それからオレは短い間ではあるが、しばらく彼女のトレーニングを見ることになった。
まぁいわゆる仮契約ってヤツだ。
とは言え、基礎練習は教官につけてもらってるだろうし、様子を見て応用もきくようにいくつかプランも用意しておいてある。
「にしても、選抜レースかぁ…」
選抜レースは、トレセン学園で年四度行われるウマ娘達のデビューのチャンスで、当日は期待の新人の発掘のために集まるトレーナー達やそれを見届けんとするファン、そしてその様子を放映するためにテレビ陣のカメラが入るくらいの一大イベントだ。
逆に言えば、ここで何かしら光るものを見せられなければデビュー以前の問題な訳で、中央に来るような子達はそれこそ皆遮二無二頑張るわけだ。
「どもっス〜」
待ち合わせ場所である練習用コースの一角に、軽い挨拶と共にやって来る。
腕時計を見ると、時間は…待ち合わせの十分前。
「それで、選抜レースだとどの距離を走る予定なんだ?」
取り敢えず準備運動してもらいながら、オレは疑問を投げかける。
ひとくちにレースとはいっても距離の長い短いがある。
勝ちに行くんならある程度の得意距離は把握しておかなきゃならない。
「う〜ん…そうっスねぇ〜…」
彼女はオレの言葉に何かを考える素振りを見せる。
「…もしかして、特に決めてなかったのか?」
「アッハハ…はいっス」
いやぁ〜…といった様子で苦笑を浮かべてそう言う。
「マジか…」
まぁ…そんなわけで現状のスタミナやパワー、それと柔軟性なんかを走ってもらいながらどうにかこうにか思案して、トモの筋肉のつき方から割り出せる脚質やらその他小難しい計算やらを数日かけて割り出した結果…無理がなく、かと言って実力が発揮できる程度には短すぎない距離として1600メートルに決めた。
「ほへ〜、案外わかるもんなんスねぇ〜」
受け取ったタオルで汗を拭きながら、件のウマ娘はそんなことを言って来る。
「ああ、キミとしても問題は無いかな?」
「っスね〜」
ドリンクの受け渡しをすると、やはりマスクを外さず器用に隙間からストローを入れてチューチューと飲んでいる。
相変わらず気だるそうな雰囲気を醸し出してはいるが、コレが彼女のデフォルトなんだろう。
「でもま、トレーナーさんがついてくれて助かったっスよ」
「うん?助かった?」
どう言うことだ?
「あぁ…アタシ、しょっちゅう教官のトレーニングサボってんで…目ェつけられそうだったんス。実はこないだもクギ刺されたばっかで…その後トレーナーさんに見てもらうって言ったらそれも言われなくなったんで…」
え、何それ聞いてない。
いやまぁ…確かに先輩方からいい話は聞かなかったけど、そういうことか?
まぁ、ヘンに先入観を持つよりはまだ良いって思ったのか?
「なんで、サボるような真似を?」
「いや別に…強いて言えば物足りなかったんスよね」
スッと渡されるドリンクボトルを受け取ると
「休憩終了…じゃ、続きやって来るっス」
「おう。がんばれ」
オレの返事を聞くか聞かないか、と言ったところで再びトレーニングへと向かって行った。
「あんな真面目っぽい子が…サボり?」
オレの中で謎は増えるばかりだった。
けっこうざっくりめですが…。
気性難フェイズはやり始めるとずっとオレのターン!!してきそう。