泥被りの白兎   作:水無月由真

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女子会回?
史実とは大きく異なる部分が、主人公やオリジナルウマ娘が関与しない部分にも混ざってきます。
だから史実改変タグを入れる必要があったんですね(メガトン構文)


EP.10 シーズン・イン・ザ・合宿2

「さぁ、出来ましたよ。いっぱい食べてくださいね」

 

 女将さんがそう言うと、開けられた蓋からさっきまで滲み出していたいい匂いが部屋中いっぱいに広がる。この匂いで一気に今までの疲れがどこかへ消え去った気がする。早く食べたい……!!

 

「「「いただきます!!」」」

 

 手を合わせ、ご挨拶。お椀に卵を割って溶いて、網杓子でお肉とか豆腐とか、適当に掬い上げて入れる。軽く溶き卵を絡ませて……ぱくり。

 

「~~~~~~~~っ!!」

 

「美味しい……!」

 

「ご飯が進む……!」

 

 美味い、美味過ぎる……。熱々の肉にしみ込んだすき焼きの甘辛いお汁と、卵のまろやかさ、お肉そのもののうま味がマッチして幸せな気分になる。こんな素晴らしいものを食べていいのだろうか!?

 ご飯もツヤツヤで歯ごたえがあるし、刺身も、南蛮漬けも美味しい! 疲れた身体に栄養が染み渡っていくのを感じる。箸が止まりませんわ、パクパクですわ!(?)

 

「この鯛の刺身もプリプリだね……」

 

「いくらでも……食べれる……」

 

 ふと周りを見渡すと、全員が恍惚な表情でご飯を堪能している。いつもキリッとしているキングヘイローさんもこの夕食の美味しさには流石に叶わないみたいだ。

 用意された夕食をじっくり味わいながらもあっという間に平らげ、食後のデザートのアイスもほっぺが落ちそうなくらい美味しく頂いた。いやぁ、食べた食べた。

 

「はぁ~、このためだけに生きてきたって感じ」

 

「も~、オルガちゃん大げさ過ぎよ~」

 

「家でもなかなか味わえない美味しさでしたわ……。スノーさんも生き返りましたよ」

 

 エチュードさんがそう言うと、皆して私のほうを向いてきた。な、何事?

 

「それだけ美味しかったって事かしら?」

 

「ええ、まぁ……あんなごちそう、今まで食べた事なかったので」

 

 私がポロっとそう言うと、こっちを見ていた皆が一斉に顔を背けて目元を覆った。えっと、その、すみません気を使わせて……。

 

「そういえば、スノーって家族のために走ってるって言ってたもんな。凄いよ、私なんて今でもなんで走ってるのか分からんし」

 

 ややあってから、オルガさんが今までの事を思い返すかのように喋り出す。

 

「面接の時はG1勝てるようになりたいとか言ったけど、今思い返してみてもそんな気持ちでやれてるか自信ないしな。もちろん、練習は真剣に取り組んでるつもりだし、次のレースも勝つ気ではいるんだが……」

 

「オルガさん……」

 

「そう言えば、スズカは何を思ってトレセンに来たんだ?」

 

 あれ? そういう流れなの? 私の哀しみの話から、各々のルーツに関わる話に変わって言ったんだけど。これもある意味、修学旅行っぽいと言えばぽいのか?

 

「私? うーん、私はサイレンススズカさんの走りを見たからかなぁ。”逃げて差す”。最初から最後までずっと自分のペースで走り切る圧倒的なスピードに憧れて、ね」

 

「それはやっぱり同じ”スズカ”って名前持ってるからですか?」

 

 なんとなく気になって間に割ってみると、スズカホークさんはふるふると首を振る。

 

「ううん、憧れてってよりは自分があそこで走ってる姿が見えたって感じかな? 結局サイレンススズカさんと何か繋がりがあるわけじゃないし、あの人は今アメリカで走ってるしね。――――まぁでもバリバリG1ってわけにはいかなかったよ、ははは」

 

 謙遜するというか、ちょっと諦めたような笑い方をしてるけど。スズカホークさんだって今年新潟大賞典勝ったりしてる重賞クラスのウマ娘なんだよね。今の私からすると、まだまだ雲の上のような人達だ。そんなスズカホークさんをエチュードさんがジト目でビシビシ脇腹をつつき出した。

 

「まだオープンに行けてないわたくしの前で言われますと、立つ瀬がないですわよ」

 

「いたっ!? ごめんって、そんなつもりじゃないって、あっあっあっ」

 

 だんだん脇腹乱打がエスカレートし始めて、スズカホークさんが転がっていく。じゃれあう二人を尻目に、オルガさんは今度はアグネスデジタルさんに視線を向けたけど、アグネスデジタルさんはじゃれあう二人を見て色彩が薄くなっていってたので、そのままキングヘイローさんに移っていった。……え? アグネスデジタルさんは無視? ほっといて大丈夫ですか? ……いやいや、そんないつもの光景じゃないかみたいな顔をされても。

 

「……私の話聞いてもつまらないわよ?」

 

「まぁまぁ、そう言わずに」

 

「……はぁ。まぁいいけど。と言っても、そこまで聞きたいことあるかしら?」

 

「そりゃあ気になることありますよ。こう言っちゃ失礼ですけど()()()()()()()()()()()()()、とか」

 

「え? 凱旋門賞!?」

 

 何それ、初耳ですけど!? 凱旋門賞と言えば、私みたいな情報のアンテナが低いウマ娘でも知ってる欧州のビッグレースだ。初挑戦から四半世紀が過ぎても日本のウマ娘が未だ勝利出来ない、ある意味呪いと化したレースにキングヘイローさんが出てたの!?

 キングヘイローさんは、頭をポリポリかきながらバツが悪そうな顔をする。

 

「まぁ……確かに、当時は色々言われたわよね。こんな実績がない奴がどうして、とか」

 

「それでも、行ったんすよね?」

 

「……条件付き、ではあるけどね」

 

 条件付きってどういうことだろう。海外遠征って何かやらなきゃいけないのだろうか? 頭に?マークが生えた私を察したのか、そのままキングヘイローさんはその条件を話し始める。

 

「高松宮記念が終わってから、秋の凱旋門賞を目標に海外重賞3レースに出る。そのうち、G1を含めて2勝することを条件に凱旋門賞に挑戦したわ」

 

「それで、キングヘイローさんは……」

 

「ロッキンジステークス1着*1、エクリプスステークス3着*2、バーデン大賞1着*3。私でもよく走れたと思う。ただ、エクリプスステークスは完全に置いていかれたわ。向こうって日本よりもG1レースが多いから、レベルは結構差があるのだけれど……格が違った」

 

「格……」

 

 視線を落とすキングヘイローさん。そしてトマラナイオルガさんはその言葉を噛み締めるように呟く。気づけば、いつの間にかじゃれていたスズカホークさんやエチュードさん、アグネスデジタルさんもキングヘイローさんを囲んで皆して話に聞き入っている。ただ、私は話を聞きながら自分の中で納得出来ない部分もあった。

 キングヘイローさんは海外レースで大きなレベル差を感じたのに、どうしてそれでも海外を諦めなかったのだろう。事実として諦めず偉業に挑んで、目標は達成できなかったけれど、それでも海外G1を2勝する栄冠を掴み取った――――それはとても意味のあるものだったのは間違いない。でも、現状生活のことだけしか考えずに走っている私には、大きな壁にぶつかってでも欲した”栄誉”への想いがピンと来なかった。だから、思わず聞いてしまった。

 

「キングヘイローさんは……大きな壁を感じたのに、どうして、それでも挑戦したんですか?」

 

「当然よ――――私の走る理由は”一流の証明”、それ以上でもそれ以下でもない。周りが笑うからだとか、無意味な挑戦だからだとか、そんなものに囚われない。どんな逆境が待っていたとしても、諦めるなんて選択肢はないの」

 

強い、王の威光――――キングヘイローさんから感じた重圧に体が竦みあがる。……これが、一流のウマ娘なんだ。オルガさんもその重圧に負けたようで、嘆息しながら両手を上げる。

 

「凄いや、先輩は。叶わないっす」

 

「そんなことないわ。これは誰にだって出来るとは言わないけれど、G1で勝ち負けするようなウマ娘には備わっていて当たり前の覚悟よ。オルガさんも菊花賞を本気で取りたいなら、自分を今一度見つめなおさないといけないわ」

 

「――――はい」

 

 オルガさんにも思うところがあったのか、俯きながら返事をする。そんなオルガさんのフォローなのか、ただね、とキングヘイローさんは続けた。

 

「結果こそしっかり出せたけど、きっと私一人だけではこうも行かなかった。トレーナーの”君の走りは、きっと欧州にこそ相応しい。日本で走るよりも結果が出るかもしれない”、それから”今更奇麗な輝きを求める必要なんてないさ。泥臭い、灰色の道を進もう。”という言葉があったからこそ海外挑戦も頑張れたと思うの。……まっ、結局凱旋門賞は入着止まりだったけど、自分の全力は出せたと思うし、後悔もないわ」

 

 その顔は傍から見ても清々しい顔に見えたのは、キングヘイローさんが自分の信念に従って走り切ったからこそなんだろう。私は、そんなキングヘイローさん、いや同期になるキンカメちゃん達のように誇り高く走れるのだろうか。私が自分の走る意味について考え始めた時――――

 

「っていうかさ」

 

 その思考を止めてしまったのは。

 

「キングさん、トレーナーのことめっちゃ好きでは?」

 

「…………は?」

 

 スズカホークさんの鷹の一撃だった。

 

「い、いきなり何を言い出すのよ」

 

「いやだって、自分ひとりなら決断出来ないような大きな事をトレーナーの後押しだけで行くって決めるって……相当よ、ねぇデジタルさん?」

 

「いいいいいけませんってそんなの。で、でもキングさんとトレーナーさんは初めてのタッグで二人三脚で頑張ってきたのですし、万が一そういう禁断の関係になっても……ああ、禁断の恋……!」

 

「だ、断じてそんなことないわ! ええい、なんなのその『はいはい分かってますよ』って顔!!」

 

 え、え、え? 何の話? ついていけない。

 

「え~? 本当ですかぁ?」

 

「キングが嘘なんてつくもんですか!!」

 

「先輩、顔が真っ赤っす。明らかに動揺してるっす」

 

「~~~~~~~っ!! このへっぽこ達! 明日は覚悟しときなさい!!」

 

「「「えっ!?」」」

 

 その後は、唐突に枕投げが始まり、エアグルーヴさんの怒声と共に部屋へカチコミが来るまでまぁまぁの盛り上がりを見せたのだった。

 ――――ただ、この時のキングヘイローさんの話の意味、そしてウマ娘が持つ信念のことを私が理解出来るようになるまで、長い時間心のしこりになるとはこの時は思ってもいなかった。

*1
史実1着はアルジャブル。サンドラマル賞1着等9戦5勝(G1・3勝)。父系は後述のジャイアンツコーズウェイと同じ。

*2
史実1着はジャイアンツコーズウェイ。当該レース1着等13戦9勝(G1・6勝)。ノーザンダンサー~ストームバード~ストームキャットと主流血統として脈々と反映している。

*3
史実1着はドイツ馬のザムム。独ダービー1着等14戦6勝(G1・2勝)




実際にキングヘイローという馬が欧州で走ってどうなるかなんて誰にも分かりませんが、ポテンシャルは間違いなくあったんじゃないかなぁとも思うわけです。
ただ、当時の欧州G1でフルパフォーマンスで走って勝てそうなラインはなんとも言えなかったのでウイポとかのデータを見比べて決めました。
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