さて、寮の利用方も教えてもらったし、ルームメイトの名前も分かった。
ルームメイトになるキングカメハメハさんはまだ帰ってこないらしいから、自分の部屋に荷物を運んでしまおう。
そう思ってフジキセキさんに送った荷物のことを聞くと、どうやら既に荷物は部屋に積み上げているらしく部屋に行けばいいよ、と教えてくれた。
それなら話は早い。早速部屋に行って、荷物を仕分けてしまおう。
――――で、荷物の仕分けをしようと、荷物を詰めたダンボールを片っ端から開けたんだけど。
「……思えば、私ってばあんまり荷物なかったんだよなぁ」
筆記用具や家にある一週間分の着替えと下着類、自分が使っても大丈夫なありったけのタオルなど、最低限のものしか入っていない。なので、あっという間に自分用のタンスに叩き込んで終わってしまった。
教科書などの学習用具は明日貰うし、お出かけ用の私服はほとんどない。友達とお出かけするときにかなり困りそうだけど、レースに出るようになってお金稼ぐようになるまではお預けだろうね。ぶっちゃけ極貧家庭に最低限以上のものは手元にないので。ぴえん。
「…………」
まずい。やることがない。何してようか、早めのお風呂にしようかご飯にしようか考えていると、部屋の扉ががちゃりと開いた。
「ひゃあ!?」
「何奴!?」
私と入ってきた人と、お互いにびっくりして思わず声を上げてしまった。しばらくお互いにびっくりした顔で見つめ合っていたんだけど、一足先に私が我に返ったので、未だに固まったままの人――――ウマ娘に声をかけた。
「あの、もしかして……キングカメハメハさん?」
「――――はっ!? おっと、いかにもそうさ。私がキングカメハメハ。――――ああ、なるほど。君がスノーラビットか」
「そ、そうです。中等部1年に編入しました、スノーラビット、です……」
我ながら大変よそよそしいというか、いわゆるキョドッてる挨拶だと思った。
対するキングカメハメハというウマ娘、なんだかすごく威圧的というかなんというか。うーん、嫌味ったらしいわけじゃないんだけど、なんだか王様みたいな立ち振る舞いをする人だなぁ、というのが第一印象。
「そんなにおどおどしなくとも良い。私とは同級生なのだからもっとくだけてもいいのだぞ」
「は、はぁ」
「私はいずれ最強の大王となるウマ娘なのだから、別にキング様とでも呼んでもいいぞ」
さっきとは打って変わって、堂々とした顔で手を差し出すキングカメハメハ。なんかいけ好かない感じだなぁ、さっきまで目を見開いてたまげた顔してたくせに。
でもきっと、その自信に裏付けされた実力がある。体操服から伸びる手足はすでに鍛えているのが見て分かるし、レースに本格的に出るようになったらどれだけ仕上がるんだろうな。
あっけに取られたままでいると、キングカメハメハはふむ、と思案顔になる。
「君のことは何と呼ぼうか……」
「なんでもいいよ、好きに呼んでも」
「ではスノーラビットと。私の事も君に任せよう」
「そっか、じゃあキンカメちゃんで」
「…………」
いや、なんでそんなえ~、みたいな顔するのさ。君でしょ、好きに呼んでいいって言ったの。
よっぽど向こうから見て何言ってんだこいつ、って顔だったんだろうね。キンカメちゃんは諦めたようにうんうんと頷いた。
「大王に二言はないからな、うん。別にそれで良い。これからよろしく頼むぞ。ところで……」
キンカメちゃんは私の持ってきた荷物のほうを見ながら、呟く。
「本当に君の荷物はこれだけか? ここに来るウマ娘は結構色々持ち込む者も多いのだが」
「ああ~、私んち貧乏だからね。名門様とは訳が違うよ」
多分キンカメちゃんも良いとこのボンボンなんだろうね。そりゃあ、恵まれた環境で恵まれた才能をお持ちならうちみたいな下々の事なんか分からないでしょうな。
しかし、キンカメちゃんは逆にくくくっと笑い出してしまった。はぁ~~~~~ん??????
「何がおかしいの?」
「いや、失礼……君のゴミを見るような目が面白くてな」
は? キレそう。
「気に障ったのなら悪いことをしたな。すまない。だが、名門でも走れない者はごまんといる。おのずと名門のウマ娘のほうが結果を出したことのほうが多いとはいえ、名門の出と実力は=ではないさ」
「そういうもんなの?」
「本当に君は何も知らないのだな……。まぁ、いいか。なんにせよいずれ実力がものを言うようになる。君も頑張りたまえ」
そう言ってキンカメちゃんは自分のタンスから適当に着替えを引っ掴んでシャワーを浴びてくると言って出て行った。残された私は、はぁ~と思わずため息をついてしまう。
あの物言いだと、私がライバルになると思ってないというか本当にその辺のジャリみたいにしか思ってないのかな?悪い子ではないとは思うんだけど、なんかムカつく。絶対レースで対戦するときにはボコボコにしてやろう。
とりあえずご飯にしよう。そう思って、私もカフェテリアに向かうことにした。ところで――――
「キンカメちゃん、鍵持って行ってないな……?」
このまま部屋出て行ったら、キンカメちゃん部屋に入れないな。仕方ないので、キンカメちゃんが帰ってくるまで待って、それからご飯にしよ。
「ふぅ、さっぱりした。――――うん? まだいたのか? てっきり夕食食べに行ったりしてたものと」
「いや、あなた部屋の鍵忘れて行ってるし。ほら」
「何!? ああ、すまない。わざわざ待ってくれていたのか」
――――――★――――――★――――――
次の日。転入して初めての授業の日。転入生故に、ホームルームで紹介されるくだりとなった。
うーん、まだ12歳ではあるけどこういう自己紹介って、年を取れば取るほどこっぱずかしくなるよね。何喋ろうかな……。
「それじゃあ、今日はホームルームを始める前に皆さんに新しい仲間を紹介したいと思います。今日付けでトレセン学園に転入された、スノーラビットさんです!」
「はじめまして、スノーラビットです。分からないことだらけなので、いろいろ教えてください」
そう言ってぺこりと一礼。正直、趣味とか全然ないし、自分の適正も分からないからアピールすることもない。当たり障りのないことだけ言って終わりにしてしまおう。ということで、結構短い挨拶になったんだけどみんな盛大な拍手で迎えてくれた。ホームルームが終わった後、結構な人数に囲まれてしまう。
「はじめまして! この時期に転入なんて珍しいね!」
「地方で走ってたの? それともスカウト!?」
「適正はどこ? どんなレース走りたいの?」
――――などなど、あれやこれやを矢継ぎ早に色々質問攻めにされた。私は聖徳太子じゃないから順番にしてほしい、と思いながらもなんとか切り抜けた。ウマ娘ってこんなグイグイ来るものなんだっけ?
そんだけぐいぐい来た中で、かなり印象に残ってるのは3人くらいだろうか。
ひとりはダンスインザムードちゃん。大人しそうな印象を受けたこの子は、とても優しそうな感じで一番仲良くなれそうだった。
2人目はダイワメジャーちゃん。ポニーテールがゆらゆら揺れて、とても元気いっぱいって感じの子だった。誰も気づいてなかったけど、他の子の陰でちょっと咳込んでたのがちょっと気になる。
3人目はハーツクライちゃん。ウマ娘ってみんな美人で可愛いんだけど、その中で一番端正な顔立ちをしていた。多分この子がこのクラスのまとめ役なのかな。
で、キンカメちゃんは最初の顔見知りだからあんまりグイグイ来なかったけど、話はしっかり聞いていたようで耳はずっとこっちに向いていた。ツンデレかな???
私が貧乏な家っていうことをあんまり気にしないでいてくれたのが本当に助かる。触れてほしくないことを察してもらえるだけでありがたいことこの上ない。
それからは転入前の学校と変わらない感じで授業を受け、お昼ご飯を食べ、クラスメイトと談笑に花を咲かせた。まぁ、あんまり話題についていけないからみんなの話を聞いて、はぇ~、ってなるだけなんだけどね。
あっという間にその日の授業が終わり、さて私はどうしようかと思っているとハーツクライちゃんがちょいちょいと手招きをしてくれた。
「あ、スノーちゃんちょっといい?」
「うん、なに?」
「私が生徒会に入ってるって話、お昼にしたよね。それでちょっと生徒会長からお話したいって言づて貰ったから、今から生徒会室行ってもらっていい?」
「え、いいけど私なんかやらかしたっけ……」
生徒会に呼ばれるようなことと言えば、よっぽどの粗相を犯したときと相場が決まっているもの。
小学生のとき、危険な場所に秘密基地作って遊んでたクラスメイトが会議室でこっぴどく叱られてたっけ。そんな思案にふける私に、ハーツクライちゃんはぱたぱたと手を振る。
「いやいや、そんなわけナイナイ。転入生はいつも生徒会長からお話貰うものなんだよ。うちの生徒会長って、『すべてのウマ娘に幸福を』って大層な目標掲げてるから」
「へぇ~」
そんな御大層なことを考えるなんて、なんだか政治家みたいだなぁ。
「ははは、凄いよね。トレセン学園に所属してるウマ娘のこと全部覚えてるみたいだもん。本当にすごいし、現役時代もとてつもなく強かったらしいしね。それじゃあ、ちゃんと行っていおいてね」
そう言って、ハーツクライちゃんは教室から出て行った。他の子もトレーニングの話をしながら荷物くをまとめているし、たいていの人はトレーニングに励んでいるってことだろうか。
さて、じゃあ生徒会室へ行きましょうか。――――生徒会室ってどこだ?