初々しくお手手繋いでバス通学という、なかなかお熱い通学をしたせいでやたらと注目を浴びた撫子と桔梗少年。
そんな彼らは現在、お昼休みを迎えていた。
昨日、尾花茅子をとんでもない手段でノックアウトしていた桔梗少年は『今日も何かやらかすのか?』とクラスの注目を集めており、その流れで撫子にも数々の視線が突き刺さる。
なるほど、昨日茅子が食事に集中できなかったわけだ。と妙な納得をする撫子だが、流石にこの状況については想定済み。乙女回路を全力駆動させて目の前の桔梗少年とお弁当にだけ集中する事で、彼女は周囲の視線を意識から排除して、心の平静を保つ事に成功した。
「今日のお弁当は『ロコモコ』でーす! 簡単なものでゴメンね?」
そう告げて、持ってきたお弁当箱を開く桔梗少年。だが彼の発言に反してそこにあるのは、それなりに手が込んだもの。
白飯の上にハート型に成型されたビーフパティが乗っかり*1、同じくハート型の目玉焼きがその上にトッピング。彩りとして賽の目斬りにされたアボカドとトマトが散らされて、そこにグレイビーソースがたっぷりとかかっているそれは、ガツンと美味そうな匂いを放っている。
「なんか高級なお店で出てきそう」
「あはは、褒めすぎじゃない?」
「そんな事ないよ! ウチの知ってるロコモコって『飯、目玉焼き、ハンバーグ、以上!』って感じの大雑把でシンプルな料理だし、こんなに可愛い感じじゃないもん」
「ふふ、ありがと。撫子ちゃんは褒め上手だねぇ」
「そ、そう?」
「うん。きっと良いお母さんになるんだろうなって感じ」
なんて、何気なく、しかし大胆な発言をする桔梗少年。思春期の乙女回路を有する撫子にとってその発言は『僕の子を孕んで欲しい』という副音声付きで聞こえてしまうし、周りで聞き耳を立てている他の女子だってそうだろう。
だが撫子とて知っている。異性のこういう発言は大抵の場合『そんな意図』を含まないものなのだ。妄想は心の中にそっとしまっておいて『そうだったら良いなぁ』と夢想するに留めるのが淑女な対応というものである。
だが、どうも淑女ではない奴が、この教室には居たらしい。
「皇塚くん、今の言い方変な意味で取られるからやめた方が良いよ」
なんて余計な口を出すのは、いつぞや芳子をクズ子と呼んで悪口を言っていた同中女子の蝶野さん。ジョック*2として1-A内でもそれなりに幅を利かせているものの、なまじ顔の良い美少女*3なせいで桔梗少年に『全く覚えられていない』悲しき存在である。
まぁ、それ故にかつての芳子への暴言*4すらも忘却されているのは良いのやら悪いのやら。
だが、そんな彼女の『懲りない』振る舞いは、今回も桔梗少年の無邪気なカウンターパンチによって、その脳味噌を焼き焦がす自爆行為と化してしまった。
「変な意味って?」
「ほら、子供作りたいみたいなさ、そういう意味で取られるじゃん?」
「じゃあ大丈夫だよ。今のは『卒業したら僕の子供いっぱい産んでママになってね♡』って意味だから、誤解じゃないし。気にしてくれてありがとうね。————あ、そうだ。将来の話にはなるけどさ、撫子ちゃんは何人ぐらいが良い? 僕は100人ぐらい欲しいんだけど*5」
などと一切の躊躇いなく言い放ち、藪を突いて
そんな中、問われた側の撫子は、あんまりな桔梗少年の発言に鸚鵡返しをしてしまう。
「ひゃっ、100人……?」
「出産人数のギネス記録は364人*6らしいよ?」
「そう言われると100人出来そうな気もするけど……でもやっぱり、ウチは普通で良いかな」
「普通?」
「うん。ウチは16人姉妹*7なんだけどさ、ママ見ててもやっぱりそれぐらいがちょうど良いかなって思うんだよね」
「そっかぁ。なら撫子ちゃんのスタイルに合わせようかな。……って、あれ? じゃあ撫子ちゃんこの学校に姉妹いるの?」
「いや、ウチだけ。ウチとお姉ちゃん2人で三つ子で生まれたんだけど、お姉ちゃん2人は地元の公立高校行ってるんだ。ウチはちょっと、高校は遠い所に行きたくて」
なんて、窓の外を見て遠い目*8をする撫子は物憂げな雰囲気を放っている。だが、その実、単に地元の公立高校が『部活強制式な上にバリバリのスポーツ強豪校』だった為、それが嫌で地元を脱出した。という何一つ面白くない来歴なので、ちょっと良い感じに話を暈したいだけだ。
当然、それら全ては桔梗少年の超感覚*9により筒抜けなのだが、それを桔梗少年が口に出すことは決してない*10為、撫子の尊厳は守られている。
「そっか。でもその内、撫子ちゃんのご家族にもご挨拶に伺わなきゃね」
「うぇッ!?」
「だってほら、『娘さんを下さい*11』って言いに行かないと」
「う、うん。そ、そうだよね。ウチ、桔梗君に貰われるんだもんね……」
なんて言いつつ顔を真っ赤にして、照れ隠しにお弁当をモグモグ頬張るその姿は、桔梗少年に言わせれば可愛いハムスター*12と言ったところ。
そんな彼女を見守る桔梗少年は実に華やかな満面の笑みを浮かべ、ポヤポヤと薄桃色の後光が差して見えるレベルの『美少年オーラ』と濃厚なフェロモン*13をブチまけている。
その結果巻き起こるのは、またしても教室中が雌臭くなる阿鼻叫喚。事前に紀子と茅子が窓を開けていなければ、妙に甘酸っぱいような甘塩っぱいような独特の匂いが教室に蔓延することとなっていただろう。
だが、その反面、窓を開けていた影響で外部に漏れ出してしまった桔梗少年のフェロモンにより、隣接する他クラスの窓際にいた女子が不意に『催す*14』ことになってしまったのは、コラテラルダメージというものだろう。
何やら、ここ最近徐々に雌臭くなってきている錫鉾学院に対し、PTA辺りからクレームが入るのも、そう遠い日のことでは無いのかもしれない。
だが、それはまた桔梗少年達の物語とは別の話だ。
好きなキャラクター
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皇塚桔梗
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粟草紀子
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尾花茅子
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河原撫子
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袴田藤子
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萩原久仁子
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諸葛芳子