TSロリ天使と薄幸ショタ勇者の崖っぷち青春戦記【第一部完結】 作:◆KKE
空を飛びながら、出発前に行ったブリーフィングを思い出す。
先日の初めての戦いでは予備知識なし、100%勢いに任せての突撃だったから、今回からはちゃんと敵を知ってから戦わないといけない。
頭の中で再度確認を行う。
今は滅びた暗黒帝ザハーが生み出す陰魔は五階級、全十五種。
――兵士級は歩兵体、剣兵体、槍兵体、鞭兵体、弓兵体の五種。
下級陰魔。
素体のフォルムは全て同じで、手に持っている武器によって区別される。脚二本、腕二本。
大きさは人間大で、全高約1.7メートル。
黄昏領域内で最も数が多く、半数以上を占める。物量を武器にして直進し続ける最弱の難敵。
――戦士級は狙撃体、斬撃体、砲撃体、打撃体の四種。
中級陰魔。
基本的なフォルムは脚が四本、眼が四つ。種によって腕の数が異なっている。順に、腕一本、二本、三本、四本。
全高約2.6メートル。
兵士級程の大群は形成しないが、進軍速度は兵士級を上回る。特に狙撃体の長距離射撃が脅威。光の闘気のみの防御では、当たりどころが悪ければたった一発でも致命傷となっていた。
戦闘能力も数も中間に位置し、殲滅の為には少なくない魔力の消費を強いられる。兵士級と騎士級の隙間を埋めるような行動を取ることが多い。
勇者テルの時代では、女神教聖印軍が頻繁に戦士級と兵士級の大群と相対し、互角以上の戦いを繰り広げていたという。
――騎士級は爪獣体、翼獣体、蹄獣体の三種。
上級陰魔。
人に似た二本の腕を持つという共通点以外、フォルムと攻撃手段が種によって全く異なる。
爪獣体は二本の剛腕と一本の太く長大な尾を持つ二足歩行の狼型。全高4.0メートル。黒刃爪という再生可能の高硬度の長爪を武器とする。遠距離攻撃を有していない分、近接戦闘能力が極めて高い。また、驚くことに空中を疾走することも可能。翼獣体と蹄獣体を庇うような行動を取ることがある。
翼獣体は猛禽類に似た、脚のない鳥型。全長約4.8メートル。針金のような腕から黒炎弾という高速誘導ミサイルを一度に4つ発射する。速度の乗った初撃の射程は1キロメートル以上。その後は高度100~200メートル直上の上空に留まり、隙を突くように爆撃を繰り返してくる。装填間隔は約7秒。
蹄獣体は金属質の黒い鎧と盾、全長2.1メートルのランスを身に纏う脚四本の馬型。全高3.2メートル。ランスから黒閃槍という長射程の黒色レーザーを放つ。射程は最大300メートル。充填速度は1~8秒。最大出力の長射程レーザーだけでなく、1秒間隔で放射する短距離レーザーも脅威。
騎士級は兵士級や戦士級と比べれば非常に個体数が少ない、精鋭の遊撃隊に位置づけられる。機械的で組織的な連携をとる上にどれも攻撃能力が非常に高く、直撃は死を意味する。現状、回避も難しく光の結界の防御が不可欠。
ここまでが前回交戦した陰魔種。
狙撃体によって少しずつ魔力を削られ、9体の騎士級の猛攻によって止めを刺された。
続いて、未見の陰魔は楽士級と神官級。
――楽士級は増幅体と障壁体の二種。
特殊陰魔。
フォルムはどちらも全高約0.9メートルの黒色の正八面体。他の陰魔種とは異なり、見た目だけで増幅体と障壁体を判別することはできないという。
増幅体は周囲の陰魔に攻撃威力を増幅させる赤黒いオーラをまとわせる。障壁体もまた、周囲の陰魔に膜状の青黒いバリアを張り巡らせることができる。
楽士級による戦力増強効果は累加していく。増幅体2体の効果範囲が重なれば2体分の強化がかかり、同様に障壁体が2体いれば2体分のバリアが重なる。そして、増幅体と障壁体それぞれの強化は階級ごとに決められた一定値まで加算されていく。兵士級は2体、戦士級は4体、騎士級は8体まで累加。
唯一最大の弱点は、それらの強化が楽士級自身には全く適用されないということ。厄介な点は、全ての楽士級が灰色の砂漠の地中に点在していて、発見と破壊が困難を極めるということだ。
――最後に、神官級。呪詛体の一種のみ。
最上級陰魔。三体の闇の魔王を除き、最大戦力を誇る。
黄昏領域内では陰魔一万体に一体の割合で存在すると言われる。
フォルムは、蜘蛛のような八本脚の脚部に巨大な漆黒の球体が搭載された姿をしている。球体の直径は平均5~6メートル、全高は平均11~12メートル。他の陰魔とは異なり、戦闘力とサイズに個体差がある。
また、呪詛体は一体ごとに所持する能力が大きく異なり、陰魔の統率や砂漠操作、超長射程攻撃等、どれもが固有の種と言えるほどに多様な能力を持っている。
楽士級の累加効果は最大32体まで。周囲に多数の楽士級と騎士級を従えた状態で、黄昏領域の深部に封じられ続けている。
神官級が一万体に一体の割合で存在しているなら、このウィバク黄昏領域の奥地には7体か8体の神官級が封印されていることになる。
果たして、神官級と交戦する日はいつのことになるのか。
〈アキラ様。そろそろ結界に到着します〉
〈大丈夫です。このまま進んで下さい〉
天盤結界の外側には緑豊かな自然が広がって入るが、人間は誰もいない。封印の地に選ばれた、捨てられた大地。獣型の魔物の群れが呑気に草を食んでいるのが見える。
立ち止まることなく真っ直ぐ空を飛んで結界の防壁を突き抜け、黄昏領域に突撃する。
作戦自体は前回とほとんど変わらない。
上級陰魔が蠢いている黄昏領域の奥深くには進攻せず、ひたすら外周の壁沿いに時計回りに進み、狙撃体を最優先で叩きつつ陰魔の大群を殲滅していく。
まずは兵士級と戦士級の数を減らす。
領域内の陰魔は復活せず、倒したら倒した分だけ戦力を減らすことができるのだから、この戦い方は間違っていないはずだ。
また、前回の失敗を繰り返さないよう、エディ君が天網絵図の半径を3割ほど広げてくれた。索敵半径を広げれば広げる程、常時消費する魔力も増えるので今はこれが限界だという。
もし騎士級が現れたら、まずは翼獣体の誘導ミサイルを迎撃し、次に回避困難なレーザーを放ってくる蹄獣体を最速で撃破する。爪獣体の長爪は全力の回避か防御で何とか凌ぐしかない。
とにかく、戦死するまで一体でも多くの陰魔を倒す為、魔力の無駄遣いをせずに戦わなくてはならない。
力の温存。魔力の節約。それが黄昏戦争での問題であり、肝要だ。
〈効率的に戦って、できるだけ多くの陰魔を倒すこと。それが今回の目標になります〉
〈はい。最善を尽くします〉
目標撃破数は…、決めない方がいいか。
とにかく冷静に、一体一体、着実に倒していこう。
◇◇◇
空中を疾駆し、赤と青の光を残しながら灰色の砂漠を横切っていく。
エディ君が兵士級の塊を華麗に躱し、群れた戦士級の最後尾へ。砂丘の峰に陣取っている狙撃体を逆にこちらから狙って切り倒していく。
戦闘は極めて順調だ。
既に35体…、36体を撃破。立体地図の横枠に表示された撃破数を一々確認する余裕はないので、自分の頭の中で一体一体加算していく。答え合わせは後でいい。
50…。
聖剣の赤い光が煌めき、一瞬だけ伸長するレーザーソードのような光の刃で狙撃体が的確に両断される。いつか、聖剣の最大射程は地平線まで届くかもしれない。
110…。
朱色の闘気が弾丸状に放たれ、砲撃体ごと狙撃体が爆砕する。光の闘気から分離して放つエネルギー弾も十分に強力だ。
ヂュインッ。
何度か狙撃体の銃弾が瑠璃色に灯る光の結界に直撃するが、その程度ではエディ君の快進撃は止まらない。赤い光に断ち割られ、陰魔たちが次々と霧散していく。魔物とは異なり、遺体は残らない。死ねば全て塵になって消滅する。それだけで、陰魔が肉体を持つ生命とは根本的に異なる存在であると分かる。
エディ君は前の戦いよりも強くなっている。天使の目と頭脳による観測結果なので勘違いではない。聖剣も闘気も前回の戦いよりも僅かに威力が増し、天衣の飛行速度も上がっている。
そして、僕も天衣の性能が上がっているように感じる。光の結界も僅かだが強度を増している。一度の狙撃の直撃ごとの魔力の損耗度が前回よりも軽減している。
砂丘の谷間に密集した兵士級と戦士級の大群に向かって朱色のエネルギー弾が何度も投じられる。狙撃体が激減しているため対空攻撃の心配はなくなっている。
赤い大輪が連続して咲き誇る。
上空への迎撃手段を失った群れは恐れるに値しない。弓矢と砲弾は遅すぎて話にならない。お膳立てのボーナスタイム。最大効率のキルレシオ。
一気に200を突破。
体内の魔力が早いペースで消費されていっているのを感じる。
230。
騎士級はまだ出てこない。
黄昏領域表層部では、数少ない騎士級は奥側の中層部との境界付近を巡回しているという。黄昏領域内で戦闘が開始され、その情報が何らかの方法で騎士級に届くとして、壁際まで駆けつけてくるまでには多少の時間がかかるらしい。
250。
ガクンと、このタイミングで魔力消費が急激に増大した。
結界の破損はない。致命的な攻撃は一度も受けていない。なのに、水風船から急激に水が抜けていくように、体から不可視のエネルギーが失われていく。このままでは、あっという間に全ての魔力を失ってしまう。
どうして急に?理由が分からない。
そう疑問に思った直後、ドクン、と動悸が始まり、全身から冷汗が噴出した。
天使になって初めての身体的不調。
「っ…、はあっ…」
これは…、まさか、息切れ…?
そして、体温の上昇も自覚する。眩暈がする。間違いなく、僕は危機的な状態にあった。
…280。
前回が不運だったのか、それとも今回が幸運なのか、騎士級は未だに現れない。しかし一方で、僕の方は魔力と体力の消耗が著しい。置いて行かれないよう、墜落しないように飛び続けるだけでも大変だった。
瑠璃色の結界は何としてでも維持しなければならない。エディ君に付与した水色の加護の方は問題なく、寧ろ六枚の花弁が先程よりも一際強く輝いている。
光の加護…。魔力の消耗。そして、体内のこの感覚。ああ、そうか…。
〈アキラ様…!?〉
〈…大丈夫、です〉
――『兵士級197』、『戦士級102』。
撃破数300の大台を前にして、僕の異常に気付いたエディ君が急旋回をして傍まで来てくれた。
〈そんな状態で大丈夫なわけありませんっ。どうして…〉
運良く難を逃れた狙撃体から、チュインチュイン、と連続で攻撃が届く。敵は空気を読んでくれない。被弾の音が鳴り止まない。前後左右から、一千を優に超える兵士級と戦士級の大群が押し寄せてくる。いくら格下相手でも、この戦場での停止は、死だ。
狙撃体は後方からすぐに補充される。砲撃体の砲弾も当たれば決して侮れない。集団に取り付かれて肉弾の集中攻撃を受ければあっという間に結界を維持する魔力が尽きて蹂躙されてしまうだろう。
そう、魔力。力の温存。それが黄昏領域における戦争での問題であり、肝要だ。
はじめから分かっていたことだったのに。
〈っ…! ごめんなさい、抱えます!〉
素早く状況を判断したエディ君が僕の背中と膝裏に両腕を回して抱きかかえ、急加速してその場を離脱した。女神様が描き出す光の絵図を頼りに、比較的陰魔の密度が低い地帯までの避難を図る。
というよりも、これは、お姫様抱っこ?
ええっと。
心の準備ができていない状態で、エディ君にいきなりこんなことをされたら流石に恥ずかしい。
思わず顔が熱くなる。
エディ君も熱い。密着する彼の腕や胸から体温が伝わってくる。熱くて、可愛くて、カッコよくて…。
違うんだ、これは体の不調と吊り橋効果的なシチュエーションのせいだから。ノーカン。ノーカンだから。
〈…理由はもう分かったので、本当にもう大丈夫です。ごめんなさい、少しだけ調整しました〉
〈調整、ですか?〉
〈加護を通じて、僕の魔力がエディ様の方に大量に流れていたみたいです。それで体に異常が起きてしまったようなので、流出量をある程度減らしました。もう大丈夫です〉
〈あ…、この感覚は…、そんな!ごめんなさいっ〉
〈エディ様のせいではありません。結界や加護と同じように、魔力の供給も、天使の僕の役割なんです。加護の力には魔力をやり取りする機能も備わっているのでしょう〉
分かってしまえば単純な事。
エディ君が全力全開で頑張って陰魔を倒し続けて、250体倒した時点で聖剣と闘気、天衣、そして索敵半径を広げた絵図の聖術を維持するための魔力が尽きてしまった。その時点を境に、自動的に魔力供給機能が全開で働き始め、消費量を維持できるペースで僕の魔力がエディ君へと流れ始めた。それを制御することができないまま魔力が急激に減り続け、その影響で体も変調をきたしてしまったのだろう。そういうこともあると予想しておくべきだった。
事実、エディ君との繋がりに意識を向けると、魔力がどんどんエディ君の方へ流れ出ていっている感覚に気付いた。意識できれは簡単なことだった。
意識し、魔力の流出量を絞った。
それで最悪の事態は免れた。少しずつ動悸や発熱が収まってきているから、とりあえずは大丈夫だ。
一方、エディ君はずっと全身全霊で戦っていたから、自分の魔力がなくなったことにも魔力供給を受けていることにも気付けなかった。はじめから僕からエディ君へのある程度の魔力供給が行われていたとしても、消費量が供給量を上回っていたのだろう。
結論。
僕は戦闘支援機兼予備タンクだ。
魔力は魔法の燃料であり、電力やガソリンに等しい。そして、戦闘開始時点で二人分の魔力の総量は決まっていて、ここで戦っている間は自然回復に頼ることは不可能。安全地帯は皆無に等しく、休憩できる場所はどこにもない。
その問題の解決策の一つが光の加護という聖術であり、僕自身ということになる。
〈短時間で大量の魔力を失うと、慣れない内は一気に体調が悪くなって、神経系にも悪影響が出て最悪命にも関わります。若い魔法使いがよく陥る症状で…〉
〈なるほど。健康上の出力限界があるんですね〉
肉体に限界があるように、魔力を引き出す機能にだって限界はあるということだ。例えるなら脱水症状か。
精神的に自分が無限の力を持っているように感じても、それは錯覚に過ぎない。必ず身体が支障をきたす。
僕はちゃんと理解できていなかった。
エディ君は決して無敵ではない。そして同様に、僕もまた無敵ではない。
世界でたった一人ずつの勇者と天使だけど、心と体は人間と同じだ。不注意で傷つくこともあれば、無理をして体が駄目になってしまうこともある…。
〈ごめんなさい、アキラ様。僕が未熟なせいで…〉
〈謝らないといけないのは僕の方です。自覚が足りませんでした。本当にごめんなさい〉
〈そんなことはっ。そうだとしても、悪いのは僕で、弱いくせに、尽きない力に酔ってしまって、これがアキラ様の力だと気付かないまま…〉
〈エディ様は弱くありません。立派に――〉
チュインッ。ええい、少しくらい黙っていてほしい。
〈エディ様は立派に戦っています。僕の力はあなたの力です。どうか遠慮せず、存分に振るってください〉
〈アキラ様…〉
〈とはいえ、これまで通りに全力で戦うことはできなくなってしまいました。かなりピンチですね〉
ピンチという言葉とは真逆に、場を和ませるためにニコリと笑ってみせる。上手く笑えたかな。
〈…はい。ピンチです〉
よし。ぎこちなさはあるものの、エディ君も笑ってくれた。うん、泣き顔から、とてもいい笑顔になった。お姫様抱っこままだから、思わずときめいてしまうね。ノーカンにしたら駄目かなあ。
そして、チュインチュインと銃弾の被弾音が鳴り響く中、ピピピッ、と緑の光球が警告音を鳴らした。
立体地図の端から現れた、新しい赤紫色の光点が十個。そして赤紫色の文字で『騎士級10』。
真っ直ぐこちらに向かっていて、進行速度が戦士級よりも段違いに早い。そして今、12個の高速誘導ミサイルが放たれていて、緩やかな弧を描いて僕達に向かって来ている。
まだ距離はあるが、他の陰魔を相手にしながら逃げ切れる速度ではない。それに、もとより逃げるつもりは一切ない。
折角いい雰囲気だったのに、容赦がなさすぎてタイミングが悪すぎる。いや、タイミングが良すぎるのか。
〈今日はここまでになるでしょうか〉
〈既に300体近く倒しているので、戦果としては十分です。戦えば戦う程、僕たちの力は成長します。だから、次は今よりももっとたくさん戦えますし、新しい課題を見つけられたのも成果の一つです〉
〈ありがとうございます。次はマナ結晶を用意しましょう〉
〈マナ結晶…。それは、何か便利な品物ですか?〉
〈はい。錬金術で作られるマジックアイテムで、使った人の魔力を補充します。リリアさんのお店にも置いてあります。…とても高価ですけど〉
〈なるほど〉
なるほど。つまりアイテム消費でMP回復ができると。一歩どころか十歩くらい前進できそうだ。…お金さえあれば。
〈解決方法の見通しが立っていて、しかもお金の問題で済むのなら文句なしです。ではエディ様、あとは死力を尽くして戦いましょう〉
〈喜んで、アキラ様。反省と罰は、あとで〉
ほんのちょっぴり名残惜しいけれど、エディ君の腕に軽く触れて抱っこから抜け出す(反省はともかく、罰ってなに…?)。
ここからが第二ラウンド。
ボーナスタイムの第一ラウンドは終わりだ。
もう間もなく翼獣体の黒炎弾が着弾する。
その次に爪獣体の突進があり、砂丘頂上に陣取った蹄獣体から射程300メートルの黒閃槍が飛んでくるはず。
魔力は心もとない。残り四分の一…、いや、五分の一。残量を気にして、エディ君も全力を出すことは難しいだろう。
最善の戦術は?
分からない。経験も知識も全く足りていない。騎士級の戦闘能力は全く隙が無いように見える。ぶっつけ本番で切り抜けるしかない。
いつ死んでもいい。いざとなればエディ君の盾になろう――
――キラン。
そう思っていると、絶体絶命のこのタイミングで、トムから貰った守護印のネックレスが白い光を放った。
瞬く間に白い光は三つの螺旋に分かれ、その中から白く輝く三人の騎士が現れた。一目見て、彼らは生きた人間ではないと分かった。全身の甲冑が光で出来ていて、薄く透き通っていたから。
「聖騎士様…」
隣のエディ君が呟く。守護印から現れた半透明の騎士達は無言のままだった。そのまま、何も言わず、何の余韻もなく、あっという間に空高く駆け上がっていった。
もしかしたら、何も言えなかったのかもしれない。女神様と同じようなルールがあるのかもしれない。予想外の出来事でほとんど反応できなかったけれど、これが守護印の本当の力なのだと理解できた。
そして、こちらの事情とは関係なく、黒い三角錐が緩やかに落下しながら迫ってくる。高い誘導性を持っているため、回避は困難。
空を飛翔する三名の騎士が白く輝く剣をそれぞれ二回ずつ振るう。熟達した流麗な動作。そこから合計6つの真っ白なエネルギー波が空中を迸り、およそ半分のミサイルを撃墜した。残りのミサイルが盾を掲げた騎士達に殺到し、激しい紫炎の爆発を発生させた。
白と黒は混じり合わず、光と闇が強く弾け、完全に拮抗した。
〈かつて聖騎士を務め、栄光と共に昇天された騎士霊の方々です。誇り高く、清廉な…〉
エディ君は三つの白い光を眩しそうに見ていた。まるで、失われたものを懐かしむように。憧れるように。
女神様の応答を目撃した時とは、また違った表情だった。