主人公は04クラシック世代と戦っていきます。ダンスインザムードやキングカメハメハなどの世代ですね。
『貧乏な家に生まれさせて、ごめんね』
小さい頃、よく父さんと母さんがよく口にした言葉だ。8人姉弟の長女────ウマ娘として生まれた私は、小さい頃から朝から深夜まで働く父さんと母さんの代わりに、妹や弟の面倒を見ながら育った。
けれど私達に少しでもちゃんとご飯を食べさせたいと、寝る間も惜しんで働いた父さんは過労が原因で早死してしまい、母さんもあまり体調が芳しく無くなっている。
────父さんは小さな町工場の雇われ技師、母さんは名家のウマ娘で大きなレースの常連だったらしいけど、よくそんな2人が出逢って家庭を築けたなぁ……。
というか、母さんがそんな凄いウマ娘ならもうちょっとマシな生活なのではとも思うのだけれど、どうも駆け落ち同然で家を飛び出したあげくウマ娘レース界からも電撃引退したらしいので、言うほど蓄えはなかったそうだ。
それで私含めて比較的大食いなウマ娘5人も産んだのに、家計がよく持ったな???
というか貧乏なのに8人もこさえたのか……。
ともあれ私はすぐにでも出稼ぎに出ようと考えていたし、実際休みの日はウーマーイーツや新聞配達のアルバイトで日銭を稼いでいる。まぁ目くそ鼻くそみたいなものだけど、少しでも母さんや妹、弟を救けてやりたい。けど、出来ることが限られる自分に焦りと不安を募らせていた。
「────よし、今日の配達も終わりかな」
そんなわけで今日も日課の新聞配達のアルバイト。最後の新聞を配達先のポストに押し込み、商店に戻っておばちゃんから配達代を貰う。
「いつもありがとうね、スノーちゃん。はい、これ今日の配達代」
「ありがとうございます」
うーん、とてもいい笑顔。全身が善でできてそうな人だ。
荷分けのおばちゃんとももうすぐ3年の付き合いになる。働きたいと言ったときにはとてもビックリされたけど、事情を説明したら快く了承してもらえた。
「これからも大変だと思うけど、身体にはをつけるのよ」
「そうですね。それじゃ帰って学校の仕度するので」
そう言って商店を飛び出し、木造平屋の古臭い自宅へ走って帰る。絵に描いたようなボロ家だけど、それでも居心地が良い。家族は仲良しだし隣同士とも関係は良好。貧乏にさえ目をつむればこれ以上何を望めようか。そういう意味では日本の誰よりも恵まれた環境だと思う。
家に着いて、玄関をぶっ壊さない程度に思いっきり開けて駆け込もうとすると、なにやら見たことがない革靴が脱いであった。ついでに部屋のほうから話し声が聞こえる。
もしかして、これは……取り立てか???
ついに限界家計やり繰りも底をついていたのだろうか。恐る恐る靴を脱いで上がり、声のするほうの部屋を覗き込むとスーツ姿の男の人が頭を下げていて、お母さんのほうがあたふたしていた。
「あの、お母さん。誰? その人」
「え、あ、あらお帰り! この方ね、トレセン学園の方なんだけど。どうもあなたの事をスカウトしたいなの」
「は?」
話に全くついていけない私に、男の人がはっとしてこちらに向いて立ち上がった。
「あ、初めまして。僕、中央のトレセン学園でトレーナーをしている森村 裕二です」
そう言って、森村さんは私に名刺を差し出してくる。胸元には確かに中央トレセン学園のトレーナーバッジがついてるし、本物のトレーナーなんだろう。
だがしかし本当に、なんで私をスカウトすんの??? で、ある。
今まで一度も競争ウマ娘として走ったことがないし、どこで私をスカウトしようと思ったのだろう。
「えっと、あの……どうして私のことをスカウトしようと思ったんですか?」
「やっぱり気になるよね。実はこのへんはよく散歩に来ていて、噂でよく耳にしていたんだよ。小さいころから新聞配達して頑張っているウマ娘がいるって」
「は、はぁ」
確かにここは東京だし、トレセンがある府中は近からずとも遠からず。この人がこの近くに住んでるのなら、知らないこともないかもしれない。
けど、私は学校で徒競走で別に本気出して走ったことはない。新聞配達は……まぁ、それなりに本気で走ってはいるけれど。しかし、噂だけで本気で調査してウマ娘だったからスカウトしようってのは、なかなか勇気のいることだったんじゃないか? 下手したら警察案件になりかねないし。
「それで、悪いかなとは思ったんだけど――――早起きして君が新聞配達で走っているところを見させてもらったんだ。それを見て、君の走りは中央に通用すると判断したからこうしてスカウトに来た」
「けど、うちにはそんなトレセンに入るようなお金ないですよ」
そう、うちは大変貧乏である。それこそシンボリとかメジロみたいな名門の天才達ならお金なんていらないだろうけど普通にトレセンに入ろうと思ったら軽く私立大学以上のお金がかかる。その分、レースに勝てば賞金とかグッズの売り上げとかで見返りはあるけど、そこに至れるのはほんの一握り。勝てない子のほうが圧倒的に多いのだ。
「そこは大丈夫。お母さんにも説明したけれど、スカウトによる特待生入学になるからほとんどの学費は免除されるよ」
そう言って、机に置かれていたパンフレットを手渡された。手に取って見ると、大きく○が描かれた部分には入学金の免除と学費の大部分の免除という項目が書かれていた。
どうやら、競争経験があれば全額免除になるけど、私は一切の競争経験がない。だから、特待ランクが下がるようだ。だが、それでもこの金額はうちに払えるような金額ではない。こんだけ払えるお金があるなら、もう少しまともな家に住めている気がする。
「――――お話は嬉しいんですけど、多分この値段でも正直うちの家では払えそうにも……」
「いいのよ、行っても。ある程度支払いは待ってくれるみたいだし、その間にお金はなんとかするから。後はあなたが行きたいかどうか、よ」
その声にはっとして振り返ると、優しく笑う母さんがいた。
「……母さん」
「私だって、昔はG1で勝ち負けしていたウマ娘だもの。そんな私が産んだあなたならきっとたくさんのG1を勝てるわ」
「でも」
「心配しないで。お金ばかりに振り回されて、出来ることが出来ないことのがもっと辛いわ」
「それに家庭の事情がある方には、レースの賞金で払う方法もあるからね。もちろん、これからの事は君の頑張り次第。僕も力になるから」
そう言って、手を差し出す森村さん。つまるところ、この家の将来は私の両に掛かっているといっても差し支えないってことだ。勝てば家の事は全て解決する――――ってことか。
なら、やるしかない。この足で、うちの家族を養ってみせる。どんなレースだって負けるもんか。
森村さんの手を取る。それを肯定、と見なした森村さんは優しく笑った。
「君の名前を聞いてなかったね」
「えっと、スノーラビットです」
「わかった、ありがとう。僕が担当することになると思うからよろしくね」
とにもかくにも、たくさんお金を稼ぐ。人から見ればみみっちい想いかもしれないけど、貧乏なうちにとっては死活問題。どんな子が相手でも撫で斬ってやるぐらいの気持ちでいかないとね。
こうして、私スノーラビットは中央トレセン学園に編入することが決まった。