「ぁあ゛ぁぁぁ……何やってんだろ私。こんなのダメダメじゃん。はぁ……」
日曜日の朝、もとい昼前。カーテンを閉め切っているせいで薄暗い下宿先のアパートで、気怠い声を上げる
予定では、この週末もいつものように市民プール*1で自主練をするつもりだったのだ。
それがどうだ。現実の紀子は金曜に帰宅してから寝食を忘れてヘコヘコと尻を振っていただけ*2の無為な時間を過ごしてしまっている。
透き通る水の中を魚のように泳ぎまわる以上に楽しい事など無いはずなのに。紀子の世界は水泳に打ち込んでいれば、それで良かった筈なのに。
幾ら理性がそう叫んでも、彼女の中の『メス』は容赦無く現実を叩きつける。
————そうは言うけど、水泳始めた元々の動機って男の子の水着姿*3じゃん? 泳ぐのが楽しいのも嘘じゃ無いけどさ。
そんな心の声が脳裏によぎり、浅ましい彼女の脳は『水着姿の皇塚桔梗』を思い描く。幾ら
「いやいやいや! そうじゃ無いってば! あーもう! 今日は水泳! 頭冷やして泳いでれば忘れるはず!」
そう叫んで浴室に飛び込み、ガシガシと乱雑に身体を洗い清めて水着カバンを引っ掴んだ紀子は、適当な服を身に付けて、自転車で市民プールへと駆けていく。
水の中に入れば。頭さえ冷やしてしまえば。そう自分を誤魔化しながら矢のように駆けた彼女は、いつもの様に女子更衣室に足を踏み入れ、そこに見知った顔がいた事で、思考をフリーズさせてしまった。
「あ……粟草さん。ど、どうも。水泳?」
「う、うん。諸葛さんも?」
「うん、その、最近腰痛が酷くて、運動不足かなって……それで」
「そっか、ふーん、腰痛がね。そっかそっか、痛いもんね、うん。腰がね」
絶対セックスのせいじゃん! *4
なんて叫ぶ心の声が口から飛び出る前にこの場を離れなければ。不意の遭遇にパニックを起こした紀子の脳はそう考えて慌てて水着に着替え、諸葛芳子を置き去りにして更衣室を飛び出していく。
だが、彼女の脳は正常な判断能力を失っており、その先に『誰が居るか』という出来て当然の推理を忘れていた。
プールサイドにダッシュで飛び出し、濡れた床で転びかけた彼女を抱き止める、硬い胸板。
自分より大きな194cmの紀子のタックルめいた転倒を受け止めきって全く揺らぐことのない、細く引き締まったその身体は、どう考えても男のそれで。
「大丈夫ですか? プールサイドで走ったら危ないですよ————ってあれ? 粟草さん?」
「え? は? キキョッ、コッ、皇塚く、あ゛ッ!?」
予想できた筈の現実に今更気付いた脳髄。とんでもない美少年と超至近距離で交わされた視線。そして何より水着の薄布一枚を隔てて触れ合う素肌。
理性が『コレはマズイ』と一周回って冷静になる中で、自我の制御を離れた紀子の肉体は過剰な刺激による強烈な多幸感と共に天国への扉を開き、脳内麻薬を盛大にブチ撒けながら、ついでとばかりに体液*5をもブチ撒けてしまう最悪の挙動を示した。
「あっ、ごめん。それで急いで————シャワー、シャワー浴びようか。ちょっと持ち上げるよ? よいしょ、いや本当にゴメン。僕のせいだね」
「桔梗くん、どうし————あ」
「あ、芳子ちゃん丁度いい所に。そこのホースで此処流しといてあげて」
「あ、うん。そうだね。分かった。急ぐね」
「ゴメンね、粟草さん急いでたのに僕がぶつかっちゃってさ」
「あー……」
『なるほど?』*6という意味深な視線を向けつつも証拠隠滅を手早く行ってくれる諸葛芳子と、自分を気遣いながらシャワーの世話までしてくれる桔梗少年。彼らの優しさを受ける紀子の身体は喪失感と共に脱力し、その目尻からは涙が滲む。
「しにたい」
そう呟く言葉を最後に、ショックのあまり意識を手放した紀子の視界は暗くなり、しばし現実の世界を離れて心の傷を癒すのであった。
* * * * * *
「あ、起きた? ゴメンね本当に」
「だ、大丈夫? お水飲めそう?」
そして、目を覚まして叩きつけられる現実。
ベンチに寝かされた自分を膝枕する桔梗少年と、その隣から自分を覗き込む諸葛芳子。水着姿の彼らの存在によって『先程の事故』のトラウマを思い出した紀子にとって唯一救いだったのは、本気でイッた上に心の傷を負った事で脳が冷静さを取り戻していた事だろう。
「こちらこそ、ごめん。重いよね、退くね……」
「大丈夫? まだ横になっててもいいのに」
「いや、諸葛さんに悪いし……それに、皇塚くん達、その、デートでしょ? 私のせいで滅茶苦茶に……お漏らしの始末まで……」
デート中の同級生にお漏らしを見せつけた挙句に介抱されてしまった、という事実を自ら口に出し、再び紀子の目尻には涙が浮かぶ。普通なら、この後紀子の悪評が千里を駆け巡り、彼女は児童相談所送りになるだろう。付き合ってもいない男の子にマーキング*7という大罪は、この社会において極刑も免れない罪なのだ。*8
だが、彼女にとって不幸で幸運なことに、目の前にいる美少年は
「大丈夫大丈夫。すぐに始末したし、時期的に*9人も少なかったから僕達以外には誰にも見られてないよ」
「でも……」
「えっと。本当に大丈夫だよ、粟草さん。桔梗くん、私のせいで慣れてるし*10……それに桔梗くん、粟草さんの事も狙ってるから喜んでると思う」
「芳子ちゃん? そんなにアクセル全開で僕の性癖開示する必要あった?」
「粟草さんのお股を必要以上にしっかり洗ってたのも言ったほうが良かった?」
「OK、僕の負けだ芳子ちゃん。さては妬いてる?」
「……うん」
「可愛いねぇ、本当に。……お詫びのキスで許して?」
「ちょっ、桔梗くん、粟草さん見てるし、舌は、んんッ♡」
そんなやり取りと共に、目の前でとんでもないキス*11を見せつけられ、諸葛芳子がガクガクと痙攣してKOされるのを見せつけられた紀子の目からは涙が引っ込み、そして遅れて、芳子の告げた『とんでもない暴露』が彼女の脳を焼き焦がす。
————桔梗くん、粟草さんの事も狙ってるから喜んでると思う。
『いや、無いでしょ』と自身が鳥の巣頭ソバカス眼鏡狐目一重女だと自覚している
『マジで?』と思春期の性欲と恋愛のときめきをごっちゃにしている
だが、そんな彼女の内心の声を叩き潰す様に、蕩けてしまった諸葛芳子を優しく抱き止める桔梗少年は紀子へと淫蕩な笑みを向けて、たった一言つぶやいた。
「ふふ、紀子ちゃんもしたい?」
その問い掛けにどう答えたのかは、覚えて居ない。
ただ、流石に2度も洗って貰えば芳子ちゃんのいう通り桔梗少年は他人を洗うことに手慣れているのだと、紀子にもしっかり理解できたのは確かな事だった。
好きなキャラクター
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皇塚桔梗
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粟草紀子
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尾花茅子
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河原撫子
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袴田藤子
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萩原久仁子
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諸葛芳子