TSロリ天使と薄幸ショタ勇者の崖っぷち青春戦記【第一部完結】   作:◆KKE

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052 継戦Ⅶ/ラスト6

 

 フーヤ先生はかつて栄華を誇った魔導帝国最後の王女であり、約千年前にコールドスリープから目覚めた眠り姫であり、現代では世界中の人たちから『導師』と呼ばれ、敬われている。

 

 王都セイグリードでも独自の地位と権力を持つ主塔魔法院に属し、魔法の研鑽と研究に長い人生の四分の一を捧げた偉人。

 その後ハンターギルドに属し、やはり人生の四分の一を捧げ、アクアマリンの宝石色を得た狩人。

 そして全ての地位を捨て、人生の四分の一、世界中を放浪している孤高の旅人。

 

 誰も知らない目覚めからの250年間を除き、フーヤ先生は大きく分けて3つの時代を持ち、その全てで誰もが知る偉業を成し遂げている。

 旅人時代においても魔法院やハンターギルドとは喧嘩別れをしたわけではなく、時々古巣に戻って共同研究をしたり、指名手配された高レベルモンスターの討伐に協力したりしているらしい。

 

 それでも公的な立場は固辞し続けていて、表向きは何の権力も有していない。

 導師という二つ名は、自分は魔導帝国の継承者に相応しい『魔導師』でも、ましてや『大魔導師』でもないと言い続けてきた彼女に対し、いつからか誰かが代わりにそう呼び始め、いつの間にか世界中に広まった無二の敬称だという。ただ、導く者と。

 導師フーヤ。深く大きな謎に包まれた世界最強の一角。

 

 そんな人が、リリアさんからの極秘の便り一つでテイガンドまでやってきてくれた。勇者エディンデルを支援するために。一人の旅人として、ありとあらゆる権益やしがらみを無視して。

 一般人の感覚からすればそんなにあっさり決めてもいいの、とか、色々な偉い人たちからの横槍とかやっかみとか大丈夫なのかな、とか思ってしまった。

 

 紅茶とお茶菓子を口にしながら、フーヤ先生の素性を世間話のようにペラペラしゃべり続けるリリアさんにも。

 

 

「大丈夫」

 

 

 先生は言った。リリアさんを無視するように。無表情のまま。

 

 

「花火を警告代わりにした、しばらく手出しはしてこない」

 

 

 それは多分、初めて会った日に空に向かって放った氷の彗星のことだろう。

 まさか、あの大魔術のデモンストレーションに脅しや警告の意味も持たせていたとは。かっこいい。

 

 

「フーヤ先生が成し遂げられてきた偉業は、テル様からたくさん教えてもらっています」

「それは光栄だ」

 

 

 エディ君もかなりフーヤ先生を尊敬しているようだ。それどころか人間的に惹かれている様子すらある。

 先生、と口にする言葉に心が込められている。

 

 トム、と口にする時と同じように。信頼できる年長者に対する敬意や安心感が発音に表れている。

 リリアさん、はちょっと違う感じかな。綺麗な女性ということもあるし、ほら、ちょっと油断ならない時があるし。

 

 アキラさん、と呼んでくる時の彼の表情と視線、声色については…、ノーコメントで。ごめんなさい、ハラハラドキドキさせている自覚はあります。

 

 

「フーヤ先生。少し質問してもいいですか?」

「構わない」

 

「ありがとうございます。その、聖剣は戦っている最中でもほとんど瞬間的にキャパシティから内包魔力へ魔力をチャージできます。タイムアクセルも同じように発動中に内包魔力にチャージして、持続時間を伸ばし続けることはできるでしょうか。訓練で試しても、どうしてもとっかかりすら上手くいかなくて」

「熟達すれば不可能ではない。しかし加速魔術はマジックスキルのチャージとは特に相性が悪く、習得は困難を極める。息を止めて全力で走りながら、鼻と口を使わずに酸素を肺に取り入れるようなものだ。現段階では内包魔力を増やし、加速度と持続時間を高めた方が有益。時間加速3倍、持続10秒は欲しい」

 

「分かりました。頑張ります」

「逆に、チャージと特に相性のいい魔法もある。特に闘気仙術と、あなた達が使う聖剣や結界、聖騎士の聖気等の聖術が当てはまる。つまり、聖術の遣い手は常に魔力充填を行わなければならないような、圧倒的多数を誇る大群との戦闘に特化していると言える。マルチやブースト等のマジックスキルについては別の機会に講義しよう。他に質問は?」

「はい。僕からもいいですか?」

 

「何か、アキラ」

「光の加護の聖術のように、魔術でも魔力を他人に分け与えることは可能ですか?」

 

「可能。そのような、魔力そのものを扱う特殊な魔術がある。それが私が開発中の魔術であり、仮に魔導魔術とでも言おうか。錬金術であれば、マナ結晶がすなわち魔導魔法であり、魔力譲渡魔法となる。難度としては、錬金術の方が低い。規模や発展性は魔導魔術の方が高いだろう」

「魔導魔術…。ありがとうございます。もう一ついいでしょうか」

 

「構わない。遠慮は無用。私は勇者と天使に最大限の便宜を図る」

「ありがとうございます、フーヤ先生。例えば、エディ君と僕がある一つの魔法を完成させるために数億の魔力を注ぎ続けなければいけないとしたら、それだけの魔力を絶え間なく回復し続けるにはどうすればいいでしょうか。今のところ、一等級マナ結晶数万個を誰かから直接渡し続けてもらうくらいしか思いつかなくて」

 

「……」

「ただし、僕達の内包魔力限界とは関係なく、その魔法の為だけの魔力の器が特別に用意されているものとします。ただ純粋に、事前に莫大な魔力を用意しておいて、回復しながら注ぎ続ける必要があるだけで…」

 

「それは、本当に例え話?」

「…いえ。大結界の外にいる、闇の魔王ギラーを爆撃して倒すためにそれだけの魔力が必要なんです。僕自身、信じ難い話だとは思っています」

「わ、それはすごい話だね。ここで話してよかったの?」

 

「はい、リリアさん、フーヤ先生。なるべく早い段階で、お二人には相談しておきたいと思っていました。もちろんエディ君にはすべて話しています」

「そう。それは、一回の試行で、数億か?つまり、途中まで器に注いだ魔力は保存されるか否か」

「いえ。たった一回で届かせる必要があります。目標値は3億エルネ…、一等級マナ結晶42891個分です」

 

「理解した。しかし何故、昨日の天使会議で議題に出さなかった?」

「それは…、ウィバクの解放がまだなのに、魔王の打倒について口にするのは大言壮語すぎると思ったからです。天使という立場から、解決不可能な問題を出していたずらに会議を混乱させたくありませんでした」

 

「次の会議で改めて提議し、リューダとトマス神官と共有すべき。ただし、機密のレベルを最大まで上げ、無記録の口伝としよう。今後、会議参加者が増えた場合は、その最重要機密を伝えるか否かは別個に判断するのがいいだろう」

「分かりました。そうします」

「だね。リュー君もトマス様も遠慮されたら悲しんじゃうよ。ふふっ、でも教えてくれてありがとうね。どうしようかフーちゃん、一等級4万個なんて世界中から掻き集めても足りないし、そもそも材料も全然足りないよ。うふふ。ドラゴンを狩り尽くすしかないかなあ」

 

「龍族がドラゴン種保護を謳っているためそれは難しいだろう。ハンターギルドも容認しない筈」

「だよね。うーん…」

 

「個人的な見解を述べる。私からは、私財を全て吐き出して換金すれば50億レンには届く。一等級マナ結晶に換算して1000個、魔力にしてたった700万エルネ程度。リリア、リューダも2人でそのくらいが限界だろう。リリアが懸念している通り、どうやって4万個分の素材収集を行い、生産体制を確立するかという問題もある。3億エルネもの蓄積を達成するには、私たちと同水準の宝石級ハンターや最高位錬金術師、もしくは資産家、権力者たちの協力が不可欠になる。もしくは、王都に赴き、盟主か神子に直談判するか」

「(ごくり)」

「(ごくり)」

 

「世界解放のためとはいえ、無償で支援を行う奇特な人間は現れないだろう。あなた達の正体を信じ、現状を正しく理解したとしても。支援の対価として大小さまざまな条件を要求されることを覚悟しておくべき。公平かつ正常な契約とはそういうものだ」

「それは…、はい。分かりました」

 

「寧ろ、無条件で支援すると言って寄ってきた者をこそ警戒すべき。只より高い物はない」

「それは…、えっと」

 

「? 何か?」

「こういうところあるよね、フーちゃんって。まあ、私も人のこと言えないんだけど」

「……。あくまで、私たちは変わり者の例外だ。リリアは頓着がなさすぎる。私は根無し草だから問題ない。それとも、何か要求した方がいいか?」

 

「ええと、例えば?」

「ふむ、では『真実』を求めようか」

「あっ、ずるい。じゃあ…、私は『名前』ね」

 

「真実と、名前ですか?」

「そう。いつか、あなた達がたどり着いた世界の真実を私に教えて欲しい。それだけでいい。それで十分だ」

「2人には名付け親になって欲しいな。私の子どもの。駄目?」

「えっ、リリアさん、もしかしてリューダさんと」

 

「ううん、まだだよ。将来的な話。そもそもまだしたことないし。でもね、そろそろ求婚されそうな気がするの。うふふ」

「……」

「……」

 

「空気を読め。リリア」

「む、フーちゃんこそ相変わらず硬すぎるよ。真面目過ぎ」

「……」

「……」

 

「くす。はい、分かりました。お二人がそれでよければ。エディ君もそれでいい?」

「は、はい。頑張って考えます」

「楽しみにしている」

「私も。ふふっ」

 

「遥か先の未来まで、選択権はあなた達にあり、強制はしない。為したいように為すといい」

「はい」

「はい」

 

「いい返事だ」

 

「あなた達でよかった」

 

「…以上だ。では、一般相対性理論の講義に入る。空間掌握や絶対停止、瞬間移動、そしてアキラが言うところの『アイテムボックス』を習得するためには時空間という事象に対する深い理解が不可欠だ。私もアイテムボックスなる概念には興味がある。道は遠いが、いつかアキラと共同研究をしてみたいものだ。エディンデルは絶対停止と、その解除魔術を目指せ。我が師、大魔導師タキオスが『最後の勇者』に伝えるべき預言を預かっている」

「はい、先生」

「フーヤ先生」

 

「待て急に抱きついてくるな子どもか」

「「はいっ」」

 

 

 フーヤ先生の偉大さを度外視したとしても、エディ君には、先生と呼ばれる人たちに対する並々ならぬ思い入れがあるのだろう。プライベートな感情を抜きにしては語れない、過去と紐づけされた特別な概念。観念。

 

 エディ君の心が大事だ。

 彼の心がどんなものにどのように向いているのかが。

 

 とても当たり前のことではあるけれど、それを意識し続け、尊重し続けるのはとても難しい。

 使命にかまけていれば、気付かない内に積み重なる課題の下へと埋もれていく。

 

 日常の人間関係でそれは見えてくる。

 二人きりのままでは見えない。

 僕に対する心の向け方ですら、他者と関わりがなければ正しく理解できない。比較と内省は欠かせない。

 

 そういう意味でも。

 フーヤ先生、これからもどうか末永くよろしくお願いします。

 

 

「いいなあ。先生、いいなあ。私も何か特別な呼ばれ方したいなあ」

「…えっと。じゃあ…、リリア博士?」

 

「博士…」

「あれは感極まっている表情だ」

「そうなんですか?」

 

「いい…」

「いいんだ…」

 

 

 

  ◇◇◇

 

 

 

 7月13日、エシス日(緑の日)。

 第18回ウィバク黄昏領域解放戦。

 

 消費魔力152891

 ・エディンデル20767、アキラ39124 小計59891

 ・マナ結晶 二等級1500×16、一等級7000×3 小計45000

 ・純白の宝珠 24000×1 小計24000

 ・聖者の守護印 12000×2 小計24000

 

 撃破数1200

 ・騎士級1088 消費魔力約103000

 ・楽士級111  消費魔力約6000

 ・神官級(黒剣体)1 消費魔力約45000

 

 撃破累計55112/78000

 ・表層部26287 兵士級16669、戦士級 8338、騎士級1260、楽士級  20

 ・中層部26261 兵士級10412、戦士級13900、騎士級1181、楽士級 768

 ・深層部 2564 兵士級  354、戦士級  351、騎士級1640、楽士級 217、神官級2

 ・小計 55112 兵士級27435、戦士級22589、騎士級4081、楽士級1005、神官級2

 

 復活後最大魔力

 ・エディンデル28440、アキラ53600

 

 備考・分析

 ・各加速効果

 ○アクセルリング1.01(エディンデル、アキラ共通):時間加速1.55倍。少なくとも11.0主観秒持続。自壊するまで効果中断と再使用が可能。時価。

 ○タイムアクセル(エディンデル、アキラ共通):時間加速1.97倍。最大持続時間約5.1主観秒。

 ○光の加護(エディンデルのみ有効):通常出力時1.66倍、最大出力時2.21倍

 

 ・聖剣技

 ○基本性能:最大出力459エルネ、最大射程562メートル。

 ○一閃:精神統一約1.5秒~2.0秒(3.4主観秒)、発動可能出力47~64エルネ、発動可能射程477~643メートル。

 ○煌閃:最大で九閃。加速約6.75倍(1.55×1.97×2.21)。3.5主観秒の精神統一の後、0.9主観秒の9連続疑似空間切断攻撃。

 ○極閃:生命力を消費し限界突破。最大出力は12000以上。射程約1キロメートル。楽士級障壁体の最大障壁ごと神官級を撃破可能。

 ○レーヴァテイン:生命力を消費し限界突破。極閃とは異なり即時発動と広範囲殲滅攻撃が可能。射程約700メートル。一撃につき3000以上。

 

 ・15万弱の魔力を消費。

 二等級マナ結晶16個、二等級ネクタル水を4個購入。支出2000万レン。

 一等級マナ結晶3個はフーヤ先生からの無償提供。断れず。

 アクセルリング8個がリリアさん、リューダさん、フーヤ先生から共同で無償提供。日々、少しずつ改良されていっている。製作費を聞いても時価としか答えてくれない。

 守護印40個分からは騎士霊96名、神官霊24名。光霊軍120名は騎士級250体程度の1個大隊と互角以上。

 

 ・神官級撃破による影響か、二回連続で魔力容量が大幅に増大している。

 神官級1体撃破で、エディ君のキャパシティが6000~8000増加か。

 

 ・遭遇した騎士級大隊は、順に361体、185体、244体、325体、445体。消費魔力約103000。

 騎士級一体につき約95エルネを消費。

 加速魔術と聖剣技の熟達によって戦闘は日々効率化できているが、それでも騎士級に対する消費魔力が10万を超えた。敵の中核は神官級だが、真の主力は師団規模の騎士級であることを痛感させられる。 

 

 ・前回同様、砂漠地下に大量に潜伏している楽士級は煌閃で撃破。煌閃を6度使用。

 

 ・騎士級約1000体、楽士級約100体を倒した時点で神官級黒剣体へ接近、交戦。約4.2キロメートルもの攻撃射程の他、長大な黒剣の生成速度と投擲速度、操作精度が高く、また楽士級32体分の増強効果もあり極めて精強。黒剣体との戦闘中、右側面に封印された神官級流砂体が起こす強烈な砂嵐の影響もあり、決定打を与えられないまま一進一退の攻防が繰り広げられた。時間加速を最大限活用し、攻撃を掻い潜りながら距離1キロメートルまで接近。最終的に2人の全生命力を対価にした極大の『極閃』で障壁体32体分の障壁を貫き、撃破に成功した。

 また、砂嵐の浸食作用により結界が損耗し続け、砂嵐だけで約10000エルネを消費した。

 

 ・左側の神官級蛇心体は前回撃破済みの為、同時に交戦した神官級は右側の流砂体のみに留まる。今後も反時計回りに7つの円柱を巡っていけば、神官級の同時交戦数は2体のみに留めることが可能。

 

 ・兵士級、戦士級とは遭遇せず。前回殲滅し切れなかった陰魔集合体の残党とも遭遇しなかったため、神官級蛇心体が未だ一体以上存在しており、その周辺で再編されていることが想定される。

 

 ・黄昏領域に存在する騎士級は全体の24~26%に当たり、ウィバクではおよそ18720~20280。また、楽士級は全体の3~4%であり、およそ2340~3120。よって、騎士級は残り約14600~16200、楽士級は約1300~2100。

 今の成長速度でも、残り5回でウィバクを開放は厳しいか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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