我が世の春が来たッッッ!
脳内でそんな事を吼える、桔梗少年。火曜日の早朝、まだ暗い時分にも関わらず、彼は気力に満ち満ちていた。
その原因は明白。昨日の放課後、遂に選りすぐりの『地味モブ陰キャ』ハーレムを始動させる事に成功した事だ。結果、桔梗少年のテンションは、まさに抜山蓋世、漲る気力がオーラとなって溢れ出る程に高まっているのである。*1
そんな彼にとって楽しみなのが、月曜日に話し合った*2結果決定した、今週をお試し期間としてそれぞれの側室達に1日を割くという試みだ。
順番は公正なくじ引きの結果、茅子*3、撫子*4、紀子*5、藤子*6、久仁子*7の順に決まった為、本日火曜日は茅子と1日過ごす予定である。
と、いうわけで。道中を花まみれにしつつ彼女の下宿に向かった彼は、預かった*8合鍵で躊躇いなくアパートの鍵を開けると、少しばかり散らかった室内へと足を踏み入れた。
学生の下宿らしい、1Kユニットバス付きというシンプルな作りの一室。床にパンツやシャツが落ちていたり、流しに食べ終わった食器が置いてあったりとなんとも『らしい』その部屋は、茅子の生活感に満ち満ちている。
ゴミ屋敷と呼ぶには程遠いが、それはそれとしてちょっと散らかり気味。形容するならばそんなところだろうか。
そして、そんな部屋の中、茅子はベッドでスヤスヤと寝息を立てている。
それも当然、現在はまだ朝の4時。寝ていて当然の時間である。なので、桔梗少年は一切の足音と気配を断ち*9、電気も付けずに夜目*10だけを頼りにしてこの部屋に上がり込んでいるのだ。
————まずは片付けと洗濯からかな?
なんて段取りを立てた桔梗少年はひとまず機敏な動きで床に散らばる洗濯物を回収し、近所のコインランドリーで洗濯乾燥を実施。ついでに24時間営業のスーパーでクイックル◯イパーと雑巾、それから少量の食材を購入して戻り、室内の清掃を極力無音で実施。その後、コインランドリーの衣類を回収して綺麗に畳み、衣装ケースに収納すれば、時刻は朝6時。
そろそろ音を立てて起こしても問題無かろうと判断した彼は、ちゃぶ台や流しに残された食器類の洗浄を行った後、風呂洗いとトイレ掃除を行なって、ついでにちょっとシャワーを借りて汚れを落とし、身綺麗になった彼は、手早くトマトパスタを作り始める。
フライパンで塩胡椒とナツメグを振った挽肉を炒め、そこにトマト缶をぶち込み、缶を洗うついでに水汲みに使って水量を調整。そこに半分に折った早茹でタイプのスパゲティを入れて水気がなくなるまで炒め、仕上げに乾燥バジルとパセリを和えて、皿に盛ったら粉チーズを少々。
そうしてきっかり予定通りに朝の7時を迎えた桔梗少年は、『すぴー』と可愛らしく寝息を立てている
だが、眠り姫を目覚めさせるのは童話の様に可愛らしいキスではなく、ディープなそれ。捩じ込まれる舌、一瞬にして掌握される口内の性感帯、陵辱と呼ぶに相応しい強烈な愛撫。その一撃は茅子の身体を容赦の無い絶頂によって叩き起こし、遅れて覚醒した脳は、一気に流れ込む快感にその身を痙攣させた。
「ンンッ!?!!?」
「ん————おはよう、茅子ちゃん。ご飯出来てるからシャワー浴びておいで」
「えっ、はっ、えっ?」
「ほらほら、遅刻しちゃうよ?」
?????
と特大な疑問符を頭に浮かべながらも、寝ぼけているせいでされるがままにユニットバスに連れて行かれた茅子は、ウトウトとしながらパジャマを脱ぎ捨て、シャワーを浴びて、目を覚まし。
「なんで居るんスかッ!?!!?」
「わぁセクシー*11、もしかして誘ってる? ……なんてね。冗談冗談。タオル要る?」
「へ? ————ぎゃあぁあ゛っ!? 見たっスか!?」
「それはもちろん♡ あ、眼福ついでに今なら僕が身体拭いてあげてもいいよ?」
「結構っス!」
なんてやり取りの数分後。どうにか服を着た茅子は、茹蛸の様に真っ赤になりながらトマトパスタを頬張り、その家庭料理的な味わいに舌鼓を打っていた。
「うめぇッス……」
「それは良かった」
「……それでなんで、桔梗くんが私の部屋に居るんスか」
「あれ? 昨日のカラオケで今日一日は茅子ちゃんに使うって決めたよね? *12」
「放課後デートとかかと思ってたんスけど……もしかして丸一日っスかコレ」
「もちろん」
「うあー……昨日の私、なんで掃除してねぇんスか……マジで……」
「掃除なら僕がやっといたから良いじゃない。我ながらプラモ*13の展示も上手く出来たと思うよ? 結構エッチな感じで」
「分かっててトドメ刺しに来てるっスよね!? なんなんスか、桔梗くんSなんスか?」
「まぁ、Mでは無いかな。こうして慌ててる茅子ちゃん可愛いなって思うし」
「絶対ドSじゃねえスか。……あ、そうだ。ご飯代と洗濯代幾らっスか」
「可愛いヌードショーの見物料って事でチャラで良いよ」
「ヌグォォォ……! 忘れようとしてたのに……!」
なんて愉快なやり取りを交わす八畳間のひととき。登校前から既に混沌としてきたその空気感に、茅子はふと昨日の放課後、芳子から聞いた言葉を思い出す。
————桔梗君がおかしくて世の中が普通なんだって覚えておかないと、絶対に呑まれる。
————桔梗くんの狂気に。
「————マジだったんスね、芳子ちゃん。これはヤバいっスよ。マジで」
「どうしたの? 茅子ちゃん。急に虚空に語りかけて。中学生時代の後遺症?」
「確かに厨二病は抜け切ってないけど違うッス……想像してたより、桔梗くんの彼女も大変そうだなって思っただけッスよ」
「そうかな? 掃除洗濯炊事に皿洗いまでお任せ、ついでに金払いも良いからおねだりし放題、あとルックスも結構良い方。……我ながら都合の良い男というか、お買い得物件だと思うんだけどね?」
「そういうとこっス」
そう言いつつも茅子は自身の顔が緩んでいるのを自覚しており、漫画の様な展開の数々に興奮している自分の心をしっかりと認識している。茅子のオタクな乙女心は桔梗少年にすっかり尻尾を振ってしまっているのだ。
だからこそ、理性だけはしっかりしておかなければ。
なんて決意したところで、「ほっぺにソース付いてるよ」なんて言いながら頬を舐められて興奮しない訳もなく。
それでもどうにかこうにか、ギュンギュンと疼く子宮とバクバク高鳴る心臓を無理やり押さえつけて「……このままじゃ遅刻ッスよ!」と下宿を飛び出した茅子の幸せ過ぎる1日は、まだ通学バスにも乗っていないのに疲労困憊な幕開けと相なったのだった。
なお、桔梗少年が「戸締まりと片付けしてから行くから先に行っといて」と言って茅子を送り出したのに、何故か学校前のバス停で茅子を待っていた*14事で彼女の脳内に再び特大の?????が浮かぶ事になるのだが、それは少し後の話である。
好きなキャラクター
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皇塚桔梗
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粟草紀子
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尾花茅子
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河原撫子
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袴田藤子
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萩原久仁子
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諸葛芳子