TSロリ天使と薄幸ショタ勇者の崖っぷち青春戦記【第一部完結】   作:◆KKE

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026 少女Ⅰ

 

「おはようございます、アキラ様」

「おはようございます、エディ様。今日はお休みの日ですね」

 

「はい。気合を入れて休みます。休むって決めましたから」

「んー…、失格です」

 

「えっ。失格、ですか?」

「はい。エディ様は赤点を取ってしまいました。このままではちゃんと休めません」

 

「…!!?」

 

 

 どういうこと???

 と疑問満載のエディ君。

 

 ふーむ、案の上だ。仕方ないなあ、もう、エディ君は。

 

 

「今日はもう本当にのんびり休むだけなので、気合を入れる必要はありません。もっとだらけて、力を抜いてください」

「力を抜く…」

 

「そうです。起きた直後はいい感じにだらっとしていました。それなのに今さっき、顔を洗った時にネジを回しませんでしたか? 」

「ネジ?」

 

「はい。例えとして、身体を動かすゼンマイを想像して下さい。普通、その動力源は寝ている間に目に見えないネジで自動的にゆっくり一日分が巻かれていきます。でも、エディ様はそれでも足りなくて、毎朝必要な分を自分で巻いているように見えます。無理をして、自分でネジを回して」

「…っ。…それは、その…。僕は…」

 

 

 急に例え話を出され、エディ君は一瞬ぽかんとしたけれど、でもすぐに理解できた様子で、顔を赤くしてぎゅっと目を瞑ってしまう。ごめんねエディ君。辛いことを言って。

 心を込めて、できるだけ優しく語りかける。

 

 

「毎日そうしていたら、いつか心が擦り切れてしまいます。だからせめて、休みの日くらいは力を緩めて、何もせずに休息を取りませんか?」

「はい…」

 

「よかった」

「でも、ボクは今までそういうふうに過ごしたことがなくて…。どうすればいいのか…」

 

「何事にも初めてはあります。なので、これからゆったりする練習をしましょう」

「ゆったりする練習」

 

「はい。という訳で…」

「あ、え、と…? アキラ様? こっちにきて、何を?わ、わっ…?」

 

「落ち着いてください。そして、ゆっくり力を抜いてくださいね。これから、二人で一緒に二度寝をしましょう」

「で、でも、そんなことをしたら朝ご飯、遅れますよ…?」

 

「まだ余裕はありますから大丈夫です。朝食の時間に間に合えばよし、間に合わなくてもゆっくりできたということでまたよしです。寝坊も休日の醍醐味です」

「本当に、いいんですか?」

 

「いいんです。働く日と休む日のメリハリが大事ですから」

「メリハリ…」

 

「はい」

「…でも、アキラ様」

 

「どうしましたか?」

「その、ベッドが同じなのは…」

 

「夜じゃないのでセーフです」

「そ、そうですか…?」

 

「そうですよ」

「わ…」

 

 

 苦しい言い訳をして、エディ君の頭を抱きかかえる。

 エディ君が流されやす…、コホン、素直ないい子で良かった。

 心地良い薄闇の中、頭を何度も優しく撫でる。そうしていると、彼の呼吸が少しずつ寝息に変わりつつある気配がした。少しでも緩まればいいなあ。

 

 

「…時々、アキラ様は強引です」

「はい、実はそうなんです。エディ様は、実は押しに弱いですね?」

 

「う…」

「そういう所が少し心配です。さ、ゆっくり休んでください」

 

「はい…」

「あともう少しだけ、おやすみなさい」

 

「…おやすみなさい…」

 

 

 うん。この現実に比べたら、僕の悩みなんてちっぽけなものだね。

 そもそも、男女関係の悩みなんて10歳の僕には身に余る。

 

 さすが女神様。重ねて、見事な采配だと言わざるを得ない。

 勇者を支えるという使命に専念できるように、あえて僕を小さな子どもの体にしてくれたのだと分かる。 

 

 体がとても小さいから、恋をしなければならない、という大気圧のような暗黙のルールから逃れることができる。

 恋愛的な意味でエディ君を好きにならなくても、不自然でもなんでもない。

 好きになってもいいし、ならなくてもいい。

 

 恋愛感情がなくてもエディ君をハグすることが許される。友人のように。家族のように。

 

 

 

  ◇◇◇

 

 

 

 一時間後。

 同じベッドでほぼ二人同時に目覚めた時、思い切りローブがはだけていて下着と肌着が大活躍だった。エディ君は真っ赤だった。本当、恥ずかしがり屋だなあ。いつになったら慣れるのやら。

 

 

「寝すぎて頭がぼんやりします」

「夜型の生活をしている人はお昼過ぎまで寝ているそうですよ」

 

「そんなズボラな生活ができるなんて信じられません…」

「どうしても朝起きれない人もいるそうです」

 

「それなら仕方ないですね…」

「はい」

 

 

 いい感じにふやけて口が軽くなったエディ君を連れて食堂へ行くと、時間ギリギリで朝食を貰うことができた。どうやら、初めて寝坊した僕たちの分を宿の人が取っていてくれていたようで「ゆっくり召し上がってください」とにこやかな笑顔で言われた。ありがとうございます。プロの気配りが身に沁みます。

 

 よし、次は食後の散歩だ。

 その後は部屋に引き籠って二人で過ごそう。ベッドメイク不要の札を下げてきたから、いつでも部屋に戻って休むことができる。完璧な休日プランだ。

 

 

「いい天気ですね。商店街の方に散歩に行きませんか?」

「アキラさんと一緒ならどこでも構いません。一緒に居られるだけで幸せですから」

 

 

 …ん?

 気のせいかな。のんびりモードのエディ君の言動がいつにも増して人たらしになってるような…。

 

 

「アキラさんはいつもボクに優しくしてくれて、笑顔が可愛くて幸せな気持ちになれます。大好きです」

「っ…、あっ、ありがとうございます」

 

 

 恐ろしい子だ。

 

 照れてないよ?

 ごめんなさい、嘘をつきました。不意打ちで不整脈を起こしました。

 

 10歳ロリ天使は圧力からは自由でも、勇者から照射される指向性エネルギーには弱いようだ。

 

 

 ――ていうか告白された?

 

 

 まさかね。まさかまさか。友達的なあれだよね。もしくは妹に対する。家族的な。あれ。そんな、交際を申し込む的なあれじゃなかったし。そういう表情じゃないし。あれー?

 

 にぎにぎ。

 

 …本当、いい散歩日和だ。

 午前中の銀星街はまだ通行人がまばらで、人目が少なくて気晴らし(現実逃避)の散歩にはうってつけのシチュエーションだ。開店したばかりのお店も多く、新鮮な空気が街路の上を吹き抜けていく。

 

 

「……」

「……」

 

 

 途中、あまりに沈黙がくすぐったかったので、お茶屋さんの店頭で売られていたみたらし団子風の団子を買い、軒先の長椅子に座って休憩することにした。

 あむ。甘じょっぱくて美味しい。

 ピコンと閃く。

 

 

「はい、お兄ちゃん。あーん、です」

「あ、えっと…」

 

「あーん」

「…あーん」

 

「美味しいですか?」

「…美味しいです」

 

 

 エディ君が嬉しそうだと僕も嬉しい。

 エディ君が幸せだと僕も幸せだ。

 

 きりっとした顔のカッコいいエディ君も好きだし、今みたいなのんびりした顔の可愛いエディ君も好きだ。

 

 友達としてね。あるいは妹として。

 

 エディ君と僕は、無二の親友で、かけがえのないパートナーだ。それ以上は望み過ぎだ。

 毎晩寝る前にハグもしてるし、うん、十分十分。

 

 そもそも、エディ君はロリコンじゃないし――

 

 ――ああ駄目だ。茹ってるなあ。

 

 ロリ天使の頭脳恐るべし。前の僕だったらあり得ない思考パターンだ。絶対、脳にも性差あるって。

 

 

「アキラさん? どうしましたか?」

「なんでもな…、くはないです。お兄ちゃんのことを考えていました」

 

「ボクのことですか…? ええと、それはどんな…」

「お兄ちゃんが入浴してる時に不意打ちで突撃するのは、中々いいアイデアかなと」

 

「アキラさん?」

 

 

 いきなり何言ってるんですか、という控えめな眼差し。

 そのジト目も好きだ。

 

 

「ごめんなさい」

「もう」

 

「でも実際、いきなり裸で突撃されたら拒み切れないですよね?」

「それは…。僕は、アキラさんはそんなことをしないって信じてますから」

 

「くす、そう言われてしまったら、我慢して諦めるしかありません」

「そもそも、本当はそんなに思っていませんよね…?一緒にお風呂に入りたいって。ボクをからかいたいだけで…」

 

「そうですね。お風呂云々自体は本当の目的ではありません」

「やっぱり」

 

「少し残念そうに見えます」

「そんなことはありません」

 

「そうですか?」

「そうです」

 

「お風呂云々は手段に過ぎなくて、お兄ちゃんとイチャイチャできるならなんだっていいんです」

「っ…」

 

「今度は、少し嬉しそうです」

「もう…」

 

「実は、くっつかれるの、まんざらじゃなかったりしますか?」

「む…」

 

 

 いい加減にしないと駄目ですよ、という優しい眼差し。

 ああ、癖になってしまいそうだ。

 

 でも、調子に乗って嫌われたくはない。慣れるのはいいけど、狎れるのは駄目だ。これ以上は自重しよう。

 

 

「色々なお店があってウィンドウショッピングだけでも楽しいです」

「そうですね。ふふっ」

 

「どうしましたか?」

「あ、すみません。つい。ウィンドウショッピングの語感が良くて。アキラさんは大昔の言葉が堪能ですね」

 

 

 他愛のないことを喋りながら雑貨屋や書店等、目についたお店を巡っていく。

 お洒落な店内を一巡りするだけでも楽しくて、あっという間に時間が過ぎていった。

 

 そして結局眺めるだけでは我慢できず、雑貨屋で見つけた将棋の立派な盤と駒を、書店ではハンターギルド発行の分厚い魔物図鑑を購入した。

 

 大事に使えばどちらも一生ものの品になるだろう、ということでエディ君からお許しが出ました。

 その代わり、二つとも高級品で出費が激しかったので、残念ながら僕の衣服の購入はまたの機会になりました。

 

 エディ君、何気に本気で残念そうだった。そんなに僕の私服姿を見たいのだろうか。

 だったら検討しなくもないのだけど…。

 

 

「あっ…」

「どうしましたか?」

 

「…ちょっとだけ時間をください」

「??」

 

 

 散歩の帰りがけ、お洒落なアパレルショップの前でエディ君が立ち止まる。そして、何かに衝き動かされたように店内へ入り、店外から見えていたとある陳列棚に向かい、迷いなく一つの商品を手に取り、真っ直ぐ会計へと持っていってしまった。

 

 あれは…。

 あまりに突然すぎて、僕は見ていることしかできなかった。彼のキリリとした決意溢れる表情と、営業スマイルで隠し切れていない店員さんの笑顔。

 

 そして。

 ちっとも高級品ではない、ささやかな、彼の両手に包まれた青いリボン。

 

 

「これを…。きっとアキラさんに似合います」

 

 

 あまりにびっくりして、お礼を言うことすら忘れてしまった。ほとんど無意識の内にシンプルで綺麗な藍色のリボンを手に取る。僕の瞳と同じ色だ。

 

 髪に結わえましょうか、と店員さんが気を利かせて聞いてきてくれたので、お願いします、と小さく答えた。

 じっとしていると、店員さんの細い指が割れ物を扱う様にそっと片側の髪の束を手に取り、リボンと一緒に三つ編みにしてくれた。そして、とてもお似合いですよ、と姿見に僕の姿を映してくれる。

 

 新しい自分を直視するのはこれで二度目だ。

 毎朝、洗面台の鏡の前では意識的に目を逸らしているから。

 

 ……。

 

 光の当たり方によっては銀色にも見える淡い空色の髪の一房に、新品の藍色のリボンが緩やかに巻き付き、頭の横から肩口へと流れていた。

 

 これが僕?

 

 自分に見惚れたわけではなかったけれど、とてもびっくりした。

 

 一瞬、これが自分だとは信じられなかった。

 あまりに女の子で。

 

 どう見ても少女だった。リボンがとてもよく似合っていた。藍色の瞳が美しく煌めいていた。

 この中に僕がいるとは思えないくらいに。

 

 君は誰?

 

 

 ――その問いが危険なものであることは知っている。分かっている。僕は僕だ。それは間違えない。

 

 

 ――でも。そろそろいいのかもしれない。一週間以上経って、昔の夢を見てここが新しい現実だと気付いたように、本当の意味で、心から、僕はこの僕だと認めてもいい頃合いなのかもしれない。

 

 

「本当によく似合っています。その…、綺麗です。本当に」

 

 

 半分くらい照れが混じっているのがエディ君らしかった。さっきまでは男らしかったのに。告白紛いのことまでしてきたのに。

 

 ううん、違うか。

 

 どこまでも、エディ君らしいんだ。エディ君はエディ君だ。

 

 

「ありがとうございます。一生大事にします」

 

 

 一生忘れられないことがどんどん増えていく。このささやかな一幕も、僕は決して忘れないだろう。

 

 

「あの…、リボンの結び方を教えてもらってもいいですか?」

 

 

 これは、吹っ切れた僕の言葉。ほんの小さな少女の声で、僕自身の願望だった。

 

 店員さんはそんな子どもの我儘に嫌な顔一つせず、微笑ましそうに色々な結び方を教えてくれた。更に特別サービスで、リボンを使わない、色々な髪の編み方も。

 

 それから。

 

 …どんどんノリノリになっていく店員さんのテンションに押されっぱなしでした。それに、途中から遠巻きのギャラリーが増えてきて、内心では引いてました。

 見覚えのあるハンターさん達も交ざってたなあ。笛を鳴らして、ナンパも勧誘も撮影も禁止でーす、って、あのノリはギルド内限定じゃなかったのか…。

 

 

 

  ◇◇◇

 

 

 

 宿に帰ってからは魔物図鑑をパラパラ捲ってみたり、のんびり将棋をしたりしてゆったりと過ごした。

 

 魔物図鑑はハンターギルド監修というお墨付きもあり、公開可能な300体以上の魔物がイラスト付きでかなり事細かに解説されていた。暗記しようとすればできなくはないかな。ふむふむ。

 

 こちらの将棋はエノマ将棋ともいうそうで、エノマというのは娯楽や芸術といった文化保護を謳った昔の貴族の名前らしい。そしてこの将棋はエノマさんが更に大昔の魔導帝国遺跡から再発見し、由緒正しい娯楽品として再び世界中に広めた盤上ゲームとのこと。

 ルールはチェスと日本の将棋を足したものに近く、10掛ける10の100マスと10種類24個の駒を使い、持ち駒あり、成・不成ありで相手のキングを取った方が勝ちになる。

 憶えることは将棋よりも少し多いかな。でもエディ君の教え方が丁寧で分かりやすかったし、天使の天才的な頭脳のお陰ですぐに把握することができた。もちろん教え上手なエディ君を誉めちぎった。

 

 それから軽く三戦。結果は零勝三敗。

 手加減なしでって勝負の前に何度もお願いしたからね。しょうがないね。ぐぬぬ。

 

 申し訳なさそうにしているエディ君に、エノマ将棋のセオリーやパターンを手取り足取り一つずつ教えてもらいました。

 ごめん、嘘ついた。手取りだけです。ベッドの上で足取ったらエロい意味になっちゃうからね。

 エディ君、初心者って言ってたけど、これはもう中級者くらいじゃないかな。なので将棋上手なエディ君を誉めちぎった。

 

 誉められすぎて困りますという苦情は受け付けません。もっと誉めるよ。まだまだ誉めるよ。目指せ、自己肯定感&自己効力感。セルフエスティーム(self-esteem)、セルフエフィカシー(self-efficacy)!!!

 

 

 

  ◇◇◇

 

 

 

「エディ様。そっちに行きますね」

「…はい」

 

 

 休日の最後。寝る前のハグ。エディ君がベッドに腰かけて、少し広げた脚の間に立った僕が真正面からエディ君の頭を抱きかかえる。そしてゆっくりと何度も頭と背中を撫でる。

 うん、この形が一番しっくりくる。

 肌着越しに胸にかかる吐息がくすぐったい。

 

 

「おやすみなさい」

「おやすみなさい」

 

 

 

  ◇◇◇

 

 

 

 翌日、朝一で朝食を摂って宿を出る。

 藍色のリボンは寝室の戸棚に大事にしまっていく。このリボンだけは絶対に失えない。一生の宝物だ。

 

 これから、黄昏領域で三度目の戦争を行う。

 僕もエディ君も絶好調だ。天気もいい。

 

 

「心に重さを感じません。アキラ様のお陰で、昨日ゆっくり休めたからだと思います。こんなに調子がいいのは久しぶりです」

「よかった。でも、ということはエディ様は今までずっと心に重さを感じてたということですね」

 

「うっ…。はい…。黙っていてすみません…」

「これからは、疲れを感じたら遠慮なく言ってくださいね。道は長いので無理は禁物です」

 

「はい。約束します」

「よかった」

 

 

 昨日の散歩デートが甘い夢だったかのように、エディ君はエディ君らしく表情を引き締め、生真面目に返答する。

 だから、僕も僕らしく、全力で天使の役目を全うしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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