TSロリ天使と薄幸ショタ勇者の崖っぷち青春戦記【第一部完結】   作:◆KKE

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001 天上

 

 ここはどこだろう?

 

 目を覚ますと僕は真っ白い空間に浮かんでいた。ぼんやりとしたまま自分の体を確かめようとして、手も足もないことに気付く。

 

 意識だけが存在している?

 どうして?

 

 本当に何もなくて、考える『僕』だけが『ここ』にいる。疑問は尽きない。

 うーん、どうしよう?

 そんなことを考えていると、白いだけの空間に丸い虹色の光が突然現れた(形は全く分からない。眩い光の塊だとしか。球体でもあり、立方体でもあり、同時に極めて精緻な機械でもあるような気がする。僕が認識できる限界を超えているからだろうか)。

 

 まぶしっ!?

 

 

「はじめまして。私は『光』と言います。気分はどうですか?」

 

 

 虹色の光は僕にそう話しかけてきた。

 えっ…!? ええっと、急にそんなことを言われても…。

 

 

「うーん、気分は別に悪くないです。あ、僕は秋月昭と言います。仲のいい友達からはアキアキとかアッキーとか呼ばれています」

「ご丁寧にありがとうございます。アキラさん。私のことは気軽に光と読んで下さい」

 

 

 突然のことに面食らったが、取り敢えず正直に答えることにする。

 光さま。どうして日本語の、しかも固有名詞じゃない名前なのかという疑問あるけれど、それはさておき。

 

 

「はい、光…、ヒカリ様。ええっと、その、あなたはもしかして女神様ですか?」

「おや、どうしてそう思いました?」

 

「どうして、と言われると説明が難しいというか、なんとなくというか。光り方とか、存在感が神様っぽいので。あと、声と話し方が優しい女性みたいだなって。間違っていたらごめんなさい」

「いいえ。謝る必要はありません。寧ろそういうふうに言ってくれてありがとうございます。そうですね。まあ、私は神のような存在です」

 

「神のような…って、曖昧なんですね」

 

 

 自分を神だと断言しない神様みたいな存在…。謎だ。

 

 

「はい。そういう存在なんです。私は一つの世界を創りました。そして、その世界の人々からは女神と呼ばれていて、私もそれを否定していません。現実世界を創造できるものを神と定義するなら、確かに私は神の一柱でしょう」

「創造…。じゃあ、やっぱり女神様ですね。ええと、ヒカリ様はどうしてここに?というか、どうして僕はここでヒカリ様とこうしているのでしょうか?あっ、質問ばかりしてすみません」

 

「謝らなくてもいいですよ。では、そろそろ本題に入りましょうか。落ち着いて聞いてください。アキラさん、あなたは死んでしまいました」

「えっ…?」

 

 

 定義上神の女神様から告げられた現実はにわかには信じられないようなことだった。

 でも、そう言われた瞬間に、僕ははっきりと思い出した。その瞬間を。体験した過去を。ほんの一瞬だけ、死の直前の光景が意識に浮かび上がってきた。目の前の視界いっぱいに広がる、殺人に足る金属の塊――

 

 ――じゃあ、本当に僕は死んでしまったのか。

 

 

「とても不運な事故でした。あなたに非は一切ありません」

「…ここは、天国ですか?」

 

 

 僕は茫然としたまま女神様に尋ねた。天国だったら嬉しいな。

 

 

「いいえ。アキラさんにとっては残念ながら。ここは、私が創った高次元空間です。率直に言いましょう。アキラさん、あなたは選ばれたのです」

「え、選ばれたって、どういう意味ですか?」

 

「アキラさんが暮らしていた地球で、死んで魂の状態にある人達の中で最も私と波長の合った人があなたなのです。あなたの魂は、死後に私に導かれてここまでやってきました」

 

 

 転生。魂。導かれて。

 漫画やゲーム、アニメでしか使われないような言葉が連続する。僕は今、日常にはない言葉で説明を受けている。

 

 死も。死後の世界も。受け入れるしか、ないのか。

 僕は死んだ。それが現実だと。

 

 ――僕は確かに生きていた。

 けれど、死んだ。

 生前の記憶が走馬灯のように浮かんでは消えていく。もう死んでしまった後だけど。冗談ではないけれど。

 馬鹿な事ばかりをしていた、としか言えない小学生時代。SF小説に興味が出てなんとなく文化部に入部し、陰キャの属性が確定した中学生時代。中の上くらいの公立高校に合格したはいいものの、恋人も親しい友達も得ることなく怠惰に過ごした一年間。そして、高校二年になり、受験勉強から逃避するように、現実逃避をするようにそれまで以上に漫画や娯楽小説を乱読するようになって。

 

 ――夏休み直前、何でもない日に轢かれて死んだ。

 よくあること言えばよくあること。

 どうしようもなく、僕は生まれて、生きて、死んだのだ。

 

 ――父さん、母さん。先に死んじゃってごめんなさい。

 こんなふうにすぐに死を受け入れるような薄情な息子でごめんなさい。

 

 

「アキラさん。あなたはこれから、私が提案する『とある契約』を受諾して記憶を保持したまま地球とは別の世界に降り立つか、契約を受諾せずに記憶を失って地球で生まれ変わるかを選ぶことができます。三つ目の選択肢としては、そのどちらも拒否して完全に消滅することも可能です」

「えっと、契約、ですか?」

 

「はい。その通りです。すみません、とても一方的で、傲慢なやり方だと思います。ルール上、私にはこの方法しか残されていなかったのです」

 

 

 女神様の契約…。

 

 

「とりあえず、いくつか質問があるのですが、いいでしょうか」

「もちろんです」

 

「ルールというのは何ですか?」

「詳しいことは話せません。それも、ルールの一部なんです」

 

「そうなんですね。ええっと…、何と言えばいいのか難しいんですが…、今の僕は、その、本当に僕なのでしょうか?」

「はい。私が保証します。あなたは、あなた自身です。地球で生きていた頃のあなたから途切れず、連続した存在です」

 

 

 僕の自己同一性…、つまり『この僕は偽者じゃないのか、僕の記憶を持つ赤の他人じゃないのか』という根本的な疑問に、女神様は物的な言い回しで答えた。言わんとするところは何となくわかるような気もする。

 

 

「契約を拒否した場合は記憶を失って地球で生まれ変わるということですが、その場合は…」

「魂は同一ですが、アキラさんとしての記憶はすべて失われ、精神はリセットされます。魂があなたの核だとするなら、精神はその表皮に刻まれた人格であり、記憶の集合体であり、あなたの心です」

 

「それは、僕以外の人達もそうなのですか?」

「ここだけの話ですが、多くの世界で魂はそのように輪廻しています。地球も、私の世界も輪廻型の世界に分類されます」

 

「なるほど…。ちょっと、気が楽になりました」

 

 

 異世界も、輪廻転生もある。そして、契約を受ければ僕は僕のまま異世界に転移し、受けなければ僕は死んで地球に転生する。

 うーん。

 うん。

 三番目の選択肢は論外だし、選択の余地はないも同然だよね。 

 

 

「ありがとうございます。ヒカリ様の契約の内容を教えてもらえますか?」

「もちろんです。契約内容はこうです。――『アキラさん、私の天使となり、終わらない終末戦争で戦い続けている勇者を支えて下さい。ちなみに、私の世界では勇者は必ず男性で、天使は女性です』」

 

 

 なるほど。なるほど?

 

 

「すみません。もう一度お願いします。出来ればもう少し分かりやすく」

「分かりました。ではもう少し言葉を足しますね。『アキラさん、どうか私の天使となって、私が創造した世界に降り立って下さい。そして何千年も続く終末戦争を終わらせる為に一人きりで戦っている勇者を支えて下さい。ちなみに、天使は必ず女性でなければなりません。また、歴代の勇者は必ず男性が務めています』」

 

「なんで!?勇者が女性でも、天使が男性でもいいんじゃ!?あとさっきとあんまり変わってません!あと僕は男です!」

 

 

 堪え切れず、僕は突っ込んだ。

 

 

「あっ…、ごめんなさい。神様相手に失礼な物言いを…」

「ふふ、謝らないで下さい。礼儀正しいあなたも、フレンドリーなあなたもとても好ましく思えます」

 

「うっ…」

「くす、それでは質問に答えましょう。端的に言って、適材適所が理由です」

 

「身も蓋もないですね」

「はい。身も蓋もない現実的な理由です。少なくとも私の世界では、勇者は男性の方が強く、天使は女性の方が強くなるのです。女性の勇者や男性の天使が存在できないわけではありません。けれど、勇者も天使も命がけの役割ですから。戦いに勝ち、生き延びられる見込みを少しでも高くするためには仕方のないことなのです」

 

「命がけなら甘いことは言っていられませんね。でも、どうしてヒカリ様の天使は女性の方が相応しいのですか?勇者が男性なのはとりあえず理解できます。どうしたって男性の方が力持ちでしょうから…」

「はい。それは、女性の方が私の力を受け入れやすいからです。アキラさんも言ってくれたように、何と言っても、私は女神ですから」

 

 

 ヒカリ様は一際強く輝いた。真っ白い空間に女神様の虹色の光と、清らかな声が響き渡る。何処か誇らしげに見えるのは気のせいだろうか。

 

 

「納得は難しいですが、理解はしました」

「ありがとうございます」

 

 

 選択の余地はないと思ったけど、もう一度よく考えよう。契約を受けた場合は僕が僕のまま、性別だけ女性になって女神様の天使になって、地球とは異なる世界で終末戦争という戦争に身を投じることになる。勇者、という男性を支えるために。戦争なのだから、きっと命がけで戦うのだろう。

 そして契約を受けない場合は全ての記憶を失って地球で別の人間に生まれ変わる。この場合は、男性に生まれるか女性に生まれるかはランダムかな?昔読んだ創作で、前世が違う性別だったっていうストーリーがあったと思う。

 

 

「もし天使になってから死んだ場合はどうなりますか?」

「私の天使と勇者は、本人が望む限り何度でも復活することができます。どんな場所でどのように死んでも、何者にも脅かされない聖域へと還り、復活します」

 

「えっ…。それは…」

「アキラさんが思っている通りです。天使は私の使者という高位存在であり、勇者は人類の命運を背負う超常的な存在であり、どちらも私の権能によって支えられる不滅の存在です。しかし、復活を望まない場合はそのまま完全に死んでしまいます。――死ぬことができます。そして、そのようなことがこれまでに何度も繰り返されてきました。一人きりの勇者が、何人も」

 

 

 それは、つまり…。

 

 

「ごめんなさい。こんな訳の分からないことばかり言われても困りますよね」

「いえ。そんなに訳が分からないという程じゃないです。でも…」

 

「でも?」

「本当に僕でいいのですか?」

 

「あなたでなければ、私の世界と勇者は更に困難な道を歩むことになるでしょう」

「ヒカリ様の世界と勇者に、天使が必要である理由があるんですね」

 

「はい。私は私の天使を必要としています。そして、あなたを」

 

 

 なら。うん。やっぱり選択の余地はないかな。

 

 

「受けます。ヒカリ様の契約」

「ありがとうございます、アキラさん。あなたの決断に心からの感謝を」

 

 

 キラキラ。七色に光り輝く女神様は優しく微笑んでいるようだった。

 後悔はない。目の前の神様が得体の知れない存在だとは分かっている。でも、それでいいか、って思えた。こういう時、僕は自分の直感を当てにするようにしているから。 

 

 

「私の勇者はいい子ですから安心してください。もちろん恋愛も自由です」

「ええっと、今まで男だったんですから、そんないきなり女になったからといって、男の人を好きになるとか、ナニカするとか全然考えられません。あくまで、まだ消えたくないだけです。まだ、僕のまま生きていたいだけなんです」

 

「はい、そういうことにしておきましょう」

「そういうこと以外にありません。…というか、ヒカリ様って結構フレンドリーですね。口調も軽いし。話を聞いた感じ、結構シビアな話っぽいのに」

 

「威厳のない女神だとはよく言われます」

「言われるんだ…」

 

「シビアな状況だからこそ、明るさを失ってはいけないと思っています。何しろ、私は光の女神ですから」

 

 

 女神様は誇らしげに輝いた。七色に、ピカピカと。 

 形はあまりに不明確なのに感情表現豊かな女神様だ。

 そして、威厳があんまりない。

 

 

「こほん。では、契約についてもう少し詳しく説明しますね」

「はい」

 

「繰り返しになりますが、天使の『使命』は終末戦争が終結するまで勇者を支え続けることです」

「使命…」

 

「はい。最上位の優先事項となります」

「とにかく、勇者を支え続けたらいいんですね」

 

「そうです。その手段と内容はアキラさんに一任します」

「一任って…、いいんですか?」

 

「はい。アキラさんが判断して決めたことなら、どんなことでも」

「……」

 

「ただし、途中で使命を放棄するか、勇者が復活を望まずに完全に死んでしまった場合は天使の力を失い、アキラさんも復活できなくなります」

「分かりました」

 

「使命を果たした場合、報酬として勇者と共に不老長寿の命を与えます」

「えっと、不老長寿というのは、どのくらいですか?」

 

「あなたと勇者が望むだけ。戦争が無事に終わればもう一度私と会うことになりますから、その時に千年でも一万年でも、好きな寿命を言ってください」

「分かりました。あと…、ええと、終末戦争とは具体的にどんな戦争なんでしょうか」

 

「ルールにより、ここでは説明できません。アキラさんが地上に降り立った後に自分で知る必要があります」

「そうなんですね」

 

「他に質問はありますか?」

「いえ、大丈夫です」

 

 

 このくらいかな?

 元々選択の余地のない契約なのだから、これ以上グチグチと質問を重ねるのは止めておこう。

 それにしても、ルールかあ。神様のルール。いくら女神様でも色々な不自由があるのかもしれない。

 

「それでは、アキラさん。これから地上の神殿に降臨し、勇者と会ってください。丁度今、勇者が神殿で祈りを捧げているところです」

「はい。分かりました。」

 

「本当にありがとうございます。こんなにも全面的に信頼して頂いて」

「優しそうな女神様ですから。これでも、人を見る目はある方なんです。腹も括りましたし」

 

「ふふっ…、ありがとうございます。では、後はあなたにお任せします。どうか、私の勇者をよろしくお願いします」

「はい」

 

 

 よし、あとはぶっつけ本番だ。やるって決めたんだから、覚悟を決めよう。

 

 

「では、アキラさん。目を閉じるように意識を閉じて下さい。眠るように…」

「はい…」

 

 

 言われたとおりにして、僕は意識を閉ざしていく。案外簡単なことだった。体がなくても、この意識は眠気を感じられるようだ…。

 

 ふわぁ…。なんだか暖かくて穏やかで、いい気持ち…。

 

 …そういえば、女神様に言ったように腹は括ったけど。

 

 女神様の天使って、どういう感じなんだろ…。

 …今まで僕は生粋の男子で思春期真っ盛りだった訳だけど。女の子になるのって、どういう感じなのかなあ…。

 

 

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