カーテンの閉じられた一室。最近取り付けられた内鍵によって厳重に閉ざされた其処は
そんな中、片隅のベッドの上で『なにか』がモゾモゾと蠢いている。
獣のような荒い吐息。ベッドのフレームが軋む音。そして絶え間なく響く粘着質な水音。
クチュクチュ、グチュグチュ、ジュポジュポと何かを掻き混ぜるようなその音は、日を跨ぐ前から明け方の現在まで途絶える事なく鳴り響き、部屋の中には咽せ返るほどに濃い雌の臭いが充満している。
だが。
「桔梗くん、桔梗くんッ♡ 桔梗くぅん♡ ————ッあ♡」
という、息の詰まったような声と共に獣の吐息は途絶え、水音は止み、昏い一室は静けさを取り戻して、やがて闇の中に微かな寝息が響き始めた。
午前5時のその出来事は、誰に知られることも無いままに闇の中へと葬られ、日曜日の朝がいつもの通りに訪れる。
その穏やかな一日の始まりを『寝坊』によってスルーした『彼女』が目覚めたのは、もうすっかり日が昇った昼前の事だった。
* * * * * *
————最低だ、ウチって。
酷い状態で朝を迎えた後、諸々の始末を自力で終えて、シャワーを浴びた
ナニとは言わないが、興奮冷めやらぬまま徹夜でシた回数は少なくとも3桁*1。どう考えても平均的な1人遊びの回数*2を大幅超過しているその回数は、いくら女の身体が頑丈*3とはいえ中々馬鹿げたもの。
だが、今こうして不随意筋の酷使による腰痛や内股の筋肉痛を感じているにも関わらず、彼女の『疼き』は完全に治った訳ではない。
「はぁ、でも、でもなぁ。あんなのってさぁ……もーっ! ウチの馬鹿! 桔梗く、皇塚くんはただ近くにいたから学級委員に選んだだけだってば! *4 あんなカッコよくて可愛い子がウチの事好きなわけあるか! *5 馬鹿!」
そう声に出してみても、彼女の中の乙女回路は『でもほっぺ赤かったし、あんな笑顔、誰にでも向ける訳ないでしょ! *6 それに毎日優しいし! それに金曜日の帰りのHRのあと
そうなのだ。哀れな撫子ちゃんを木曜日のLHRからイジメ抜いているのは、1-Aの超絶美少年こと皇塚桔梗。入学早々に何故かクラスでも中々個性派な見た目*7の諸葛芳子と付き合い始め、彼自身が『何度もセックスしている』と主張している、ちょっと変わったタイプ*8の少年だ。
だが、そんな付属情報があったとしても、クラスの美少女達に対する態度も一般的な少年よりもフレンドリー*9なので、クラス全員が『あの子絶対私のこと好きだ……♡』と思ってしまう、魔性の男。
だが、目付きのせいで同性にも敬遠されてきたような撫子にとって、何の躊躇いもなく自分に目を合わせて微笑んでくれた桔梗少年の存在は、それが『彼はみんなに優しいだけ』*10だと分かっていても、抗い難い猛毒だったのだ。
それに、委員決めの翌日から当然の様に行われた『2人の共同作業』*11がまた宜しくなかった。授業後の黒板消し*12や授業開始の号令、掲示板の張り紙管理などの雑事を男子にも関わらず率先して行いつつ、撫子がそれらをこなせば必ず『ありがとう河原さん』とあの満面の笑顔を向けてくるのだ。
好きになっちゃうじゃん!!!! *13
と内心で咆哮したことは一度ではなく、授業の度に撫子の気持ちはジェットコースターのレールをコーヒーカップで駆け抜けるよりなお酷い状態へと叩き込まれるのである。
それがあんまりに辛いので、つい先日、金曜日の帰りのHRのあと、撫子は意を決して桔梗少年へと話しかけたのだ。
「き、皇塚くん、その、なんていうかさ、あんまり女子に優しくしないほうがいいよ、ウチは勘違いしてない。皇塚くんは皆に優しいって、分かってる。でも絶対勘違いする奴居るからさ。だから、危ないから、その、あんまりウチに笑顔向けるのとかも、よくないと、その、ほら勘違いがさ……」
正直、振り返ってみれば挙動不審で半端なくキモい*14行動だったとは自覚している。だが、あの時彼女は桔梗少年に嫌われても良いから言っておかねばと決意したのだ。
だが。それを受けて皇塚桔梗少年が返した行動は、彼女の想像の外だった。
「ありがとう、心配してくれて。でも大丈夫、僕もちゃんと自分の中で一線は引いてるからさ。大体、僕は別に皆に優しい訳じゃないよ。丁寧なだけで。————でも撫子ちゃんには優しくしてるつもりはあるかな。特別。だから勘違いしてる、なんて勘違いしないで。……ね♡」
なんてセリフを、優しく撫子を抱き締め、手櫛で髪を撫でるように梳きながら、耳元で囁くように吐いたのである。
パニックに陥った撫子が「きぃあッ!?!!?」と奇声をあげて飛び退き、逃げる様に下校してしまったのを責められる奴が居たら、そいつは病院に行くべきだと断言する*15。
それ程のとんでもない事態があったのだから、撫子が金曜日の夜から土曜日の夕方まで『FXで有り金を全部溶かしてしまった』かのような茫然自失の状態にあったのも、そこから時間が経って遅れて実感を得たせいでサタデーナイトフィーバーしてしまったのも、そして今眠りから醒めて自己嫌悪に陥っているのも仕方がない事なのだ。
事なのだが。
だからと言って思春期の彼女が自身の状況を冷静に振り返れるわけもなく。
結局日曜日も悶々と過ごした彼女の目付きは月曜日には邪眼の領域に到達してしまうことになるのだった。
好きなキャラクター
-
皇塚桔梗
-
粟草紀子
-
尾花茅子
-
河原撫子
-
袴田藤子
-
萩原久仁子
-
諸葛芳子