泥被りの白兎   作:水無月由真

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物凄く中途半端になりますが、そろそろ上げておきたかったので上げていきます。
チャンミ全く準備していなかったので、マッハで準備して滑り込みでオープンA入り出来ました。


EP.9 シーズン・イン・ザ・合宿1

「よし、皆揃ったか?」

 

「「「はい!!」」」

 

「1、2、3……確かに全員揃ってるね。それじゃあ出発だ」

 

 トレーナー自前のミニバンに乗り込んだ私達は、一路トレセン学園が管理するプライベートビーチへと足を運ぶことになった。こういう乗り物って学園が用意してくれそうなものじゃないかと尋ねたら、どうやら自前の車のほうが慣れてるからいつもこっちにしている、とのこと。ただ、今回で定員いっぱいになっているようで、来年の新人を迎えたら学園所有のマイクロバスにしなきゃいけないと嘆いていた。

 

「ねぇ、オルガ。この漫画見た?」

 

「お~、見た見た。結構ウマッターで噂になってるやつ。エチュードさんはどうです?」

 

「これは私も見ましたわ。中々凝った内容でつい夢中で読んでしまいますの」

 

 最前列は運転者組ということでトレーナーとキングヘイローさん*1、真ん中の列ではオルガさん、スズカホークさん、そしてヤネキエチュード*2さんが楽しくおしゃべりしている。そして最後列である私達の所は――――

 

「ふ、ふひひ……ウマ娘ちゃんのリビドーを感じます……」

 

「…………」

 

「…………」

 

 一番左にいるのはアグネスデジタルさん。とにかく挙動不審で事あるごとに『尊い……』とか『んほおおおおおおお!!』とか叫んだり、たまに魂が抜けてて、チームの人に蘇生されてるやばい人なんだけど、実績もやばい。芝もダートも世界も股にかけてG1勝利を重ねてる変態(かいぶつ)だ。

 で、そんな私とデジタルさんに挟まれているのが――――

 

「…………」

 

 私のひとつ上の先輩で、まだ本格化の兆候がなく今年もデビューを見送ったというブーゲンビリアさん。

 黒鹿毛のポニーテールでどことなく生徒会副会長ナリタブライアンさんに似てる雰囲気はあるけど、大きな違いは前髪に大きな流星が入ってることと、髪質がドストレートなところ。ア〇エンスばりの世界が嫉妬する髪だ。ついでにポニーテールの根元を縛る赤いブーゲンビリアがとても映える。

 しかしこの先輩、本格化していないのに普通にチームの条件クラスの先輩方と並走出来るくらい才能が詰まった、まさに天賦のウマ娘なんだけど……

 

「あの、ブーゲンビリアさん大丈夫ですか?」

 

「……ん」

 

 話しかけても、こんな調子でほとんど会話が続かないくらい寡黙な人である。かと言って、この人別に孤高な人でもなくて、誰かと一緒にいることを嫌がる人ではないし、チームのムードメーカーを担うスズカホークさんやオルガさんらによく着せ替え人形(おもちゃ)にされている。でも、ただおもちゃにされてるだけでもこの人、物凄く顔が良いからなんでも似合っちゃうんだよね。後、普通にスズカホークさんやオルガさんの美的センスがかなり良いのもある。――――私の服、選んでくれたのもこの二人だったし本当にお世話になっております。

 

「君は、大丈夫なのかい? ほら、車酔いとか……」

 

「滅多に車とか乗らないんですけど、言うほどは。……あれ、もしかしてブーゲンビリアさん」

 

「ふふ……大分、厳しい……

 

と、トレーナー!! どっか、どっかで車止めて!!

 

 ブーゲンビリアさんが大分顔が真っ青になっていたので、すぐさまトレーナーへ火急の事態を伝え、適当に止めれる場所で止まってもらった。

 車が止まるや否や、マッハで茂みの中へ消えていくブーゲンビリアさんと、それを追っかけていくアグネスデジタルさんやキングヘイローさんを見送りながら、私はボソッと呟いた。

 

「こんな調子で大丈夫かなぁ……」

 

「こんなものよ、うちのチームって」

 

 そう言って、スズカホークさんが遠い目をしながら私の肩に手を置くのだった。

 

 

 

―――――★――――――★――――――

 

 

 

 

 ブーゲンビリアさんが大惨事になったり、車のナビが入りにくい道を案内(はんぎゃく)するなどの微笑ましいハプニングもありながらも、私達アケルナー一行は学園保有のプライベートビーチの最寄りの旅館へ到着した。

 この辺り一帯がトレセン学園の土地なので、合宿シーズンは基本的に取材の記者ですらなかなか来れない場所である。すなわち、一切の雑音をシャットアウトしてトレーニングに打ち込めるというわけだ。

 もちろん、この間もトゥインクルシリーズはサマーシリーズという、短距離・マイル・中距離の三路線で激戦が繰り広げられるので、そういうレース群に参加する子はここから出入りをする。まぁ、ここに出てくるウマ娘は春のクラシックシーズンに間に合わなかったり、そもそもレース適正の都合でじっくり仕上げていく子、あるいはここを主戦場とする堅実派等が多いので、どうしても華のあるG1常連組に人気は劣ってしまうんだけど。

 うちの面々だと、スズカホークさんが七夕賞と新潟記念、オルガさんが菊花賞を睨んで7月後半の中距離条件戦、エチュードさんがオープンクラスを賭けて8月終わりの日本海ステークスに出走予定。私も合宿明けすぐのききょうステークスへ向けて練習することになる。

 

「やっと着いたね~」

 

「ん~っ、早く海行きたいなぁ」

 

 等とわいわいしながら、各々の荷物を取り下ろして旅館の中へと運んでいく。私も自分の荷物を持って旅館の中へ入ると、雰囲気がいつぞやにテレビで見たひと昔の旅館って感じだった。入口には金魚がたくさん飼育されている水槽があり、古臭いお土産屋や、ちょっとした休憩スペースも味わい深い……いや、なんでまだ12歳なのにこんな落ち着いた気持ちになるんだ。

 従業員の方に案内された部屋は7人で使えるようにするためか大部屋をあてがわれた。修学旅行でこういうのありそうだと思うんだけど、貧乏関係なくおたふくかぜを患ったので普通に行けてないから、こういう皆で同じ部屋に泊まるという経験は初めてだ。やばい、テンション上がる。

 

「さっ、遊びに来たわけじゃないんだから早く支度して、ビーチに行くわよ」

 

「「「はーい」」」

 

 荷物の整理もそこそこに私達は学園指定の水着に着替えてビーチへ。水着でうろうろするのはどうなの? とも思ったけど、ここの旅館の人にとってこの時期の日常のようだ。すれ違うたびに、頑張ってね、とか美味しいご飯用意しておくからね、とか色々声をかけてもらう。

 

「なんだか凄いですね、私達のためだけにこんな大掛かりな準備してもらえるなんて」

 

 そんな私の疑問にキングヘイローさんが答えてくれる。

 

「それはそうよ、私達競走ウマ娘はファンにとって大事な存在だもの。私達の一挙手一投足の全てが注目されているわ。いずれあなたもスマホを持つことになると思うけど、ファンとの交流も大事になさいね」

 

「はい、それだけ期待されているってことですもんね……」

 

 まだ諸々の手続きが終わっていないから、私はまだスマホを持っていない。ウマ娘のほとんどはウマッターなりウマスタグラムなり、何かしらのSNSに実名で登録して色々な情報の発信を行っているらしい。中にはハンドルネームでひっそりとやっている人や、そもそも情報発信していない人もいるみたいだけど、私はやってみようと思っている。ネットは色々面倒なことがあるってスズカホークさんがぼやいていたけど、そういう部分への対策も教えてもらわないとね。

 

「そのためにも、この合宿しっかり乗り越えて、次走――――ききょうステークスかしら? しっかり勝たないといけないわ」

 

「――――もちろんです!」

 

 そんなこんなで砂浜に着いた私達。すでにトレーナーが色々準備していて、後は私達の到着を待つばかりだったようだ。

 

「よし、揃ったね。じゃあ早速だけどシニア、クラシック、それ以外とで練習メニューを変えてあるから――――」

 

 トレーナーの指示に従い、それぞれ指示されたメニューをこなしていった。

 私は基礎体力をつけるための遠泳、長距離走など諸々。大変だけど、頑張るぞ!

 

 

 

 

 

―――――★――――――★――――――

 

 

 

「……………………………」

 

「ねぇ、大丈夫?」

 

「なんか桃みたいに浮かんでるね……」

 

「ていうか早く顔を上げさせなさいよ! 沈んでるじゃない!」

 

 その日の夜。大浴場でその辺の葉っぱのように浮かんでいた私は、キングヘイローさんに慌てて引き上げられた。スズカホークさんやオルガさんにも心配させて申し訳ないけど、それはもう座ってお風呂に浸かれないくらいに疲弊してるので何も出来ない。というか指一本動かせない……。

 

「お~い、ラビちゃん大丈夫?」

 

「全然大丈夫じゃないです……」

 

 心配そうにスズカホークさんが私の顔を覗き込んできた。のぼせてるわけじゃないけど、問いかけに対してワンテンポ遅れるくらい疲れてる。もう駄目だ、脚が……。

 純粋にキツい。今日だけで30km近く泳いで、走って。これを普通にやり通したブーゲンビリアさんは何なの。というか、もっとキツいメニューをやっていた先輩方は平然としている。これが戦闘力の差なのか……。

 ちなみにデジタルさんが今日一番動いていたのに、一番ピンピンしていた。まぁ今私達のほう向いて「いたいけな後輩ちゃんを心配する先輩……尊い……」って言いながら沈んでいったけど。先輩方、あっちのほうも心配してください……。

 

「あはは。ラビちゃん、今日はお風呂上がったらご飯食べてさっさと寝ないとね~」

 

「クラシック期で参加した時も大分しんどかったのに、ラビちゃんはジュニアで出てるもんね。ブーちゃんがやばいだけだと思うよ」

 

「いえ、私はそんな……」

 

 話を振られたブーゲンビリアさんは申し訳なさそうに視線を外す。そんなブーゲンビリアさんの頬をつんつんするオルガさんを見て、湯船の底から顔を出そうとしていたデジタルさんがまた親指を立てて沈んでいく。あの、放っていいんですか? 私が辛うじて指差す先を見たスズカホークさんは、ゲラゲラ笑いながら指差していた。

 

「まぁデジたんなら大丈夫っしょ」

 

 そんなアホな。

 

 その後じっくりお風呂に浸かって疲れを抜いた後、私達はお風呂を上がり――――私はキングヘイローさんと復活したアグネスデジタルさんに介護されながら――――、今日は張り切ったという女将さんの作るご飯を楽しみに自分たちの部屋へ戻ると――――。

 

「ひええええええ!! すき焼き!?」

 

「肉、肉だ!」

 

「まぁ……!」

 

 それはもうてんこ盛りのお肉と野菜とが積まれた皿に、大量のご飯が入れられているであろう、でっかいおひつ。副菜に魚の南蛮漬けだとか、刺身だとか、かなり豪勢な夕食が用意されていた。

 

「凄いわね……」

 

 キングヘイローさんでもなかなか見たことがない豪華さみたい。私も家では絶対見ることのないような食事にあっけにとられていると、後ろからぱたぱたと女将さんがやってきた。その手にはガスボンベ等が入れられた入れ物を携えており、今からすき焼きの準備に入るのだろう。

 

「ふふ、ご飯とお味噌汁はおかわりあるからたーんと食べてね」

 

「「「ありがとうございます!!」」」

 

 皆で一礼。女将さんはにっこり笑って、てきぱきとコンロの準備を始めた。その様子を横目に、それぞれ適当な位置を選んで座っていく。そして、デジタルさんが私達のぶんのご飯をよそい始めた頃、すき焼きの甘いながらも食欲をそそる匂いが鼻を刺激する――――!!

 

「くっ、この匂い……」

 

「早く、食べたくなる……」

 

 キングヘイローさんも、ブーゲンビリアさんもその美味しそうな匂いにかかり気味になっている。かくいう私ももう我慢出来なさそう……じゅるり。

 

*1
一応免許が持てる年齢には達している

*2
スズカホークら同様、作者がウイポで生産した馬。出たわね。で伝わるかどうか。父不明 母不明

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