TSロリ天使と薄幸ショタ勇者の崖っぷち青春戦記【第一部完結】   作:◆KKE

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055 継戦Ⅹ/ラスト3

 

 

 どれだけ戦っても、どれだけ死んでも、何度でも復活し、日常が続く。

 

 大丈夫ですか、とエディ君に問う。

 

 大丈夫です、とエディ君は答える。

 

 優しく微笑んで。まだ、という言葉を隠して。

 

 心がすり減っていく音が聞こえる。

 

 エディ君も。僕も。

 

 うん、大丈夫。まだ大丈夫だ。

 

 気がつけば崖っぷちまで一歩近づいてしまっていたけれど、まだ。まだ、二歩手前。

 

 だからこのくらい、なんてことない。このくらいなら経験済みだ。父さんがワーカホリックになって、鬱病になって死にかけて、家の中がちょっと暗黒になった時に。

 

 だから、まだ、大丈夫。

 

 あの日、あと6回でウィバク解放をするとエディ君が決意したのは英断だった。あれから十数回も死と復活を繰り返していたら、きっと解放が叶う前に精神的に参っていたと思う。

 

 死は確実に僕たちの精神を摩耗させている。

 

 それがいよいよ顕在化してきただけ。仕方がない。戦いで死んでしまうことが何の悪影響もないなんて、あり得ない。完璧に作り直されるのは体だけ。精神は僕たちの領分であり、相手が女神様であっても、おいそれと譲り渡してはいけないものだ。それに、女神様は僕たちの心を弄らない。完全な死という自由を与えてくれていることから、それは明らかだ。

 

 …方針を少し曲げ、エディ君を説得して少し休むべきだろうか。

 

 ウィバク解放のラストスパートに集中する為、前回の解放戦後、ハンターの仕事の方はしばらく休ませてもらうことにした(カサンドラさんとの約束は万全の状態で果たしたい。イノシシマラソンに臨む頃には劇的に状況が変わっているだろう)。

 

 思い切ってウィバク解放戦も休んで、1~2週間何もせずに心を労わる時間を取るべきか。

 留まるべきか、進むべきか。

 

 本当に大丈夫ですか、とエディ君に問う。

 

 本当に大丈夫です、とエディ君は答える。

 

 勘を鈍らせたくありません、このまま最後まで行けます、という意志を隠さずに。

 

 うん。信じよう。信じるよ。そんな目をしなくても大丈夫。君の意思を尊重する。

 

 その代わり、終わったら思い切り甘やかすから覚悟しててね。

 

 僕?

 

 もちろん、大丈夫だよ。なんたって…

 

 

「アキラちゃん。ユウ君」

「セーラちゃん。こんにちは」

「こんにちは」

 

「うん、こんにちは。いい天気だね」

「うん。風が涼しくて気持ちいいね。セーラちゃんもお散歩?」

 

「そうだよ。気晴らしの散歩。ううん、うそ」

「うそ?」

 

「うん。本当はアキラちゃんとユウ君を探してたの」

「僕たちを?」

 

「そうだよ。ほら、私は運悪くバイトが休みだったから。アキラちゃん達が鉄板ハンターに上がった日…。だから、早く言いたかったの。二人とも、本当におめでとう。よく頑張ったね」

「ありがとう、セーラちゃん」

「ありがとうございます」

 

「ふふ…。みんなからの激励、すごかったみたいだね。見たかったなあ。というか、私も一緒にムリセズガンバレーって叫びたかった」

「くす」

 

「アキラちゃん。私ね」

「うん」

 

「……(ぎゅう)」

「セーラちゃん?」

 

「おまじない。アキラちゃんが元気になりますようにって」

「……」

 

「ユウ君には後でアキラちゃんが分けてあげてね。二人分の元気、アキラちゃんにあげておくから」

「そんなことをしたら、セーラちゃんから元気がなくなるよ?」

 

「私は大丈夫。なんたって…」

「なんたって?」

 

「無敵のお姉ちゃんだから。愛してる」

 

 

 

  ◇◇◇

 

 

 

 その日の夜、いつもより長くエディ君をハグし、セーラちゃんがくれた二人分の元気の半分を分けている間、僕は少し冷静になった頭の半分でセーラお姉ちゃんのことを考え続けていた。

 

 きっとセーラちゃんも僕たちの秘密に気付いている。それでもほとんど何も言わずにただ抱きしめてくれた。ただ、愛を教えてくれた。

 

 

「よかった」

「エディ君?」

 

「アキラさんが元気になって」

「…はい。エディ君も元気になれましたか?」

 

「はい。セーラさんとアキラさんのお陰です。本当に元気が流れてきたような感じがして」

「僕もです。お姉ちゃんって、すごいです」

 

「アキラさん。ボクは戦えます。嘘でも空元気でもありません。あと3回、全力を尽くします」

「僕もです。あと3回なら問題ありません。ちょっと崖っぷちでしんどいですが、頑張ります」

 

「よかった」

「?」

 

「やっと、アキラさんが弱音を吐いてくれて」

「あ…」

 

「本当に…」

 

 

 ああ、考え事をしていたせいで本音がぽろっと漏れてしまったのか。

 降参だ。どうやら、僕は無敵の天使ではいられないようだ。それでもいいか、と思ってしまうのだから、もう手遅れ。

 

 

「知ってたんですか?」

「はい。本当はもっと前から…。ずっと後悔していたんです。ボクの我儘でアキラさんが辛そうにしていて…。でも、絶対にアキラさんは辛くないって言うに決まっているって、思い込んで…」

 

「エディ君…」

「僕も我慢して少しだけ無理をしているので、我慢しないで下さいとは言えません。でも…」

 

「でも?」

「我慢して心に溜めていることを口にするだけでも、随分と楽になります。そう教えてくれたのはアキラさんです」

 

「…はい。そうでしたね」

 

 

 そっか。うん。なら、いいかな。

 もしかしたら天使失格になるかもだけど。

 

 天使だから大丈夫、なんて強がりは今日までにしよう。

 自分が辛いのか辛くないのか分からない、なんて愚問は崖の下に蹴り落そう。

 

 小さな女の子が戦い続けて辛くないなんて、現実にはありえないのだから。魔法があろうが、天使であろうが。

 どう言い繕っても、それは強がりでしかない。病気の一歩手前だ。

 

 

「実は少し、疲れています」

「はい」

 

「僕は戦うのは苦手で、エディ君について行くのがやっとで…。それに、痛いのは辛いです。死ぬのはもっと苦しいです」

「はい」

 

「戦わずに済むのなら、それが一番いいと思っています。…でも、どうしても戦わないと解決しないのなら、一緒に戦います。だから、もう少しなら頑張れます」

「はい。…ごめんなさ――」

 

「謝るのは無しです。エディ君を支える使命を与えたのは女神様ですが、そう誓ったのは僕です。僕にだって意地はあります」

「…はい。ありがとうございます」

 

「ふふっ。本当に、あと少しなら大丈夫ですよ。エディ君も、本当に大丈夫ですか?」

「はい。あと少しなら。家族に誓って」

 

「よかった」

「もぅ、それはボクの台詞です。自分のせいでアキラさんの元気がなくなってきていて、ずっと心配していたんですから」

 

「ごめんなさ――」

「謝るのはなしです。」

 

「そうでしたね。…って、それは僕の台詞ですよ」

「そうでしたね。…やっぱり、謝ったら駄目ですか?」

 

「駄目です。ここで謝られたら女が廃ります」

「廃るんですか?」

 

「はい。乙女的な尊厳が」

「尊厳。それは大事ですね」

 

「とても。エディ君。大事なのは自己肯定感と自己効力感です。ありのままの自分を肯定する感覚と、自分はできると確信できる感覚です。是非憶えていてくださいね」

「自己肯定感と自己効力感…。はい。憶えました。一生忘れません」

 

 

 その後は、気が済むまで2人でくすくす笑い合った。

 

 それから、もう一度心を込めてエディ君をハグした。

 

 

「ここまで来たら、一蓮托生です」

「はい。一蓮托生です」

 

 

 ――愛してる。

 

 

 彼女は辛そうにしている僕を心配して、抱きしめて慰めてくれた。

 

 それは愛の告白だった。

 時間差で届いた告白。

 

 その瞬間、僕の友達、喫茶店のアイルバイト少女セーラは愛の具現となった。優しく抱擁されたまま愛を告げられ、愛が喚起された。言葉だけではない愛情。慰めるだけではない親愛。

 

 愛を証明できるんだ。

 証明してもいいんだ。

 セーラお姉ちゃんくらいの女の子でも…。

 

 ううん、もしかしたら、大人か子どもかなんて関係ないのかもしれない。大仰に捉え過ぎていたのかもしれない。

 それはもっと身近で、人の温もりくらいありふれていて…。

 人の温もりくらい、とても貴重で…。

 

 …なら、僕も?

 

 本当に、いいのだろうか。

 

 恋だけではなく。

 

 この、とても大きくて温かな気持ちを、愛と呼んでも――

 

 

 

  ◇◇◇

 

 

 

 7月24日、カイア日(赤の日)。

 第21回ウィバク黄昏領域解放戦。

 

 消費魔力432265

 ・エディンデル45841、アキラ86424 小計132265

 ・マナ結晶 特級マナ結晶40000×3 小計120000

 ・純白の宝珠 22500×4 小計90000

 ・聖者の守護印 45000×2 小計90000

 

 ・宝珠 600×150 小計90000

 ・守護印 45000×2 小計90000

 

 撃破数4236

 ・騎士級3994 消費魔力約363000

 ・楽士級241 消費魔力約8000

 ・神官級(焦熱体)1 消費魔力約60000

 

 撃破累計64494

 ・表層部26287 兵士級16669、戦士級 8338、騎士級 1260、楽士級  20

 ・中層部26261 兵士級10412、戦士級13900、騎士級 1181、楽士級 768

 ・深層部11946 兵士級  354、戦士級  351、騎士級10427、楽士級 809、神官級5

 ・小計 64494 兵士級27435、戦士級22589、騎士級12868、楽士級1597、神官級5

 

 復活後キャパシティ

 ・エディンデル56351、アキラ106302

 

 備考・分析

 ・各加速効果

 ○アクセルリング1.10(エディンデル、アキラ共通):時間加速1.84倍。少なくとも20.4主観秒持続。自壊するまで効果中断と再使用が可能。時価。

 ○タイムアクセル(エディンデル、アキラ共通):時間加速2.21倍。最大持続時間約6.8秒。

 ○光の加護(エディンデルのみ有効):通常出力時1.88倍、最大出力時2.60倍。

 

 ・聖剣技

 ○基本性能:最大出力516エルネ、最大射程625メートル。

 ○一閃:精神統一約1.2秒~1.6秒(3.0主観秒)、発動可能出力43~66エルネ、発動可能射程465~819メートル。

 ○煌閃:最大で十二閃。加速約10.57倍(1.84×2.21×2.60)。3.0主観秒の精神統一の後、1.2主観秒の12連続疑似空間切断攻撃。

 ○極閃:生命力を消費し限界突破。最大出力は15000以上。射程約1200メートル。楽士級障壁体の最大障壁ごと神官級を撃破可能。使用後死亡。

 ○レーヴァテイン:生命力を消費し限界突破。極閃とは異なり即時発動と広範囲殲滅攻撃が可能。射程約700メートル。一撃につき3000以上。威力調整、連続使用可能。

 

 ・特級マナ結晶3個、アクセルリング7個がリリアさん、リューダ師匠、フーヤ先生から共同で無償提供。

 二等級ネクタル水8個、一等級ネクタル水2個購入。支出1800万レン。

 

 ・使用可能な魔力量は、リリアさん達からは残り80000エルネ(無償提供分60万エルネの内、360000エルネを使用)。トムの宝珠と守護印は残り452400エルネ分(守護印残り373個、宝珠381個)。

 

 ・守護印150個分から騎士霊375名、神官霊75名が召喚。光霊軍450名は騎士級5個大隊約1250体と互角以上。

 

 ・騎士級一体につき約93エルネを消費。

 

 ・神官級焦熱体の防御不能攻撃で物資を無駄にすることを危惧し、焦熱体との交戦前に安全地帯で騎士級大隊との戦闘を行う。魔力残量が6万を切った時点で焦熱体への突撃を敢行。少しずつ鍛え上げてきた時間加速と、長時間の大規模戦闘を経てほぼ極限まで研ぎ澄まされた集中力を武器とし、焦熱体の焦点攻撃の回避に辛うじて成功する。天眼水晶による観測の結果、焦点座標の決定から超高温発生までのタイムラグは約0.08秒。攻撃のクールタイムは2.1秒。

 また、右側面に12の頭部を持つ超大型の大蛇型陰魔集合体を確認。

 一等級を含む10個のネクタル水を全て使用して焦熱攻撃と陰魔集合体の長距離攻撃を凌ぎ、最終的に距離1000メートルの地点から極閃を放ち、楽士級障壁体36体分の障壁ごと焦熱体を両断した。

 

 ・復活後、エディ君の魔力容量が5万、僕が10万を突破。数千の魔力で悪戦苦闘していた頃が懐くかしくすらある。それでも3億には程遠い。

 

 ・騎士級の推定残存数は約5850~7400体、楽士級は約700~1500体。

 

 ・天網絵図によると、超大型の集合体を構成する陰魔は兵士級約3900体、戦士級約3300体、騎士級約1000、楽士級約250体。

 残る神官級は蛇心体と黒雷体の二体。

 

 ・最終日のウィバク解放後、僕たちの正体を証明する為には命を落とさないまま勝利しなければならない。死んで復活の神殿に戻ってしまうと、解放されたウィバクにやって来る人達を迎えられず、エディ君が勇者として戦って解放したと認められない恐れがある。

 

 ・蛇心体の撃破は命と引き換えでなければ難しい為、次回の撃破目標は蛇心体に決定する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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