TSロリ天使と薄幸ショタ勇者の崖っぷち青春戦記【第一部完結】 作:◆KKE
ハンターギルドでの情報収集は上首尾に終わった。
宿に一度戻って昼食の焼き飯セットを食べてから、北東区の住宅街にひっそりと佇む廃教会へと向かう。
「爺が不甲斐ないばかりに、お二人に心苦しい思いをさせるどころか…」
「気にしないでください。トムにはもう十分に助けてもらっていますから」
経過報告ということで、生活資金の捻出のためにハンター加入を目指していることを伝えると、トムがとてもしょんぼりしてしまった。
昨日、エディ君が金貨を寄付していたのを見るに、トムもお金に困っているのだろう。確かに礼拝堂の方は歴史を感じさせる装飾品ばかりで、裏手の通路や応接室は長年改築されないまま建物の劣化を漂わせている。
「そうでした。忘れないうちにこれをお渡ししておかなければ。アキラ様、どうぞこちらの守護印を」
「えっと、二つ目ですか?」
「はい、二つ目でございます。今お持ちになっている守護印をお使いになられて、復活されたすぐ後から身に付けるられるよう、衣服と一緒に森の中で保管されてください」
「ということは…、戦いの時に持っていっても…?」
「もちろんでござます。守護印に秘められた聖なる力が、きっとお二人を闇の勢力から守ってくださいます。守護印は爺の聖術で一日一個ずつ作れますから。本当に遠慮はいりません」
「そうなんですね…、本当にありがとうございます。お代はいくらでしょうか」
「ほっほ。アキラ様に対価を求めては神罰が下ってしまいます」
「女神様はそんなことはしないと思いますが…、では、出世払いということで。将来たくさんお礼をしますから、楽しみにしていてください」
「ほっほっほ。承知致しました。このトム、首を長くしてお待ち致します」
む、この反応ははじめから期待してないな。よし、決めた。いつか絶対大きなお返しをしてトムを驚かせよう。
それにしても、守護印は陰魔との戦いでも使えるのか。
エディ君と聖剣と同じ種類の聖術で作られているのだから、当然と言えば当然だった。寧ろ、それが本来の用途なのかも。
光の女神様からもたらされた、陰魔を滅するための魔法。この白い勾玉からどんなふうに力が発揮されるのか、実はちょっと楽しみだったりする。昔培っていた中二心をくすぐられる…。
ふむ…。
「もしここでお兄ちゃんに抱き着いたら守護印の効果が発揮されるでしょうか」
「えっ!?」
「ほほっ。エディンデル様が相手の場合は発揮されないでしょうな」
あ、やば。
エディ君がジト目になってる。
「アキラ様?」
「ごめんなさい。お兄ちゃんをからかってしまいました。冗談のお詫びに、有言実行で抱き着きます」
「えっと、それは、ちょっと」
「恥ずかしがらないでください。ちょっとしたスキンシップです」
「まっ」
「紅茶が冷えてしまいましたな。入れ直してきますのでごゆるりとお待ちくだされ」
「分かりました。ゆっくり待ってます」
「トムッ!?」
「大丈夫です。痛くしません。優しくハグしますから。ね、お兄ちゃん(ぎゅう)」
「~~ッ」
「よしよし」
たっぷり3分以上、かなりいいハグができた。
しかし、少し調子に乗り過ぎたかもしれない。
トムが入れ直してくれた紅茶が再び冷めてしまうまで、どうしてもエディ君が視線を合わせてくれなかった。猛省。
たくさん謝った後にやっと視線を合わせてくれたので、次は聖樹の森へ。
目的は、受付のお姉さんのアドバイスに従ってウォーターボールの練習をすることだ。どんどん行こう。
大通りを進む。門を潜る。
街道に出る。森を目指す。天気がいい。
そして、離れ離れになっていた手を僕の方から繋ぎ、にぎにぎする。
「アキラ様?」
「これはですね、ハグと同じような意味を持っています。スキンシップです」
ひとつ、分かったことがある。
エディ君となら、スキンシップをしても問題なし。
握手とハグまではスキンシップだ。
うん、全然問題ない。
「決して、純情なお兄ちゃんをからかって遊んでいるわけではありません」
「やっぱり…」
「遊んでいるわけではありませんよ。本当に」
「真面目にからかっているということですか?」
「くす」
「笑ってごまかさないでください…。アキラ様は、もう…」
僕と手を繋いで歩きながらごにょごにょと言葉を濁すエディ君。毎回赤い顔をして十歳ロリ天使との距離感を図りかねているエディ君。
見た目相応の小さな男の子らしい反応でほっこりする。
昨日のあの戦いから、ずっと気分が高揚して浮足立っているのは自覚している。今後のことを冷静に考えているようで、エディ君とスキンシップをとりたがっている甘えん坊な自分(ロリ天使)がここにいる。精神が身体に引っ張られている感じがするようなしないような。
あるがままに、とはいえ、本当に10歳児のようになってしまうのはよろしくないだろう。
そろそろ真面目な話をしないといけないかな。
街道から外れて草原に踏み入ってから、周りにはもう誰もいない。僕たち2人だけだ。少し頭を冷やそう。
「エディ様。僕たちは、ここではどういう立場なんでしょうか」
「それは、とても繊細で難しい問題です。すみません、ボクのせいで…」
「お兄ちゃんの自虐癖は追々直していくとして」
「ごめんなさ…、う…」
「くす」
「こほん。そうですね、どこから説明すればいいのか…。まず、大神殿は勇者が代替わりをしたことを公表していません。テル様が昇天なされたことも」
その理由は…、うん、尋ねるまでもないね。本当に酷い話だ。
関与している権力者はきっと、世間の混乱が云々と言い出すのだろう。沈黙した大神殿…。
「エディ様から、自分が新しい勇者だと名乗り出ることはできないのですか?」
「もっともな疑問だと思います。でも…」
「でも?」
「歴代の勇者は全員、優秀な大人の聖騎士から選ばれています。例外だらけのテル様でも、二十五歳まではひたすら聖騎士として研鑽の日々を送られていました」
「そうだったんですね」
「ごめんなさい。また自虐になってしまいますが、こればかりはどうしようもない事実なんです。聖騎士団を抜かして、たった十二の子どもが勇者になったなんて誰も信じません。実際、ボクは歴代最弱の勇者で、敵が陰魔でさえなければ、ボクより強い人は世界中にたくさんいます。もし勇者を自称しても、子どもの世迷言だと一蹴されるだけでしょう」
子どもだから認められない。それはあまりに単純で、あまりに非情な現実だ。
エディ君よりも強い人がたくさんいるなんて、あの戦いを見た後では信じにくいけれど、他ならない彼がそう言うなら正しいのだろう。
天使の僕が表舞台に上がって、女神様の遣いとしてエディ君を支持すれば…?
いや、それも難しい。僕だって自分が天使だと証明する手段は乏しい。
せいぜい、目の前で一度死んで復活してみせるか、聖樹の森に出入りするところを目撃してもらうくらいだ。
でも、誰を、どうやって説得して? 具体的な方法は何も浮かばない。ぶっつけ本番で試すのはリスクが大きすぎるように思う。
この状況は詰んでいる、とすら言える。廃教会で暮らしている、女神教から破門されたトムだって一人ではどうしようもないと思う。
どうしようもない。
いや、違う。正確には、今までだったら、きっとどうしようもなかった。
「となると、エディ様を認めてもらうには確かな結果を出すしかありません。黄昏領域の開放、という悲願を実現させて」
「アキラ様…」
「全力でお支えします、エディ様」
「ありがとうございます。どうか、僕に勇気と力をお与えください」
「喜んで」
ぎゅっと手を握る。
天使の名と、人間だった頃の名に懸けて。必ず。
◇◇◇
森の境界から復活の神殿までは、空中をスイスイ飛んでも少なくない時間がかかってしまう。でも僕はこの時間が結構好きだ。巨大な幹に衝突しないよう、左右へフワフワと舵を切っていく。ちょっとしたアクションゲームだ。ふんふーん。
「アキラ様。これからの予定ですが、今日はアキラ様の魔術訓練、明日は加入試験。そして試験の結果によらず、明後日は黄昏領域に出撃する、というのはどうでしょうか」
「いいと思います。毎日あの大群と戦うのは難しいでしょうから。いくら復活できても、心が持ちません」
「正直、気が逸っています。でも、まずは一年でウィバク黄昏領域を解放できるように頑張ります」
「なるほど。新しい中間目標ですね」
「はい。それに、一年というのはボクのおおよその制限時間でもあるんです。勇者になってから、ボクは体の成長が止まってしまいましたから…」
「そうですね、そういう問題がありました」
エディ君は永遠の12歳だ。暦年齢は勇者になるまでの12年に、それからの苦難の2年を足して、思春期の14歳。精神年齢はもっと高いかもしれない。でも、肉体年齢はずっと12歳のまま。きっと、これからも一切成長できない可能性が高い。
育ち盛りの子どもの背丈が全く伸びず、ずっと同じ姿であることに周囲の人達気付かれたら、かなり奇異な視線を向けられてしまうだろう。それが勇者である根拠の一つになるとしても、やや弱い。出来るだけ避けた方がいい。
だからそれまでに勇者として認められる必要がある。
陰魔がひしめく大地を一つでも解放できて、その事実を上手く大勢に伝えられたなら。
そうすれば、世の中の人達にエディ君が勇者だと認められる見込みは高いと思う。
おおよそ一年以内の達成課題。
妥当なところだ、と妥協するしかない。
そして、年齢の問題は決して他人事ではない。
勇者であるエディ君が不老になったのなら、天使である僕もこのままである可能性が高い。
心の中で、上がっていたテンションが一気に下がる音がした。
さっきまでスイスイ飛べていたのに、途端にフラフラしてきた…。
あれ。
やばい。かなりショックだ。
せめて、エディ君と同じ肉体年齢まで成長したいなあ。
世界の行く末の懸念とは全く別に、噓偽らざる本音が心の奥底から浮上した。
「僕はいつか必ず12歳のロリ天使になります」
「アキラ様?」
新しい目標がまた一つ。
天使の使命と関係がない?
個人的な目標だから大丈夫。
「楽しみにしていてくださいね」
「何をですか!?」
10歳は10歳で良い。今はこれがベスト。しかし、いつまでも体が成長しないというのは由々しき事態だ。
地球のファンタジー知識を総動員する。
参考になるのは、一時的に体を成長させる薬とか変身魔法とか。
魔法的な力で体を成長させられる可能性は零ではない。はず。
僕も、そしてエディ君も。
まずは僕が12歳を目指す。可能ならエディ君も何歳か成長できるように。
うん、この方向で調べていこう。
本筋とは関係がないから秘密で。
「詳しくは秘密ですが、エディ様は何歳くらいまで成長したいですか?」
「…もう。アキラ様は困ったひとです」
「?」
「そういうところ、ずるいです」
時々、エディ君は訳の分からないことを言う。
でも、彼の柔らかい苦笑を見られるから悪い気はしない。