(な~んか俺って振り回されてばっかりじゃないか?)
ナザリック地下大墳墓の執務室にて、アインズはふと心の中でそう呟いた。
その横では本日のアインズ当番であるリュミエールがジッと主を見つめている。
(想定外の事が起きても、何故かみんなが都合よく勘違いして俺の掌の上とか思われてるし!?
そりゃあ助かったとは思うけどさ!? その時の俺の身にもなってくれ!)
表面上は報告書を冷静に読んでいるアインズだが、その心の中はサラリーマン・鈴木悟の叫びで一杯だった。
そんな彼に反応してか、精神沈静化が数回発動した。ちなみにリュミエールからは凛々しい主の姿しか見えていない。
(はっ……そうだ!)
半ば強制的に冷静になった
(俺もみんなを振り回せば良いじゃないか! 何故こんな簡単な事が思い浮かばなかったんだ!)
それはある意味とても単純で、ある意味頭の悪い閃きだった。
(普段から俺の行動に必ず意味があると思っているシモベ達の事だ。
俺の何気ない行動でも深読みし、頭を悩ませるに違いない)
骸骨の頭の中で慌てふためくアルベド以下階層守護者達の顔が思い浮かぶ。
その様子がちょっと面白かったので微かな息が漏れた。
「フフッ……」
(アインズ様が輝かしい微笑を! きっと新たな策を思いついたに違いないわ!)
すぐ傍で早速その効果が表れている事にアインズは気付かなかった。
(ある程度みんながあたふたした後に『実は大した意味などなかったのだー!』
とネタバレすれば万事解決! アインズ様、お戯れはお止め下さいと微笑ましい光景が広がるのは間違いない!)
オマケに守護者やシモベ達との距離も縮まるし、一石二鳥だとアインズは確信する。
何て頭が良いんだ俺は! と興奮して思っている時に限って
(そうと決まれば何をしようかな? 善は急げって言うからなぁ)
報告書を読みながらアインズは考える。
最初から大勢を振り回すのは難易度が高い。手始めに一人か二人に狙いを絞るのが良いだろう。
とすると誰が良いか――
(アルベドは守護者統括、何かあればすぐに皆に相談するだろう。デミウルゴスは後々の答え合わせが怖い)
シャルティア、アウラ、マーレ、コキュートス、セバス、
色々な者の顔が浮かんでは消えていく。そして気付かれぬよう横目で本日のアインズ当番を見た。
(一般メイド……も沢山いるしなぁ)
そして、アインズはポツリと呟いた。
「誰から先にすべきか……」
普段から敬愛する主の一挙手一投足を見逃すまいとしている彼女達である。
当然そんな呟きをアインズ当番――リュミエールが聞き逃す筈がなかった。
(誰から先にすべき……? 何かのお役目が与えられるのかしら?)
アインズがしょうもない事で考える中、リュミエールも主を見ながら言葉の意味を考える。
(先にすべきという事は、二人三人と同じお役目を与えるのよね?
その中で相応しい御方を選ばれるという事かしら?)
仕事を任せられる、役目を与えられるというのはナザリックにおいて最高の名誉である。
特にアインズの勅命とあれば重みが違うし、仲間達から羨望の眼差しで見られる事は確定だ。
(誰になるのかしら? やはり階層守護者の方々か、もしくはプレアデスの皆様かな?)
限りなく低いが、もしかしたら自分かも――ふとそんな考えが頭を過ったリュミエールはすぐにそれを打ち消した。
流石にそれが贅沢に過ぎるか……そう思った時だった。
「アルベド、シャルティアでも無ければやはりアウラか……?」
(ッ!)
守護者統括、そして女性階層守護者の名が上がり、リュミエールは内心驚いた。
主が考えているお役目は、どうやら女性にしか務まらないようである。
そして『誰から先にすべきか』というアインズの言葉。
これから導き出される答えはただ一つしかない。
(お、お世継ぎを作られる順番!?)
アルベドとシャルティアがアインズを慕い、正妃の座を狙っていると言うのはナザリックに住む誰もが知っている。
そのアピールも激しく(守護者統括が更に激しいが)、時には血みどろの戦闘に発展しそうになるのも珍しくない。
だがその二人を抑えてアウラが躍り出るのは正直予想外だった。
確かに彼女は天真爛漫、
アピールの度合いも前述の二人に比べれば大人しい、と言うか子供レベルである。
(やっぱりアインズ様は控えめな女性が好みなのかしら?)
主の好みを憶測で考えるのは不敬の限り。
だが自然と自分の手は自身の身体を触り……色々実っていた。そうあれと創造されたのだから当然である。
リュミエールが一人落ち込んでいる中、アインズはと言えば
(やっぱり振り回すなら素直そうなアウラだなー。
マーレもピッタリかもしれないけど、泣いちゃいそうで罪悪感が凄いし)
騒動の種を蒔いたにも関わらず、根付いたのにも気付かなかったのである。