得ている節があるとの事です。恐らく、領土を得ようとこの隙に動いたのでしょう。」
一同は閉口する。
火事場泥棒とも言える行為に咄嗟に言葉が出ない。
「フェン王国も気の抜けない相手ではありますが、少なくとも野心は持たず、傲慢な性格でもない為、この様な軽率な行動に出る事は無いでしょう。」
「・・・よし、解った。」
情報大臣が締め括ると、総理が口を開く。
「フェン王国については、時機を見てもう一度接触しよう。そこで今後の関係について再検討する。リーム王国については、本当に領土を掠め取るつもりなら、武器の件と併せて放棄を要求する。反論を許さんよう、艦隊を派遣して威嚇しろ。それと、また馬鹿な真似をさせないよう、リームとの貿易量を大幅に減らし、在留邦人も可能な限り引き上げさせるんだ。文句を言って来るなら、その都度艦隊でも戦闘機でも派遣して黙らせる。」
こうして、今後の戦略が決定した。
日本はパーパルディア皇国に代わり、第三文明圏のルールを決め、新たな秩序を構築するべく奔走する。
一番やりたかった所です。
原作でもこれぐらい思い切って国益追及して欲しかった