Twitterでウイポの大会企画を立ち上げて、そっちの準備をしていたらこんなに遅くなってしまい……。
エフフォーリア競走中止、そして引退の報に悲しみを覚える今日この頃。エフフォーリアの子達の活躍を今から楽しみにしています。
長かった合宿も終わり、学園は二学期を迎えた。
正直なとこ、学校の宿題をこなしながらハードな練習をしまくるのはめちゃくちゃ大変だったけど……とりあえず提出すべき課題はクリアしてる。
これで自由研究とか読書感想文とかやらされたら中指案件ですね、はい。
ちなみにエチュードさんは、日本海ステークスに近走の勝ちきれないことを考慮されてか4番人気での出走となったけれど、追い切りの時に見せた捲りを見事成功させて1着入線。エチュードさんは念願のオープンウマ娘に昇格出来た。
ただ、エチュードさんは『収得賞金的にはまだまだ通過点ですわ』と、気持ちを新たにする。この後は予定通り、いきなり重賞挑戦になるけどアルゼンチン共和国杯、ステイヤーズステークスを目標に練習していくみたい。
そして、私は中2か月半ほどを開けて2走目となるききょうステークスに出走するため、中京レース場へやってきている。今回は前回とは違って愛知県だから私達は当日入りすることだったので、昨日はぐっすり眠れた。まぁ、新幹線というブルジョワ移動だから新幹線乗っている間はずっとそわそわして、気が気じゃなったんだけど……。
「よし、じゃあ今日のおさらいと行こうか」
「はい」
出走選手の控え室で、前回同様トレーナーの簡単なおさらいから始まる。キングヘイローさん他はチームの面倒を見ているため今日はトレーナーとのマンツーマンだ。
「今日走る中京の左回り1400mなんだけど、向こう正面のポケットからスタートして、緩やかな上り坂になっている。コーナーの手前から長い下り坂になっていって、最後の直線に2mの急な上り坂がある」
ふむふむ。こうして見ると、最初の直線が長い事以外は左回りの阪神レース場と似たような感じなのかな。あ、でも坂のままゴールになる阪神と違って、ラスト200mはほぼ平坦なんだね。
「この条件で注意しないといけないことはどこだと思う?」
「うーん、そうですね……」
この2か月みっちりキングヘイローさんとアグネスデジタルさんに教えてもらったから、記憶さえ正しければだいたい分かる。
中京レース場の1400mだと、最初のコーナーまで長いから位置取りは楽になるように思うんだけど、この上り坂が長いから逆にかなりタフになるんだよね。けど、大体の位置取りが決まったところで下り坂が始まるから、息を入れるタイミングが結構大事になる。併せて仕掛けどころにもなるから、状況判断がシビアな気がするかも。
ここで調子に乗って位置取りを押し上げると、最後の直線で捕まってバ群に沈んで無事着外になるって寸法だ……だよね?
だとすれば……。
「最初の位置取りですかね」
「そうだね、恐らく位置取り争いするゾーンはずっと上り坂だから、無理して位置を取りに行くと無駄にスタミナを使うことになるだろう」
うんうん、と頷きながらトレーナーは最初の300mあたりに〇をつけて位置取りと書き込む。
「とは言えスノーの適正はマイル付近だと思うから、必要以上にスタミナ配分に注意することはないんだけど。無理して自分の位置取りを取りに行く事はしなくていいから、自分のペースを守るように」
私の末脚を考えると先行が良いんだけど、やや差し寄りのポジションでも問題ない。下がり過ぎにだけは注意って感じかな。
「そして、阪神の時と違って最後に平坦な直線がある。ここに余力を残しておくように立ち回れるとベストだ。急坂をスピードを落とさずに上がり切り、最後の1ハロンで全力を出し切ると良いだろう」
「分かりました。仕掛けどころはやっぱり……」
「スノーの考えている通りで良いよ」
トレーナーは真っすぐ私を見て、そして私に判断を託した。多分、トレーナーも私が考えている『直線からスパート』で良いってことだろう。まぁメイクデビューよりも直線長いし、さすがにコーナーから仕掛けるとバテちゃいそう。とはいえ……。
「大外、ですかぁ」
「こればかりはしょうがない。とはいえ、開催が進んで少し内側の芝が荒れてきているようだし、状態が良いところを走れると思っておこう」
今回の私の枠は大外7枠15番という、芝レースではとても不利な枠順となった。トレーナーの言った通り、少し中京レース場は開催が進んで内側の芝が荒れているからまだ良いけど、開催初日なら結構しんどかったかも知れない。それから、今回のレースでは結構強そうなウマ娘も出ているとのこと。いったいどんなレースになるだろう、これから楽しみだ。
そうこうしていると、数度のノックの後、スタッフの方がパドックの時間を告げに入ってきた。
「よし、じゃあ今日もしっかり走っておいで」
「はい、行ってきます!」
―――――★――――――★――――――
パドックのお披露目を待つ、裏の待機通路。そこには私を含めて15人のウマ娘がファンの前で仕上がり具合を見てもらうために、待機している。さすがにメイクデビューと違って、1回はレースに出走しているからか、どの子も落ち着いた雰囲気で軽く体を動かしていたり、気分を高揚させたり、思い思いに時間を潰していた。私も少し体をほぐしながら、横目で周りを見渡してみると、3人程気になるウマ娘を見つけた。
(うーん、コスモサンビームさん、ロイヤルセランガーさんあたりは強そうだなぁ)
コスモサンビームさんは少しほっそりした体躯の、若干光が当たると青っぽく見える黒髪のウマ娘。物凄く強そうな雰囲気を醸し出していて、この中だと一番強そうな感じがする。それから、ロイヤルセランガーさんも物凄くやり手なウマ娘に見える。コスモサンビームさんよりも大柄だから、余計に威圧感を感じるよね。
他は……ヨシノイチバンボシさんはなんか凄いおどおどしてて、逆に気になった。よく見ると名古屋トレセンって書いてあったから、地方のトレセンの子なのかな。
さすがにレース前に声をかけるのは憚られるかな……あっ、こけた。
「だ、大丈夫ですか?」
「うぅ……はい、な、なんとか……」
その子がパドックに向かおうとしたところで思いっきりずっこけてしまい、つい声をかけてしまった。なんだか子猫みたいな子だなぁ。
「ヨシノイチバンボシさん、次お願いします」
「あっ、は、はい今行きます!!」
もう少し話したいな、と思ってたけどすぐに彼女の出番になってしまい、ヨシノさんは慌ててパドックのほうへ走って行ってしまった。取り残された私はどうしようか、と思っていると横から誰かが声をかけてきた。
「君がスノーラビットかい?」
「え、あ、はいそうですけど……」
「私はコスモサンビームだ。今日はよろしく」
そう言ってコスモサンビームさんが手を差し出してくる。その瞳はいかにも自信に満ち溢れていて、私が一番強いと思って憚らない、キンカメちゃんを彷彿とさせる佇まいだ。まぁでも別にここで拒否する理由はないので、すぐに手を取り返した。うわっ、柔らかい……。
「ふふ、君と走るのはとても楽しみにしていたよ。まさかききょうステークスで当たることになるとはね」
「は、はぁ」
駄目だ、自信満々な顔が眩しくて後ずさりそうになる。何を返したもんかと悩んでいると、コスモサンビームさんのほうから手を離した。どうやら、パドックの順番が来たみたいだ。
「君とはこれから何度も対戦することになるかもね」
そう言って踵を返して、コスモサンビームさんはパドックのほうへと向かっていった。
(ああ、多分
そう確信した。マークするとか、そういう高等な技術は私にはないし、トレーナーにも教えてもらったことないし、なんなら別に今日ぶっつけ本番でやるつもりもないんだけど。せめて、あの子の出方と位置取りだけは気にしなきゃいけないな。
さぁ、いよいよだ。
―――――★――――――★――――――
パドックのお披露目も終わり、既に私達は本バ場入場をして返しウマ、既に何人かは向こう正面のゲートのほうで待っている。私もゲートのほうへ向かいながら軽く周りの様子を確かめたけど、どの子も落ち着いた雰囲気で身体を芝に馴染ませている。……訂正、ヨシノさんだけはめっちゃおっかなびっくりな感じで芝の感触を味わっていた。うーん、本当に大丈夫かな、あの子。
それから開催が進んでいるから確かめといたほうがいい事があるんだった……どれどれ。
(ちょこちょこ剥げてるって感じかな。思ったよりは大丈夫そうだ)
そう、芝の荒れ具合のこと。正直なとこ、私もレース場での芝は初めてだからこれがどれだけ影響するのかなんて分かんないんだけどね。トレーナー曰く、あまり荒れた芝を走るのは得策ではないと。そうなると、内側から三人分くらいが一番良さそうなところかなぁ。
「……大外だし、あんまり気にしなくてもいいか」
無理にここを走ろうとして、万が一斜行判定されようものなら降着処分とか戒告とかで方々に迷惑かけることになる。そんなのめんどくさいし嫌だし、あんまり気にせず走ろう。
さて、今日の私は1番人気。前走の勝ち方が暴走気味だったにも関わらず、非常に強い勝ち方だったのを評価されたらしい。コスモサンビームさんはもう5戦目で、かつ前走から中1週*1なのを不安視され2番人気となっている。とはいえ、初出走以外はずっと連対を外してないから、私とコスモサンビームさんの評価はほぼイコールと言っていいんじゃないかな。
――――さて、全員がゲート前に集まり、スターターが発走台に上がり、旗を振る。ファンファーレが鳴り響く中、一人、また一人とゲート入りが進んでいく。大外の私は一番最後だ。
《さぁ中京レース場第9レース、ジュニア級オープンききょうステークス。枠入りが進んでいます――――》
ゲートの中に入ると、否が応でも気持ちが引き締まる。スタートの態勢を整えて、さぁ、いつでもこい――――!!
――――ガコッ
《スタートしました! 1番5番13番そして15番が好スタート、1番レインボーハンセル、5番フィールドルーキーがハナを主張しにいきます。そして13番グッドライフが無理なくスーッとその後ろへつけていく。そして――――》
よっし、今日も完璧に決まった! 13番の子も奇麗にスタート決めて、そのままハナを取りに行った。隣の子も先に行こうとしてるから、それに続く形で前へ行こう。
うん、ダートも走りやすかったけど芝でもダートと変わらないくらい走れる。しっかり地に足ついてる感じがするし、今日も絶好調だ。コスモサンビームさんは何処だ……!?
《隊列が少しずつ整ってきました。ハナは5番フィールドルーキー、1番レインボーハンセル続いてきます。それに続いて13番グッドライフ、14番ユウゼッタ、15番スノーラビットと外枠勢が押し寄せて、内側5番コスモサンビーム、4番ロイヤルセランガー――――》
コスモサンビームさんは内側、3番人気だったロイヤルセランガーさんも同じところにいる。内枠なぶん、向こうのほうが楽に位置取り出来てる。
というかアレだ、前よりも全然落ち着いて周りの状況を感じ取れるようになっている。足音もしっかり聞き取れるし、なんとなく雰囲気でどこに位置取りしてるかを肌で感じる。
《坂を上り切って第三コーナーに入り、先頭は変わらず5番フィールドルーキー、1番レインボーハンセル、ここから隊列崩れて二番手集団の先頭はスノーラビット、コスモサンビームが続いて、ロイヤルセランガー、マイネルスペリオル、ユウゼータが三人並んで、その後ろに――――》
コスモサンビームさんはすぐ後ろ、そしてロイヤルセランガーさんも私の後ろだ。私が先行する形だから、私の出方を伺われるのはちょっとまずいかもしれない。とはいえ、このペースなら先行してる二人の逃げウマ娘を見てスパートすれば行ける。
よし、第四コーナーもそろそろ抜けて直線が見えてきた。私は踏み出す足に力を込めて、踏み込もうとしたその瞬間――――
ゾワッ……
(な、に……!?)
何、今の。どこだ、どこから!?
「へぇ、
その声が聞こえた時には、声の主は私を抜き去っていた。
「コス、モ、サンビーム……ッ!!」
駄目だ、
私は仕掛けたかったポイントからやや遅れて、もう一度スパートしに行く。けれど、自分が思ったよりも足が伸びない。きっと、あの時にそういう仕掛ける力も削がれたのだと思う。
《さぁ残り400mを切って、先頭はコスモサンビームとロイヤルセランガーの叩き合い! フィールドルーキー、レインボーハンセルはいっぱいか!? 遅れてスノーラビットも来るが、先頭はコスモサンビーム、コスモサンビーム!》
焦る気持ちを封じ込めつつ、必死に脚を踏み込み、前の二人へと迫る。けれど、縮まる距離に対して残り距離が足りない。嫌だ、負けたくない……!!
「はあああぁぁぁぁぁぁッ!!」
《残り200mを切って、先頭はコスモサンビームだが、おっとここでスノーラビットがもうひと伸び! しかし届かない、先頭はコスモサンビームでゴールイン!! 2着接戦ですが、4番ロイヤルセランガーやや有利!》
完璧に負けた。最後、ロイヤルセランガーさんを捉えたかと思ったけど、多分ゴール板過ぎてる。3着……か。
速度を緩め、立ち止まった時にはしばらく前を向けそうになかった。膝に手を当て、さっきの出来事を反芻する。
多分、アレはプレッシャー……なのかな。それとも、
顔を上げると、嬉しそうな顔をしたコスモサンビームさんが目に入ってきた。
「な、んですか……」
「こんなところで負けるわけにはいかないから、少しばかり本気を出してみたが……
「それは、どういう意味ですか」
思わず思い切り睨みつけたら、コスモサンビームさんは慌てたようにして手を挙げる。
「おっと、別に馬鹿にしてるわけじゃないさ。むしろ、
何を言いたいのか、さっぱり分からない。いや、どこかで似たようなことを誰かが言っていたような……。
「さて、あまりこれから何度も戦うであろう人にこれ以上塩を送るわけにはいかないな。それじゃあ、次の対戦も楽しみにしてるよ」
困惑したままの私を置いて、コスモサンビームさんは地下バ道がある方向へ戻っていく。他の子も引き上げているし、私もいい加減動かなきゃ……あ。
(そうだ、トレーナーが新バ戦で言っていた……)
――――この時期から競バが出来る怪物は滅多に出てこないから。
そうだ、確かに言っていた。それはつまり。
(出てくるんだ、そういう怪物たちが)
当然だ、いずれはそういう人達と戦っていくことになるんだ。G1で戦っていくつもりなのならば、さっきのとは比較にならないくらいのプレッシャーの応酬や技術のぶつけ合いに、身を投じることになるのだろう。
そして私は分からされたんだ、競バが出来ないとどうなるのか。何も分からないまま、ただただ蹴落とされていく存在にしかならないってことだろう。それに気付けたのは、多分ここで勝てることよりも尊いことだろう、と。
「次は、負けない……!!」
私は、遠くなる背中を睨みつけるしかなかった。