TSロリ天使と薄幸ショタ勇者の崖っぷち青春戦記【第一部完結】 作:◆KKE
5月29日、フレミオ日。橙の日。
この世界に来たのは4月29日。あれから一か月が過ぎ去り、エディ君との生活が二か月目に入った。
思えば一日一日が濃密で長かったような、過ぎればあっという間だったような。
日常と戦場の落差が激しすぎるという難点はあるものの、大きな不満はない。
幸せと言ってもいい。幸せだ。
「おはようございます」
「おはようございます」
今日も気持ちの良い挨拶をして身だしなみを整え、リボンを結わえ、朝食を摂る。その時間をかみしめる。
フレミオ日の今日はハントの日だ。
魔物を侮っている訳ではないけれど、どちらかと言えば日常寄り。というか、陰魔が酷すぎるのだ。あれに比べると大抵のことは対処可能に思えてしまう。陰魔酷すぎ問題。
とはいえ、昨日は昨日。今日は今日。まだ朝早くの時間にエディ君と二人で意気揚々と外出する。
いくらスポンサー問題が解決しそうだと言っても、ハンターになった以上はちゃんと働かないといけない。
多少は体を動かさないと鈍ってしまうし、お金を稼いでおくことに越したことはないのだ。
「街のこちら側に来るのは初めてですね」
「はい。実は、ちょっと楽しみです。…大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です。少しずつ慣れていかないといけませんから」
「エディ君はちゃんと堂々とできています。とても立派ですよ」
「ありがとうございます。アキラさんこそ、眩しいくらい綺麗で…、とても目立っています」
「…そうですね」
二人で向かう先はテイガンド北区の北市門。
先日めでたく赤鉄級ハンターへとランクアップし、初めてレベル3狩猟区であるヒガン湿地に足を踏み入れることになったからだ。
そして、物凄く目立っている。
今までお世話になっていた薄墨色の法服を脱ぎ去り、勇者本来、天使本来の天衣衣装を白日の下に晒すようになってからまだ日が浅く、行く道行く道で好奇やら驚きやらの視線を向けられている。
こういうのは気にしすぎてしまったらよくない。これが普通ですよ、みたいな感じで自然体でいればその内周囲も普通普通、みたいな感じで受け止めてくれるものだ。だからエディ君、綺麗だなんて誉め言葉は付け加えなくていいんだよ。本当だよ。嬉しいのも本当だけど。
「「おはようございます」」
「おはようさん。じゃあ行こうか」
街路の案内板に従って、北区のコンテナ集積所でカサンドラさんと無事合流する。カサンドラさんはいつも通り、普通な感じで僕たちを待っていてくれた。
それが本当に有り難い。
目的地のヒガン湿地はテイガンド北市門から始まる中央街道を北上した先にある。
世界地図によると、中央街道はテイガンド直轄の魔法農園とヒガン湿地の真ん中を縦断するように真北へと伸びている。そのまま道をたどって湿地を越えると見渡す限りの穀倉地帯が広がり(こちらはあまり魔法的ではない普通寄りの麦畑)、やがてその一大穀倉地帯を所有する農業都市シェカンにたどり着くようだ。
「こっちの門から出るのは初めてかい?中央街道は世界最大の錬金都市や王都セイヴリード、最北端の聖水の湖まで延々と続くレヴァリアの背骨であり、大動脈だからね。時間を惜しんで、馬も人間も使って商品の詰まったコンテナを運び続けてるのさ」
中央街道。
名前は簡素だけど、その威容は並の光景ではない。百聞は一見に如かず。
大きな馬車4台が並走できそうなくらい幅が広く、アスファルトのような硬い材質で平らに舗装された立派な街道が遥か地平編まで続いている。
その道は、大人の背丈ほどもある特別大きくて真っ白な『鎮護の石柵』によって道の左右を区切られた、一種の線形の結界だ。
大結界の中心に位置する王都セイヴリードと女神教大神殿を中心に、かつてエディ君が閉じ込められた北端の神殿まで続く、5000年もの歴史によって踏み固められた世界の枢軸。
主要都市だけでも、南から順に農業都市シェカン、錬金都市ケディゲンヘル、迷宮都市ルナーナ、王都セイヴリード、魔導都市ユークン、交易都市ルジュア、地下都市ゼクタム。
無論、街道を外れたところにも活気に満ちた大都市が点在している。鉱脈都市、河港都市、王墓都市、屠龍都市、学園都市、享楽都市…。
「テイガンドは世界南端の辺境都市だけど、良質な狩猟区に恵まれた狩猟都市でもある。東のドーウィ森林に、西のオオイル山。二つの狩場から得られた魔物や素材が主に工場で大量加工されて北へ輸出されているって寸法さ。自然から直に調達できる素材が豊富で、リリアのような個人経営の錬金術師が多いのも特徴だね」
「なるほど。ハンターギルドが立派なのもそう言う理由があったんですね」
「それじゃあ、北のヒガン湿地はどんなところなんですか?」
「ああ、あの湿地だけはちょっとばかし扱いが難しいね。ハンターの鬼門だ。ちいと魔物が厄介すぎて、赤鉄級の間だけ他の都市に籍を移すハンターが続出するくらいさ」
「鬼門」
「まあ厄介な分、もし上手く仕留められたら相当美味しい魔物だ。多分、アンタ達ならいい稼ぎができるんじゃないかい?」
「はい。ダメもとで試してみます」
魔物図鑑によると、ヒガン湿地は面積の9割がレベル3エリアに区分されていて、生息する魔物は主にウォータースライムとポイズンスライム、ノーブルラット。
湿地の残り1割がレベル4エリアの危険地帯であり、スワンプスライムのみが棲息している。
ギルドの資料室でさらに詳しく調べてみたところ、テイガンドのハンターギルドに所属する『くず鉄』こと赤鉄級ハンターはヒガン湿地しか適したレベルの狩場がないようだ。
しかし1ランク上の『鉄板』の鋼鉄級に上がると、次はあの唸る樫ことロアーオークが蠢くドーウィ森林中層か、食用可能な肉と強靭な角を持った一角猪ホーンボアが棲息するオオイル山裾野のどちかを選べるようになる。同時に、魔力合成物を含む植物や鉱石等、貴重な素材の採取も解禁されるため、まさにハンターの面目躍如となる。安定した高額所得ハンターまであと一歩。
しかし、カサンドラさんが鬼門と評した通り、一人前まであと一歩というところで半人前ハンターの目の前にヒガン湿地という悪質な狩場が立ちはだかることになる。
ヒガン湿地は死の湿地。恐怖を知らない未熟な狩人はここで足を取られ、錆び付く間もなく問答無用の死に沈む。
賢明な者は他都市の見聞を広めるという名目でくず鉄の間だけギルドを移籍する。テイガンドのギルドに在籍したまま鉄板に到達するハンターはかなり少ないそうだ。
それもそのはず。
受付で貸し出された鍵を使って『関係者以外立入禁止』と厳重に書かれた石柵の門扉を開け、街道からほんの十数メートル外れた先に広がっていたのは――
「――まるで、スライムの楽園ですね」
少し感慨深く、少し困惑したようにエディ君が言葉を漏らした。
人間界から厳重に隔離されたスライムの楽園。街道のすぐ横に広がる死地。
辺り一面葦の生い茂る湿原の至る所にブヨブヨとした大きな半透明の物体がいくつも集まり、水辺でゆっくりと流れたり浮き沈みしたりを繰り返している。これだけでも苦手な人は生理的な嫌悪感を催すかもしれない。
「こんなにスライムばかりなのは、…スライムだからですか?」
「そう、スライムだからさ。ハンターにも獲物を選ぶ権利くらいはあるからね。溺死と溶解のリスクには見合わないって判断するのが普通さ」
そう、溺死。
窒息攻撃。
皮肉にも僕の十八番でもあるそれが、街の子どもでも知っているくらい有名なスライムの攻撃方法だ。…捕食方法でもある。
図鑑を参照すると、スライム類はアメーバかクラゲが魔性化した魔物であり、大部分が水分でできているという。元々水生の生物だったせいで、陸地での動きは鈍重で攻撃を当てることはとても容易い。ただし、スライム特有の弾力のある防護膜には物理攻撃にも魔法攻撃にも強い耐性があり、しかも強い再生能力も持っているため半端な威力ではいつまでも殺し切ることができない。
レベル3モンスターであるポイズンスライムは、獲物を見つけると鞭のような細長い触手を伸ばして筋肉を硬直させる毒針を打ち込み、伸縮性のある薄緑色の体で獲物の口と鼻を塞ごうとしてくる。毒には即効性こそないものの、神経が痺れて次第に力が入らなくなっていく焦燥と恐怖の中で冷静に対処できなければ、ズルズルと気道の中に侵入されてもがき苦しみながら窒息死する。
一方でウォータースライムは毒こそ持ってはいないものの、ほぼ無色の体とポイズンスライムの2倍以上の体積と質量を活かし、視認性の悪い葦原や水辺の足元から一気に這い上がって全身で圧し掛かってくる。押し返そうとしても水分の多い体内に手足が沈み込んでしまうため、パニックになって無闇に藻掻いてしまったらやはりアウト。
ウォータースライムは巨体の水分を維持するためにこの湿地から移動することは滅多にない。しかしポイズンスライムや危険地帯にいるスワンプスライムは稀に水辺の外側へと転がり出て、干からびるまでの間に農園や草原まで彷徨い、不幸な犠牲者を出すこともある。
窒息攻撃は肺呼吸生物にとってあまりに致命的だ。魔物にとっても、もちろん人間にとっても。
今まで、僕は魔物を水魔術で溺死させてきた。
でも、自分が同じ思いをしたいとは全く思わない。
「はっきり言って、比較的攻撃性が低いというだけの理由で放置されているレベル詐欺筆頭のモンスターだね。しかも弱点は核の魔石だけなのに、売り物になるのも、その魔石だけときた」
スライムも生物の一種である以上、決して無敵ではない。透明な体の中心にはビー玉くらいの小さくて丸い『膠原魔石』が浮かんでいて、その魔石がスライムの生命活動の核となっている。魔石さえ破壊すればスライムは即死し、ただの半透明のゼラチン状の物体だけが残る。
だから貫通力のある攻撃手段を持っていれば、赤鉄級でも一撃でスライムを倒すことは十分可能だ。
ただし、その場合は…。
「肝心の魔石を壊してしまったら、なんの儲けにもならない…」
「正解。スライムハントで儲けようと思ったら、魔石を無傷のまま残して再生不能になるまで胴体を削り取っていくしかないよ。毒と窒息に気を付けながらね。はっきり言って至難の業だ。で、それができるくらいの実力を得た頃にはもっと上にランクアップしていて他にも稼ぎやすい魔物が選り取り見取りだから、ここは放置されっぱなしという訳だ」
総合すると、とにかくスライムとは厄介な魔物なのだと理解して溜息をつくしかない。
特殊で高価な魔石を有しているという点ではロアーオークと似ている。しかしそれ以上に、初心者にとっては儲けを出すには危険すぎる、人間の天敵中の天敵である。
都市に比較的近い場所にある湿地がこうしてスライムの楽園として放置されているのは自然の摂理とも言える。
さてどうする、とカサンドラさんが軽く肩を竦めてくる。
「やってみます。アキラさん」
「はい。気を付けて」
とりあえずやってみよう。もし上手く魔石が採れたら今まで以上の稼ぎになることは間違いなし。
不謹慎かもだけど、ちょっと楽しみだ。
うん、そうだね。エディ君。
モンスターハントは、あれに比べればなんのその、だ。
精神を集中し、手の甲にある魔力路から魔力を抽出し、僕とエディ君の周囲に光の結界を展開する。通常出力(未調整内包魔力)は結界一つにつき約280まで上がっている。維持消費量は一分で5エルネ程。
「《ウィンドエッジ》」
瑠璃色の結界に包まれたエディ君が水辺の草地で丸まっているポイズンスライムへと慎重に接近し、まず一太刀。風の太刀はボヨンと大きくスライムの体を弾ませ、薄っすらとした傷口を残しただけで霧散してしまった。
攻撃を受けたスライムはすぐに浅い傷を再生。葉っぱに落ちた平べったい水滴のような体を弾むように伸縮させてエディ君に迫ってくる。体積は子ども一人分くらい。つまり僕達と同程度。移動速度はロアーオークよりやや早く、子どもの小走りくらい。数秒で距離を詰められる速度だ。
「《ウィンドブレード》」
今度は圧縮された暴風の直剣が振り下ろされる。
流れるような動作で形成され、エディ君の体を覆う聖なる天衣と闘気によって強化された一撃。大気を切り裂くような破断音と共に丸い魔石の1センチ横を切り裂き、スライムの体をほぼ二等分に両断した。
「あっ」
「…なるほど」
しかし、それでもスライムは止まらない。核が残された方の半分が切り離された方のもう半分へと体を押し付け、すぐに融合して体積が元に戻ってしまった。
そしてそのまま何事もなかったかのように前転し、形を丸く整えながら前進し続ける。
エディ君は慌てない。逃げもしない。
スライムが神経毒の詰まった触手を何本も勢いよく突き出しながら大きな体ごと飛び掛かってきて――ベタリ、とエディ君を包み込む光の結界と衝突した。そして地面へと滑り落ちないようにアメーバ状に体を伸ばして結界球面にへばり付いてくる。
さっきまではゆるキャラみたいに丸っこくて可愛かったのに、今は捕食者全開のグロ画像だ。やはり魔物は人とは相容れない存在なのか。
「アキラさん、どうですか?」
「このくらいなら何体乗ってきても大丈夫です」
どうやら、エディ君は最初からスライムの攻撃を受けるつもりだったようだ。
これは油断ではなく、それだけ結界の強度を――ひいては僕を信頼してくれていたということに他ならない。
あらゆる攻撃を防ぐ光の結界がある限り、何者もエディ君に危害を加えることはできない。そして結界を維持する僕の魔力は潤沢だ。
それでは、と一言入れてエディ君が結界の中で3回腕を振り、触手を突き立てながら結界に張り付いていた薄緑色のスライムを軽々と切り裂いていく。
シュパパッ。
そういう擬音語が聞こえたような気がした光景の直後、バラバラになったスライムの半透明の体が地面に重なっていき、最後に緑色の小さな丸い魔石が転がり落ちた。
「これで終わ…、いえ、地面に積み重なった体と魔石の部分がもう融合し始めています」
「本当に再生力が強いですね。これはこれで不死身っぽい感じです。…そうだ。ちょっと待って下さい。《ウォーターキューブ》」
ふと思い付いたことを実現すべく、先日習得できた水属性中級魔術を使用する。
空中に一辺1.5メートルの巨大な立方体を作り、再生途中のスライムをその中に丸ごと飲み込む。
次にスライムが逃げられないように内部へと強い圧力をかけ、エディ君の目線の高さまで浮かばせた。
「エディ君、このままキューブごと切ってみてください」
「なるほど…。はい、分かりました」
エディ君がもう一度ウィンドブレードの刃を振るい、水球もろともスライムの右半分を切断。
その瞬間、切り離された方のキューブの一部をタイミングよく操作して遠くの地面へと放り落とす。その結果、空中には体積が半分近く減少した直方体とスライムが残された。
魔石が残る左半分から伸ばされた触手が透明な直方体を突き破ってエディ君を狙う。しかし、スライムの攻撃は全て結界で阻めるので問題ない。
うん、成功。これなら上手くいきそうだ。
「なるほど、これなら上手く切り落とせそうです。ありがとうございます」
「どういたしまして」
それからエディ君が何度も腕を振り、その度に僕が切り離された方のスライムと水の一部を遠くに飛ばして落としていく。エディ君が切りやすいよう、いい具合に回転させるのも忘れずに。
スパンスパン。ボトリボトリ。
最終的に空中に残されのは、僅かに半透明のゼラチンがこびり付いた緑色のビー玉のような膠原魔石一つと、それを包み込む小さな多面体。
膠原魔石はスライムのゼラチンと神経系が凝縮して結晶化した魔石で、加工しやすく様々な用途がある。錬金術のネクタル水の素材としても使える高級素材だ。需要が多い割には供給が慢性的に不足しているため、買取りがとても期待できるのだ。
ここまででエディ君は40エルネ、僕は80エルネを消費。エディ君のキャパシティは1886、僕は3720。つまり、あと40体は狩れる。
それに、今まで僕はほとんど見ているしかできなかったので、こうして目に見える形でエディ君のお手伝いができるのはとても嬉しい。
「いやはや、こりゃ凄い。二人とも大したもんだ。これなら大儲けできるよ」
「採るのは魔石だけですから、コンテナを圧迫しませんね」
「狩り放題です」
上機嫌に笑うカサンドラさんが火ばさみのような道具を使ってヒョイと魔石を摘まみ上げ、手早く冷凍魔術をかける。
膠原魔石は僕の手のひらに乗るくらい小さいので容量的にもとてもコストパフォーマンスが良い。
これはいいと僕とエディ君もニンマリ笑った。珍しい、子どもらしい笑顔。
やったぜ。
お金儲けができて嬉しくない子どもなんていないぜ。
それから手当たり次第、俄然やる気を出したエディ君と協力して一心不乱にポイズンスライムとウォータースライムを狩り続けた。ウォータースライムの場合もやり方は基本的に同じ。ただ、ウォータースライムは小さくてもカサンドラさんくらい、大きくて自家用車くらいのサイズがあった為、流石に魔力がもったいなくてスルーするようになった。
多い時には10体以上のスライムがまとまって殺到してきて、目の前がスライムで埋め尽くされることもあった。
それでも、悪夢めいた陰魔の大群に比べると恐怖感や魔力の損耗は微々たるもの。光の結界は揺るがない。冷静に一体ずつ対処していく。ウォーターキューブ以外にも、土属性中級魔術である『サンドウォール』で即席の砂壁を作ったり、エディ君と一緒に風属性中級魔術『ウィンドハンマー』でボヨンと弾き返したりして時間を稼いだ。才能万歳。女神様ありがとうございます。
特に、2人でタイミングを合わせてウィンドハンマーを使った時はエディ君がとっても嬉しそうだったし、今日の僕は100点満点だ。
ただ実は、コンテナの半分近くはもう既にラット系モンスターで埋められている。
内訳は、草原の方でもお馴染みのファットラットとマッドラット。そしてレベル3のノーブルラット。ノーブルラットを頂点とした鼠系魔物の巣が湿地のあちこちにあるらしい。
それでスライムハントの最中に何度も鼠の群れに襲われてしまった。邪魔くさいと口にしないように注意しないと。魔獣の間引きはハンターの重要な役割だ。…更なるランクアップの為、ノーブルラットはいずれウォーターキューブの餌食になるだろう。
ぐずぐずの湿地は二本足で立つ人間にとっては悪条件で、スライムと鼠の波状攻撃は容赦ないけれど、僕をオプション装備したエディ君は無敵に近い。
天衣と結界があれば、端的に言って楽勝だ。慢心しないように気を付けないといけない。
そういえば、前にリリアさんが『二重時空構造を応用した高等魔法』って言っていたかな。
まさに今、結界がスライムの攻撃を防ぎ、同時にエディ君からの攻撃だけが一方的に結界をすり抜けてスライムに直撃するという現象が目の前で起きている(エディ君はいつもカッコいいなあ)。
細かく言えば不思議な現象は他にもある。光の結界はその球体全体が透明な瑠璃色をしているけれど、その内部にいる僕の視界が瑠璃色に染まることはない。外のものを見る時に認識上の阻害は全くなく、結界が完全に透き通っているようにも見えている。
まさしく高度な魔法であり、きっとその辺りのハイレベルなことも女神様が制御してくれているのだろう。いつもありがとうございます、女神様。
◇◇◇
本日の成果。ポイズンスライム28体、ウォータースライム3体、ノーブルラット4体、ファットラット10体、マッドラット15体。
――買取り総額、157万3092レン。
内、ポイズンスライム、ウォータースライムの膠原魔石一つにつき約4万5000レン。
レベル3モンスター、ノーブルラット一体で約20000レン。
レベル2モンスター、ファットラット一体で約12000レン。
レベル1モンスター、マッドラット一体で約7500レン。
……。
…えっ、157まん…?
◇◇◇
五等級マナ結晶:3万レン。回復魔力100エルネ。副作用強。一度の使用で消失。
四等級マナ結晶:8万レン。回復魔力200エルネ。副作用弱。一度の使用で消失。
三等級マナ結晶:20万レン。回復魔力400エルネ。副作用なし。一度の使用で消失。
二等級マナ結晶:100万レン。回復魔力1500エルネ。副作用なし。結晶内魔力が尽きるまで複数回使用可。回復速度大。
一等級マナ結晶:500万レン。回復魔力7000エルネ。副作用なし。結晶内魔力が尽きるまで複数回使用可。回復速度特大。
はい。
これがリリアさんのお店で売っているマナ結晶一覧になります。
三等級のマナ結晶から副作用がなくなる代わりに、値段は8万レンから20万レンへと更に倍以上になります。
インフレが凄い。
そして三等級から二等級は5倍。二等級から一等級も5倍。
インフレが激しい。
「どうしましょう」
「どうしましょう」
五~三等級マナ結晶は使い捨てで、一度結晶を使えば使用者のキャパシティを超過しても全ての魔力を放出して消えて無くなってしまう。
一方、二~一等級は結晶内に保存された魔力がなくなるまで何度でも小分けにして使用できるという利便性がある。
また、二等級と一等級は魔力の回復速度が三等級以下のものよりも優れているらしい。リリアさんのアドバイスによると、この付加価値はキャパシティや最大出力が大きい者ほど重要になってくる。
加護による僕からエディ君の魔力供給同様、マナ結晶による魔力回復も一瞬で行われる訳ではない。記憶が確かなら、四等級マナ結晶を使った時は200エルネが大体5秒で体内に充填されていたと思う。
最近は、エディ君が全力を出せば100~200くらいの魔力がほんの数秒間で消費されるようになってきた。
では、その辺りを踏まえてお買い物をしよう。
「うーん」
「うーん」
「(ニコニコ)」
四等級は副作用があって6つまでの使用が限界なので、回復できる魔力量は48万レンを消費しての1200エルネが限界。
これを三等級マナ結晶に変更した場合、1つ25万レンで400エルネの回復。6つ購入した場合は150万レンで2400エルネ。この対費用効果をどう評価するか。
また、マナ結晶は意外と大きくて重いので、一度に持てる数にも限りがある。いくら天衣のポケットをある程度自分で調整できるとはいえ、パンパンに詰め込んでしまったら不格好になってしまうし、空中を飛び回る時にガチャガチャして零れ落ちてしまうかもしれない。左右に4個ずつの8個が限界だろう。
結局、悩みに悩み抜き、エディ君が代表して三等級8個を購入。回復できる魔力は3200エルネ、費用は160万レン。
スライムハントの収入である157万から160万を引き、3万レンの赤字。ロアーオークハントで得られたボーナス金がまだたくさん残っているので大丈夫と判断した。
そして高額購入特典ということで、リリアさんがボタン付きの丈夫な手提げ袋をサービスしてくれて、結晶を一つ一つ丁寧に詰め込んでくれた。買い物袋として普段使いしたいくらいだ。
そうだ、こういう袋に結晶を入れて持っていけば…。
それにしてもおかしいな。一気に小金持ちになって、ちょっとは楽になると思ったのに…。
青天井にも程があるんじゃないかな?
「二等級と一等級の錬成には、ドーウィ森林古木層にいるレベル6モンスターから採れる竜髄魔石が必要になるの。在庫が減ったら、また一緒にハントに行こうね」
さっきからニコニコで見守っているリリアさんの純粋な厚意が身に沁みる。というかレベル6って。しかも竜髄魔石って、つまり相手はドラゴンですか?
「お金のこと、今度しっかり話し合おうね(ニコニコ)」
とても身に沁みる。
やっぱり、世界平和の為にはパトロンが必須なのだろうか。
十億無利子貸与してもらえたら…、いやでも…。
ううむ。
とにかく今はスライムを狩って狩って狩りまくるしかない。
エディ君とお店の端っこでこそこそ相談し、二人でしっかりと頷き合った。