空から降る夕暮れがコースを包む。
それがキラキラと反射して彼女の栗毛を照らし、美しい黄金の輝きを放っていた。
「んで、どの子がお目当てなんスか?」
観覧席で呆けていたオレの隣の席に件のウマ娘は「よっこらしょ」と腰掛ける。
……思ってたより小柄だな。
オレは一瞬、彼女の警戒心の無さが心配になりそうだったが、さりげにチラリ、とオレの襟を見ていたからオレがトレーナーであることはわかってるんだろう。ここ最近よくきてたのも知ってたみたいだし…(まぁ、それを差し引いてもウマ娘に一般人が勝てるわけもないんだが)。
「いや、正直目移りしてた。流石中央だな」
別に隠すような事でもないし、オレは率直に思った感想を述べた。
「ま、どの子も才能あるっスからね〜。シオンさんにパテックさんに、ナイトさんに…レベルが高い子ばっかっスよ」
指折り数えて、「ハァ…」とため息をつく。
「だけど、キミもその中央のウマ娘のひとりだろ?なにもそんなに卑屈にならなくても…」
現にこうして中央トレセンの生徒として通っている以上、彼女だって立派にエリートだ。
「ハハ…優しいっスねぇ、トレーナーさんは」
オレの言葉がおべっかだと思ったのか、彼女はその場で力無く笑う。
不意に、先ほどまで自分のいたコースに視線を向け、オレも釣られるようにそっちを見る。
「でもまぁそうっスよね。中央に来て、頑張ってトレーニングして…それが報われる瞬間ってのは、きっと…」
そこまで言うと、彼女は口をつぐむ。
ただ、その目は真剣な光を宿して、未だに練習用コースを見つめて離さない。
突然のことで驚いたが、これは良い機会だ。
オレはふと思ったことを質問する。
「なぁ、キミはなんでトレーニング中もずっとマスクをつけてるんだ?」
ここ数日、彼女のことを聞くと同時に、彼女のトレーニング風景も見てきた。
その中でどうしても気になったことはそれだ。
体調が思わしく無いのならそもそもトレーニング自体を周囲の生徒なり教員から止められるだろうし、そうで無いなら誰かトレーナーのアドバイスかもとも思ったが、話を聞く限りそんな様子も無く、彼女はそのまま他の子達といっしょにトレーニングをしていた。
「あぁ〜…ソレっすか〜…」
彼女は誤魔化すように前髪をいじって「たはは…」と苦笑する。
そして、しばらくの沈黙の後…
「…まァ、言っても多分信じないっスよ」
俯きがちにそう言うウマ娘。
何かいけないことを聞いてしまった気がして、オレは「ごめん」と言いそうになり…
「な〜〜んて、ジョーダンっすよ!!オシャレっスよ、オシャレ!!」
彼女は努めて明るくそう言う。
そんな彼女が、どこか痛々しく感じたオレは「あの…」と、そう声をかけようとした瞬間。
「でも、そんなに気になるんだったら…ちょっと試させてもらえないっスか?」
「試す?」
少し、彼女の放つ眼光が鋭くなった気がする。
「そうっス。来月行われる最初の選抜レースで…アタシを勝たせてみてくださいよ」
それが出来たら…教えても良いっス。
オレは、そこまで聞いて、この挑戦を受けるしか無かった。
…まぁ、やっと見つけたリストの子ってもあったから食いついたってのもあるんだけどね。うん。