TSロリ天使と薄幸ショタ勇者の崖っぷち青春戦記【第一部完結】 作:◆KKE
加入試験は無事終了した。
今はギルドの応接室で大人しく座って時間が過ぎるのを待っている。手続きが完了すれば、最下級のハンター証と、業者さんに売却したグラスウルフ三体分の代金を受け取れるそうだ。
通常、獲物や素材の荷運びはキャリアーと呼ばれる運送・流通専門のギルドの人たちを雇って任せるのだという。
しかし加入試験だけは仕留めた魔物を町まで自力で持ち帰ることが通過儀礼になっている、という説明をハンターギルドテイガンド支部長さんから聞いた。
テイガンド所属の黄金級ハンターであり、そのギルド支部長であるゼータさんから。
黄金級は上から二番目のハンターランクであり、今の所テイガンドにはゼータさんしかいないという。彼はこの都市の最強ハンターであり、そして同時にギルド長でもある。
なぜなら、ハンターギルドの各支部はいざという時のために最も強いハンターが長を務め、なるべく町に常駐しなければならないという伝統があるからだそうだ。
悪しき慣習だ、辞められるなら辞めたい、支部長なんて引退したロートルで十分だろうが、と本人は長々と愚痴を零していた。
なんでも、つい3年ほど前までは何十年も支部長を務める仙人のような黄金級ハンターが在籍していたのだけど、何の手続きも言付けもなく、ある日ふらりと行方をくらませてしまったのだそうだ。あのババアめ、とゼータさんが口汚く吐き捨てていた。お気持ちは察しますが、支部長がそんな言葉遣いをしたらいけませんよ。
そうそう。それでどうしてゼータさんが直々に僕たちの試験官をすると言い出したのかと言うと、昨日の時点で僕たちの噂を聞き、十中八九、この地方で十数年ぶりの超希少天恵魔法を持った天才児が現れたのだろうと興味を持ったらしい。そんな、ガチャのSSRみたいな言い方は…、いや、天恵魔法というほぼ確率のみで決まる才能は、もしかしなくてもガチャ以外の何物でもないのかもしれない。
そして「結果は上々、満足した」とのこと。
文句の言いようのない強者ムーブだ。ちょっとくらいは言いたいけどね。
「おう、待たせたな」
「いえ」
「本当に行儀のいいことだ。12そこらの歳で、お前みたいなガキはどこにもいないぞ」
「随分と待たされました。お詫びに美味しいお菓子をください」
「えっ」
「嬢ちゃんの言動は読めねえ…」
さて、今、僕達はゼータ支部長から高級菓子と一緒に灰石級の灰色のカードを渡された。高級感溢れるお茶もついでに。
ハンターは誰もがここから始まる。灰色から、白色の輝石級、赤色の赤鉄級と続いていく。
具体的には、カードと一緒に渡されたハンター心得の小冊子に次のように書かれていた。
灰石級:最下級。条件は単独でレベル1モンスターを撃破。灰色。
輝石級:条件は灰石級で一定の実績、及び単独でレベル2以上のモンスターを撃破。白色。
赤鉄級:条件は輝石級で一定の実績、及び単独でレベル3以上のモンスターを撃破。赤色。
鋼鉄級:条件は赤鉄級で一定の実績、及び単独でレベル4以上のモンスターを撃破。黒色。
青銅級:条件は鋼鉄級で一定の実績、及び単独でレベル5以上のモンスターを撃破。青色。
真鍮級:条件は青銅級で一定の実績、及び単独でレベル6以上のモンスターを撃破。黄色。
白銀級:条件は真鍮級で一定の実績、及び単独でレベル7以上のモンスターを撃破。銀色。
黄金級:条件は白銀級で一定の実績、及び単独でレベル8以上のモンスターを撃破。金色。
宝石級:最上級。条件は黄金級で一定の実績、及び単独でレベル9モンスターを撃破。各個人に宝石色を授与。
ハンターランクは最下級の灰石級から最上級の宝石級までの全9ランク。
ハンターが活動する狩猟区は屋外のエリアと屋内のダンジョンに大別されていて、それぞれ生息する魔物のレベルに合わせてレベル1~10の10段階で区分されている。灰石級ハンターはレベル1の狩猟区でしか狩りができず、輝石級ハンターはレベル2での狩りが許可される、というふうにランクが1つ上がる度に狩猟が許可される区域のレベルも1つずつ上がっていく。
ダンジョン、あるのか。いいよね、ダンジョン。
ちなみに『ハント』という言葉は『天敵狩猟』を意味する古代語から由来していて、『ハンター』とはそのまま『天敵狩猟者』を指す。天敵狩猟者…、中々カッコいい。そう言葉を零すと、歴史ある由緒正しい職業だとゼータさんも誇らしげに言っていた。
ただ、現代では単に狩猟や採集を指す言葉に変わり、トレジャーハンターなんて言い方も許されている、らしい。ふん、と鼻を鳴らして。分かりやすいなあ、この人。
「……」
…あ、エディ君がちょっと不機嫌な感じ?もしかして…。そういう感情がないとしても、男の子はデリケートなのだ。危ない。さりげなく手を握って笑いかける。よし、セーフ。将来が怖え、というテーブルの向こうから聞こえた気がする。気がするだけなのでスルー推奨。
話が大いに逸れてしまった。
ええと、そう、『モンスター』は人類の天敵である魔物、魔族、龍族、陰魔の総称だ。ハンターは由緒正しい天敵狩猟者であり、力と権利があれば魔族や龍族すら狩れる人類の守護者だという。
陰魔という、極めて特異な闇の怪物を除けば。
昇格条件を見る限り、ハンターは実績だけではなく各個人の力量が相当重視されているようだ。仲間との協力が一切考慮に入れられていない。
「ランクが定められているのは個人だけなんですね」
「ああ。ハンターのランク制度は完全に個々人の実力主義だ。例えば、白銀級と真鍮級で組んだパーティーでレベル7モンスターを倒したとしても、誰もランクアップの条件は満たせない」
「ええと、昇格はできないとしても、そういったことは実際に可能ですか?低ランクのハンターが高ランクとパーティーを組んで、上位のモンスターと戦うのは」
「不可能ではないとだけ答えておく。ハンターは究極的には個人主義だが、ギルドとしてはパーティー制を推奨している。ランクによって立ち入り可能な狩猟区…、エリアやダンジョンには制限があるが、ギルドに登録されているパーティーならリーダーのランクに合わせて一纏めで許可が出る」
「つまり…」
「ああ、高レベルの先輩や仲間と仲良く協力してハントに勤しんでくださいねって訳だ。コバンザメになるのも金魚の糞になるのも自由だ。嘗めてかかる奴は大体すぐに魔物のエサになるがな」
「灰石級でも、リーダーが黄金級ならパーティーの一員としてレベル8エリアに行くこともできるんですね。本人とリーダーの責任で?」
「そんな目をしても連れて行かねえぞ。嬢ちゃんは本当に10歳か?もちろん、規則上は何ら問題ない。実際にはほぼ不可能だがな。明文化していないだけで、慣例的にできないし、しないって意味で。だからその目をやめろ」
「ダンジョンというのは、迷宮ですよね。大きな迷路になっているんですか?ちょっと興味があります」
「アキラさん?(ちょっとジト目)」
「誰の影響を受けたのか知らねえが、ダンジョンマニアの片鱗が見えるな。坊主が苦労しそうだ…。まあ、世の中、明記されていない決まり事なんざ山ほどあるんだよ。違法ではないが、破ってはならない不文律ってのがな」
「なるほど、分かりました。大人の世界ですね」
「ほっ…」
「そんなところだ。違法じゃなければ何をやってもいいと嘯く連中もいるが…、いや、やめておこう」
ふむふむ。
「あと注意すべき点として、狩猟区のレベルは不変のものではない。むしろかなり流動的だ」
「流動的…」
「区域の境界は魔導帝国時代に造られた『退魔の列柱』や『鎮護の石柵』という魔除けの遺物で維持されているが、数千年の内に半分近くが失われてしまっていてな、あちこちに抜け穴ができている。だから、魔物の大量発生や天変地異の災害が起きればモンスターの生息域は容易に変わってしまう。ガンド平野の大半がレベル3以上の魔物で覆い尽くされたこともある」
「なるほど。魔除けの…。その遺物の再現は不可能なんですか?」
「偉い学者達が生涯をかけて研究中だ」
「そうなんですね」
「遺物と狩猟区の維持はハンターギルドの最も重要な責務で、常に目を光らせているが、運悪く遭遇した格上モンスターと戦うか逃げるかは個々人の判断に委ねられる。勝てばお宝、負ければ破滅。無論、単独で勝てば昇級資格の片方を満たせる」
「あ、資格はそうやって満たすんですね」
「普通にハントに勤しんでいてば、大体はな。近場だと最悪、レベル4のスワンプスライムが抜け穴を通って草原まで出てくることもある。ルーキー殺しの死神と呼ばれているスライムだ。お前たちも注意しておけよ」
「分かりました」
スワンプスライムというのは気になる。沼地のスライム。悪い予感しかしない名前のモンスターだ。レベル1のエリアにレベル4の魔物が出てくるなんて普通なら最悪だろう。後で調べておこう。
「魔物のレベル差は大きいですか?」
「大きい。レベルが1違えば、比率としては人間の大人と5歳程度のガキくらいの戦力差になる」
「それだと、ほとんど勝ち目がありませんね…」
「そうだ。モンスターレベルは、長年の観測と分析によって裏打ちされた、ほぼ絶対的なものだ。無論、やりようによっては可能性は零ではないし、同レベルでも個体差や相性差で比較的楽に倒せる場合もあれば、一方的になぶられる場合もある。油断や不運が重なれば下位の魔物にやられることも珍しくない。肝に銘じておけ」
「分かりました」
「もしかして、ハンターランクは寧ろモンスターのレベルに合わせて作られたものですか?」
「ユウ坊も察しがいいな。まあ大体そんなところだ」
「ええと、レベル10のモンスターは存在しますか?」
「それが魔王級だ。陰魔、魔物、魔族、龍族の全てを合わせ、全世界に八体のみ確認、認定されている絶望の存在。八大魔王」
八大。魔王。
「現実的には、レベル10という区分すら意味がない。レベル9とは隔絶した戦闘力と生命力、固有の特殊能力を持っていて、数値化に意味がないからだ。魔王が座するレベル10エリアへの侵入は、王命がなければ宝石級ハンターであっても決して許可されない。魔王級を単独で撃破できた人間は、未だかつて勇者ただ一人しかいない。大神殿が公表した内容が真実ならな」
「勇者…」
「ただ一人…」
「そう。勇者だ。200年以上も戦い続けている希望の象徴。不敬ではあるが、ハンターの基準に当て嵌めるなら唯一の『勇者級』。誰も真似できねえよ。勇者テルは深海に巣食う闇の魔王の一体にして幾千万の陰魔の母体、暗黒帝ザハーを討ち取った後、大神殿で療養中って話だが…、いや、なんでもない。脱線したな。ハンターの詳しい規則はその小冊子に纏まっている。後でよく読んでおけ」
「はい…」
「…はい」
………。
危なかった。
思わず絶望的な溜め息を出してしまいそうになった。
ゼータさんは僕たちの不意を突くのが本当に上手い。狙ってやってるんじゃないかと疑惑が出るほどだ。
エディ君なんか不意打ちを受けて硬直してしまってる。秘匿されている、と知っていたことではある。でも、どうしても、直視したくないことはある。
高い地位にいる第三者のゼータさんの口から、ハンターになれた喜びが吹っ飛んでしまいそうな現実を改めて突きつけられた。
世の中では、偉大な先代勇者のテル様が存命していることになっている。それが事実だ。
そしてもう一つ。手数料等を差し引いて18000レン分の現金収入。
それがグラスウルフ三頭分の値段。金貨と二種類の銀貨が光る。
死体の損傷が少なく、状態が極めて良好だったのでボーナスがついたという。特に窒息させた方は外傷が全くないのでこのまま剝製にできると剥製職人が息巻いて丸ごと高額で買い取ったらしい。これを見越してのアドバイスだっとしたら、受付のお姉さんは非常にやり手だ。
むむ…。
高額の収入を得たのに気分がすぐれない。
気分転換に、この世界の硬貨について今の内に整理しておこう。情報源は受付まで付いてきた物知りなゼータさん。なんだかんだ言って子どもに甘いようだ。
銭貨(素材は主に銅):1レン銭貨・5レン銭貨・10レン銭貨・50レン銭貨
銀貨(素材は主に銀):100レン銀貨・500レン銀貨・1000レン銀貨・5000レン銀貨
金貨(素材は主に金):1万レン金貨・10万レン金貨・100万レン金貨
宝貨(素材は主に白金):1000万レン宝貨・1億レン宝貨
貨幣の種類は全部で13種類とかなり多い。表側にちゃんと幾らか数字で書いてあるから見分けはつきやすい。
市民が主に使うのは銭貨と銀貨と、精々10万レン金貨までの10種類だそう。
100万レン金貨以上は大口の商取引とか、ハンター用の高額商品とか、どうしても大量の現金が必要な時以外は金庫に大事に仕舞われている。盗まれたら怖いからね。
一度くらいは宝貨も見てみたい気もする。
あと、この世界の貨幣経済はどうやら金本位制ではなくて『レン』という通貨単位の『レン本位制』みたいなんだよね。固定相場制か変動相場制かまでは聞かなかった。
時間を割いて経済について詳しく調べるつもりはない。仕組みがちゃんとしていればそれでいいかな。
「じゃあな。死ななきゃその内稽古をつけてやるよ」
ゼータさんは最後に本気なのか社交辞令なのか判断に迷うことを言い残して立ち去っていった。
その直前の愚痴で、決済待ちの書類が山のように積み重なっていると零していた。
色々とありがとうございました。お仕事頑張って下さい。
支部長室から退出した後、ギルド内のハンターさん達の目線は相変わらず生温いままだった。冷たかったり鋭かったりする視線よりはずっといい思うんだけどね。うん。
ゼータさん以外からはまだ直接声はかけられていません。
案内の受付のお姉さんにも改めて挨拶をしてお礼を言った。
お姉さんの名前はシャランさん。隣の眼鏡のお姉さんはエリーゼさん。
今後ともよろしくお願いします。
あ、シャランさんからのアドバイスでギルド銀行に口座を作った方がいいと言われたのでそうしました。
口座名義はお兄ちゃんこと『ユウ』。僕は10歳の少女なので謹んで辞退した。お金の管理はお兄ちゃんに一任します。
登録はハンター証と拇印があれば自称の名前でいいだなんて、本当にこの世界は実力社会だ。今の所、僕たちのIDはこの灰色のハンター証のみだ。都市生まれの子ども達はどうしているのだろう。
「大成功ですね、エディ様」
「はい。思っていたよりもずっといい結果でした」
「これからどうしましょうか。銀星街に行って甘いおやつを食べるか、お腹を空かせたまま真っ直ぐ宿に帰って栄養のある夕食をいっぱい食べるか。お兄ちゃんはどっちがいいですか?」
「ええと…、おやつにも心惹かれますが、今日はハンターとしての第一歩を祝って、このお金で豪華な食事をするというのはどうでしょうか」
「とてもいいアイデアだと思います。ぜひそうしましょう」
「前はヒレステーキだったので、今日はサーロインステーキにしましょう。食堂のメニューに載っていることは既に確認済みです」
「男前で素敵です、エディ様」
「そ、そうですか?」
◇◇◇
その夕食後。
お風呂までの空いた時間に、魔法の起源と主な魔術についてエディ君から広く浅く教えてもらった。
まずは、魔法の源流となった魔女の血と仙人の血、そして賢者の血について。
――光の女神様がもたらす聖術を除いて、魔術、仙術、錬金術の三種の魔法は三つの異なる源流から脈々と受け継がれている。
魔術の祖は魔女、仙術の祖は仙人、錬金術の祖は賢者と呼ばれている。三種の始祖は魔性化したモンスターと戦うために新たな力を求め、長い年月の果てにそれぞれが異なる三種の魔法を創造することに成功した。
三つの祖は特定の個人という訳ではなく、それぞれが別種の魔法を創造しようとしていた集団や古代文明の末裔たちだと言われている。例えば、魔女は世を儚んだ思想家集団の成れ果てであり、仙人はかつて東の地で興った超人国家の子孫であるというふうに。
そして、生存を懸けた長い戦いの中、始祖たちは言葉少なく歴史から姿を消していった…。
――三種の血脈。三種の魔法。
魔術は破壊的な空想と言葉を扱う。
錬金術は生産的な操作と反応を扱う。
仙術は自己完結的な強化と進化を扱う。
濃淡の差はあれ、三種の血脈は今を生きる全ての人間に受け継がれている。受け継げなかった子孫は生存競争に敗れ、ことごとく歴史の表舞台から姿を消してしまったからだ。
――そして、魔法系統樹の伝説。
遥か遠い昔、魔法の本質と歴史を保存し続ける魔法系統樹がこの世のどこかに生まれた。
かつて偉大な魔導師は言った。その大樹は、数理が支配する高次元空間にあると。
魔法を創造したから魔法系統樹が発生したのか、あるいは魔法系統樹が発生したから魔法を創造できたのか、今となっては誰にも分からない。
天恵魔法とは、魔法系統樹から無作為抽出された力の一端。魔法系統樹はその最先端に萌芽を秘める。それは、大樹を新しい段階へと引き上げる可能性。魔法体系の最先端。いかに秘匿された魔法であろうと、忘却された魔法であろうと、一定確率で胎児に宿る恩恵と呪いの力である。そして、遣い手が少ない希少な魔法ほど人類にもたらされる確率も低くなるが、赤子の魂と魔法の波長が合えばそれだけ宿る確率が高くなるという。それらの現象は何人たりとも妨げることはできない。
その上で、才能を開花させるか秘めたまま生きるかは、どうしようもなく本人次第になる(最先端の新魔法を開発した人にとっては、見知らぬ誰かが勝手にその才能を持って生まれるのはたまったものではないかもしれない。自尊心とか特許とかの問題で)。
ゼータさんが言っていたことは正しかったようだ。
後で説明しようと思っていたことを先に言われてしまいました、とほんの少しだけエディ君が悔しそうにしていたのが可愛かった。
今後も、魔法についての知識は決して無駄にはならないだろう。焦らず少しずつ見識を広げていこう。
◇◇◇
魔法講座の後、時刻は午後9時過ぎ。就寝前のちょっと暇な時間。
ベッドに寝転がってパラパラとハンター心得の小冊子をめくっていく。
にょろりとまろび出ている天使の太ももを隣のベッドのエディ君がチラチラと気にしている。はしたない姿を注意したいのか、白く滑らかな肌に魅了されかかっているのか。ふうむ。ここは安定のスルーがベストアンサーだろう。思う存分見ていいよ。
ええと、何々。
ハンターが問題行動や犯罪行為を起こした場合、資格停止や罰金の他、実績が相当数減点される。重大犯罪の場合は資格剥奪もあり得る。
まあこれも当たり前のルールだ。適用範囲にもよるけど、実力があっても素行が悪いハンターは高ランクになれないのだろう。他には…。
『狩猟区での採取は鋼鉄級以上のハンターにのみ許可される。モンスターには該当しない、魔力の影響を受けた動植物や鉱石等の天然の魔力合成物はハンターギルドを含む複数のギルドによって共同管理されており、密猟は厳罰の対象となる』
うわ、すごく大事なことがさらっと冊子に書いていた。危なかった。
ゼータさん、これについてもちゃんと説明しておいて欲しかった。時間が押して面倒くさがって省いた疑惑が浮上。
RPGであるあるな薬草類の採取は高ランクハンターにならないとやっちゃ駄目、と。
ゲームみたいに簡単にリポップはしないから数が限られているし、乱獲されないように制限するのは当然と言えば当然のことかな。
あれ、聖樹の葉は?
あれだけ不文律の例外扱いなのだろうか。
大人の世界ってこういうところが面倒くさいんだよなあ。なあなあのままにせずにしっかり決めて欲しい。
「エディ様。ちょっとこっちに来てもらえますか?」
「はい。何でしょうか」
レアものを探して採取に励むのも楽しそう、と楽観的に考えながらエディ君を呼ぶ。そして何の疑いも抱かずにとことこ近寄ってきたところをおもむろに抱きついた。
ベッドの上で膝立ちになり、エディ君の頭を掻き抱いて未発達な胸に迎える。
少しは柔らかいだろうか。この子を癒せているだろうか。
うん、寝る前にこうしようと決めていたんだ。
なあなあの関係で中途半端に慰め合うよりもいい方法だと思ったから。
「アキラ様!?」
「思うに、エディ様には人の温もりが足りていません。違いますか?」
「……。…もしかしたら、そうかもしれません。でも、世の中には僕よりもずっと…」
「人は人、あなたはあなたです。僕が心を込めて大切にしたいのは、世界でただ一人、あなただけです」
「……」
「なので、これから毎日ハグをします。これは天使としての使命の一環でもあるので、勇者のあなたに拒否権はありません」
分かりました、というか細い声が天使の耳に辛うじて届く。
本当に聞き分けのいい素直な子だ。聞き分けが良すぎて、心配になるくらいに。それで騙されてしまったんだろう。簡単に騙せると思われてしまったんだろう。
でも、僕が来たからにはもう大丈夫だ。
何度だって言おう。もう、大丈夫。
「大丈夫。大丈夫ですよ」
「…はい。ありがとうございます。本当に、ボクは…」
既に結論は出ている。このくらいのスキンシップなら全然平気だ。男女の性別に関係なく、エディ君はエディ君だから。
この感触をよく覚えておこう。エディ君と僕の体の身長差や体格差を。女子はこのくらいの時期が本来なら育ち盛りだから、数か月もすれば違いが分かるようになるだろう。もし、この天使の体が人並みに成長しているとしたら、ちょっとずつ感触が変わっていくはずだ。
体の成長、という問題。
本当はどうなんだろう。それは大きな問題だろうか。そうかもしれない。でも、まあ、いいか。なるようになるさ。
「おやすみなさい」
「はい。おやすみなさい」
今日も一緒にご飯を食べて、お休みの挨拶を言えた。それはとてもいいことだ。
千里の道も一歩から。
戦うしかないのというのなら戦おう。
自ら望んで、理解して、納得して。
美味しいものを食べて、居心地のいい場所で、エディ君と二人で頑張って。
大切な事で、大切な人だから。
毎日が青春の最先端。
僕たちの崖っぷち青春戦記。なんてね。
どうか、明日もいい一日になりますように。