素敵な王子様に愛されて、幸せな恋をして、子供は5人くらい産んで*1。
そんな少女漫画の様な想像は、あくまで想像の中のもの。世の中の男の子がそんなに優しくもカッコ良くもないという事実は、誰に言われるでもなく中学三年にもなれば理解しているものだ。
蝶よ花よと愛でられ掌中の珠の様に扱われてきた男の子達がある種の無自覚で無邪気な傲慢さを持つのは、この社会では当然の事。
甘やかされて育てば、甘やかさない者に対して『悪感情』を抱くのは至極自然な事なのだから、当然だ。加えて男性を狙う犯罪への警戒心から親や姉妹によって『女は狼』と教えられて育っているのだから、まぁ男の子から女への対応が良くて塩対応、悪くて奴隷扱いなのは仕方がない事ではある。
だが、だからこそ。
高校に進学して出会った『皇塚桔梗』というクラスメイトの存在は、
まず、異常なのはその容姿。マスカラをどれだけ塗りたくってもそうはならないだろうと思う程に太く長くハッキリとしたまつ毛が完璧なバランスと造形の瞳を縁取り、鼻筋はスッと通った美しくも繊細な神の手による彫刻。眉は手入れのしようもない程に元々完璧な形状の柳眉で、唇は紅をさしたかの様な色味でサイズも厚みも完璧そのもの。
そして、白磁の肌に薄桃の頬という王道ながら最強の組み合わせで構成された顔面に完璧な配置でそれらのパーツが並んでいるのだ。
挙句、頭皮の質まで良いのか天使の輪が輝く超絶キューティクルの細い頭髪は、サラサラと柔らかな曲線を描いて風に流れ、それでいて頭皮が全く透けない程度に毛量は多いので、細さの割に貧弱さは感じさせない。
更に言えば彼のさっぱりとしたワンレンショートヘア*2は頭骨が歪んでいればモロに判る髪型なので、どうやら骨格レベルで彼は美形らしいのだ。
そして次にその身体。体育の授業後に教室で惜しげも無く上半身裸を晒して汗を拭き、全クラスメイトの脳内画像フォルダを容量オーバーさせたそれは、バレエダンサーやフィギュアスケーターの様に引き締まった、捻り合わされたワイヤーケーブルの様な鋼の肉体。
細く、美しく、それでいて余りにも強靭な印象を与えるその身体が放つ『圧倒的な雄の色香』に魅了されない女などこの世には居らず、当然山田佳織もまた例外なく彼の肉体を一目見ただけで下着をダメにしてしまっている。
だが、何よりも魅力的なのは、彼の性格だろう。
どんな日でも朝に目が合えば「おはよう山田さん」と笑顔と共に挨拶し、美化委員に就任した佳織がゴミ袋を運んでいる所を見掛ければ進んで手伝いを申し出て、一緒にゴミ出しをした後に購買の缶ジュースを奢ってくれる。
ただ。
————絶対、桔梗くん私のこと好きよね?
なんて、可愛らしい勘違いをするには、彼女は賢し過ぎ、そして『近過ぎた』。
出席番号37番、山田佳織。彼女の一つ前の席に座るのは、36番『諸葛芳子』。
彼女と佳織が恋に落ちたのは、きっと佳織の方が先。あの日*3怯えていた彼女は、到底桔梗少年に恋していたとは思えない。
だけれど、彼が恋に落ちたのは、佳織ではなく芳子の方で。あの日逃げる彼女を追った彼が、無事に彼女を捕らえて逆王子様抱っこのままスキップする様な足取りで校門を出るのを、教室の窓から呆然と眺める事しか出来なかった佳織に、待ち望んでいた恋の訪れは無かった。
そして、その翌日から始まる2人の逢瀬。至近距離で育まれていく愛を見守ってしまった佳織の心が如何に滅茶苦茶に破壊されたのかは、もはや語るまでもないだろう。先程のゴミ出し手伝いや挨拶は、全て桔梗少年が諸葛芳子と付き合って以降の事なのだ。情緒がガタガタになって当然というものである。
————
なんて悔やんでみても、桔梗少年に心底恋する佳織は彼の選択を恨めるわけもなく。だが、どうしてだろう。寝るどころかキスも、それどころか手を繋ぐことすら未遂なのに、
彼女はあちらで、自分は間女未満の横恋慕。桔梗少年が声をかけてこない以上、側室への道もまず無いのだろう。そう、頭ではわかっているのに。
そんな煩悶を幾度となく繰り返したからだろうか? 彼女はやがて、自らを慰める際に、桔梗少年ではなく、『桔梗少年と諸葛芳子の性行為』を夢想する様になっていた。
当初は、桔梗少年が無理やり犯されているのだと自分を空想の中で正当化する為の妄想だった。だがその妄想は登校するたびに仲睦まじい2人の姿によって打ち砕かれ、連鎖する様にヒビの入った山田佳織の柔らかな心もまた欠けていく。
欠けて、埋め合わせて、また欠けて。
そうして繰り返すほどに、佳織の空想は変化を遂げた。
仲睦まじい桔梗少年と諸葛芳子が、甘くとろける様に愛を確かめ合い、自分はそれをただ見ているだけしか出来ない。それはある日はマジックミラーであったり、ある日はビデオレターであったり、裏に流れるネット動画であったりと多彩だったが、共通するのは、手の出せない『向こう側』であるという事。
だが、その壁が厚く、そしてその距離が近い程に山田佳織の絶頂は深く激しくなり、軋みを上げる心の痛みが、暗い負の快感エネルギーへと変換される様になってしまっている。
最近に至っては、2人が致している部屋の壁に磔にされている空想にまで病状は悪化しており、もはや彼女は立派な『異常性癖』の持ち主へと堕落した。
だが、そうして負の快楽を得て以降の方が、より桔梗少年との距離が縮まったのは皮肉な現実という他ない。身悶えのする苦痛、そしてそれに伴う悍ましい程の快感。それらを得る為に山田佳織は桔梗少年と『芳子ちゃん』の恋を猛烈に応援する『芳子の友人』へと昇格を果たしたのだ。
故に、席の近い2人は授業の合間の小休憩などに気安く言葉を交わす。そして————。
「芳子ちゃん、もしかして今日バニラのリップつけてる? 優しい香りで芳子ちゃんに似合ってるね」
「そう、かな? その、桔梗くんが選んでくれたの」*4
「良いなぁ。じゃあいっぱいキスしてお返ししなきゃね、芳子ちゃん」
「う、うん。そうかな?」
「そうだよ? ふふふ、でも順調そうじゃない? 式には呼んでね?」
「気が早いよ————それに、その……」
「……何かあったの?」
————お妾さんが5人増えるから。どうなるかわかんないよ?
そう呟く芳子ちゃんから妾のメンバーを聞き出した事で、佳織の妄想にキャストが増え、彼女の性癖と脳が一層破壊されたのは言うまでもなく。
「大丈夫、芳子ちゃん正妻なんだからしっかりしなきゃ! もっとグイグイ行こうよ!」
なんて芳子を応援しているこの瞬間も、バキバキに恋心を砕かれる痛みと、それだけ砕けてもまだ消えない恋の熱情が彼女の股座を熱く湿らせる。
————今日も、山田佳織の夜は長くなりそうだった。
好きなキャラクター
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皇塚桔梗
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粟草紀子
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尾花茅子
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河原撫子
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袴田藤子
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萩原久仁子
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諸葛芳子