時は流れ、約束の放課後。
指定された319号室の扉を開けた撫子の素直な第一印象は、『なんだこのメンツ』であった。
まず、パーティルームの奥、お誕生日席に桔梗少年が居るのは良い。ただのカラオケチェーン店の大部屋が六本木の高級クラブよりも輝いて見える程の美少年オーラは撫子を毎秒恋に落とすレベルの凄まじさだが、そもそも彼目当てで此処に来た以上『居てくれてありがとう』という他ない。
そしてその隣に座る
だが、その他のメンバーの顔ぶれを見て、これが桔梗少年のハーレムに相応しい面々だと考える者が居るだろうか?
まず自分。河原撫子は控えめに言って目つきが死ぬほど悪い点を除けば*3、ブスでも無ければ美人でもない、正直に言って『微妙』な女である。
これで体型がセクシーであればまだ自分なりに納得も出来るのだが、桔梗少年との逢瀬を夢見て最近動画サイトの見様見真似で筋トレを始めたとはいえ、今の彼女は普通に下腹がちょっと出ているダサめの身体なのだ。
総じて言えば、目つきがヤバい芋女。とてもじゃないが、史上最高の美少年と言っても過言ではない皇塚桔梗少年に相応しいとは思えない。
そんな自覚を持ちつつも内蔵する乙女回路を駆動させ、勇気を出してこの場に臨んだ撫子が、先の感想*4を抱いたのは、ある意味で当然だ。
てっきり、クラスの選りすぐりの美女軍団と引き合わされて『撫子ちゃんは一番立場下だから』とでも言われるのかと思っていた彼女にとっては、この場に集う面々はあまりにも『微妙』だったのである。
例えば、桔梗少年の隣。諸葛芳子とは反対側のその場所に座る『粟草紀子』は、狐のように吊り上がった切長の一重と雀斑、そして鳥の巣のような天然パーマが織りなす『芋っぽい』印象をデカい丸眼鏡で増幅している水泳部女子。
ジーンズにTシャツと言う何も個性のない格好の彼女の体型は、水泳のせいか尻と太ももはムチムチだが、胸元の起伏はおそらく撫子以下*5。可愛い、可愛くないで語るのならば『まぁ、普通?』とか言われそうな女である。
そして、それ以外の連中も同様に『地味』なのだ。
尾花茅子は太い直毛の髪の毛を無理やりゴムで括っているせいでホウキみたいな尻尾が出来ており、眉毛も極太。本人は気にしていないのかどうなのか腕も脚もムダ毛の処理はされておらず、まぁなんと言うか『野生の地味な女の子が現れた! *6』と言った感じである。
体型も普通も普通。撫子同様の、なんかちょっとポテっとした筋肉無い系女子特有のプニプニボディに、一応、という感じでくっついた可もなく不可もないおっぱい。ただまぁ、手脚の事を考えれば『モサモサなんだろうな』と想像はつくので、個性自体は撫子よりあるのかもしれない。
だが、個性があれば良いというものでも無いだろうと撫子でも思うのが、残り2人。
1人は、どう見ても人類の中でも最高クラスの身長を持つ割にガリッガリの『細長い』女、萩原久仁子。糸のように細い目、病的に白い肌、そして黒髪をセミロング丈まで伸ばしたぱっつんヘア。
『怖い話系番組のVTRに出演したらお茶の間号泣だろうな』と思える程に怪異っぽい彼女は、顔立ち自体は地味ながらそれなりなのに、何もかもを体型でブチ壊しているタイプだ。だが、強いていうならその体型で白のロング丈ワンピースを着ているのは最早『狙っている』のでは*7、と思わなくも無い。
さて、最後。久仁子と双璧を成す、何もかもデカい女、袴田藤子。
乳と尻がデカいのはいい。撫子が愛読する少女向け雑誌にも『男の子は巨乳派? それとも巨尻派?』なんて特集が組まれるくらい、男子ウケの良い特徴だ。誇っていいだろう。
でも、そのお腹はダメでしょ。
そう思ってしまうのは、撫子の常識が『普通』すぎるが故なのか。乳よりも尻よりも腹のインパクトがデカいその身体。そしてそれに対してあまりにも小さめな顔のパーツ。
それを見て『Pokém◯nのハピ◯スに似てるな』と思ってしまった撫子を誰が責められるだろうか? だが同時に、何というか『良い子そう』な雰囲気だけは無限に放出されているので、人に嫌われるタイプではなさそうだとも思う。
そんな6人をひとしきり眺めた後、このなんとも言えない女達を集めた張本人である桔梗少年に視線を向ければ、そこにあるのは満面の笑み。
「いらっしゃい、撫子ちゃん」
「あ……うん」
そんなものを向けられてしまったら撫子が何も訊けなくなるのも当然。だが、流石に、そんな状況でも、彼の次の発言ばかりは聞き逃せなかった。
「皆此処に来てくれたってことは、僕と付き合ってくれるって事で良いんだよね? いやぁ、ふふ、これでクラスに居る『可愛い子』は全員僕の彼女かぁ♡ 嬉しいなぁ♡」
「「「「えっ」」」」
————今、私を含むこの面々可愛いと申したか?
と驚きのあまり心の声が古風になってしまう撫子だが、周囲の反応を伺う限り、芳子と紀子以外の全員が同様の反応を示している。
何せ、今まで『可愛い』など祖母ぐらいにしか言われたことのない台詞だ。或いは自分を引き立て役に使っていた美少女による『◯◯ちゃんも可愛いのにねー(笑)』ぐらいか。
それが、こんな美少年が、何故?
そう疑問に思う彼女達に対して、驚きの無かった2人の反応は微妙に異なる。
まず粟草紀子。彼女の表情は「だよねえ」とでも言いたげなもの。単に撫子達より先に驚かされただけ、と言った具合の反応だ。
その一方で、穏やかに、しかし呆れたように微笑むのが諸葛芳子。撫子を含めた面々をゆっくりと見回す彼女の姿には、何処か『諦観』と『達観』のようなものが含まれているのだ。
「桔梗くんはね、頭がおかしいの。付き合うなら早めに慣れたほうがいいわ」
「芳子ちゃん、僕いきなり精神異常者扱いされたんだけど何で? *8 やっぱり側室増やしたの怒ってる?」
「怒ってないよ。私が増やして欲しいって言ったんだし。これは悪口とかじゃなくて事実を言っただけだから気にしないで、桔梗くん」
「なお悪いのでは? *9」
「気にしないで、桔梗くん*10」
「そっかぁ♡*11」
「……さて。桔梗くんはね、こんな調子で私達みたいな子がタイプで、私達が可愛いと思う普通の美人がタイプじゃ無いらしいの。……私も未だに『朝起きたら全部夢なんじゃ』って思いながら寝てるけれど、朝起きたら待ってるのは『常識的な朝』じゃなくて桔梗くんのキスよ。貴方達もそうなるの。……私も多分、いやかなり、頭がおかしくなって来てるけど、油断すると常識が壊れるから気をつけて。桔梗君がおかしくて世の中が普通なんだって覚えておかないと、絶対に呑まれる。桔梗くんの狂気に」
そう警告しつつも、身体はもう『ゴロニャン』と言い出しそうなほどにスリスリと桔梗少年に媚びている芳子。だがそのギョロ目は真剣そのものであり、撫子は改めて『もしかして大変な事になっているのでは?』と危機感を抱く。
が、致死性の蜜沼の様な猛毒の美貌が彼女達を招き寄せ、その警戒心を真正面から溶かし崩した。
「ねぇ、僕もう我慢できそうに無いんだけど、お付き合いの印にキスしてもいいかな♡」
そんな言葉と共に赤く踊る舌先が初心な女達を狂わせ、誘蛾灯に寄る羽虫の様にフラフラとその唇に吸い寄せられた乙女は、1人また1人と蕩けるような口付けで脳を灼かれてソファに崩れ落ちていく。
今日此処に誕生した皇塚桔梗のハーレム。正妻以外全員気絶という波乱の幕開けで始まった7人の関係は、坂を転がり始めた岩の如く、奈落への道筋を辿り始めた。
その先にあるのが、蕩けるように甘い糖蜜の底無し沼である事は、果たして少女達にとって幸福なのか、不幸なのか。
「皆が起きるまでデュエットしようね芳子ちゃん」
などと言いつつラブソングを入れる桔梗少年だけが、そんな状況をニコニコと愉しんでいるのだった。
好きなキャラクター
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皇塚桔梗
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粟草紀子
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尾花茅子
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河原撫子
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袴田藤子
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萩原久仁子
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諸葛芳子