「オラオラァァァ!!オレ様の邪魔ァすんじゃねェぞォ!!」
ここからも聞こえるくらい大きな声で彼女は吠える。
オレに教わったままに走っていたさっきまでとは打って変わって荒々しくなった走りに、会場はざわめく。
よく見れば口元にマスクは無く、それがリミッターの役割を果たしていたのが推察できる。
「だから外したがらなかったのか?」
まだ上手く能力の制御が出来ていないから?
いや…それだけじゃないだろう。
あの口調…あの走り…確かに荒っぽいが、それだけじゃない。
本能が動かし方をわかっているかのような、脳がそれに追従しているだけのような…危なっかしい走りだ。
そして…なによりも…。
「なんて強さだ…」
グングンとバ身を広げていく彼女に、群衆は度肝を抜かれている。
「バカな…1600メートルだぞ!?」
5…6…徐々に徐々にバ身を広げる。
彼女を後ろから追いかけるウマ娘達は息も絶え絶えだと言うのに…彼女はなおも加速する。
あれでは脚に余計に負荷がかかってしまう!!
体がある程度出来上がって多少無茶がきくクラシック級以降ならともかく、今のあの子はデビュー前だぞ!!
「げっ…減速…減速しろ!!そんな無茶したら脚が潰れるぞ!!」
オレのその言葉が届いたのか…彼女はチラリとコチラを見ると、フッと挑発的に笑う。
そして、あろうことか…さらに加速した。
結局、彼女はそのまま首位を守り切り圧倒的一着。
テレビ局のアナウンサーやら一般客席は未来のスターの誕生に湧き立ってはいたが…。
その一方でトレーナー陣は厳しい目を向けていた。
「アレは怖いな…」
「あぁ、あんなムチャな走りをされたんじゃトレーナーがつく意味がねぇだろ」
「素質はいいんだろうが…人の話聞くタイプじゃねぇよなぁ…ありゃあ…」
オレはそんな他トレーナーを尻目に彼女のところに行くことにした。
脚が心配だったし、なぜあんな無茶をしたのか聞かないわけにはいかなかったから。
なにより心配だった。
そうして舞台裏までやって来たわけだがそこには…。
「オラァァ!!放せやァァァ!!」
「お、落ち着いて。今マスクを…」
「いらねぇンだよォ!!」
ジタバタと羽交締めにされた彼女の姿が。
「あ、ちょっと!!そこの人!!マスクつけるの手伝ってください!!」
オレの存在に気付いたウマ娘のひとりがそんなことを言う。
「アタシらが抑えてるんで!!今のうちに!!」
そう言って投げ渡されたのは彼女がいつも使っているのと同じマスク。
「…よし。わかった!!」
オレは彼女に近づき、目が合う。
「ンだテメェ!!ジロジロ見やがって!!蹴ッ飛ばすぞ!!」
「お…落ち着いて!!大丈夫だから!!別に痛いことしないから!!ね?」
脚を抑え、目で早く!!と合図を送られる。
「テメ、近寄ん…フガッ!?」
一瞬の隙をついて、どうにかこうにかマスクを取り付けることに成功。
目つきもいつものタレ目がちなそれに戻り、落ち着きも取り戻した様子だ。
「みんな…アタシ、またやっちゃったんスか…?」
周囲の疲れ切ったウマ娘達の様子に、何かを察したのだろう彼女は問いかける。
「……………」
「……………」
長い、沈黙が続く。
それは彼女を気遣ってのことか、或いは疲弊してそれどころではなかったのか…。
「あの…」
オレが声をかけようとした矢先のこと…。
「ちょっと待てやぁ〜〜!!」
振り向くと、そこには…険しい表情を浮かべ、彼女よりも更に小柄なウマ娘がいた。
新キャラ登場。ですね。