誰?とオレが困惑していたところ、当の本人が気まずそうにしている様子から恐らく身内なのだろう。
「知り合いなのか?」
彼女は確認の意味を込めたオレの質問にコクリと頷く。
「アタシのアネキっス…」
聞くところによればトレセンにあるウマ娘の一派、『
「オメェなんじゃい!!あの走りはァ!!」
廊下に怒号が響く。
が、怒れるウマ娘を止めることなどオレに出来るはずもなく…。
「ま、まぁ確かにかなり無茶な走りだったし…」
「不甲斐ねェにも程があらァ!!」
へ?あの走りが不甲斐ない?
「…アンさんがひと月ほど世話してくれたっちゅぅトレーナーさんですかい?」
彼女の姉はこちらに向き直ると、ズイッと歩み寄って来る。
体こそ小さいが圧がスゴい。
「え?あぁ…まぁ…ホント、こんな短い間で出来たことって言えば基本的なことくらいだったけど…」
「そうでっか…いや、妹がココ最近楽しそうにしてたモンで、ウチらとしても敢えて何もしなかったんですがね…」
周りにいたウマ娘達はそれを聞いて「あぁ…だから…」となにやら合点が言った様子。
「ウマソウルに振り回されっぱなしなのは変わらず、せめてもの対策としてつけさせたマスクも吹っ飛び…オマケにトレーナーさんの面目も潰して…恥ずかしくないんかお前はァァァ!!」
そう言ってズイッと近づくお姉さんは実の妹の胸ぐらを掴まん勢いだ。
「お、落ち着いて…」
何とか姉妹の間に割って入ることに成功する。
流石にお姉さんも人間であるオレにどうこうしようと思ってはいなかったようで歯噛みしている。
「コレが落ち着いていられるかって話でさァ!!」
お姉さんは興奮した様子でオレをギロリと睨む。
「妹があんな脚を壊す走りして、しかもそのことをトレーナーさんにも伝えてもいなかった。レース中のトレーナーさんの様子を見るに、本気で心配してくれて…それでも構わずゴールまで加速してって…怒るなって方が無理でしょうがよ!!」
そこであぁ…なるほど、となんとなく合点がいった。
なんでお姉さんがここまで怒っているのか。
未だに怒られて萎縮した様子の彼女に、コソッと話しかける。
「不器用なんだね。キミのお姉さん」
「まぁ…そうっスね…」
要は実の妹が心配なんだ。どうしようも無く。
「そういえば脚は…」
「あぁ…あの後、皆んなが無理やりアイシングしてくれたみたいで、今はもう大丈夫っス…」
確かに、見た感じは大丈夫そうだ。
後でしっかり見ないとな。
「そっか…」
さっきお姉さんも言ってたウマソウル…。
科学的にも何なのかよく判明してはいないが、なんとなくそう言ったものが『ある』というのがウマ娘達の共通認識らしい。
まったく別の世界のまったく同じ名前の謎の四足生物の魂がウマ娘のうちに宿っていると。
「キミのウマソウルは…面白いな」
「そっスか?」
俯いた彼女が顔を上げる。
「あぁ。話したかったことっていうのも、そのことなんだろう?」
「…っス」
あの力強い走りに、とんでもないほどの度胸。
モノに出来れば必ず強みになるだろう。
お説教に疲れたのか、「ハー…ハー…」と息を切らすお姉さんに声をかける。
「お姉さん」
「ン?何ですかい?」
「やっぱりオレは、この子をスカウトしたい」
「は?」
「それと…お姉さんも」
「ハァ?」
ひと目見た時からやっぱりと思った。
彼女もまた、リストに載っていたウマ娘のひとりだったから。
……これで理事長からの覚えも良くなる。
そう思って。
オレのバカ…。
振り回されるんやろなぁ…(白目)