全世界の人間が休日を愛してやまないのは、この貞操逆転男性希少世界でも同じこと。高校生活を始めて初の土曜日に桔梗少年が何とも言えない開放感を覚えているのも、そういった休日特有の気分によるものだろう。
時刻は朝5時。目覚まし時計などではなくシンプルにただただ早起きしてしまった彼は、隣で眠る愛しい恋人を起こさぬ様に気をつけながらベッドを抜け出し、一糸纏わぬ姿でバキバキと背筋を伸ばしてから、朝のシャワーを求めて寝室からバスルームへと移動する。
その途中、第2寝室*1のリネン類を回収して洗濯乾燥機を回したり、掃除ロボット*2の電源を入れたりといったちょっとした家事をこなしているその姿は、手慣れた主夫と呼ぶに相応しいものだ。*3
そして、手早くシャワーを浴びてしまえば朝食の準備。とはいっても昨日の夜、回数が3桁を越えて少しした辺りで可愛い*4アヘ顔*5で気絶した芳子ちゃんを寝かしつけた*6後で下拵えをしておいたので、あとは仕上げるだけである。
湯上がりの裸体の上にエプロンを纏った桔梗少年はまずオーブンを予熱しつつ、正角食パン*7を冷蔵庫から取り出した。このパンは既に下拵え済みのものであり、上部を切りおとし、耳に沿って底まで届かない程度に白い部分を切り込み、更に内側部分を9分割する様に升目を切ってある。
外見で言えば、パンで作ったマインク◯フトの作業台といったところだろうか?
そしてこのパン製作業台は昨晩の内に砂糖を溶かした少量の牛乳を注ぎ込んで冷蔵庫でゆっくりと湿らせてあり、今しがた手早く作った卵液を速やかに注ぎ込む事ができる。*8
あとは卵液たっぷりのパンをアルミホイルに包んで予熱したオーブンに放り込んでやれば、飾り付けの支度をするだけだ。まずは昨日の内に煮詰めて一晩冷蔵庫で寝かせておいた生クリームを網で濾し、クロテッドクリームを確保。そこに手作りのオレンジマーマレード*9を練り合わせる。次に彩り用のペパーミントの若芽をキッチンの小窓に置いた鉢植えから数枚切り出してよく洗い、バナナスタンドに吊るしてあったバナナを斜め切りにすれば準備は万端。
あとはオーブンから焼き上がった『食パン丸ごとフレンチトースト』を取り出してマーマレードクリームやバナナを盛りつけ、仕上げにハチミツシロップをたっぷりと掛けてミントを乗せれば、なかなかご機嫌な朝食の出来上がりである。
お皿に綺麗な盛り付けられたそれを手に自撮りを行い、SNSに投稿するのも忘れない。*10
『可愛い彼女の為に朝ご飯作りました(〃´-`〃)♡』という彼の投稿は瞬く間に数万イイねを達成し、加速度的な速度でシェアされる。そのバズりぶりは凄まじく、今週始めたばかりの彼のアカウントは既に国際的なアルファインフルエンサーへと変貌していた。
————基本的にイチャつき用の惚気アカウントなのに何故?
と首を傾げているのは本人だけであり、この世界で裸エプロン美少年が毎日旨そうな手料理や濃厚なイチャつき事情をアップするアカウントがバズらない訳がない。
現に今SNS界は、『これワシの彼ピッピじゃないか? ワシの彼ピッピじゃ……!』と記憶を捏造しているパワー系、『彼の投稿は癌に効く*11し認知症も治る*12ので実質神*13』と主張するスピリチュアル系、『カンパニュラ*14チャン、オッハー! (´ε`*)今日の朝ご飯も美味しそうだネ! (*´ч ` *) でもメインディッシュはカンパニュラチャンの特製フランクフルトが、食べたいナ(*♡~♡*)♡♡♡ (笑)ナンチャッテ(≧▽≦)♡』などとほざくオバさん構文系の三つに分かれ、混沌を極めている。
そこに偶に『私はすでにあなたのために邸宅と油田を贈り物として用意しました。よろしければ、ご連絡ください。専用飛行機がすぐに迎えに来てくれます』とDMしてくる石油王*15や『君なら絶対にハリウッドの頂点に立てる。最高のアメリカンドリームに興味はない?』などと主張するセレブ*16などが紛れているので、カオスとしか言いようが無い。
そんな彼がのんびりと生活できている裏には公安警察の人知れぬ活躍や国家に雇われた凄腕スイーパー*17による警護があるのだが、知らぬは本人ばかりなり、という訳だ。
さて、そんなこんなでネットの海に核魚雷を発射した桔梗少年は、配膳をすっかり済ませてしまってからエプロンを脱ぐと、ゆっくりと静かに寝室に戻り、スヤスヤと眠っている芳子ちゃんをお姫様抱っこで抱き上げてその唇にキスを落とす。
ただ、普通のおはようのキスと異なるのは、それが容赦無く舌を捩じ込むディープなものだという点だろう。ジュポジュポと音を立てながら舌を絡め取り、歯茎を舐め回し、口蓋を乱れ突くそのキスで目覚めない女はこの世界には居ない。だが、目覚めた直後のガチキス地獄で再び気絶という名の眠りについてしまうレベルのそれに耐えられる者もまた居らず、覚醒と昏睡を繰り返しながら全身を痙攣させてくるとんでもないモーニングコールが芳子ちゃんへと襲いかかる。
その時間、都合10分。桔梗少年が満足して唇を離した直後、酸素を求める肺が反射的に大きく息を吸い込む事で覚醒した芳子ちゃんは、汗やら何やらでぐっしょりと濡れ、彼女を抱き上げる桔梗少年の身体をもずぶ濡れにしてしまっている。
そんな彼女を浴室まで運び、シャワーを浴びさせて、自分もついでにシャワーを浴び直しそこで漸く2人揃って服を着るのが、皇塚家のモーニングルーティンなのである。控えめにいって狂気の沙汰だ。
だが、そんな頭のおかしい状況であっても、すっかり脳みそを溶かされてしまっている芳子ちゃんは幸福そうに微笑んでその大きすぎる瞳をトロンとさせているので、桔梗少年にブレーキが掛かる事はない。朝が弱い彼女が寝起きに意識が遠くなるような目に遭わされているのだから、ブレーキ役を望むのは酷かもしれない。
だが、狂気に満ちているとはいえ、2人の生活は幸福を煮詰めてジャムにしたような甘いもの。フレンチトーストを食べさせ合い、穏やかな休日の朝を過ごす彼らの姿は、誰がどう見ても仲睦まじいカップルのそれ。
ならば、この頽廃的私生活に口を挟むのは、きっと野暮というものなのだろう。
好きなキャラクター
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皇塚桔梗
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粟草紀子
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尾花茅子
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河原撫子
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袴田藤子
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萩原久仁子
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諸葛芳子