放課後。
今日も今日とて桔梗少年があらゆる女達の脳を焼き*1、錫鉾学院に淫獄を顕現させるいつも通りの学校生活はひとまずの小休止を挟み、生徒達は思い思いに放課後の時間を過ごして行く。
そんな中、一旦自宅に戻りおめかしをした尾花茅子は、駅前のよくわからない銅像の前でガチガチに緊張していた。
そう、此処からは『彼女が本来想定していた』時間。恋人とのやり取りをあーでもないこーでもないと夢想し、妄想し、月曜の夜に碌に眠れぬまま考えたデートプランを実行に移す時なのだ。
まぁ、その計画は朝から襲来した超絶美少年のお陰でもう滅茶苦茶になっており、リベンジ出来るかは不明ではある。
だが、ヤケになって『デートプランを頑張って考えてるのでノって欲しいっス!』というお願いをしたところすんなりと応じて貰えた*2ので、こうして駅前での待ち合わせというベッタベタな工程からデートを開始する事にしたのだ。
そんなわけで桔梗少年に『おめかしして来てほしい』と伝える事で時間稼ぎをした*3茅子は、思惑通りに待ち合わせ場所へと先に到着し、現在精神統一中というわけである。
何しろ相手は空前絶後の超絶美少年。緊張しないわけがない。デートの前に息を整えておかねばとてもではないが茅子の精神は持たないだろう。
だが、その精神統一の為の時間稼ぎの言い訳に『おめかしして』と言ったのは、茅子にとっては痛恨のミスだった。
「ごめん、待たせちゃったかな?」
「い、今来たところ……ッス……」
純白のドレスシャツに青いリボンタイ。そこにノリの効いたネイビーのスラックスとダークブラウンのサスペンダーを合わせ、ライトブラウンのローファーとグレーのソックスで足元を固める。
そんな『幼児と美形以外が着たら社会的に死にそうな服*4』を身に纏った桔梗少年は、当然ながら美少年なので社会的死を迎えることもなく、むしろ駅前の視線という視線を我が物にして、この空間に絶対者として君臨している。
そして彼に声を掛けられている茅子もまた視線を集めているが、彼女の方はと言えば、まぁ普通の高校生。パーカーとTシャツとデニムというなんの変哲もない私服である。『なんだあの組み合わせ』的な訝しみを周囲から感じるのは、茅子の勘違いでは決してない。
だが。それでもどうにか、茅子は『理想のデート』に挑むべく、噛みまくりながらも桔梗少年へと話を切り出した。
「きょ、今日は、あれッス、えっと。デートっすね」
「うん♡ 楽しみだなぁ♡*5」
「え、へへ、そうっスね。へへ……あ、と、取り敢えず、行きましょ、行きましょ!」
「何処に連れて行ってくれるのかな? *6」
「つ、着いてからのお楽しみっスよ!」
なんて事を言いながら、勇気を出して桔梗少年の手を引く茅子の姿は初々しく、周りの視線を振り切る様に駆け出す2人の姿は、見目の差はあれど年相応の学生らしいもの。
そして、そんな彼らがやって来たのは桔梗少年が盗み見た通り、駅前のゲーセンだ。
「へへっ、私、こう見えて結構アケゲーとかクレーンゲームとか得意なんすよね」
「そうなんだ! 凄いね! *7」
「何か欲しいものとかあったら幾らでも言って欲しいッス!」
なるほど確かに、己の優れた点を誇示する*8のなら、自分のホームグラウンドであるゲーセンデートは悪くはない案なのだろう。
だがまぁ、ゲーセンというのはぶっちゃけデートには不向きな場所だ。まず、最大の問題点を挙げるならヤニ臭い事。この世界でも法律の関係で屋内型商業施設は全面禁煙だが、法施行後に新築したならともかく、それまでに蓄積したヤニの匂いがそう簡単に取れるわけもない。
よってオシャレした恋人を連れてくるには不向きな施設という他ない。他にもうるさい、眩しい、なんだか特定の筐体付近に野生の生き物*9がいる、などなど色々と問題がある為、学生身分の初デートなら大人しくショッピングモールや映画、或いは奮発して遊園地にでも行くのが無難だろう。
だが、この一手は桔梗少年相手であれば、そう悪くも無い選択肢だ。何しろ、此処とは価値観の異なる異界に由来する異形の魂を持つ男。世の男子達の如く、『何此処くっさいしあり得ないんだけど! 帰る!』などと言い出す事はないし、むしろゲーセンは前世でちょこちょこ遊んでいた懐かしい場所である。
「ちなみに茅子ちゃんはいつも何して遊ぶの?」
「え、えーっと、そうっスね、音ゲーとかっすかね?」
「そうなんだ! じゃあBBR*10やらない?」
「良いっスね! 私結構得意なんスよ!」
得意分野の話題を振られると俄かに活気付くの、オタク臭くてかわいいね♡
なんて、桔梗少年が脳内で粘着質な笑みを浮かべているとは露知らず、意気揚々とステージに乗りステップを踏む茅子。その姿は成る程それなりに様になっており、彼女の日頃の研鑽が伺える。
もちろん、桔梗少年の超絶身体能力を駆使すれば、ダブルの最高難度曲をバー無しかつ上半身の振り付けを即興でキメつつ熟すこと*11も容易だ。なんなら片足跳びでも出来る。
だが、流石にデートに誘われておいて相手の面子を潰すわけもない。そんなバカな事をするより素直に「凄いね茅子ちゃん!」と称賛を贈りつつ彼女に抱きついて、運動で汗をかいた彼女の体臭を胸一杯に吸い込む方が桔梗少年にとってはよほど重要なのだ。
「へへ、大した事ないっスよ、うぇへへ……」
なんて言いながらデレデレとする茅子の姿は『普通に可愛い*12』ものであり、まぁ隣に居るのが桔梗少年でなければ微笑ましい光景だ。だが、実際のところ隣にいるのは美少年の桔梗少年。
当然ゲーセン中からやっかみの視線が突き刺さるが、浮かれる茅子は気付いていない。そんな彼女を守るように、桔梗少年はそっと視線の主に流し目と微笑み、そして会釈を送る事でその脳を灼き*13茅子が決して周囲からの視線に気付かぬ様に配慮している。
茅子ちゃんの新鮮なイキりを浴びれる機会を邪魔しないで欲しいよね全く。
などという戯けた事を考えてさえいなければ、その振る舞いは実に理想的な彼氏のそれだと言えるだろう。だが、内心で何を考え、何に興奮していたとしても、外面が完璧なのもまた事実。
「ゲーセンで遊びきったら次はネカフェで漫画読みに行くっスよ!」
などとダメダメなデートプランを提示してくる茅子相手にもニコニコ笑顔な桔梗少年は、ある意味で大変都合の良い存在なのかも知れなかった。
無論、その正体は『ネカフェでボディタッチしまくってムラムラさせたら自然な流れで部屋に連れ込める、ヨシ!』などと脳内にヘルメット姿の猫を躍らせている
そんな事を知らぬ茅子にとってこの時間はひたすらに楽しいもので。
「次はクレーンゲーム行くっスよ!」
「良いね! 茅子ちゃんは何か欲しいのある?」
「えっと、あそこのフィギュアが————」
今はただ、デートを楽しむ彼女と、チェシャ猫の様に微笑んでその後を追う彼の午後の時間が、騒々しい電光と共に過ぎていくばかり。
爛れた夜の出来事は、また別の話とするべきだろう。
好きなキャラクター
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皇塚桔梗
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粟草紀子
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尾花茅子
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河原撫子
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袴田藤子
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萩原久仁子
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諸葛芳子